空を流れる「見えない川」を映し出す箱

冷蔵庫ほどの大きさの箱が、空に向けて、目に見えない赤外線のレーザーを放ち続けている。モニターに映し出されるのは、何もないはずの空を流れる風の姿だ。十数キロ先で、空気がどちらへ、どれほどの速さで動いているのか。ふだん誰の目にも見えない空の流れが、色分けされた模様となって浮かび上がる。
この箱は「ドップラー・ライダー」と呼ばれる。2025年の大阪・関西万博では会場の交通ターミナルに置かれ、空飛ぶクルマの運航会社に、離着陸する場所の真上とその周りで吹く風の情報を送り続けた。飛ぶか、飛ばないか。その判断を支える目だった。
いま、この「風を見る目」に、防衛の世界が熱い視線を注いでいる。風の代わりに、空に紛れ込む小さな不審ドローンを見つけ出す目として、である。
作っているのは、京都大学の研究者が立ち上げたスタートアップ、メトロウェザーだ。2026年9月、同社は陸・海・空・宇宙の防衛装備品を手がける国内最大手の三菱重工業と、ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドから、合わせて15億円を調達した。累計の調達額は35億6,000万円に達し、同じシリーズBラウンドでさらに出資を募って、総額25億円を集める計画だ。
古本淳一社長は、防衛の世界に本格的に入るには、民生品を上回る仕様と精度、そしてセキュリティに配慮した生産体制が欠かせないと話す。そのうえで、三菱重工との協業を「この課題を乗り越える最短の道筋」と位置づけた。風を測るために磨いてきた技術が、日本の空の守りに使われようとしている。
救急車のサイレンと同じ理屈で、風を測る

仕組みの土台にあるのは、誰もが耳にしたことのある現象だ。救急車が近づいてくるときはサイレンが高く聞こえ、遠ざかると低く聞こえる。音を出すものが動くと、届く音の高さがずれる。これがドップラー効果で、光にも同じことが起きる。
空気の中には、PM2.5のような、目に見えないほど細かいチリがたくさん漂っている。チリは風に乗って、空気と一緒に動く。そこへ人体に害のない赤外線のレーザーを当てると、跳ね返ってきた光の周波数が、チリの動きに合わせてほんのわずかにずれる。このずれを読み取れば、チリが、つまり空気そのものが、どちらへどれだけの速さで動いているかが分かる。レーザーの向きを変えながら空をなめるように測れば、遠くの風まで立体的に描き出せる。メトロウェザーの主力機「Wind Guardian」は、条件が良ければおよそ15キロ先まで、風の速さを秒速0.1メートル刻みで捉える。
ライダーとは、電波の代わりに光を使うレーダーのことだ。天気予報でおなじみの気象レーダーは、電波が雨粒に当たって返ってくるのを利用する。だから雨の日には強いが、晴れた空の風は捉えにくい。ライダーはその逆で、雨の降っていない澄んだ空の風を得意とする。気象庁は羽田、成田、関西の各空港にドップラー・ライダーを置き、離着陸する旅客機を襲う急な風の変化、いわゆるウインドシアを見張っている。雨のない日はライダー、雨の日はレーダーという分担だ。
なぜ、ここまでして風を測るのか。ドローンや空飛ぶクルマは、旅客機に比べて圧倒的に小さく、軽い。機体と同じ10メートルほどの大きさの渦や突風に巻き込まれただけで、墜落する危険がある。ところが、ドローンの運航管理で使われてきた気象データは、数キロ四方のマス目で計算した予測値が中心で、ビルの谷間で吹く突風までは分からなかった。
壁になっていたのは、装置の大きさと値段だ。古河電気工業との資本業務提携の発表によれば、他社の大型機は重さ2トン、2メートル四方ほどもある。メトロウェザーの装置は重さ180キロで、体積は他社の10分の1以下に収まる。古本社長は2021年、米ブルームバーグの取材に対し、同じ程度の性能を持つ国内の競合機は家ほどの大きさで重さは数トン、価格は10倍ほどの数百万ドル(数億円)だと語っている。小さくできた秘密は、雑音の中から弱い信号をすくい上げる信号処理にある。出力の小さなレーザーでも精度を落とさずに済むため、装置全体を小さく、安くできた。
小さく安くなれば、使い道は一気に広がる。商船三井とは、航海中の船に載せて海の上の風を測る実験に、世界で初めて成功した。2024年11月には琵琶湖で開かれたドラゴン級の国際ヨットレースで、湖面の風をリアルタイムで配信し、出場した各国の選手から好評を得た。風力発電の適地探しや空港の安全、都市の防災と、風の情報が価値を持つ場面は多い。観測データをもとに、数分後から数日後までの風を予測する「Wind Foresight」というサービスも手がけている。

風を見る目が、ドローンを見つける目に変わる

レーザーが当たるのは、チリだけではない。空を飛ぶドローンや鳥にも当たって、光は跳ね返ってくる。風を測る仕組みはそのままに、「どこに、どんな速さで動く物体があるか」を読み取れば、空の侵入者を見つける目になる。メトロウェザーはこれを「物体検知ライダー」と呼ぶ。
この目が求められる背景には、戦争の姿の変化がある。東洋経済オンラインは2025年10月の記事で、ウクライナでは10万円ほどの自爆ドローンが10億円を超える戦車を破壊していると伝え、ある自衛隊関係者がドローンを「メインウェポン(主力兵器)」と表現したことを紹介した。そのうえで、日本の今の装備では、小さなドローンを見つけたり、敵か味方かを見分けたりするのが難しいと指摘している。
脅威は身近にもある。2024年3月、横須賀基地に停泊していた海上自衛隊の護衛艦「いずも」を真上から撮ったような動画が、中国の動画サイトに投稿された。防衛省は同年5月、実際に撮影された可能性が高いと明らかにした。国内では関西空港や神戸空港などでも、不審なドローンの侵入が相次いだ。欧州では2025年秋、ドローンの目撃情報を受けてデンマークのコペンハーゲン空港やノルウェーのオスロ空港が一時閉鎖され、ドイツのミュンヘン空港は2夜続けて発着を止めた。
小さなドローンは、レーダーにとって厄介な相手だ。米国の防衛専門メディアの解説によれば、小型の無人機がレーダーに映る大きさは、大きめの鳥と同じくらいまで小さくなる。レーダーは遠く高い空の探知は得意でも、障害物の多い場所では力が落ちる。最新のドローンには、無線に頼らず自律して飛ぶものも出てきた。メトロウェザーが狙うのは、こうした死角を埋めることだ。同社は、赤外線は目に見えず、細く絞ったビームで探るため、相手に気づかれにくく、逆探知もされにくいと説明する。
目標は高い。NEDOの経済安全保障重要技術育成プログラムで同社が掲げたのは、15キロ先にある15センチ角ほどの物体を見つけ、それが航空機なのか、鳥なのか、ドローンなのかをAIで見分けることだ。2026年9月の発表では、要素技術としての有効性は確認でき、防衛装備品として実用化を進める段階にあるとした。
京都大学の巨大レーダーから生まれた技術

物語の出発点は、京都大学が持つ、野球場ほどの広さの大型大気レーダーにある。地上から上空500キロまでの風を、秒速0.01メートルの精度で捉えてきたこの装置の研究で、30年にわたって磨かれてきたのが、雑音の海から微かな信号をすくい上げる技術だった。
古本社長は、京都大学の生存圏研究所で2007年から13年ほど助教を務め、大気を測る研究に携わってきた。もう一人の創業者で、いまは副社長と最高技術責任者を兼ねる東邦昭氏は、同じ研究所で研究員を務めたあと、民間の気象会社で働いた気象予報士だ。2015年、2人は京都のマンションの一室で会社を立ち上げた。掲げた思いは「社会課題を解決するライダー技術を」だった。
実は、防衛との縁は創業の直後から始まっている。2016年、メトロウェザーは米国防総省の予算で、米海軍の研究機関から3年間の研究資金を得た。テーマは、航空母艦に載せるドップラー・ライダーの基礎開発だった。同社によれば、このとき完成させた装置に古本社長の信号処理の技術を組み合わせたものが、いまのライダーの原型になっている。
それでも道は平坦ではなかった。試作品が完成するまでに5年かかった。古本社長は創立10周年のあいさつで、「ディープテックスタートアップの10年生存率は6.3%」と言われる中、何度も高い壁に挑み続けたと振り返っている。
追い風になったのは、ドローンと空飛ぶクルマの時代の到来だ。2021年には、米航空宇宙局(NASA)が資金を出す都市の風観測の研究に、米国のパートナー企業とともに加わった。ブルームバーグはこれを、NASAがドローンのための風の地図づくりに京都のスタートアップを起用した、と報じた。2024年には米バージニア州で、2台のライダーを使って20週間にわたる観測も行っている。
資金調達も本格化した。2022年に12の投資家から7億円を集めたシリーズAを皮切りに、翌年までに追加の調達を重ね、シリーズAの合計は12億円に達した。ドローン専門のドローンファンド、大学発の技術に投資するリアルテックファンドに加え、商船三井、ヤマト、日揮、JR東日本のそれぞれに連なる投資会社やファンドが名を連ねた。国の後押しも厚い。2023年にはNEDOの経済安全保障の研究開発で、予算規模10億8,000万円のプロジェクトを受託し、翌2024年にはディープテック・スタートアップ支援事業で6億7,600万円の助成も決まった。
大阪では2023年、万博会場に近い湾岸のビルの屋上に1号機を据え、ベイエリアの風を見張り始めた。翌年には梅田の超高層ビルの屋上に2号機を置き、2025年の万博本番では会場の中にも設置した。
防衛へ、はっきりと舵を切った3年間

2023年夏の追加調達では、資金の使い道の筆頭に、ドップラー・ライダーで不審ドローンなどの物体を検知する用途が掲げられた。出資したドローンファンドの大前創希共同代表パートナーは、アンチドローンの分野で使える可能性が出てきたことを、重要な発展の可能性に挙げている。
2024年6月には、フランスのパリで開かれた世界有数の防衛展示会ユーロサトリに、防衛装備庁のブースから出展した。出展を前に、防衛大臣補佐官が同社を訪れ、稼働中のライダーを見学している。2025年5月には、幕張メッセで開かれた防衛装備の国際展示会、DSEIジャパンにも出展した。
量産の体制づくりも動いた。2025年2月、光技術に強い古河電気工業と資本業務提携を結んだ。小型で高性能な装置を量産するには、心臓部のレーザーを国内で安定して調達できることが欠かせなかったからだ。NEDOのプロジェクトでは、古河電工がレーザーの種となる光源と、光を増幅する部品の国産化を担っている。
同じ年の7月には、東京計器との資本業務提携を発表した。明治時代に創業した計器メーカーで、自衛隊の航空機や艦艇に載せる機器を数多く手がけてきた会社だ。6月末まで、東京計器の本社屋上でライダーの試験観測も行われた。東京計器の安藤毅社長は、提携のきっかけは防衛関連産業の意見交換の場での声かけだったと明かし、「現在開発中のドップラー・ライダーによる物体検知技術は、昨今のドローンによる脅威への対策に欠かせない技術になると考えております」とコメントしている。
その月に締めたプレシリーズBでは、古河電工と東京計器に、既存株主のヤンマーベンチャーズ、商船三井系のMOL PLUS、鐘通を加えた5社から8億5,000万円を集めた。資金は、防衛と民間の両方の需要に応えられるサプライチェーンづくりと量産化に充てる。
2025年10月、創立10周年の記念式典にあわせて、古本社長は新しい理念に「未来の空を、もっと安全に。もっと自由に。」を掲げ、自社を「見えないリスクを可視化するテクノロジーカンパニー」と位置づけた。2030年にかけて製品を段階的に進化させながら本格的な量産に入り、米国の防衛予算も狙うと宣言している。その延長線上に、2026年9月の三菱重工とインキュベイトファンドからの15億円がある。

業界の状況 ドローン対策は「見つける」ことから始まる

防衛省は2026年8月末、2027年度予算の概算要求をまとめた。歳出ベースでおよそ9兆円。柱に据えたのは、無人機やAIを使った「新しい戦い方」への対応で、「世界一無人アセットを駆使する組織」への変革を目指すと掲げた。
ドローン対策の項目も並ぶ。自衛隊の基地などに近づく違法なドローンを探知し、識別し、対処するための、より能力の高い器材の導入に38億円を要求し、さらに金額を示さない事項要求も加えた。ミサイルと機関砲、レーザーを組み合わせ、安価なドローンの群れにも対処できる陸上自衛隊の近距離防空システムの開発、艦艇に載せるレーザー装置の性能確認試験、強力なマイクロ波でドローンを無力化する器材の実証も盛り込まれている。
ここで大事なのは順番だ。撃ち落とすにも、電子的に止めるにも、まず相手を見つけ、何者かを見分けなければ始まらない。防衛産業の大手も動いている。三菱重工は2026年5月、飛んでくる攻撃ドローンを撃ち落とす「迎撃ドローン」を試作したと公表した。共同通信によれば、伊藤栄作社長は研究所と事業部門が組んで3カ月で開発したと説明し、既存事業の基盤を生かして「スタートアップより早く量産できる」とも語った。迎え撃つ「矢」は自前で素早く作る。その三菱重工が、見つける「目」の技術ではスタートアップに出資した、という構図である。
見つける目の世界には、すでに多くの技術がある。レーダー、ドローンの操縦電波を拾う装置、カメラ、音を聞き分けるマイクなどだ。それぞれに得意と不得意があり、複数を重ねて使うのが基本になっている。ライダーを新たな層として加える動きは、海外でも出てきた。米国のライダー企業AEyeは2026年9月、スウェーデンの対ドローン企業と組み、その対ドローンシステムに自社のライダーを組み込むと発表した。
一方、本業である風の観測の市場は、それほど大きくない。調査会社インテル・マーケット・リサーチの推計では、風を立体的に測るスキャン型ドップラー・ライダーの世界市場は、2025年時点で1億2,900万ドル(約200億円)ほどにとどまる。そこにフィンランドのヴァイサラ、フランスのルミバード、三菱電機、米ロッキード・マーチン、そして中国勢がひしめく。風だけで戦うには、市場はやや小さく、相手は多い。物体検知という新しい用途は、この会社にとって、市場の天井そのものを押し上げる意味を持つ。

強みと課題

強みの一つ目は、小ささと安さだ。体積は他社の10分の1以下。ブルームバーグは2021年、高層ビルの屋上に4台を置けば東京の中心部を覆えると伝えている。何台も並べて網を張れることは、広い基地や空港、発電所を守るうえで大きな意味を持つ。
二つ目は、信号処理の力である。京都大学の大気レーダー研究から受け継いだ、雑音の中から弱い信号を拾い上げる技術が、小さなレーザーでも遠くまで測れる性能を支えている。
三つ目は、心臓部の国産化だ。基幹部品のレーザーを古河電工と国内で作る体制は、部品の供給を海外に頼らずに済むという点で、経済安全保障の観点からも評価されやすい。
四つ目は、民間の仕事で積んだ実績である。万博、船、ヨットレース、米国での研究と、実際の空や海で観測を重ねてきた。NEDOに提出した資料で同社は、まず地上に置く風観測用の装置で市場に入り、次に物体検知、そして航空機やドローンへの搭載へと順に広げる道筋を描いている。風の事業が売上と実地のデータを生み、防衛向けの開発を支える二段構えだ。
五つ目は、防衛の作法を知る仲間と、米国での足場である。防衛装備品としての生産と販売は東京計器が、実用化と量産化の知見は三菱重工が支える。米国にはテキサス州に子会社を置き、ダラスには精度を検証する拠点を設けた。米国の標準化団体ASTMでは、古本社長が投票権を持つ委員として、ドップラー・ライダーのデータに関する規格づくりに加わっている。
課題もはっきりしている。一つ目は天候だ。赤外線は水の粒の中で急速に弱まるため、雨が降ると観測できる範囲が狭くなる。気象庁が雨の日はレーダーに任せているのは、このためだ。ライダー単独で空を守ることはできず、レーダーなど他のセンサーとどう組み合わせるかが問われる。
二つ目は、技術の成熟と時間である。15キロ先の15センチの物体を見分けるという目標は、あくまで研究開発の到達目標だ。NEDOの資料が示す道筋では、2026年から量産試作機の開発に入り、本格的な事業化は2029年以降になる。防衛装備品は、試験と評価に長い時間がかかる。
三つ目は、量産と品質だ。古本社長自身が、防衛には民生品を上回る仕様と精度、セキュリティに配慮した生産体制が欠かせないと認めている。心臓部のレーザーは、性能も供給も開発の行方を左右する。NEDOの中間評価の資料には、2025年3月の野外試験の前に開発中のレーザーが故障し、出力の小さい市販品で代用したと記されている。
四つ目は、買い手と競争相手だ。防衛向けの大口の買い手は事実上、防衛省に限られ、調達の手続きは長い。しかも三菱重工の社長が「スタートアップより早く量産できる」と語るように、大手は自前で作る力も持っている。出資を受けた大手と、対等な協業相手であり続けられるかは、スタートアップにとって避けて通れない課題だ。
そして五つ目が資金である。ハードウェアの量産には、工場と人と時間がかかる。シリーズBで目標とする25億円まで、残る10億円をどう集めるかが、次の試金石になる。
投資家とメディアはどう見ているか

株主の顔ぶれをたどると、この会社の変化がよく分かる。
最初の波は、ドローンと空のモビリティに賭ける投資家だった。創業翌年のドレイパーネクサスに始まり、ドローンファンド、リアルテックファンド、グローバル・ブレインが運営する事業会社のファンド、ドローンメーカーのACSLなどが加わった。二つ目の波は、海や物流、通信の事業会社だ。商船三井のMOL PLUS、ヤンマーベンチャーズ、NTTファイナンスのほか、金融機関系のベンチャーキャピタルも並んだ。そして三つ目の波が、防衛と重工業の当事者たちである。古河電工、東京計器、三菱重工が株主になり、そこへ上場前後の企業を対象とするグロース資金が加わった。
今回出資したインキュベイトファンドの「IF Growth 1号」は、2025年に東京都とともに立ち上げた、目標300億円規模のグロース期向けファンドだ。成長資金と株式の流動性の提供を通じて、上場前後の企業価値を最大化することをうたう。ジェネラルパートナーの井原昌史氏は、日興証券からSMBC日興証券にかけて35年にわたり企業の資金調達に携わり、数多くの新規株式公開を主導してきた人物だ。井原氏は今回の出資にあたり、「高い技術力を持つスタートアップの防衛産業への参入は、同分野のイノベーションを加速させる鍵になると確信しています」とコメントした。
投資家の目線で読めば、ここには二つのメッセージがある。一つは、創業期の専門投資家と事業会社が中心だった株主に、株式公開の実務に通じたグロース資金が加わったこと。もう一つは、防衛の最大手が、自社の技術を補う相手として名乗りを上げたことだ。三菱重工の成長推進室の松尾淳室長は、物体検知ライダーを「従来の技術では捉えきれなかった領域をカバーし得る非常に独自性の高い技術」と評した。メトロウェザー自身も今回の調達を、大手総合重工業メーカーと国内の防衛テック・スタートアップの「先駆的な連携」だとしている。出資比率や企業価値は公表されていない。
見落とされがちなのが、国の資金の厚みだ。NEDOの2つの事業の規模を合わせると、17億円あまりになる。株式で集めた額のおよそ半分にあたる規模の研究開発を、国の資金で進めてきた計算だ。防衛省も2027年度の概算要求に、スタートアップと短期間で複数の契約を結んで競わせる「ディフェンステックSBIR制度」と、防衛テックのスタートアップに投資するファンドへ国が出資する新しい制度を、金額を示さない事項要求として盛り込んだ。防衛省自らが先端技術の最初の買い手となり、需要を引っ張るという方針も打ち出している。
海の向こうでは、防衛テックへの投資が熱を帯びている。米国のアンドゥリル・インダストリーズは2026年5月、50億ドル(約7,900億円)を調達し、企業価値は610億ドル(約9兆6,000億円)に達した。日本の防衛スタートアップの資金規模は、まだ桁違いに小さい。それでも、国が需要と資金の両面で呼び水を打ち始めたことで、投資家にとっての景色は変わりつつある。
メディアの描き方も、この数年で大きく変わった。2021年のブルームバーグは、NASAと組んでドローンのための風の地図を作る京都のスタートアップとして紹介した。2024年になると、日本経済新聞が防衛産業を考える連載や「防衛ユニコーン 日本でも」と題した記事で同社を取り上げ、テレビ東京は「米軍が注目」と銘打って風の可視化を紹介した。2025年10月の東洋経済オンラインは、万博で空飛ぶクルマのために風を可視化したベンチャーが、なぜ防衛機器の老舗と組んだのかを掘り下げた。英語圏では、アジアの軍事専門誌が東京計器との提携を、防衛向けの量産に向けた動きとして報じている。そして2026年9月の資金調達は、ザ・ブリッジや創業手帳などのスタートアップ媒体が、そろって「不審ドローン検知の実用化」という切り口で伝えた。かつて「ドローンの安全」の会社として語られたメトロウェザーは、いまや「防衛テック」の会社として語られている。

今後 次の節目はいつ来るか

次の節目は、シリーズBの2回目の締めだ。目標の25億円に向けて、どんな投資家が加わるのか。防衛や重工の関係者がさらに増えるのか、海外の投資家が入るのかで、会社が狙う次の市場が見えてくる。
年末には、国の方針が固まる。政府は国家安全保障戦略など、安全保障に関わる3つの文書を年内に改定し、それを踏まえて2027年度予算を編成する。金額を示さずに要求したドローン対処器材の上積み分や、ディフェンステックSBIR、防衛テック向けファンドへの出資制度に、どれだけの予算がつくのか。スタートアップが防衛の仕事を取りにいく入り口の広さが、ここで決まる。
2027年4月末には、幕張メッセで防衛装備の国際展示会、DSEIジャパンが開かれる予定だ。国内外の防衛テック企業が、どこまで実用に近い姿を見せられるかを測る場になる。
中期の道筋は、同社自身が示している。NEDOの資料では、2026年から量産試作機の開発に入り、2029年以降に本格的な事業化の段階へ進む。古本社長は2030年にかけて、いまのライダーの改良型から、高速でスキャンできる新型、次世代の物体検知型、海の上で使う仕様へと製品を段階的に進化させ、本格的な量産に入る考えだ。
米国も大きな舞台になる。同社はダラスの拠点で、水平方向に走査するライダーの精度を評価する方法を確立し、ASTMでの標準化を主導している。同社の資料によれば、こうした手法の実証を経て米連邦航空局の承認を得れば、業界の標準になる。米国の防衛予算を狙うと明言しているだけに、米国の政府機関からの調達の実績が、次の大きな節目になる。
投資家として見ておくべき指標は、四つに絞れる。防衛省や空港、発電所などの事業者から、試験導入ではなく正式な調達をいつ受けるか。三菱重工や東京計器と組んだ量産の体制が、いつ、どれだけの台数を作れるようになるか。シリーズBの残りが、どんな条件で埋まるか。そして、上場前後の企業を対象とするグロース資金が入ったことで、株式公開に向けた動きがいつ表に出てくるか、である。
風を知らずにドローンを飛ばすことなど考えられない。古本社長はかつて、そう語っていた。その言葉はいま、別の意味を帯び始めている。空に何が飛んでいるかを知らずに、基地や空港を守ることはできない。目に見えない風を描いてきた京都の小さな会社が、日本の空の「目」になれるのか。答えが見え始めるのは、量産試作が進むこれからの数年である。
