両国国技館の1億5,700万円

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相撲の聖地、東京の両国国技館で、21歳の青年がゲームのコントローラーを握っている。

画面の中で拳を交えているのは、カプコンの格闘ゲーム『ストリートファイター6』のキャラクターたちだ。2026年3月、ここで開かれた世界大会「カプコンカップ12」で、日本のさはら選手が初出場のまま、世界から集まった48人の頂点に立った。手にした優勝賞金は100万ドル、日本円でおよそ1億5,700万円である。

9月26日には、愛知県の展示場「Aichi Sky Expo」で、11歳の少年が金メダルを首にかけた。愛知・名古屋で開かれているアジア競技大会の正式種目、「ぷよぷよ」の決勝で、栗原悠輝選手が韓国の選手を10対2で破ったのだ。同じ日、ストリートファイター6、鉄拳8、ザ・キング・オブ・ファイターズXVの3作品で戦う格闘ゲームの団体戦では、日本は決勝で韓国に敗れ、銀メダルに終わった。

ゲームで対戦し、その勝負を大勢の観客が見守る。これが、エレクトロニック・スポーツを略した「eスポーツ」である。

この世界には、いま国家のお金が流れ込んでいる。2026年8月、サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が率いる投資家連合が、人気ゲーム『エーペックスレジェンズ』を出す米エレクトロニック・アーツ(EA)の買収を完了した。買収額は約550億ドル(約8兆6,000億円)。借入金を使った企業買収としては、史上最大の案件だ。

ところが、韓国の名門チームT1が、会社として初めて営業黒字を出したのは、ようやく2025年のことだった。お金はどんどん集まるのに、戦う側のチームはなかなか儲からない。このねじれに、eスポーツという産業の正体が表れている。

eスポーツとは何か――ボールとルールを、1社が持っている

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eスポーツの形は、サッカーや野球とよく似ている。選手がいて、選手が所属するチームがあり、チームが集まるリーグや大会がある。試合は配信され、ファンはユニフォームやグッズを買い、企業はスポンサーとしてお金を出す。

決定的に違う点が、ひとつある。サッカーのボールやルールは誰のものでもないが、eスポーツでは、競技場もボールもルールも、ひとつのゲーム会社が持っているのだ。たとえば、世界最大のeスポーツである『リーグ・オブ・レジェンド』、略してLoLは、米ライアットゲームズの商品で、ライアットは中国の騰訊控股(テンセント)の完全子会社である。キャラクターの強さを変える更新を出すのも、誰に公式大会を開かせるかを決めるのも、ライアットだ。サッカーにたとえれば、ボールの特許を持つ会社が、ワールドカップの主催者を兼ねているようなものである。

だから、eスポーツのお金は、いつもゲーム会社を中心に回る。ゲーム会社にとって大会は、それ自体で稼ぐ事業というより、ゲームを長く遊んでもらうための広告塔に近い。ライアットでパブリッシングとeスポーツを率いるジョン・ニーダム氏は、2026年7月、英ゲーム業界誌ゲームズインダストリー・ビズの取材に、視聴者のおよそ6割はゲームがうまくなるために試合を見ている、と語った。プロの試合は、最高の教科書でもあるのだ。

競技として遊ばれるゲームには、いくつかの型がある。上空から軍隊を指揮して相手の基地を壊す、将棋に近い戦略ゲーム。1対1で殴り合う格闘ゲーム。5人対5人で陣地を奪い合うLoLのようなゲーム。そして、大勢が一つの島に降り立ち、最後の1チームになるまで撃ち合うバトルロイヤルだ。韓国を熱狂させた『StarCraft(スタークラフト)』、日本のゲームセンターから世界に広がった『ストリートファイター』、世界最大の観客を持つLoL、そして日本で特に人気の高い『エーペックスレジェンズ』、通称APEX。この4つの型が、それぞれeスポーツの時代を切り開いてきた。

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呼び名を定着させたのは韓国――StarCraftとPC房

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1998年、米ブリザード・エンターテインメントが発売した戦略ゲーム『StarCraft』は、世界で約1,100万本を売った。そのうち450万本が、韓国で売れている。

背景には、前年のアジア通貨危機がある。韓国は国際通貨基金(IMF)の支援を仰ぎ、街には失業者があふれた。職を失った人たちが次々に開いたのが、高性能なパソコンを並べて時間貸しする「PC房(ピーシーバン)」だ。1998年に全国で100軒ほどだったPC房は、2001年には2万3,000軒に膨らんだ。政府は高速インターネット網の整備を急ぎ、高速回線を引いた家庭は、1998年の1万4,000世帯から2002年には1,040万世帯へと、700倍以上に増えた。若者たちはPC房に集まり、StarCraftで腕を競った。

試合は、やがてテレビ番組になった。1999年にアニメ専門チャンネルが試合を中継して手応えをつかむと、2000年7月には、世界初のゲーム専門チャンネル「オンゲームネット」が開局する。「テランの皇帝」と呼ばれたイム・ヨファン選手のようなスターが次々に生まれ、2000年代の半ばには、釜山の広安里(クァンアンリ)海水浴場で開かれたプロリーグの決勝に、10万人を超える観客が押し寄せた。

「eスポーツ」という言葉を国の旗印にしたのも、韓国だった。2000年2月、現在の韓国eスポーツ協会(KeSPA)の前身にあたる団体の設立式で、当時の文化観光部長官、朴智元(パク・チウォン)氏が祝辞の中でこの言葉を使い、政府はIT産業を育てる政策の一環として、その普及に力を入れた。2012年には、eスポーツ振興法も施行されている。ゲームの対戦を、国の制度と放送網と観客で裏打ちし、「eスポーツ」という呼び名とともに世界に定着させたのが韓国だった。

イム選手が所属したSKテレコムT1は、いまLoLの王者として知られるT1の前身である。StarCraftそのものも、発売から28年たった今なお韓国で遊ばれ続けている。韓国の配信大手SOOP(旧アフリカTV)が運営する個人リーグ「ASL」は、9年間で延べ2億人が視聴した。ただし、韓国の経済紙マネートゥデイによれば、優勝賞金は3,000万ウォン(約350万円)ほどで、リーグ自体はほとんど稼いでいない。SOOPの売上の7割以上は、視聴者が配信者に贈る投げ銭と月額課金だ。大会は、投げ銭をする視聴者を集めるための入り口になっている。

そして2026年9月12日、ブリザードは米アナハイムで開いた自社イベント「ブリズコン」で、StarCraftの新作を発表した。ただし、ジャンルは戦略ゲームではなく、広い世界を歩き回りながら銃で戦うオープンワールド・シューターで、発売は2030年春の予定だ。韓国のeスポーツを生んだ名前は残るが、あの戦略ゲームの時代は、ひとつの区切りを迎えた。

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ストリートファイター――ゲームセンターの対戦台から、世界の賞金大会へ

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格闘ゲームのルールは単純だ。1対1で、パンチやキック、必殺技をぶつけ合い、相手の体力を先にゼロにした方が勝つ。1991年にゲームセンターに登場したカプコンの『ストリートファイターII』は、2台のゲーム機を背中合わせにつなぎ、向かい側にコインを入れれば見知らぬ相手に挑める「対戦台」の文化を、日本中に広げた。

その腕比べは、やがて海を渡る。米ラスベガスで毎年開かれる世界最大の格闘ゲーム大会「EVO」で、2004年、梅原大吾選手は、体力がわずかしか残っていない状態から、相手の必殺技の連続攻撃を「ブロッキング」という技ですべてはじき返し、逆転勝ちした。米ゲームサイトのコタクは、この一戦を「プロゲーム史上最も記憶に残る名場面」の1位に選んでいる。梅原選手は2010年、米周辺機器メーカーのマッドキャッツと契約し、日本で初めてのプロゲーマーになった。

2023年に発売された『ストリートファイター6』は、2026年6月末までに720万本を売った。カプコンは自ら世界ツアー「カプコンプロツアー」と、チーム戦の「ストリートファイターリーグ」を運営し、2026年シーズンに用意する賞金は総額210万ドル(約3億3,000万円)を超える。冒頭の両国国技館の大会はその頂点で、2027年3月の「カプコンカップ13」も、同じ国技館で、優勝賞金100万ドルのまま開かれる。

いっぽうで、大会の器の持ち主は大きく入れ替わった。EVOは2021年にソニーと米国の大会運営会社RTSが買収したが、2025年にソニーが手を引いた。2026年2月には、サウジアラビアの政府系ファンドが進める巨大開発事業「キディヤ」の傘下に入っていたRTSが、全株式を握った。『ザ・キング・オブ・ファイターズ』で知られる日本のSNKは、2022年までに、サウジのムハンマド皇太子が設立したミスク財団系の投資会社に96%の株式を握られた。同じ投資会社は2026年、カプコン株の保有比率も6.04%まで引き上げている。格闘ゲームの世界地図は、いつの間にかサウジの資本で塗り直されつつある。

足元では、揺らぎも見える。6月にラスベガスで開かれたEVO本大会で、ストリートファイター6の参加者は約2,400人と、前年から43%減った。米コタクなどは、米国の査証(ビザ)取得の難しさ、渡航費の高騰、日程の変更に加え、EVOがフランスやシンガポールに大会を広げ、海外の選手が地元に近い大会を選べるようになったことを理由に挙げている。

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LoL――世界最大の観客と、ようやく見えてきた採算

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LoLは、5人ずつのチームが、地図の両端にある相手の本拠地を壊し合うゲームだ。2009年の発売から17年たった今も、eスポーツで最大の観客を集める。2024年にロンドンで開かれた世界選手権の決勝は、中国の配信サイトを除いても同時視聴者が約690万人に達し、調査会社エスポーツ・チャーツによれば、eスポーツ史上最も見られた試合になった。中国・成都で開かれた2025年の決勝では、韓国のT1が同じ韓国のKTロールスターを3対2で破り、史上初の3連覇を果たした。チームの顔であるフェイカー選手にとっては、6度目の世界一だった。

今年の世界選手権は、10月15日に米国で開幕し、11月14日にニューヨークのバークレイズ・センターで決勝を迎える。

華やかな舞台の裏で、ビジネスは長く赤字だった。ライアットは2018年、北米リーグを米国のプロスポーツのようなフランチャイズ制に切り替え、参加チームに1,000万ドル(約16億円)の加盟料を課した。チームは投資家から集めたお金で選手を抱えたが、スポンサー収入だけでは費用をまかなえなかった。

そこでライアットは、稼ぎ方を変えた。頼ったのは、ゲームの中で売る記念アイテムだ。世界選手権の優勝チームをモチーフにしたキャラクターの衣装などを売り、その売上の一部をプロチームに分配する。同じライアットの射撃ゲーム『ヴァロラント』では、2025年にチームへ分配したデジタル売上が1億ドル(約157億円)を超えた。2025年6月には、南北米と欧州・中東・アフリカのトップチームに、賭けサイトのスポンサーを認めた。その際ライアットは、賭け事業者に、ライアットが公式に指定する試合データの基盤「GRID」の利用を義務づけ、自社の配信には賭けの広告を流さない線を引いている。LoLとヴァロラントの試合に世界で賭けられたお金は、2024年だけで107億ドル(約1兆6,800億円)にのぼると、ライアット自身が明かした。

こうした手を重ねた結果、ニーダム氏は前出の取材で、LoLのeスポーツ事業が社内で収支トントンに「すごく近い」ところまで来たと述べた。「私たちは、ライアットの中で収支を合わせ、自立できる」。裏を返せば、世界最大のeスポーツでさえ、2026年になってようやく赤字を抜け出そうとしている、ということでもある。

チームの側では、T1の決算がこの構造をよく映している。2025年の売上高は886億ウォン(約100億円)と前年から8割増え、会社として初めて、25億ウォン(約2億9,000万円)の営業黒字を出した。売上の8割以上を占めたのは、ユニフォームやグッズなどの物販だった。賞金でも放映権でもなく、フェイカー選手と仲間たちのファンが買うグッズが、名門チームを黒字に押し上げたのである。

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APEX――日本が世界の中心になったバトルロイヤル

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APEXは、3人1組の20チーム、計60人が一つの島に降り立ち、武器を拾いながら最後の1チームになるまで撃ち合うゲームだ。基本無料で遊べることもあって、日本では人気の配信者やVチューバーが次々と大会に出場し、ファンを広げてきた。日本のプロチーム、クレイジーラクーンが主催し、人気配信者とプロ選手が組んで戦う「CRカップ」には、30万人を超える視聴者が集まった回もある。

その熱が、公式の世界大会の地図を塗り替えた。EAが主催する世界シリーズ「ALGS」の年間王者決定戦は、2025年から札幌の大和ハウス プレミストドームで開かれている。2026年1月の大会ではチケットが3万8,000枚以上売れ、最終日には約1万6,500人がドームに集まった。英国のeスポーツ専門メディアによると、配信で最も多く見られた言語は英語ではなく日本語で、サイバーエージェント系の「RAGE」が担当した日本語配信は、公式の英語配信のおよそ2倍の視聴者を集めた。

7月には、パリで開かれたALGSの世界大会で、日本のUNLIMIT(アンリミット)が優勝し、賞金60万ドル(約9,400万円)を手にした。APEXの世界大会を日本のチームが制したのは、これが初めてだ。次の年間王者決定戦は、2027年1月28日から31日まで、3年連続で札幌で開かれる。

そのAPEXの持ち主も変わった。8月4日、EAは、サウジのPIF、米投資ファンドのシルバーレイク、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が率いるアフィニティ・パートナーズの3者による買収を完了し、米ナスダック市場から姿を消した。1株210ドルの全額現金による買収で、経営はアンドリュー・ウィルソン最高経営責任者が引き続き担う。日本で最も熱いeスポーツのひとつは、サウジの政府系ファンドが主導する会社のものになったのである。

市場規模はどれくらいか――ゲーム市場のおよそ1%

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では、eスポーツは、どれほど大きな産業なのか。

世界のゲーム市場は、オランダの調査会社ニューズーの予測で、2026年に2,139億ドル(約33兆6,000億円)に達する。これに対し、ドイツの統計会社スタティスタは、2026年の世界のeスポーツ市場を49億1,000万ドル(約7,700億円)と見込む。ただし、その6割近い28億ドル(約4,400億円)は、試合の勝敗に賭けるベッティングの売上だ。スポンサー料や放映権料、ゲーム会社からの分配金、チケットやグッズ、配信の収入を合わせた、いわば本来のeスポーツ事業は、21億ドル(約3,300億円)ほどにとどまる。ゲーム市場全体の、わずか1%ほどだ。LoLとヴァロラントの2作品に賭けられたお金だけで、2024年に107億ドル(約1兆6,800億円)に達したことを思えば、eスポーツの周りで動くお金の大半は、eスポーツ事業そのものの外側を流れていることになる。

国別に見ると、その構図はさらにはっきりする。中国の業界団体、中国音像・デジタル出版協会によれば、中国のeスポーツ産業の2025年の売上は293億元(約6,900億円)で、その8割は配信プラットフォームの収入だった。大会の収入は25億元(約590億円)、チームの収入は19億元(約440億円)にすぎない。韓国では、政府系の韓国コンテンツ振興院が、2023年の産業規模を2,569億ウォン(約300億円)と推計したうえで、チームの慢性的な赤字を指摘している。

日本は、日本eスポーツ協会(JESU)の『日本eスポーツ白書2025』によると、2024年の市場規模が約161億円で、前年から9.9%伸びた。イベント運営の売上とスポンサー料が、それぞれ全体の35%以上を占める。協会は2026年に200億円を超えると予測し、試合や配信を見たことのあるファンは、2024年の約967万人から、2026年には1,500万人に迫るとみている。

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プレイヤー企業の地図――誰が、どこで稼いでいるのか

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eスポーツの産業は、4つの層でできている。いちばん上にゲーム会社、その下に大会を開く運営会社、試合に出るチーム、そして試合を届ける配信プラットフォームだ。

ゲーム会社の顔ぶれは、世界のゲーム産業そのものである。LoLとヴァロラントを持つ、テンセント傘下のライアット。StarCraftや『コール・オブ・デューティー』を持ち、2023年にマイクロソフトの傘下に入ったアクティビジョン・ブリザード。APEXのEA。『カウンターストライク2』と『Dota 2』の米バルブ。そして、ストリートファイターのカプコン、『鉄拳8』のバンダイナムコ、『PUBG』の韓国クラフトンが並ぶ。スマートフォンでは、東南アジアで圧倒的な人気を持つ『モバイル・レジェンド』の中国ムーントンが大きく、世界で15億回ダウンロードされ、月に1億1,000万人以上が遊んでいる。

大会の運営では、ドイツ発祥のESLと対戦基盤のFACEITが一緒になったESL FACEITグループが世界最大手で、これもサウジの傘下にある。日本では、サイバーエージェント子会社のCyberZとエイベックスが中心になって運営する「RAGE」が、APEXの日本語配信や国内の公式大会を手がける。

チームでは、T1、フランスのチーム・ヴァイタリティ、オランダ発のチーム・リキッド、サウジのチーム・ファルコンズ、中国のAG.ALなどが世界の上位にいる。エスポーツ・ワールドカップ(EWC)で、各タイトルの成績を合算して争う「クラブ選手権」では、ファルコンズが2024年と2025年に連覇し、2026年は中国のAG.ALが、優勝賞金700万ドル(約11億円)を手にした。

稼ぎ方は、層ごとにまったく違う。ゲーム会社は、ゲームの販売とゲーム内アイテムで稼ぎ、大会はその販売促進になる。配信プラットフォームは、広告と投げ銭で稼ぐ。いちばん苦しいのがチームで、賞金は不安定、スポンサーは景気に左右される。だからチームは、T1のようにグッズで稼ぐか、ライアットのようなゲーム会社から売上の分配を受けるか、EWCを主催するサウジの財団から支援金を受けるかして、生き延びている。この財団は2026年、世界の40チームに総額2,000万ドル(約31億円)、1チームあたり最大100万ドル(約1億5,700万円)を配る「クラブ・パートナー・プログラム」を実施した。日本から選ばれたのは、REJECT(リジェクト)とZETA DIVISION(ゼータ・ディビジョン)の2チームだった。

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最大の投資家はサウジアラビア

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いまeスポーツに最も多くのお金を入れているのは、ベンチャーキャピタル(VC)でも、広告主でもない。サウジアラビアという国家だ。

政府系ファンドのPIFは2022年、ゲーム事業の持ち株会社サヴィ・ゲームズ・グループを通じて、1,420億リヤル、およそ380億ドル(約6兆円)を投じる国家戦略を打ち出した。2030年までに国内にゲーム会社を250社つくり、3万9,000人の雇用を生むという計画だ。同じ年に、ESLとFACEITを合わせて15億ドル(約2,400億円)で買収し、世界最大の大会運営会社を手に入れた。2026年3月には、ムーントンを中国の字節跳動(バイトダンス)から60億ドル(約9,400億円)で買うことで合意したと、米ブルームバーグや英ロイターが報じた。そして8月、EAの買収を完了させた。

大会の器も押さえた。2024年に首都リヤドで始めたEWCは、2026年、24タイトルで総額7,500万ドル(約118億円)という過去最高の賞金を用意した。ところが、イランをめぐる戦争で中東の情勢が緊迫し、主催するエスポーツ財団は5月、「地域の情勢」を理由に、会場をパリへ移すと発表した。サウジの外で開かれるのは初めてだった。7月から8月の7週間で、視聴者は8億5,000万人と前年を13%上回り、チケットの販売は94%増えた。2027年には、再びリヤドへ戻る。

一方で、戦争の影は予定を狂わせてもいる。財団は8月18日、国別対抗戦として11月にリヤドで初めて開く予定だった「エスポーツ・ネーションズカップ」を、1年延期して2027年11月にすると発表した。国際オリンピック委員会(IOC)との関係も切れた。IOCとサウジは2024年、12年間にわたって「オリンピックeスポーツ大会」をサウジで開く約束を交わしたが、2025年10月に白紙に戻した。共同通信は2026年5月、IOCがeスポーツ委員会の活動を止めたと報じた。コベントリー会長は、eスポーツは自分の執行部の下で「しっかり生きている」と述べつつ、理事会に何かを示せるのは6月以降だとして、時期を明らかにしていない。

調査会社のエスポーツ・チャーツは7月の分析で、サウジの資本が、ゲーム開発、大会運営、老舗の大会ブランド、そして会場という物理的な基盤まで、eスポーツ全体の「土台となる資金源」になったと書いた。サウジにとってeスポーツは、石油に頼らない経済をつくる国家計画「ビジョン2030」の看板であり、若者の雇用と観光の呼び水でもある。投資の物差しが、利回りだけではないのだ。

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VCと投資家はどう見てきたか――過熱、冬、そして選別

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民間の投資家は、この10年で、eスポーツに熱狂し、そして冷めた。

熱狂のピークは、2018年から2022年ごろだ。米国のゲーム専門VC、コンボイは2018年11月、eスポーツチームの企業価値が売上の約13倍で取引され、IT企業の約10倍、プロスポーツ球団の約5倍を上回っていると指摘した。たとえば米クラウド9は、売上2,200万ドル(約35億円)に対して、3億1,000万ドル(約490億円)と評価されていた。ところが、チームの収入源はスポンサー、グッズ、放映権と、スポーツ球団とほとんど変わらない。コンボイは、IT企業のように繰り返し稼げる仕組みを作れなければ、2〜3年のうちに評価額は下がるだろうと警告した。

警告は当たった。暗号資産の交換業者FTXは2021年、米TSMと、10年で2億1,000万ドル(約330億円)の命名権契約を結んだが、翌年に経営破綻した。米フェイズ・クランは2022年、特別買収目的会社(SPAC)との合併によって7億2,500万ドル(約1,140億円)の評価で上場したが、2024年には同業のゲームスクエアに、約1,700万ドル(約27億円)で買われた。1チーム2,000万ドル(約31億円)以上の加盟料を集めたアクティビジョン・ブリザードの「オーバーウォッチリーグ」は、2023年のシーズンを最後に終わり、各チームに600万ドル(約9億4,000万円)の解約金を払った。

では今、民間のお金はどこへ向かっているのか。投資銀行ドレイク・スター・パートナーズによると、2026年4〜6月期のゲーム関連の資金調達は96件、25億ドル(約3,900億円)超と、この1年で最も多かった。ただし、大型案件の中心は広告計測や生成AIの会社で、eスポーツのチームではない。エスポーツ・チャーツが米CBインサイツのデータをもとにまとめた調達額ランキングでも、首位のT1ですら、累計で1億ドル(約157億円)ほどだ。

業界の当事者たちも、選別の時代を覚悟している。インドの大会運営大手NODWINゲーミングのアクシャット・ラティー共同創業者は、2026年の見通しとして「大会運営会社、ゲーム会社、チームのすべてで、撤退や売却は避けられない」と語った。仏チーム・ヴァイタリティのダニー・エンゲルス氏は、「収入源を分散した組織が勝ち残る」とみる。

VCの目で見れば、構図ははっきりしている。ボールとルールを持つゲーム会社と、視聴者を抱える配信プラットフォームには、利益が集まる。チームに出資して大きなリターンを得る道は細い。だから民間のVCは、チームそのものよりも、試合のデータや配信の技術、学校や地域の大会といった周辺のインフラ、いわゆる「つるはしとシャベル」に目を向けてきた。コンボイは2024年1月のリポートで、eスポーツとして長く愛されたいゲームは、第三者の大会運営会社や草の根の大会に門戸を開く「開かれた生態系」に向かうべきだと書いている。

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日本の現在地――「賞金10万円の壁」を越えて

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日本のeスポーツには、かつて独特の壁があった。景品表示法だ。お金を払って買うゲームの大会で配る賞金は、商品を売るための「景品」とみなされるおそれがあり、賞金は最高10万円までに制限されかねなかった。世界で数億円の賞金が飛び交うなか、日本の大会は高額の賞金を出しにくかった。

2018年に発足した日本eスポーツ連合、現在の日本eスポーツ協会は、プロライセンス制度をつくり、2019年には消費者庁から、協会が認めた大会の賞金は「仕事の報酬」にあたり、景品表示法には違反しないという回答を得た。これで、日本でも高額賞金の大会を開く道が開けた。

いま日本は、eスポーツの「会場」として世界から選ばれるようになった。カプコンカップは2027年も両国国技館で開かれ、APEXの年間王者決定戦は3年連続で札幌に来る。アジア競技大会のeスポーツ、11種目13タイトルには、ストリートファイター6、鉄拳8、ぷよぷよ、グランツーリスモ7、eフットボール、ポケモンユナイトと、日本のゲーム会社の作品が並んだ。ゲームという「ボール」を持つ会社が多いことこそ、日本の最大の強みだ。国も動き出した。日本経済新聞によると、五輪選手の強化拠点である味の素ナショナルトレーニングセンターに、専用の「Eスポーツラボ」が設けられ、韓国や中国を追う体制づくりが始まった。

チームにも、お金が集まり始めている。国内の強豪チームREJECTは2024年11月、アブダビのジャイファルコン・ホールディングを筆頭に、日本政策投資銀行系のDBJキャピタル、三菱UFJキャピタル、オリックス・キャピタル、伊藤忠商事などから10.7億円を調達し、中東に拠点を設けた。ストリートファイター部門には梅原大吾選手やときど選手らが所属し、2026年3月には両国国技館で、チーム戦の世界一決定戦を制している。

それでも、お金の規模ではまだ小さい。日本の市場161億円は、中国の40分の1ほどだ。世界的な人気作と熱心なファン、そして大会の会場を持ちながら、そこから生まれる利益の多くは、海外のゲーム会社や配信プラットフォーム、そしてサウジの資本へ流れていく。日本がこの循環のどこで稼ぐのかが、次の課題になる。

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これから何が起きるか――2026年秋から2030年までの日程

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直近では、10月2日にアジア競技大会のeスポーツ競技が幕を閉じる。10月上旬には南仏ニースで格闘ゲームの「EVOフランス」が開かれ、参加登録は過去最多の3,748人に達した。

10月15日にはLoLの世界選手権が米国で開幕し、11月14日にニューヨークで決勝を迎える。10月29日から11月1日には、APEXのALGSの大会がラスベガスで開かれる。年が明けると、2027年1月28日から31日に札幌でALGSの年間王者決定戦が、3月10日から14日には両国国技館でカプコンカップ13が続く。

投資家が見るべきは、その先だ。ひとつ目は、サウジの資本が、中東の戦争を越えて流れ続けるかどうか。EWCは2027年にリヤドへ戻り、11月には延期されたネーションズカップが控える。予定どおり開けるかは、サウジの本気度と地域の安全を測る試金石になる。二つ目は、非公開企業になったEAが、APEXの大会にどこまで投資を続けるか。三つ目は、LoLのeスポーツが本当に収支トントンに届くかどうかだ。ライアットが黒字化を宣言できれば、「eスポーツはゲーム会社の広告費」という通説が変わる。四つ目は、IOCが、オリンピックとeスポーツの関係をどう描き直すかである。

日本では、例年3月に出る白書の次の号で、2025年の市場が予測どおり180億円台に乗ったかが分かる。そして2030年春には、StarCraftの名前が、戦略ゲームではなくシューティングゲームとして帰ってくる。

国技館で1億5,700万円の賞金を出したのは、ゲームを売るカプコンだった。eスポーツのお金の流れをたどると、最後はいつも、ボールとルールを持つ者にたどり着く。そして今、そのボールの持ち主の名簿に、サウジアラビアという国家が、次々と名前を書き込んでいる。


eスポーツ(esports)の市場規模とプレイヤー企業 - これから何が起きるか――2026年秋から2030年までの日程 - 図表1