AIの土台、データセンターに選挙がブレーキをかけた

米中間選挙で民主党が上下両院を制し、データセンター規制に警戒感。ソフトバンクグループ(9984)一時15.8%安。日本株への更なる波及は? - AIの土台、データセンターに選挙がブレーキをかけた - 章扉

ソフトバンクグループの株価が、一時15.8%も急落した。6日の東京市場では売り注文が殺到し、取引が始まってから25分間、値段すらつかなかった。ようやく付いた最初の値段は前日より630円安い3,350円で、1年3カ月ぶりの安値になった。終値は10.8%安の3,549円。この1銘柄だけで日経平均株価を約349円押し下げ、日経平均の下げ幅は3,643円に達した。

引き金は、太平洋の向こうの選挙だった。3日のアメリカ中間選挙で、野党の民主党が下院で少なくとも250議席、上院でも54議席以上を確保する見通しとなり、両院の多数派を奪った。そして選挙戦の大きな争点の一つが、AIを動かす巨大な計算施設、データセンターだった。

ChatGPTに質問すると、その答えを計算しているのは、倉庫のような巨大な建物に並ぶ、AI用の半導体を積んだ何万台ものサーバーだ。AIを使う人が増え、AIが賢くなるほど、この建物がもっと必要になる。逆に言えば、建物が建たなければ、どれほど優れた半導体を作っても置き場所がない。半導体やメモリー、光ファイバー、電力設備まで、いまのAI関連株の値段は「データセンターがこれからも猛烈な速さで建ち続ける」という前提の上に成り立っている。

その前提に、有権者が待ったをかけた。データセンターは大量の電気と水を使う。ソフトバンクグループがオハイオ州で計画する施設は、コンピューターだけで800万キロワット、原子力発電所8基分に相当する電力を使う規模だ。住民からは電気代の値上がりや水への不安、巨大企業への税の優遇に対する反発が噴き出した。ABCニュースの有権者調査では、およそ4人に3人が地元でのデータセンター建設に反対と答え、選挙と同時に各地で行われた41件の住民投票では、40件でデータセンターに不利な結果が出た。

勝った民主党の側からは、規制を求める声が相次ぐ。民主党と会派を組む無所属のサンダース上院議員は「今すぐ全米でデータセンターの一時停止を」とSNSに投稿した。ただ、連邦の法律で建設を止めるには、トランプ大統領の拒否権という壁がある。より現実味があるのは州の動きだ。テキサス、オハイオ、ジョージアの3州では、データセンターの新設に条件付きを含めて一時停止をかけると公約した民主党の候補が、知事選に勝った。テキサスで民主党の知事が選ばれるのは1990年以来で、同州には全米で計画中のデータセンター容量の27%が集まるとウェルズ・ファーゴは試算する。米調査会社フューチャラム・グループは、計画容量の3分の1が、開発を遅らせうる知事のいる州にあると指摘した。

市場の反応は速かった。5日のニューヨーク市場ではハイテク株が総崩れとなり、ナスダック総合指数は5.5%、主な半導体株でつくる指数は12%を超えて下げた。ブルームバーグによると、米国株の時価総額はこの1日で約360兆円消えた。その売りが、翌朝の東京を直撃した。

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ソフトバンクグループはどんな会社か ―― AIの頭脳と土台に借金で賭ける

米中間選挙で民主党が上下両院を制し、データセンター規制に警戒感。ソフトバンクグループ(9984)一時15.8%安。日本株への更なる波及は? - ソフトバンクグループはどんな会社か ―― AIの頭脳と土台に借金で賭ける - 章扉

ソフトバンクグループはいまや、携帯電話の会社というより、AIに会社ごと賭ける投資会社だ。賭けは三つの層に分かれる。一つ目はAIの頭脳で、ChatGPTを開発するOpenAIに累計で約10兆円を投じてきた。二つ目は半導体の設計図で、スマートフォンの頭脳に広く使われる設計を手がける英アームの株を約9割持つ。三つ目が、今回の選挙で揺さぶられたデータセンターだ。

代表格が、子会社のSBエナジーがオハイオ州南部で進める計画だ。かつて核燃料のウランを濃縮していた国の工場の跡地などに、OpenAI向けの巨大なデータセンター群を建て、20年間貸し出す。中に並ぶ半導体はすべてエヌビディア製で、エヌビディアは建設資金の信用面でも後ろ盾になる。CNBCによれば、総事業費は80兆円規模に達する可能性がある。最初の区画は2028年に使える予定だが、その先は新しい発電所や送電線が要り、許認可と環境審査を通ることが前提になる。テキサス州にもOpenAIと進める巨大計画「スターゲート」の拠点を持ち、9月にはデータセンターなどに投資する米デジタルブリッジの買収を終えた。

つまり同社の米国での大型データセンター計画は、知事が民主党に代わるオハイオとテキサスに集まっている。しかもこの路線は、トランプ政権と二人三脚で進めてきたものだ。孫正義会長兼社長は、トランプ氏の2期目の就任翌日、ホワイトハウスでOpenAIのアルトマンCEOらと並んでスターゲート計画を発表した。今回の選挙は、その政権への厳しい審判になった。

業界の中では、データセンターを建ててOpenAIに貸し、エヌビディアの半導体を並べる立場で、自前で巨大施設を持つマイクロソフトやアマゾン、半導体の計算力を貸し出すコアウィーブなどと競う。米ニーダムのアナリストは、規制の壁が高くなるほど既存の巨大IT企業が有利になり、新しく参入する側の負担が重くなると指摘した。ソフトバンクグループは、その新しく参入する側にいる。

強みは、AIの中心にいる企業の株を早く、大量に押さえていることだ。OpenAIが上場すれば、巨額の含み益が現金に変わる道が開ける。課題は、その賭けの多くを借金で支えている点にある。アーム株などを担保に借り入れ、社債も重ねて発行してきた。ロイターによると、同社が債務を返せなくなる事態に備える保険料、CDSの保証料率は6日、4.62%と2022年10月以来の高さになった。アルトマン氏はOpenAIの上場が2026年中ではないとの考えを示し、資金集めの手段だったSBエナジーの上場も9月に延期したままだ。

今週は悪い材料も重なった。4日に決算を発表したアームは、先行きの見通しが市場の高い期待に届かず、5日の米国市場で株価が1割超下げた。6日にはソフトバンクグループ自身が、スイスの重電大手ABBから買う予定だったロボット事業のうち、中国の事業の買収を中国当局が禁じたと発表した。株価は3月の安値から6月初めの高値まで2.7倍に駆け上がったが、5カ月で振り出しに戻り、時価総額は6月から30兆円近く減った。

米中間選挙で民主党が上下両院を制し、データセンター規制に警戒感。ソフトバンクグループ(9984)一時15.8%安。日本株への更なる波及は? - ソフトバンクグループはどんな会社か ―― AIの頭脳と土台に借金で賭ける - 図表1米中間選挙で民主党が上下両院を制し、データセンター規制に警戒感。ソフトバンクグループ(9984)一時15.8%安。日本株への更なる波及は? - ソフトバンクグループはどんな会社か ―― AIの頭脳と土台に借金で賭ける - 図表2

市場の見方と、日本株への波及、これからの観測ポイント

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市場では、AI投資が止まるとまでは見ていないが、速度が落ちることを織り込み始めた、という声が多い。AI規制の強化を求める米政策団体のダグ・カリダス氏はブルームバーグに「スイッチを切り替えるように、建設ラッシュから建設ゼロへ一気に転じるとは思わない。ただ、交渉の条件は変わった」と語った。米運用会社インベスコのブライアン・レビット氏も、AIの建設はこれから「より遅く、より規律あるもの」になるかもしれないとしつつ、長い目で見た需要は変わらず、投資家が払う値段が見直されているだけだと述べた。業界も動いた。OpenAIは5日、施設で使う電力と送電網などの費用をすべて自ら払い、自治体の担当者と秘密保持契約を結ぶ慣行を原則やめるといった新方針を打ち出した。

日本株への波及については、強気と弱気が分かれる。ブルームバーグによると、JPモルガン証券の高田将成氏は、一部のヘッジファンドで過去2年間の取引の巻き戻しが起きており、日本や韓国、台湾のAI関連株は「向こう3カ月程度はリスク量を削減する方向に動きやすい」とみる。楽天証券経済研究所の土信田雅之氏も、AIが社会や政治の問題になったことで、相場は「上よりも下を見る時間が増えるのではないか」と話す。一方、野村アセットマネジメントの鈴木皓太氏は、日本企業の増益基調は「米国の選挙結果によって揺らぐものではない」とリポートで指摘した。

気がかりなのは、売りの広がり方だ。選挙結果が見えた翌日の5日は、AI関連株から自動車などへお金が移り、東証株価指数はむしろ上がった。ところが6日は、東証プライム市場の9割を超える銘柄が値下がりし、33業種すべてが下げた。日経平均は6月25日の最高値から2割下がり、弱気相場と呼ばれる水準に入った。韓国でも株価指数の急落で売買が一時止まった。AI関連株の調整が相場全体の調整に変わるのかどうかが、ここからの分かれ目になる。

観測ポイントは、まず11月10日のソフトバンクグループの決算だ。OpenAI株の評価をどう見積もるか、借金の重さを示す指標がどこまで上がったか、オハイオの計画の進み具合、そして孫氏が米国の政治の変化をどう語るかが焦点になる。来週はアンソロピックが上場に向けた投資家への説明会を予定しているが、ロイターは、予定どおり実施できるか疑問視する投資家の声を伝えた。米国時間の17日にはエヌビディアが決算を発表し、AI半導体への注文が本当に細っているのかが数字で見えてくる。そして来年1月には新しい議会が始まり、テキサスやオハイオの新知事が就任する。建設の一時停止が実際に命じられるのか、すでに動いている計画まで対象になるのかが、最大の山場だ。

今回の急落が突きつけたのは、AIの成長を決めるのが、半導体の性能や投資マネーだけではなくなったという現実だ。データセンターを受け入れる地域の電気代と住民の一票が、AI投資の速度を左右する。その変化を最も大きく、しかも借金を抱えて受け止めているのがソフトバンクグループであり、日本のAI関連株も同じ波の上に乗っている。


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