カードをかざす1秒を支える「基幹システム」とは何か

クレジットカードで払うたびに動く裏側の仕組みを作ってきたTISI(ティアイエスアイ)が、2026年3月期に営業利益762億円を稼ぎ、配当を14期続けて増やして年80円にした。
コンビニのレジでカードを端末にかざすと、「ピッ」と鳴って、1秒もかからずに支払いが終わる。そのわずかな間に、カード会社のコンピューターは、カードが本物か、使える枠が残っているか、いつもと違う怪しい使い方ではないかを確かめ、「通してよし」と返している。月末になれば、会員一人ひとりの明細をまとめて請求額を決め、ポイントを積み、銀行口座から代金を引き落とす。これを何千万人分、1日も止まらずにこなすのが、カード会社の「基幹システム」だ。ここが止まれば、そのカード会社のカードは全国で一斉に使えなくなる。怪しい使い方を見抜く役目も重い。日本クレジット協会によると、2025年のカードの不正利用の被害は510億円にのぼった。TISIは今年1月、AIで不正利用を見抜くサービスも始めている。
TISIは、この心臓部を作り、動かし続けてきた会社だ。この7月までは、TISという名前だった。同社の調べでは、取扱高の大きいカード会社25社のうち、TISIと取引のある会社が扱う金額を合わせると、全体のおよそ半分になる。VisaやJCBのマークが付いた銀行のデビットカードでは、手がける金融機関の数で8割を超える。経済産業省によると、2025年に国内でクレジットカードで払われたお金は約135兆円。この太い流れのかなりの部分が、TISIの作った仕組みの上を通っている。
この商売が強いのは、一度入り込むと長く続くからだ。カードの基幹システムは、会員の審査やカードの発行、お店の管理、請求、支払いが遅れたときの回収まで、細かな決まりごとの塊で、一度動き出せば長く使い続ける。乗り換えは、カード会社にとって大きな賭けになる。だから作った会社には、改修や機能の追加、日々の運用の仕事が途切れずに入ってくる。最近は、システムを丸ごと作る代わりに、クラウドのサービスとして貸し出す形も広げている。カード会社は巨大な仕組みを自前で抱えずに済み、初期の費用も抑えられる。NTTドコモも2023年、カード事業の基幹部分にこのサービスを採用した。
その稼ぎが、決算に表れている。2026年3月期の売上高は5,964億円、営業利益は前の期より10%多い762億円だった。カード会社向けの売上高は977億円と、全体の16%を占める。配当は2012年3月期に一度減らしてから、14期続けて前の期を上回った。株式分割を調整して比べると、1株配当は6円から80円へ、13倍あまりに増えた。今期は90円を計画しており、実現すれば15期連続になる。
では、なぜこの会社が、カード会社の心臓部を任されるようになったのか。答えは半世紀前の大阪にさかのぼる。

TISIはどんな会社か、共同計算センターからカードの心臓部へ

TISIは、企業や役所から注文を受けて、業務用のコンピューターシステムを設計し、組み上げ、完成後も動かし続ける会社だ。業界ではシステムインテグレーター、略してSIer(エスアイヤー)と呼ばれる。グループの社員は2万人を超え、取引先は4,500社以上にのぼる。
源流は二つある。一つは1971年に大阪で生まれた東洋情報システムだ。大型コンピューターがとても高価だった時代に、三和銀行と取引先の企業60社が出資し、計算機を共同で使う計算センターとして出発した。特定の創業者がいる会社ではなく、銀行とその取引先が生みの親だった。もう一つは1964年に富山で生まれた富山計算センター、のちのインテックで、地方の企業や自治体、通信網に強い会社に育った。
転機は2004年に来た。2001年にTISと名を改めた同社は、それまで下請けとして関わっていたJCBの基幹システムの作り直しを、元請けとして引き受けた。ところが開発は難航し、稼働は2度延期される。IT専門誌のIT Leadersによれば、2007年3月期には128億円の追加の引き当てを迫られ、赤字に転落した。新しいシステムが動き出したのは2008年11月だ。日本IBMの導入事例によると、JCBは業務とシステムを熟知したTISと検討を重ね、IBMの大型コンピューターを何台も組み合わせて、点検中も止まらない仕組みを作り上げた。痛手と引き換えに、カード会社の心臓部を知り尽くしたという経験が残った。JCBは今も、TISIの大株主に名を連ねる。
同じ2008年、TISはインテックと経営統合して共同の持ち株会社のもとに入り、2016年には持ち株会社がTISを吸収し、TISの名前を引き継いだ。そして2026年7月、インテックを合併してTISIになった。草彅剛さんが魔人に扮するテレビCMで、新しい名前を耳にした人もいるだろう。率いるのは、1985年に東洋情報システムに入社した岡本安史社長で、2021年から経営の指揮を執っている。
競争相手は、金融のシステムに強いNTTデータや野村総合研究所、富士通、NEC、日立製作所といった大手だ。海外では、米ビザが2024年、クラウドでカード発行の処理を担うブラジルの新興企業ピスモを傘下に収めた。カードの国際ブランド自身が、裏方の仕事に乗り出してきている。
課題もはっきりしている。一つは、決済サービスへの先行投資の重さだ。決済事業を抱える部門の利益率は、4〜6月期に4.1%と、会社全体の12.2%を大きく下回った。二つ目は、一つの案件のつまずきが利益を削る怖さだ。インテックが三菱食品から請け負ったシステム開発をめぐる裁判で、4月に70.9億円を支払う和解が成立し、2026年3月期の純利益は6.8%減の466億円にとどまった。そして三つ目が、AIだ。技術者の人数と期間で料金を決めてきた商売は、AIがプログラムを書くようになれば、値下げを迫られかねない。
その不安が一気に噴き出したのが、今年の2月だった。

市場はTISIをどう見ているか、そしてこれから何を見ればいいか

米国で始まったソフトウェア株の売りがアジアに広がった2月4日、米CNBCは、TISの株価が16%近く急落したと伝えた。きっかけは、米アンソロピックがAIの業務ツール「Cowork(コワーク)」に、法務向けの新しい機能を加えたことだった。AIがソフトウェアや開発の仕事を置き換えるという連想が広がり、株価は2月24日に一時2,900円を割り込んだ。年初につけた高値から、4割以上も値を下げたことになる。
会社の答えは素早かった。3月10日、最大500億円、発行済み株式の8.8%にあたる自社株買いを発表する。生成AIの広がりを「脅威ではなく新たな事業機会」ととらえたうえで、今の株価は、会社の考える本来の価値を十分に映していないと説明した。
もっと大胆に動いたのが、シンガポールに拠点を置く投資ファンドで、筆頭株主のいちごだ。大量保有報告書によると、いちごは株価が急落した2月から買い増しを重ね、5月には保有割合を12.3%まで高めた。夏の終わりには、米国の運用会社ファースト・イーグルも、5%を超える新たな大株主として名乗り出た。
株価は持ち直し、10月23日の終値は4,451円まで戻した。それでも、証券会社のアナリストは慎重だ。株予報によると、担当する10人のうち9人が投資判断を「中立」とし、目標株価の平均は4,144円と、すでに株価を下回っている。ゴールドマン・サックスも、目標株価を4,240円に引き上げながら、判断は中立に据え置いた。
この先、成否を見分ける点は三つある。一つ目は今期の数字だ。会社は営業利益810億円と、年90円の配当を掲げる。4〜6月期の営業利益は12%増の183億円と、順調に滑り出した。年明けに出る10〜12月期までの決算で、15期連続の増配に届くかどうかがほぼ見えてくる。その先には、2033年3月期に営業利益1,500億円超、今のほぼ倍という目標を掲げている。
二つ目は、AIで稼ぎ方を変えられるかだ。TISIは7月、カードの発行や審査、不正の検知、請求、回収といった決済の仕事ごとに、専用のAIエージェントを用意する新しい戦略を打ち出した。2027年4月に始まる次の中期経営計画でも、業界に特化したAIで積み上がる収益を増やすことを重点戦略に据える。人数と期間で請求する商売から、使われるほど収益が積み上がる商売へ移れるかが問われる。
三つ目は、デジタル通貨だ。この7月、みずほ、三菱UFJ、三井住友の3メガバンクが共同で発行するステーブルコインの実証で、TISIは発行の仕組みとウォレットの基盤を組み上げた。3行は2026年度中、つまり2027年3月までに実際の取引を始める方針だ。本番の仕組みでもTISIが裏方を任されるかが、試金石になる。
カードをかざす1秒の裏側で積み上げてきた信用が、762億円の利益と14期連続の増配を生んでいる。このニュースが示すのは、AIの波を受けても、決済の心臓部を握る裏方の稼ぎは簡単には崩れないということだ。その信用を、AIとデジタル通貨の時代の新しい土台に作り替えられるかどうかで、TISIの次の評価が決まる。

