北陸STARTUP RUNWAY発足の概要 — 何が起きたのか

Relicは2026年6月29日、公式サイトでの告知とプレスリリースを通じて、「北陸スタートアップランウェイ(北陸STARTUP RUNWAY)」を本格始動したと発表した。翌6月30日には、富山駅前の未来共創拠点施設「Sketch Lab(スケッチラボ)」でキックオフイベントが開かれている。対象は富山・石川・福井の北陸3県で、いずれも内閣府が第2期スタートアップ・エコシステム拠点として選定した「NEXTグローバル拠点都市」に含まれる地域だ。
枠組みの中心にはRelicとサムライインキュベートの2社が座る。Relicは2026年の幹事会社として企画・運営事務局を担い、サムライインキュベートは、これまで全国各地でスタートアップランウェイを立ち上げてきた実績を背景に、北陸での発足を支援する立場をとる。この二社を軸に、北陸を地盤とする地銀・VC、国の政策金融機関、経済産業局、3県の自治体など、あわせて18の組織が名を連ねた。
支援の柱は大きく三つある。第一に、参画するVC・金融機関のコミュニケーショングループを構築し、案件(ディールソース)の相互紹介と協調出資を促す仕組みだ。第二に、「北陸STARTUP PITCH」を代表とする北陸全域を対象としたピッチイベント・セミナーの定期開催。第三に、北陸地域のVC・金融機関を束ねる統一ホームページを運営し、起業家から見た資金調達の窓口をシームレスにすることである。掲げる到達目標は、地方からのユニコーン企業の創出と、都市部との情報格差の解消に置かれている。
そもそも「STARTUP RUNWAY」とは — サムライインキュベートが広げた全国ネットワーク

北陸の動きを理解するには、まず「STARTUP RUNWAY」という枠組み自体を押さえる必要がある。これは、ある地域を拠点とする地方銀行・ベンチャーキャピタル・自治体・支援機関が横に連携し、起業家やスタートアップに対して「事業ブラッシュアップ」「資金調達」「ビジネスマッチング」といった、成長に不可欠な支援をまとめて提供するプラットフォームである。個々のVCが単独で伴走するのではなく、複数の投資家・金融機関が課題や仮説検証を共同で支え、案件によっては協調出資に発展させる点に特色がある。
この仕組みの発祥は、2020年9月に始動した「中四国STARTUP RUNWAY」だ。立ち上げの主体はサムライインキュベートであり、いよぎんキャピタルやとっとりキャピタル、広島ベンチャーキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタル、山口キャピタルといった中四国の地域VCが連携した。以後、2022年5月に中部、2024年4月に東北(七十七銀行などが参画)、同年9月に琉球(沖縄)、2025年5月に九州、同年6月に北海道、同年9月に関東、そして2026年5月に関西へと横展開が続いてきた。北陸はこの流れの9番目にあたり、Relicは今回の発足をもって「全国9エリアを網羅する支援ネットワークが完成した」と位置づけている。
VCの視点で見ると、STARTUP RUNWAYの本質は「地方版のフランチャイズ」に近い。各エリアには地元事情に通じた幹事会社が置かれる一方(関西ではライトアップベンチャーズ、九州ではF Ventures、北海道ではSTARTUP HOKKAIDO実行委員会、そして北陸ではRelic)、サムライインキュベートがほぼ全域に横串として関与し、支援の型(プレイブック)を各地に移植してきた。つまりサムライは、個別スタートアップへの投資家であると同時に、地方の投資家連合を組成する「設計者」として、静かに全国網を編み上げてきた存在だといえる。北陸STARTUP RUNWAYは、その全国モデルに北陸の地場プレーヤーを接続した最新の実装である。

18組織の顔ぶれ — 誰が名を連ねたのか

Relicの発表によれば、北陸STARTUP RUNWAYを構成するのは合計18組織で、役割ごとに整理できる。幹事会社を務めるのがRelicだ。投資・金融の実働部隊としては、STARTUP RUNWAYを各地で率いてきたサムライインキュベートに加え、北陸銀行と、その持株会社ほくほくフィナンシャルグループのVCであるほくほくキャピタル、三谷産業系で北陸の経済活性化を掲げるCarbon Ventures、日本海ガス絆ホールディングスのコーポレートベンチャーキャピタルである日本海ラボ、ビジョンインキュベイト、福井を地盤とするふくいキャピタルパートナーズ、ノックラーン、そして日本政策金融公庫が並ぶ。地元の銀行・ガス・商社系の投資主体が一堂に会した点に、北陸ならではの色合いが出ている。
これに協力機関としてオリエントコーポレーションと、クールジャパン機構の名で知られる海外需要開拓支援機構が加わる。さらに後援には、中部経済産業局と富山・石川・福井の3県、森ビルが運営する Tokyo Venture Capital Hub、そして関西の官民連携プログラムであるJ-Startup KANSAIが名を連ねた。地域金融とVC、国の政策金融、経済産業局、自治体、都市部のVCハブという多層の顔ぶれが、そのまま北陸STARTUP RUNWAYの守備範囲の広さを示している。
顔ぶれを見ると、この連合が「まったくの更地」から生まれたわけではないことも分かる。北陸銀行はすでにほくほくキャピタルを通じてVC機能を持ち、スタートアップ支援向けの「ほくほくイノベーション共創ファンド」2号を前身の約2倍にあたる総額20億円で組成している。Relic自身も、2025年に北陸銀行・北日本新聞社・インテックらと富山県のデジタル実証事業「デジポックとやま」で協業した実績があった。既存の点在する取り組みを一つの器に束ね直したのが、今回の発足だといえる。

中核企業・Relicとは — 「事業共創」で5,000社を支援した国内最大級プレーヤー

幹事会社のRelic(レリック)は、2015年8月に設立された「事業共創カンパニー」である。代表取締役CEOの北嶋貴朗氏は、経営コンサルティング会社を経てDeNAでEC領域の事業責任者を務め、複数の事業を数十億円規模へと育てた経歴を持つ。共同創業者でCTOの大庭亮氏とともに、大企業の新規事業開発とオープンイノベーションの「インフラ」となることを掲げて同社を立ち上げた。Relicの説明によれば、日本を代表する大企業を中心に累計5,000社超の新規事業開発やオープンイノベーションを支援してきた、国内シェアNo.1の事業共創カンパニーである。2021年には持株会社体制へ移行し、グループ会社と数百名規模の陣容を抱えるまでに成長した。
事業は大きく三つの領域にまたがる。ひとつは「インキュベーションテック」で、同社が国内シェアNo.1をうたうイノベーションマネジメントSaaS「Throttle(スロットル)」や、クラウドファンディング基盤を提供する「ENjiNE(エンジン)」がここに含まれる。次に、エンジニアリングを伴って事業を共に立ち上げる「ビジネスプロデュース」領域があり、デジタル技術で伴走する共創開発サービスを展開する。三つ目が、新規事業コンサルティングやインキュベーション支援を行う「オープンイノベーション」領域だ。RelicはこうしたBtoB支援に加え、非上場を貫く事業会社ならではの強みとして、自社のバランスシートから直接スタートアップへ出資している。全方位型のスタートアップスタジオ「Relic Startup Studio(ZERO1000 Ventures)」を運営し、国内外40社超に投資してきた。
Relicの主な出資・資本業務提携先を見ると、その裾野の広さがよく分かる。同社が公開する提携先には、インテントセールスを掲げるセールスインテリジェンスの Sales Marker、荷物預かり・宅配受取の「ecbo cloak」を運営する ecbo、社債による資金調達(ベンチャーデット)を手がける Siiibo証券、妊活支援コンシェルジュの ファミワン、IoTを使った子どもの見守りの otta、遠隔接客サービスの タイムリープ、Webエンジニア養成所「RUNTEQ」を運営するスタートアップテクノロジー、犬の感情を可視化するウェアラブル「INUPATHY」のラングレスなど、SaaS・フィンテック・ヘルスケア・IoTからD2Cまで20社超が並ぶ。事業を「創る」ノウハウと投資の両輪を持つRelicが幹事を務めることは、事業ブラッシュアップを掲げる北陸STARTUP RUNWAYの性格と親和性が高い。

もう一つの中核・サムライインキュベートとは — STARTUP RUNWAYの生みの親

もう一方の中核であるサムライインキュベートは、2008年3月に榊原健太郎氏が設立した独立系ベンチャーキャピタルである。榊原氏はアクシブドットコムや電通ワンダーウーマン、ECナビ(現VOYAGE GROUP系)などを経て起業し、「できるできないでなく、やるかやらないで世界を変える」をMISSIONに掲げてきた。事業の柱は、創業期からシリーズAのスタートアップを中心に出資・成長支援を行うVC事業と、日本の大企業に対するイノベーション支援事業の二つである。1社あたり数百万円から2億円規模のシード投資を軸に、フォローオン投資とハンズオン支援でEXITまで伴走するのが基本スタイルだ。
規模感を数字で見ると、サムライインキュベートは国内外で220社超(2022年時点)に投資してきたとされる。ファンドは、2019年に当初計画の30億円を上回りオーバーサブスクライブで総額34.5億円を組成した6号ファンド、続いて総額60.7億円で組成を完了した7号ファンドが知られる。グローバル展開にも早くから踏み込み、2014年にイスラエル・テルアビブ、2018年にはアフリカ・ルワンダに拠点を設けるなど、クロスボーダーでの支援を特徴としてきた。主な出資先には、月額制ファッションレンタル「airCloset(エアークローゼット)」を運営し2022年に東証グロース市場へ上場したエアークローゼット、VRゲームとオリジナルIP・コミュニティをグローバル展開するMyDearest、障がい福祉に特化したeラーニング研修「Special Learning」のLean on Meなどがある。
しかし、地方創生というテーマにおけるサムライインキュベートの真骨頂は、個社への投資よりもむしろ「STARTUP RUNWAYそのもの」にある。前述のとおり、同社は2020年に中四国で最初のランウェイを自ら立ち上げ、以後、東北・北海道・関西など各地の地元プレーヤーと組みながら全国へ横展開してきた。北陸では自社が幹事の座をRelicに譲り、発足を「支援」する側に回った。これは、単なる投資家ではなく、地方ごとに異なる金融機関・VC・自治体を束ねて協調出資の器をつくる「エコシステム・ビルダー」としての立ち位置を、サムライインキュベートが確立していることを意味する。北陸STARTUP RUNWAYは、その全国戦略の最後のピースを埋める一手でもある。

なぜ北陸なのか — 既存エコシステムの「最後のピース」

北陸3県には、STARTUP RUNWAY以前からスタートアップ支援の layer が複数積み上がっていた。2024年には富山・石川・福井が連携する「北陸スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム(HOSTEC)」が内閣府の「NEXTグローバル拠点都市」に選定され、拠点としての国のお墨付きを得ている。大学発の分野では、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と金沢大学を主幹に、3県の大学・高専が連携する「Tech Startup HOKURIKU(TeSH)」が研究シーズの事業化を担ってきた。富山駅前の「Sketch Lab」のような共創拠点や、「北陸地域ベンチャーファンド」に代表される地場ファンドも整いつつあった。
こうして見ると、北陸には拠点・大学・施設・ファンドという要素はそろっていた一方で、県境をまたいでVCと金融機関を横につなぎ、案件を融通し合い協調出資へ持ち込む「連携のレイヤー」が相対的に手薄だった。北陸STARTUP RUNWAYは、まさにその不足を補う役割を担う。ほくほくキャピタル(北陸銀行系)、日本海ラボ(日本海ガス絆HD系)、Carbon Ventures(三谷産業系)といった、これまで各社が個別に動いていた地場の投資主体を一つのテーブルに着かせ、サムライインキュベートの全国プレイブックとRelicの事業共創ノウハウで接着する。既存の点を線でつなぐ、いわば「最後のピース」としての意味合いが強い。
VC・メディアはどう報じたか

現時点で北陸STARTUP RUNWAYの一次情報は、Relicの公式サイト(2026年6月29日付)とPR TIMESでの発表が中心であり、個別の関係者コメントは公式には大きく打ち出されていない。一方、同じSTARTUP RUNWAYの姉妹エリアについては、日本経済新聞が一貫して「地方からユニコーン企業の創出を目指す新組織」「地銀やVCが参画」という切り口で報じてきた。東北では「サムライインキュベートや七十七銀行など、東北からユニコーン創出へ新組織」、九州では「地銀やVCなど24社が新組織」(後に40超の機関へ拡大)、関西では「関西スタートアップの資金調達を支援、VCが新組織、地銀など参画」といった見出しである。北陸STARTUP RUNWAYも、この一連の「地方発ユニコーン」報道の文脈に連なる位置づけとなる。
各エリアの立ち上げは、PR TIMESでの配信を起点に、地元の経済紙や自治体広報が拾っていく構図が定着している。北陸でも、北日本新聞や北國新聞、福井新聞といった地元紙、および富山・石川・福井各県の広報が続報を担う流れが想定される。VCの視点であえて要点を絞れば、今回の発表は「新ファンドの巨額組成」ではなく、既に地域に存在する資本を束ねる“協調のOS”の立ち上げである点が重要だ。したがって評価の軸は、派手な調達額よりも、コミュニケーショングループを通じて実際に回り始める案件フローと、協調出資が何件成立するかという実数に置かれることになる。
今後の展望 — いつ、どんな動きが出るか

直近では、6月30日のSketch Labでのキックオフを起点に、「北陸STARTUP PITCH」などのピッチイベント・セミナーの定期開催と、北陸のVC・金融機関を束ねる統一ホームページの立ち上げが最初の可視的な動きになる。中期的には、他エリアの前例が参考になる。九州が発足時の24機関から40超へと膨らみ、北海道も20機関で始まったように、参画機関は時間をかけて増える傾向がある。北陸でも、今回は名を連ねていない福井銀行や北國銀行系のVC、地域の信用金庫などが後から合流する余地は大きい。
成果が計測できるようになるのは、もう少し先だ。注目すべき指標は、協調出資の第1号案件が生まれる時期、ピッチイベント経由で実際に資金調達に至ったスタートアップの数、そして県境をまたぐ共同投資の件数である。加えて、Relicが「全国9エリア網羅」と位置づけたことで、次のフロンティアはエリア横断の連携になる。北陸で生まれたスタートアップを他地域のVCや事業会社につなぐ全国リレーが機能し始めれば、地方VC連合としての真価が問われる局面に入る。掲げるユニコーン企業、すなわち評価額10億ドル(約1,500億円)超の未上場企業の創出は長期戦であり、当面のKPIは「情報格差の解消」と起業の裾野拡大に置かれるだろう。次の節目は、北陸STARTUP PITCHの初回開催と統一ホームページの公開、そして協調出資の初弾がいつ表に出てくるか、である。