3キロの銅線を、光ファイバーに置き換える小さなチップ

Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - 3キロの銅線を、光ファイバーに置き換える小さなチップ - 章扉

高さ2メートルを超える黒いラックの背中に、銅のケーブルがおよそ5,000本、壁のように束ねられている。すべてつなげば、長さは3キロを超える。NVIDIAの主力AIサーバー「GB200 NVL72」が、72個のGPUを1台の巨大な計算機として動かすための配線だ。

なぜ光ではなく銅なのか。光でつなげば、光の送受信部品だけで2万ワットもの電力が余計にかかる、というのがNVIDIAの説明だ。銅線は電気を食わず、壊れにくい。ただし、信号が速くなるほど届く距離が縮み、今では1メートル余りで力尽きる。だからGPUは、一つのラックにぎゅうぎゅうに詰め込むしかない。

この銅線を、髪の毛ほどの細さの光ファイバーに置き換えようとしているのが、シリコンバレーのスタートアップ、Ayar Labs(エイヤー・ラボ)だ。GPUのすぐ隣に小指の爪ほどのチップを貼り付け、電気の信号をその場で光に変えて送り出す。この「光チップレット」を使えば、GPU同士が数十メートル離れていても、同じラックにいるかのように高速でつながる。

この会社に、2026年だけで6億5,000万ドル(約1,000億円)の資金が集まった。3月に5億ドル(約790億円)、9月に1億5,000万ドル(約240億円)。9月には既存の株主が持ち株を売る取引もあり、その値段から計算した会社の価値、つまり評価額は50億ドル(約7,900億円)を超えた。株主には、NVIDIA、AMD、Intelという、AI半導体で激しく競う3社がそろって名を連ねている。

ライバル同士が、同じ会社に賭けている。AIの計算機の次の壁は「計算の速さ」ではなく「つなぎ方」にある。業界がそう認め始めたことを、この顔ぶれが物語っている。

光チップレットの仕組み――16色の光と、外に出した電球

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光チップレットの仕事は、通訳に似ている。GPUが話す電気の言葉をすぐ隣で光の言葉に訳し、光ファイバーで遠くへ送る。受け取った側では、また電気の言葉に戻す。チップと光の部品を一つのパッケージに同居させるこの方式は、「CPO(コパッケージド・オプティクス)」と呼ばれる。

Ayar Labsの光チップレット「TeraPHY(テラファイ)」の工夫は、光の「色」の使い方にある。1本のファイバーに、色、つまり波長の違う16本のレーザー光を同時に通す。色ごとに別々のデータを載せるので、1本の道路に16車線を引いたのと同じことになる。

色を選んでデータを載せるのは、「マイクロリング」と呼ばれる、髪の毛の太さよりも小さな光の輪だ。輪は決まった色の光だけを拾い、その光をすばやく点けたり消したりする。モールス信号のように、光の点滅がそのまま0と1のデータになる。

もう一つの工夫は、光の元になるレーザーを、チップの外に出したことだ。レーザーは熱に弱く、AIの計算機の中では壊れやすい部品の代表である。そこでAyar Labsは、16色の光を作る専用の光源「SuperNova(スーパーノヴァ)」を別の箱に収め、光ファイバーで光だけを届ける。電球を部屋の外に置き、窓から光だけを取り込むようなものだ。光源は抜き差しでき、壊れても丸ごと取り換えられる。

現在の光チップレットは、1個で毎秒8テラビットのデータをやりとりできる。高画質の映画なら、1秒間に数十本を送れる速さだ。電気の側には、チップの部品同士をつなぐ業界共通の規格「UCIe」を採用した。いわば共通のコンセントで、どの会社のGPUやAI専用チップにも差し込みやすい。Ayar Labsは2025年、この規格に対応した光チップレットを「業界初」として発表している。

会社の説明では、電気の配線で信号を基板の端まで運び、差し込み式の光モジュールで光に変える従来の組み合わせに比べて、データの通り道の太さは5〜10倍、遅れは10分の1、電力効率は4〜8倍になるという。

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「銅のほうがはるかに良い」から「両方やる」へ――業界が動いた1年

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AIの計算機の配線には、二つの層がある。一つは、数十から数百のGPUを、メモリーを分け合う1台の巨大なGPUのようにまとめる「スケールアップ」。もう一つは、そうしてできた塊同士をネットワークで結ぶ「スケールアウト」だ。会社にたとえるなら、前者は全員が一つの机を囲む会議室、後者は支社同士を結ぶ電話回線にあたる。

電話回線にあたるスケールアウトでは、すでに光が主役だ。ラックとラックの間は、差し込み式の光モジュールと光ファイバーで結ばれている。一方で、会議室にあたるスケールアップは銅線の牙城だった。会議室を広げたくても、銅線の届く範囲にしか机を並べられない。光チップレットが狙うのは、この会議室の壁を取り払うことである。

NVIDIAの姿勢は、この1年で大きく変わった。ロイター通信によれば、ジェンスン・フアンCEOは2025年3月、GPU同士を光で直接つなぐことについて「割に合わない。銅のほうがはるかに良い」と語り、銅の接続は光よりも桁違いに信頼性が高いと説明していた。

それが2026年3月の開発者会議GTCでは、「銅か光かとよく聞かれるが、我々は両方やる」に変わった。英The Registerによれば、NVIDIAは光で複数のラックを束ね、2028年までに1つのシステムに1,000個を超えるGPUを収める構想を示した。2028年半ばから後半に出荷する次世代のFeynman(ファインマン)世代では、GPU同士をつなぐNVLinkに、銅線と光の両方の選択肢を用意するという。

同じ3月には、AMD、Broadcom、Meta、Microsoft、NVIDIA、OpenAIの6社が、スケールアップ用の光の接続をそろえる業界団体「OCI MSA」を立ち上げた。普段は激しく競う会社が、光の「方言」を統一する作業に入ったことになる。初版の仕様は、光の点滅という単純な方式と、複数の色の光を1本のファイバーに重ねる方式を組み合わせている。Ayar Labsが10年来進めてきた路線と、発想はよく似ている。

市場の見立ても強気だ。米ゴールドマン・サックスは2026年5月のリポートで、AI向けの光ネットワークの市場規模が、2026年の約150億ドル(約2兆4,000億円)から2028年には1,540億ドル(約24兆円)へと約9倍に膨らみ、その約7割をスケールアップが占めると試算した。

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群雄割拠の競合地図――巨人の内製、買収、新たなユニコーン

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光でチップをつなぐ競争には、大きく三つの勢力がいる。

一つ目は、自前で作る巨人だ。NVIDIAは台湾TSMCの実装技術を使い、光の部品を組み込んだネットワークスイッチをすでに量産している。カスタムAIチップの設計で最大手のBroadcomは2025年3月、顧客ごとに作るAI専用チップ向けに、毎秒6.4テラビットの光接続部品を発表した。AMDは2025年に光半導体の設計会社Enosemiを買収し、Intelも2024年に自前の光チップレットを公開している。Ayar Labsの株主であるNVIDIA、AMD、Intelは、そろって潜在的な競争相手でもある。

二つ目は、買収で取り込む動きだ。米Marvell Technologyは2026年2月、光の配線技術を持つスタートアップCelestial AIの買収を完了した。前払いだけで32億5,000万ドル(約5,100億円)、条件を満たせば最大55億ドル(約8,700億円)という大型案件である。Marvellは、この事業の売上が2027年後半に立ち上がり、2028年初めには年換算で5億ドル(約790億円)、2029年初めには10億ドル(約1,580億円)の規模になると見込む。そのMarvellは、3月に米証券取引委員会に提出した年次報告書で、Ayar Labsを直接の競争相手として名指ししている。

三つ目は、独立系のスタートアップだ。最大のライバルは米Lightmatter(ライトマター)である。2024年に米運用大手T・ロウ・プライスの主導で4億ドル(約630億円)を調達し、評価額は44億ドル(約7,000億円)に達した。光の配線を作り込んだ巨大な土台の上にGPUを載せる方式と、Ayar Labsと同じく隣に置く光チップレットの両方を持ち、2026年6月にはAyar Labsと相前後してNVIDIAの「NVLink Fusion」の輪に加わった。

8月には、創業2年の米Lumilens(ルミレンズ)が7億ドル超(約1,100億円超)を調達し、評価額55億1,000万ドル(約8,700億円)で表舞台に出た。出資を主導したのは、米Atreides Management(アトレイデス)やBain Capital Ventures、Spark Capitalなどだ。大手クラウド事業者と数十億ドル規模の供給契約を結び、すでに最初の製品を出荷しているという。光源の分野でも、NVIDIAが出資する米Xscape Photonics(エスケープ・フォトニクス)が、8色の光を出す外付けのレーザーを3月に発表した。

日本も手をこまねいてはいない。NTTは光電融合デバイスの第3世代で16個の光チップレットを載せる計画を掲げ、2028年のサンプル提供をめざす。2026年4月には、先端半導体の研究組合LSTCとベルギーの研究機関imecが、NEDOの事業として光電融合チップレットの実装技術の開発に乗り出した。

Ayar Labsの歩み――MITの論文から10年

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Ayar Labsの原点は、2015年12月に英科学誌ネイチャーに載った1本の論文にある。縦3ミリ、横6ミリのチップに、二つのプロセッサーと850個もの光の部品を作り込み、外の世界と光で直接やりとりさせた。光で通信する世界初のマイクロプロセッサーである。しかも、高性能なチップを大量生産している工場の、普段の製造ラインで作った。光の部品を、半導体の量産の仕組みのまま作れることを示したのが画期的だった。

研究を率いたのは、カリフォルニア大学バークレー校のウラジミール・ストヤノビッチ氏、コロラド大学のミロシュ・ポポビッチ氏、マサチューセッツ工科大学(MIT)のラジーブ・ラム氏らだ。博士課程でこの研究に携わったマーク・ウェイド氏、チェン・スン氏が、教授陣とともに同じ2015年に会社を立ち上げた。現在はウェイド氏がCEO、ストヤノビッチ氏がCTO(最高技術責任者)を務める。

最初に資金を出したのは、ピーター・ティール氏らのFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)系の科学ファンドで、2016年のことだ。2018年には、深い技術への投資で知られる米Playground Global(プレイグラウンド・グローバル)が主導し、Intelの投資部門も加わった。2020年の調達は、英ロンドンのDowning Ventures(ダウニング・ベンチャーズ)などが主導している。

流れを変えたのは、生成AIだ。2022年にはNVIDIAと米ヒューレット・パッカード・エンタープライズが株主に加わり、翌2023年にNVIDIAは追加で出資した。このときNVIDIAのネットワーク事業の幹部は、「数兆個のパラメーターを持つ生成AIのモデルが、この技術への需要を加速させている。だから出資を増やす」と語っている。2024年12月には、AMDとIntelの投資部門、NVIDIAが加わって1億5,500万ドル(約245億円)を調達し、評価額は10億ドル(約1,580億円)を超えた。

取締役会の顔ぶれも厚い。Intelの前CEOで、いまはPlayground Globalのパートナーを務めるパット・ゲルシンガー氏。米マイクロチップ・テクノロジーの元CEOで、米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)の取締役も務めるガネシュ・ムーシー氏。半導体の会社を率いてきた経営者たちが、量産への移行を後押ししている。

2026年の約1,000億円――誰が、なぜ出したのか

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3月の5億ドルを主導したのは、米資産運用大手のニューバーガー・バーマンだ。新たに加わった投資家には、カタール投資庁(QIA)、キャシー・ウッド氏率いる米ARK Invest、米大手ベンチャー投資会社のインサイト・パートナーズ、セコイア系で上場株と未上場株の両方に投資するセコイア・グローバル・エクイティーズ、そしてトランプ大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏がパートナーを務める1789 Capitalが並ぶ。事業会社では、台湾の半導体大手MediaTek(メディアテック)と、台湾の半導体設計受託会社Alchip(アルチップ)が新たに加わり、AMDとNVIDIAも追加で出資した。評価額は37億5,000万ドル(約5,900億円)と、1年3か月で3倍以上に跳ね上がった。

MediaTekは台湾当局への届け出で、子会社を通じて約9,000万ドル(約140億円)を投じ、Ayar Labsの優先株を約2.4%取得したと明らかにしている。

ニューバーガー・バーマンのゲイブ・ケーヒル氏は、「データセンターの接続は、たちまち最も重大なボトルネックになった」とコメントした。同社は取締役会にオブザーバーとして加わる。ウェイドCEOは米The Next Platformに、今回を「株式公開に向けた準備に入る前の、最後の資金調達と考えてもらっていい」と語っている。

9月の1億5,000万ドルの出し手は明かされていない。あわせて、台湾のサーバー大手Wiwynn(ウィウィン)が年初に戦略的な出資をしていたことも公表された。さらにロイター通信によれば、米運用会社アルチザン・パートナーズ傘下のアンテロ・ピーク・グループが主導し、セコイア・グローバル・エクイティーズ、ARK、米グレイクロフトも加わって、初期の社員や投資家から計2億2,500万ドル(約360億円)分の株を買い取った。この取引の値段が、評価額50億ドル超の根拠であり、3月から3割以上の上昇にあたる。

投資家の顔ぶれには、三つの層が見える。一つ目は事業会社だ。GPUの3社に、AI専用チップの設計を請け負う会社、サーバーを組み立てる会社まで、光チップレットの将来の買い手と組み立て役がそろっている。特定の陣営に属さず、誰にでも部品を売る中立の会社をめざすという意思表示でもある。

二つ目は、上場株も運用する大手の投資家だ。上場の前に株主名簿へ入り、上場後も持ち続けることの多い顔ぶれで、株式公開への布石と読める。三つ目は、カタールの政府系ファンドや1789 Capitalのように、AIのインフラを国の戦略と重ねて見る資金である。

初期から支えてきたベンチャー投資家にとっては、9月の株の売買が、持ち分の一部を現金に換える機会にもなった。2020年から出資する英フォーサイト・グループは、2026年3月の投資家向けの説明で、Ayar Labsの株を買いたいという需要が大きいと指摘した。新しい顧客候補との協議が相次いでいるとして、その例にMicrosoftの名を挙げ、今後2年のうちに株式公開や事業提携など、出口の選択肢がいくつも出てくると見込んでいる。

7月には、上場投資信託(ETF)を運用する米KraneShares(クレインシェアーズ)が、AI関連のETFにAyar Labsの株を組み入れた。上場前の会社の株を、個人投資家が間接的に持てる時代になっている。

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投資家の目で読む――50億ドルの値札を支える三つの算盤

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50億ドルという値札を、投資家はどう弾いているのか。手がかりは三つある。

一つ目は、比べる相手の値段だ。Marvellが買ったCelestial AIには、前払いで32億5,000万ドル、条件を満たせば最大55億ドルが支払われる。Lumilensは8月に55億1,000万ドルの評価額をつけた。光の配線を担うスタートアップの相場は、すでに50億ドル前後に切り上がっている。台湾の経済誌「遠見」は8月末、Ayar LabsとLightmatterを「シリコンフォトニクスの二大ユニコーン」と並べ、2社で17億ドル超(約2,700億円超)を集めたと伝えた。

二つ目は、市場の大きさだ。ゴールドマン・サックスは、2028年のAI向け光ネットワーク市場のうち、スケールアップだけで約1,060億ドル(約17兆円)と見積もる。その一角を押さえるだけで、今の評価額は説明がつく計算になる。ただし前提は、光がその時期に本当に主役になることだ。米Crunchbaseによれば、半導体スタートアップへの投資は2026年6月上旬までに約107億ドル(約1兆7,000億円)に達し、前年を上回るペースで進んでいる。資金の流れそのものが、この前提に賭けている。

三つ目は、出口の多さだ。株主には、いずれ買い手になりうるNVIDIA、AMD、Intel、MediaTekが並ぶ。株式公開に加え、大手による買収という道も開けている。フォーサイトが「出口の選択肢がいくつも出てくる」と書いたのは、この構図を指している。

裏返せば、リスクも見えてくる。売上の規模は開示されておらず、主力の量産は2028年以降だ。それまでの間、検査や製造の能力に先回りして投資し続けなければならない。1年で約1,000億円を集めたことは、期待の大きさであると同時に、資金需要の大きさの表れでもある。

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強み――「変えずに済む」設計と、台湾の製造網

Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - 強み――「変えずに済む」設計と、台湾の製造網 - 章扉

一つ目の強みは、顧客に設計を大きく変えさせないことだ。TeraPHYは、GPUやスイッチの大手が使う標準的な形状や、製造と組み立ての手順にそのまま乗るように作られている。電気の側は業界共通の規格UCIeで、光源は外付け。顧客のチップに、光の部品を後から組み込みやすい。2015年の論文で「普通の工場で作れる」ことを示した発想が、そのまま製品の思想になっている。

二つ目は、台湾の製造網との深いつながりだ。これまでの世代は米GlobalFoundriesで製造してきたが、量産に向けた最新の光エンジンは、TSMCの光電融合の実装技術「COUPE(クーペ)」で作る。TSMCと関係の深い設計受託会社のAlchip、GUC(ジー・ユー・シー)とも提携し、AI専用チップの隣に光エンジンを並べた設計を示した。2025年には台湾・新竹に拠点を開き、2026年にはインド・ベンガルールにも設計拠点を加えた。ウェイドCEOは台湾のDIGITIMESのインタビューで、CPOの本当の勝負どころは組み立てや検査の「後工程」にあり、台湾の大手の役割は代わりがきかないと語っている。

三つ目は、部品ではなくラック全体で考えていることだ。2026年3月には、Wiwynnと組んで、1,024個を超えるAI用チップを一つのシステムとして束ねるラックの参照設計を発表した。英The Registerによれば、銅線で密集させるNVIDIAの次世代ラックが1台あたり600キロワットに達するのに対し、この設計は100〜200キロワット程度に収まる。光ならチップを離して置けるので、熱が一つのラックに集中しないからだ。光源は前面に並べて抜き差しでき、監視用のソフトウェアで光の状態を見張る。ストヤノビッチCTOは「大手クラウドが買う単位はラックだ。細部まで詰めておきたい」と話す。

四つ目は、どの陣営とも組める立ち位置だ。2026年6月には、NVIDIAが自社のGPU接続技術NVLinkを他社のチップにも開放する「NVLink Fusion」の枠組みに加わった。NVIDIAの技術とつながる道を持ちながら、AMDやIntelからも出資を受け、台湾の設計受託会社を通じて、大手クラウド各社が自ら設計するAIチップにも入り込める。10年かけて積み上げた260件を超える特許の出願も、後から来る会社には越えにくい壁になる。

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課題――2027年末の締め切りと、歩留まりの掛け算

Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - 課題――2027年末の締め切りと、歩留まりの掛け算 - 章扉

最大の課題は、時間である。ウェイドCEOはロイター通信に、「顧客の製品が2028年から2029年に量産を立ち上げるなら、我々は2027年末までに、すべてを量産向けに認定し終えていなければならない」と語った。本格的な量産市場への投入は、2028年初めが目標だ。

ウェイド氏は2024年5月、光通信の専門サイトGazettabyteに、2025年から2026年にかけて10万個を超える光チップレットを出荷し、その後の2年で数百万個に増やすと語っていた。「2年後にまだ同じ話をしていたら、我々の失敗だ」とも述べている。2年がたち、NVIDIAが光の採用に舵を切ったことで、業界の議論は「光は来るのか」から「いつ、誰の部品で来るのか」に移った。ただ、Ayar Labs自身が数百万個の規模で出荷する日は、まだ先にある。

二つ目は、歩留まりと修理の問題だ。米調査会社SemiAnalysisは2026年6月のリポートで、光エンジン1個を基板に取り付ける工程の歩留まりを95%と楽観的に置いても、32個を載せるNVIDIAのスイッチでは、全部がうまくいく確率は19%程度まで下がると試算した。光エンジンは基板にはんだ付けされ、壊れたら直せない。この指摘をきっかけに光通信の銘柄は軒並み売られ、同社は本格的な普及が2028年から2029年にずれ込む可能性を示した。Ayar Labsの試作でも、AI用チップ1個に8個の光エンジンを載せている。1個の不良で、高価なGPUのパッケージごと無駄になりかねない構図は同じだ。ウェイドCEO自身も「製造の流れのすべての段階で、一番弱いところが全体の実力を決める」と認めている。

三つ目は、銅線のしぶとさだ。NVIDIAは光の採用を進める一方で、銅線で144個のGPUをつなぐ新しいラックも用意している。NVIDIAでネットワークを担当するギラッド・シャイナー上級副社長は、「使えるなら、銅が最良の接続だ。安くて、電力を一切使わず、信頼性も高い」と言い切る。光チップレットの出番が、銅線の届かない距離に限られる可能性もある。

四つ目は、株主でもある巨人たちとの競争だ。NVIDIAもBroadcomも、光の部品を自前で用意できる。3月に生まれた業界団体OCI MSAの創設メンバーにも、Ayar Labsの名前はない。規格がそろえば、光チップレットは誰でも作れる部品に近づき、値下げ競争に巻き込まれるおそれもある。

五つ目は、量産の規模そのものだ。米The Next Platformは、GPU1個に何個もの光エンジンを載せる時代が来れば、必要なレーザーの素子は数億から数十億個に達しうると見積もり、光の業界がかつて経験したことのない規模だと指摘した。

最後に、株式市場の風向きがある。2026年5月にはAI半導体のCerebras(セレブラス)が米ナスダック市場に上場し、55億5,000万ドル(約8,800億円)を調達して話題を呼んだ。ところが米Morningstarによれば、半導体株は6月末の高値から2割近く下げ、7月には半導体スタートアップの株式公開が相次いで先送りされた。量産前の段階でついた50億ドルという値札は、約束どおりの量産を果たして初めて正当化される。

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各紙・各サイトはどう報じたか

Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - 各紙・各サイトはどう報じたか - 章扉

3月の5億ドルの調達は、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が独自ニュースとして報じた。見出しは「AIチップの電力効率を高めるスタートアップが5億ドルを調達」。光の技術そのものより、AIの電力問題を解く会社として描いたのが特徴だ。ロイター通信は3月と9月の両方を伝え、NVIDIAの後ろ盾と評価額、そして2027年末という量産認定の締め切りに焦点を当てた。米ブルームバーグは2024年の調達の時点で、「NVIDIA、AMD、Intelが、チップに光をもたらすスタートアップに出資」という見出しを掲げている。ライバル3社の相乗りという構図は、このころから注目されていた。

技術の専門媒体は、量産の難しさに踏み込んだ。The Next Platformは、ウェイドCEOから株式公開を見据える発言を引き出す一方で、レーザーの素子が桁違いに必要になると分析した。The Registerは、Wiwynnと組んだラックの電力や構成を詳しく伝え、NVIDIAが光による規模の拡大に舵を切ったことも報じている。

台湾の媒体の関心は、サプライチェーンに向く。TechNewsはMediaTekの出資額と持ち株比率を、DIGITIMESはウェイドCEOへのインタビューで、後工程を担う台湾企業の役割を大きく取り上げた。日本語では、スタートアップ専門メディアのTHE BRIDGEが9月の追加調達を伝えている。

アナリストの見方は割れている。ゴールドマン・サックスは、光ネットワークの市場が2028年に約9倍になると強気だ。SemiAnalysisは歩留まりの掛け算を示して、普及の時期に冷や水を浴びせた。光通信の調査会社LightCountingは、スケールアップでの採用が想定を上回れば、2028年から2031年の市場が一段と伸びる余地があるとしている。同じ評価額の水準にあるLumilensのアンクル・シングラCEOが、米SiliconANGLEに「大規模な普及までは、まだ2〜3年ある」と語ったことも、時間軸の厳しさを物語る。

これから何が起きるか――2026年秋から2028年までの里程標

Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - これから何が起きるか――2026年秋から2028年までの里程標 - 章扉

最初の節目は、すぐにやってくる。10月中旬に米サンノゼで開かれるデータセンター設備の業界会議「OCPグローバルサミット」では、OCI MSAの進み具合や、光によるスケールアップの実演が焦点になる。Ayar Labsが規格づくりの輪にどう関わっていくかも見どころだ。

次は2027年3月だ。光通信の世界最大の展示会OFCが3月7日から米ロサンゼルスで開かれ、例年同じ時期にはNVIDIAの開発者会議GTCもある。Ayar Labsはここ数年、OFCを節目の発表の場にしてきた。顧客の名前や、次の世代の光エンジンが出てくるかどうかが、一つ目の試金石になる。

最大の山場は2027年後半だ。ウェイドCEOが掲げる「2027年末までの量産認定」が、計画どおり進むか。大手クラウドやAI半導体の会社が、Ayar Labsの光チップレットを自社の製品に採用したと公表すれば、50億ドルの値札の裏付けは一気に厚くなる。逆に遅れれば、次の資金調達や株式公開の条件は厳しくなる。同じころ、Marvellが買ったCelestial AIの売上も立ち上がる。ライバルの数字は、光のスケールアップ市場がどれほどの速さで育つのかを測る物差しになる。

そして2028年。NVIDIAのFeynman世代が、銅線と光の両方の選択肢を携えて出荷される。Ayar Labsの顧客も、2028年から2029年にかけて量産を立ち上げる計画だ。日本では、NTTが光チップレットを載せた第3世代のサンプル提供を控える。株式公開の時期は明かされていないが、フォーサイトの見立てどおりなら、このころまでに出口の形が見えてくるはずだ。

シリコンバレーの投資家が賭けているのは、光チップレットの世界に、TSMCのような中立の供給者が生まれるかどうかである。巨人たちは光を自前で抱え込むのか、それともAyar Labsのような専業から買うのか。その答えは、2027年の年末までにかなり見えてくる。


Ayar Labs(エイヤー・ラボ)、2026 年の調達額が約 1,000 億円に。評価額は 50億ドル超で、NVIDIA・AMD・Intel がそろって出資する光チップレットの本命 - これから何が起きるか――2026年秋から2028年までの里程標 - 図表1