キーワード: Seele AI, 王詩沐, Shimu Wang, ゲーム生成AI, 3D MLLM, Baidu Ventures, Astrocade, AIGC
Seele AIとは何か:自然言語から「遊べる3Dゲーム」を生成する世界初のMLLM基盤プラットフォーム

Seele AI(中国名:全灵)は、2022年11月に深圳で創業された3Dゲーム生成AIスタートアップで、テキストプロンプトを入力するだけでプレイ可能な3Dゲームを丸ごと生成できるプラットフォームを提供している。同社は自らを「世界初の3D多モーダル大規模言語モデル(MLLM)」と位置づけており、キャラクター、環境、ゲームメカニクス、テクスチャ、サウンド、コードまでを一気通貫で生成する点に特徴がある。
公式サイト「seeles.ai」で公開されているSeeleAgentは、ゲーム制作専用に設計された「ゲームネイティブのハーネス・エージェント」と銘打たれており、ファイル管理、プレビュー、エージェントとのチャット、ゲーム実行ランタイムが単一ワークスペースに統合されている。生成されたゲームはブラウザ上で直ちにプレイテスト可能で、Unity 6形式のクリーンなC#プロジェクトとしてエクスポートしたり、Three.jsベースでWeb配信したりできる。Unreal Engine 5へのエクスポートも2026年第2四半期にローンチ予定で、これが実装されれば「Unity・Unreal・Three.jsの3エンジンを横断する世界唯一のAIゲーム生成プラットフォーム」になるという。
ゲームジャンルは2Dと3D両対応で、アクション、RPG、シミュレーション、パズル、プラットフォーマー、ストラテジーなど主要ジャンルをカバー。マルチプレイヤー対応も標準で含まれる。アセット生成エンジンは、2Dスプライト・アニメーションフレーム、PBRテクスチャ付き3Dモデル、キャラクターリギング、500万種以上のアニメーションプリセット、BGM、効果音、ボイスアクトまでをワンストップで吐き出せる仕様で、AAAクラスの3Dアセットからレトロなピクセルアートまで対応する。
派生プロダクトとして、3Dバーチャルキャラクターと音声で対面会話できるコンパニオンAI「Koko AI」も展開している。これはSeeleの自社開発3Dマルチモーダル大規模モデル「EVA-01」を活用しており、3Dモデル、アニメーション演技、ボイスチャットを統合した体験を無料で提供することで、感情的コンパニオン市場の新たな段階を切り開こうとしている。後述するように、KokoはSeeleにとって本丸の「ゲーム生成AI」を訓練するための高品質3Dデータ蓄積層という役割も担っている。
技術基盤としては、AWSのAmazon BedrockとAmazon EKSを採用しており、Bedrock経由でAnthropic Claudeも組み込まれている。AWS Case Studyによれば、Seeleは「Infrastructure MigrationからIntelligence-Driven Operationsへの深い変革」をAWS上のエージェント型AIアーキテクチャで実現したとされ、CEO王詩沐自らが「コストを大幅に削減しつつ、コア意思決定の効率を倍増させる」と語っている。Hacker NewsのShow HNコメントでは、Webゲームのレンダリング層にPhaserJSを使っていると指摘されており、ブラウザ即プレイの軽快さの一因となっている。
ユーザー基盤の伸びは急速で、2024年11月の資金調達時点で海外プロダクトが半年で約100万ユーザーに達したと36Krが報じ、2025年12月のSina Finance連載「100 AI起業家」インタビュー時点で累計100万ユーザー・3万ゲーム超、2026年5月現在の公式サイトでは累計クリエイター36万6000人超・生成ゲーム20万本超と公表されている。SeeleAgentの月間アクティブクリエイターは10万人以上に達し、本記事執筆時点では「1M+クリエイター」を訴求するページも存在する。
王詩沐の生い立ちと学歴:浙江大学工業デザイン学部出身、書籍『幕後產品』はDouban 8.3点
王詩沐(Wang Shimu、Shimu Wang)の出自は、中国IT業界の中でも異色の経歴を持つ。彼は浙江大学(Zhejiang University)の工業デザイン学部(工业设计系)を卒業しており、伝統的なコンピュータサイエンス出身ではなく、UI/UX・プロダクトデザインの土台を学術的にきっちり積んだ稀有なプロダクトリーダーだ。浙江大学は中国トップ5に常時ランクインする総合大学で、工業デザイン学部は同分野で中国国内屈指の評価を受けている。
学生時代から「ユーザー観察」「ものづくり」への関心が強く、卒業後すぐに杭州ベースのアリババグループ(Alibaba Group)系列の支付宝(Alipay)に新卒入社する。最初の1年間はAlipayの「生活助手(生活アシスタント)」サービスのデザイナーとして勤務し、UIデザインからプロダクト企画へと役割を広げていったと、IT桔子や36Krの履歴データベースは記している。Alipay時代に培った「決済・金融プロダクト」の厳格なUX観と、「数億ユーザー規模のサービスをハンドリングする」感覚が、後の網易雲音楽でのスケール拡大の下地になった。
王詩沐は2024年に出版した書籍『幕後產品:打造突破式產品思維(Behind the Product: Building Breakthrough Product Thinking)』が、中国の書評サイトDoubanで8.3点という高評価を獲得しており、業界内では理論派プロダクトマネージャーとしても認識されている。本書では「ユーザー深層心理の観察」「プロダクトの哲学的設計」「直観と数値の往復運動」など、彼自身が網易雲音楽の成功体験から抽出した方法論が体系化されている。
プライベートな側面については、本人がZhihu(@shimuuu)で時折発信する以外、表に出てくる情報は極めて限定的で、家族構成や趣味についての公開情報はほぼない。ただし、Sina Financeの「100 AI起業家」インタビュー(2025年12月)で、王自身が「自分は企業のリーダーというより、根っからの起業家タイプ。もっと早く起業すべきだった」と漏らしているとおり、組織内政治より「自分でゼロから作る」ことに強い情熱を持つタイプであることが繰り返し語られている。
職務経歴:Alipayデザイナーから網易雲音楽VP、騰訊新聞GMへ

王詩沐のキャリアの本格的な離陸は、2012年の網易(NetEase)入社からだった。網易雲音楽の立ち上げプロジェクトに当初からプロダクト責任者として参画し、創業者の丁磊(William Lei Ding)から個人的に指名を受けてサービスを率いることになった。彼は「歌單(プレイリスト)の核心化」とアルゴリズム推薦の強化を二大戦略として掲げ、「最もユーザーを理解する音楽アプリ」というブランドを確立する。テックメディア36Krの記事によれば、王詩沐の指揮下で網易雲音楽の月間アクティブユーザー数は急速に伸び、最盛期には6,000万MAUに到達した。
網易内では音楽アプリの成功を受けて、王詩沐は化粧品コミュニティアプリ「網易美学(NetEase Beauty)」の責任者にも横滑りで任命された。網易雲音楽の副総裁(Vice President)まで昇進した王詩沐は、しかし2019年に突然NetEaseを離れ、騰訊(Tencent)に転職する。この移籍は当時中国IT業界で大きな話題となった。
騰訊では、PCG(Platform and Content Group:プラットフォーム・コンテンツ事業群)の革新事業部長として「小鵝拼拼(Xiaoe Pinpin)」のプロジェクトを率いた。これは、当時急成長していたPinduoduo(拼多多)のソーシャルEC手法を騰訊が再現しようとした対抗プロダクトで、WeChat(微信)のソーシャルグラフを最大活用して友人グループ購入で価格を下げる仕組みだった。EqualOceanの報道によれば、2021年5月に独立アプリ化されてアプリストアで配信されたが、Pinduoduoの先行者利益を覆すには至らず、Pandailyによれば2022年2月に正式にサービス停止が発表された。
その間の2021年8月、王詩沐は騰訊新聞(Tencent News)の「第一負責人(実質的GM/最高責任者)」に任命される。Yicai Globalの記事によると、Tencent Newsは2021年第1四半期の広告収入急減を受けてリーダー交代を行った経緯があり、王詩沐は再建を託された格好だった。
ただし、騰訊新聞での王詩沐の任期は不本意な結末を迎える。South China Morning Postと中国メディア観潮新消費の報道によれば、彼は従来の「深い独自取材コンテンツ」路線から、ByteDance(字節跳動)の今日頭条(Toutiao)に倣ったアルゴリズム駆動フィード型へと戦略を急転換した。しかし、これが既存ユーザーの離脱を招いた一方で短編動画の獅子の子の獲得には繋がらず、副編集長の楊瑞春(Yang Ruichun)や著名司会者の馬騰(Ma Teng)など、社内のジャーナリスト勢との確執を生んだとされる。
2022年5月、王詩沐は騰訊新聞GMからPCGの社交プラットフォーム・アプリケーション事業部に異動し、騰訊のNFT事業「幻核(Huanhe / Phantom Core)」を率いることになる。しかし、中国当局のNFT取締りが厳しさを増す中、幻核は2022年8月にサービス停止を発表し、その約1か月後に王詩沐自身が騰訊を退社した。
王詩沐の人物像と業界評価:「掘墓人」批判と「時代の流れ」擁護論
王詩沐の業界内での評価は二極化している。ポジティブ側では、網易雲音楽を6,000万MAUまで育てた実績が圧倒的で、丁磊から個人的に信頼を得たプロダクトマネージャーとして、また書籍『幕後產品』のDouban 8.3点が示すように、理論と実践を兼ね備えたプロダクトの伝道師としての評価がある。Meitu(美图)、Fukun Venture Capital(風物資本)、Webtime Information S&Tといった投資家陣も、Seele AIへのPre-A出資にあたって「王詩沐のAI技術への理解と、ゲーム・バーチャルシーンへの応用能力」に強い信頼を表明している。
一方、ネガティブな評価も鋭い。中国の評論サイト・36Krや騰訊新聞自身の記事「騰訊新聞『掘墓人』王詩沐重生:開啟二次元AIGC創業?」では、彼を騰訊新聞の「掘墓人(墓掘り人)」と揶揄するコメントが紹介されている。批判的論者は、王詩沐が騰訊で手がけた3つのプロダクト(小鵝拼拼、騰訊新聞改革、幻核)が「進むほど結果が悪化した」と指摘する。とりわけ騰訊新聞では、楊瑞春、馬騰など編集現場のベテラン勢から「コンテンツ品質より数値KPI最優先」と反発を買い、馬騰が張小龍(WeChat創業者として有名な張小龍)に「王詩沐から侮辱的な悪態を浴びた」と訴えた逸話まで残されている。
擁護論者は「ByteDanceのToutiao攻勢で従来型ニュースポータルは構造的に終わっていた」「幻核はNFT規制の被害者」など、外部要因の大きさを強調する。Sina Financeの2025年末インタビューで、王詩沐自身も「小鵝拼拼や幻核は失敗ではなく戦略的な探索だった。大企業の意思決定はプロダクト単体の成功失敗とは別の次元で動く」と振り返っており、自分の責任を全否定はしないものの、組織レイヤーの構造的限界も冷静に分析している。同インタビューで彼は「自分は『プロダクトマネージャー』というラベル自体を拒否したい。アルゴリズム、アーキテクチャ、商売、技術深度の全てを横断する人間でないと、AI時代のプロダクトは作れない」とも発言しており、Seeleでの彼の現場関与の深さが伺える。
総じて、王詩沐は「網易雲音楽の伝説」と「騰訊での連敗」という二面性を併せ持つ複雑な人物で、Seele AIへの投資判断は「彼が組織政治の制約から解放された場合に発揮するであろう本来のプロダクト力」への賭けという色彩が強い。
Seele AIは他のAIとどう違うのか:MLLMネイティブ・エンドツーエンド・3エンジン横断の三点セット
ゲームAIと一括りに語られるサービスは数多いが、Seele AIには明確な差別化ポイントが3つある。
第一に、Seele AIは「汎用LLMにゲームを書かせている」のではなく、自社開発の多モーダル大規模モデル「Seele01」「EVA-01」「4D World Model(近日公開予定)」をゲーム生成専用に最適化している点が決定的に異なる。OpenAIのGPTやAnthropicのClaudeにゲームコードを書かせるサービスは多数あるが、それらは3Dの空間整合性、物理、アニメーションリギングを学習したモデルではないため、3Dシーンのスケール感やキャラクターの解剖学的整合性が崩れやすい。Seeleはこの問題に対して、Kokoという3Dバーチャルキャラクターアプリでユーザー生成データを蓄積する「データ収集インフラ」を別建てし、3D特化モデルの教師データを内部で再生産する垂直統合戦略を取っている。Sina Financeのインタビューで王詩沐自身が「Kokoは中間ツールで、3Dの高品質訓練データ不足という致命的なボトルネックを内部で解決するためのもの」と明言している。
第二に、エンドツーエンドの完成度がライバルより一段深い点だ。多くのAIゲーム生成ツールは「アセット生成」(画像、3Dモデル)や「コード生成」のいずれかに偏りがちだが、Seele AIはコード、3Dモデル、PBRテクスチャ、キャラクターリギング、500万以上のアニメーションプリセット、BGM、効果音、ボイスアクトまでを単一プロンプトで束ねて吐き出す。Hacker NewsのShow HNでは、ある開発者が「Claude Codeで試した時よりはるかに良い結果が出た。RPGを生成できた」と評価しており、Phaser.jsベースのWeb即時実行とコード品質の高さが好意的に受け止められている。
第三に、ゲームエンジンへのエクスポート対応が広い。Seele AIの3Dゲームは現在Unity 6とThree.js(Web)にエクスポート可能で、2026年Q2にUnreal Engine 5対応が追加される予定。これによりモバイル、Web、デスクトップ、コンソールという主要プラットフォームすべてをカバーする計画だ。クリエイターはSeeleプラットフォーム内でレベニューシェア(広告、プレイ時間連動、アプリ内購入から80%還元)を受け取るか、Steam、App Store、Google Playで独立販売することもできる。
ただし、Seele AIには弱みも複数指摘されている。Hacker Newsの開発者コミュニティと、Seele自身の開発チームコメントによれば、「複雑な3D空間関係の処理が苦手」という制約が残っており、入り組んだダンジョンや高密度のオープンワールドでは破綻が見られる。王詩沐はSina Financeのインタビューで、現状のゲームモデル能力を「L1段階」と自己評価しており、「Flappy Birdクラスの簡易ゲーム」が今の限界、「あつまれ どうぶつの森」級の複雑性は2026年中に、フル没入型世界は2029年と長期の階段を描いている。これは正直な進捗報告である一方、現時点ではAAAタイトル代替には程遠いという冷静な認識を投資家に共有していることでもある。
ビジネス面では、現在のサブスクリプション課金モデルから、将来的にクリエイター広告レベニューシェア型への移行を計画している。同氏は「アセット再利用性が原価のキモ」と語り、画像/動画生成のように1出力ごとに新しい計算が必要なフォーマットと違い、ゲームでは似たアーキテクチャが繰り返し再利用されるため、限界費用が「数ドル単位」まで圧縮できると説明している。これは投資家への説得材料として、SaaSの粗利率を維持できる設計を意識したものだ。
シリコンバレーVCの視点と各メディアの報道:百度バックドの中国スタートアップへの慎重な期待

Seele AIに対するシリコンバレーVCの直接的な投資参加は、本記事執筆時点(2026年5月)の公式公表ベースでは確認されていない。Pre-AラウンドのリードはBaidu Strategic Investment(百度战略投资)で、共同投資家はMeitu Investment(美图投资)、Fukun Venture Capital(風物資本)、既存株主のWebtime Information S&Tという中国系VCで構成されている。Sina Finance、新浪科技、36Krなどの中国主要メディアは、このラウンドを「中国AIGC×ゲーム領域での百度の地位固め」と位置づけて報じた。
一方、Bloombergは2025年5月28日付の独占記事「Baidu-Backed AI 3D Game Creator Seele Seeks New Funding」で、SeeleがPre-A後の新ラウンドを「数億ドルのバリュエーション(valuation of several hundred million dollars、約数百億円)」で模索していると報じている。この記事は欧米VCコミュニティで広く回覧され、Seeleが中国マーケットだけでなくグローバル投資家を視野に入れていることを示すシグナルとなった。Pulse24、ainvest.com、opentools.aiなど英語圏のテックメディアもこれを引用し、Seeleを「百度バックドのAI 3Dゲームクリエーター」として紹介している。
シリコンバレーのVC視点から見たSeele AIの位置取りを理解するうえで、対比軸として最も参考になるのが2026年5月5日にSequoia CapitalとSeaがそれぞれシリーズB・シリーズAをリードして合計5,600万ドル(約88.5億円、1ドル=158円換算)を調達したAstrocadeだ。Fortuneが報じたインタビューで、Sequoia Capitalパートナーのデビッド・カーン(David Cahn)は「20歳から40歳の女性が最高のユーザー」「これはInstagramと競争するプラットフォーム、ゲーミングの常識を超える消費者活動」と述べ、AIゲーム生成領域を「ゲーム業界の話というより、AI創造プラットフォーム全体の試金石」と位置づけている。Astrocadeの共同投資家にはGoogle、Nvidia、LG Ventures、Dentsu Ventures、Conviction Embedが並び、純粋にシリコンバレー的な布陣となっている。
Astrocadeは公開8か月時点で月間500万MAU・月140Mプレイ・80か国75,000ゲームというトラクションを示しており、Seeleの累計100万〜36万MAU・20万ゲームと比較すると現時点でスケールでは先行している。ただし、Seeleには「自社開発の3D MLLM」「Unity・Unreal・Three.jsの3エンジン横断」「Koko AIによる垂直統合的データ収集」という技術的なディフェンシブ・モートが独自に存在し、シリコンバレーVCの目線では「製品差別化と中国エンジニアリング人件費の優位を活用したSeele」vs「米国主流コンシューマー獲得力のAstrocade」という構図で観察されている。
2026年のVC環境を俯瞰すると、ゲーミングVC全体は冷え込んでいる。VC Cafe(2026年3月)の分析によれば、ゲーミング向けVC投資はピーク比77%減、パンデミック前比でも28%減で、2025年上半期はわずか6.27億ドル(約991億円、1ドル=158円換算)まで縮小した(2023年通年は28.2億ドル、約4,455億円)。一方、AIゲームテック領域には資金が集中しており、Q3 2025だけでゲーミングスタートアップ全体の調達額は10億ドル(約1,580億円)で、うち約2.3億ドル(約363億円)がAI基盤モデル、ボイス技術、自動QA、アセット生成などのAI Gametechに投じられている。AlixPartnersの2026年予測レポートは「IPと先進AIを組み合わせたスタジオは2〜3倍のバリュエーション・プレミアムを得る」と分析しており、Seeleが中国・日本のIPホルダー(騰訊・網易・米図など)との関係性を活かせれば、欧米VCにとっても無視できないアセットになり得る。
競合サービス比較:Astrocade、Rosebud AI、Spawn.coとの位置取り
Seeleの最も直接的な競合として米国メディアやアナリストが挙げるのは、Astrocade、Rosebud AI、Spawn.coの3社である。
Astrocade(米国・サンフランシスコ)は前述の通り、Sequoia CapitalとSeaのリード出資で総額5,600万ドル(約88.5億円)を確保した最大手で、Sequoia Cahnパートナーが「20代〜40代女性に強くハマる」と賞賛するソーシャルゲーム×AI生成のハイブリッド型プレイヤーだ。クリエイター経済モデルはYouTube型を志向し、「上位クリエイターは月数千ドル稼ぐ」と公言、Google・Nvidia・LG Ventures・Dentsu Ventures・Conviction Embedなど投資陣もグローバル色が濃い。
Rosebud AI(米国)は、AI研究の重鎮であるアンドレイ・カーパシー(Andrej Karpathy)とイリヤ・サツキバー(Ilya Sutskever)がエンジェル参加していることで知られ、ノーコードAIゲームメイカーとしてのブランド力では市場リーダーの一角を占める。2026年時点では単純な素材生成からフル機能のAIゲームメーカープラットフォームに進化しており、Slashdotの比較サイトではSeele AIの直接代替候補として頻繁に挙げられている。
Spawn.co(米国)は、Rosebud AIに比較される存在で、ノーコード/カジュアルクリエイターを狙うAIネイティブのゲーム制作プラットフォームだ。
Seele AIは、ライブ・プラットフォーム規模ではAstrocadeに後れを取っているが、自社開発MLLM技術の深度(Seele01、EVA-01、4D World Model)と多エンジン対応(Unity・Unreal・Three.js)の点で他の3社より一歩先を行く可能性を秘めている。とりわけ、Astrocadeが独自プラットフォーム上での消費体験に特化しているのに対し、Seeleは「Unity・Unrealへエクスポートしてプロのゲームスタジオが二次利用できる」フレキシビリティを意図的に残しており、B2B方向の拡張余地が大きい。これはMidjourney(画像)、Runway(動画)、Lovable(Webアプリ)と並ぶ「最も難しい創造問題=完成可能なゲーム」を解くというSeeleの自己規定と整合する戦略だ。
巨大プラットフォームとしてのRobloxとの関係も興味深い。Robloxはユーザー生成コンテンツ(UGC)プラットフォームの王者で、2025年のクリエイター経済支払総額はFortniteと合算で15億ドル(約2,370億円)を超えたとされ、Seeleはこの巨大UGC市場の上位レイヤー(生成支援AI)にプラグインする形でRobloxと共存する道筋も見えている。
今後のロードマップと市場動向:L1からL3へ、3D時代の主導権争い

王詩沐がSina Financeの2025年12月インタビューで提示したロードマップは明確だ。現在のSeeleゲームモデルは「L1(Flappy Bird級簡易ゲーム)」段階にあるが、2026年中に「あつまれ どうぶつの森」級のシミュレーション・ゲーム複雑度(L2相当)への到達を目指す。最終目標である「フル没入型仮想世界(L3)」は2029年とし、「3Dは動画の次のコンテンツメディアで、強い相互作用性が決定的差別化要因になる」というビジョンを示している。
直近の確定ロードマップとしては、2026年第2四半期のUnreal Engine 5サポートローンチが控えている。これにより、Unityのモバイル・Web市場、Three.jsのブラウザ即時市場、そしてUnrealのAAAコンソール・PC市場の3層をすべて押さえる「トリプルエンジン・アーキテクチャ」が完成する見通しだ。また、王詩沐がBloombergとのインタビューで言及した「コーディング経験のないユーザー向けエンドツーエンドAIモデル」は、当初2025年7月リリース予定だったが、実装範囲は2026年に向けて段階的に拡張されている。
資金調達面では、Seeleは数億ドルのバリュエーションで新ラウンドを模索中(2025年5月Bloomberg報道時点)で、シリコンバレーVCが直接出資参加するかどうかが今後12か月の最大の見どころとなる。AIゲームテック領域の投資環境は、ゲーミングVC全体の冷え込みとは対照的に資金集中が起きており(前述:Q3 2025のゲーム関連10億ドル=約1,580億円のうち、2.3億ドル=約363億円がAI Gametech)、AIに対するプレミアム評価は健全に維持されている。
市場規模の見通しは強気で、複数の調査会社が幅のある予測を公表している。InsightAce Analyticは2025年の45.4億ドル(約7,173億円)から2035年の811.9億ドル(約12.8兆円、CAGR 33.57%)への急成長を、Precedence Researchは2024年の15億ドル(約2,370億円)から2034年の98億ドル(約1.55兆円、CAGR 20.8%)への成長を予測している。媒体ごとに数値の幅は大きいが、AIゲーミングが二桁台後半〜三桁台前半%のCAGRで拡大することについてはコンセンサスがあり、Seeleにとっても向こう5〜10年の市場拡大は強い追い風となる。
中長期的なリスクとしては、(1)中国規制当局の生成AIガイドラインや国境を越えるデータ規制が、Seeleの欧米展開に予期せぬ制約を課す可能性、(2)Astrocade、Rosebud AI、Spawn.coなどの欧米競合が、より多額の資金とシリコンバレー人材で先回りする可能性、(3)Robloxや既存ゲームエンジン大手(Unity、Unreal)が同等のAI機能を統合し、Seeleの差別化を浸食する可能性、の3点が挙げられる。一方で、Seele側にも、王詩沐がTencent・NetEase・Alibabaの主要IT3社を渡り歩いて築いた中国IT業界での人脈、自社開発MLLMの技術深度、AWS Bedrock経由での欧米クラウドネイティブ運用という3つの強力なアセットがあり、向こう12〜24か月の動きは「中国発の本格的グローバルAIゲーム企業」が誕生するかどうかの試金石となる。
Sources
- Baidu-Backed AI 3D Game Creator Seele Seeks New Funding (Bloomberg, 2025-05-28)
- Former NetEase Cloud Music executive Wang Shimu raises tens of millions of US dollars to build a 3D interactive platform (36Kr Exclusive)
- 騰訊新聞「掘墓人」王詩沐重生:開啟二次元AIGC創業?(36Kr / Tencent News)
- 「全灵SEELE」完成千万美元Pre-A轮融资 (Sina Finance, 2024-11-18)
- 「产品经理」王诗沐,造了个 3D 游戏模型丨100 个 AI 创业者 (Sina Finance, 2025-12-24)
- Former NetEase Cloud Music Vice President Launches Seele and Introduces Koko AI (AIBase)
- SEELE Redefines Game Creation with a New AI Arena (AWS Solutions Case Studies)
- SeeleAgent — AI Agent for Games, Images, Video & 3D (Seele AI Official)
- Seele Inc. Eyes Fresh Funding to Revolutionize AI 3D Game Design (OpenTools)
- Baidu-Backed Seele: The AI-Powered Engine Fueling the 3D Game Development Revolution (AInvest)
- Show HN: Seele AI – Generate playable games from text prompts using MLLM (Hacker News)
- Sequoia-backed Astrocade raises $56 million to let everyone build games (Fortune, 2026-05-05)
- Astrocade Raises $56M for AI-Powered Social Gaming (Sci-Tech Today)
- In 2026 Gaming companies must deal with AI supercycle and VC winter (VC Cafe)
- AI + IP: The catalyst for gaming company valuations in 2026 (AlixPartners)
- AI in Gaming Market Report with Forecast 2026 to 2035 (InsightAce Analytic)
- Tencent Changes News Business Head After First-Quarter Advertising Income Dives (Yicai Global)
- Tencent restructures its news team (South China Morning Post)
- Tencent's E-Commerce Mini Program Xiao'e Pinpin Upgraded to Independent App (EqualOcean)
- Tencent to Shut Down E-Commerce Platform "Xiao'e Pinpin" (Pandaily)
- SEELE AI 2026 Company Profile (PitchBook)
- 王诗沐 网易云音乐 副总裁 (IT桔子)
- Wang Shimu - SEELE TECHNOLOGY LIMITED (LinkedIn)