誰も乗っていない小さな船が、鎌倉の沖を進む

日本スタートアップ大賞2026 防衛大臣賞受賞、海の上の防衛テックOceanic Constellations(オーシャニック・コンステレーションズ) - 誰も乗っていない小さな船が、鎌倉の沖を進む - 章扉

富士山と江の島を望む鎌倉の沖を、長さ3メートルほどの小さな船が進んでいく。甲板には誰も乗っていない。舵を握る人も、岸からリモコンで操る人もいない。

今年8月31日、この船は、マリーナに据えた架台から自分で海へ出ていき、沖の試験海域まで走って、また自分で架台に戻って収まった。桟橋やまわりの船はカメラとレーザーのセンサーで見分け、どこを通るかは船に積んだAIが自分で決めた。港の側には、位置を測るための設備を何も足していない。その1年前の夏には、ひとつ前の世代の船が、日没から夜明けまでの12時間、たった1隻で鎌倉の沖を見張り続けた。狙いは夜の密漁だ。この海では、海の底に違法なタコかごなどを仕掛ける密漁に、地元の漁協が悩まされてきた。

この小さな船を数十隻、やがてはそれ以上の数で日本の周りの海に浮かべ、宇宙を回る人工衛星の群れのように、網の目で海を24時間見張り続ける。神奈川県のスタートアップ、Oceanic Constellations(オーシャニック・コンステレーションズ)、略してOCが描く「海の衛星群」だ。社名は、この構想をそのまま英語にしたものになっている。

9月25日、首相官邸で開かれた日本スタートアップ大賞2026の表彰式で、OCは防衛大臣賞を受けた。317件の応募から選ばれた10社の一つで、創業からまだ2年10か月しかたっていない。式には高市早苗首相が出席し、最高賞の内閣総理大臣賞は、産業用ロボットに目と判断力を与えるMujin(ムジン)が受けた。

公式の受賞資料は、多数の水上無人機をネットワークでつなぎ、海を常に見張る「USVコンステレーション・サービス」の開発を進めている点を評価したと記している。群れで動く無人の船を実際の海で運用し、量産してサービスに広げることで、広い海を効率よく見張る力を手に入れ、無人の装備を生かした防衛力の強化に貢献することが期待される、という。

防衛大臣賞は2025年に新しくできた賞で、OCは2社目の受賞になる。初代は、レーダー衛星で宇宙から地上を見張るSynspective(シンスペクティブ)だった。宇宙から見張る会社の次に、海の上から見張る会社が選ばれたことになる。

「海の衛星群」とは何か

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USVは、英語のUnmanned Surface Vehicleの頭文字で、人が乗らずに水面を走る船、いわば水上のドローンだ。コンステレーションは、もともと星座を意味する言葉で、宇宙の業界では、たくさんの小型衛星を連携させて、地球を切れ目なく見張ったり通信をつないだりする仕組みを指す。数千基の衛星で地球を覆う衛星通信網を思い浮かべると分かりやすい。OCはこの考え方を、海の上に持ち込もうとしている。

なぜ海で必要なのか。日本の領海と排他的経済水域を合わせた広さは世界で6番目、陸地のおよそ12倍に及ぶ。この広い海で何が起きているかを、日本は十分につかめていない。船や飛行機で見回るには人手が足りない。人工衛星は宇宙から広く見渡せるが、同じ場所の真上に来るのは限られた時間だけで、衛星が使う電波は水の中にほとんど届かない。海の中は、宇宙からは見えないのだ。

共同代表の本田拓馬氏は、地上と宇宙は電波でやり取りし、海の中は音波でやり取りする、その両方を使える唯一の結節点が海だ、と説明している。

OCの答えは、海の上に見張り番を置きっぱなしにすることだ。太陽光パネルと蓄電池を積んだ小さな無人の船が、同じ海域に長くとどまり、水面の上はカメラで、水面の下は音を使うソーナーで見張る。1隻ではなく群れで動かし、互いを通信でつなぎ、どの船がどこを受け持つかをAIが割り振る。この「群制御」がOCの中核の技術だ。数十隻を少人数のオペレーターで動かすことを目指し、全体の配置は中央のクラウドが決め、波や風への細かい対応は船それぞれが自分で判断する、二段構えの仕組みをとっている。

もうけ方にも特徴がある。OCは船を売らない。船は自社で持ち、自社で動かし、集めた海のデータや見張りの成果を、国や自治体、企業に提供する。自前の衛星で撮った画像を売る衛星の会社と同じ形で、OC自身は「海洋無人機をセンサー群としてデータサービス化する」と表現している。

使い道は一つではない。鎌倉では市や地元の漁協と組んで密漁を見張りながら、海底の地形を測る、津波の高さをその場で捉える、海の事故を防ぐ、といった使い方にも取り組み始めた。日本郵船とは、宇宙から戻ってくる再使用型ロケットを海の上で回収する計画で手を組んでいる。そして、防衛だ。

海での実験は天気に左右され、何十隻もの船を同時に試すのは難しい。そこでOCは、本物の海のデータを取り込んだ仮想空間をつくり、実物の船のそばに仮想の船を何隻も走らせて、群れの動きを確かめている。共同代表の小畑実昭氏は、グーグル系の自動運転会社ウェイモが仮想空間でのテストで実用化を早めた例を挙げ、同じやり方を海で進めると語っている。

防衛大臣賞の中身 ― 水中を「聴く」約5億円の実証

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OCの防衛の仕事は、すでに契約の形になっている。防衛装備庁が公表した契約結果によると、OCは2026年3月31日、「マルチスタティックソーナー技術概念実証(USV)」という業務を約5億円で受注した。民間の新しい技術を5年以内に装備にすることを目指す、防衛省の「早期装備化実証推進事業」の一つだ。価格の競争入札ではなく、技術の提案を審査して相手を選ぶ「スタートアップ技術提案評価方式」が使われ、随意契約が結ばれた。

ソーナーは、水の中に音を出し、跳ね返ってきたこだまで潜水艦などを探す装置だ。ただ、長さ数メートルの小さな船に積めるソーナーは力が弱く、自分で出した音のこだまを自分で聞く今のやり方では、探せる範囲が狭い。そこで、1隻が音を出し、離れた場所にいるほかの船がそのこだまを聞き取る。暗い体育館で、一人が懐中電灯を振り、壁際に散らばった何人もが、跳ね返った光を見張るようなものだ。これがマルチスタティック捜索で、群れで動くことを前提にしたOCの船と相性がいい。

防衛省の公募の説明書は、この事業の背景をはっきりと書いている。海に囲まれた日本にとって、海上交通路の安全は死活的に重要だ。しかし海は広く、少子高齢化で人手も足りず、水の中を絶え間なく見張るのは難しい。いま相手国の潜水艦の動きは、海上自衛隊の有人の艦艇などでつかんでいるが、有人である以上、見張れる範囲は極めて限られる。無人の船は、有人の艦より安く、人の命を危険にさらさず、長く連続して動かせるので「ゲーム・チェンジャー」になり得る、というのだ。

予定では、2026年度の前半までに小型の捜索用ソーナーを試し、年度の後半、つまりこの秋から来年3月にかけて、開発したソーナーを小型のUSVに積んで、実際の海で試す。

この公募の評価基準には、全長3メートル以下の小型USVの運用実績が挙げられ、外洋での実績には加点するとされた。鎌倉の海で積み上げてきた運用の経験が、そのまま防衛の受注の物差しになったことになる。

賞そのものにも、名誉以上の意味がある。同じ説明書では、日本スタートアップ大賞の受賞企業であることが、この公募の参加資格を満たす条件の一つに挙げられていた。さらに審査の100点のうち30点が、高度で独自の技術を持つスタートアップかどうかに割り当てられ、日本スタートアップ大賞の受賞企業などが単独で提案すれば、その30点がまるごと加点される仕組みだった。防衛大臣賞は、次の公募に向けた強い通行証にもなる。

業界の状況 ― 海の無人機が、戦い方とお金の流れを変えた

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海の無人機に世界の目が集まったきっかけは、ウクライナだ。大きな海軍を持たないウクライナは、海上ドローンと対艦ミサイルを組み合わせてロシア黒海艦隊の約3分の1を撃沈、または大破させ、残った艦をクリミアから東の港へ退かせた、と米国のシンクタンク、戦争研究所は分析している。巨額の軍艦が、はるかに安い無人の船に脅かされる。この現実が、各国の海軍と投資家の見方を変えた。

お金の流れも急だ。米調査会社ピッチブックの集計では、民生と防衛の両方に使えるデュアルユースの企業を含めた防衛テックへのベンチャー投資は、2025年に491億ドル(約7兆8000億円)に達した。前の年から8割増え、過去最高だ。

海の分野で突出しているのが、軍用の自律航行艇をつくる米国のSaronic(サロニック)だ。2026年3月、クライナー・パーキンスが主導した資金調達で17億5000万ドル(約2800億円)を集め、企業価値は92億5000万ドル(約1兆4600億円)と評価された。海洋観測の無人の船で実績を積んできた米国のSaildrone(セイルドローン)も、2025年10月に防衛大手ロッキード・マーチンから5000万ドル(約80億円)の出資を受け、ミサイル発射装置を載せる統合を進めている。

OCが政府の会議に出した資料は、世界の海の無人機スタートアップを見渡して、ほぼすべてがデュアルユースだと指摘したうえで、米国勢は軍事、欧州勢は洋上風力や環境の調査が主な舞台で、アジアにはまだ担い手が少ないと整理している。そして、長く海にとどまること、群れで多くの地点に広がること、量産を前提にすること、この三つをはっきり実装している会社はほかにない、と自らの立ち位置を示した。

日本でも動きは速い。防衛省は2026年度の予算に、無人機を使った防衛能力の強化として約2773億円を計上した。このうち約1000億円で、安くて数の多い空・水上・水中の無人機を組み合わせて沿岸を守る「SHIELD(シールド)」という態勢を、2027年度中に築く。SHIELDで買うのは、敵の車両や艦艇を攻撃する無人機が中心で、OCの本業に近いのは見張りの側だ。その見張りの分野でも、同じ予算に、小型のUSVで警戒監視の態勢を築くための実証試験として16億円が盛り込まれた。

政府は年末に向けて、安全保障関連の3つの文書の改定を進めている。共同通信は9月、次の防衛力整備計画の素案が、2027年度からの5年間で約5万2000機の無人装備の導入を検討していると報じた。読売新聞は7月、海上保安庁向けの無人船の研究開発を、2027年度から国内の造船会社などと始める方針を伝えている。日本の海の無人機は、試しに使う段階から、数をそろえて買う段階へ移ろうとしている。

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強み ― 速さ、特許、そして造船所

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OCの強みの一つ目は、海に出るまでの速さだ。日本には、長さ3メートル未満で、エンジンの出力がおよそ2馬力未満の小さな船なら、船の検査も操縦免許もいらない「ミニボート」という独自の枠がある。OCは政府の会議で、このミニボートの規格に合わせることで最速で海に出す戦略を説明している。鎌倉沖で使ってきた実証機「アルファ機」は電動の2馬力船で、創業から約1年で運用試験を始めた。2025年4月には実際に密漁を探知し、8月には夜通し12時間の無人運航に成功した。2026年に入ると、民間のマリーナからの出し入れ、目印に頼らない自動の回収、そして発進から帰還、格納までの完全な自律航行と、海で使い続けるために欠かせない技術を、半年ほどの間に立て続けにクリアした。

二つ目は特許だ。OCは、海の上で無人の船の群れを動かす技術について、すでに22件の特許を取得している。小畑氏は特許庁のスタートアップ向けサイト「IP BASE(アイピーベース)」のインタビューで、空のドローンでは海外の企業が先に特許を押さえ、後から来た者はそれを迂回して開発するしかなかった、という教訓を語っている。だからOCは、市場が立ち上がる前に先回りして押さえる。群れを動かす中核のソフトは社内に抱え、センサーなどの周辺は外の会社と組んで広げる、という線引きだ。

三つ目は、造船所と組んだ量産の構えだ。OCは、日本郵船グループで唯一の造船所である京浜ドックと組み、横浜の工場で無人の船を量産する体制づくりを進めている。6月には、この京浜ドックの現場で、船が自分のセンサーだけで架台の位置と向きをつかみ、目印なしで収まる自動回収にも成功した。横須賀では、地元の老舗の物流会社である相模運輸倉庫、京浜ドックと3社で、海洋無人機の開発から製造、修理、運用までを一か所で担う拠点「Yokosuka Constellations Center(ヨコスカ・コンステレーションズ・センター)」の新設に向けた検討を始めた。横須賀市が8月25日、港の一角でこうした施設をつくれるよう規制を緩めたのがきっかけだ。部品や機器の取引先の候補とは、すでに約130社と接点があるという。OCはこれを「Built by Japan」と呼び、日本の造船、舶用機器、電子部品、センサーの力を束ねて、無人機の国産サプライチェーンをつくると打ち出している。

四つ目は、一つの船で複数の市場を狙えることだ。防衛、海上保安、漁業、防災、港の管理、そして宇宙。日本郵船とは、ロケットの洋上回収から、海の上からの打ち上げや通信まで含めた「洋上宇宙インフラ」へ、協業の範囲を広げた。同じ機体と同じ群制御の仕組みを顧客ごとに使い分けられれば、一つの市場が細っても会社は持ちこたえられる。

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課題 ― 桁違いの資金差と「死の谷」

日本スタートアップ大賞2026 防衛大臣賞受賞、海の上の防衛テックOceanic Constellations(オーシャニック・コンステレーションズ) - 課題 ― 桁違いの資金差と「死の谷」 - 章扉

最大の課題は、資金の規模だ。OCが創業以来集めた資金は累計で約40億円。米サロニックが1回の調達で集めた約2800億円の、およそ70分の1にとどまる。OC自身、政府の会議に出した資料で、国内ではリーディングプレーヤーを目指すが、世界では「劣位からの競争環境」に入っていくと認め、規模のある資金調達と、政府の調達による成長期の後押しが欠かせないと訴えた。同じ資料でOCは、スタートアップが大企業と組んで量産工場を立ち上げる場合に、20億円から30億円規模の公的な投資を、民間が4分の1から3分の1を負担する形で行う仕組みも提案している。

二つ目は、実証から本格的な調達へ進む壁、いわゆる「死の谷」だ。OCの分析では、米国をはじめ世界のデュアルユースのスタートアップは、成長期に大型の政府調達をばねにして伸びてきたのに、日本にはそれに当たる支援の枠組みがない。約5億円の実証は大きな一歩だが、あくまで試すための契約で、数十隻、数百隻を買ってもらう契約とは桁が違う。防衛装備庁自身も、スタートアップから見た課題として、調達の手続きが煩雑で時間がかかること、研究開発に失敗したときのリスクが企業の側に偏ること、代金が後払いで資金繰りが苦しくなることを挙げている。装備庁は、手続きを大幅に速める「ファストパス調達」を掲げ、2026年度からは日本版SBIR制度の活用も始めて、この谷を浅くしようとしている。小畑氏も10月、大阪で開かれたGlobal Startup EXPO 2026で防衛イノベーションの討論に登壇し、防衛装備庁や経済産業省の幹部と並んで、実証から本格調達へ移るときに事業者がぶつかる課題を語った。

三つ目は、外洋で長く生き残る技術だ。鎌倉の沖での成功は、比較的穏やかな沿岸での話でもある。外洋では高い波にもまれ、小さな船はいつひっくり返ってもおかしくない。太陽光パネルを広く敷こうと船の幅を広げると、ひっくり返ったまま戻りにくくなる。OCは、水面から上の部分を片側に張り出させた左右非対称の船体にして、転覆しても自分で起き上がれる形をつくり、特許を取った。ヨットレースの最高峰アメリカズカップのチームで10年働いた技術者の知恵を借りた設計だ。ただ、何十隻もの本番の船を、何か月も同時に外洋に置き続ける運用は、まだこれからだ。群れの動きは、これまで小型のデモ機13機や仮想の船を組み合わせて試してきた段階にある。

四つ目はルールだ。ミニボートの枠は、早く海に出るための近道だった。しかし、より大きな船や沖合での運用には、別のルールづくりが要る。OCは、遠隔操縦の小型船に関するガイドラインを技術の進歩に合わせて見直すことや、領海の外で電波をより柔軟に使えるようにすることを、政府に求めている。日本海事協会や海上技術安全研究所、東京海洋大学の助言を受けながら、自社の安全基準づくりも進めている。

そして、データを継続して買ってくれる顧客を、どれだけ積み上げられるかだ。船を自社で持って運用する事業は、船を売る事業よりも先にお金が出ていく。2027年の本格事業化までに、防衛以外も含めて、安定して払ってくれる顧客をどこまで確保できるかが、次の資金調達での評価を左右する。

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創業から2年10か月の歩み

日本スタートアップ大賞2026 防衛大臣賞受賞、海の上の防衛テックOceanic Constellations(オーシャニック・コンステレーションズ) - 創業から2年10か月の歩み - 章扉

OCを立ち上げた2人は、どちらも海の仕事をしてきたわけではない。小畑実昭氏は東京大学法学部を卒業し、ゴールドマン・サックス証券や資産運用会社を経て、2008年にIT企業のゼブラルを起こした起業家だ。当時住んでいた逗子で、災害のときも含め、海で何が起きているのかがよく見えないことに問題意識を持っていた。本田拓馬氏は東京大学の大学院で小惑星探査のロボットを研究し、三井物産に入社した。社内起業の制度を使って宇宙の事業を立ち上げるなかで、衛星だけで海を見張るには、時間と場所のきめ細かさが足りないと感じていた。

2人は2023年8月に出会い、2回目の面談で意気投合した。海のデータを増やして社会の課題を解く、衛星の群れのような仕組みを海の上に広げる、海洋国家である日本の勝ち筋は海にある、と議論を重ね、その年の11月にOCを共同で創業した。

最初の1年は、構想を形にする時期だった。創業の翌月には、経営陣と個人投資家から1億8000万円を集めた。鎌倉の沖では、たくさんの無人の船を無線で数珠つなぎにする通信の実験に成功し、小型のデモ機を13機つくって群れの動きを確かめた。本田氏の古巣である三井物産とは協業の覚書を結び、環境省の西之島の調査にも自社の無人の船を持ち込んだ。

2年目は、海で実際に使う時期だった。2024年12月、鎌倉市や地元の漁協、地元の建設会社と密漁対策の協定を結び、長さ3メートル級の「アルファ機」で鎌倉沖の巡回を始めた。三井住友海上とは、小型の無人の船向けとしては国内で初めてという船舶保険を一緒につくった。お金の面では、グロービス・キャピタル・パートナーズが主導するシリーズA1で5億円を、宇宙専門のベンチャーキャピタルであるエースタートも主導役に加わったシリーズA2で12億円を集めた。A2には東京海上日動火災保険も加わった。日本郵船とはロケットの洋上回収で手を組み、その縁から、郵船グループの京浜ドックと量産の共同実証を始めた。

3年目の2026年は、造って売る時期に入った。2月には、ジャフコ グループも主導役に加わったシリーズB1で約20億円の払い込みを終え、日本郵船と、日本政策投資銀行グループのDBJキャピタルが新たに株主になった。同じ月には次世代の「ベータ機」を民間のマリーナから出し入れし、鎌倉沖で自律航行による見張りに成功した。政府の日本成長戦略会議の海洋ワーキンググループにも呼ばれ、海の無人機を日本の勝ち筋にするための提言を出している。3月末には防衛装備庁の実証を受注し、5月には首相官邸で高市首相らと開かれたスタートアップ戦略の意見交換に小畑氏が参加した。7月には取締役会を置き、グロービスの今野穣氏を社外取締役に迎えた。そして9月、防衛大臣賞を受けた。

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投資家と各紙はどう見ているか

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OCの株主の顔ぶれは、そのまま事業の広がりを映している。グロービス・キャピタル・パートナーズとジャフコという国内有数のベンチャーキャピタルが主導し、宇宙専門のエースタート、Coral Capital(コーラル・キャピタル)、損害保険の東京海上日動、海運の日本郵船、政策金融の日本政策投資銀行グループが並ぶ。ベンチャーキャピタルに加えて、保険、海運、政策金融が、それぞれ別の入り口からOCに賭けている形だ。

シリーズA1から3回続けて主導役を務めるグロービスの今野穣氏は、技術ありきではなく市場の課題から解決策を描く姿勢や、社内外の技術、人材、パートナーを幾重にも組み合わせて事業をつくる経営力を評価し、「世代を代表するスタートアップ」へ進化することを期待するとコメントした。今野氏が投資を決めた理由として挙げるのは、地球の7割を占める海がまだほとんどテクノロジー化されていないこと、ハードとソフトの両方を手がけるチームであること、そして検討していた2〜3か月の間に、良い知らせも予想外の出来事も含めて毎週のように報告が届いた変化の速さだ。日本人として応援したい、こういう会社がないとまずいとすら思っている、とも語っている。

ジャフコの藤井淳史氏は、「海洋国家ならではの類を見ない大きなスケールの事業構想」に心を打たれたと語る。Coral Capitalのジェームズ・ライニー氏は、地政学的な環境が複雑になるなかで、日本の産業力を生かして新しい時代の防衛能力をつくろうとしているチームだと評価した。エースタートの渡邊一正氏は、OCが築く海洋データの基盤を、宇宙と海洋をつなぐ結節点と位置づける。日本郵船の湯原慶氏は、出資によって連携を強め、自社の宇宙事業を加速させると述べている。

報道の切り口は、媒体によって大きく違う。Forbes JAPANは「グーグル系ウェイモの手法を海で再現」と、仮想空間で学ぶ自動航行の話として描き、アジア版のForbes AsiaはOCを「100 To Watch 2025」に選んだ。スタートアップ専門メディアのBRIDGE(ブリッジ)は資金調達の節目を伝え、物流専門のLOGISTICS TODAY(ロジスティクス・トゥデイ)は、造船所や物流会社と組む量産拠点の動きを追っている。海外の海事メディアは、日本郵船による出資として取り上げた。一方で、防衛装備庁との約5億円の契約は、装備庁の公表資料に金額まで載っているものの、OC自身の発表は金額に触れておらず、報道でもほとんど取り上げられていない。防衛大臣賞を受けた会社の防衛の中身を示す、最も具体的な数字だ。

ベンチャー投資の目で見ると、注目点は三つある。一つ目は、企業価値が公表されていないことだ。累計約40億円という調達額は国内のディープテックとしては大きいが、米国の同業とは桁が二つ違う。次の調達で海外の投資家や防衛の大手企業を株主に迎えられるかどうかが、評価の分かれ目になる。シリーズB1という呼び方そのものが、続く追加の調達を前提にした刻み方だ。

二つ目は、船を売らずにデータを売るモデルの重さだ。衛星の会社と同じく、まず自前で機体をそろえる先行投資がいる。初代の防衛大臣賞を受けたシンスペクティブは、レーダー衛星のデータ事業で2024年12月に東証グロース市場へ上場した。群れで見張る事業の先輩として、出口の一つの形を示している。

三つ目は、会社の仕組みの整備だ。取締役会を置き、主導する投資家のパートナーを社外取締役に、弁護士を社外監査役に迎えた。小畑氏はかねて、スタートアップらしい段階を素早く抜け出して「ギアチェンジ」し、量産によって社会の課題に規模をもって応える必要があると語ってきた。体制づくりは、その言葉どおりに進んでいる。

今後 ― 2027年に向けて何が見えてくるか

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これから半年ほどで、OCには大きな山場がいくつも重なる。一つは防衛装備庁の実証だ。公募の説明書どおりに進めば、来年3月までに、開発したソーナーを小型のUSVに積んで実際の海で試す。小さな船の群れで水中の目標を探せることを示せれば、潜水艦の探知という、防衛でも特に難しい分野に、無人の船の群れが入り込む道が開ける。

12月には、政府が安全保障関連の3文書を改定する予定だ。無人の装備をどれだけの規模で、どんな形で買うのかの大枠が、ここで決まる。防衛省は8月末の2027年度予算の概算要求で、AIや無人装備を重点に掲げ、3文書の改定に関わる事業は金額を示さない「事項要求」とした。年末の予算案で、その中身が数字になる。海上保安庁の能力強化の方針も12月をめどに改定され、2027年度からは海保向けの無人船の研究開発が始まる見通しだ。

Forbes JAPANによると、OCは2026年度に無人の船の量産に取りかかり、2027年度には数十台を海に配置して、複数の海の課題の解決に乗り出す計画だ。本田氏は、社会の課題から考えればこの仕組みは2027年には必要だとして、「そのピンはずらさないようにしたい」と語っている。横須賀の拠点の具体的な姿、日本郵船との洋上宇宙インフラの次の一手、そして次の資金調達で誰が株主に加わるのかも、これから順に見えてくる。

OCは、自社の技術を、同盟国にも提供できる日本の技術と位置づけている。鎌倉の沖を走る1隻の小さな船が、日本の海、そしていずれはアジアの海を覆う網の、最初の結び目になれるのか。その答えが見え始めるのは、2027年だ。


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