顔を腕で覆ったまま、400メートルを45秒66で走り切った機械

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 顔を腕で覆ったまま、400メートルを45秒66で走り切った機械 - 章扉

両腕を折りたたんで顔の前まで持ち上げ、上半身を左右に大きく振りながら、身長1メートル35センチ・体重39キロの機械がトラックのカーブを内側に深く傾いて曲がっていく。腕は一度も振られない。ずっと顔の前にある。

これが第2回世界人型ロボット運動会の400メートル走・小型組決勝を45秒66で制した「天工Omni」の走りだ。北京人形機器人創新中心(X-Humanoid)が開発した機体である。人間の400メートル世界記録は43秒03なので、まだ人間のほうが速い。それでも動画は中国のSNSで爆発的に拡散し、日本でもアニメの「奇行種」に例えられて話題になった。

面白いのは、このフォームを誰も設計していないことだ。開発チームを率いる韓剛氏はこう説明している。「最初は人間の100メートル走のフォームを設計していた。でもこの機械はシミュレーションの中でデータを回しながら自分で走り方を作っていった。学習の途中で、腕を振るより顔を覆ったほうが走りやすいと感じたのだろう」。小さな女の子の走り方を真似させたのではないか、という憶測に対して、チームは「誰にも学ばせていない、自分で考え出した」と否定している。

強化学習でロボットを走らせると、人間が「正しい」と思っているフォームとは違う解に収束することがある。上半身を固定してジャイロ効果で姿勢を安定させ、下半身の推進に全エネルギーを回す——それが二足歩行機械にとっての最適解だった可能性がある。人型の身体を持っていても、最適な使い方は人間と同じとは限らない。この大会が産業的に面白いのは、まさにそこだ。

そもそも「人型ロボットの運動会」は何を測っているのか

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2026年8月22日から26日まで、北京の国家速滑館「アイスリボン」で開かれたこの大会は、六大陸16カ国から666チーム、2,056台のロボットが集まった。前回2025年8月の第1回は280チーム・500台あまり・26種目だったので、チーム数で2.4倍、ロボット台数でほぼ4倍、種目数は51にほぼ倍増し、5日間で1,301試合が消化された。主催は北京市人民政府、中国中央広播電視総台、世界ロボット協力機構、アジア太平洋ロボットワールドカップ国際理事会である。

種目の内訳が、この大会の性格をよく表している。51種目のうち30が「競技賽」、つまり陸上、サッカー、体操、ダンス、卓球、武術、自由搏撃(キックボクシング)、綱引きといったスポーツ型。残る21が「場景賽(シーン競技)」で、こちらは工場の医薬品倉庫でのピッキングと梱包、オフィスでの書類整理とプリンター操作、EV充電スタンドでの作業、音声指示による調理、災害現場での障害物除去といった、そのまま業務に直結する課題である。

さらに「灵巧手(器用な手)」専門競技が8種目ある。粉末を許容誤差±0.5グラムで計量する、ピンセットで豆をつまむ、積み木を組む、ケーブルを結線する。制限時間は5分。これは陸上競技よりよほど工場に近い。

採点ルールにも産業側の意図が露骨に出ている。完全自律で課題をこなした場合の得点係数は1.0だが、人間が遠隔操作した場合は0.5にしかならない。しかも100メートル走、リレー、サッカー、太極拳、体操といった種目では、そもそも遠隔操作が禁止された。第1回では多くの種目が人間のコントローラー操作で成立していたので、これは大きな線引きの変更である。

米フォーブスのジョン・ケッツィアー氏は、この種目表そのものを「マーケットマップ」として読むべきだと書いている。完全自律を義務づけられた種目は、すでに商用に足る成熟度に達したと運営側が判断した領域。遠隔操作がまだ許されている障害物走や重量挙げは、高速下での知覚のクローズドループや爆発的な出力制御が未解決だという告白。そして種目に「無い」ものが最も雄弁だ——階段、不整地、耐久走行、人間との協働作業、そして故障間隔や1時間あたりコストといった信頼性指標。この大会には、それらを測る競技が一つもない。同氏は出場エントリーのおよそ96%が中国勢であることも指摘している。

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記録は1年で2.5倍速になった。ただし人間の記録と並べるのは無理がある

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数字の伸びは、率直に言って異常である。

100メートル走・大型組の優勝タイムは、第1回大会が21秒50だった。今回は8月22日の開幕日に天卓隊が9秒39を出して人間の世界記録9秒58を破り、25日の復賽で天工が8秒86、荣耀(Honor)の「闪电」が8秒94、そして26日の決勝で天骄隊が8秒64を記録して優勝した。1年で2.5倍速になった計算だ。400メートル走は1分28秒03から38秒15へ、1500メートル走は6分34秒40から2分21秒64へ短縮された。

ただし、これを「人間超え」と単純に読むのは危うい。フィニッシュ後の映像を見ればすぐわかる。ロボットたちは減速できない。ゴールラインを越えたあと、そのままクラッシュマットに突っ込んでいく。ある機体は着地に失敗して炎上した。エディンバラ大学でロボット学習・自律性の講座を持つスブラマニアン・ラマムーシー教授は、これは設計上の必然だと説明する。開発者は加速だけを最適化しており、二足で高速から急制動をかけるときのバランス制御は、人間が無意識にやっている姿勢調整とは比較にならないほど難しい。

跳躍の記録はさらに注意が要る。開幕式のデモンストレーション種目「原地跳高」で天工Ultraが2メートル88を記録し、中国メディアはハビエル・ソトマヨルの2メートル45を超えたと報じた。だがこちらは助走なしのその場跳躍で、バーを越えるかどうかを競う陸上の走高跳とは測っているものが違う。前回大会の同種目の記録が0メートル96だったことを考えれば伸びは本物だが、人間の競技記録に横並びで置ける数字ではない。

そしてもうひとつ。ラマムーシー教授は、電池のエネルギー密度が足りておらず、アクチュエータの精緻さは人間の筋肉に遠く及ばないと述べている。ニューズウィークが伝えた通り、この大会では機体が分解し、崩れ落ち、担架で運び出された。8秒64という数字と、担架で運ばれる機体は、同じ会場の同じ日の光景である。

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 記録は1年で2.5倍速になった。ただし人間の記録と並べるのは無理がある - 図表1第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 記録は1年で2.5倍速になった。ただし人間の記録と並べるのは無理がある - 図表2第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 記録は1年で2.5倍速になった。ただし人間の記録と並べるのは無理がある - 図表3

メダル表の一位は「自分で全部作る」勢だった

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さて、産業的に本題はここからだ。

チーム別のメダル表で首位に立ったのは天工機器人赛隊で、金5・銅4。2位が上海智元隊の金4・銀4・銅1、3位が成都智元赛隊の金4・銅1。4位と5位にも天竺隊、天骄隊が入った。

上位を占めた「天」の付くチーム群は、北京人形機器人創新中心が開発した汎用人型ロボットの「母平台(マザープラットフォーム)」である天工をベースにしている。天工隊と天骁隊はいずれも天工Ultraを使い、天卓隊も同センターの機体だ。つまり、事実上ひとつの技術基盤が上位を面で埋めている。この創新中心は2023年11月に設立された中国初の省級人型ロボットイノベーションセンターで、2024年10月に国家地方共建具身智能機器人創新中心へ格上げされた。出資は優必選(UBTECH)、小米機器人、京城機電がそれぞれ28.57%、北京亦庄機器人科技産業発展が14.29%。政府系と大企業が組んだ国策連合である。

一方、企業単位で数えると首位は智元機器人(AgiBot)になる。同社は初出場で金18・銀16・銅12を獲得し、金メダル数でもメダル総数でも1位に立った。量産版の五指ハンド「OmniHand」が灵巧手8種目のうち7つの金を取り、量産機「精霊G2」がシーン競技12個の金のうち5〜6個を持っていった。灵犀X2は100メートル障害走で優勝している。同社が強調したのは、大会用に特注した機体を一台も出していないという点だ。工場やホテルにすでに納入されている量産機をそのまま持ち込んだ。G2は龙旗や上汽(SAIC)の工場ですでに稼働している機体だという。

智元機器人は、ファーウェイの「天才少年」プログラム出身の彭志輝(稚暉君)氏が2023年に立ち上げた会社で、テンセント、京東(JD.com)、上汽、ヒルハウス、セコイア・チャイナ、BYD、華為哈勃(Huawei Hubble)など50を超える出資体が名を連ねる。2025年に上場企業の上緯新材(SWANCOR)の支配権を約21億元(約500億円)で取得し、2026年7月には香港上場のプロセス開始を明らかにした。投資家筋が財新や新浪財経に語った目標評価額は400億〜500億香港ドル(約8,200億円〜1兆円)、2025年の売上高は10.5億元(約249億円)である。

要するに、メダル表が示したのは「本体もモデルも自社で作り、実際に納品している会社が強い」という当たり前で、しかしこの業界ではまだ証明されていなかった命題だった。

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上場4日目のUnitreeが、自社チームで組最下位に沈んだ

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 上場4日目のUnitreeが、自社チームで組最下位に沈んだ - 章扉

そのメダル表に、業界最大の知名度を持つ企業の名前がほとんど出てこない。

Unitree(宇樹科技)は8月19日、上海証券取引所の科創板(STAR Market)に中国本土市場で初の人型ロボット専業銘柄として上場したばかりだった。個人投資家の申込倍率は8,000倍。初値は公開価格の7倍を超え、時価総額は一瞬10兆円規模に達した。1単元当たりの初日利益はA株の登録制移行後で最も儲かった新規上場銘柄の記録を塗り替えている。市場は、この会社を人型ロボットという物語そのものの代理変数として値付けした。

その3日後、8月22日の開幕日。100メートル走・大型組の第9組に、Unitree科技隊は天卓隊、烽火閃電隊とともに並んだ。天卓隊が9秒39、烽火閃電隊が9秒47。Unitree科技隊は12秒41で、組最下位だった。

同社の回答は率直だった。「非常に残念だが、我々の精力は主に量産製品の研究開発と納品に集中しており、大会準備まで手が回らなかった」。加えて、会場に出ているUnitreeブランドの機体の多くは自社チームのものではなく、顧客やパートナーがUnitreeのプラットフォーム上で二次開発したものだ、とも説明している。

その説明の正しさは、大会最終日に皮肉な形で証明された。自由搏撃(キックボクシング)40キロ級決勝、華北電力大学のチームがUnitree製G1を遠隔操作してUnitree科技隊本体を破り、この種目の初代王者になったのである。同じ機体、同じ土俵。勝敗を分けたのは制御アルゴリズムと二次開発の腕だった。中国メディアは「弟子が師匠を破った」と報じた。太極拳では北京連合大学の40.5点に対しUnitree科技隊は21.21点で2位。

第1回大会でのUnitreeは、1500メートル、400メートル、100メートル障害、4×100メートルリレーで金4個を取った主役だった。1年で立ち位置が変わったことになる。

株価のほうも、この1週間で激しく揺れた。上場翌日から4営業日続けて下げ、8月24日には初日の高値からおよそ半値、時価総額にして2,000億元以上が消えた。これは大会の成績が原因というより、極端な初値からの評価の正常化と見るのが自然だが、この二つが同じ週に起きたことが投資家に与えた印象は小さくない。

創業者の王興興氏自身が、上場前日の8月20日、2026世界ロボット大会の主論壇で釘を刺していた。世界の人型ロボット産業の最大のボトルネックは具身智能(エンボディドAI)の汎化能力の不足である。データを十分に集めて訓練した固定シーンでは成功率がほぼ100%に届くが、扱う物や環境が変わった瞬間に大きく落ちる。だからUnitreeは工場や家庭に大規模展開していない——効率がまだ人間に及ばないからだ。産業の臨界点は、ユーザーがロボットを任意の見知らぬ環境に持ち込み、言葉や文字の指示だけで日常タスクの8割ほどをこなせるようになったときに来る。早ければ2〜3年、遅ければ5〜10年。彼はこう言った。具身智能の「ChatGPTモーメント」は、まだ来ていない。

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 上場4日目のUnitreeが、自社チームで組最下位に沈んだ - 図表1第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 上場4日目のUnitreeが、自社チームで組最下位に沈んだ - 図表2

日本からの1台。GMOの「ひとみん」は74台中13位で完走した

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 日本からの1台。GMOの「ひとみん」は74台中13位で完走した - 章扉

この666チームの中に、日本からの出場は1つだけだった。GMOインターネットグループのGMO AI&ロボティクス商事(GMO AIR)が送り込んだヒューマノイド「ひとみん」である。

ベースはUnitreeのG1。身長130センチ、重さ35キロ程度の小型機で、同社の研究開発拠点では案内役として動いている個体だ。GMO AIRは2026年6月19日にUnitree Roboticsの国内正規代理店となり、G1やH1の販売と導入支援を手がけている。

特徴的なのは学習データのほうだ。同社は2026年4月2日に「GMOインターネットグループ陸上部 - GMOロボッツ」というプロジェクトを立ち上げ、2026年ニューイヤー駅伝を大会新記録で制した自社陸上部の選手たちの走行モーションデータをロボットに学習させた。トップアスリートのフォームとペース配分をそのまま機械に移植し、外部からの操作なしで自律走行させる——これを世界初として打ち出している。

結果はこうだった。400メートルは準決勝で転倒して完走できず、10位で敗退。だがチームはそこから調整を入れ、1500メートルでは4周をほぼ安定して走り切って7分43秒89、出場35台中7位に入賞した。100メートルは24秒3で74台中13位、こちらも完走している。

優勝タイムからは遠い。ただ、この結果の読み方は成績表よりも構図のほうにある。日本勢が世界大会に出るための現実的な経路が、中国製の身体に日本のデータとチューニングを載せるという形になった、ということだ。そして次章で見る通り、アメリカはこの7月、まさにその組み合わせを国内で禁じた。

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頭脳はどこ製か——中国のロボットが走るとき、演算しているのはNVIDIAとIntelである

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ここで、この記事の核心に入る。

人型ロボットの計算機は、中国語では「大脳」と「小脳」に分けて語られる。大脳は、カメラの映像と言葉の指示から状況を理解して「次に何をするか」を決める部分。いわゆるVLA(Vision-Language-Action)モデルが載る層で、大量の並列演算が要る。小脳は、関節を1秒間に数百回から千回のオーダーで動かし続けて姿勢を保つ部分。こちらは絶対的な演算量より、遅延の短さと確実性が命になる。

では、北京のトラックを8秒台で走り抜けたあの機体の中で、実際に計算していたのは誰のシリコンか。

天工の量産型であるTiangong ProはIntelのCPUとNVIDIAのJetson Orinを組み合わせている。Unitreeも同じだ。G1はJetson Orin NX(100 TOPS)を積む。H2は最大3枚のJetson Orin NXを載せる構成で、EDU版ではIntel Core i5とi7のデュアル構成にJetson AGX Thorをオプションで追加できる。上位のH2 Plusは最初からJetson Thorだ。優必選のWalker XにはIntelのi7とNVIDIAのGPUが入っている。

象徴的なのは、NVIDIA自身が2026年6月に発表したIsaac GR00Tのリファレンス機である。UnitreeのH2 Plusの身体に、Sharpaのハンドを付け、Jetson Thorで計算し、NVIDIAのGR00Tソフトウェアで動かす。中国の身体に、アメリカの頭脳とアメリカのソフトウェア。物理AIのサプライチェーンが、両政府が技術主権を叫んでいる最中もなお、深く絡み合っていることを示す構成だった。

Jetson Thorのスペックは、Blackwell世代のGPUと128GBのメモリで、FP4換算2,070 TFLOPS。前世代のOrinの7.5倍である。開発キットは3,499ドル(約56万円)。中国での量産モジュールの卸価格は1,000個以上の発注でおよそ21,452元(約51万円)と報じられ、リードタイムは24週、つまり半年待ちだという。それでも中国側の導入企業リストにはUnitree、智元機器人、銀河通用(Galbot)、Engine AI、優必選が並ぶ。アナリストの多くはAIチップ市場でのNVIDIAのシェアを9割超と見ている。

だから、この大会に出た2,000台超の大半について言えば、答えは明確だ。身体は中国製、頭脳はアメリカ製である。Unitreeは主要部品の9割以上を国内調達していると説明しており、それ自体は事実に近いが、その「9割」に演算プラットフォームは入っていない。

国産置き換えが進んでいないわけではない。瑞芯微(Rockchip)のRK3588/RK3588Sは、智元の灵犀X2、逐際動力のLimX Oli、高擎のPi/Pi+などに採用されている。ただしNPUの能力は6 TOPSで、大脳ではなく周辺処理の担当だ。より正面から挑んでいるのが地平線(Horizon Robotics)系の地瓜機器人で、RDK S100は6コアCPUとBPUを1つのSoCに統合して80 TOPS、上位のS100Pで128 TOPSを出す。開発キットが2,799元(約6万6,000円)と、NVIDIAの同等品のほぼ半額だ。同社は2026年内に560 TOPS(INT8)級の「旭日S600」の商用化を目指している。黒芝麻智能は「華山A2000」と「武当C1236」の2チップで大脳と小脳を分担する構成を提案し、天数智芯はCUDA互換を売りに、ロボットOSとモデルをNVIDIA Orinとの間でそのまま行き来させられる端末側製品を出してきた。外からはクアルコムも、CES 2026で発表したDragonwing IQ10シリーズで最大700 TOPSを掲げてJetson Thorを正面から狙っている。

つまり構図はこうだ。中低位のレイヤーでは国産化が確実に進んでいる。だが競技会で表彰台に立った機体の演算基盤は、まだNVIDIAとIntelのままである。しかも要求水準は上がり続けている。優必選は実測で、2,000 TOPS級のNVIDIAチップですら複雑な三次元空間での相互作用タスクには手が足りない、という結論に至ったと伝えられている。

Unitreeが上場で調達した資金の使い道が、この事情をそのまま反映している。目論見書の計画では調達予定額約42億元のうち、実に20億元超(約470億円)を「智能機器人模型研発項目」——同社が「ロボットの大脳」と呼ぶ、具身智能の基盤モデルと中核アルゴリズムの開発に投じるとしていた。製造拠点への投資は6億元強にとどまる。身体を作る会社が、上場マネーの半分を頭脳に賭けている。

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 頭脳はどこ製か——中国のロボットが走るとき、演算しているのはNVIDIAとIntelである - 図表1第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 頭脳はどこ製か——中国のロボットが走るとき、演算しているのはNVIDIAとIntelである - 図表2第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 頭脳はどこ製か——中国のロボットが走るとき、演算しているのはNVIDIAとIntelである - 図表3

鏡像の依存関係——アメリカは「身体」を中国に握られている

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 鏡像の依存関係——アメリカは「身体」を中国に握られている - 章扉

依存は一方通行ではない。

人型ロボットのアクチュエータには、高出力のネオジム磁石が要る。減速機、遊星ローラーねじ、サーボドライバも同じで、これらの供給網は中国に大きく傾いている。中国は2025年10月9日に発表したレアアース関連の輸出管理措置の実施を2026年11月10日まで1年間停止しているが、この停止がいつ解けるかは政策判断次第だ。米国側の分析は、磁石の問題はソフトウェアの創意工夫では埋められない構造的な脆弱性であり、製造規模の拡大でも解決しないと率直に認めている。MP MaterialsやNiron Magneticsといった代替材料・国内生産の動きはあるが、時間がかかる。

そして今年7月、アメリカは行動に出た。連邦通信委員会(FCC)は7月28日から29日にかけて、外国製の人型ロボットと四足ロボット、そしてパワーインバータを「Covered List」に追加した。これにより、これらの新型機は米国で輸入・販売・マーケティングに必要な機器認証を原則受けられなくなる。FCC委員長のブレンダン・カー氏は、大統領の指示に従い「アメリカの重要なサプライチェーンを守る」ための措置だと述べている。すでに米国内で使われている機体には遡及せず、国防関連の条件付き承認を申請する道も残されているが、新製品の市場アクセスは事実上塞がれた。

立法面では、6月に下院で「GUARD法案(H.R.9129)」が超党派で提出されている。提出者はジョン・ムーレナー、ジェイ・オーバーノルティ、ジェニファー・マクレランの3議員。安全保障当局に、敵対国製の人型・四足ロボットを1年以内に審査させ、容認できないリスクがあると判断されたものはFCCのCovered Listに載せる。1年以内に審査されなかった製品は自動的にリスト入りする、という設計だ。ムーレナー議員は「中国製ロボットは国家安全保障、重要インフラ、そしてアメリカの労働者にとっての脅威だ。スパイ活動に乗っ取られうるバックドアを内蔵している」と述べている。国防総省はすでにUnitreeを、中国軍と関係があるとする企業リストに掲載している。

バックドアの指摘には具体的な事例がある。研究者のAndreas MakrisとKevin Finisterreの両氏が、Unitreeの四足ロボットGo1に未公開のトンネルサービスが組み込まれていることを突き止めた。中国のZhexi Technologyが提供する「CloudSail」というリモートアクセス基盤に自動で接続する仕組みで、APIキーを入手すれば接続中の機体を一覧し、認証なしでWebインターフェースに入り、カメラ映像を見て、既定の認証情報でSSHにログインできた。研究者が確認した対象は1,919台。大学や企業のネットワーク上の個体が含まれていた。これは人型のG1やH1ではなく四足のGo1で見つかったものだが、政策議論では同社の設計文化の問題として引用されている。

こうした規制が効く相手がどれだけ大きいかは、出荷実績が語っている。ブルームバーグが8月10日に報じた米調査会社Smart Analytics Globalの集計によれば、2026年上半期の人型ロボットの世界出荷は約19,100台で前年同期の5,100台から3倍以上に増え、その97%超を中国メーカーが占めた。首位は智元機器人で8,400台・シェア44%、Unitreeが5,900台で2位。テスラ、Figure AI、Agility Roboticsといった米国勢の出荷規模はこれに遠く及ばない。用途では産業・商業向けが7割超を占め、1年前の約5割から明確にシフトしている。同社は2026年通年で約6万台、2030年に50万台と見ている。

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 鏡像の依存関係——アメリカは「身体」を中国に握られている - 図表1第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 鏡像の依存関係——アメリカは「身体」を中国に握られている - 図表2

シリコンバレーの投資家はこれをどう値付けしているか

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - シリコンバレーの投資家はこれをどう値付けしているか - 章扉

数字だけ見れば、資金は米国側に厚い。

2026年の人型ロボットスタートアップの調達額は、Dealroomの集計で7月時点までに約86億〜87億ドル(約1兆3,700億円)に達し、2025年通年のほぼ2倍になった。ただし集中度が異常に高く、トップ1件で全体の22.6%、上位10件で73.8%を占める。最大の案件はNEURA Roboticsの最大14億ドル(約2,230億円)、次いでFigure AIの10億ドル(約1,600億円)、Apptronikの5.2億ドル(約830億円)である。ApptronikのラウンドはB CapitalとGoogleが共同リードし、既存株主のメルセデス・ベンツやPeak6に加えてAT&T VenturesやJohn Deereが新規参加した。評価額は約50億ドル(約8,000億円)だ。

そしてFigure AIは、2025年9月の10億ドル調達で評価額390億ドル(約6兆2,000億円)を付けている。米国で最も高く評価された人型ロボット企業だ。

ここに、フォーブスのエディス・ヤン氏が指摘した歪みがある。同氏が2026年4月にまとめた中国ロボティクス調達ランキングでは、銀河通用(Galbot)が10億ドル超、智元機器人が7.25億ドル、Galaxeaが4.35億ドル、Robot Eraが4.25億ドルといった調達規模で、Unitreeの調達累計は2.46億ドルにすぎない。それでいて智元機器人は2025年に5,100台超を出荷している。製品をまだ量産出荷していないFigureが390億ドルで、数千台を出している中国勢がその何分の一か。しかも中国側のラウンドをリードしているのは伝統的なベンチャーキャピタルではなく、テンセント、アリババ、京東、バイトダンス、美団といった事業会社と政府系ファンドである。同氏の結論は、中国はシリコンバレーに追いついているだけでなく、先行しつつあるかもしれない、というものだった。

Unitreeの上場は、その歪みを公開市場が一度は解消し、そして即座に揺り戻した瞬間だった。IPO価格ベースの時価総額609.9億元(約1兆4,500億円)は、2025年の売上17.08億元(約405億円、前年比プラス335%)と純利益6億元規模(約142億円、同プラス674%)に対して、株価売上高倍率で30倍台後半という水準だった。初日にそれが5倍以上に膨らみ、4営業日でほぼ半値に戻った。KraneSharesはこの銘柄を、上場企業としての人型ロボットの評価基準を作る案件だと位置づけている。同社が運用する世界初の人型ロボット特化ETF「KOID」は、この分野を「頭脳(半導体とソフト)」「身体(アクチュエータ、機構、センサ、素材)」「統合企業」の3層に分けて50銘柄を組み入れており、2026年の中国IPOラッシュで構成が入れ替わっていく見通しだ。

強気側の代表がモルガン・スタンレーである。同社は6月24日、中国の2026年の人型ロボット出荷予想を2万8,000台から5万台へ倍増させ、2030年には44万6,000台に達すると見た。2025年から2030年の年平均成長率106%。市場規模は2026年に20億ドル(約3,200億円)、2030年に150億ドル(約2兆4,000億円)。同社は業界がすでに「初期商用化」フェーズに入ったと判断しており、根拠のひとつに国家電網からの68億元(約1,610億円)規模の受注を挙げている。より長期では、2050年に人型ロボットの年間売上が5兆ドル(約800兆円)に達するというシナリオを出している。

一方で、警戒論も同じ場所から出ている。ルンバの生みの親であるロドニー・ブルックス氏は、大きなハイプの後に必ず幻滅の谷が来ると述べ、人間の動画からロボットに器用さを学ばせるという発想そのものを「純粋な空想」と切り捨てている。手の器用さと歩行の安定性という二つの技術的な壁を、資金では飛び越えられないという立場だ。そして中国側でも、国家発展改革委員会が、似たようなロボットを作るスタートアップが乱立して重要な研究に回るべき資金を食い潰しているとして、バブルの形成に警告を発している。中国の人型ロボット企業は150社を超えたとされる。

投資家の視点でこの大会から読み取れる示唆は、おそらく三つだ。第一に、勝ったのは本体・ハンド・モデルを一気通貫で作り、実際に納品している企業だった。プラットフォームを供給するだけの立場は、少なくとも競技場では報われなかった。第二に、シーン競技という形で運営が示した買い手は、消費者ではなく工場・ホテル・倉庫・災害現場である。第三に、種目に無いもの——階段、不整地、故障間隔、1時間あたりコスト——が、まだ投資判断の材料になっていない領域を示している。

もっとも、この構図には第四の層がある。武器商人だ。この大会のサッカー競技では、国内外を問わずすべての参加チームが加速進化(Booster Robotics)のBooster T1を使った。誰が優勝しても、プラットフォームの提供者は勝つ。同社は2026年4月、北京高精尖産業基金、京国盛基金、華控基金が共同リードするラウンドで10億元近く(約240億円)を調達し、2026年第1四半期の出荷は前年同期比プラス500%だったと公表している。

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - シリコンバレーの投資家はこれをどう値付けしているか - 図表1第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - シリコンバレーの投資家はこれをどう値付けしているか - 図表2第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - シリコンバレーの投資家はこれをどう値付けしているか - 図表3

次に測定できるのはいつ、何か

第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 次に測定できるのはいつ、何か - 章扉

短期で見るべき観測点は、いくつか日付が決まっている。

まず大会そのものが変わる。運営は閉幕にあたって、第3回大会ではシーン競技の数が競技スポーツを上回ると明言した。あわせて12の応用領域にまたがる2,500時間超のデータセットを業界初の規模で公開し、学校へのロボット100台の寄贈と3,000平方メートルの訓練施設の年内稼働を打ち出している。走る速さではなく、仕事の出来を測る方向へ大会の重心が移る。第3回の日程はまだ公表されていないが、第1回の閉幕式で第2回の時期が発表された前例からすると、遠からず出てくるはずだ。周辺イベントでは、北京亦庄の人型ロボットハーフマラソンが2027年4月18日、世界ロボット大会が2027年8月18日に予定されている。

資本市場では、香港が主戦場になる。香港取引所の上場申請待ち企業のうち51社がロボット関連で、全申請の12.7%を占める。未黒字・売上前の企業でも上場できる第18C章の存在が大きい。智元機器人は目標評価額400億〜500億香港ドルで年内の上場を狙っており、銀河通用や衆擎(Zhongqing)なども列に並ぶ。Unitreeの株価がどこで落ち着くかは、この列全体の値付けの基準になる。

米国側では、LGとNVIDIAが8月13日にサンタクララのNVIDIA本社で結んだ覚書が試金石になる。LGグループの具光謨会長とジェンスン・ファンCEOが同席したこの提携で、両社は二足歩行ヒューマノイドを2027年第1四半期に公開する。Jetson ThorとIsaac GR00T、そしてロボット向け安全システムHalosを載せ、LGエレクトロニクスがアクチュエータ、LGイノテックがセンサ、LGエナジーソリューションが電池を供給する。中国製の身体を締め出した先に、韓国の製造力とアメリカの演算基盤を組み合わせた対抗軸が立ち上がるのか、CESで実物が見られる。

規制の側では、GUARD法案が成立するかどうか、そしてFCCの機器認証停止を受けて中国メーカーが販路をどこへ振り替えるかが焦点になる。欧州、中東、そして日本が現実的な受け皿になる。GMO AIRがUnitreeの国内正規代理店として動いていること、そして今回の大会に日本から出た唯一の機体がUnitree製の身体だったことは、その文脈で読める。

そして、この記事の主題である「頭脳」については、測定方法がひとつある。2027年の大会で表彰台に上がった機体が、どのチップで動いていたかを見ればいい。地瓜機器人の旭日S600が2026年中に商用化されるか、クアルコムのDragonwing IQ10が設計採用を取るか、天数智芯のCUDA互換路線が実機に乗るか。もし1年後、8秒台で走る機体の中身が国産SoCに入れ替わっていたら、そのときは身体だけでなく頭脳も中国製になったと言える。今はまだ、そうではない。中国工業情報化部は2026年の国内人型ロボット完成機生産が10万台を超える可能性があるとしている。その10万台の中で、演算しているのが誰のシリコンなのか——2027年8月の北京は、その答え合わせの場になる。


第2回 世界人型ロボット運動会を産業視点で俯瞰。上位は独自勢、Unitree(宇樹科技)は予選でグループ最下位で敗退。そして頭脳は中国製か、NVIDIAやIntel製か - 次に測定できるのはいつ、何か - 図表1