「世界モデル」とは何か — 言葉の次に来るAIの新大陸

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 「世界モデル」とは何か — 言葉の次に来るAIの新大陸 - 章扉

ChatGPTに代表される大規模言語モデルは、突き詰めれば「次に来る単語」を確率的に予測し続ける機械である。これに対して世界モデル(World Model)は、「次の瞬間の世界」、すなわち次の映像フレームとその背後にある状態を予測する。光がどう物体に当たり、足元で雪がどう潰れ、角を曲がった先に何があるか——人間がCGで作り込むのではなく、AIが膨大な映像から物理と空間の構造を学び取って、その場で描き出していく。

具体的にイメージするとこうなる。「雪の積もった森の山小屋」とテキストを打ち込むと、その場を一人称視点で歩き回れる三次元空間がリアルタイムに立ち上がる。キーを押して前に進めば視点が動き、振り返れば背後の景色が現れ、ドアを開ければ室内が見える。これらは事前に用意された3Dデータではなく、モデルが「この状況なら次はこう見えるはず」と毎フレーム生成している。VCのLightspeedはこれを「エンジン無しのビデオゲーム(engine-less video games)」と評した。ゲームエンジンも3Dモデラーも介さず、ニューラルネットワークそのものが世界を実行している、という意味だ。

なぜこれが「言語の次の大陸」と呼ばれるのか。最大の理由はロボティクスと物理AIにある。例えばあるロボット企業が新しい倉庫作業を学習させたいとき、現実の工場フロアで何千回も試行錯誤するのは時間も費用も危険も大きい。世界モデルが十分な物理精度を持てば、シミュレーション世界の中で何千通りものシナリオを並列に回し、安全かつ高速に学習させられる。自動運転(英Wayveの「GAIA」など)、ゲーム制作、映画・VFX、AR/VR、そしてヒューマノイドの訓練——応用範囲は、言語モデルが「情報」を扱うのに対し、世界モデルは「物理空間そのもの」を扱う点で大きく異なる。

世界モデルブームを牽引する一人、スタンフォード大のFei-Fei Li(フェイフェイ・リー)は、乱立する「世界モデル」を機能で三つに整理する分類法を2026年6月に提示した。人間の目に見せるピクセルを出力する「レンダラー(renderer)」、プログラムが計算・相互作用できる物理的・幾何学的に正しい状態を出力する「シミュレーター(simulator)」、そして行動を計画する「プランナー(planner)」である。同じ「世界モデル」を名乗っても、見た目の美しさを競うものと、ロボットが頼れる物理的真実を返すものとでは目的がまるで違う、というわけだ。

学習データの集め方も独特だ。Odysseyは現実世界を映像として取り込むため、Google Earthのストリートビュー収集を彷彿とさせる手法——背中にカメラを背負った人々を各地に送り出す——を採ったとTechCrunchは伝えている。言語モデルがインターネット上のテキストを糧にしたように、世界モデルは現実の三次元映像を糧にする。Fei-Fei Liは言語モデルの限界を「暗闇のなかの言葉の職人(wordsmiths in the dark)。雄弁だが経験がなく、博識だが地に足がついていない」と表現し、地に足のついた知能には世界モデルが要る、と説く。

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 「世界モデル」とは何か — 言葉の次に来るAIの新大陸 - 図表1

Odysseyとは — 自動運転の異才が挑む「再生できる世界」

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - Odysseyとは — 自動運転の異才が挑む「再生できる世界」 - 章扉

Odysseyを率いるのは、自動運転業界で名を知られた二人だ。CEOのOliver Cameron(オリバー・キャメロン)は、自動運転スタートアップVoyageを共同創業してCEOを務め、同社がGM傘下のCruiseに買収された後はCruiseでプロダクト担当VPを務めた人物。CTOのJeff Hawke(ジェフ・ホーク)は、英国の有力自動運転スタートアップWayveのエンジニア出身である。「車に世界を理解させる」課題に正面から取り組んできた二人が、その知見を映像生成へと転じたのがOdysseyだった。

創業は2023年。当初の旗印は、OpenAIの動画生成モデルSoraに対抗する「ハリウッド級」のビジュアルAIだった。2024年7月には900万ドル(約14億円)のシードを調達し、ここにはPixar共同創業者のEd Catmull(エド・キャットマル)も名を連ねた。映像づくりの最高峰が、AIが生成する新しい映像表現に賭けた格好だ。

転機となったのは2025年5月28日の研究デモである。Odysseyは、テキストや映像から立ち上がる三次元のインタラクティブ空間を、毎秒約30フレーム・1フレームあたり約40ミリ秒でストリーミングする「interactive video(インタラクティブ・ビデオ)」を公開し、Web上で誰でも触れる早期デモ(odyssey.world)を出した。同社自身はこの段階を「不安定でグリッチだらけの夢のなかを歩くようだ」と率直に表現していた。荒削りだが、生成映像を“見る”のではなく“歩き回れる”という体験は新しかった。この時点での累計調達額は約2,700万ドル(約42億円)で、初期にはNvidiaの投資部門NVenturesも出資していた。

そこからの一年で、Odysseyは「再生できる世界」の解像度を急速に上げていく。シリーズB発表時点で同社が掲げる最新の成果は、汎用世界モデルの最上位機種で物理精度において最先端を更新したと謳う「Odyssey-2 Max」、視覚情報だけでなく複数のモダリティを扱う初のリアルタイム・マルチモーダル世界モデル「Starchild-1」、人間とAIを問わず複数の参加者が同じシミュレーション世界をリアルタイムに共有・干渉できるマルチエージェント世界モデル「Agora-1」、そして強化学習を用いた敵対的フレームワークで、能動的な探索を通じて世界モデルが自己改善することを示した研究「PROWL」である。単なる映像生成から、複数主体が物理的に相互作用する“共有された世界”へと、射程が一気に広がっている。

組織はなお小さい。社員数は報道によって46〜55名とされる精鋭ラボで、拠点は米カリフォルニア州パロアルト、英ロンドン、スイス・チューリヒの三か所。世界モデルの研究人材が厚い欧州と、計算資源と資本が集まる米西海岸の双方に足場を置く布陣である。

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - Odysseyとは — 自動運転の異才が挑む「再生できる世界」 - 図表1

シリーズBの全容 — 3億1,000万ドルと評価額14.5億ドル

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - シリーズBの全容 — 3億1,000万ドルと評価額14.5億ドル - 章扉

2026年6月17日、OdysseyはシリーズBで3億1,000万ドル(約480億円)を調達し、評価額が14.5億ドル(約2,250億円)に達したと正式発表した。これにより累計調達額は約3億3,700万ドル(約520億円)となった。発表は同社ブログ「Our $310 Million Fundraise to Accelerate World Simulation」およびBusinessWire経由のプレスリリースで行われ、TechCrunch、SiliconANGLE、HPCwire、Crunchbase News、FinSMEs、Unite.AIなど複数の独立した媒体が同一の数値で報じている。

ラウンドをリードしたのはNatural Capital。これにAmazon、AMD Ventures、GV、EQT、そしてCIAが1999年に設立した非営利の戦略投資ファンドIn-Q-Telが参加した。既存・個人投資家の顔ぶれも豪華で、GoogleのチーフサイエンティストJeff Dean、著名エンジェルのElad Gil、Applied Intuition共同創業者でCEOのQasar Younis、Yコンビネータ社長兼CEOのGarry Tan、VercelのCEO Guillermo Rauch、そしてCameronの古巣Cruiseの創業者Kyle Vogtらが名を連ねる。さらにOpenAI、DeepMind、Meta Superintelligence Labs(MSL)、Recursive、Thinking Machinesといった最前線の研究者個人も出資しているという。世界モデルという賭けに、AI業界の中枢人物が私財を投じている構図だ。

今回の調達で最も戦略的なのは、Amazonとの提携である。AWS(Amazon Web Services)がOdysseyの「優先クラウドプロバイダー」となり、同社はAmazonの半導体部門Annapurna Labsと協働して、自社の世界モデルをAWSの独自AI学習チップ「Trainium」上で最適化する。世界モデルの学習・推論は、リアルタイムに高解像度の映像を生成し続ける必要があるため、計算負荷が極端に高い。Odysseyは資金の使途として、大規模な計算インフラの確保、マルチエージェント・シミュレーション研究のスケール、そしてロボティクス・ゲーム・防衛の各領域での事業展開(go-to-market)の拡大を挙げている。

「Nvidiaの金を取り、AmazonとAMDに賭ける」——シリコンバレーが読む構図

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 「Nvidiaの金を取り、AmazonとAMDに賭ける」——シリコンバレーが読む構図 - 章扉

シリコンバレーのVCや業界メディアが今回のラウンドで最も注目したのは、調達額そのものよりも投資家の“顔ぶれの入れ替わり”だった。TechFundingNewsは「Nvidiaの金を取った後、Odysseyは3億1,000万ドルを調達し、代わりにAmazonとAMDに賭ける」という見出しでこの構図を切り取っている。初期にNVentures(Nvidiaのベンチャー部門)から出資を受けていたOdysseyが、今回のシリーズBではNvidiaを外し、AWS TrainiumとAMD Venturesという“反Nvidia”の計算陣営に軸足を移したからだ。

同メディアは「この変化がAmazonの技術への本物の確信によるものか、それとも競争の激しい市場でより良い条件を引き出しただけなのかは不明だ」と慎重に留保しつつ、Trainiumを「AIコンピューティングにおけるNvidiaの支配に対するAmazonの回答」と位置づける。世界モデルという計算集約の極致のような領域で、特定ベンダーに依存せず計算資源を多角化する動きは、コスト構造とサプライチェーンの両面で合理性がある。同時に、社員50名前後で累計約3億3,700万ドルを投じる同社を「一人当たりで見れば市場でも屈指の資本集約的なAIの賭け」とも評している。

もう一つの読みどころが、In-Q-Telの参加が示す防衛・政府向けの含意だ。In-Q-Telは米情報コミュニティを支援するために設立されたファンドであり、近年AI企業への出資を増やしている。Odysseyのミッションには防衛が明確に用途として掲げられており、複雑な物理的・社会的環境を大規模にシミュレーションできる世界モデルは、軍事訓練や作戦シミュレーション、自律システムの検証といった文脈で関心を集めやすい。現実の工場や戦場で試す代わりに“仮想世界”で何千回も回す、という世界モデルの価値提案は、そのまま安全保障の論理と重なる。

報じ方そのものにも各媒体の力点が表れている。TechCrunchは「Amazonほか大物が支援する14.5億ドルのユニコーン」と資本家の顔ぶれを前面に出し、SiliconANGLEは「AIモデルのシミュレーションを変革する」と技術的射程を強調、Crunchbase Newsは大型案件が少なかった週の「最大の調達ラウンド」として件のディールを筆頭に挙げた。総じて、金額の派手さよりも「物理AIという新戦線における計算資源の地政学」として読まれているのが、今回の報道の特徴である。

世界モデル競争の地図 — 1兆円が流れ込む新戦線

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 世界モデル競争の地図 — 1兆円が流れ込む新戦線 - 章扉

Odyssey単体の14.5億ドルという評価額は、この分野ではむしろ“挑戦者”の規模だ。世界モデルは2024年から2026年にかけて、AIの中でも資金が最も激しく流れ込む新戦線になった。CB Insightsの集計によれば、世界モデル関連の投資額は2024年の約14億ドル(約2,170億円)から、2025年には過去最高の約69億ドル(約1兆700億円)へと、わずか一年で約5倍に膨張している。主要プレイヤーを概観すると、Odysseyがどの位置に立っているかが見えてくる。

最も象徴的な存在が、Fei-Fei Liが共同創業したWorld Labsだ。ImageNetの母とも呼ばれる同氏が、Justin Johnson、Christoph Lassner、Ben Mildenhall(NeRFの共同開発者)らと立ち上げた同社は、2024年9月にa16z・NEA・Radical Venturesらから2億3,000万ドル(約360億円)のシリーズAを集め、2026年2月にはAutodeskからの2億ドル(約310億円)を含む10億ドル(約1,550億円)規模のラウンドを実施。累計調達は約12.3億ドル(約1,900億円)に達する(評価額は最大50億ドル=約7,750億円規模と報じられたが、World Labs自身は確定値を開示していない)。2025年11月には初の商用製品「Marble」を投入し、テキストや画像から、後から崩れない“永続的に探索できる3D世界”を生成する機能を打ち出した。

そのWorld Labsと対極の思想を掲げるのが、Metaを2025年11月に去ったYann LeCun(ヤン・ルカン)の新会社AMI Labs(Advanced Machine Intelligence、パリ拠点)である。同社は2026年3月、プレマネー35億ドル(約5,400億円)で10.3億ドル(約1,600億円)を調達した。出資にはBezos Expeditions(Jeff Bezos)、Nvidia、Samsungらが名を連ね、LeCunは会長、CEOはAlexandre LeBrunが務める。LeCunの賭けは、ピクセルやトークンを直接予測する生成手法ではなく、潜在空間で世界の本質的な状態を予測する独自アーキテクチャ「JEPA」にある。製品はまだなく、最初の“赤ん坊(baby)”版モデルは概ね一年以内に出るとされる。

ビッグテックも本腰だ。Google DeepMindは2025年8月、テキストから操作可能なフォトリアルな3D環境をリアルタイム生成する汎用世界モデル「Genie 3」(約720p・毎秒約24フレーム)を発表し、2026年1月にはこれを一般ユーザー向けに開放する「Project Genie」をAI Ultra会員向けに投入。世界モデルの中でエージェントを訓練する「SIMA 2」と組み合わせ、CEOのDemis Hassabisは世界モデルをAGIへの鍵と位置づける。動画生成のRunwayは2026年2月、評価額53億ドル(約8,200億円)でシリーズE 3億1,500万ドル(約490億円)を集め、2025年12月に初の汎用世界モデル群「GWM-1」を公開。イスラエル発のDecartは2026年5月、Radical Venturesがリードし(Nvidiaも新規参加)、評価額約40億ドル(約6,200億円)で3億ドル(約465億円)を調達、リアルタイムに遊べる世界モデル「Oasis」や映像変換の「Mirage」「Lucy」を擁する。

このほか、Nvidiaは物理AI向けの世界基盤モデル群「Cosmos」を2025年1月のCESで立ち上げ、2026年5月末〜6月初頭には「世界初の完全オープンなオムニモデル」と謳う「Cosmos 3」を投入した。Jeff Hawkeの古巣Wayveは2026年2月、評価額86億ドル(約1兆3,300億円)でシリーズD 12億ドル(約1,860億円)を集め、運転特化の生成世界モデル「GAIA-2」を磨く。中国のTencentはオープンソースの3D世界生成「Hunyuan World」系を矢継ぎ早に公開し、Niantic Spatialは現実空間の“地理空間基盤モデル(LGM)”を掲げて2025年5月に2億5,000万ドル(約390億円)でスピンアウト、MicrosoftはゲームAI「Muse(WHAM)」の研究を2025年2月にNature誌へ発表した。動画生成のLuma AIも2025年11月、サウジのHUMAIN主導で9億ドル(約1,400億円)を集め、調達目的に「World Models」の学習を明記している。Odysseyは、この“1兆円が流れ込む戦線”に、自動運転由来の物理シミュレーション志向とマルチエージェントという差別化で食い込もうとしている。

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 世界モデル競争の地図 — 1兆円が流れ込む新戦線 - 図表1

VCの投資仮説と懐疑論 — 「次のモダリティ」か「次のバズワード」か

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - VCの投資仮説と懐疑論 — 「次のモダリティ」か「次のバズワード」か - 章扉

シリコンバレーのトップVCが世界モデルに張る論拠は、概ね「言語の次のプラットフォーム」という一点に集約される。World Labsに出資したa16zのMartin CasadoとSarah Wangは、既存のどのモデルも「歩いて入り込み、相互作用し、その上に何かを築けるような“本物の3D世界”を作れていない」と述べ、設計・ゲーム・VFX・AR/VR、そして長期的にはロボティクスへと応用が広がると説く。Radical VenturesのJordan Jacobsは「空間知能(Spatial Intelligence)はAIにとって極めて重要で、途方もなくエキサイティングな次のフロンティアだ」と表現し、Lightspeedのパートナーは世界モデルを生成動画の次に来る「新しいモダリティ」と位置づけた。Nvidiaのジェンスン・フアンは、知覚AI・生成AIに続く「物理AI(physical AI)」の時代が到来したと繰り返し、「物理AIのビッグバンはすぐそこだ」と語る。

一方で、過熱への警鐘も同じ陣営の内側から上がっているのが、この分野の面白さだ。皮肉なことに、最も鋭い懐疑論はLeCunの会社AMI LabsのCEO、Alexandre LeBrun自身から出ている。彼はTechCrunchに「私の予想では『世界モデル』は次のバズワードになる。半年もすれば、あらゆる企業が資金調達のために自社を世界モデルと名乗るだろう」と語った。Nvidiaのロボティクス責任者Jim Fanも「残念ながら、今いちばん誇大宣伝されている世界モデルの用途はAIの“動画スロップ(粗製乱造の動画)”だ」と苦言を呈する(ただし彼自身はロボティクス用途としての世界モデルは強く支持している)。認知科学者のGary Marcusは「彼(LeCun)は我々が必要とするものに正しい名前を与えたが、実装は不十分だ」と評し、概念の正しさと現状の技術的脆さを切り分ける。学術的にも「動画生成モデルは世界シミュレーターではない」——物理法則や因果を厳密には守らず、“シミュレート”ではなく“それらしく生成”しているだけだ——という批判が根強い。

アナリストの温度感も、熱狂と慎重のあいだで揺れている。Gartnerは「世界モデル」を2025年のAIハイプサイクルに載せ、普及までに5〜10年を要する技術と位置づける一方、「物理AI」を2026年の主要戦略テクノロジートレンドに選んだ。対照的に、MIT Technology Reviewの「世界を変える10大技術(10 Breakthrough Technologies)」は2025年版・2026年版いずれにも世界モデルや空間知能を含めておらず、まだ“歴史に確定登録された技術”とは見なしていない。資金の勢いと、製品としての成熟度のあいだに、まだ大きな距離があることを示す対比である。

次に何が起きるか — 2026年後半〜2027年の論点

World Model(世界モデル)のOdyssey、シリーズBで310億円調達 - 次に何が起きるか — 2026年後半〜2027年の論点 - 章扉

短期(2026年後半)でまず試されるのは、Odysseyの“反Nvidia”の計算戦略が機能するかどうかだ。同社はAWS TrainiumとAMDの計算資源で大規模インフラを確保し、マルチエージェント世界モデル「Agora-1」の研究をスケールさせ、ロボティクス・ゲーム・防衛での事業展開を本格化させると明言している。Nvidia GPUが事実上の標準である世界モデル学習において、Annapurna Labsと最適化したTrainiumがコストと性能で対抗しうるかは、Odyssey固有の話にとどまらず、業界全体が注視する“非Nvidia計算”の実地試験になる。In-Q-Telの参加は、年内に政府・防衛向けの具体的な実証やパイロットが動き出す可能性を示唆する。

中期では、LeBrunの予言した“バズワード飽和”が現実味を帯びる。彼の見立て通りなら、2026年第4四半期にかけて「世界モデル」を名乗る製品やリブランドが相次ぎ、レンダラー(見栄えのする動画)とシミュレーター(ロボットが頼れる物理的真実)の選別が始まる。LeCunのAMI Labsは最初の“赤ん坊”版モデルを概ね2027年前半にも示すとされ、JEPA系の潜在空間アプローチが、生成・ピクセル系の主流に対する有力な対抗軸として評価される節目になる。Fei-Fei Liの三分類(レンダラー/シミュレーター/プランナー)は、この選別の“ものさし”として定着していくだろう。

そしてOdyssey自身にとっての本質的な問いは、評価額14.5億ドルという“挑戦者”のポジションから、World Labs(約12億ドル超)、Runway(53億ドル)、Decart(約40億ドル)、Wayve(86億ドル)といった、桁の違う資本を持つ先行・並走勢に対し、どう差別化を打ち出すかだ。鍵になりそうなのは、複数主体が同じ世界を共有するAgoraのマルチエージェント性、リアルタイム・マルチモーダルのStarchild-1、そしてIn-Q-Telが象徴する防衛という出口である。世界モデルが「きれいな動画」を超えて「ロボットや自律システムを本当に賢くする物理シミュレーション」になれるか——Jim FanやFei-Fei Liが投げかけたこの問いに、Odysseyが計算資源と研究で答えを出せるかどうかが、次の12か月の最大の見どころになる。