1,790万人が見た画面の裏で

Netflix(ネットフリックス)、1年で株価40%超下落。コンテンツ最高責任者、映画部門トップら相次ぎ退任 - 1,790万人が見た画面の裏で - 章扉

居間の大きなテレビに、侍ジャパンの選手たちが映っている。今年3月のワールド・ベースボール・クラシック、WBCの日本対オーストラリア戦を、日本で1,790万人が見た。中継したのは地上波のテレビ局ではない。ネットフリックスだ。日本のネットフリックスで、一つの番組がこれほど多くの人に見られたことは、それまで一度もなかった。

その会社の株価が、この1年でほぼ半分になった。

10月21日、ネットフリックスの株価は65ドル4セント(約1万200円)で取引を終えた。およそ2年ぶりの安値だ。株式分割の影響をならすと、ちょうど1年前の同じ日は124ドル(約1万9,500円)だったから、下落率は48%に達する。2025年6月につけた最高値の134ドル(約2万1,000円)と比べると、半値を割り込んだ。

株価が下がり続けるなかで、10月のわずか1週間に、会社の中身も大きく動いた。

14日、テッド・サランドス、グレッグ・ピーターズの両共同CEOが、全社員の約6%にあたる約1,000人の削減を社内に通知した。翌15日には、ドラマも映画もライブ配信も、作品づくりのすべてを束ねてきたコンテンツ最高責任者のベラ・バジャリア氏が会社を去り、フォックスとディズニーでテレビと映画を率いたピーター・ライス氏を後任に迎えると発表した。そしてその週末、映画部門のトップ、ダン・リン氏も職を離れた。

赤字に苦しんでいるわけではない。7〜9月期の売上高は前の年より12%増え、純利益は44%増えた。それでも投資家は株を手放している。理由をひと言でいえば、「見られる時間」が伸びなくなったからだ。

ネットフリックスとは:月890円で、世界の物語が見放題

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ネットフリックスは、月額料金を払えば、映画やドラマ、アニメ、ドキュメンタリーをいくらでも見られる動画配信サービスだ。日本の料金は、途中に広告が入る「広告つきスタンダード」が月890円、広告なしの「スタンダード」が1,590円、高画質の「プレミアム」が2,290円。テレビでも、スマートフォンでも、パソコンでも見られる。

規模は桁違いだ。190を超える国と地域で配信し、2025年末には有料の契約が3億2,500万件を超えた。1つの契約を家族で分け合う家庭も多く、会社は「見ている人は10億人に迫る」と説明している。

並ぶ作品は国境を越える。韓国発の『イカゲーム』、米国発の『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、そしてネットフリックス史上もっとも見られた映画となり、アカデミー賞も受賞したアニメ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』。英語以外の作品が視聴時間に占める割合は、10年前の1割未満から、いまは3分の1を超える。日本発の作品も強い。9月に配信が始まった松岡茉優さん主演の医療ドラマ『ダウンタイム』は、日本で歴代もっとも見られたシリーズになる勢いだという。

最近は、録画では味わえない「生中継」にも力を入れる。米プロフットボールNFLのクリスマス中継、プロレスのWWE、ボクシング。日本では冒頭のWBCで全47試合を独占配信し、大会全体の視聴者は3,140万人にのぼった。ゲームや、ファン向けの体験施設「ネットフリックス・ハウス」にまで手を広げている。

稼ぎ方は単純だ。収入の大半は毎月の会費で、2022年に始めた広告つきプランの広告収入がそこに加わる。2025年の売上高は452億ドル(約7兆1,000億円)、純利益はおよそ110億ドル(約1兆7,000億円)。売上高に対する営業利益の割合は29.5%に達する。

強さの源は「規模」にある。たとえば1億ドル(約157億円)をかけたドラマでも、3億2,500万件の契約で割れば、1件あたり30セント、日本円で50円ほどにしかならない。会員が多いほど1本あたりの負担は軽くなり、そのぶん大作に投資できる。大作が会員を呼び、会員が増えるとまた大作が作れる。この循環が、ネットフリックスを業界の頂点に押し上げた。

だからこそ投資家は、会員がどれだけの時間ネットフリックスを見ているかを注視する。見る時間が長いほど解約されにくく、値上げもしやすい。視聴時間は、この会社の体温計なのだ。

業界の地図:ユーチューブがネットフリックスの2倍見られている

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その体温計が、いま思わしくない数字を示している。

米国では、テレビ画面で何がどれだけ見られているかを、調査会社のニールセンが毎月測っている。最新の8月分では、テレビの視聴時間全体のうち、配信サービスが49.6%と半分近くを占めた。そのなかで首位に立つのは、ネットフリックスではない。ユーチューブ(YouTube)だ。テレビ視聴時間全体の15.8%を占め、過去最高を更新した。ネットフリックスは7.7%で、ユーチューブの半分にも届かない。『ストレンジャー・シングス』の完結編とクリスマスのNFL中継が重なった昨年12月には9.0%と過去最高だったが、そこから削られている。

ユーチューブは無料で見られ、誰でも動画を投稿できる。かつてはスマートフォンで短い動画を見る場所だったが、いまは居間の大型テレビで、人気配信者の長い番組を家族で見る時代になった。2029年からは、アカデミー賞授賞式の世界配信もユーチューブが担う。ネットフリックスは、ユーチューブで人気の子ども番組や科学番組を自社でも配信し、相手の得意分野を取り込みにかかっている。

ハリウッドの側では、巨大な合併が続く。10月6日、パラマウントによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収が完了し、新会社「スカイダンス」が誕生した。映画のパラマウントとワーナー・ブラザース、ニュースのCBSとCNN、高級ドラマのHBOが一つ屋根の下に入り、年間売上高は700億ドル(約11兆円)近くになる。配信サービスのパラマウント・プラスとHBOマックスも、いずれ統合する計画だ。この買収には、オラクル創業者ラリー・エリソン氏の一族に加え、投資会社レッドバード・キャピタル、サウジアラビア、カタール、アブダビの政府系ファンドが、合わせて470億ドル(約7兆4,000億円)の資本を投じた。そのワーナーを最後まで争った相手こそ、ネットフリックスだった。

テレビの「入り口」をめぐる再編も進む。6月には、FOXテレビを持つフォックスが、テレビ向けの配信機器や画面の仕組みを手がけるロク(Roku)を約220億ドル(約3兆5,000億円)で買収すると発表した。米ニュースサイトのセマフォーは、ネットフリックスもロクの争奪戦に加わって敗れたと報じたが、ネットフリックスは入札していないと否定している。

ディズニーは自社の配信を育てつつ、2026年に入って3度の人員削減に踏み切った。そのディズニーが最近、映画『アイス・エイジ』シリーズなどをネットフリックスに貸し出す契約を結んだ。一度は自社配信のために作品を引き揚げたライバルが、再び作品を供給する側に回っている。アマゾンはスポーツ中継に巨費を投じる。そしてTikTokやインスタグラムの短い動画が、通勤電車や寝る前のすきま時間を奪っていく。日本でも、無料のTVerやユーチューブ、U-NEXTやアマゾンのプライム・ビデオと、同じ「時間」を取り合っている。

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不調の原因:伸びない視聴時間、遅れた広告、生まれないヒット

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まず、視聴時間が伸びていない。ネットフリックスが公表した2026年1〜6月の総視聴時間は970億時間で、前の年より2%増えただけだった。2025年から、伸びは1〜2%にとどまっている。ドラマはまだ伸びているが、映画は減った。米証券ウェルズ・ファーゴのアナリスト、スティーブ・カホール氏の試算では、1契約あたりの視聴は1日1.6時間。パスワード共有の取り締まりで増えた世帯の影響をならすと、2023年の同じ時期より約8%少ない。カナダの銀行系証券BMOキャピタル・マーケッツのブライアン・ピッツ氏は、4〜6月期には米国とカナダの視聴時間そのものが減ったとみる。

次に、売上の伸びが鈍っている。前の年と比べた売上高の伸びは、2025年10〜12月期の18%から四半期ごとに下がり続け、2026年10〜12月期の見通しは11.5%だ。とりわけ稼ぎ頭の米国とカナダは、伸びが10%前後まで落ちた。3月には米国で全プランを値上げし、広告つきプランは月7.99ドル(約1,250円)から8.99ドル(約1,400円)になった。値上げは売上を押し上げるが、何度も使える手ではない。調査会社イーマーケターのロス・ベネス氏は、ロイター通信に「ネットフリックスは別の大きな収益源を見つけられていない」と語っている。

3つ目は、期待の広告の遅れだ。ネットフリックスは2026年の広告収入を前年の約2倍、30億ドル(約4,700億円)と掲げていたが、10月の決算で約27億ドル(約4,200億円)に引き下げた。広告主向けの新しい機能の展開が、計画より遅れたためだという。

4つ目は、世界を席巻するようなヒットの途絶えだ。米芸能誌バラエティは、「『ストレンジャー・シングス』のような、文化を決定づけるヒットをしばらく生んでいない」と指摘する。社会現象になった『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』も、制作したのはソニー・ピクチャーズ・アニメーションだ。看板だった『イカゲーム』と『ストレンジャー・シングス』は2025年に完結した。しかも『ストレンジャー・シングス』を生んだダファー兄弟は、劇場用の大作映画を撮りたいとして、パラマウントと4年間の独占契約を結んだ。同作の製作総指揮を務めたショーン・レヴィ氏はディズニー傘下へ移り、名匠デヴィッド・フィンチャー監督も契約を更新しなかった。ウェルズ・ファーゴのカホール氏は「大型のオリジナルシリーズが欠けていて、それが数字に表れている。株価が再び動くには、爆発的なヒットが欠かせない」と書いた。

映画の作り方も問われている。ダン・リン氏は今年6月、米ニューヨーク・タイムズ紙に、劇場公開にこだわる監督は「一緒に仕事をしないと割り切った相手だ」と語っていた。映画館で映画を撮りたい作り手が、ネットフリックスを離れていく構図が浮かび上がっていた。

投資家の不安をさらに強めているのが、情報の出し方だ。ネットフリックスは2025年から会員数の四半期ごとの公表をやめ、年2回出してきた視聴時間のレポートも、2027年からは年1回にする。ビジネスインサイダーは、この変更が投資家の不安を招いていると伝えた。

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創業から2025年の頂点まで:2度の危機を越えて

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ネットフリックスの始まりは、郵便受けに届く赤い封筒だった。

1997年、ソフトウエア会社を売却した起業家のリード・ヘイスティングス氏と、マーク・ランドルフ氏が、米カリフォルニア州で会社を立ち上げた。翌1998年、ウェブで注文したDVDを郵送で貸し出すサービスを始め、1999年には延滞料をとらない月額制に切り替えた。返却期限に追われ、延滞料を払わされるレンタル店への不満を、逆手にとったのである。同じ1999年には、のちに会長となるジェイ・ホーグ氏の投資会社TCVが出資している。

2000年、創業者たちは当時のレンタル最大手ブロックバスターに、会社を5,000万ドル(約78億円)で買わないかと持ちかけた。ブロックバスターは断り、10年後に経営破綻した。ネットフリックスは2002年に株式を上場し、2007年にはインターネットで映像を流す「配信」を始めた。

最初の大きな危機は2011年だった。DVDと配信をセットで使う人にとって大幅な値上げとなる料金改定に続き、DVD事業を「クイックスター」という別ブランドに切り離すと発表して、利用者の猛反発を浴びた。計画は撤回したが、株価は数か月で8割近く下落した。このときTCVは、2億ドル(約310億円)の転換社債を引き受けて資金面で会社を支えた。

2013年に配信したオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』が大ヒットし、他社から作品を借りる会社は、自ら作る会社へと変わった。2016年1月には一度に130か国へ配信先を広げ、ほぼ世界中で見られるサービスになった。ヘイスティングス氏は、これが在任中で一番の思い出だと語っている。

2度目の危機は2022年に来た。新型コロナの巣ごもり需要が去り、1〜3月期に会員が10年ぶりに減った。翌日の株価は35%下落した。会社は人員を削り、それまで否定してきた広告つきプランを導入し、翌2023年には家族以外とのパスワード共有を有料にした。これが当たり、会員は再び大きく伸び始めた。

2023年、ヘイスティングス氏はCEOを退いて会長となり、サランドス氏とピーターズ氏の共同CEO体制に移った。サランドス氏は20年以上にわたってコンテンツ部門を率いてきた人物で、ピーターズ氏は製品と事業運営を担ってきた。生中継やスポーツにも進出し、2025年6月30日、株価は上場来の最高値をつけた。11月には、1株を10株に分ける株式分割も行った。

危機のたびに、ネットフリックスは新しい成長の「エンジン」を見つけて復活してきた。配信、オリジナル作品、世界展開、そして広告とパスワード共有の有料化である。いま問われているのは、次のエンジンが見つかるかどうかだ。

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ワーナー争奪戦と、創業者の退場

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頂点から下り坂に転じたのは、2025年の秋だった。

10月、ブラジルでの税金をめぐる一時的な費用で利益が予想に届かず、株価は1日で10%下げた。そして12月、ネットフリックスは業界を驚かせる発表をする。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーから、映画とテレビのスタジオ、高級ドラマのHBO、配信サービスのHBOマックスを買い取るというのだ。借金も含めた企業価値は827億ドル(約13兆円)。そのために590億ドル(約9兆3,000億円)のつなぎ融資の枠まで用意した。

そこへパラマウント・スカイダンスが割って入り、ワーナーを丸ごと現金で買うという敵対的な提案を突きつけた。ネットフリックスは1月、支払いをすべて現金に切り替えて対抗したが、株価は高値づかみと借金膨張への不安から下がり続け、2月中旬には76ドル(約1万2,000円)前後まで沈んだ。

決着は2月26日だった。パラマウントが1株31ドル(約4,900円)まで引き上げると、ネットフリックスは追随しないと表明した。両共同CEOの声明はこうだ。「この取引は、適正な価格なら『あれば良いもの』であって、どんな価格でも『なくてはならないもの』ではなかった」。翌日、ワーナーは契約を解除し、ネットフリックスは28億ドル(約4,400億円)の違約金を受け取った。株価はこの日、14%近く跳ね上がった。

安堵は長く続かなかった。4月16日の1〜3月期決算で、4〜6月期の見通しが市場予想を下回った。同じ日、共同創業者のヘイスティングス氏が、6月の株主総会で取締役を退くと明らかにした。株価は翌日に約10%下落した。米調査会社ライトシェッド・パートナーズのリッチ・グリーンフィールド氏は、ロイター通信に「ヘイスティングス氏の退任は投資家をおびえさせた」と語っている。

6月4日、ヘイスティングス氏は自ら創業した会社の取締役会を去り、ホーグ氏が会長に就いた。7月には、ディズニーのテレビ部門を率いた経験を持つ社外取締役アン・スウィーニー氏も取締役を辞任した。会社は、意見の対立によるものではないと説明している。

7月16日の4〜6月期決算では、米国とカナダの売上の伸びが10%に鈍り、7〜9月期の見通しも市場予想に届かなかった。株価は翌日7%下げた。9月には、ウェルズ・ファーゴが投資判断を事実上の「売り」に、英HSBCも「買い」から「中立」に引き下げ、株価は1か月で14%下落した。サランドス氏は9月下旬、ブルームバーグのイベントで「私が望むほど速く成長していない。その動きを速めるために取り組んでいる」と認めている。

そして10月、人員削減と幹部の交代が一気に動いた。

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1,000人削減と、去った2人のトップ

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10月14日、米ウォール・ストリート・ジャーナルが社内メモを入手して最初に報じた。サランドス、ピーターズ両氏はメモに「世界を楽しませるという私たちの使命は野心的だ。それを果たすには、人と資源をどこに優先して振り向けるかについて、規律を持たなければならない」と書いた。削減は約1,000人。2025年末の正社員は約1万6,000人だったから、およそ6%にあたる。2022年に2度で計450人ほどを減らしたときを大きく上回り、同社として過去最大の規模だ。対象の多くは、製品、技術、法務、人事の各部門だという。米業界紙ハリウッド・リポーターは、テレビの契約や作品を担当する幹部級7人も含まれたと報じた。

会社は、削減で生まれる余力を「影響の大きい分野へ積極的に投資する」ために使うと説明する。決算資料によると、削減に伴う費用は10〜12月期の営業利益率を約1.2ポイント押し下げる。

翌15日に発表されたのが、コンテンツ最高責任者ベラ・バジャリア氏の退任だった。バジャリア氏は2016年、米ユニバーサル・テレビジョンの社長からネットフリックスに移った。他社作品の買い付けやリアリティー番組を担当し、2020年に世界のテレビ部門の責任者、2023年1月にコンテンツ最高責任者に昇格した。『イカゲーム』『ブリジャートン家』『ウェンズデー』、そして『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』。NFLのクリスマス中継や、ジェイク・ポール対マイク・タイソンのボクシングといった生中継も、彼女の時代に始まった。

サランドス氏は社内メールで、彼女の10年間の貢献に感謝しつつ、こう書いた。「とりわけ米国とカナダで、作品群を次の段階へ引き上げる好機がある」。会社の発表は「退任」だったが、米業界紙の多くは事実上の更迭と報じた。この人事を最初に伝えたのは、ハリウッドの内幕に詳しいニュースサイトのパックだ。バラエティによれば、業界関係者の多くは、会社全体の問題の責任を彼女が負わされたとみている。

後任のピーター・ライス氏は、映画とテレビの両方を知るベテランだ。20世紀フォックスの映画部門で『ロミオ+ジュリエット』や初代『X-MEN』に携わり、傘下の映画会社フォックス・サーチライトでは『リトル・ミス・サンシャイン』や『JUNO/ジュノ』を世に送った。その後フォックスのテレビ事業を率い、ディズニーによる買収後は、ディズニーのテレビ部門の会長として『一流シェフのファミリーレストラン』や『SHOGUN 将軍』などを手がけた。2022年、当時のボブ・チャペックCEOによってディズニーを追われ、以後は映画『28年後...』の製作や、2028年ロサンゼルス五輪の開会式と閉会式の制作に携わってきた。

10月26日付で着任するライス氏について、サランドス氏は決算説明でこう語った。「彼は作り手との関係づくりを理解している。競争の激しい市場では、作り手は働く場所を選べる。私たちはネットフリックスを、彼らが人生最高の仕事をしたいと思う場所にしたい」。作り手が離れていく流れを止めること。それが新しい責任者に託された最初の仕事だ。

週末には、映画部門トップのダン・リン氏も去った。パックの記者マシュー・ベローニ氏は「この週末に解任された」と伝え、ネットフリックスは19日、リン氏が退くことを認めた。リン氏は『LEGO ムービー』などのプロデューサーで、ワーナー・ブラザースの幹部を経て、2024年4月に映画部門のトップに就いた。在任は2年半ほどにとどまる。米メディアは、フィンチャー監督が新作の撮り直しをめぐってリン氏と対立したことや、グレタ・ガーウィグ監督の大作『ナルニア国物語』をめぐる摩擦を伝えている。リン氏の右腕だったダグ・ベルグラッド氏も会社を離れた。

新しい映画部門トップが決まるまでは、ライス氏が映画部門も統括する。後任選びもライス氏に委ねられた。

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決算で語られた「米国での実行力」

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10月20日に発表された7〜9月期決算は、数字だけ見れば悪くなかった。売上高は128億7,000万ドル(約2兆200億円)で12%増。営業利益は45億ドル(約7,000億円)で、売上高に対する割合は34.6%と、ブラジルの税金費用で押し下げられていた前の年の28.2%から大きく改善した。純利益は36億6,000万ドル(約5,750億円)で44%増えた。

問題は先の見通しだった。10〜12月期の売上高見通しは134億4,000万ドル(約2兆1,100億円)で、市場予想にわずかに届かなかった。広告収入の年間見通しは30億ドルから27億ドルへ下げた。会社が自由に使える現金、いわゆるフリーキャッシュフローの年間見通しも、不動産取引の影響で120億ドル(約1兆9,000億円)に引き下げた。

株主への手紙には、珍しく率直な一文があった。「視聴時間の伸びについて、投資家の一部に懸念があることは承知している」。そのうえで会社は、成功例としてインドを挙げた。毎日更新するリアリティー番組がヒットし、インドの視聴時間は前の年より24%増え、新たな有料会員の純増は四半期として過去最多になった。

説明会でサランドス氏は「戦略を根本から変える必要はない」と強調しつつ、「米国では、もっと良い実行が必要だ。世界の作品はおおむねうまくいっている」と語った。米国も「うまくいっているが、伸びるべき速さで、あるいは私たちが望む速さで伸びていない」。人事の刷新について問われると、「もっとうまくやれると分かっている」と答えた。劇場公開については「私たちは配信を第一とする会社だ。それが核だ」と述べた。ピーターズ氏は広告について「年初に掲げた野心的な目標に少し遅れているが、成長は続いている」と説明した。

一方で、会社は株主にお金を戻す動きを強めている。7〜9月期には48億ドル(約7,500億円)で自社株を買い戻し、四半期として過去最大となった。1〜9月の合計は108億ドル(約1兆7,000億円)に達する。

翌21日、株価は5.3%下げて65ドル4セントで引け、およそ2年ぶりの安値をつけた。

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ウォール街と著名投資家の見方

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評価は、はっきり割れている。

弱気の代表は、ウェルズ・ファーゴのカホール氏だ。9月に投資判断を引き下げ、目標株価を80ドル(約1万2,600円)から57ドル(約8,900円)にした。いまの株価よりさらに1割以上低い水準だ。米投資銀行ニーダムのローラ・マーティン氏も、決算を受けて「買い」から「中立」に下げ、「競争の激化が利益率を押し下げ、売上の伸びを鈍らせる」ことを懸念した。ブルームバーグ・インテリジェンスのギータ・ランガナタン氏は、10〜12月期の見通しは視聴の鈍化が売上に及び始めたことを示しており、「間違いなく会社にとって厄介だ」と分析した。

強気の側も残る。ドイツ銀行のブライアン・クラフト氏は「市場の反応は過剰に懲罰的だ」として「買い」を維持した。スイスのUBSは目標株価を110ドル(約1万7,300円)へ小幅に下げただけで、「基本的な競争上の立ち位置は損なわれていない」と書いた。とはいえ、決算後には主要な証券会社の多くが目標株価を引き下げている。

運用会社の目も厳しい。米ギャベリ・ファンズのポートフォリオマネジャー、ジョン・ベルトン氏はAFP通信に、ネットフリックスは「この6か月から12か月、大きく見劣りしてきた」と語った。視聴の弱さ、売上の伸びの鈍化、利益率改善の鈍化、そしてコンテンツ部門の人事を理由に挙げている。

そんななか、逆張りで買いに動いた著名投資家がいる。物言う投資家として知られるビル・アックマン氏が率いる米ヘッジファンド、パーシング・スクエアだ。米証券取引委員会(SEC)への報告によると、6月末時点でネットフリックス株を約1,308万株、時価にして約9億3,000万ドル(約1,470億円)保有していた。アックマン氏は2022年にもネットフリックス株に10億ドル(約1,570億円)以上を投じたが、会員減少のショックで3か月ほどで売却し、4億ドル(約630億円)を超える損失を出している。4年ぶりの再挑戦だ。

8月の運用報告書で、パーシング・スクエアは言い切った。「ネットフリックスは事実上、配信戦争に勝った」。会員数は、2番手と3番手のディズニー・プラスとHBOマックスを合わせた数のほぼ2倍。その規模で制作費を割れるから、ライバルより多く作品に投じても利益が出る。株価が最高値の134ドルから約5割下がり、来期の利益に対する株価の倍率、いわゆるPERが40倍超から21倍まで縮んだことが「好機」になったという。

パーシング・スクエアは、市場の2つの不安にも反論している。一つは視聴時間だ。投資家は時間の長さばかり見て、その質や、地域ごとの構成の変化を考えていないとする。もう一つはユーチューブなどの短い動画で、脚本のあるドラマや映画とは別の商品であり、奪われるのはむしろ従来のテレビや質の低い配信サービスの時間だとみる。人工知能(AI)が作る映像についても、長く質の高い映像を作るには膨大な計算が要り、そのコストは軽くないと指摘した。そのうえで、1株あたり利益は年20%近い勢いで伸び続けると見込む。

ただ、6月末の時点で、この投資は買値から11%のマイナスだった。株価はその後も下がっている。

VCの目で見る:27年目の会長と「長期戦」

Netflix(ネットフリックス)、1年で株価40%超下落。コンテンツ最高責任者、映画部門トップら相次ぎ退任 - VCの目で見る:27年目の会長と「長期戦」 - 章扉

この激動のさなかに取締役会を率いているのは、ベンチャーキャピタルの出身者だ。

6月に会長に就いたジェイ・ホーグ氏、67歳。米シリコンバレーの投資会社TCVを、1995年に仲間と立ち上げた人物である。ホーグ氏は、ヘイスティングス氏が最初に興したソフトウエア会社、ピュア・ソフトウエアの時代から彼を見ていた。米誌のインタビューで、「リードが類まれな先見の明を持つ人物だと、早くから気づけたのは幸運だった」と振り返っている。TCVは1999年にネットフリックスに出資し、ホーグ氏はその年から27年間、取締役を務めてきた。上場前から会社を見守ってきた投資家だ。

TCVは、会社が最も苦しい時期にも離れなかった。2011年のクイックスター騒動で株価が崩れたときには、2億ドルの転換社債を引き受けている。いまTCVの公式サイトでは、ネットフリックスは「過去の投資先」に分類されている。ファンドとしての投資は終わっても、ホーグ氏は取締役会に残り続けた。

その立場は盤石だったわけではない。2025年の株主総会では、前年の取締役会に半分しか出席しなかったとして、議決権行使の助言会社ISSが反対を推奨し、投じられた票の約78%が再任に反対した。ホーグ氏は辞意を示したが、取締役会は受け入れなかった。2026年の総会では大差で再任され、ヘイスティングス氏の退任とともに会長に就いた。

ホーグ氏は取締役のあり方について、こう語ったことがある。「経営陣を支えると同時に、試さなければならない」。そして、「最良のテクノロジー企業とは、長期戦を戦う企業だ」。

VCの目で今回の動きを眺めると、3つの点が浮かぶ。

1つ目は、利益が出ているうちに組織を絞ったことだ。ネットフリックスは、社員に高い基準を求める企業文化で知られる。2009年に公開した企業文化の資料は、フェイスブックのCOOだったシェリル・サンドバーグ氏が「シリコンバレーから出た最も重要な文書かもしれない」と評し、多くのスタートアップが手本にしてきた。黒字のうちに人を減らし、浮いた資金を伸びる分野へ回す。メモにある「影響の大きい分野への積極投資」は、VCが投資先に求める規律と同じ言葉だ。

2つ目は、新しい事業への賭け方だ。生中継、ゲーム、動画ポッドキャスト、スマートフォン向けの縦型動画。ピーターズ氏によれば、生中継は視聴時間の約1%にすぎないのに、コンテンツ費用の約5%を使う。それでも新規会員を呼び込む力が大きいという。小さく賭けて、当たったものに大きく張る。VCの投資の組み立て方そのものだが、まだ「次のエンジン」と呼べるほど育ったものはない。

3つ目は、会社の顔が「成長株」から「稼ぐ優良株」へ移りつつあることだ。四半期で過去最大の自社株買いを行い、株価の倍率は大きく縮んだ。一方、ライバルのスカイダンスは、エリソン家と投資会社、中東の政府系ファンドという桁外れの資金に支えられている。ユーチューブの背後には、グーグルの親会社アルファベットがいる。ネットフリックスは「配信戦争」には勝ったのかもしれない。だが、いま戦っているのは、人々の時間そのものをめぐる、もっと広い戦争だ。

長期戦を説いてきたVC出身の会長と取締役会が、この局面でどんな判断を重ねるのか。それが、ネットフリックスの次の10年を左右する。

各紙・各サイトはどう報じたか

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最初に動いたのは、米国の経済紙と業界メディアだった。人員削減はウォール・ストリート・ジャーナルが社内メモをもとに報じ、ロイター通信も同じメモを入手して、ユーチューブやTikTokなど無料の動画との競争と、ワーナー買収の失敗を背景に挙げた。バジャリア氏の退任を最初に伝えたのはパックで、米インディワイヤーは「衝撃」と見出しを打ち、ダファー兄弟やフィンチャー監督など作り手の流出を並べた。

バラエティは、「利益が出ていて、まだ成長しているのに、なぜ大量削減とトップ交代なのか」と問い、その答えを米国とカナダの減速に求めた。ロイターはリン氏の退任を「1週間で2人目の幹部の離脱」と報じた。米ヤフー・ファイナンスは、株価が2024年8月以来の安値に沈み、最高値から約5割下がったと伝えた。米ザ・ラップはアナリストの評価が割れる様子を詳しく報じ、英調査会社PPフォーサイトのパオロ・ペスカトーレ氏の「基本に立ち返り、魔法を取り戻す必要がある」という言葉を紹介した。

日本では、共同通信が「純利益44%増、値上げ寄与」と好決算の面を伝えつつ、売上の伸びが4四半期続けて鈍る見通しから、株価が時間外取引で一時7%近く急落したと報じた。ロイターの日本語記事はニューズウィーク日本版にも転載され、ビジネスインサイダー・ジャパンは、人員削減を通知した社内メモの全文を紹介した。

見出しの言葉選びには温度差がある。会社の発表文は「退任」、米業界紙の多くは「解任」や「追放」、日本の報道は「削減」と「減速」が中心だ。それでも、ユーチューブなどとの「時間の奪い合い」を不振の背景に置く点では、日米の多くの報道が一致している。

今後:来年1月と2月に来る「答え合わせ」

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10月26日付で、ライス氏が着任する。最初の大仕事は、空席になった映画部門トップの人選だ。米映画ブログのワールド・オブ・リールは、ワーナー・ブラザースの映画部門を率い、スカイダンスの誕生とともに職を離れたマイク・デルーカ氏とパム・アブディ氏の名前を挙げ、2人は劇場公開の約束をまず求めていると伝えている。誰を選ぶかは、ネットフリックスが映画館とどう向き合うかを映す鏡になる。

年末にかけては、生中継が続く。11月25日には、NFLとして初めて感謝祭の前夜に組まれた試合を配信し、ハーフタイムにはU2が登場する。12月11日には元世界ヘビー級王者同士、タイソン・フューリー対アンソニー・ジョシュアのボクシング、12月25日にはNFLの2試合を中継する。映画では、フィンチャー監督、ブラッド・ピット主演、クエンティン・タランティーノ脚本の新作が控える。いずれも、視聴時間の反転を占う材料になる。

最大の答え合わせは、来年1月だ。例年どおりなら1月中旬から下旬に10〜12月期の決算が発表され、2027年の売上と利益の見通しが初めて示される。人員削減の効果と、ライス氏の体制で視聴がどこまで戻るのかが、数字で問われる。1〜3月には、年1回に変わった視聴時間のレポートも出る予定だ。

2月12日には、グレタ・ガーウィグ監督の『ナルニア国物語 魔術師のおい』が、IMAXを含む世界の映画館で公開される。45日間の劇場公開を経て、ネットフリックスでの配信は4月2日。同社として最大の劇場公開作で、配信を第一に掲げてきた会社が、映画館とどう付き合うかの試金石になる。

3月には、広告つきプランを欧州・中東・アフリカの9か国と、コロンビア、ペルー、ニュージーランドで始め、2027年中に15か国へ広げる。27億ドルに引き下げた広告収入を、再び伸びの軌道に乗せられるかが焦点だ。

業界では、2027年前半にフォックスによるロクの買収が完了する見込みで、スカイダンスではパラマウント・プラスとHBOマックスの統合に向けた動きが進む。そして6月には株主総会がある。会長として初めて総会に臨むホーグ氏と経営陣に、株主がどんな評価を下すのか。

1年で半値になった株価は、ネットフリックスに「次のエンジン」を求めている。その最初の答えは、来年1月の決算で示される。


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