映像を外に出さず、カメラが自分で決める

ソニー(6758)と三菱電機(6503)、工場の眼で合弁、出資は6対4。AIビジョンセンサーの新会社Advanced Vision Solutions、10月始動 - 映像を外に出さず、カメラが自分で決める - 章扉

ベルトコンベヤーの上を、電子部品を載せた基板が次々に流れていく。真上に取り付けた手のひらほどのカメラが、映像を一枚も外へ送らないまま「この基板は部品が一つ足りない」と見抜き、隣の制御装置に「この一枚をはじけ」と合図を出す。判断にかかる時間は、人のまばたきの数十分の一だ。

この「考える眼」を工場に広めるため、三菱電機とソニーが新しい会社を設ける。社名はAdvanced Vision Solutions(アドバンスト・ビジョン・ソリューションズ)。株式の6割を三菱電機が、4割をソニーグループの半導体子会社であるソニーセミコンダクタソリューションズが持つ。関係当局の許認可を条件に、2026年10月から事業を始める段取りが組まれた。

ソニーが持ち込むのは、世界の約半分を握るイメージセンサーと、そのセンサーの上でAIを動かす技術だ。三菱電機が持ち込むのは、工場の機械を動かす制御機器の知見と、その機器を使う大勢の顧客である。見る、判断する、機械を動かす。この三つを一続きにした製品を、横浜・みなとみらいに置く新会社でつくる。両社は7月22日に合意を発表したが、出資額は明らかにしていない。

三菱電機でFA、つまり工場の自動化の事業を率いる都築貴之・上席執行役員は、AIビジョンセンサーを「新たなコアコンポーネント」と呼んだ。ソニーセミコンダクタソリューションズの指田慎二社長は、イメージセンサーを、AIが現場を理解し、判断や制御につなげるための「眼」だと語った。

この合弁には、発表文に書かれていない事情もある。三菱電機は1年あまり前、自社ブランドで売ってきたビジョンセンサーの生産を打ち切り、顧客には他社製品への乗り換えを勧めていた。ソニーは、イメージセンサーの売上の大半をスマートフォンに頼る構造から抜け出したい。工場の眼をめぐる合弁は、両社がそれぞれ抱えてきた穴を埋め合う取引でもある。

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AIビジョンセンサーとは何か

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工場には、人の目の代わりをする機械がすでにたくさんある。ペットボトルのキャップがまっすぐ締まっているか。お弁当のラベルに正しい消費期限が印字されているか。箱にネジが決まった数だけ入っているか。ロボットがつかむ部品は、どこに、どの向きで置かれているか。カメラで撮った画像からこうした確認を一瞬で行う装置を、ビジョンセンサーと呼ぶ。

名前の似たイメージセンサーとは役割が違う。イメージセンサーは、光を電気の信号に変える半導体のチップで、人の体でいえば網膜にあたる。ビジョンセンサーは、その網膜にレンズと小さな頭脳を組み合わせ、「良品か、不良品か」という答えまで出す装置だ。

従来のビジョンセンサーは、人が決めたルールで判断してきた。たとえば「黒い点が一定の大きさを超えたら傷とみなす」といった具合だ。ところが、木目のある板や、一つずつ形の違う食品、光を跳ね返す金属の表面では、ルールが現実に追いつかない。照明の当て方も、レンズの選び方も、合否の境目も、専門の技術者が現場で一つずつ調整してきた。

AIを使うと、この考え方が変わる。良品と不良品の画像を見せて覚えさせれば、ルールを書き連ねなくても、人に近い感覚で見分けられるようになる。ただ、これまでのAI検査は、カメラの横に高性能なパソコンや画像処理用の半導体を置くのが普通だった。最近では、キーエンスや米コグネックスが、AIをカメラ本体に収めた製品を売り出している。

ソニーのやり方は、もう一段踏み込んでいる。AIを、イメージセンサーのチップそのものに載せたのだ。2020年に発表した「IMX500」は、光を受ける画素の層の下に、AI専用の演算回路とメモリーを持つ層を重ねた二階建てのチップで、ソニーは「AI処理機能を搭載した世界初のイメージセンサー」とうたった。網膜の裏に、小さな脳を貼り付けたようなものだ。

このチップは、画像そのものを外に出さず、「不良品あり、位置はここ」といった意味の情報だけを出力できる。代表的な画像認識のAIなら、処理は3.1ミリ秒で終わる。1秒に30コマの動画でいえば、1コマが流れる時間の10分の1にも満たない。映像が外に出ないので、工場の機密や作業員のプライバシーを守りやすく、通信量も電力も減らせる。

小さな脳は、安さにもつながる。2024年秋には、電子工作で人気の小型コンピューター、ラズベリーパイ向けに、このセンサーを載せたAIカメラが70ドル(約1万1,000円)で発売された。

一方で、脳の小ささは限界でもある。IMX500がAIのために使えるメモリーは8メガバイトで、スマートフォンで撮った写真2枚分ほどしかない。AIに読み込ませる画像も、カラーなら縦横それぞれ640画素までだ。大きなパネルの細かな傷を高い解像度で探すような重い検査は、この脳だけでは荷が重い。

新会社がめざすのは、こうした「考える眼」を、工場の制御機器と最初から組み合わせて届けることだ。両社は、光学やAIの専門知識がなくても使えるソリューションを掲げた。マイナビニュースは、これをカメラの設定から照明、画像処理、AIモデルの構築、FA機器との連携まで、これまで別々の専門家が担ってきた知識をまとめて提供することだと解説している。

もう一つの狙いは、映像とほかのデータを組み合わせることだ。モーターの振動や電流、温度といった数字と映像を突き合わせれば、一つのデータでは見えない変化の兆しをつかめる。ベテランの作業員が「いつもと音が違う」「ベルトの色が少し変わった」と気づく、あの感覚を機械に持たせる発想である。両社はこれを「マルチモーダルな生産システム」と呼び、現実の世界を見て判断し、機械を動かすAI、つまりフィジカルAIを工場で実用化する後押しになるとしている。

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三菱電機に「自前の眼」がなかった1年

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三菱電機は、工場の頭脳にあたるシーケンサー(PLC)や、機械を正確に動かすサーボモーターで世界有数のメーカーだ。その三菱電機が、眼の部分では、2008年から外部の力を借りてきた。

2008年、三菱電機はビジョンセンサーの提携相手に米コグネックスを選んだ。コグネックスの技術をもとに、三菱電機の制御機器とつなぎやすくしたビジョンセンサーを、三菱電機は「MELSENSOR(メルセンサー)」のブランドで売ってきた。

転機は2024年10月に来た。三菱電機は、MELSENSORのビジョンセンサーとコードリーダーの生産をやめると顧客に通知した。注文の受け付けは2025年7月で締め切り、生産は9月末で終えた。理由は、設定用ソフトが動くOSのサポートが終わり、製品の運用が難しくなるためだという。通知には「三菱電機製品の後継品はありません」と書かれ、今後はコグネックス製品への置き換えを検討してほしいとあった。修理は2032年まで受け付ける。

つまり三菱電機は2025年の秋から、自社ブランドで売るビジョンセンサーを持たない状態にあった。新会社は、その空白を、コグネックスではなくソニーと組み、しかもAIを最初から組み込んだ形で埋めにいく。

FA事業そのものは、追い風を受けている。2025年度のFAシステム事業の売上高は7,982億円と前年度から1割増え、営業利益は766億円に伸びた。中国のスマートフォンや工作機械向けに加え、日本や中国でAI向けの半導体やサーバーへの設備投資が膨らんだ。7月末の第1四半期決算でも、シーケンサーやサーボの販売が好調だと説明している。

それでも、利益率は高いとはいえない。2025年度の調整後営業利益率は9.4%だった。三菱電機は5月29日の説明会で、2030年度にFAシステム事業の売上高を9,000億円、調整後営業利益率を16%以上に引き上げる目標を示した。売上を大きく増やすより、稼ぐ力を高める計画だ。その柱が、機器を売って終わりにせず、顧客とつながり続けてデータを集め、ソリューションで稼ぐという方針である。重点事業のソリューションの売上は、2025年度の0.4兆円から2030年度に1兆円へ、利益率は7%から15%へ高めるとしている。

データの受け皿は、三菱電機が2024年に打ち出したデジタル基盤「Serendie(セレンディ)」だ。都築氏は、AIビジョンセンサーが生むデータとSerendieを組み合わせ、FAデジタルソリューション事業を新しくつくると述べている。

三菱電機がこの1年で手元に集めてきたのは、眼だけではない。1月には、東京大学の松尾研究室から生まれたAIスタートアップの燈(あかり)に50億円を出資し、無人化した工場の頭脳となる「次世代産業OS」を一緒に開発すると発表した。THE BRIDGE(ザ・ブリッジ)によると、このときの燈の企業評価額は1,000億円だった。同じ1月には、工場のネットワークを守るサイバーセキュリティーの米ノゾミ・ネットワークスの買収を完了している。買収規模は約10億ドル(約1,600億円)と報じられた。10月のCEATEC(シーテック)2026には「フィジカルAIでつくる、産業のミライ」を掲げて出展し、無人化工場への取り組みを前面に出した。

頭脳は燈、守りはノゾミ、そして眼はソニーとの新会社。三菱電機は、フィジカルAIの部品を、出資と買収と合弁で組み上げている。

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ソニーにとっての意味:スマホの外へ眼を売る

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ソニーの側から見ると、この合弁は、スマートフォンの外へ出ていくための一手だ。

ソニーのイメージセンサー事業は、いま絶好調にある。2025年度のイメージング&センシング・ソリューション分野の売上高は2兆1,515億円と2割伸び、営業利益は3,573億円と過去最高を更新した。仏調査会社のヨール・グループによると、2025年の世界のイメージセンサー市場で、ソニーの売上シェアは約5割に達した。

ただ、稼ぎ頭は偏っている。EE Times Japanの集計では、2025年度のイメージセンサー売上のおよそ8割がスマートフォン向けだった。ソニーは5月、2026年度について、センサー市場の伸びを慎重に見て、この分野の減収を見込んだ。ブルームバーグは今回の合弁を、最大の顧客であるスマートフォンメーカーの需要が弱まるなか、ソニーが顧客の幅を広げようとする動きとして伝えている。

工場の眼は、ソニーが長く狙ってきた市場でもある。ソニーは2021年に、センシング用途の売上比率を2025年度に3割へ高める目標を掲げたが、翌年には「目標値として適していない」として取り下げた。イメージセンサー市場の伸びが鈍り、スマートフォンや車載での本格的な採用も想定より遅れたためだ。

IMX500と、そのセンサーにAIのモデルを届ける仕組み「AITRIOS(アイトリオス)」は、小売や物流、工場などで提案を重ね、米国では交差点の見守りといったスマートシティーの分野で実績を伸ばしてきた。ソフトウエアの継続課金を将来の柱に育てる方針も掲げている。ただ、工場で本格的に使うには、センサーを顧客の設備につなぎ、制御まで面倒を見る担い手がいる。三菱電機は、まさにその担い手だ。

十時裕樹社長も、工場やロボットの需要に期待を寄せる。ブルームバーグによると、十時氏は6月23日の株主総会で、産業用ロボットにAIを持ち込むのに欠かせない高性能イメージセンサーで、ソニーが首位のシェアを持つと述べた。高度な工場の自動化や物流、モビリティー、インフラがセンサーの需要を押し上げるとの見方も示している。

この夏、ソニーは「Advanced Vision」で始まる会社を二つつくることを決めた。7月22日の三菱電機との合弁に続き、8月11日には台湾のTSMCと、熊本県合志市に次世代イメージセンサーの製造合弁「Advanced Vision Semiconductor Manufacturing」を設ける確定契約を結んだ。ソニーが約4,650億円、TSMCが約2,820億円を出し、2029年に量産を始める計画だ。

二つの合弁で、ソニーの持ち方は正反対になる。製造の合弁は、ソニーが支配株主として子会社にする。工場の眼の合弁は、三菱電機に過半を譲り、自らは4割にとどめた。センサーの設計と、センサーの中のAIという核はソニーが握る。巨額の設備投資はTSMCと分け合う。顧客の工場に入り込む仕事は三菱電機に任せる。9月には、サウジアラビアのアラムコとも、産業向けのAIで協業を探る基本合意を結んだ。ソニーの半導体事業は、すべてを自前で抱える形から、核を握って周りを組む形へと動いている。

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業界の状況:伸びる市場と、先を走るライバル

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工場の眼の市場は、派手ではないが着実に伸びている。英調査会社インタラクト・アナリシスによると、画像で物を見分ける産業用の機器、いわゆるマシンビジョンの市場は、2025年に5.2%伸びて59億ドル(約9,300億円)になった。2030年には83億ドル(約1兆3,000億円)と、年平均7.2%の成長を見込む。最も大きく、最も速く伸びるのは日本を除くアジア太平洋で、日本の伸びは年6%と、地域別で最も低い。

欧州は足踏みしている。ドイツ機械工業連盟(VDMA)によると、欧州のマシンビジョン業界の売上高は2025年に2%減り、2026年も3%前後の増加にとどまる見通しだ。地域別では、北米向けが9%増と好調だった。

この市場で、三菱電機とソニーの新会社は後から参入する立場にある。国内で圧倒的な存在感を持つのが、センサーや計測機器のキーエンスだ。2026年3月期の売上高は1兆1,692億円、営業利益は5,957億円で、利益率は5割を超える。AIを内蔵したビジョンセンサー「IV4」シリーズは、良品の画像を1枚登録すれば判別を始められ、1万通りを超える撮影条件の中から最適なものをAIが選ぶとうたう。

マシンビジョン大手の米コグネックスも、AIへ大きく舵を切った。2025年の売上高は9億9,400万ドル(約1,570億円)。2026年4〜6月期には過去最高の2億9,100万ドル(約460億円)を売り上げ、前年同期から17%伸びた。マット・モシュナーCEOは、AIを使ったマシンビジョンで首位の座を広げると語る。クラウドでAIを鍛え、工場のカメラで動かす仕組み「OneVision(ワンビジョン)」を本格展開し、4月にはエヌビディアの半導体を積んだ検査用のコントローラーも発売した。

中国勢も迫る。中国メディアの36Krによると、監視カメラ大手ハイクビジョン系の海康機器人(ハイクロボット)は、2025年の売上高が64億元(約1,500億円)を超え、マシンビジョン製品の累計出荷は1,000万台を突破した。

ブルームバーグは、工場の自動化で三菱電機が、ファナック、オムロン、安川電機、独シーメンス、米ロックウェル・オートメーションと競っていると指摘し、ソニーの技術がその立場を強めうると報じた。

追い風は、人手不足と政策だ。2026年版のものづくり白書によると、製造業で働く人は2023年の1,055万人から、2025年には1,033万人に減った。白書が引く労働政策研究・研修機構の調査では、技能の継承がうまくいっている、あるいはややうまくいっていると答えた企業は約3分の1にとどまる。熟練の目を持つ人が減り、その目を受け継ぐ人も育ちにくい。

政府は6月、2040年度までに見込む官民投資の中で、フィジカルAIに10.5兆円を示した。7月15日には、エヌビディアがロボットや工場向けのAIモデルの開発連合を日本に広げると発表し、ファナックや安川電機とともに、ソニーグループも参加の意向を示した。ブルームバーグは、来日したジェンスン・ファンCEOが日本企業にフィジカルAIへの挑戦を促した1週間後に、今回の合弁が発表されたことにも触れている。

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強み:網膜と手足が一つの会社でつながる

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新会社の強みは、三つある。

一つ目は、眼の部品をつくる会社そのものが当事者として加わっていることだ。ソニーは世界のイメージセンサーの約半分を供給する、いわば眼の部品の元締めで、しかもセンサーの中でAIを動かす技術を持つ。映像を外に出さずに判断できるので、製造のノウハウが映像から漏れることを嫌う工場にも入りやすい。

二つ目は、見た結果を機械の動きに変える経路を、最初から手元に持てることだ。どれほど正確に不良を見つけても、その情報が制御機器に届き、ラインの動きに反映されなければ意味がない。テック系メディアのXenoSpectrum(ゼノスペクトラム)は、新しさはAIイメージセンサーの発明ではなく、認識から制御までを一体で届ける体制にあると分析した。三菱電機のシーケンサーとサーボが動く工場なら、眼と手足を同じ設計思想でつなげる。

三つ目は、データがたまる仕組みだ。映像から抜き出した意味の情報はSerendieに集まり、設備の稼働データと組み合わされる。故障の兆しを先回りでつかむ保守サービスのように、売ったあとも稼げる事業につながりやすい。ソニーも、AITRIOSの継続課金を将来の柱にすると言ってきた。両社の狙いは、ここで重なる。

課題:小さな脳、遅れたスタート、つなぐ手間

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課題も、はっきりしている。最初の壁は、センサーの中の脳の小ささだ。IMX500のAI用メモリーは8メガバイトにとどまる。これに対し、コグネックスが4月に出した検査用コントローラーは、エヌビディアの半導体で毎秒最大157兆回の演算をこなし、6,500万画素のカメラまでつなげる。軽い判断はセンサーの中で、重い検査は別の頭脳で、という使い分けが現実的だ。新会社が工場向けにどんな新しいセンサーを用意するのかは、まだ示されていない。

二つ目は、出遅れだ。キーエンスもコグネックスも、AIを内蔵した製品をすでに売っている。三菱電機は生産終了の通知で、顧客にコグネックス製品への置き換えを勧めた経緯がある。その間に乗り換えた顧客を取り戻すには、新しい製品が目に見えて便利でなければならない。新会社は、製品の名前も、発売の時期も、価格も、まだ明らかにしていない。

三つ目は、工場に新しい層を足す手間だ。ドイツのAIニュースサイトAInauten(アイナウテン)は、外観検査はすぐに元が取れる数少ない産業AIの使い道だとしたうえで、シーケンサーや生産管理システムの横に独自の仕組みをもう一つ足すことはコストになると論評した。映像データや、現場に合わせて調整したAIモデルが誰のものになるのかも、はっきりしないという。恩恵を先に受けるのは大手メーカーで、小さなチームは乗り換えにかかる費用を見込んでおくべきだとしている。

四つ目は、市場の地図だ。伸びの中心は日本を除くアジアにあり、日本は最も伸びが鈍い。三菱電機のFA事業も、中国のスマートフォンや工作機械の需要に業績を左右されてきた。価格で攻めてくる中国勢と、現地で渡り合えるかが問われる。

そして、合弁という形そのものも試される。巨大な二社が6対4で持ち合う会社が、新興企業のような速さで製品を出せるのか。キーエンスは、営業担当者が顧客の現場から困りごとを拾い、製品に生かす直販のやり方で知られる。新会社にも、現場の声を拾って素早く形にする力が欠かせない。

各紙の報じ方と、投資家・VCの視点

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報道の切り口は、媒体ごとに違った。ブルームバーグは、ファンCEOが日本にフィジカルAIへの挑戦を促した直後の発表だと位置づけ、スマートフォン頼みから抜け出したいソニーと、ライバルの多い工場の自動化で立場を強めたい三菱電機の思惑を並べた。日刊工業新聞は、三菱電機がFA関連の販売ルートを持つ点と、AIで機器を自律的に動かすフィジカルAIへの活用を強調した。EE Times Japanや、MONOist(モノイスト)、マイナビニュースは、センサーの上で映像を解析する技術と、人手不足への対応を軸に伝えた。ビジネス+ITは、機器を売るだけの商売から、継続的に価値を届けるサービス事業へ移る狙いに光を当てた。海外でも、台湾のDIGITIMES(デジタイムズ)や、米調査会社のARCアドバイザリー・グループが取り上げている。

投資家の目で見ると、この合弁は三つの問いを投げかけている。

一つ目は、お金の流れだ。米クランチベースによると、2026年1〜6月にフィジカルAIの新興企業へ流れたベンチャー資金は474億ドル(約7兆5,000億円)、521件にのぼり、その前の半年の約4倍に膨らんだ。ただ、その3分の1近くは、グーグル系の自動運転会社ウェイモ1社の160億ドル(約2兆5,000億円)だ。米CBインサイツの集計でも、4〜6月に案件数が多かったのは、産業用の人型ロボットと、ロボット向けの基盤AIモデルの開発会社だった。資金は、ロボットの脳と体に集まっている。

工場そのものへの投資を、隙間とみる空気も薄れた。アップルで製品の量産立ち上げに長く携わった2人が米国で立ち上げた製造業テック専門のオムニ・ベンチャーズは、3,300万ドル(約52億円)のファンドを集めた。共同創業者のサイモン・ランカスター氏は、設立時に投資家から「ニッチすぎないか」と言われたが、いまはそう言う人はいないと語っている。

ただ、眼の層は事情が違う。この層で大きく勝つには、センサーをつくる工場と、何万もの工場に届く販売網が要る。ソニーの約5割のシェア、キーエンスの直販網、コグネックスの導入実績は、新興企業が一から築ける壁ではない。眼の層では、新興企業が割り込むより、大企業同士が組むほうが理にかなう。今回の合弁は、その典型といえる。

二つ目は、どこに値札がつくかだ。キーエンスの利益率が5割を超えるのに対し、三菱電機のFA事業は1割に届かない。キーエンスは、顧客の困りごとを解く提案ごと製品を売り、高い利益率を保ってきた。三菱電機は2030年度にFAの利益率を16%以上へ引き上げる目標を掲げ、その柱にソリューションを置いた。合弁の成否を測る物差しは、センサーの出荷台数よりも、三菱電機のFA事業のうち、売ったあとも稼ぎ続ける部分がどれだけ太るかになる。

三つ目は、新興企業にとっての意味だ。外観検査のAIを手がけるスタートアップにとって、巨大企業が「専門知識がなくても使える」という売り文句を掲げるのは脅威だ。一方で、眼の上で動くAIモデルや業種ごとのアプリは、むしろ外の力が要る領域になる。ソニーはAITRIOSで、外部企業のAI開発ツールを扱うマーケットプレイスを用意してきた。三菱電機はベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインと50億円のファンドを運用し、燈には1,000億円の評価額で出資した。大企業の合弁は、スタートアップにとって競争相手であると同時に、買い手や販路にもなりうる。

コグネックスの株主にとっても、無関係な話ではない。2008年の提携発表でコグネックスは、三菱電機を日本とアジアで最大の工場自動化機器メーカーと紹介し、販売の加速を期待していた。MELSENSORの生産終了で、三菱電機の顧客はいったんコグネックス製品へと案内された。新会社が製品を出せば、その流れは三菱電機自身の眼へと戻りうる。

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今後:いつ、何が見えてくるか

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新会社の事業開始は、2026年10月に据えられた。次に見えてくるのは、最初の製品だ。カメラと一体になったセンサーなのか、三菱電機のシーケンサーに差し込む部品なのか。価格は売り切りなのか、月ごとの利用料なのか。どれも、まだ発表されていない。

画像処理の業界が新製品を披露する場としては、毎年6月にパシフィコ横浜で開かれる画像センシング展がある。三菱電機の決算では、2027年2月初めの第3四半期決算と、春の通期決算や経営説明会で、FA事業の利益率と新会社の進み具合がどう語られるかが焦点になる。

ソニーの側では、TSMCとの熊本の製造合弁が2029年に量産を始める。次の世代のセンサーで、工場向けのAI機能がどこまで強くなるかが、新会社の製品の天井を決める。

長い目で見れば、三菱電機が2030年度に掲げたFAの利益率16%以上という目標と、政府が2040年度までに見込むフィジカルAIへの官民投資10.5兆円が、この市場の大きさを測る目安になる。

見極めたい点は四つある。三菱電機以外のシーケンサーを使う工場にも売るのか。中国や東南アジアへ早く打って出られるのか。ソニーが工場向けに、もっと大きな脳を持つセンサーを用意するのか。そして、キーエンスやコグネックスがどう迎え撃つのか。

工場の眼の勝負は、画素の数では決まらない。見たものを何ミリ秒で機械の動きに変え、そのデータを何年にわたって価値に変え続けられるか。ソニーの網膜と三菱電機の手足をつなぐ新会社は、その答えを、最初の製品で示すことになる。


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