職員のパソコンの中で、AIが書類仕事を引き受ける

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米国の役所で、職員が入札書類の詰まったフォルダをAIに渡し、こう頼む。「要件を満たしていない提案を洗い出して、比較表と上司向けのメモにまとめておいて」。AIはファイルを一つずつ開いて読み、表とメモの下書きを作って返してくる。そのやり取りの記録は、職員のパソコンの中にしか残らない。

米Anthropicが9月30日に正式提供を始めた「Claude for Government」は、こうした仕事を、米国の連邦政府と州政府の機関に届けるサービスだ。7月から公開ベータとして試されてきたもので、今回、試用版の看板が外れた。

中身は、一般の企業がすでに使っているClaudeのデスクトップアプリと同じものだ。チャットで相談する「Chat」、フォルダを渡して何段階もの作業を任せる「Cowork」、プログラムを書いたり直したりする「Claude Code」の三つが入っている。Anthropicが挙げる使い道は、メモや説明資料の作成、入札の提案書の審査、福祉や許認可といった個別案件の記録づくり、そして公共サービスを支える古い情報システムの作り直しだ。正式版と同時に、技術者がコマンド画面から使う版のClaude Codeと、マイクロソフトのオフィスソフトの中からClaudeを呼び出せる「Claude for Microsoft 365」の先行提供も始まった。

この発表が注目されるのは、製品の出来だけが理由ではない。Anthropicは、Claudeを「完全自律型の兵器」と「米国民の大規模な監視」には使わせないという条件を譲らず、2026年2月、トランプ大統領から政府全体での利用停止を命じられた会社だ。軍との関係は、いまも裁判で争われている。その会社が、軍以外の役所に向けて正式版を出してきた。

「政府版」は、ふつうのClaudeと何が違うのか

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一番の違いは、動いている場所だ。Claude for Governmentは、「FedRAMP High」という認定を受けた環境の中で動く。FedRAMPは、米国の政府機関がクラウドサービスを使う前に、その安全性を共通の基準で審査する仕組みだ。守る情報の重さに応じて三段階あり、最上位のHighは、漏れたり止まったりすれば深刻な被害が出かねない情報を扱える水準にあたる。政府向け販売代理店Carahsoftの資料によれば、警察などの法執行機関のデータや、機密ではないが厳重な管理を義務づけられた情報、金融や法務のデータがこれに含まれる。

二つ目の違いは、データの置き場所だ。会話の中身は、職員のパソコンにだけ保存される。Anthropicの管理者向けの説明書によると、職員の問いかけはFedRAMP Highの境界の内側にあるAIモデルへ中継されるが、中継役のサービスは「いつ、どれだけ使ったか」という記録しか残さず、中身は保存しない。プロジェクトに入れたファイルも職員の端末に置かれたままで、サーバー側に集められることはない。

この境界の外へデータが出ていくのは、ウェブ検索のときだけだ。それも初期設定では職員が1件ずつ承認し、検索語は個人や機関が特定されない形に書き換えてから送られる。アウトルックでメールを送る、Teamsに投稿するといった外向きの操作は、どんな設定にしても、必ず職員の承認を求める。

三つ目は、管理の仕組みだ。一つの機関を「テナント」という単位にまとめ、その下に局や部ごとの「組織」を置き、さらにその下に職員がぶら下がる。誰がどのモデルをどこまで使えるかは、等級ごとに決めて割り当てる。職員の出入りは、機関の名簿システムと自動で同期する。管理者の操作は、改ざんすれば跡が分かる形で記録され、機関のセキュリティ監視システムに流し込める。

目を引くのは、Anthropic自身を縛る仕組みまで入っていることだ。Anthropicの社員が機関の環境で重要な操作をするときは、2人の承認が要る。社員が機関の登録したドメインを書き換えれば、変更の前と後が機関の管理者にメールで届く。開発元を信用してほしいと頼むのではなく、開発元の動きを、使う側から見えるようにしたわけだ。

料金の取り方も、政府向けに作り替えた。職員1人あたりの定額料金はとらない。機関は決まった単位で利用枠を前払いし、そこに「これ以上は使わない」という上限をつける。局ごとに枠を割り振り、残高が減ってくると警告が出る。米国の政府機関は、議会が認めた予算を超えて支出を約束することを法律で禁じられている。上限つきの前払いは、この決まりとよくかみ合う。

調達は、Anthropicとの直接契約のほか、Carahsoftや、米連邦調達庁(GSA)の一括購入制度「OneGov」を通じてもできる。OneGovでは、利用者1人あたり1ドル(約160円)という破格の条件が、10月31日まで続いている。

使えるAIモデルも、一般向けとの差がほとんどない。Anthropicは9月1日、一般に公開しているモデルの中で最も性能の高い「Claude Fable 5.1」を発表した。その10日もたたない9月9日には、政府版でも使えるようになっていた。Anthropicで公共部門を統括するテレサ・カールソン氏は、ワシントンで開かれたサイバーセキュリティの会議で「FedRAMP Highを必要とする機関なら、どこでも使える」と述べた。AWSも、政府向けのクラウドでFable 5.1を使えるようにしている。数百ページに及ぶPDFの束を、ひとまとめに読み込ませる設定もある。Anthropicは7月の時点で、「政府機関は、商用の利用者と同じペースで新機能を受け取る」と約束していた。

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名前は前からあった——「1ドル」で始まった陣取り合戦

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Claude for Governmentという名前自体は、1年以上前からある。最初はブラウザで使うウェブ版だった。2025年8月、GSAはAnthropicと契約を結び、行政・立法・司法の三権すべての機関に、このClaude for Governmentと企業向けのClaude for Enterpriseを、名目上の1ドル(約160円)で提供すると発表した。同じ時期、OpenAIやグーグルも「ほぼ無料」の条件で政府に売り込んだ。グーグルの提示額は、1機関あたり0.47ドル(約74円)だった。目先の売上より、まず公務員の机に自社のAIを置く。各社の狙いはそこにあった。GSAによると、AIツールを使える連邦職員は約350万人に達している。

Anthropicは、安全保障の分野にも足場を持っていた。2025年6月には、機密を扱う国家安全保障機関だけが使える「Claude Gov」というモデルを公表した。7月には国防総省のAI部門から、上限2億ドル(約320億円)の試作契約を得ている。同じころ、OpenAI、グーグル、xAIも同じ規模の契約を得た。

州政府にも広がった。メリーランド州は2025年11月、Anthropic、そしてベンチャーキャピタルのゼネラル・カタリストが立ち上げたAI導入支援会社Perceptaと組むと発表した。住民が食料支援や医療保険などの給付を申し込むときにClaudeが手伝い、ケースワーカーは受給資格の確認にClaudeを使う。

日本にも同じ流れがある。デジタル庁が職員向けに用意した生成AIの環境「源内(げんない)」は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のモデルとともに、AnthropicのClaudeを使ってきた。2026年5月からは、全府省庁の約18万人を対象とする大規模な実証に広がっている。

今回の正式版は、このウェブ版を、パソコンのアプリで動くエージェント型へ作り替えたものだ。説明書には、ウェブ版の利用者が過去の会話やプロジェクトを新しいアプリへ移す手順まで用意されている。

国防総省との決裂——譲らなかった「2本の線」

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軍との関係がこじれたのは、2026年の初めだ。ピート・ヘグセス国防長官は1月、国防総省のAI契約すべてに「合法的な用途なら何にでも使える」という条件を入れるよう求めた。Anthropicの契約には、二つの禁止事項があった。完全自律型の兵器には使わせない。米国民の大規模な監視にも使わせない。Anthropicは、この2本の線を外さなかった。

国防総省の言い分は、使い道を決めるのは政府であって、民間企業ではない、というものだ。ヘグセス長官は、Anthropicが「米軍の作戦上の判断に対する拒否権を握ろうとしている」と非難した。

2月27日、トランプ大統領は、すべての連邦機関にAnthropicの技術の使用をやめるよう命じた。軍の仕組みにすでに組み込まれている分には、6か月の猶予がついた。ヘグセス長官はAnthropicを「サプライチェーン上のリスク」に指定すると表明し、軍と取引する企業に、Anthropicとのあらゆる商取引を禁じると宣言した。米国企業がこの指定を受けるのは、初めてのことだった。GSAは同じ日に、Anthropicを政府の購入リストから外すと発表し、財務省や国務省、保健福祉省も相次いで手を引いた。

その直後、OpenAIが国防総省との合意を発表した。サム・アルトマンCEOは「国防総省はこれらの原則に同意し、法律や方針にも反映している。私たちはそれを合意に盛り込んだ」と説明した。ただ、のちに「急ぎすぎたのは確かで、見え方も良くない」と認めている。

皮肉な出来事も続いた。米ワシントン・ポストによると、米軍はイランへの攻撃の初日に約1000の目標を攻撃した際、パランティアの分析システム「Maven」を使っており、その中核にClaudeが組み込まれていた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、それが大統領の利用停止命令から数時間後のことだったと報じた。ロイター通信によれば、パランティアは、Claudeを別のモデルに差し替え、システムの一部を作り直す必要に迫られた。4月には米ニュースサイトのアクシオスが、国防総省の傘下にある国家安全保障局(NSA)が、Anthropicのサイバー防衛向けの最上位モデル「Mythos」を使っていると報じている。政府は、締め出したはずの会社の技術を、手放しきれずにいた。

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裁判が引いた境界線——役所は使え、軍は使えない

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国防総省は3月上旬、二つの別々の法律に基づいて、指定を正式に通知した。法律ごとに争う裁判所が違うため、Anthropicは3月9日、二つの裁判所に訴えを起こした。

サンフランシスコの連邦地裁では、Anthropicが勝ち続けている。リタ・リン判事は3月26日、大統領の利用停止命令と、国防総省の指定の一つを差し止めた。これを受けてGSAは4月、Anthropicを購入リストに戻した。リン判事は8月27日にも、政府の措置は違法だと判断し、「国家安全保障を空疎に持ち出しても、政府を批判する者を罰し、報復してよいという白紙委任状にはならない」と書いた。

一方、ワシントンの連邦控訴裁判所は9月25日、もう一つの指定を2対1で支持した。多数意見は、国防総省には「Claudeを省の情報システムに組み込み続けることが、法律の定める安全保障上のリスクにあたる」と判断する十分な根拠があった、とした。反対意見を書いた判事は、契約企業が製品の使い方に制限をかけることまで、この法律の対象にすべきではないと述べている。

こうして、線が引かれた。軍以外の役所では、Claudeを使える。軍の調達からは、締め出されたままだ。正式版が連邦と州の「民生」の機関に向けて出てきたのは、この線の内側で戦うためでもある。

国防総省の職員向けAI基盤「GenAI.mil」には、グーグルのGeminiに続いて8月末、OpenAIのChatGPTとxAIのGrokが加わり、利用者は約150万人に達した。そこに、Claudeの名前はない。

ただ、政権との空気は少し変わりつつある。控訴審判決の2日後の9月27日、トランプ大統領はホワイトハウスでの夕食にアモデイCEOを招いた。2人だけで会うのは初めてで、大統領はアモデイ氏を「非常に尊敬されている」人物だと持ち上げた。29日には、アモデイ氏がグーグル、メタ、OpenAI、xAI、エヌビディアのトップとともに、最先端AIの安全管理をめぐるホワイトハウスの合意文書に署名している。

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特徴と強み——OpenAI、グーグルと比べて見えるもの

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競合も手を緩めていない。OpenAIは9月、GSAと新しい契約を結んだ。通常は利用者1人あたり月15ドル(約2,400円)かかる利用料をゼロにし、使った量に応じた料金を半額にする。期間は10月1日から2028年末までの27か月で、連邦だけでなく州や地方、先住民の自治政府も対象だ。OpenAIは、対象が米国の公務員およそ2300万人に及ぶと説明している。グーグルは国防総省の約300万人の職員に、自分で業務用のAIエージェントを作れる道具を配り始めた。

その中で、Claude for Governmentの強みは四つある。

一つ目は、商用版と同じ道具が、同じ速さで届くことだ。Cowork、Claude Code、プラグイン、それに「スキル」と呼ばれる作業手順の仕組みが、政府版にもほぼそのまま入る。最上位のモデルが発表から10日足らずで政府版に載ったことは、その約束が口先だけではないことを示した。Claude Codeは、ソフトウェア開発者のあいだで評価が高い。古いプログラムを抱えた役所は多く、その作り直しを手伝うAIは、文書作成と並ぶ大きな使い道になる。

二つ目は、データと開発元の両方を、使う側が管理できることだ。会話は端末に残し、サーバーに中身を置かない。開発元の社員の操作にも、二重の承認をかける。国防総省は裁判の中で、開発元がモデルに手を加えたり、突然止めたりするおそれを問題にしてきた。政府版の設計は、その不安に仕組みで答えようとしている。

三つ目は、予算の決まりに合った料金体系だ。席の数ではなく使った量で払い、上限は超えない。OpenAIも、使った量に応じた料金へ移った。政府向けAIの値付けは、ほぼ無料の「お試し」から、使った分を払う段階へ移りつつある。

四つ目は、政府が対立を越えてでも欲しがる技術を持っていることだ。ソフトウェアの弱点を見つけ出すMythosは、国防総省と争っている最中でさえ、NSAに使われていた。カールソン氏は「Mythosの登場は、目を覚まさせる出来事だった」と語っている。

弱みも、はっきりしている。連邦政府のAI予算の大半を握る軍の市場に、入れない。米ブルッキングス研究所の5月の分析によると、連邦政府がAIに支出を約束した額は、2024年の6億7500万ドル(約1,070億円)から、2026年には72億ドル(約1.1兆円)へと10倍余りに増えた。ところが、将来の契約額まで含めた潜在的な規模では、98.9%を国防総省が占める。Anthropicは、その一番大きな池の外で、民生の役所と州政府という、小さいが着実に広がる池で勝負していることになる。

Anthropic、Claude for Government正式提供開始 - 特徴と強み——OpenAI、グーグルと比べて見えるもの - 図表1Anthropic、Claude for Government正式提供開始 - 特徴と強み——OpenAI、グーグルと比べて見えるもの - 図表2

投資家が見る「売上1%未満」の重み

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数字だけを見れば、政府の仕事はAnthropicにとって小さい。ロイター通信が確認した上場申請書類によると、政府との取引は年間売上の1%に届かない。ブルームバーグによれば、Anthropicの売上の勢いは、7月末時点で年換算650億ドル(約10兆円)を超えた。国防総省との2億ドル(約320億円)の契約は、その中のほんの一部にすぎない。

それでも、投資家がこの問題を軽く見ないのには理由がある。3月に裁判所へ出した書面で、Anthropicの幹部たちは、政府との対立が民間の顧客に飛び火した様子を、具体的な数字で証言した。クリシュナ・ラオ最高財務責任者は、2026年の売上が数十億ドル(数千億円)規模で減りかねないと述べた。当時の公共部門の責任者は、公共部門の売上の勢いが2025年12月からの1か月で4倍に伸びていたと明かし、国防関連だけで年1億5000万ドル(約240億円)を超える収入がすぐに失われると見積もった。ポール・スミス最高商務責任者は、食品医薬品局(FDA)向けの導入を手がけていたパートナーが他社のAIに乗り換え、1億ドル(約160億円)を超える商談が消えたと証言した。100社を超える企業顧客から、不安を訴える問い合わせが届いたという。

上場申請書類でもAnthropicは、政策や調達、規制の判断を通じた政府の姿勢が、事業に悪影響を及ぼしうるとリスクに挙げた。6月には商務省の輸出管理を受けて、最上位のモデル2種を、6月12日から7月1日まですべての顧客に対して止めた経緯も記している。

政府の売上そのものは小さい。しかし「政府ににらまれた会社」という評判は、銀行や製薬会社のような規制の厳しい業界の顧客に、じかに響く。連邦や州の役所が正式版を使い続けているという事実は、上場を前にした信用の裏付けになる。投資家の目から見たClaude for Governmentの価値は、売上の額より、むしろそこにある。

各紙の伝え方も、この構図をなぞった。AI専門メディアのThe Decoderは「国防総省との争いが長引くなか、民生機関にClaudeを届ける」と報じ、米TechRepublicは支出の管理と監査ログに焦点を当てた。政府調達を専門に扱うNextgovやFedScoopは、OneGovでの破格の条件の延長と、OpenAIの新しい値付けとの比較に紙面を割いた。

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シリコンバレーは割れた——沈黙した大口投資家と、政府を支持した防衛テック

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対立が最も激しかった3月、主要な投資家はほとんど表に出なかった。米ニュースサイトのセマフォーによると、アマゾンのアンディ・ジャシーCEOはヘグセス長官と会ったが、Anthropicの側には立たなかった。ロイター通信は、アモデイCEOがジャシー氏らと協議し、ベンチャーキャピタルのライトスピードやアイコニックがAnthropicの幹部と連絡を取り合い、政権内の知人に働きかける投資家もいたと伝えている。ある投資家は、ロイターに「エゴと外交の問題だ」と漏らした。

防衛テックの起業家は、はっきり政府の側に立った。防衛スタートアップ、アンドゥリルの創業者パルマー・ラッキー氏は「誰に売ってよいか、売ってはいけないかは、米国政府が決めることだ。それ以外の立場をとれば、企業の経営者が事実上、米国の外交を握ることになる」と語った。ホワイトハウスでAI政策を担っていた著名投資家のデービッド・サックス氏は、以前から、Anthropicは恐怖をあおって規制を自社に有利な方向へ導こうとしている、と批判してきた。サックス氏は3月にその役職を離れ、いまは大統領の科学技術諮問会議で共同議長を務めている。

ねじれもある。アンドゥリルの主要な出資者として知られるファウンダーズ・ファンドは、2月にAnthropicが300億ドル(約4.7兆円)を集めた資金調達で、共同リードを務めていた。シリコンバレーのお金は、「安全性を譲らない会社」と「軍の要求に応える会社」の両方に、同時に賭けている。

そして市場の答えは、はっきりしていた。5月28日、Anthropicは650億ドル(約10兆円)を調達し、企業価値は9650億ドル(約152兆円)に達した。主導したのは、アルティメーター・キャピタル、ドラゴニア、グリーンオークス、セコイア・キャピタルだ。アルティメーターのブラッド・ガースナーCEOは「Claudeの進歩が、世界で最も要求の厳しい組織での大規模な導入につながっている」と述べた。投資家は、政府との摩擦を、乗り越えられる経営課題として値付けしたことになる。

政府市場に、別の角度から張る投資家もいる。ゼネラル・カタリストは2025年10月、AIの導入を請け負う傘下の会社Perceptaを立ち上げた。率いるのは、パランティアで企業の業務改革を担ったハーシュ・ジェイン氏で、AnthropicとAWSを創業パートナーに据える。技術者を顧客の現場に送り込み、試験導入で終わらせずに業務そのものを作り替える。パランティアが政府市場で磨いたやり方を、Claudeの導入に持ち込む構図だ。先に触れたメリーランド州の給付の事業は、その代表例にあたる。

Anthropicが7月に初めて置いた公共部門のグローバル責任者、テレサ・カールソン氏も、この流れの中にいる。マイクロソフトとAWSで長く政府向けの事業を率い、直前はゼネラル・カタリストの政策部門、ゼネラル・カタリスト・インスティテュートの初代CEOだった。カールソン氏は就任にあたって、「Anthropicに加わったのは、早い段階から政府と一緒に取り組むことを重視していたからだ」と語っている。

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今後の焦点——年末までに何が起きるか

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最初の山は、上場だ。ロイター通信によると、Anthropicは早ければ10月中旬に投資家への売り込みを始め、11月3日の中間選挙の数日前の上場を目指している。目論見書が公開されれば、政府関連の売上やリスクの中身が、いまより詳しく見えてくる。

次は10月31日。OneGovでの利用者1人あたり1ドル(約160円)という条件が、期限を迎える。11月以降の条件は、まだ示されていない。正式版の上限つき前払いの料金体系と、OpenAIが一足先に移った使用量課金が、その手がかりになる。

裁判も続く。Anthropicは控訴審の判決について、「さらなる審理を含め、あらゆる選択肢を検討している」としている。控訴裁判所の全判事による審理を求めるか、連邦最高裁に持ち込むかが、次の分かれ目だ。控訴裁判所は、こうした申し立てを待つため、判決の効力の発生を先送りしている。サンフランシスコの地裁の判断については、政府が3月の差し止め命令を西部の第9巡回区控訴裁判所に上訴しており、8月の判断にも上訴する構えだ。

製品では、先行提供のClaude Code(コマンド版)とMicrosoft 365版が、いつ正式版になるかが焦点になる。カールソン氏は、機密情報を扱う「ハイサイド」と呼ばれる環境にも、MythosやOpusを出していく考えを示している。

政権との関係では、夕食会と合意文書への署名で見えた雪解けの気配が、国防総省との和解にまでつながるかが見どころだ。日本でも、デジタル庁の源内は2027年度から本格利用に移る予定だ。役所のAIを、誰が、どんな条件で使うのか。米国で起きている綱引きは、日本の政府調達にとっても先行事例になる。

軍の扉は閉じたまま、役所の扉は開いた。その扉の向こうで、AIが公務員の机の上の仕事をどこまで引き受けられるのか。Claude for Governmentの正式版は、その本番の始まりだ。


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