リテールデータプラットフォーム「Urumo(ウルモ)」とは何か

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Urumoを一言で説明するなら、「日本中のドラッグストアやスーパーのレジを通った購買履歴を、小売企業の垣根を越えて一つの分析基盤にまとめたもの」である。2019年5月にリリースされ、フェズのすべての事業がこの上に載っている。

もう少し具体的に見よう。ドラッグストアで会員カードやアプリを提示して買い物をすると、「誰が(会員ID)・いつ・どの店で・何を・いくらで・何個買ったか」という記録が残る。これがID-POSデータである。従来、このデータは各小売企業の中に閉じていた。ツルハのデータはツルハの中に、ウエルシアのデータはウエルシアの中にあり、メーカーが「自社のシャンプーは全国でどう買われているか」を知ろうとしても、断片をつなぎ合わせる術がなかった。

Urumoは、複数の小売企業から第三者提供の許諾を得たうえでこのデータを預かり、横断的に分析できる状態にしている。2026年7月時点で連携先は全国15の流通企業、ドラッグストア・スーパーマーケット・ホームセンターなど複数業態にまたがり、カバーエリアは47都道府県全域、連携するID-POSは約1.2億ID分に達する。この数字は2020年9月末には約4,400万ID、2022年3月には約1億IDだったから、6年でおよそ3倍に膨らんだ計算になる。

扱うのは購買データだけではない。店頭データ(棚割や陳列の状況)、バイヤー施策データ(小売のバイヤーがどの商品をいつ特売にかけたか)、販促データ(チラシやクーポンの配信実績)も同じ基盤に載せている。フェズが自社の事業領域を「情報(広告)×商品(販促)×売場(店頭)」と表現するのは、この三層のデータを一つのIDでつなぐことを狙っているからだ。

データの扱いには明確な線が引かれている。フェズが利用できるのは各リテール事業者から個別に許諾を得たデータに限られ、広告配信の効果測定もアプリとiOSでトラッキング許諾を得たユーザーに限定して行われる。第三者から提供された調査データをターゲティング配信に直接使うことはせず、傾向分析の範囲にとどめる運用ルールも公表している。2025年11月24日には情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格ISO/IEC 27001:2022+Amd 1:2024(JIS Q 27001:2025)の認証を取得した。審査機関はSGSジャパン、登録番号はJP25/00000356で、2025年7月のプロジェクト立ち上げからわずか4カ月弱で初回審査を通過している。膨大な購買データを預かる立場として、認証は小売企業に対する「預けても大丈夫」という説明材料そのものである。

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Urumo AdsとUrumo BI——具体例で見る「購買起点」の設計

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Urumoという基盤の上に、フェズは二つの主力プロダクトを載せている。メーカーの広告投資を購買に結びつける「Urumo Ads(ウルモ アズ)」と、購買データを生成AIで分析する「Urumo BI(ウルモ ビーアイ)」である。

Urumo Adsが解こうとしているのは、消費財メーカーが長年抱えてきた素朴な悩みだ。テレビCMやネット広告を打っても、日用品や食品はほとんどが実店舗で買われるため、広告と購買のあいだが分断されていて「その広告が売上をつくったのか」が分からない。Urumo Adsは、広告に接触した人のIDと、店頭で商品を買った人のIDを突き合わせることで、この分断を埋める。連携する広告媒体は、Google広告(YouTube・Googleディスプレイネットワーク)、Meta広告(Facebook・Instagram)、TVer広告、X広告、LINE広告、SmartNews Ads、TikTok広告、Yahoo!広告、ABEMA Ads、そして2026年7月から加わったAmazon Prime Video広告の10系統に及ぶ。

効果の見え方は、実際の事例を見るのが早い。ヘアカラー大手のホーユーは、ブランド「シエロ」のカラートリートメントで新規顧客の獲得に苦しんでいた。効率を上げようと絞り込むほど配信ボリュームが減るというジレンマである。そこでUrumo Adsが連携する全国15流通の購買データからこの商品の実購買者群を抽出し、LINEヤフーが持つYahoo! JAPANユーザーの属性・興味関心・検索動向データと突き合わせて、購買者に特徴的なセグメントを特定した。このセグメントに配信した結果は、「ヘアケア・サロン・美容」という一見親和性の高そうなセグメントへの配信と比べ、購買CPAが30.2%改善、購買率が5.6%向上、リーチ単価が28.6%改善という数字になった。ホーユーの担当者は「それぞれの媒体間の効果を購買という最重要指標において客観的に比較・検証できる点」に価値を見出したとコメントしている。

2025年4月には、この考え方をプランニング段階まで前倒しした「メディアファインダー/メディアプランナー」を投入した。メディアファインダーは、購買データとメディア利用実態を突き合わせ、「購買率」と「広告接触率」の二軸の散布図として媒体ごとの購買親和性を可視化する。リーチが大きいだけの媒体と、実際に買う人が集まっている媒体を目で見て区別できるようにする道具だ。メディアプランナーは、予算とターゲット属性を入力すると購買とリーチの両軸で最適な媒体配分を自動算出する。発表時に示されたビタミン剤・栄養剤ブランドの実証では、購買親和性の高い層への配信で非接触層128%、接触層199%の購買リフトが観測された。

2026年に入ってからの機能追加は、計測できる範囲を広げる方向に向かっている。1月13日にはYouTubeのコネクテッドTV配信について、CTV広告IDとモバイル広告IDをID変換技術で突合し、テレビの大画面で見た広告が店頭購買にどう効いたかを可視化する機能を提供開始した。2月13日には購買データを起点にした調査サービスを立ち上げ、認知から購入意向までのボトルネックがどこで発生しているかを、購買行動で定義したユーザー群に対して直接聞けるようにした。7月1日からはAmazon Prime Videoのプレロール・ミッドロール広告のオフライン購買検証に対応している。国内利用者1,930万人(2025年末時点)を抱え視聴完了率の高いCTV在庫を購買と紐づけられるようになった一方、この媒体では小売のID-POSを使った購買ターゲティングや購買者類似オーディエンスは利用できないという制約も、フェズは明記している。

Urumo BIのほうは、小売のバイヤーやメーカーの営業担当が「専門知識なしに購買データを触れる」ことを狙ったツールである。データ分析における課題特定プロセスや特徴抽出プロセスを生成AIで自動化する仕組みで、2024年8月19日に特許第7540808号(発明の名称「分析支援システム、分析支援方法、及び分析支援プログラム」)として登録された。リテールデータ活用に関するフェズの特許取得は、これが3件目にあたる。

福岡を本拠に九州北部で154店舗を展開する新生堂薬局の事例が、この道具の性格をよく表している。導入前、バイヤーはメーカーの提案資料をベースに商談を進めていた。Urumo BIを入れ、さらにメーカー側にも同じ画面を開放したことで、商談の最中に提案された商品の実績をその場で確認し、同一のデータを見ながら議論できるようになった。カテゴリー別の分析をメーカー別・単品別・店舗別へ1クリックで掘り下げるドリルダウン機能や、分析条件の登録機能により、同じ分析が従来の2〜3倍の速さで行えるという。在庫回転率や交差比率のように複数指標を組み合わせた分析も容易で、生成AIによる要約・解釈がリアルタイムに出力される。同社は2021年2月からフェズと業務提携してDXに取り組んできた小売である。

2025年7月には、Urumo BIに「顧客再現機能」が加わった。メーカーが調査やインタビューを通じて定義したターゲット顧客像を、購買データ上で再現し、その定義が実際に買う層と一致しているかを検証できる。再現した顧客群にそのままUrumo Adsで広告を配信し、購買検証まで回せるため、戦略立案フェーズと実行フェーズでデータソースが分かれてしまう従来の断絶が解消される。この「シングルソース・データで一気通貫」という設計思想が、フェズのプロダクト全体を貫いている。

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広告の外側へ——販促・店頭・トレードマーケティングまでの垂直統合

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フェズを単なる「リテールメディアの広告会社」と見ると、事業の半分を見落とすことになる。2026年7月の第26回JAPANドラッグストアショーで同社が並べた展示内容が、現在の事業の広がりを端的に示している。

一つ目はUrumo Ads、二つ目は小売企業の販促施策を一括管理する販促DXツール「Promotion Manager」である。メーカーや代理店との受発注、データの受け渡し、ターゲットリストやレポートの作成、承認対応といった、施策ごとに大量発生する事務作業を効率化するもので、広告在庫を売る前段にある小売側のオペレーションそのものに手を入れている。三つ目のリテールメディア運用最適化ソリューションは、2025年の1年間で900件以上の運用サポート実績を持つ。

四つ目が、フリークアウト・ホールディングスとの合弁会社ストアギークが提供する「ストアギークサイネージ」だ。特売エンドではなく定番棚の前に設置する縦型サイネージで、店舗売上の8割を占める定番棚での訴求を狙う。2023年10月の提供開始以来、ツルハグループ、ウエルシア薬局、キリン堂、新生堂薬局、サンドラッグ、中部薬品、トモズなどに導入が広がり、2026年6月にはホームセンター最大手のカインズへの新規導入が決まった。健康食品・男性化粧品といった新カテゴリの追加もあわせ、2026年10月以降2027年春にかけて現状の約2倍となる5,200台規模へ拡大する計画である。本格展開から約1年で100件以上の案件を積み上げ、その80%以上で売上リフト効果が確認されたという。現在の展開範囲は39都道府県14流通に及ぶ。

五つ目の「たなれぼ」は、グループ会社ファイブシーユー(5cu)が提供する店頭販促ツールだ。人手不足で店頭販促物が使われないまま廃棄される現実に対し、汎用型の販促什器を店頭に常設し、POPや商品を専門ラウンダーが定期的に差し替える。店舗スタッフの工数ゼロ、小売の実質費用負担ゼロで販促施策の店舗実現率100%を狙い、設置画像とPOSデータを組み合わせてABテストまで行う。ファイブシーユーは全国約4,800名の人材ネットワークを持ち、メーカー営業担当に代わって店頭を巡回し、販促物設置や棚の整理、推奨販売を担っている。デジタル広告の会社が、実店舗に人を送り込む人材オペレーションを内製しているというのは、日本のリテールメディア企業のなかでも珍しい構えである。

六つ目と七つ目は、2026年2月26日にグループ化したトレマ株式会社(旧キャプロ)が担う。トレードマーケティング専門のコンサルティングと、ブランドとバイヤーをつなぐマッチングツール「ミツカル」である。トレードマーケティングとは、消費者ではなく小売のバイヤーとショッパー(買物客)を対象とするマーケティング活動を指す。トレマ代表の井本悠樹はP&Gジャパンとジョンソン・エンド・ジョンソンで主要カテゴリーのトレードマーケティングマネージャーを務め、20を超える新製品開発や流通戦略策定に携わった人物で、2024年2月に宣伝会議から書籍『トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』を出している。同時に2019年4月からフェズにも参画していた。

グループ化の背景として、フェズは小売のプライベートブランド増加や人手不足を挙げ、「メーカーが計画通りに商品を店頭に並べたり(配荷)店頭でプロモーションを行ったりすることが難しくなってきている」と説明している。赤尾雄司は「消費者理解から広告宣伝、小売販促、店頭施策まで一気通貫での支援体制を確立させる必要がある」とコメントした。トレマは独立した法人格と現経営陣を維持したままグループ入りしている。

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株式会社フェズ——10年の歩みと現在地

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フェズは2015年12月3日設立の未上場企業で、従業員数は158名。島根県出雲市にもオフィスを構える。

社名の由来となるミッションは、10年のあいだに二度書き換えられている。創業当初の「『消費』そして『地域』を元気にする。」から、「情報と商品と売場を科学し、リテール産業の新たな常識をつくる。」を経て、創業10周年にあたる2025年12月3日に「リテール産業に新しい常識をつくる」へと刷新された。次の10年を見据えた事業拡大に向け「市場を牽引し続けられるより強い組織をつくるため」と説明されている。

事業の骨格が固まった順序を追うと、2019年5月のUrumoリリース、2020年10月の「Urumo OMO」提供開始、2022年のMetaとのブランド+オフラインコンバージョンリフト連携、2023年10月のストアギークサイネージ開始、2024年7月のUrumo BI追加、2025年4月のメディアプランナー、2025年9月のSSP機能「Urumo Moment」となる。Urumo Momentはジーニーとのパートナーシップで開発された機能で、メディア側が広告枠にタグを設置するだけでUrumo Ads利用メーカーのブランド広告を受けられ、購買データに基づいてメディア価値を定量的に証明できる。第一弾の連携先は年間約59億PVを持つ天気予報専門メディア「tenki.jp」だった。広告主側(DSP的な機能)から始まった事業が、媒体社側(SSP)にまで手を伸ばしたことを意味する。

2026年7月1日には、オウンドメディア「FEZ MAG」を刷新し、リテール産業の未来を共に創るメディア『Re:CoLab(リコラボ)』としてオープンした。Retail、Redefine、Co-creation、Collaboration、Laboratoryの5つを重ねた造語である。業界のリーダーへのインタビューやソリューション紹介を発信する場を、自社サイトの外側に置いた格好だ。

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業界の状況——リテールメディア市場はどこまで来たか

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フェズが事業を張っている市場の輪郭を、信頼できる調査から確認しておく。

CARTA HOLDINGSがデジタルインファクトと共同で実施し2026年1月27日に公表した調査によれば、2025年の国内リテールメディア広告市場は6,066億円(前年比129%)に達した。内訳はEC事業者が5,236億円、店舗事業者が830億円で、店舗事業者の内訳はデジタル広告620億円、デジタルサイネージ210億円である。2029年には市場全体で1兆3,174億円(2025年比約2.2倍)、店舗事業者領域は1,939億円(同約2.3倍)に成長すると予測している。調査期間は2025年9月から2026年1月までで、業界ヒアリングと独自データ分析、公開情報をもとに算出された。

ここで注意しておきたいのは、市場の8割以上をEC事業者が占めているという構図である。楽天やAmazonのように自社ECの検索結果画面に広告を出すモデルが数字の大半を作っており、フェズが主戦場とする実店舗系の市場はまだ830億円にすぎない。ただし店舗事業者領域は成長率で見ればECを上回るペースで伸びており、BIPROGYが公表した資料では2028年に店舗事業者領域が2024年比3.2倍になるとの見通しが示されている。

世界に目を向けると、WARCは世界のリテールメディアネットワーク投資が2025年に1,749億ドル(約27兆7,000億円、前年比13.7%増)、2026年に1,967億ドル(約31兆2,000億円、同12.4%増)へ拡大し、全広告費の16%を占めると予測する。伸び率はコロナ禍の2021年に記録した38.6%から着実に減速しており、2027年は11.6%と一桁台に近づく見通しである。eMarketerは2028年にAmazonのリテールメディア収益が750億ドル(約11兆9,000億円)を超え、2位のネットワークに650億ドル(約10兆3,000億円)以上の差をつけると予測している。世界的には「巨大な一社と、その他大勢」という構造が固まりつつある。

上場企業の実績も参考になる。リテールメディア専業に近いCriteoが2026年8月5日に発表した第2四半期決算は、売上高4億2,800万ドル(約679億円、前年同期は4億8,270万ドル)、純利益1,180万ドル(約19億円)だった。リテールメディア収益は21%減(為替中立ベース22%減)となったが、これは事前に開示していた2社のリテールメディア顧客とのスコープ変更による2,100万ドルの逆風によるもので、その影響を除いた既存顧客ベースのContribution ex-TACは20%成長している。四半期のリテールメディア広告支出は前年同期比31%増、4,500超のブランドが同社プラットフォーム経由で出稿し、メディア支出は11億ドル(約1,745億円)を突破した。市場が伸びていても、大口小売との契約次第で業績が大きく振れる——プラットフォーマー型ビジネスの構造的なリスクが数字に表れている。

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競合とサプライチェーン——誰と、どこで戦っているのか

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日本のリテールメディアは、いま三つの勢力が同じ土俵に上がりつつある。データを持つ小売自身、それを束ねようとする中立プラットフォーマー、そして広告を売る代理店とプラットフォーマーである。フェズは二番目に属し、上下双方から圧力を受けている。

最大の直接競合はカタリナマーケティングジャパン(CMJ)である。同社は全国約1万3,000店舗から年間14兆円規模の購買データを預かり、2025年に新ブランド「AOUMI(アオウミ)」を立ち上げた。AOUMIには120社以上のリテーラーが参画し、スーパーとドラッグストアのカバー率は52%超、捕捉する消費者IDは1.4億超、月間の会計数は5億回超に達する。米カタリナマーケティングからのカーブアウトをD Capitalと進めてきた同社は、2025年11月28日にBIPROGYが親会社Yosemite1の全株式を取得することで合意し、2026年1月6日に完全子会社化が完了した。日本経済新聞によれば取得価額は約405億円で、BIPROGYにとって過去最大規模の買収である。BIPROGYは2030年度に企業価値1兆円のグループを目指す成長戦略の柱にリテール領域を据えており、電子棚札やアプリキャンペーン基盤といった自社の小売向けサービス群とAOUMIを連携させる方針を掲げている。データ規模でも資本力でも、フェズの上をいく相手が資本の後ろ盾を得たことになる。

もう一つの直接競合であるアドインテは、CPGメーカー特化型のリテールメディア広告配信「BRAND LOOP Ads」で連携店舗4万店舗・流通総額13兆円規模を掲げ、サイネージネットワークを2万7,000面へ拡大する計画を示している。同社が主催するリテールメディアサミットは業界最大級のイベントに育ち、2026年は11月11日・12日に「Beyond Marketing and Commerce」をテーマに開催される。NTTドコモ系のDearOneが運営するARUTANAは、小売企業の公式アプリを横断して広告を配信するプラットフォームで、2026年5月にMAU5,000万人を突破した。イオンやスギ薬局が参加し、2026年7月にはコーナンアプリが加わっている。

より本質的な脅威は、小売企業自身の内製化である。2026年6月11日、セブン‐イレブン・ジャパンは電通・サイバーエージェントと合弁会社『セブン‐イレブン・アドコネクト』の設立合意を発表した。3社連名のニュースリリースによれば、資本金1億円、代表者は杉浦克樹、事業開始日は2026年9月1日で、約2万2,000店舗と約2,800万人のセブン‐イレブンアプリ会員基盤(いずれも2026年5月末現在)を土台に、サイネージとアプリを軸とした広告配信から効果検証までを一体で設計する。出資比率はセブン‐イレブン・ジャパン80%、電通10%、サイバーエージェント10%、社員約40名と報じられており、店内サイネージは四国・首都圏から関西・東海へ広げて2026年9月時点で約8,700店規模になる見通しだ。杉浦はセブン‐イレブンの店舗網を「視聴率15%のメディア」と表現し、リテールメディアを含む新規事業で2030年に売上高200億円を目標に掲げている。イオンも2024年4月からグループ横断のリテールメディアを本格化させている。データを預ける側が、そのまま競合になる構図だ。

代理店の動きも見逃せない。電通グループは2022年11月のシリーズDでフェズに出資した株主であり、事業会社の電通は2025年5月、テレビ実視聴データ基盤「STADIA360」(2025年2月時点で約1,510万台の機器データ)とUrumo Adsを連携させている。しかしその電通が2026年7月13日、自社の統合メディアプランニングツール「クロスメディア・プランナー」にリテールメディアのデータを初めて導入した際、選ばれたのはGate Oneが運営するファミリーマートの店内サイネージ「FamiMa TV」(2026年6月時点で約1万1,500店)だった。株主であることと、プランニング基盤の中核に据えられることは別問題だという現実がここにある。

サプライチェーンの側から見ると、フェズの位置取りは明快だ。上流には日用消費財メーカー(フェズが導入事例やコメントを公表しているところではファイントゥデイ、ホーユー、コーセーなど)、中流には卸、下流には小売がいる。フェズはこれまで小売とメーカーの二端を直接つないできたが、2025年8月28日のPALTACとの資本業務提携で、抜けていた中流に手をかけた。PALTACは1898年創業(会社設立は1928年12月22日)の化粧品・日用品・一般用医薬品卸で、約400社の小売業と約1,000社のメーカーをつなぎ、生活必需品の卸流通の3分の1をカバーする。従業員2,283人(2025年3月末)、資本金158億6,900万円の東証上場企業だ。フェズは第三者割当増資を実施し、PALTACがその全てを引き受けた。金額は非開示である。

この提携が描くロードマップは二段階になっている。第一段階は「営業高度化」で、PALTACの営業部隊にUrumo BIを導入し、カテゴリー別・メーカー別・店舗別の分析を即座に引き出せるようにする。PALTACの営業とバイヤーとメーカー担当が同じ指標で会話できるようにすることが狙いだ。第二段階が「在庫最適化」で、卸が持つ商品情報・販売情報・店頭情報・配送情報と、フェズが持つ購買データを統合し、生産から店頭までを連続して可視化する。赤尾は在庫を「削減する対象」ではなく「サプライチェーン全体の意思決定の結果として生じるもの」と位置づけ、販売実績が上流に共有されれば実需に即した生産計画が立てられるようになると説明している。

小売側の再編も、フェズの事業環境を変えつつある。ツルハホールディングスとウエルシアホールディングス、イオンの経営統合は2025年12月1日に実施され、ツルハHDの2026年2月期は売上高1兆4,505億8,500万円、グループ直営店5,676店舗となった。2027年2月期は統合効果が通期で寄与し、売上高2兆5,550億円(前期比76.1%増)を計画している。ツルハグループとウエルシア薬局はいずれもストアギークサイネージの導入先として公表されている。交渉相手が巨大化することは、条件面での交渉力低下と、1社離脱時の打撃の大きさという二つの意味を持つ。

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創業者・伊丹順平——P&Gとグーグルで見た「小売の負」

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フェズを創業した伊丹順平は岡山県の出身である。岡山県立岡山城東高校では野球部でセカンドを守り、代打として甲子園の土を踏んだ。「甲子園に出場するという夢が叶った時に得た快感は今でも忘れられません」と後年語っている。高校時代は野球漬けで全教科を勉強する時間がなく、浪人を経て理系に絞り直し、東京理科大学工学部工業化学科に進んで2009年に卒業した。

2009年4月にP&Gジャパンへ入社する。本人の弁によれば「正直言うと選考が早かったから」という理由だったが、配属されたのは営業統括部門で、大手流通企業を担当した。ここで店舗マネージャーの悩みを間近で見たことが、後の事業構想の原体験になる。テレビ広告を軸に売場を考える商習慣が残り、複雑な意思決定プロセスと属人化のなかでバイヤーが業務過多に陥り、投資対効果の見えない販促施策が続く——フェズが後に「小売業界の構造的な課題」として何度も言及することになる光景である。ただし当時の伊丹は「売る商品の単価が安く、一人あたりの仕事のスケールが小さいと感じてしまった」ことから転職を決めている。

2012年11月にグーグル合同会社へ移り、新規顧客開発本部で消費財メーカーや小売流通業界へのデジタルマーケティングの立案・提案、オムニチャネル戦略に携わった。P&Gで「小売業界の負」を見て、グーグルで「デジタル(データ)の可能性」を確信した——この二つの原体験を接続する形で、2015年12月3日に株式会社フェズを創業した。同社の会社紹介資料は、この経緯を「小売業界の『負』を目の当たりにしたP&G時代」「デジタル(データ)の可能性を確信したGoogle時代」「小売業界をデータで変革するフェズ創業」という三段の図で説明している。

創業から約9年、伊丹は2024年10月1日付で代表取締役を退き、取締役(ファウンダー)兼海外事業責任者となった。以降はベトナムを拠点に海外展開の立ち上げを担っている。2025年3月18日、フェズはベトナムで小売サプライチェーンのDXと決済・金融サービスを手がけるFinviet Technology Corporation(ホーチミン市、CEO Nguyen Thanh Hien)と業務提携し、現地でリテールデータ事業を共同で立ち上げると発表した。Finvietはベトナムの中小企業150万社向けに決済プラットフォームや運転資金融資、サプライチェーン管理を提供し、2018年に本格提供を始めたアプリ「ECO Merchant」を小規模小売店を中心に普及させている。伊丹は「GT(General Trade)のビジネスを包括的に解決できるプロダクト『ECO』を提供するFinviet社のビジョンに共感した」とし、「国境を超えた新しいベンチャー企業同士の協業を実現したい」とコメントしている。日本の人口減少を前提に、購買データ活用の需要が中期的に立ち上がるアジア市場へ先回りする布石である。

社長交代と赤尾雄司——「代表は役割のひとつ」

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2024年10月1日、フェズは代表取締役を伊丹順平から赤尾雄司に交代し、同時に取締役CFOだった鈴木勇次を取締役COO兼CSOとする役員体制の変更を発表した。プレスリリースは背景を「国内事業の基盤が概ね確立し拡大フェーズへ移る中、創業10年目以降の更なる成長を見据え、取締役会で議論を重ねた結果」と説明している。

交代の理由について、伊丹はコーポレートブログのインタビューで、フェズの稟議規程では代表の持つ権限が極端に少なく、代表とは役割の一つにすぎないという思想で会社を作ったため、その役割に最も適した人がやればよく、創業者だからといって居続けるものではない、という趣旨を語っている。創業者が取締役として社内に残りながら執行のトップを譲るという形は、日本の未上場スタートアップでは決して多くない。

新代表となった赤尾雄司は1992年3月に筑波大学の人文学類を卒業し、同年4月にリクルートへ入社した。大手から中小まで幅広い企業の人材採用や教育支援を担当したのち、新規事業開発部門で「ホットペッパー」の立ち上げを担い、事業の黒字化と全国展開を牽引した。さらに「ホットペッパービューティー」のCompany Officer(事業責任者)としてカンパニー化を推進している。その後トレンダーズ株式会社の取締役などを経て、2017年7月に顧問としてフェズに参画。2018年7月に入社して取締役副社長に就任し、以降は取締役COOとして国内事業の確立・拡大を主導してきた。フリーペーパーというオフラインの媒体をゼロから全国事業に育てた経験を持つ人物が、店頭という別のオフライン在庫をメディア化する会社のトップに就いた格好である。

赤尾の経営観は明快だ。仕事観に関するインタビューでは「私は"生きるために働く"ということを大事にしています。これこそ、人間の原点の強さだなと思うんです」と述べ、社員や求職者に対して「決して"自分のオーナーシップ"を手放さないように。自分の人生のオーナーシップは会社にはない」と繰り返し語っている。

事業戦略における赤尾の主張は「マーケティングのルールは、購買起点に変わっていく」の一言に集約される。2025年4月のメディアプランナー発表時のプレゼンテーションでは、人口減少や出店余地の限界、仕入れ価格の上昇という環境変化のなかで小売のプライベートブランドや専売品の比率が高まり、ナショナルブランドメーカーの「販売につながる企画力」が問われていると指摘した。そのうえで、マーケティングにおいて「定性」から「ファクト」への転換が求められているとし、広告・販促・商品開発・CRMのすべてが購買データに基づいて再設計されるべきだと述べている。リテールメディアはその一部の領域にすぎず、購買結果を起点とした統合マーケティング(IMC)の構築こそが競争力の源泉になるという整理だ。2024年12月のインタビューでは「日本の小売はアメリカと違い、地域ごとに有力プレイヤーが分かれている」ことを挙げ、複数小売のデータを横断できるUrumoの価値を強調している。2026年7月31日に公開された経営者インタビュー「社長名鑑」への登場記事は「常識の壁を打ち破り購買データで描くAI時代の生存戦略」と題された。

取締役COO兼CSOの鈴木勇次の経歴も、この会社の資本政策を読むうえで重要である。東京大学大学院農学生命科学研究科を2009年に修了後、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで為替トレーダーを務め、ヤマトキャピタルパートナーズ(現YCP)に創業期から参画。Origamiで財務・経営企画を担当して資金調達から売却までを遂行し、ユーグレナではM&Aによる成長戦略に従事したのち、2020年9月にフェズへ参画した。グループ会社ファイブシーユーの代表取締役も兼ねる。投資銀行・PE・スタートアップCFO・M&Aという経歴を持つ人物が、現在は財務ではなくCOO兼CSOとして事業執行と戦略の両輪を握っている点は、フェズが「調達フェーズ」から「実行フェーズ」へ軸足を移したことを示唆する配置である。

資本政策と財務——投資家はフェズをどう評価してきたか

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フェズの資金調達は、事業の節目ごとに投資家の顔ぶれが入れ替わってきた。

2020年8月25日、ニッセイ・キャピタルが運用するファンドとIncubate Fund US, L.P.を引受先とする第三者割当増資と、既存取引銀行等からの融資により総額約6.3億円を調達した。2021年10月13日にはシリーズCとして総額約11.5億円を調達し、リードインベスターはニッセイ・キャピタル、そのほかIncubate Fund US, L.P.、SHIFT、MTG Ventures、フォースタートアップスキャピタルが参加した。ここまでは純粋な財務投資家とテック企業が中心である。

局面が変わったのが2022年11月のシリーズD1stクローズで、電通グループと住友商事を引受先に18億円を調達し、同時に電通プロモーションプラスおよび住友商事と業務提携契約を締結した。2023年10月25日にはNTTドコモと業務提携し、NTTドコモ・ベンチャーズが運営ファンドを通じて出資している。ドコモ側は9,600万人を超えるdポイントクラブ会員情報(2023年6月時点)やd払いの決済情報、位置情報データを組み合わせた「ドコモリテールDXプログラム」を同日に開始した。この時点でNTTドコモ・ベンチャーズは、フェズが約340の主要メーカーブランドと約9,460店舗の小売と提携し、約1億IDのID-POSを管理していると紹介している。フェズ自身の会社紹介資料は2024年2月時点で「累計資金調達額50億円以上(シリーズD)」と記載している。

そして2025年8月28日のPALTACとの資本業務提携である。フェズが実施した第三者割当増資をPALTACが全額引き受けた。金額と出資比率は両社とも開示していない。財務投資家→広告・商社→通信キャリア→卸という調達先の変遷は、そのままフェズが押さえにいったバリューチェーンの順序を示している。

財務の実態は、官報の決算公告から読み取れる。フェズの決算公告は貸借対照表のみで売上高は開示されないが、当期純損失の推移は事業フェーズの変化を鮮明に映す。2022年11月期(第7期)の当期純損失は9億4,026万円、2023年12月期(第8期・決算期変更に伴う13カ月)が7億7,189万円、2024年12月期(第9期)が2億8,347万円、そして2026年3月31日に公告された2025年12月期(第10期)が1,269万円である。3期で赤字を約74分の1に圧縮し、創業10周年の期にほぼ損益均衡へ到達した計算になる。総資産は2025年12月期末で26億5,241万円と前期比20.13%増で、PALTACからの調達が反映されたとみられる。利益剰余金は28億9,296万円の欠損だが、2024年12月期時点で資本剰余金37億1,200万円により純資産9億3,200万円を維持していた。

売上高については、中小企業基盤整備機構の「売上高100億円宣言」に提出された資料が数少ない公表情報である。そこには「現在の売上高:12.9億円(2024年12月期)」「常時使用する従業員:117名(2025年3月時点)」と記載され、赤尾の名で「今から4年後の29年12月期において、売上高100億達成を実現するため、足元の成長率yoy+50%水準を維持した成長を続ける」という目標が掲げられている。600ブランド超が利用するサービスの売上高としては小さく見える数字だが、フェズは広告事業の売上を取扱高ベースで計上しているか純額ベースかを開示していない。

同資料が挙げる課題は、そのまま経営陣の自己認識でもある。小売データ量で業界トップ水準を維持すること、データ活用にAIをフルで活用して自社特有のデータアルゴリズムを開発すること、取り扱い可能な広告メディアを拡大すること、そして広告だけでなく店頭実現にも注力すること。実現手段としては、小売専門コンサルタントの採用・教育、AIの全社導入による各プロセスの生産性改善、そして「FY28やFY29はM&Aも積極的に行い、自社バリューチェーンを非連続的に拡大」することが挙げられている。実施体制の項目には「IPO前後に備え、経験のある経営企画およびファイナンスチームの構築」という一文があり、株式公開を視野に入れていることが明示されている。時期や主幹事は公表されていない。

資本構成には、2026年に入ってからの動きも観測できる。2026年3月30日に開催された定時株主総会および普通株主による種類株主総会で、産業競争力強化法に基づくストックオプション・プール制度の第22回新株予約権について、募集事項の決定を取締役会に委任する決議が行われた。資本金は2026年4月末時点で1億円だったものが、6月24日時点で3億5,182万4,000円に増加している。フェズはこの間に資金調達のプレスリリースを出していないが、スタートアップ情報データベースであるFIRST CVCの「CATALYST」は、同社の最新ラウンドをシリーズE(2026-04)、通算5ラウンド、主要投資家をPALTAC、NTTドコモ・ベンチャーズほか7社と分類している。

投資家の目線でこの会社を評価するうえでの比較対象は、いま非常にはっきりしている。データ規模で上回るカタリナマーケティングジャパンが405億円でBIPROGYに買われたという事実が、日本の購買データ基盤に付く価格の相場観を一つ提示したからだ。累計調達額50億円超で赤字をほぼ解消したフェズが、2029年12月期の売上高100億円という自己宣言をどこまで実現できるかが、その相場観に届くかどうかを決める。

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強みと課題

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フェズの強みは、突き詰めれば「単一の小売に属さないこと」に由来する。日本の小売は米国と違って地域ごとに有力プレイヤーが分かれており、一社のIDだけでは全国規模のマーケティングが設計できない。複数の小売から許諾を得てデータを横断し、47都道府県をカバーする中立基盤を作ったこと自体が参入障壁になっている。しかもその横断データを、広告配信という「出口」に接続して購買で検証できる状態にまで持っていった。Google、Meta、Yahoo!、TikTok、TVer、ABEMA、Amazon Prime Videoまで10系統の媒体で同じ購買指標を使える設計は、代理店のメディアミックスや広告指標ベースの配信ツールとは異なる価値を持つ。

第二の強みは、広告の外側を押さえたことである。小売のリテールメディア売上の実態は、MarkeZineの取材でスギ薬局が明かしたところでは8割超がメーカーの販促予算から出ており、広告予算からの支出は2割未満にとどまる。つまり日本のリテールメディアは、まだ「広告」ではなく「販促」の延長線上にある。フェズがストアギークのサイネージ、ファイブシーユーのラウンダーと「たなれぼ」、トレマのトレードマーケティングコンサルまで垂直に統合したのは、この予算の実態に沿った構えだと読める。デジタル広告だけを売る会社は、この8割の予算に手が届かない。

第三に、財務規律である。2022年11月期に9億円超あった赤字を3期でほぼ解消したことは、大型調達を繰り返しながら赤字を垂れ流すタイプの成長企業とは異なる意思決定がなされてきたことを示す。ISMS認証の取得や、許諾ベース以外のデータをターゲティングに使わないという明示的なルールも、購買データという神経質な資産を扱う企業としての信用を積み上げる材料になっている。

課題は四つに整理できる。

一つ目はスケールである。売上高12.9億円(2024年12月期)から2029年12月期の100億円へ到達するには年率50%前後の成長を5年続ける必要がある。600ブランドという導入数は着実に伸びているが、店舗事業者領域の市場そのものが2025年で830億円しかない。ここでシェアを取るだけでは足りず、EC領域や海外、あるいは広告以外の収益源(Urumo BIのSaaSライセンス、販促DXツール、コンサルティング、M&A)を積み増す必要がある。同社自身がFY28・FY29にM&Aを組み込むと宣言しているのは、この算術を認識しているからだろう。

二つ目はデータ規模と資本力の競争である。Urumoの約1.2億ID・15流通に対し、AOUMIは1.4億超のID・約1万3,000店舗・120社超のリテーラーを抱え、BIPROGYという上場SIerの傘下でIT基盤とAI技術の投入を受ける。データ量で業界トップ水準を維持することはフェズ自身が挙げる第一の課題であり、連携先を増やし続けられるかが生命線になる。

三つ目は、データの供給元が競合に転じるリスクである。セブン‐イレブンは2026年9月に自前の合弁会社を始動させ、イオンもグループ横断でリテールメディアを運営する。中立プラットフォーマーは、小売が自前でやると決めた瞬間に立ち位置を失う。パートナー企業との関係も一枚岩ではない。株主である電通グループの事業会社・電通は、自社の統合メディアプランニングツールに初めてリテールメディアデータを載せる際、フェズではなくファミリーマートのFamiMa TVを選んだ。ツルハとウエルシアの統合で交渉相手が巨大化したことも、条件面と離脱リスクの両面で効いてくる。

四つ目は、計測できる範囲の制約である。Amazon Prime Video広告では小売ID-POSを使った購買ターゲティングと購買者類似オーディエンスが使えず、分析はアプリとiOSでトラッキング許諾を得たユーザーに限られる。DIGIDAYが2025年4月に報じた際、フェズが全国14の流通企業から預かる購買履歴は約1,300万ID分とされており、同社が対外的に掲げる「約1.2億ID分のID-POSデータと連携」という数字と、実際に広告配信・検証で名寄せして使える母数のあいだには開きがある。プライバシー規制と各媒体のポリシーは今後さらに厳格化する方向にあり、計測の解像度をどう維持するかは技術課題であり続ける。加えて、伊丹が率いるベトナム事業はまだ立ち上げ段階で、収益貢献の時期は示されていない。

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今後の注目点——いつ、何が動くか

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直近で最も早く動くのは競合の側である。2026年9月1日、セブン‐イレブン・アドコネクトが事業を開始する。2026年9月までに約8,700店へ店内サイネージを設置する計画がどこまで進むか、そして2030年に広告売上200億円という目標に向けた初期の出稿状況が、日本のリテールメディアが「小売の自前」に傾くのか「横断プラットフォーム」に傾くのかを占う最初の材料になる。

フェズ側では、ストアギークサイネージの拡大が2026年10月から2027年春にかけて実行される。カインズの新規導入と健康食品・男性化粧品カテゴリの追加により、設置台数は現状の約2倍となる5,200台規模へ向かう。定番棚前という在庫は物理的に有限であり、この時期に誰がどのチェーンの棚を押さえるかは中期的な競争力を左右する。

2026年11月11日・12日にはアドインテ主催のリテールメディアサミット2026が開催される。3年目を迎えるこの場で、各社が2027年に向けてどのような座組を発表するかは注視に値する。

数字が出てくるのは年明け以降である。CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトによる2026年の市場調査は例年1月末に公表されており、店舗事業者領域が830億円からどこまで伸びたかが確認できる。そして2027年3月から4月ごろには、フェズの2026年12月期(第11期)決算公告が官報に掲載される見込みだ。2025年12月期に純損失1,269万円まで到達した同社が、創業11期目で初の通期黒字を計上するかどうかは、100億円目標とIPO準備の現実味を測る最も客観的な指標になる。同時期にはツルハホールディングスの2027年2月期決算で、連結売上高2兆5,550億円計画と統合効果の進捗が明らかになる。

より長い時間軸では、PALTACとの提携が第二段階の「在庫最適化」に進めるかどうかが本丸になる。営業高度化のためのUrumo BI導入は比較的短期で成果が見える施策だが、メーカーの生産計画から店頭までを連続したデータで扱う基盤づくりは、企業の垣根を越えたデータ共有という業界構造そのものへの挑戦である。両社は特定のメーカー・小売との実証を段階的に進める方針を示している。ここが動けば、フェズは広告会社でも分析ツール会社でもなく、流通のデマンドチェーンを支えるインフラ企業として再評価される余地が生まれる。逆にここが動かなければ、830億円の市場で中立を守りながら大手の内製化と資本力に挟まれ続けることになる。創業者が海外で新しい市場を開拓し、二代目社長が国内で購買起点の統合マーケティングを説く——フェズの次の1年は、この二正面作戦がどちらも中途半端に終わらないかどうかにかかっている。


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