キーワード: Roblox, デイヴィッド・バシュッキ, メタバース, ベンチャーキャピタル, 年齢確認, クリエイターエコノミー, RBLX, シリコンバレー

ロブロックスとは何か — 「ゲーム」ではなく「人が集まる場所」

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ロブロックスを初めて聞く人がまず押さえるべき点は、それが一本の「ゲーム」ではないということだ。ロブロックスは、世界中のユーザーが自分でゲームや仮想空間を制作し、それを互いに遊び合うための「プラットフォーム(基盤)」である。

動画の世界におけるYouTubeを思い浮かべると理解しやすい。YouTubeが動画を「視聴する場所」であると同時に、誰もが動画を「投稿できる場所」でもあるように、ロブロックスはゲームを「遊ぶ場所」であると同時に、誰もがゲームを「制作して公開できる場所」でもある。実際、プラットフォーム上に並ぶ無数の作品は、ロブロックス社の社員ではなく、世界中の一般ユーザー(その多くは十代の若者)が作ったものだ。

ユーザーは「Roblox Studio(ロブロックス・スタジオ)」と呼ばれる無料の制作ツールを使い、レースゲーム、店舗経営シミュレーション、脱出ゲーム、バーチャルなコンサート会場まで、思い描いたものを形にできる。公開された作品は「エクスペリエンス(体験)」と呼ばれ、プレイヤーは自分の分身であるアバターを操作してそれらの世界を渡り歩き、友人とチャットをしながら時間を共有する。スマートフォン、PC、家庭用ゲーム機など、ほぼあらゆる端末から同じ世界にアクセスできる点も特徴である。

この経済圏を循環させるのが「Robux(ロバックス)」と呼ばれる仮想通貨だ。プレイヤーはRobuxを購入してゲーム内のアイテムや機能の購入に使い、人気の作品を生み出したクリエイターは、獲得したRobuxを現実の通貨に換金できる。つまりロブロックスは単なる遊び場ではなく、十代の若者が現実の収入を得られる「クリエイターエコノミー(創作経済)」として機能している。ロブロックス社の開示によれば、2025年通年でクリエイターが受け取った金額は合計で15億ドル(約2,390億円。本記事中の金額は特記なき場合、2026年5月中旬の為替水準である1ドル≈159円で日本円に換算した)を超え、上位1,000人のクリエイターは平均で約130万ドル(約2,070万円)を稼いだ。

ロブロックス社自身は、自社を「ゲーム会社」と呼ばない。同社が掲げるミッションは「ヒューマン・コ・エクスペリエンス(human co-experience=人が共に体験する)プラットフォーム」を築くことであり、人々が集い、遊び、学び、語らい、友情を育む場を提供することだと説明する。この「共体験」という言葉は、本記事の主人公であるCEOデイヴィッド・バシュッキの世界観を理解するうえで、繰り返し立ち返るべき鍵となる。

規模を数字で見ると、その大きさが分かる。2025年通年の1日あたりアクティブユーザー(DAU)は平均約1億2,650万人で、第3四半期には1億5,200万人のピークを記録した。月間ユーザー数は同年のうちに約2億8,000万人から約3億8,000万人へと拡大している。2025年通年の売上高は49億ドル(約7,790億円)で前年比36%増、ユーザーの支払総額に近い「予約売上(ブッキング)」は68億ドル(約1兆800億円)に達した。同社は2004年に創業され、2021年3月にニューヨーク証券取引所(NYSE)へティッカーシンボル「RBLX」で上場した。本社はカリフォルニア州サンマテオに置かれている。

カナダ移民の家系に生まれて — ウィニペグからミネソタへ

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デイヴィッド・ブレント・バシュッキ(David Brent Baszucki)は、1963年1月20日、カナダ・マニトバ州ウィニペグに生まれた。両親のヘレンとポールは、サスカチュワン大学で出会っている。一族のルーツはウクライナにあり、両親はいずれも、カナダ西部に入植したウクライナ系移民の子孫であった。一家はやがてカナダ東部を経てアメリカへと移り住み、デイヴィッドは少年期をミネソタ州エデンプレーリーで過ごすことになる。

エデンプレーリー時代のバシュッキ少年は、典型的な「手を動かす子ども」だった。彼はダートバイクを乗り回し、ゴーカートを自作して、スピードへの欲求を満たした。一方で、百科事典のページを繰っては事実を貪欲に吸収し、SF小説を通じて見知らぬ世界を旅する内省的な一面も持っていた。そして自宅にあったApple IIコンピューターに向かい、十代のうちに独学でプログラミングを身につけている。後年のロブロックスを貫く「自分の手で世界を作る」という思想の原型は、すでにこの頃に芽生えていたと見てよい。

弟のグレッグ・バシュッキ(Greg Baszucki)も同じエデンプレーリー高校に学んだ。この兄弟は、のちにバシュッキの最初の起業――ナレッジ・レボリューションの共同創業者となる。家庭環境としては、移民2世・3世らしい勤勉さと、子どもの好奇心を実験で満たすことを許す自由さが同居していた様子がうかがえる。バシュッキがのちに語る「子どもは消費するよりも創造するときに夢中になる」という確信は、まずもって彼自身の少年時代の実感に裏打ちされたものだった。

学生時代と学歴 — 「クイズの天才」、スタンフォード、そして宇宙コロニーの夢

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バシュッキは1981年、エデンプレーリー高校を卒業した(クラス・オブ1981)。母校であるエデンプレーリー学区が後年に発行した同窓生向け記事は、彼を「クイズの天才(Quiz Whiz)」と紹介している。実際、彼は校内のクイズ番組チーム(quiz bowl)のキャプテンを務め、知識を競う場でリーダーシップを発揮した。

しかし、彼を「勉強一辺倒の少年」と見るのは正確ではない。高校時代のバシュッキは、クロスカントリーとスキーのチームに所属し、サッカーではバーシティ(代表チーム)の一員としてプレーした。さらに「イーグル・バンド」でサクソフォンを吹いた音楽少年でもあった。知性、運動、芸術のいずれにも手を伸ばす――この「広く、深く」という資質は、後年「ゲームとは何か」「学びとは何か」「コミュニケーションとは何か」といった分野の境界を問い直す経営者像へとつながっていく。

学生時代の彼がどう見られていたかを示す資料として興味深いのが、卒業アルバムのキャプションである。そこには、彼が大学進学を予定しており、将来は「宇宙コロニーを設計したい(design space colonies)」と志していること、そして在学中は「学校生活でいちばん楽しかったのは、ぶらぶらと過ごすこと(messing around)」だと記されていた。壮大な技術的野心と、肩肘を張らない自己像が同居している――この二面性は、巨大企業を率いながらも社員を気取らず「ビルダー」と呼び続ける現在のバシュッキの人物像と、見事に符合する。バシュッキ自身も母校を振り返り、「物理の課題で、有名な落書きの橋の塗装を測ったことを覚えている。良い思い出ばかりで、特別な場所だ」と語っている。理論よりも、現実の物体を実際に測ってみることに喜びを見いだす――その姿勢は、のちに物理シミュレーションソフトを書く技術者の素地となった。

高校在学中、彼はゼネラルモーターズ(GM)でのサマーインターンを経験した。配属されたのは、ソフトウェアによって自動車のエンジンを制御する研究を行うラボだった。「ソフトウェアが物理的な現実を制御する」というこの体験は、のちのキャリアの核心と直結している。

1981年、バシュッキは志望どおりスタンフォード大学へ進学した。専攻は電気工学で、コンピューターサイエンスも学んでいる。1985年、彼は電気工学の学士号(B.S.)を取得して卒業した。注目すべきは、彼が「ゼネラルモーターズ・スカラー(General Motors Scholar)」として卒業している点だ。これはGMが学業優秀な学生に与える競争的な奨学制度であり、彼が外部機関からも明確に「優れた工学系学生」と評価されていたことを示す客観的な証左である。学内でのクイズチームのキャプテン就任、競争的な奨学生としての卒業、そして運動・音楽にもまたがる活動の幅――これらを総合すれば、学生時代のバシュッキは、一点突破の秀才というよりも、好奇心の幅が広く、それでいて衒(てら)いのない「総合力型」の人物として評価されていたと見るのが妥当だろう。

スタンフォード時代の彼は、同大学の「LOTS(Low-Overhead Time Sharing)」プロジェクトを通じて計算機資源にアクセスし、コンピューティングへの理解を深めた。後年、スタンフォードのビジネススクールが主催する経営者向け講演シリーズ「View From The Top」に登壇者として招かれるなど、彼と母校との関係は卒業後も続いている。

職務経歴 — 「インタラクティブ・フィジックス」が教えてくれたこと

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スタンフォードを卒業した4年後の1989年、デイヴィッド・バシュッキは弟のグレッグとともに、カリフォルニア州サンマテオで「ナレッジ・レボリューション(Knowledge Revolution)」を創業した。同社が世に問うた製品が、教育用物理シミュレーションソフト「インタラクティブ・フィジックス(Interactive Physics)」である。

このソフトの開発を主導したのはバシュッキ本人だった。彼はMacintosh Plus向けに、Object Pascalという言語で汎用の物理シミュレーションプログラムを書き上げた。ユーザーは画面上で部品、ヒンジ、ロープ、ばねをドラッグして組み合わせ、2次元の物理実験を自由に作り、計測することができた。1989年に発売された「インタラクティブ・フィジックス」は、生徒・教師の双方に広く受け入れられ、最終的に9言語に翻訳されて数百万本を売り上げる成功作となった。1990年代初頭には、機械設計向けの姉妹ソフト「ワーキング・モデル(Working Model)」も投入している。

ここで、バシュッキの起業家としての原点となる「気づき」が生まれる。彼は、若い生徒たちが「インタラクティブ・フィジックス」を単に宿題のために使うのではなく、自ら進んで独自のシミュレーションを作り、それを互いに見せ合っていることに気づいた。人は、与えられたコンテンツを消費するときよりも、自分で何かを「作る」ときにこそ夢中になる――この観察こそが、のちにロブロックスという発想の種子となった。スタンフォード・マガジンの記事も、この体験が彼の「仮想世界」構想の出発点だったと記している。

1998年12月、ナレッジ・レボリューションはエンジニアリング・ソフトウェア大手のMSCソフトウェアに2,000万ドル(約32億円)で買収された。バシュッキはその後もMSCソフトウェアに残り、2000年から2002年にかけてバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めた。技術者として起業し、製品を磨き、会社を売却し、買収先で経営に携わる――この一連の経験を通じて、彼は「優れた技術」と「事業として成り立たせること」の両面を、若くして体得していた。

2003年から2004年にかけて、彼は「バシュッキ・アンド・アソシエイツ(Baszucki & Associates)」というエンジェル投資の活動を行い、初期のソーシャル・ネットワーキング・サービスであるフレンドスター(Friendster)にシード資金を提供した。この時期の彼はまた、サンタクルーズのラジオ局KSCOでリバタリアン的な視点のトーク番組のホストを務めるなど、技術者の枠に収まらない多面的な関心を見せている。なお、この頃に交流を深め、のちにロブロックスを共に立ち上げることになるエリック・キャセルは、「インタラクティブ・フィジックス」部門でエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めた人物であった。同僚としてのキャセルへの信頼が、次の挑戦の土台となった。

創業物語 — エリック・キャセルとメンロパークの一室から

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2003年12月、バシュッキはエリック・キャセル(Erik Cassel)とともに、新しいプラットフォームの初期プロトタイプづくりに着手した。バシュッキがキャセルに持ちかけた構想は明快だった――「誰もが自分のゲームを作り、それを他者と共有できる場所」をつくる、というものだ。「インタラクティブ・フィジックス」で得た、子どもは「作る」ことに夢中になるという確信が、その根底にあった。

このプロジェクトは当初「eBlocks」と呼ばれ、続いて「GoBlocks」「DynaBlocks」と名前を変えた。そして「ロボット(robots)」と「ブロック(blocks)」を組み合わせた造語「Roblox(ロブロックス)」へと改称される。二人はカリフォルニア州メンロパークに小さなオフィスを借り、開発を進めた。役割分担は明確で、バシュッキが戦略とビジョンを描き、キャセルがプラットフォームの技術アーキテクチャを構築した。創業期の二人は、ほとんど二人だけで初期バージョンを作り上げ、制作ツールが完成する前から、自分たち自身でプラットフォーム上にゲームを作ってみせている。

ウェブサイトとベータ版は2004年に立ち上がり、ゲームとしての正式リリースは2006年9月1日であった。バシュッキは初期、「builderman(ビルダーマン)」というユーザー名でプラットフォームに常駐し、新しく加入したプレイヤーに自ら歓迎のメッセージを送って友だちになっていた。経営者でありながら、自社サービスの最初期のコミュニティの一員として振る舞ったこのエピソードは、彼の「現場主義」を象徴している。

バシュッキの構想は、決して突飛な思いつきではなかった。彼はSF作家ニール・スティーヴンスンの小説『スノウ・クラッシュ』に強い影響を受けており、人々が集い、働き、学ぶ仮想空間――のちに「メタバース」と呼ばれることになる概念――を、2004年の事業計画の時点ですでに描いていた。バシュッキ自身は、その構想を「3D simulated co-experience(3Dでシミュレートされた共体験)」と表現している。「メタバース」という流行語が登場するはるか前から、彼の頭の中の設計図はほとんど変わっていない。

共同創業者キャセルの存在は、ロブロックスの物語に深い陰影を与えている。キャセルは2013年2月11日、がんのため他界した。ロブロックスがまさに勢いを増し始めた矢先のことだった。バシュッキはのちに、がんと診断されたあともキャセルが「自分の生活を何ひとつ変えず」、淡々とロブロックスの仕事を続けたことを回想し、それがバランスのとれた生き方について多くを教えてくれた、と語っている。共同創業者を早くに失いながら、その遺志を引き継いでプラットフォームを世界規模に育てたこと――それ自体が、バシュッキの粘り強さを物語っている。

人物像とリーダーシップ — 全社員を「ビルダー」と呼ぶ経営者

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バシュッキのリーダーシップを象徴するのが、「ビルダー(Builders)」という言葉である。彼は今日に至るまで、ロブロックスの全社員を社員(employees)ではなく「ビルダー」と呼び続けている。これは、数百人規模から数千人規模の上場企業へと成長してもなお、創業期の「自分たちは何かを作る者である」という文化を失うまいという、意識的な選択だ。

彼の経営スタイルは、しばしば「華やかさよりもインフラを(infrastructure over spectacle)」と評される。サンマテオ本社の社員たちは、彼を「几帳面で、ときに思索的」な人物として描く。短期的な見栄えのする成果よりも、土台となる仕組みを地道に作ることを優先し、近道を拒んででも根本的なシステムを構築する――こうした姿勢が、彼の一貫した特徴である。同時に彼は、コミュニティの声を「容赦なく聞き取る(ruthless listening)」ことと、大胆なリスクを取る勇気とを両立させなければならない、と説いてきた。

投資家たちの評価も、この人物像を裏づける。後述するアンドリーセン・ホロウィッツは、バシュッキを「壮大なビジョンを語る『tell me(語ってみせる)』型のCEOであると同時に、実行力で結果を示す『show me(見せてみせる)』型のCEOでもある」希少な創業者だと評した。ファースト・ラウンド・キャピタルは、20年を超える歳月にわたる彼のビジョンへの揺るぎないこだわりと、近道を選ばない姿勢を称賛している。

私生活では、バシュッキは2005年に小説家のジャン・エリソン(Jan Ellison)と結婚し、4人の子を持つ。一家はサンフランシスコ・ベイエリアに暮らす。2021年のNYSE上場後、彼は妻とともに慈善団体「バシュッキ・グループ(Baszucki Group)」を立ち上げた。同グループはメンタルヘルス、選挙制度の革新、環境再生型農業などを支援対象とし、双極性障害の研究に助成を行う「バシュッキ・ブレイン・リサーチ・ファンド」や非営利団体「メタボリック・マインド(Metabolic Mind)」を擁する。2022年9月には、グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリンらとともに、双極性障害研究へ総額1億5,000万ドル(約239億円)を寄付している。

その一方で、彼の人物像には光だけでなく影もある。2021年には、米国で7番目に高額の報酬を受け取ったCEOとして、2億3,280万ドル(約370億円。大半は業績連動の株式報酬)が報じられた。同年12月にはニューヨーク・タイムズが、彼が適格中小企業株式(QSBS)に関する税制優遇を用いて多額のキャピタルゲイン課税を合法的に回避していると報じている。資産面では、フォーブスが2025年12月時点で彼の純資産を約56億ドル(約8,900億円)と見積もったが、その大部分を占めるロブロックス株は2026年に入って大きく値を下げており、保有資産の評価額も相応に縮小している。卓越したビジョナリーであると同時に、巨大プラットフォームの守り手としての責任を問われる立場――それが現在のバシュッキである。

シリコンバレーのVCはバシュッキとロブロックスをどう評価したか

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ロブロックスは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)にとって、語り継がれるべき「教訓の宝庫」である。

創業からしばらく、ロブロックスは派手な資金調達とは無縁だった。バシュッキにはナレッジ・レボリューション売却で得た資金があり、ロブロックスは長く、自己資金に近い形で運営された。最初の本格的な外部資金が入ったのは2009年で、アルトス・ベンチャーズ(Altos Ventures)とファースト・ラウンド・キャピタル(First Round Capital)を中心に、初期資金として総額約1,050万ドル(約17億円)が投じられた。

この2社の「入り方」に、VCの教訓が凝縮されている。ファースト・ラウンドのパートナー、クリス・フレリックがバシュッキと初めて面会したのは2007年末のことだった。当初、ファースト・ラウンドは及び腰だった。評価額が高く見え、自分たちの投資モデルに合わないと感じたからだ。それでもフレリックはこの会社を見続けた。きっかけのひとつは、彼の8歳の息子がこのプラットフォームを夢中でベータテストしていたことだったという。2009年までに、ファースト・ラウンドはロブロックスの猛烈な改善スピード(事業モデルは87回目の改訂に達していた)と、週間プレイ時間が30万時間から160万時間へと伸びた成長に説得され、出資を決めた。アルトス・ベンチャーズの共同創業者ハン・キムに至っては、2008年の金融危機のただ中でロブロックスを支え続けている。

2017年3月、ロブロックスは5年以上ぶりとなる本格的な外部資本を受け入れる。インデックス・ベンチャーズ(Index Ventures)とメリテック・キャピタル・パートナーズ(Meritech Capital Partners)が主導する、インデックスの発表で約9,200万ドル(約146億円)の調達である。インデックスの共同創業者ニール・リマーは、出資理由をこう語った――「ロブロックスについて私たちが最も魅力的だと感じたのは、同社が自社を『ゲーム会社』ではなく『テクノロジー・プラットフォーム』だと位置づけている、その内部認識だった」。

2020年2月には、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が1億5,000万ドル(約239億円)の調達を主導し、ロブロックスの評価額は40億ドル(約6,360億円)となった。a16zが公表した投資メモは、いま読み返しても示唆に富む。同社は「VR/ARがいつ実用域に入るかという議論が続くあいだに、グローバルなメタバースの基盤は、水面下で静かに築かれてきた――ロブロックスの中で」と書いた。安全性、複数の世界をまたぐ永続的なアイデンティティ、体験から体験へ容易に移動できること――こうした要素を根拠に、a16zはロブロックスをメタバースの本命と見た。同社の独自調査では、米国の9〜17歳の子どもの72%がロブロックスをプレイした経験を持つことが分かった、ともいう。

そして2021年3月10日、ロブロックスはNYSEに直接上場(ダイレクト・リスティング)を果たす。直前の未公開市場での評価額は約295億ドル(約4兆6,900億円)だった。上場初日、参考価格45ドルに対し初値は64.50ドルを付け(時価総額にして約419億ドル=約6兆6,600億円)、初日終値は69.47ドル(希薄化後ベースで約453億ドル=約7兆2,000億円)に達した。長く「子ども向けゲーム」と見なされ、過小評価されてきた会社の、劇的な再評価の瞬間だった。早期から支え続けた投資家には巨大なリターンがもたらされ、上場時点でアルトス・ベンチャーズは約23.6%、メリテック・キャピタルは約11.2%、ファースト・ラウンドは約6.8%を保有していたとされる。

ここから、シリコンバレーVCの視点で情報を統合すると、ロブロックスは2つの教訓を残している。第一に、これは「スロー・ベイク(slow bake=じっくり焼き上げる)」の典型例だということだ。フレリックは「超一流の企業を築くには長い時間がかかり、その大半の期間、その企業は誤解され、過小評価される」と語っている。ロブロックスが10倍規模の急成長を遂げたのは創業から十年以上が経った2016〜2019年であり、それまでの長い助走を耐えてコミュニティを育てられた投資家だけが、果実を手にした。第二に――そしてより重要なことに――ロブロックスで成功したVCは、判で押したように同じ「読み替え」を行っている。すなわち、この会社を「ゲームスタジオ」ではなく「テクノロジー・プラットフォーム」「インフラ」として評価し直した、という点だ。インデックスの「テクノロジー・プラットフォーム」、a16zの「メタバースの基盤」――表現は違えど、本質は同一である。「これは単なる子ども向けゲームか、それとも次世代のインフラか」。この問いにどう答えるかが、ロブロックス投資の成否を分けてきた。そして後述するように、まったく同じ問いが、2026年のいま、再び突きつけられている。

2026年の試練 — 年齢確認規制と業績ガイダンスの下方修正

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2026年のロブロックスとバシュッキは、創業以来でも有数の試練のただ中にある。震源は、児童の安全をめぐる規制と訴訟である。

発端は2025年に遡る。同年8月、ロブロックスが、小児性愛者をおびき出して告発する活動を行っていたユーチューバー(通称Schlep)のアカウントを排除したことが大きな反発を呼び、CEOバシュッキの辞任を求めるオンライン署名は10万筆を超えた。その後、ロブロックスに対しては米国の複数の州で訴訟が積み上がり、2026年時点でその数は140件を超えている。テキサス、フロリダ、テネシー、ルイジアナといった州の司法長官も法的措置に踏み切った。

こうしたなか、2026年4月15日、同社はネバダ州と「この種のものとして初」(同州司法長官アーロン・フォード)とされる和解に合意した。和解の内容は重い。ロブロックスは1,200万ドル超(約19億円。一部報道は1,250万ドルと伝える)をネバダ州に支払い、3年間で1,000万ドル(約16億円)を子ども向けプログラムやスクリーンタイムの代替活動に拠出する。さらに全ユーザーへの年齢確認の義務化、未成年への夜間通知の制限、顔による年齢推定技術を用いて若年ユーザーのチャット相手を近い年齢層に限定すること、成人と16歳未満のユーザーは原則として「信頼できる友だち」以外とはチャットできないようにすること、などが盛り込まれた。

実は、こうした安全対策の柱は、和解に先立つ2026年1月、ロブロックスが自ら踏み込んでいたものだ。同社はこの月、チャット機能の利用に顔認証ベースの年齢確認を求める「世界初の大手オンラインゲームプラットフォーム」となった。バシュッキ自身、決算説明会でこの事実を強調している。さらに同社は、年齢別のアカウント区分も導入する。5〜8歳向けの「Roblox Kids」(メッセージ機能を初期設定で無効化し、コンテンツ成熟度が「最小限」「軽度」の体験のみに制限)と、9〜15歳向けの「Roblox Select」(成長に応じて段階的にチャットを開放)であり、2026年6月初旬の展開が予定されている。クリエイター側にも影響が及び、2026年5月19日からは、ゲームを一般公開するために年齢確認・本人確認・二段階認証・有料サブスクリプション「Roblox Plus」などが求められるようになる。

問題は、こうした安全強化が短期的に大きな財務的代償を伴うことだ。2026年4月30日に発表した第1四半期決算では、売上高が前年同期比39%増の14億ドル(約2,230億円)、予約売上が同43%増の17億ドル(約2,700億円)と、いずれも力強い数字を出した。純損失は2億4,800万ドル(約394億円)と前年同期から拡大したものの、営業キャッシュフローは6億2,900万ドル(約1,000億円)に達している。しかしDAUは1億3,200万人で、前年同期比こそ35%増だが、2025年末の1億4,400万人からは減少した。最高財務責任者(CFO)のナビーン・チョプラは、年齢確認がチャットなどコミュニケーションの活発さを削ぎ、それが口コミによる新規ユーザー獲得にも「二次的な影響」を及ぼしていると説明した。

そして決算と同時に、同社は2026年通年のガイダンスを大幅に下方修正した。予約売上の見通しは73億3,000万〜76億ドル(約1兆1,700億〜1兆2,100億円)へと、従来予想の82億8,000万〜85億5,000万ドル(約1兆3,200億〜1兆3,600億円)から、中央値でおよそ10億ドル(約1,590億円)引き下げられた。予約売上の成長率見通しは8〜12%(従来想定の約24%から半減以下)、売上高の成長率見通しは20〜25%となる。株主への手紙で同社は、年齢確認が「年齢未確認ユーザーのプラットフォーム上のコミュニケーションを制限し、年齢確認済みユーザーのコミュニケーションも希薄化させ、新規ユーザー獲得を鈍化させた」と認めた。

バシュッキは、この痛みを「正しい長期戦略のための代償」と位置づけている。彼は決算説明会で、「年齢確認とともに私たちが展開しているものは、このプラットフォームを築くうえで本当に正しい長期的なやり方だと信じている」と述べた。論拠は明快だ。年齢確認によって「誰が本当に18歳以上なのかを正確に把握できる」ようになり、その18歳以上の市場は世界のゲーム市場の約8割を占める。ロブロックスは、米国の年齢確認済み18歳以上ユーザーによる体験内消費について、クリエイターの取り分を従来の26.6%から37.8%へと引き上げる(2026年6月8日から)。子ども向けの巨大プラットフォームを、安全性を「堀(モート)」としながら、より深く収益化できる成人を含む市場へと成熟させる――それが、いまバシュッキが描く絵だ。

各紙・アナリストの報道と今後の展望 — VCの視点による統合

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2026年5月1日、ロブロックスの株価は約17〜18%急落した。CNBCは「児童安全対策が予約売上の重しに、ロブロックス株18%急落」と報じ、各紙はバシュッキの「厳しい見通し」を見出しに掲げた。株価は5月16日時点でおおむね43〜44ドル(約6,800〜7,000円)で推移し、直近30日でおよそ25%、年初来ではおよそ46%下落している。

アナリストの反応は、見事に二分された。バンク・オブ・アメリカは目標株価を165ドルから48ドル(約2万6,200円→約7,600円)へと一気に引き下げ、投資判断も「中立」へ格下げした。JPモルガンも75ドルから50ドル(約1万1,900円→約8,000円)へ引き下げている。一方でモルガン・スタンレーは目標株価を140ドルから62ドル(約2万2,300円→約9,900円)へ下げつつも、強気の「オーバーウェイト」を維持した。TDコーエンは「株価はもはや現実を織り込んだ」とし、ロス・キャピタルは「買い」を据え置いた。市場全体としてはなお「やや買い」寄りのコンセンサスが残るが、目標株価は最安値46ドル前後から最高値171ドル前後まで大きく割れている。さらに、キャシー・ウッド率いるARKインベストメントは、急落局面でロブロックス株を30万7,000株買い増した。総悲観ではなく、明確な強気・弱気の対立――それ自体が、現在のロブロックスをめぐる「物語」である。

ここでシリコンバレーVCの視点を重ねると、構図はくっきりする。今日の弱気派は、ロブロックスを「規制の壁にぶつかった子ども向けゲーム」と見ている。対する強気派は、これを「世界のゲーム市場の8割を占める成人市場へと成熟するために、一度だけ通行料を払っている途上のプラットフォーム」と見る。これは、前章で見た歴史的な対立――「単なる子ども向けゲームか、それとも次世代インフラか」――の、2026年版の再演にほかならない。かつてこの問いに「プラットフォーム」と答えたVCが勝者となった。だが、当時と今とでは決定的な違いがある。かつての論点は「成長の解釈」だったが、今回の論点には「規制という外生的な制約」が加わっている。すなわち、バシュッキが過去20年間で磨いてきた「スロー・ベイク」の経営手腕が、規制移行という新しい地形でも通用するのか――それが問われている。なお、ロブロックスはなお会計上は純損失が続く一方で営業キャッシュフローは大きく黒字という構造にあり、この「赤字だが現金は稼ぐ」という独特の収益構造をどう評価するかも、強気・弱気を分ける論点となっている。

今後の「新たな動き」は、いくつかの具体的な日付に沿って計測できる。直近では2026年5月19日にクリエイター向けの一般公開要件が厳格化され、6月初旬には年齢別アカウント「Roblox Kids」「Roblox Select」が展開され、安全フレームワークの全面展開も6月までに完了する見込みだ。6月8日には18歳以上向けコンテンツのクリエイター取り分引き上げが発効する。そして最大の節目は、例年7月下旬から8月上旬に公表される2026年第2四半期決算である。同社は第2四半期にDAUがさらに前四半期比で減少すると予告しており、この決算が「底入れ」を確認できるかどうかが、株価の方向感を左右する。

中長期では、バシュッキはAIへの賭けを強めている。同社は社内で400を超えるAIモデルを運用しているとされ、ゲーム制作を支援するAIアシスタントには、コードを解析して作業計画を立てる「プランニングモード」や、自らテストして修正する自律的な機能が加わった。2026年2月には、生成物に「インタラクティブ性」の次元を加える4D生成技術「Cube」を投入している。さらにバシュッキは決算説明会で、「ロブロックス・リアリティ・プロジェクト」と呼ぶ、初の「使いやすいマルチプレイヤー対応のフォトリアル(写実的)プラットフォーム」構想に言及し、これは無料ではなく有料サービスになると明言した。AI推論をクラウドから自社のGPUデータセンターへ移管し、3つ目の中核データセンターを増設する計画も進む。広告事業の拡大、クリエイター育成プログラム「Incubator」「Jumpstart」の始動も、成長の柱と位置づけられている。

総じて、2026年のロブロックスは、メタバース・ブームの熱狂が冷めたあとの「現実の四半期」を生きている。だが思い返せば、ロブロックスで勝ったシリコンバレーのVCたちは、もともと熱狂を買ったのではなかった。彼らが買ったのは、十年以上を要する「スロー・ベイク」と、自社を単なるゲームではなくインフラとして捉え直す経営者の一貫性だった。年齢確認という規制の移行を、バシュッキが同じ忍耐の流儀で乗り切れるのか。その答えはまだ出ていない――そして、アナリストの目標株価が48ドルから171ドルまで割れているという事実こそが、答えがまだ出ていないことの、何よりの証拠である。


Sources

  • David Baszucki — Wikipedia: https://en.wikipedia.org/wiki/David_Baszucki
  • Roblox Corporation — Wikipedia: https://en.wikipedia.org/wiki/Roblox_Corporation
  • Life, the Metaverse, and Everything — Stanford Magazine: https://stanfordmag.org/contents/life-the-metaverse-and-everything
  • From Quiz Whiz to Roblox Boss — Eden Prairie Schools Inspire Magazine: https://community.edenpr.org/inspire-magazine-2024/inspire-stories/~board/inspire-magazine-stories/post/from-quiz-whiz-to-roblox-boss
  • Roblox — First Round Capital: https://www.firstround.com/companies/roblox
  • Roblox Secures $92 Million in Funding — Index Ventures: https://www.indexventures.com/perspectives/roblox-secures-92-million-in-funding/
  • Investing in Roblox — Andreessen Horowitz (a16z): https://a16z.com/2020/02/26/roblox/
  • Roblox (RBLX) Q1 2026 Earnings Call Transcript — The Motley Fool: https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/2026/04/30/roblox-rblx-q1-2026-earnings-call-transcript/
  • Roblox shares plummet 18% as child safety measures weigh on bookings — CNBC: https://www.cnbc.com/2026/05/01/roblox-rblx-stock-child-safety-earnings.html
  • Roblox CEO issues stark forecast on 2026 bookings — TheStreet: https://www.thestreet.com/investing/stocks/roblox-ceo-issues-stark-forecast-on-2026-bookings
  • Roblox reaches $12 million settlement with Nevada — The Nevada Independent: https://thenevadaindependent.com/article/roblox-gaming-platform-reaches-12-million-settlement-with-nevada-enhancing-youth-protections
  • Roblox Introduces New Age-Based Accounts and Expanded Parental Controls — Roblox Newsroom: https://about.roblox.com/newsroom/2026/04/introducing-roblox-kids-and-select-accounts
  • Roblox Reports Fourth Quarter and Full Year 2025 Financial Results — Roblox Investor Relations: https://ir.roblox.com/news/news-details/2026/Roblox-Reports-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2025-Financial-Results/default.aspx
  • BofA Slashes Roblox Price Target From $165 to $48 — 24/7 Wall St.: https://247wallst.com/investing/2026/05/01/bofa-slashes-roblox-price-target-from-165-to-48-is-the-roblox-growth-story-permanently-broken/
  • Roblox raises $150M Series G, led by Andreessen Horowitz — TechCrunch: https://techcrunch.com/2020/02/26/roblox-raises-150m-series-g-led-by-andreessen-horowitz-now-valued-at-4b/
  • Roblox goes public on New York Stock Exchange with $41 billion valuation — The Washington Post: https://www.washingtonpost.com/video-games/2021/03/11/roblox-ipo/
  • Roblox Reaches $45 Billion Valuation as Shares Rise in Debut — Bloomberg: https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-03-10/roblox-reaches-44-billion-valuation-in-direct-listing-debut
  • The biggest Roblox creators earned an average of $1.3M in 2025 — Game Developer: https://www.gamedeveloper.com/business/the-biggest-roblox-creators-earned-an-average-of-1-3-million-in-2025
  • Roblox AI assistant gets agentic tools to plan, build, and self-test games — The Next Web: https://thenextweb.com/news/roblox-ai-assistant-agentic-tools-planning-procedural-models