手のひらの「光の箱」に、AIの速さと電力が詰まっている

手のひらに収まる細長い金属の箱に、髪の毛ほどの細さのガラス繊維が差し込まれている。箱の中では電気の信号が光に変わり、最新の箱なら1秒間に、2時間の映画にしておよそ40本分のデータが送り出されていく。AIデータセンターでは、この箱が何万個も並び、GPUとGPUを休みなくつないでいる。こうした高速の光の箱は、今年1月から3月までの3か月だけで、世界でおよそ2,000万個が出荷された。
この光の箱と、その先に延びる「光の配線」の最新版が一堂に並ぶ、ヨーロッパ最大の国際会議・展示会ECOC(イーコック)が、9月20日から24日まで、スペイン南部の港町マラガで開かれた。展示会場に並んだ企業は400社を超え、来場者は9,000人を超えた。出展社数は、ITバブル期の2001年にアムステルダムで記録した397社を、25年ぶりに塗り替えた。
今年の主役は、AIだった。4本の基調講演のうち3本が、AIの計算機をつなぐ光の技術を論じた。展示会場では、光の部品をチップのすぐ隣まで引き込む「CPO」や、光を電気に戻さずに行き先を切り替える「光回線スイッチ」が、各社のブースの真ん中に置かれた。
お金も動いた。開幕の半月あまり前、今回の大会を率いた研究者たちが共同で創業した地元スペインの光スイッチ企業に、シリコンバレーの投資会社などが1億2,500万ドル(約200億円)を投じ、NVIDIAも出資に加わった。AIの次の壁は、計算の速さではなく、チップとチップの「つなぎ方」にある。その認識が、研究者から投資家まで広がっている。
ECOC(イーコック)とは――春のOFC、秋のECOC

ECOCは、European Conference on Optical Communication、日本語にすれば「欧州光通信会議」の略だ。1975年にロンドンで第1回が開かれ、毎年秋、ヨーロッパの別の都市に場所を移しながら続いてきた。今年で52回目になる。スペインでの開催は、バルセロナ、マドリード、バレンシアに続いて4回目で、大会長はマラガ大学のイニゴ・モリーナ=フェルナンデス教授と、バレンシア工科大学のホセ・カプマニー教授が務めた。
ECOCには二つの顔がある。一つは学会だ。大学や企業の研究者が論文を持ち寄り、光ファイバー1本でどれだけのデータを送れるかといった記録が、ここで更新されていく。今年も、外側の太さは普通の光ファイバーと同じで、中に光の通り道を7本持つファイバーを使い、毎秒およそ10ペタビットを送った研究が発表された。2時間の映画に直せば、1秒で25万本分にあたる。最終日には、締め切りのわずか数週間前に出たばかりの成果だけを集めた「ポストデッドライン」という特別な枠があり、学会で最も注目を集める時間になっている。
もう一つの顔が展示会だ。1995年のブリュッセルで、110小間から始まった。主催はロンドンの展示会運営会社ネクサスで、光ファイバー、レーザー、光の部品、測定器、通信機器のメーカーが新製品を持ち込む。買い手である通信会社や、グーグルやマイクロソフトのような巨大IT企業、いわゆるハイパースケーラーの技術者も集まる。会場内の講演ステージ「マーケット・フォーカス」は今年で20年目を迎え、3日間で50本を超える講演が組まれた。
世界最大の光通信の会議は、毎年3月に米国で開かれるOFCで、ECOCはそれに次ぐ世界2番目の規模だ。業界は「春のOFC、秋のECOC」という半年ごとのリズムで新製品を出し、技術の行方を確かめ合う。
出展社数の移り変わりは、業界の景気をそのまま映してきた。2001年に397社まで膨らんだあと、通信バブルの崩壊で、出展も来場も急減した。そこから持ち直し、2024年のフランクフルトで来場7,800人の記録を作り、2025年のコペンハーゲンでは出展350社、来場8,300人に達した。そして今年、出展社数がついに2001年を超えた。前回の山をつくったのは、通信会社による光ファイバー網への投資だった。今回の山をつくっているのは、AIデータセンターへの投資だ。

光通信と光電融合――銅線は2メートルで力尽きる

AIの計算は、1個のGPUでは終わらない。何千、何万というGPUが、計算の途中経過をひっきりなしにやり取りしながら、一つの巨大な計算機として動く。データの通り道が細かったり遅かったりすると、1個数百万円もするGPUが、データを待って止まってしまう。
チップ同士をつなぐ配線は、長く銅線が担ってきた。銅線は安く、電気を食わず、壊れにくい。ただし、信号が速くなるほど、届く距離が短くなる。米調査会社フューチュラムは、1本あたりの速さが毎秒224ギガビットから448ギガビットへ上がるにつれ、銅線でつなげる距離はおよそ2メートルにまで縮むと分析している。今のAIサーバーが、GPUを一つのラックにぎゅうぎゅうに詰め込んでいるのは、このためだ。
光ファイバーなら、ガラスの中を光が進むので、数十メートル先でも、数キロ先でも、信号はほとんど弱らない。そのかわり、電気を光に変え、光を電気に戻す部品が要る。それが冒頭の光の箱、光トランシーバーだ。
ここで、光の箱をどこに置くかが問題になる。今の主流は、機器の前面の差し込み口に、USBメモリーのように差す「プラガブル」型だ。壊れても抜いて交換できる。ただし、チップから差し込み口までの数十センチは、電気の信号のまま走らなければならない。この区間で弱った信号を整えるために、多くの電力を使う。
そこで、光に変える部品をチップのすぐ隣、同じ土台の上に載せてしまおうという発想が生まれた。これがCPO(コ・パッケージド・オプティクス)だ。電気のまま走る距離が数ミリに縮み、電力を大きく減らせる。チップの真横ではなく、少し離して置くのがNPO(ニア・パッケージド・オプティクス)だ。電気の回路と光の回路を一体にしていくこの流れを、日本では「光電融合」と呼び、NTTのIOWN(アイオン)構想とともに語られることが多い。
光の出番は、三つの距離で増えている。一つのラックの中で、GPU同士を一つの巨大なチップのように結ぶ「スケールアップ」。建物の中でラック同士を結ぶ「スケールアウト」。そして、離れたデータセンター同士を結ぶ「スケールアクロス」だ。会社にたとえれば、同じ部屋のチーム、同じビルの部署、別の都市の支社をつなぐ配線にあたる。
基調講演の顔ぶれも、この流れを映した。米通信機器大手シエナで技術戦略を担うピーター・ウィンザー氏は、チップ同士の配線から、ラック、建物、都市をまたぐ光までを、一つの物語として論じた。ウィンザー氏は、米ベル研究所で数々の伝送記録を打ち立てたあとにスタートアップのヌビスを創業し、そのヌビスがシエナに買収されて今の職に就いた。ベルギーの半導体研究機関imec(アイメック)のパトリック・ヴァンデナメーレCEOは、光の回路を半導体チップの上に作り込む「集積フォトニクス」を、AIを大きくしていくための要と位置づけた。中国の華為技術(ファーウェイ)で光の先端研究所を率いるマン・ジャンウェイ氏は、規格をそろえたNPOとCPOこそが「避けられない道」だと訴えた。残る1本は、光で量子コンピューターを作る米PsiQuantum(サイクォンタム)の共同創業者、マーク・トンプソン氏の講演だった。

注目の展示① 差し込む光の箱は「3.2テラ」へ

差し込み型の光の箱では、1本あたりの速さが倍になろうとしている。箱の中は、高速道路の車線のように、何本もの通り道に分かれている。今の最先端は、毎秒200ギガビットの車線を8本束ねた、1.6テラビットの箱だ。米調査会社シグナルAIは、この1.6テラの箱の出荷が、今年1,000万個を超えると見ている。次の勝負は、1車線を400ギガビットに引き上げ、箱1つで3.2テラビットを送ることだ。
米マーベル・テクノロジーは、回路の線幅が2ナノメートル世代の半導体で、1車線400ギガビットの光信号を処理する実演を「業界初」として披露した。ブースでの実演は38件にのぼった。ライバルの米ブロードコムは、3ナノ世代で同じ役割を担う信号処理チップ「Taurus(トーラス)」を3月に発表して試供を始めており、年内の量産が見込まれている。フィンランドのノキアは、1車線448ギガビットの伝送を先行して公開し、信号処理チップを省いて電力を抑えた1.6テラの箱も並べた。米コヒレントは、3.2テラの箱を、今と同じ大きさの筐体に収めて見せた。
速くなれば、熱も増える。中国の光部品大手アクセリンクは、200ギガの車線を64本束ね、1つで12.8テラビットを送る大型の差し込み型「XPO」を実演した。XPOは、箱を液体で冷やすことを前提にした新しい形で、米アリスタ・ネットワークスが提唱している。
部品が速くなるほど、メーカーの違う部品同士が本当につながるかを確かめることが欠かせなくなる。業界団体OIFのブースでは39社が機器を持ち寄り、448ギガビット級の電気の接続規格や、CPOの実装などを実際につないで見せた。参加企業には、古河電気工業、住友電気工業、富士通のネットワーク事業を引き継いだ1FINITY(ワンフィニティ)といった日本勢も名を連ねた。OIFのマイク・クレンパ氏は「規格の価値は、複数の会社の製品がどれだけうまく一緒に動くかで決まる」と語っている。
注目の展示② 光をチップの隣へ、CPOとNPOの陣取り合戦

会場で最も熱を帯びたのが、光の部品をチップの隣へ引き込むCPOとNPOだった。
米コヒレントは展示会初日の夜、マラガ市内のホテルで発表会を開き、ジム・アンダーソンCEO自らが新事業「PhotonLink(フォトンリンク)」を披露した。レーザー、光ファイバー、受光部品など、光を生み出してから受け取るまでの部品を、組み立てと検査まで含めて一式で供給する仕組みだ。アンダーソン氏は「AIの次の飛躍には、速いチップ以上のもの、つまりチップをつなぐ新しい方法が要る」と語った。CPOとNPOでそれぞれ10社を超える顧客と協議し、両方式で長期契約を結んだ主要顧客もいるという。売り上げは今年10〜12月期から立ち上がる見込みだ。フューチュラムによれば、同社はこの発表に合わせて、2030年に狙える市場の規模を600億ドル(約9.5兆円)から900億ドル(約14兆円)に引き上げ、100テラビット級のスイッチ1台あたり最大1万5,000ドル(約240万円)分の部品を売り込めると説明した。
米シエナは、差し込んで交換できるCPO用の光エンジン「Vesta 200」で、展示会の最優秀光モジュール賞を受けた。32本の通り道で毎秒6.4テラビットを送り、電力を最大7割減らせるという。シエナが2025年に約2億7,000万ドル(約430億円)で買収したヌビスの技術から生まれた最初の製品で、ヌビスは、基調講演に立ったウィンザー氏が創業した会社だ。マーベルは、スイッチのチップの周りに光の部品を並べた、毎秒102.4テラビットのCPOの基盤を実演した。米ルメンタムは、CPOの外に置く光源として、8つの波長の光を1つの箱から送り出す部品を出した。熱に弱いレーザーを外に出しておけば、壊れたときにそこだけを交換できる。
ファーウェイは、別の道を推す。ECOC開幕の3日前、上海の自社イベントで、光源を内蔵したNPOの光エンジン「Hi-ONE」を発表した。36本の光の通り道をまとめて毎秒7.2テラビットを送り、信号処理チップを省くことで電力をおよそ3分の2減らす。自社のAI計算機「Ascend 960 SuperPoD」では、これで800ギガの光の箱4万8,000個が要らなくなったという。基調講演に立ったマン氏は、NPOはCPOより量産に移しやすく、保守もしやすいと主張している。業界団体OIFでは、ファーウェイなどが提案したNPOの規格づくりが始まり、40社を超える企業が支持している。
中国勢の存在感は、表彰でも目立った。中国電信(チャイナテレコム)は、工場向けの光回線などで2部門の賞を取った。
注目の展示③ 量産の壁を崩す「つなぐ」と「測る」、日本勢の出番

CPOには、量産の壁がある。光の部品をチップの隣に固定してしまうと、どこか一つでも不良があれば、高価な半導体ごと使えなくなるからだ。フューチュラムによると、AIの業界会議では、部品と取り付けの良品率に99.9%が必要だという声が上がった。取り付けに失敗すれば、数万ドル(数百万円)分のメモリーと演算チップを載せた土台を、丸ごと捨てることになる。
この「つなぐ」と「測る」の分野で、日本企業が存在感を示した。古河電気工業は、米国のグループ会社ライテラと開発した光コネクター「Snap-Beam(スナップビーム)」で、展示会のファイバーインフラ革新賞を受けた。光の回路を載せたチップと普通の光ファイバーを、磁石の力で位置を合わせてつなぎ、取り外しもできる。はんだ付けの熱にも耐える。会場では、40本ずつの接続を8組束ね、320本の光の通り道を一度につなぐ形も見せた。
アドバンテストは、展示会の公式スポンサー8社の一つに名を連ねた。光コネクターのSENKO、計測器の米VIAVIソリューションズと組み、CPOの光の接続を自動で次々に検査する実演を行った。電子部品なら機械で大量に検査する仕組みが整っているが、光の部品ではまだ確立していない。半導体の検査装置で世界最大手のアドバンテストは、そこに次の商機を見ている。
学会の発表でも、日本勢は数多く登場した。三菱電機は、1車線で毎秒300ギガビットを超える信号を出せるレーザーを、住友電気工業は、シリコンの光回路の上で高速に動く光の変調器を発表した。フジクラは、1本の中に光の通り道を4本持つ細いファイバーを288本束ね、データセンターの中や近くを結ぶケーブルを示した。KDDI総合研究所はAIデータセンター向けの大容量伝送で招待講演に立ち、NTTや情報通信研究機構(NICT)も多くの講演と論文を出した。
注目の展示④ ラックの壁を越える光と、光のまま切り替えるスイッチ

ラックの中のスケールアップを光に置き換える提案も相次いだ。ここでの論点は、「細くて速い道」か、「遅くても広い道」かだ。1本あたりの速さを上げ続けるのか、それとも1本1本は遅くても、何百本もの通り道を横に並べるのか。学会のワークショップでは、シエナのウィンザー氏や、マイクロソフト、ファーウェイなどの技術者が、まさにこのテーマで議論を戦わせた。
ルメンタム、米クアルコム、米コーニングの3社は、チップ同士をつなぐ配線を光に置き換える共同実演を行った。ビクセル(VCSEL)と呼ばれる小さなレーザーを数多く並べ、1本あたり毎秒32ギガビットの光を束ねる。チップの縁1ミリあたり毎秒1テラビットを出し入れでき、将来は4テラビットを目指す。数十メートル離れたチップ同士を、同じ基板の上にあるかのようにつなぐ構想だ。ルメンタムは、AIのスケールアップ向けにビクセルを使った光エンジンで、部品部門の革新賞も受けた。
「広く遅く」をさらに突き詰めたのが、米Avicena(アビセナ)だ。レーザーの代わりにマイクロLEDという小さな発光素子を最大335個並べ、合わせて毎秒1テラビットを送る評価キットを出品し、展示会の賞を受けた。マイクロソフトの研究者も、マイクロLEDを使った「広く遅い」方式で、AIのネットワークとメモリーの壁を破る構想を講演した。
もう一つの注目が、光回線スイッチ(OCS)だ。普通のネットワークのスイッチは、届いた光をいったん電気に戻し、宛先を読み取ってから、また光に変えて送り出す。光回線スイッチは、鉄道のポイントを切り替えるように、光の通り道そのものを切り替える。電気に戻さないので、電力も遅れも小さい。グーグルは自社のAI計算機で、この仕組みをすでに大規模に使っている。シグナルAIは、グーグルの自社利用を除いても、光回線スイッチの市場が今年10億ドル(約1,600億円)を超えると見る。
地元スペインのiPronics(アイプロニクス)の「ONE-32」は、シリコンの光回路で32本の通り道を切り替えるスイッチで、展示会の賞の候補にも名を連ねた。切り替えにかかる時間は0.3ミリ秒以下だ。シリコンバレーの競合nEye(エヌアイ)も、光回線スイッチを1枚のチップに収める技術で、今年4月に8,000万ドル(約130億円)を調達している。

注目の展示⑤ 中が空洞の光ファイバー

光ファイバーそのものも変わろうとしている。今年の学会で、チュートリアルからワークショップまで多くの枠が割かれたのが「中空コアファイバー」だ。普通の光ファイバーは、ガラスの芯の中を光が進む。中空コアファイバーは、芯が空洞になっていて、光は空気の中を進む。光はガラスの中より空気の中のほうが速く進むので、同じ距離を、より短い時間で届けられる。
先頭を走るのはマイクロソフトだ。普通の光ファイバーに比べてデータを最大47%速く送れ、遅れはおよそ3分の1短くなるとして、2023年から自社のクラウド網に敷いてきた。2025年9月には、米コーニングと独ヘレウスに製造を委託し、生産を大きく増やすと発表している。中国の光ファイバー大手、長飛光繊光纜(YOFC)も、損失が1キロあたり0.1デシベルを下回る長尺の中空コアファイバーを量産できる体制を整えたと、今年3月に発表した。
学会では、中空コアファイバーで数百キロを中継器なしで結べるか、それが陸上や海底の通信網の経済性を塗り替えるかを問うワークショップが開かれ、ノキア、NICT、マイクロソフトの研究者が登壇した。AIのデータセンターを数十キロ、数百キロ離れた場所に分散させる時代には、光の速さそのものが競争力になる。
開催地スペインの物語――大会を率いた研究者の会社に、シリコンバレーの資金

今年のECOCには、開催地ならではの物語があった。先ほどのiPronicsは、2019年にバレンシア工科大学から生まれた会社だ。スペインの地元紙アリカンテ・プラサによれば、共同創業者は、今回の大会長を務めたカプマニー教授、プログラム委員長を務めたイバナ・ガスーリャ氏、そして技術責任者のダニエル・ペレス氏の3人だ。
その会社が、ECOC開幕の半月あまり前の9月2日、1億2,500万ドル(約200億円)を調達した。主導したのは、シリコンバレーのパロアルトに本拠を置くライトストリート・キャピタルと、米ヘッジファンド大手マーベリック・キャピタルの半導体投資部門、マーベリック・シリコンだ。NVIDIAも出資に加わり、累計の調達額は1億7,700万ドル(約280億円)になった。同社はNVIDIAの本社に近いサンタクララに初めての米国拠点を開き、3月の時点で、ハイパースケーラーやAI計算機メーカーの最初の10社と取り組んでいると明かしていた。
マーベリック・シリコンのマニッシュ・ムタール氏は、AIの処理量が爆発的に伸び、従来のネットワークが電力と帯域の限界まで追い込まれていると指摘した。ライトストリートのシェフ・オズボーン氏は、iPronicsの方式を、可動部品を使わない光スイッチとして「最も拡張性が高く、費用対効果に優れる」と評価している。
学会の特別企画「欧州フォトニック集積フォーラム」も、今年のテーマを「公的資金からベンチャーキャピタルへ」と掲げた。登壇したのは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校から生まれ、光変調器の速さで世界記録を出したあとに米マーベルに買収されたポラリトンのクラウディア・ヘスバッハー氏と、オランダの光専門ベンチャーキャピタル、フォトンベンチャーズの創業者の一人、エウィット・ロース氏だ。欧州の大学で生まれた光の技術を、誰のお金で育て、最後に誰が買うのか。iPronicsにシリコンバレーの資金が入り、ポラリトンが米国企業に買われた流れは、その問いへの一つの答えを示している。
基調講演に立ったサイクォンタムのトンプソン氏も、英国のブリストル大学の教授を兼ねる。同社は2025年9月、米ブラックロックなどから10億ドル(約1,600億円)を調達し、評価額は70億ドル(約1.1兆円)に達した。NVIDIAの投資部門も出資者に加わっている。光の量子コンピューターもまた、欧州の研究と米国の資金が出会う場所にある。
シリコンバレーのVCと投資家はどう見ているか

シリコンバレーの投資家の見立ては明快だ。AIの計算機を大きくするほど、データを運ぶ配線が電力と速度の上限を決める。だから、配線を光に変える会社に賭ける。
今年4月、光回線スイッチのnEyeへの8,000万ドル(約130億円)の出資を主導したサッターヒル・ベンチャーズのステファン・ダイカーホフ氏は、光回線スイッチの市場が3年以内に30億ドル(約4,700億円)を超えうると述べた。同じ回に加わった、グーグルの親会社アルファベットの成長投資部門キャピタルGのジェームズ・ルオ氏は、光スイッチを「AIの学習と推論の力を最大限に引き出すための前提条件」と表現した。同じ月、光チップの設計基盤を提供するOpenLight(オープンライト)の5,000万ドル(約80億円)の調達を主導したマター・ベンチャー・パートナーズのウェン・シェイ氏も、「光の技術は、データセンターとAIインフラのこれからの拡大に欠かせない」と語っている。6月には台湾のメディアテックが、薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)という材料で光の部品を作る米HyperLight(ハイパーライト)の8,000万ドル(約130億円)の調達を主導し、メディアテックの投資部門の責任者は「次世代のAIインフラには、3.2テラとその先を可能にする光の接続が要る」とコメントした。
最も大きな資金を集めたのは、チップに光の出入り口を貼り付ける「光チップレット」の米Ayar Labs(エイヤー・ラボ)だ。今年だけで6億5,000万ドル(約1,000億円)を調達した。ロイター通信によれば、9月には既存株主の持ち株の売買もあり、その値段から計算した評価額は50億ドル(約7,900億円)を超えた。
事業会社の動きは、さらに大きい。NVIDIAは3月、ECOCの常連であるコヒレントとルメンタムに、20億ドル(約3,200億円)ずつ出資すると発表した。
ベンチャー投資家にとって肝心なのは、投資の出口だ。光の分野では、株式上場よりも、巨大企業による買収が出口になっている。マーベルは2月、光でメモリーとプロセッサーをつなぐ技術を持つ米セレスティアルAIの買収を完了した。前払いだけで32億5,000万ドル(約5,100億円)、条件を満たせば最大55億ドル(約8,700億円)にのぼる。シエナによるヌビス、マーベルによるポラリトンの買収に加え、AMDや米モレックスも光の新興企業を買った。基調講演に立ったウィンザー氏も、最優秀光モジュール賞のVesta 200も、こうした買収から生まれている。
株式市場も、光の会社を今年の主役の一つに押し上げた。10月8日の終値で、ルメンタムの株価は昨年末の約2.8倍、マーベルは約3.2倍、シエナは約1.8倍になった。ただし、熱狂一色ではない。コヒレントの株価は、PhotonLinkを発表した9月21日の終値から、3営業日で約1割下げた。


各紙・各サイト、アナリストはどう報じたか

米調査会社フューチュラムのブレンダン・バーク氏は、コヒレントの発表を「部品のカタログを、まとめ売りの事業に変えた」と評価した。その一方で、10社を超える顧客との協議は「受注の積み上げではなく、見込み客の入り口にすぎない」と釘を刺している。マーベルの2ナノの実演についても、「電力効率の実測値と、量産時期の確約がまだない」と指摘した。ドイツの投資情報サイトは、マーベルの新しい光部品が本格的に稼働するのは2028年からだとして、投資家に忍耐を求めた。
英専門誌エレクトロ・オプティクスは開幕前の特集で、AIインフラの拡大を縛っているのは計算能力ではなく光の技術だと書いた。光学の専門ニュースサイトoptics.orgは、アビセナのマイクロLED、ルメンタムの外部光源、コヒレントのPhotonLinkなど、会期中の新製品を詳しく伝えた。米専門誌ライトウェーブは、ルメンタム、マーベル、ノキアの担当者を招いた座談会を会場で開き、数十万個の演算チップを結ぶ「AI工場」のネットワークを議題に据えた。
英調査会社オムディアのミンヤン・リュー氏は、マーケット・フォーカスの講演予定を読み解き、業界の話題が、CPOの共通規格づくりから、サプライチェーンとネットワークの組み方へ移っていると分析した。グーグルについては、800ギガと1.6テラの導入が加速するなか、部品の納期と材料の確保で「かつてない圧力」に直面していると記している。
市場の数字も強い。シグナルAIによれば、データセンター向け光部品の売上高は今年1〜3月に77億ドル(約1.2兆円)と、前年同期の2倍を超えて過去最高になった。米デローロ・グループは、AI専用のネットワーク向けスイッチの売上高が、4〜6月に初めて一般のネットワーク向けを上回ったと発表し、少なくとも今後1〜2年は、需要に供給が追いつかない状態が続くと見る。米ライトカウンティングは、AIクラスター向けの光トランシーバーとCPOの市場が、2025年の165億ドル(約2.6兆円)から今年は260億ドル(約4.1兆円)に伸びると予測し、2030年に年1,000億ドル(約16兆円)へ届く可能性も十分にあるとしている。そのうえで、2027年以降は伸びが落ち着く公算が大きいとも見ている。

今後――いつ、何が見えてくるか

最初の節目は、年末までにやってくる。1.6テラの箱とスイッチの出荷が今年後半に本格化し、ブロードコムの400ギガ世代の信号処理チップは年内の量産が見込まれている。コヒレントは、PhotonLinkの売り上げが10〜12月期から立ち上がると説明している。その言葉が数字になったかは、年明けに発表される10〜12月期の決算で確かめられる。マーベルが今年後半としてきた2ナノ世代の部品の試供が始まるかどうかも、フューチュラムが挙げる確認点の一つだ。
2027年は、量産に向けた準備の年になる。3月7日から11日には、米ロサンゼルスで世界最大の光通信の会議OFCが開かれる。コヒレントは、ラックの中のスケールアップ向けのCPOとNPOの売り上げを、2027年後半からと見込む。エイヤー・ラボのマーク・ウェイドCEOはロイター通信に、顧客の製品が2028年から2029年に量産に入るなら、自社の部品は2027年末までに量産の認定を終えていなければならないと語った。そして10月10日から14日には、次のECOCがイタリアのミラノで開かれる。展示会は11日から13日だ。
CPOの本番は、2028年からになりそうだ。マーベルは2028年にCPOの量産が本格化すると説明し、セレスティアルAIから引き継いだ事業では、2028年の初めに年5億ドル(約790億円)の売り上げペースに乗せる目標を掲げる。日本の三菱電機は、CPOは現時点では未成熟な技術だとしたうえで、市場の立ち上がりを2028年度から2029年度ごろ、本格的な拡大を2030年代と予測している。シグナルAIは、2030年にはCPOの出荷が年に数千万ポートに達すると見る。
2001年の397社という山は、通信会社の過剰な投資がはじけると、あっという間に崩れた。25年ぶりに新しい山をつくったのは、AIへの投資だ。今回が違うのかどうかを決めるのは、展示会のにぎわいではない。量産の良品率、1ビットを運ぶための電力、そして実際の受注という、三つの数字だ。来年10月のミラノで、その答えの一部が見えてくる。
