まず「何ができたのか」――高輪ゲートウェイシティの輪郭

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - まず「何ができたのか」――高輪ゲートウェイシティの輪郭 - 章扉

話を投資判断から始める前に、この街が物理的に何であるかを押さえておきたい。

舞台は、山手線の田町駅と品川駅のあいだにあった車両基地の跡地である。1872年(明治5年)に日本初の鉄道が新橋―横浜間で開業したとき、海の上に線路を通すために築かれた「高輪築堤」が眠っていた場所でもある。JR東日本はここに約7.4万平方メートルの敷地を確保し、延床面積で約84万5,000平方メートル、開発区域としては約9.5ヘクタールに及ぶ複合都市を建設した。総事業費は当初「約6,000億円」と発表されていたが、2026年4月30日の決算説明資料で竣工に伴い「約6,100億円」に更新されている。同社史上最大の不動産投資である。

街びらきは二段階で進んだ。第一幕は2025年3月27日。駅直結のツインタワー「THE LINKPILLAR 1」(NORTH/SOUTH、延床約46万平方メートル、高さ約160メートル)が開業し、同時に2020年3月14日に暫定開業していた高輪ゲートウェイ駅が全面開業した。駅直結のMICE施設「TAKANAWA GATEWAY Convention Center」もこの日に開いている。第二幕が2026年3月28日のグランドオープンで、オフィス・商業・クリニックからなる「THE LINKPILLAR 2」(地上31階・地下5階、高さ166.86メートル、延床約20万8,000平方メートル)、隈研吾がデザインした文化創造施設「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」(延床約2万9,000平方メートル)、そして地上44階・847戸の賃貸タワー「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」(延床約14万8,000平方メートル)が出そろった。レジデンスは2026年4月10日から入居が始まっている。

商業の顔はルミネ史上最大規模となる「NEWoMan TAKANAWA」で、South・NorthとLUFTBAUMの約180店舗が2025年9月12日に本格開業し、LINKPILLAR 2内の「MIMURE」エリアが2026年3月28日に加わって、合計およそ200店舗、約6万平方メートルの規模になった。ホテルはJW Marriott Hotel Tokyo。ビジネス創造施設「LiSH(TAKANAWA GATEWAY Link Scholars' Hub)」には、コワーキングと個室オフィスに加えて、リバネスが関与する環境生命科学系シェアラボ「LiSH Lab」が2025年5月13日に本格開業している。

作った側の顔ぶれも押さえておく価値がある。設計は「品川開発プロジェクト設計共同企業体」(JR東日本建築設計、JR東日本コンサルタンツ、日本設計、日建設計)が担い、施工は棟ごとに分かれた。高輪ゲートウェイ駅そのものは大林組と鉄建建設の共同企業体、THE LINKPILLAR 1は大林組の単独施工(同社は「大林組で最大規模の単独施工」と説明している)、THE LINKPILLAR 2も大林組、MoN Takanawaは鹿島建設、レジデンスはフジタが担当した。つまり高輪ゲートウェイシティは、大林組(1802)と鉄建建設(1815)にとって単なる関連銘柄ではなく、実際に鉄骨を組んだ現場である。

そして街の北側では、国史跡に指定された高輪築堤跡が2027年度の現地公開に向けて準備されている。JR東日本は2023年5月26日に文化庁長官の保存活用計画認定を受け、発掘された築石を使ったランドスケープや、ARとVRによる明治期の鉄道景観の再現を検討している。150年前の鉄道遺構と、後述する都市OSが同じ敷地に同居する――この落差こそが、この開発の性格をよく表している。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - まず「何ができたのか」――高輪ゲートウェイシティの輪郭 - 図表1

6,100億円という数字の読み方――「広域品川圏」という単位

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 6,100億円という数字の読み方――「広域品川圏」という単位 - 章扉

投資家がこの街を評価するとき、6,100億円という事業費だけを見ても意味がない。JR東日本自身が示した収益設計を見る必要がある。

同社の2026年3月期決算説明資料によれば、TAKANAWA GATEWAY CITYの年間営業収益見込みは当初の約570億円から約650億円へ引き上げられ、この水準に達するのは2031年3月期以降とされている。事業費6,100億円に対する売上高利回りは単純計算で約10.7%。ただし売上はキャッシュではない。同社の不動産・ホテル事業のEBITDAマージン(2026年3月期実績で営業収益5,132億円に対しEBITDA2,007億円、約39%)を当てはめると、年間EBITDAは概ね250億円前後となり、事業費に対する利回りは4%程度に落ち着く。土地は元々自社の車両基地であり簿価が極端に低いため会計上の見え方はこれより良くなるが、キャッシュの回収に20年超を要する投資であることは動かない。

だからJR東日本はこの街を単体では語らない。同社は浜松町駅から大井町駅までのおよそ5駅分を「広域品川圏」と定義し、2030年代半ばまでにこのエリアだけで年間営業収益1,000億円超を目指すと明示している。その内訳は、高輪ゲートウェイシティ(約650億円/年)に加え、同じ2026年3月28日にまちびらきした大井町の「OIMACHI TRACKS」(事業費約1,200億円、A-1地区約25万平方メートル、営業収益見込み約150億円/年・2032年3月期以降)、2027年3月に供用開始する浜松町駅西口開発(約30万1,000平方メートル)、2029年3月供用開始の田町駅西口駅前地区、野村不動産との「BLUE FRONT SHIBAURA」N棟(2031年3月期竣工)、東京科学大学田町キャンパス土地活用事業(2030年6月供用開始)、そして品川駅そのものの北口駅改良・駅ビル整備(約1,600億円、2031年3月期開業、約5万1,500平方メートル)と品川駅街区地区の北街区(約16万5,000平方メートル、開業は2030年代半ば)である。

一つのビルの利回りではなく、5駅にまたがる面の価値を、鉄道の流動増と一体で回収する。これがJR東日本の主張であり、後述する都市OSはその主張を成立させるための装置として設計されている。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 6,100億円という数字の読み方――「広域品川圏」という単位 - 図表1品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 6,100億円という数字の読み方――「広域品川圏」という単位 - 図表2

都市OS ✕ 鉄道OS――「エキマチスマートシティ」という発明

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 都市OS ✕ 鉄道OS――「エキマチスマートシティ」という発明 - 章扉

高輪ゲートウェイシティのスマートシティ構想は、雰囲気や標語ではなく、公開された行政文書として存在する。「高輪ゲートウェイ駅周辺地区 スマートシティ実行計画(2024–2026年度)」がそれで、2024年4月10日策定・6月7日改訂、策定主体は2022年8月1日に設立された「高輪ゲートウェイ駅周辺地区 広域連携連絡会」、運営事務局は一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメントである。策定委員会の座長は東京大学の出口敦教授が務め、坂井文、羽藤英二、高岡美佳、吉村有司、水野祐といった都市計画・交通工学・法学の研究者が学識委員として名を連ねた。

この計画がユニークなのは、自らの立ち位置を明確に他の類型と対比している点にある。竹芝や豊洲、One Bangkokのような「デベロッパー型スマートシティ」でもなく、バルセロナや会津若松市のような「自治体型スマートシティ」でもない。駅を中心に、開発街区(同計画は「コエキマチ」と呼ぶ)と半径約1キロメートルの駅勢圏(「オオエキマチ」)を一体で扱う「エキマチスマートシティ」だと自称する。そしてその中核概念として、計画が「本実行計画にて初めて定義し、用いる概念である」と断ったうえで持ち出したのが「鉄道OS」である。

都市OSは、街の設備や人のデータを収集・分析し、分野をまたいでデータを流通させるITシステムの総称で、高輪ゲートウェイシティではKDDIが開発を担う。一方の鉄道OSは、鉄道の運行データや乗降客の移動データといった鉄道関連データと、その利活用に必要なデータ管理機能を提供するシステムを指す。改札データ、鉄道運行データ、Suicaの性別・年代・OD(出発地―目的地)データがここに入る。これらは他のどのデベロッパーも持っていない。森ビルにも三井不動産にも、朝8時に誰がどの駅から来て何時に帰るのかを、匿名化された形とはいえ日次で把握する手段はない。

公開されたアーキテクチャ図を読むと、構造は素直である。データソースとして防犯カメラ映像、商業テナントの売上、モビリティの運行関連データ、スマートフォンのGPS、気象情報、各施設の予約・満空情報が並ぶ。その上に画像解析AIと映像ストリーム処理、API連携によるデータ連携層が乗り、さらにその上のデータ基盤層で街・施設・鉄道・ユーザー・オープンデータが蓄積される。パーソナルデータは「データクリーンルーム」で管理され、同層に「デジタルツイン(2D+3D)」が状況把握・各種予測・シミュレーション・ダッシュボードの機能とともに置かれる。サービス共通機能としてAPIゲートウェイ、データ認可、ID/認証、同意管理が用意され、最上層のサービスとして構内放送、ロボット誘導、アプリ、サイネージ、ロボットフードデリバリー、施設運営業務効率化が実装される。JR東日本のデータプラットフォーム(鉄道運行情報、鉄道混雑情報、駅乗降客数、駅混雑情報)が、この基盤に横から接続される。

データの加工プロセスも明文化されている。鉄道OSと都市OSから得た1次データを集計して「コエキマチ内人流実績データ」(2次データ)をつくり、これにKDDI Location Data、モバイル空間統計、Unerry、気象データといった外部購入データを掛け合わせて、「オオエキマチ人流実績データ」と「人流予測データ」という3次データを生成する。これを担うのが、JR東日本・KDDI・エリアマネジメント法人・えきまちエナジークリエイトが参画する「エキマチData Lab.」である。計画書はこの3段階に「利活用価値:このままでは利用できない/ほとんど価値がない → 中 → 大」と、身も蓋もない注釈を添えている。

そして最も投資家が注目すべきは、KPIの選び方である。この計画が掲げる最終アウトカムは、生活者・来街者の満足度と居住継続意向、地域全体の経済効果、1人あたりのエネルギー起源CO2排出量、そして「交通分担率における自家用車分担率・鉄道分担率」と「駅乗降客数」だ。スマートシティへの投資が、最終的に鉄道の輸送人員という本業の収益に還流するよう設計されている。まちと鉄道のWin-Winという言葉は情緒ではなく、KPIツリーの構造そのものを指している。

KDDI側の実装も進んでいる。同社は2023年5月16日にJR東日本と都市OS構築での共創を発表し、同年12月26日にはNTT東日本を加えた3社で品川駅周辺での実証に踏み出した。2025年7月24日には、JR東日本とローソンをパートナーに「あなたに気付く街 みんなで築く街」と題した実証を開始している。基盤は同社のWAKONX SmartCityで、デジタルツインプラットフォーム(都市OS)が人流、ビル設備、消費者の興味関心、鉄道運行のデータを収集・分析する。改札通過をトリガーにアプリが嗜好に応じたイベントや店舗情報を通知し、防犯カメラ映像の解析結果に基づいてロボットが来街者に合ったサンプルを配る。ワーカー側にはスマホ決済のオフィス専用ローソンや配送ロボット、共創拠点「TSUNAGU BASE」が用意された。最初の被験者は、LINKPILLAR 1にオフィスを構えるKDDI社員およそ1万3,000人である。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 都市OS ✕ 鉄道OS――「エキマチスマートシティ」という発明 - 図表1品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 都市OS ✕ 鉄道OS――「エキマチスマートシティ」という発明 - 図表2

デジタルツインが動かす街――ロボット50台と「人流予報」

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - デジタルツインが動かす街――ロボット50台と「人流予報」 - 章扉

デジタルツインという言葉は使われすぎて摩耗しているが、ここでは具体的な役割が三つある。防災シミュレーション、混雑シミュレーション、そしてロボットの制御である。

防災については、上位計画である「品川駅・田町駅周辺地域 都市再生安全確保計画」(2022年1月策定、都市再生緊急整備協議会が定める)が「デジタルツインによる災害のシミュレーションの実施」を明記しており、屋内外の3D都市モデル上に実際の人流データと設備データを重ねることで避難シミュレーションの精度を高める。国土交通省のPLATEAU(3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクト)の実証も2022・23年度にこのエリアで行われた。

混雑については、実行計画が「人流予報」という言葉を使う。MICE施設や文化創造棟でイベントが終わった瞬間に駅へ人が殺到する現象を、開始前・終了後の行動オファリング(アプリでのオフピーククーポン、店舗の事前予約、キッチンカーの配置最適化)で分散させる。計画書はこれを「ちょっと出たくなるまち」「もっと居たくなるまち」という二つのプロジェクトに整理しており、前者はワーカーと住民に向けたアプリ中心の誘導、後者は来街者に向けた「アプリなどに頼り過ぎず、空間マネジメントによって誘導」する設計だと明記している。テック企業がつくるスマートシティ資料には、まず出てこない一文である。

ロボットは、この街で最も可視化された実装だ。日刊工業新聞の取材によれば、複合ビル3棟に計50台規模のロボットが導入される。清掃・警備ロボットが各ビルに各2台程度、フードデリバリーロボットが各ビルに4〜8台、館内物流ロボット(AGV)が各ビルに2台程度という構成で、食堂から住居棟までおよそ1キロメートルの配送も担う。歩く速さで進む立ち乗り型の自動走行モビリティ「iino」(最大3人乗り)が5台、配達ロボット「DeliRo」、自動運転バス「RoboBus」、犬型の四足歩行ロボットや屋内点検用ドローンも加わる。

技術的な要点は、これらが別々のメーカー製でありながら「ロボットプラットフォーム」という共通の情報基盤に接続され、位置情報を一括管理し、協調制御によってロボット同士の衝突を防ぎ、エレベーターと自動連携し、防犯カメラ映像のAI解析による混雑情報を参照して経路を選ぶことにある。しかもロボットは来街者と同じ「表動線」を走る。2023年のKDDIとの実証で、裏動線を走らせるより人とうまく共生できたという知見が得られたためだという。都市OSがなければ、この協調は成立しない。ロボットは都市OSの最も分かりやすいアプリケーションであり、同時にその存在証明でもある。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - デジタルツインが動かす街――ロボット50台と「人流予報」 - 図表1

次世代モビリティ――改札が消え、クルマが飛ぶ

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 次世代モビリティ――改札が消え、クルマが飛ぶ - 章扉

モビリティ側の目玉は、意外にも空ではなく改札にある。

JR東日本はUWB(超広帯域無線)を使い、スマートフォンを取り出すことなく通過できる「ウォークスルー改札」を開発してきた。日本経済新聞は2025年10月、2026年3月の複合ビル追加開業に合わせてタッチ不要改札を設置すると報じている。同社はさらに2027年春に高輪ゲートウェイ駅を含む品川エリアの5駅で実証実験を開始し、2028年度にも在来線への本格導入を目指す方針を示している。決算説明資料でも「ウォークスルー改札」は運輸事業のサービス向上策として明示的に掲げられた。改札は鉄道OSにとって最重要のデータ取得点であり、それを物理的に取り払いながらデータだけは取り続けるという構想は、Suicaを共通基盤化する「Suica Renaissance」と表裏一体である。同社は2026年秋に新コード決済サービス「teppay」を開始し、Suica Renaissance全体で2032年3月期に営業利益プラス250億円超(2025年3月期比)を狙う。

空については、JR東日本は二つの機体に賭けている。ひとつは米ASKAの陸空両用機「ASKA A5」で、4人乗り(パイロット1名+乗客3名)、6基のプロペラによる垂直離着陸と前進飛行を切り替え、航続距離は約400キロメートル、最高速度は時速約240キロメートル。同社は米FAAの型式証明取得手続きを進めており、2028年の商用化を目標に掲げる。高輪ゲートウェイシティには2025年3月27日から3分の1スケールのモックアップが展示され、街には離発着拠点の整備が構想されている。もうひとつは国産のSkyDriveで、JR東日本は2025年7月に同社と資本業務提携を締結した。SkyDriveはスズキ、JR東日本、JR九州など11社から総額83億円を調達しており、2025年8月29日から31日にかけて高輪ゲートウェイシティで「鉄道×空飛ぶクルマ」の展示イベントが開催された。中距離はASKA、別用途は他機体という使い分けが検討されている。

地上と空の中間にあるのが鉄道インフラそのものだ。東京メトロ南北線の分岐線(白金高輪―品川、約2.5キロメートル、総建設費約1,310億円)は2022年3月28日に鉄道事業許可を受け、2024年6月17日に都市計画決定が告示、同年11月5日に着工した。開業目標は2030年代半ばで、開通すれば品川―六本木一丁目が約19分から約9分に短縮される。JR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)は2032年3月期の開業を目指して建設が進む。そしてリニア中央新幹線については、2026年7月7日、静岡県の鈴木康友知事が県議会全員協議会で静岡工区の着工容認を表明した。日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞、信濃毎日新聞、西日本新聞がそろって報じたところによれば、これで品川―名古屋間で唯一未着工だった区間の政治的障壁が外れ、JR東海は年内着工を目指す。ただし静岡工区は難工事が予想され、品川―名古屋の開業は最短でも2036年以降となる見通しだ。

ゼロカーボン都市――生ごみと水素が支える街

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - ゼロカーボン都市――生ごみと水素が支える街 - 章扉

環境は、実行計画が掲げる4テーマ(ステイアブル+モビリティ、レガシーディベロップメント、安全・安心、環境)のひとつであり、ここでも人流データが主役になる。

街全体のエネルギー供給とマネジメントを統括するのは、JR東日本グループの株式会社えきまちエナジークリエイトである。同社は早稲田大学の技術支援を受けながら「スマートエネルギーマネジメントシステム」を構築する。狙いは、人流データを使って熱需要予測を高度化し、冷温熱製造の最適化と蓄熱ロスの削減を実現することだ。人流と空間の快適性とエネルギー消費量の関係を実証で洗い出し、それをエネルギー供給計画に反映する。人が来るからエネルギーを使うのではなく、人がどこに来るかを予報してエネルギーをつくる、という順序の入れ替えである。実行計画のスケジュールでは、2024年度に既存建物でのプレ実証、2025年度以降に4街区での実証と実装、2026年度以降は運用と評価・改善、2030年頃には人流データを活用したまち全体の需要予測とエネルギー供給計画の策定に至るとされている。

供給側の設備には、東日本初となるビルトイン型のバイオガス施設がある。レストランやホテルから出る生ごみを発酵させてガスをつくり、ホテルの給湯などに利用する。災害時にも自立できる分散型のエネルギーネットワークを組み、街としてのCO2排出量実質ゼロを目指す。ロボットやモビリティの一部は水素由来の電気で動く。

もっとも、この街の脱炭素はJR東日本グループ全体の目標に接続されている。同社の「ゼロカーボン・チャレンジ2050」は2050年度のCO2排出量実質ゼロを掲げ、2030年度に2013年度比半減という通過点を置いてきた。2026年3月期にはこれに中間目標とビジネス単位のCO2削減目標が追加され、グループのCO2排出量を2036年3月期に2014年3月期比60%削減するというKPIが明示された。2026年3月期には再生可能エネルギー発電所4カ所(合計6.4万キロワット)が運転を開始し、水素ハイブリッド電車HYBARIの検証も継続している。街のバイオガス施設は象徴であって、屋台骨は電源とオペレーションの脱炭素である。

JR東日本(9020)――「勇翔2034」と不動産回転ビジネス

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - JR東日本(9020)――「勇翔2034」と不動産回転ビジネス - 章扉

ここから銘柄別に見ていく。

JR東日本の2026年3月期は、営業収益3兆846億円(前期比6.8%増)、営業利益4,142億円(同9.9%増)、経常利益3,516億円、親会社株主に帰属する当期純利益2,478億円、EBITDA8,429億円。営業収益は会社発足以来の最高で、5期連続の増収となった。全セグメントが増収増益で、運輸が営業収益2兆458億円・営業利益1,944億円、流通・サービスが4,161億円・680億円、不動産・ホテルが5,132億円・1,282億円である。不動産・ホテルの伸び(営業収益は前期比15.2%増)には、高輪ゲートウェイシティ開業によるオフィス賃貸収入とSC・ホテルの売上増が効いている。

2027年3月期の会社計画は営業収益3兆2,950億円、営業利益4,290億円。2026年3月14日に実施した会社発足以来初の運賃改定(年820億円の増収効果を見込む)と、高輪ゲートウェイシティの全面開業・OIMACHI TRACKSの開業に伴う不動産賃貸収入増が牽引する。不動産・ホテル事業だけを見ると営業収益6,050億円(前期比17.9%増)と大きく伸びる一方、営業利益は1,310億円(同2.1%増)にとどまる。開業初年度の費用先行が、この2.1%という数字に表れている。

背景には2025年7月1日に公表されたグループ経営ビジョン「勇翔2034」がある。長期的な経営目標として2031年度(2032年3月期)にROE10%以上、営業収益4.3兆円程度を掲げ、2034年度に5兆円規模を視野に入れる。2026年4月30日にはこの数値目標がアップデートされ、2028年3月期の営業収益は従来計画比プラス540億円の3兆5,180億円、2032年3月期の営業利益は従来計画比プラス500億円程度の7,500億円程度に引き上げられた。

投資家にとって重要なのは、この街を「持つ」のではなく「回す」という宣言のほうだろう。同社は2026年3月期から2032年3月期までの累計で、約1兆円規模の資産流動化を通じて不動産販売営業利益6,000億円超を安定的に創出する方針を示した。2026年3月期の不動産販売は営業収益730億円・営業利益503億円、2027年3月期計画は営業収益1,000億円・営業利益450億円である。賃貸等不動産の簿価は2026年3月期末で1兆4,447億円、含み益は2兆864億円(速報ベース)。不動産ファンド事業の資産運用規模は5,854億円で、2028年3月期に7,000億円、2032年3月期に1.2兆円へと目標が上方修正された。そして2026年10月1日には、JR東日本が60%、伊藤忠商事が40%を出資する連結子会社「JR東日本伊藤忠不動産開発」が設立され、2031年3月期に売上規模2,500億円を目指す。

キャッシュ・アロケーションも刷新された。2026年3月期から2032年3月期にかけて、営業CF5.5兆円とアセットマネジメント0.9兆円を源泉に、成長資金3.1兆円、基盤維持・強化資金3.2兆円、そして革新的イノベーションのための「LX資金」0.3兆円を配分する。政策保有株式は2032年3月期末までにB/S計上額を3割以上縮減する(2025年3月期末比)。株主還元は2028年3月期に向けて段階的に配当性向40%へ引き上げる方針で、2026年3月期の年間配当は74円(配当性向33.7%)、2027年3月期は84円(同37.2%)を予想する。2026年7月には2本部10支社体制から36事業本部体制への大規模な組織再編も実施された。

2026年7月9日終値ベースで株価3,517円、時価総額3兆9,897億円、予想PER15.6倍、PBR1.3倍、予想配当利回り2.39%、予想ROE8.37%。時価総額に対して6,100億円という投資額は15%相当であり、失敗しても致命傷にはならないが、成功しても株価を一変させるほどの規模ではない。JR東日本にとって高輪は、財務インパクトそのものより「鉄道会社が都市を運営できる」という証明のほうに意味がある。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - JR東日本(9020)――「勇翔2034」と不動産回転ビジネス - 図表1品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - JR東日本(9020)――「勇翔2034」と不動産回転ビジネス - 図表2

京急(9006)――3,500億円という、時価総額に迫る賭け

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 京急(9006)――3,500億円という、時価総額に迫る賭け - 章扉

同じ品川で、はるかに高いレバレッジを掛けているのが京浜急行電鉄である。

京急は品川駅西口のシナガワグース跡地で「(仮称)品川駅西口地区A地区新築計画」を2025年5月31日に着工した。地下4階・地上29階、高さ152.36メートル、敷地面積2万3,584平方メートル、延床面積約31万1,800平方メートル。トヨタ自動車の「新東京本社」が入居し、国内最大級のフロア面積を持つオフィス、都心最大規模のカンファレンスホール、商業施設が入る。開業は2029年度。

問題は事業費である。日経クロステックによれば、2024年3月に京急が計画を発表した時点で約2,400億円としていた総事業費は、建設工事費の増加により1年余りで約3,500億円へと約1,100億円膨らんだ。京急の2026年7月9日時点の時価総額は4,260億円。単一プロジェクトの事業費が時価総額の8割超に達する構図で、JR東日本の15%とは意味がまるで違う。

同社の2026年3月期決算短信によれば、営業収益3,041億9,200万円(前期比3.5%増)、営業利益335億5,300万円(同5.9%減)、経常利益288億5,400万円(同17.5%減)。一方で品川駅西口基盤整備事業に基づく国道用地の譲渡などの固定資産売却益を特別利益に計上し、親会社株主に帰属する当期純利益は274億9,200万円(同13.1%増)となった。営業段階で減益、特別利益で増益という形は、開発期の鉄道会社に典型的な姿である。2027年3月期の会社予想は営業収益4,015億円(前期比32.0%増)、営業利益450億円(同34.1%増)、経常利益440億円(同52.5%増)で、不動産流動化の売却益と分譲マンション販売の増加が牽引する。年間配当は46円を継続する見通しだ。「京急グループ第20次総合経営計画」は2024年5月に策定され、2025年5月のアップデートで2026年度のROE目標を8%(長期的には10%以上)、営業利益目標を450億円へと引き上げている。

同時に、京急は鉄道インフラの大手術も抱える。2026年度の設備投資は約449億円と過去最高(2025年度は約370億円)で、安全対策に約203億円、快適な輸送サービスに約137億円、成長分野に約101億円、環境に約8億円を配分する。2026年度には泉岳寺駅―品川駅間の仮南行線への切り替えと、品川駅の大屋根撤去を実施する。京急線品川駅は最終的に2面4線の地平駅に生まれ変わり、その鉄道施設は品川駅街区地区の建物内に収まる。羽田空港第1・第2ターミナル駅には引上線を新設し、2026年度から2028年度にかけて20駅にホームドアを整備する。

さらに京急は、品川駅街区地区の南街区(南-a)の事業主体でもある。地上28階・地下2階、高さ約150メートル、延床面積20万986平方メートル。竣工予定は2037年3月である。泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業(東京都施行、東急不動産と京急が特定建築者、鹿島施工、地上30階・地下3階、高さ145メートル、延床約11万2,300平方メートル、住宅約350戸)は2024年11月に着工し、2032年3月竣工を予定する。京急にとって品川再開発は、2029年度から2037年まで断続的にキャッシュを吸い続けるプロジェクト群だということになる。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 京急(9006)――3,500億円という、時価総額に迫る賭け - 図表1

大林組(1802)・鉄建建設(1815)――造る側の収益構造

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 大林組(1802)・鉄建建設(1815)――造る側の収益構造 - 章扉

高輪ゲートウェイシティで最も確実に果実を得たのは、施工した側である。

大林組は高輪ゲートウェイ駅(鉄建建設とのJV)、THE LINKPILLAR 1(単独施工)、THE LINKPILLAR 2を手掛けた。2026年3月期の連結決算は売上高2兆5,862億円(前期比0.2%減)、営業利益1,947億円(同36.6%増)、経常利益2,042億円(同34.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益1,738億円(同19.5%増)。売上高営業利益率は5.5%から7.5%へ大幅に改善した。日本のゼネコンが長く苦しんだ低採算工事の消化が終わり、価格転嫁が効き始めた局面の典型例である。年間配当は88円から94円へ増配予定。ただし2027年3月期の会社予想は売上高2兆9,450億円と増収である一方、営業利益は1,800億円、純利益1,570億円と減益を見込む。高輪級の大型案件が竣工した後の端境期をどう埋めるか、という課題が数字に出ている。2026年7月9日時点で株価3,249円、時価総額2兆2,476億円、自己資本比率40.03%、予想ROE12.48%。

鉄建建設は、規模でも知名度でも大林組と比べるべくもないが、投資家にとってはより読みやすい。同社は2022年12月にJR東日本への第三者割当増資などを通じて、JR東日本の持分法適用会社となった(出資比率19.6%)。連結売上のおよそ4割を鉄道工事が占め、高輪ゲートウェイ駅のJVに加え、羽田空港アクセス線や主要駅改良工事といったJR東日本の長期案件を安定的に取り込む。前章で見たとおり、JR東日本は品川駅北口駅改良・駅ビル整備に約1,600億円、品川駅街区北街区に約16万5,000平方メートル、羽田空港アクセス線に継続投資を計画しており、しかも同社は2027年3月期の設備投資の主要件名として「羽田空港アクセス線」「駅周辺開発(新宿、品川等)」を明示している。発注のパイプラインが、19.6%を握る筆頭級株主から流れてくる構造だ。

同社は2026年3月に通期の連結純利益予想を44億円から47億円へ上方修正し、売上高1,800億円、営業利益54億円(前期比56.1%増)、経常利益55億円(同81.8%増)を見込んだ。「鉄建建設グループ中期経営計画2028」のアップデートでは、2028年度の売上高目標を2,000億円から2,120億円へ、営業利益目標を80億円から110億円へ引き上げ、ROE目標を8%から10%へ上方修正している。株主資本コストを7.5%から8.0%程度へ見直したうえでの引き上げであり、資本効率への意識は明確だ。政策保有株式は5年累計で100億円以上を売却する計画で、2025年度は5銘柄約37億円、2026年度は3銘柄約30億円を予定し、2028年度までに純資産比20%未満を目指す。株主還元は配当性向50%からDOE(自己資本配当率)4%以上へ転換した。2026年7月9日時点で株価4,530円、時価総額678億円、予想PER10.0倍、予想配当利回り4.92%。時価総額700億円弱の会社が、6,100億円と1,600億円の街づくりに部品として組み込まれている。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 大林組(1802)・鉄建建設(1815)――造る側の収益構造 - 図表1

西武HD(9024)・東京都競馬(9672)――遅れる者と、賭ける者

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 西武HD(9024)・東京都競馬(9672)――遅れる者と、賭ける者 - 章扉

品川の物語には、遅れる者と、賭ける者がいる。

西武ホールディングスは、品川駅西口地区のB-1地区で、傘下の西武不動産が敷地約2万7,500平方メートルに地下4階・地上31階、延床約26万8,000平方メートルの複合施設(オフィス、商業、ホテル、住宅、MICE)を計画する。隣接するB-1-1地区は約0.9ヘクタールの公園となる。都市計画変更は2025年12月22日に東京都が告示した。ところが同社は、建設費の高騰とゼネコンの施工能力不足を受けて、着工時期を2028年度から2030年度へ2年延期し、竣工を2032年度から2035年度へ見直した。B-1地区に含まれるグランドプリンスホテル新高輪は当初2026年度中に営業を終了する予定だったが、2026年5月14日、2027年4月以降も営業を継続すると発表された。品川の再開発で、建設インフレが具体的な日付として現れた最初の事例である。

西武HDの2026年3月期は、前期に実施した東京ガーデンテラス紀尾井町の流動化の反動で、営業収益5,132億86百万円(前期比43.0%減)、営業利益455億22百万円(同84.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益388億57百万円(同84.9%減)と大幅な減益となった。2027年3月期予想は営業収益5,590億円(同8.9%増)、営業利益530億円(同16.4%増)だが、純利益は270億円(同30.5%減)と見込む。日本経済新聞は、今後の流動化の検討対象に品川プリンスホテルの一部を含めることを同社が明らかにしたと報じている。2026年7月9日時点で株価3,473円、時価総額1兆619億円、予想PER32.7倍、PBR1.55倍、予想ROE4.75%。膨大な優良不動産を抱えながらROEが5%を割るという資産と収益の乖離が、そのまま「流動化」という言葉に凝縮されている。

もっとも、西武HDと高輪の関係は開発事業者としてのそれだけではない。JR東日本とグローバル・ブレインが組成した「TAKANAWA GATEWAY 地球益投資事業有限責任組合」(TAKANAWA GATEWAY Global Co-Benefits Fund L.P.、GPはグローバル・ブレイン、規模は約100億円、運用期間10年)のリミテッド・パートナーには、JR東日本のほか、秋田銀行、芙蓉総合リース、三菱UFJ信託銀行、大和証券グループ本社、電通、伊藤園、JTB、日鉄興和不動産、TOTOと並んで西武ホールディングスが名を連ねる。競合デベロッパーが、ライバルの街を実証フィールドとするファンドに出資している。品川を巡る各社の関係が、単純な競争ではないことを示す事実である。

対照的に、静かに、しかし相対的には最も大胆に賭けているのが東京都競馬(9672)だ。大井競馬場を運営する同社の2025年12月期は、売上高417億5,800万円(前期比3.3%増)、営業利益154億1,400万円(同10.7%増)、経常利益154億4,800万円(同11.0%増)。インターネット投票のSPAT4は14年連続で過去最高を更新した。自己資本比率は78.07%、ROEは11.15%と、公営競技の運営受託という安定収益に支えられた強固なバランスシートを持つ。

その同社が2025年12月、中期経営計画2030「未来の空間創造プロジェクト the 1st Furlong」を公表した。2026年12月期から2030年12月期までの5年間で、営業キャッシュフロー約900億円を見込み、投資に約750億円を投じる。中核は大井競馬場のファンエリア全面再整備で、そのうち約150億円をアリーナ整備に充てる案が有力とされる。アリーナは競馬に加えてスポーツとライブに使える都心型のユニークベニューとして構想され、開業は2031年以降が想定されている。厩舎を含むトレーニングセンターは千葉県市原市に81万平方メートルの用地を取得して移転する。財務目標は2030年12月期に売上高480億円以上、営業利益190億円以上、5年平均でROE10%以上・ROIC9%以上、配当性向35%、1株当たり配当137円である。

売上高417億円の会社が5年で750億円を投じる。時価総額は1,356億円(2026年7月9日)。JR東日本が高輪に6,100億円を投じたときの財務レバレッジより、はるかに大きい賭けだと言える。そして大井競馬場のある品川区勝島は、JR東日本が「広域品川圏」の南端と位置づけた大井町駅から目と鼻の先にある。OIMACHI TRACKSのまちびらきによって、浜松町から大井町までの回廊がつながった今、その先の勝島のベイフロント化は、地図の上では自然な延長線に見える。

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 西武HD(9024)・東京都競馬(9672)――遅れる者と、賭ける者 - 図表1

投資家・メディア・VCは何を見ているか

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 投資家・メディア・VCは何を見ているか - 章扉

報道の温度差は明確である。日経クロステックはこの街を「今世紀最大規模の街づくり」「100年先見据えた実験場」と呼び、日経ビジネスは「鉄道一本足から脱却へ、二軸経営に舵」と評した。ダイヤモンド・オンラインは、過去最高決算を支えたのは高輪だけではないと指摘する。一方で2026年4月には「6000億円再開発に不安の声」という論調も現れ、Japan Timesは2026年6月2日付で「JR East's next stop? City building.」と題した企業記事と、「The rise of the managed city」と題した都市論の記事を同日に掲載した。データで管理される都市という設計思想そのものへの視線が、海外メディアからも向けられ始めている。

セルサイドの評価はおおむね前向きだ。みんかぶが集計するJR東日本のアナリストコンセンサスは2026年6月上旬時点で「買い」(強気買い3、買い2、中立7)、平均目標株価は4,053円で、当時の株価から約20%の上値余地を示していた。ただし同社が決算説明会で「主なQ&A」として自ら開示した論点を見ると、投資家の関心は明快である。生活ソリューション分野の筆頭に挙がっているのは「TAKANAWA GATEWAY CITY、OIMACHI TRACKSのリーシング状況と営業収益・利益見通し」であり、次いで「不動産回転型ビジネスの加速の見通しとパイプラインの持続性、伊藤忠商事との提携」だ。市場はロボットにも空飛ぶクルマにも投票していない。テナントが埋まるか、そして物件を売って利益を出せるか、その二点を見ている。

市況は追い風である。三鬼商事の調査によれば、都心5区のオフィス空室率は2026年4月時点で2.20%、平均募集賃料は1坪あたり2万2,454円と上昇が続く。2025年12月時点でも空室率2.22%、賃料は23カ月連続の上昇だった。ただし高輪ゲートウェイはブランドとして丸の内でも渋谷でもなく、品川と田町に挟まれた新興エリアである。高輪ゲートウェイ駅の1日平均乗車人員は2025年度で1万4,209人にとどまり、JR東日本が街の完成時に見込む1日約13万人の乗降人員(乗車人員に換算すればおよそ6万5,000人)にはまだ遠い。まちびらき前に1日2万人だった乗降人員は、まちびらき後に4万人、商業施設とホテルが開業した2025年秋には6万人へと増えた。この曲線が2027年以降も続くかどうかが、6,100億円の答え合わせになる。

VCの視点はもう一段先を見ている。前述の「TAKANAWA GATEWAY 地球益投資事業有限責任組合」は、環境・モビリティ・ヘルスケア領域で国内外のアーリーからミドルステージのスタートアップに投資し、高輪ゲートウェイシティを実証の場として提供する。2025年8月29日には、バイオ炭による炭素除去プラットフォームを開発する米Terraton Industrialへの投資を公表した(同社の法務代理人Fenwickの公表によれば、同社は1,150万ドル=約17億円のシードラウンドを実施している)。LiSHでは2026年5月13日から14日にかけて、グランドオープン後初となる「GATEWAY Tech TAKANAWA 2026」が開催され、スタートアップ、大企業、アカデミア、アクセラレーターが集まった。JR東日本は「地域版LiSH」を秋田などに展開する方針も示している。

ここに、この街の投資的な本質がある。JR東日本は6,100億円の不動産で年650億円の売上を得るだけでなく、その街を実証フィールドとして貸し出し、そこで生まれたデータとスタートアップの株式にオプションを持つ。都市OSは賃料を直接生まないが、賃料の裏側にある回遊、滞在時間、消費、そして駅乗降客数というKPIを動かす装置として設置された。実行計画のKPIツリーが、経済効果と交通分担率と1人あたりCO2排出量を同じ表に並べているのは、そういう意味である。

参考までに、6銘柄の2026年7月9日時点の市場評価を並べておく。

銘柄株価時価総額予想PER品川関連の投資額
JR東日本(9020)3,517円3兆9,897億円15.6倍TGC約6,100億円、OIMACHI約1,200億円ほか
京急(9006)1,545円4,260億円13.8倍西口A地区約3,500億円
大林組(1802)3,249円2兆2,476億円受注側(TGC主要3棟を施工)
鉄建建設(1815)4,530円678億円10.0倍受注側(JR東が19.6%出資)
西武HD(9024)3,473円1兆619億円32.7倍B-1地区(着工2030年度に延期)
東京都競馬(9672)4,830円1,356億円11.7倍中計2030で5年約750億円

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 投資家・メディア・VCは何を見ているか - 図表1品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 投資家・メディア・VCは何を見ているか - 図表2

2026年から2037年へ――次に何が起きるか

品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 2026年から2037年へ――次に何が起きるか - 章扉

最後に、これから観測できるイベントを時系列で押さえておく。

2026年後半の焦点は三つある。10月1日にJR東日本伊藤忠不動産開発が設立され、同社が2031年3月期に売上2,500億円を目指す不動産回転ビジネスの実行部隊となる。同じ秋にSuica Renaissanceの第2弾としてコード決済「teppay」が始まり、Suica経済圏がアカウントベースの決済プラットフォームへ移行する。そしてリニア中央新幹線の静岡工区は、鈴木知事の容認表明を受けてJR東海が年内着工を目指す。

2027年は、この街の設計思想が試される年になる。「高輪ゲートウェイ駅周辺地区 スマートシティ実行計画」の第I期(2024〜2026年度)が終わり、第II期の施策が始まる。実行計画自身が、2026年度に「広域化・水平展開の検討」を行い、その結果を2027年度以降に反映すると明記している。都市OSが高輪の敷地から一歩外へ出て、オオエキマチや沿線駅へ横展開できるかどうか。同じ2027年春には品川エリアの5駅でウォークスルー改札の実証が始まり、2027年3月には浜松町駅西口開発が供用を開始する。高輪築堤跡の現地公開も2027年度に予定される。

2028年度には在来線へのウォークスルー改札導入が視野に入り、2028年には空飛ぶクルマの商用運航開始が目標として置かれる。2029年3月には田町駅西口駅前地区が供用を開始し、2029年度には京急・トヨタの品川駅西口A地区(約3,500億円)が開業する。2030年度には西武不動産のB-1地区がようやく着工し、2030年代半ばには東京メトロ南北線の品川延伸が開業、JR東日本の品川駅街区北街区も開業する。2031年3月期には品川駅北口の駅改良・駅ビル(約1,600億円)が開業し、2031年以降に大井競馬場のアリーナが開業する見通しだ。2032年3月期に羽田空港アクセス線が開業し、2035年度に西武のB-1地区が竣工、2036年以降にリニア中央新幹線が品川―名古屋で開業し、2037年3月に京急の品川駅街区南街区が竣工する。

つまり、高輪ゲートウェイシティは「完成した街」ではなく、10年以上早く到着した街である。リニアが来るのは10年後、地下鉄が来るのは10年後、隣接街区が建ち上がるのも5年から10年後。その空白の10年間を、6,100億円の不動産と50台のロボットと都市OSだけで埋めなければならない。だからこそJR東日本は、この街を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と呼ぶしかなかったのだろう。実験は、答えが出るまでの時間を正当化する唯一の言葉だからである。

投資家が2027年から2029年にかけて確認すべき指標は、派手なテクノロジーではない。オフィスの稼働率、レジデンスの成約賃料、そして高輪ゲートウェイ駅の1日乗降人員が6万人から13万人へ向かう軌跡である。都市OSと鉄道OSの接続が本物であれば、その三つの数字は連動して動くはずだ。連動しなければ、それは高価なダッシュボードだったということになる。


品川大規模再開発、TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)、都市OS ✕ 鉄道OS、デジタルツイン。JR東(9020)、京急(9006)、大林組(1802)、鉄建建設(1815)、西武HD(9024)、東京都競馬(9672) - 2026年から2037年へ――次に何が起きるか - 図表1