垂直に立った線が、逆向きに伸び始めた

株価のチャートに、ほとんど垂直な線が1本立つ。1年あまり前、そんな光景が何度も繰り返された。きっかけは、いつも同じ一言だった。「OpenAIと契約した」。
2025年9月、OpenAIとの巨額のクラウド契約で受注残高を膨らませた米オラクルの株価は、1日で36%上がった。翌月、OpenAIにAI向けの半導体を供給すると発表した米AMDの株価は、1日で2割を超えて上がった。ChatGPTを生んだOpenAIは、署名ひとつで他社の株価を押し上げる存在になっていた。
いま、その線が逆向きに伸びている。
10月22日、OpenAIの大株主であるソフトバンクグループの株価は、前日より6.9%安い4305円で取引を終えた。その日いちばん安い値段での引けだった。1か月前と比べて3割以上安く、6月につけた最高値の半値を割り込んだ。会社全体の株の値打ちである時価総額は、ピークの49兆円ほどから24兆円台に縮んだ。日経平均株価もこの日1713円下げ、約3か月ぶりに6万3000円を割った。
同じ週、もう一つの知らせが届いた。シンガポールのデータセンター会社デイワンが、米国での株式上場の規模を半分ほどに縮めるか、上場そのものを延期することを検討しているという。米ブルームバーグ通信が21日に報じた。デイワンの最大の顧客はOpenAIではない。それでも、計画は縮もうとしている。
OpenAIの署名を起点に回ってきたAI投資の好循環、いわば「OpenAIスーパーサイクル」は、終わりを迎えたのか。この問いは、遠い米国だけの話ではない。ソフトバンクグループは9月、主に個人投資家に向けて、1兆円の社債を売り出したばかりだ。

OpenAIは「核テナント」だった

郊外に、大きなショッピングモールを建てる場面を思い浮かべてほしい。
開発会社はまず、有名な百貨店や大型スーパーと、長期の賃貸契約を結ぶ。核テナントと呼ばれる存在だ。銀行はその契約書を見てお金を貸し、開発会社はモールを建てる。核テナントの看板があるから、ほかの店も集まってくる。
AIのデータセンターでも、同じことが起きてきた。体育館より大きな建物に、米エヌビディアのAI向け半導体を何十万個も並べ、原子力発電所1基分に近い電気を引き込む。その建設費を借金で賄うには、何年にもわたって使用料を払い続けてくれる借り手が要る。この1年あまり、その核テナントの役を最も大きく担ってきたのがOpenAIだった。
OpenAIは2025年の秋にかけて、オラクルと5年で3000億ドル(約47兆円)規模のクラウド契約を結び、エヌビディア、AMD、ブロードコムと半導体の大型契約を次々に交わした。韓国のサムスン電子とSKハイニックスとは、巨大データセンター計画「スターゲート」向けのメモリーの供給で基本合意を結んだ。サム・アルトマンCEOは、30ギガワット分の計算資源に1兆4000億ドル(約220兆円)を投じる約束をしたと語った。
契約が発表されるたびに、相手の会社の株価が上がる。株価が上がった会社は、社債を発行したり銀行から借りたりして、データセンターを建てる。計算資源が増えれば、OpenAIは新しいモデルを出し、企業価値はさらに上がる。大株主のソフトバンクグループは、値上がりした保有株を担保にお金を借り、OpenAIにさらに資金を注ぐ。OpenAIの署名を起点に、株価と借金と建設が互いを押し上げていく。これが「OpenAIスーパーサイクル」の正体だった。
この仕組みには弱点がある。核テナントの信用が揺らげば、モール全体の資金計画が揺らぐ。そして2026年に入ってから、OpenAIは少しずつ、核テナントの座から後ずさりを始めた。

OpenAIは何から後退しているのか

OpenAIの事業そのものが縮んでいるわけではない。7〜9月期には年換算の売上高が77%伸び、年末には700億ドル(約11兆円)に届くと投資家に説明している。21日には、ChatGPTに載せる広告の取り扱いを新たに26か国に広げ、広告主が10万社を超えたと発表した。同じ日には、OpenAIのAIが、世界中のウェブサイトで使われるプログラミング言語PHPに潜んでいた重大な欠陥を見つけていたことも明らかになった。日本でも財務省や厚生労働省が、ウェブサイトの一部を止めて緊急点検に追われた。技術の力は健在だ。
後退しているのは、核テナントとしての立ち位置だ。動きは4つある。
1つ目は、「建てる」から「借りる」への転換だ。今年2月、OpenAIが2030年までの計算資源への支出を約6000億ドル(約95兆円)とする見通しを投資家に示したと、ロイターなどが報じた。昨年語っていた1兆4000億ドルという数字から、大きく仕切り直した形だ。3月にはテキサス州アビリーンの拠点の拡張を取りやめ、4月には英国とノルウェーで進めていたスターゲートの計画から相次いで手を引いた。ノルウェーの施設は、代わりにマイクロソフトが借りた。自前で建てる計画を減らし、他社の設備を借りる方向に舵を切ったのである。
2つ目は、売上の数字への信頼だ。10月8日、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、OpenAIが投資家に示した9月末の年換算売上高が500億ドル(約7兆9000億円)近くだったと報じた。市場で語られていた700億ドル近いという数字より、200億ドル(約3兆2000億円)少ない。需要が消えたのではなく、提携先を通じた販売をどう数えるかという物差しの違いだった。それでもソフトバンクグループ株は、この報道で一時7%を超えて下げた。
3つ目は、首位の座だ。アルトマン氏は9月、株式の上場は「今年ではない」と明言した。一方、ライバルの米アンソロピックは11月中旬にも上場する見通しだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が入手した目論見書の草案によると、アンソロピックの1〜6月の売上高は163億ドル(約2兆6000億円)で、前の年の同じ時期の15倍近くに膨らんだ。法人カードの米ランプの集計では、AIにお金を払っている企業の割合で、5月にアンソロピックが初めてOpenAIを上回った。9月に公表された集計でも、アンソロピックの43.8%に対してOpenAIは39.8%と、逆転したままだ。上場前の会社の値段に賭ける暗号資産の取引所ハイパーリキッドの先物では、16日にOpenAIの企業価値が一時1兆5000億ドル(約236兆円)を割り込み、2兆ドル(約315兆円)を上回るアンソロピックとの差が広がった。
4つ目は、人だ。OpenAIで計算資源の調達を担ってきた幹部、サチン・カッティ氏が14日、11月半ばで会社を離れると表明した。エヌビディアやAMD、オラクルなどとの巨大な契約に関わってきた人物である。
こうしたなか、OpenAIは資金集めを急いでいる。ロイターが19日に独自に報じたところによると、OpenAIは1兆4000億ドル(約220兆円)を超える企業価値で約300億ドル(約4兆7000億円)を集める交渉を、アンソロピックの上場より前にまとめようとしている。ソフトバンクグループやアブダビの政府系投資会社MGXも参加を協議しているという。アンソロピックが上場して詳しい財務を開示すれば、投資家は両社を並べて比べ始める。その前に自らの値段を固めておきたいという思惑があると、ロイターは関係者の話として伝えた。米法律事務所ウィルキー・ファー・アンド・ギャラガーのエドワード・ベスト氏は、「上場をめぐっては、実質的に2頭の馬の競走だ」と語る。
OpenAIは安いモデルの値下げにも踏み切り、21日には、グーグルのクラウドを通じて最先端のモデルを販売すると発表した。マイクロソフトとの独占的な販売の取り決めは4月に切れており、アマゾンのクラウドに続く販路の拡大だ。ブルームバーグは、OpenAIが、性能が近く値段の安い中国勢との競争にもさらされていると指摘している。

波紋の地図——OpenAIに近いほど深く沈んだ

池に石を投げると、波紋は石の落ちた場所から外へと広がっていく。株式市場でも、OpenAIに近い会社ほど大きく揺れた。
9月22日から10月21日までの1か月で、OpenAIにGPUを貸すコアウィーブの株価は3割近く、オラクルは1割強下げた。一方、AI向け半導体の王者エヌビディアはほぼ横ばいにとどまり、OpenAIの株式の約4分の1を持つマイクロソフトは、逆に7%上がった。
並べてみると、ひとつの法則が浮かぶ。借金が多く、売上をOpenAIに頼る割合が高い会社ほど、深く沈んだ。マイクロソフトはOpenAIの大株主でありながら、顧客の層が厚く、手元の現金も潤沢だ。OpenAIがほかのクラウドで売り始めても、自社の柱は揺らがない。
いま、最も注目を集めるのがオラクルだ。CNBCによると、オラクルの倒産に備える保険の料金、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は年3%に近づき、1年前の4倍近くに跳ね上がった。米S&Pグローバルの担当者は、この水準は投資適格に届かない会社の社債に近いと指摘する。オラクルの格付けは投資適格の最も低い段階にあり、アナリストの予想では、今年度の手元に残る現金の収支は237億ドル(約3兆7000億円)の赤字になる。独ドイツ銀行のジム・リード氏は、オラクルが投資適格から転落すれば、投資適格の債券しか持てない投資家が売らざるを得なくなるおそれがあると書いた。オラクルは「投資適格の格付けを維持することが最優先だ」と答えている。
売る側が、買う側の資金繰りを手当てする動きも出てきた。WSJは今月上旬、ブロードコムがOpenAI向けの独自半導体の代金を賄うため、米アポロや米ブラックストーンなどから500億ドル(約7兆9000億円)を超える資金を集める調整をしていると報じた。核テナントの資金繰りを、取引先が支え始めている。
波紋は、ソフトバンクグループの資産にも届いている。同社が借金の担保に差し入れている英半導体設計大手アームの株価は、同じ1か月で32%下げた。

ソフトバンクG、乱高下の3日間

20日、ソフトバンクグループの株価は6%下げた。その朝、同社の信用リスクを映すCDSが、約4年ぶりの高さに達していた。
CDSは、お金を貸した側が、相手が返せなくなったときに備えて買う保険のようなものだ。火事の起きやすい家ほど火災保険料が高いのと同じで、危ない会社ほど保険料は上がる。ブルームバーグの集計では、ソフトバンクグループの5年物のCDSは20日朝、年4.32%に達した。100億円の貸し付けを守るのに、毎年4億3000万円あまりかかる計算だ。2022年11月上旬以来の高さで、主な日本企業のなかで最も高い。2番目に高い日産自動車を、1.3ポイント以上も上回る。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、シャロン・チェン氏は、2027年3月期にソフトバンクグループから流出する資金が、少なくとも60億ドル(約9500億円)に達すると見積もる。データセンターやOpenAIへの追加の投資で、資金の需要はさらに膨らむ。同社は米国の警備最大手アライド・ユニバーサルの買収も検討しており、チェン氏は、実現すれば新たな資金調達が必要になると指摘した。借金を保有資産の価値で割ったLTVという比率は、会社が自ら上限とする25%に近づく可能性があるという。
21日には一転して反発し、株価は一時5%を超えて上がった。前日の米国市場で、イーロン・マスク氏が率いるスペースXが好決算を発表し、AI関連の株に買いが戻ったからだ。日本経済新聞は、窓を開けて3度続けて下げたら売られすぎの合図とみる相場の格言、「三空叩き込みに買い向かえ」の形が出ていたと伝えた。ただ、終値では1.5%高にとどまった。
反発は1日しかもたなかった。米国では21日の取引終了後にテスラとメタが決算を発表し、テスラは今年の設備投資の見通しを引き下げた。翌22日のアジアの時間帯には中東の緊張が再び高まり、北海ブレント原油が1バレル110ドル(約1万7000円)を超えた。米国株の先物は下げ、東京では半導体とAIの関連株に売りが集中した。日経平均の下げのうち1000円あまりは、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクグループの3銘柄だけで生じた。
ブルームバーグは22日、ソフトバンクグループ株が10月だけで3割以上下げ、9月の上昇分をすべて失ったと報じた。運用会社ナゴミ・キャピタルの運用責任者は、AI関連企業の財務の健全性に投資家の目が厳しくなるなか、借金に頼る財務構造と上がり続ける借り入れコストを抱えるソフトバンクグループの脆さが際立つと語った。AIの成長物語への見方が冷え込めば、ビジョン・ファンドの評価損につながり、それが将来の資金調達の上乗せ金利をさらに押し上げる、という連鎖を警戒している。
なぜソフトバンクGが最も大きく揺れるのか

ソフトバンクグループは、OpenAIに累計646億ドル(約10兆2000億円)を投じ、株式の約13%を持つ。6月末時点の帳簿上の価値は、14兆5000億円あまりにのぼる。OpenAIの値段が揺れれば、真っ先に同社の資産の価値が揺れる。
揺れは、資産の評価だけにとどまらない。同社は8月、OpenAI株の価値を参照する100億ドル(約1兆6000億円)の借り入れ契約を、米ゴールドマン・サックスやみずほ証券の米国法人、三井住友銀行などと結んだ。OpenAIの優先株の公正価値が大きく下がるなどすれば、現金の担保を積み増したり、期限より前に返したりする条項が付いている。しかも、ソフトバンクグループ自身が返済を保証している。
もう一つの柱が、アーム株だ。同社は保有するアーム株の大半を担保に入れ、最大250億ドル(約3兆9000億円)を借りられるマージンローンを組んでいる。質屋に腕時計を預けてお金を借りるのと同じで、預けた品の値打ちが下がれば、借りられる額は減る。そのアーム株が、1か月で3分の1近く値下がりした。
それでも孫正義会長兼社長は、アクセルを緩めていない。9月には、ドル建てとユーロ建てで合わせて111億ドル(約1兆7500億円)の社債を発行した。格付けが投資適格に届かない、いわゆるジャンク債として過去最大の規模で、利率は最も高いもので年9.75%だった。国内では、「福岡ソフトバンクホークスボンド」という愛称の個人向け社債を1兆円発行した。期間は7年、利率は年4.75%。米国の警備最大手アライド・ユニバーサルの買収も、株式の価値で約180億ドル(約2兆8000億円)、借金を含めると300億ドル(約4兆7000億円)近い規模になりうると、ブルームバーグは伝えている。そしていま、OpenAIの新たな資金調達にも加わろうとしている。
日本の金融機関も、この連鎖の一部だ。アーム株を担保にしたローンには40を超える金融機関が名を連ね、OpenAI株にひもづいた借り入れには、みずほと三井住友の名前がある。日経平均株価の値動きにも、同社株は大きな影響を持つ。
米S&Pグローバル・レーティングのアナリストは8月、ロイターに「アームの信用力はしっかりしているが、OpenAIは非常に弱い」と語っていた。ソフトバンクグループという建物を支える2本の柱のうち、弱いと言われたほうの柱が、いま試されている。

デイワンとは何者か

シンガポールから全長1キロほどの橋を渡ると、そこはもうマレーシアのジョホール州だ。この数年、橋の向こう側の郊外に、窓のない巨大な箱のような建物が次々に建った。データセンターである。
きっかけは、シンガポール政府が2019年から2022年まで、データセンターの新設を止めたことだった。国土が狭く、電力にも限りがあるからだ。行き場を失った需要は橋を渡ってジョホールへ、さらに南の海を越えてインドネシアのバタム島へと流れた。シンガポール、ジョホール、リアウ諸島の頭文字を取って「SIJORI(シジョリ)」と呼ばれるこの一帯を、世界有数のデータセンターの集積地に育てた立役者が、デイワンだ。調査会社ストラクチャー・リサーチの推計では、この地域で33%のシェアを持つ。
デイワンは、中国のデータセンター大手GDSホールディングスの海外事業として2022年に生まれ、2024年末にGDSの連結から外れて独立した。いまもGDSが約19%を持ち、米投資会社コーチューとアジアの投資会社ヒルハウスが、それぞれ約2割を持つ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドや、米ヘッジファンド大手シタデルを率いるケン・グリフィン氏も出資者に名を連ねる。上場前の資金調達では、シリーズCと呼ばれる回だけで45億ドル(約7100億円)あまりを集めた。
規模は急拡大している。9月20日時点で、稼働中の設備は962メガワット。原子力発電所およそ1基分の電気を使う規模だ。さらに1.3ギガワット分を建設中で、日本でも2024年に東京、2026年に九州へ進出した。1〜6月の売上高は5億1200万ドル(約810億円)と前の年の3倍以上に増えたが、7720万ドル(約120億円)の最終赤字だった。
ただし、顧客は偏っている。上場の届出書によると、売上の約7割を、短い動画のアプリで世界的に知られるIT企業1社が占める。上位2社で8割を超える。
デイワンは10月5日、米ナスダック市場への上場を申請した。主幹事はモルガン・スタンレー、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ。関係者によると、最大50億ドル(約7900億円)を調達し、企業価値は200億ドル(約3兆1500億円)を目指していた。

デイワン「規模縮小」報道の中身

ブルームバーグが21日に関係者の話として報じたところによると、デイワンは上場の延期か、規模の縮小を検討している。縮小する場合の調達額は25億〜30億ドル(約3900億〜4700億円)で、当初の目標の半分ほどになる。一方で投資家との対話は続けており、市場が許せばできるだけ早く進めたい考えで、数週間のうちに予定どおり踏み切る可能性も残っている。国際金融情報誌IFRは19日、デイワンが売り出しの前に、投資家の意見をさらに集めていると伝えていた。
ブルームバーグ・インテリジェンスのスティーブン・イン氏は、デイワンは調達額を25億〜30億ドルに絞るべきだと提言した。そのうえで、デイワンのキャッシュフローは「非常に予測しやすい」と評価し、成長と規模の面で同業より「はるかに優れている」とみる。
事業が伸びていても、望んだ値段がつかない。それが、いまのデータセンター市場の空気だ。
オーストラリアのファーマスは、エヌビディアが出資する注目株だったが、投資家が評価額に難色を示し、50億ドル(約7900億円)規模の上場を直前で取りやめた。データセンター大手エアトランクは、シンガポールでの不動産投資信託の上場を2027年に延ばした。韓国のデータセンター会社エリスは、20日の上場初日に株価が32%下げた。英国のエヌスケールは約300億ドル(約4兆7000億円)の評価額で上場を目指しているが、一部の投資家は160億〜190億ドル(約2兆5000億〜3兆円)が妥当だと主張していると、ブルームバーグは伝えた。出資者で顧客でもあるマイクロソフトは、電力の制約で遅れていた英国のデータセンター案件から手を引いた。
21日には、オーストラリアのデータセンター大手ネクストDCの株価が、1日で4割近く下落した。メルボルンの拠点で、地域住民の反対を受けて送電設備の工事が止まり、電力の供給が2027年2月まで遅れる見通しになったためだ。会社は今期の売上高の見通しを2割以上引き下げた。ソフトバンクグループ傘下の米SBエナジーも、9月に修正した届出書を出したあと、上場の価格帯を示す書類を出せないままだ。
デイワンの最大の顧客はOpenAIではない。それでも上場の計画は縮もうとしている。OpenAIをめぐる不安から始まった波紋は、「OpenAIに頼る会社」を越えて、「借金と株式市場でデータセンターを建てる」という仕組みそのものに届いた。投資家の一部は、11月3日の米中間選挙を過ぎれば相場が落ち着くことに期待し、アンソロピックの上場を、AI全体への需要を測る物差しとして見守っている。

それでも計算機は足りていない

ここに、ひとつのねじれがある。AIの計算機を求める声は、弱まるどころか強まっているのだ。
米ベンチャーキャピタル、セオリー・ベンチャーズのトマシュ・トゥングズ氏は21日のブログで、GPUを1時間借りる料金が、この半年で4ドル40セント(約690円)から8ドル8セント(約1270円)へと、倍近くに上がったと指摘した。スペースXの最高財務責任者は20日の決算説明会で、「いまの料金なら、新しく設置した計算機は1年かからずに投資を回収できている」と語った。トゥングズ氏が引くJPモルガンの分析では、2027年に稼働する予定のデータセンターの6割超が、まだ着工すらしていない。
アンソロピックは、計算資源を誰よりも貪欲に求めている。WSJが報じた目論見書の草案によると、同社は今後10年ほどで約4500億ドル(約71兆円)分のクラウドの利用を約束しており、交渉中のものを含めると、今後数年で計算資源に7500億ドル(約118兆円)を投じる可能性がある。大手のクラウド会社が供給してもよいと考える以上の計算資源を求めたため、外部のデータセンター開発会社とも組んでいると、草案は記しているという。
需要が消えたのではない。変わったのは、誰が核テナントになるのかと、お金の値段だ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月、2023年以来となる利上げに踏み切った。イランをめぐる戦争で原油は1バレル100ドル(約1万6000円)を超える水準にあり、米10年物国債の利回りは5%台で推移している。住宅ローンの金利が上がれば同じ家でも買える人が減るように、借金で建てるデータセンターも、金利が上がれば採算の合う計画が減っていく。
売上の伸びにも、陰りを読む向きがある。米ウェルズ・ファーゴのオソン・クォン氏らは、OpenAIとアンソロピックを合わせた売上の伸びが鈍り始めたと分析し、「支出の頭打ちは、最先端の研究所にとって懸念材料だ」と書いた。大手IT企業の設備投資の見通しが1割を超えて上方修正されなければ、データセンター関連株にとってリスクになるとも指摘している。ブロードコムのホック・タンCEOは、最先端のAI研究所について「訓練に多額を使っているので、いまはまだ赤字だ」と語った。

シリコンバレーの投資家が使う3つの物差し

シリコンバレーの投資家は、同じAIの相場を、違う物差しで測っている。
1つ目の物差しは、「規模」だ。OpenAIに出資するアルティメーター・キャピタルのブラッド・ガースナー氏は21日、CNBCの番組で、超知能をめぐる競争について「最も大きな規模を持つ者が勝つ」と語った。AI企業の上場についても、「私はこうした会社すべてに上場を勧めてきた」と述べた。規模の競争を続けるには、公開市場の大きなお金が要る。OpenAIが300億ドルを急いで集めようとしているのも、この論理の延長線上にある。
2つ目の物差しは、「値段」だ。OpenAIの大口株主スライブ・キャピタルを率いるジョシュア・クシュナー氏は、8月に出資者へ送った書簡で、「優れた会社が、どんな値段でも良い投資になるわけではない」と書いた。セコイア・キャピタルのデビッド・カーン氏は、今年1年のAIインフラ投資を正当化するには、累計で約3兆ドル(約470兆円)の売上が必要になると試算している。会社が優れていることと、いまの値段で買ってよいことは別だ、という立場である。
3つ目の物差しは、「何として値付けするか」だ。トゥングズ氏は18日のブログで、アンソロピックはAI企業ではなく、アマゾンやグーグルと同じ「クラウド」として評価すべきだと論じた。売上の規模はすでにグーグルのクラウド事業の半分近くに達し、伸びはどこよりも速い。その一方で、データセンターの利用の約束は年換算の売上の8倍近くにのぼり、大手クラウドの1〜2倍と比べて突出している。トゥングズ氏の試算では、1兆5000億〜2兆ドル(約236兆〜315兆円)という評価額は、グーグルのクラウド事業を単独で評価した場合とほぼ同じ水準になる。
懐疑的な声もある。ソーシャル・キャピタルを率いるチャマス・パリハピティヤ氏は15日、Xに「AI企業の売上の7〜8割は、ベンチャーキャピタルから資金を得た別のAI企業から来ているのではないか。これは循環取引の問題ではなく、売上の質の問題だ」と書いた。
3つの物差しのどれで測っても、いまのOpenAIには向かい風が吹く。規模の競争では、アンソロピックと大手クラウドに挟まれている。値段の面では、1兆4000億ドルという希望が、アンソロピックの上場で試される。クラウドとして見れば、OpenAIは自前の設備を減らして借りる側に回り、グーグルやアマゾンの売り場を通じて売り始めたばかりだ。
各紙・各サイトはどう報じたか

この1週間の流れを最も厚く伝えたのは、ブルームバーグだった。ソフトバンクグループの信用リスクが約4年ぶりの高水準に達したこと、時価総額がピークの半分になったことに加え、デイワンの上場計画の見直し、エヌスケールへの評価額の引き下げ圧力、ネクストDCの急落を相次いで報じた。日本語版では、「AI投資ブームの変調匂わすネオクラウドの失速」という見出しも打った。
ロイターは19日、OpenAIがアンソロピックの上場前に300億ドルを集めようとしているという特ダネを出した。WSJはアンソロピックの目論見書の草案を入手し、1〜6月の最終赤字が807億ドル(約12兆7000億円)にのぼったと報じた。そのうち720億ドル(約11兆3000億円)は、転換社債などの評価の変動による、現金の出入りを伴わない会計上の損失だ。CNBCは、オラクルの社債が投資適格の下限ぎりぎりにあるとして、「信用不安がAI相場の強気を巻き戻しかねない」と伝えた。英誌エコノミストは18日、「AI業界の巨額の借金が投資家を不安にさせている」と題する記事を載せた。この秋の流れをつくったのは、OpenAIの5年間の現金流出の見通しや、売上の物差しを報じたFTの一連のスクープだった。
日本では、日本経済新聞が21日、ソフトバンクグループ株の反発を「三空叩き込み」という相場の格言とともに伝え、同じ日の市況記事では、同社株をAI関連株の反発力を占う銘柄として取り上げた。株探は20日、同社株が7月の安値に近づき下値を探る展開だと報じ、フィスコは、米国で半導体株が上げても日本のAI関連株はさえないと分析した。
今後——11月に来る答え合わせ

市場の見方を左右する材料は、10月末から11月に集中している。
最初の山は、アンソロピックの目論見書の公開だ。米国の制度では、投資家への売り込みを始める15日前までに、目論見書を公開しなければならない。11月中旬の上場から逆算すれば、公開は目前に迫っている。売上や利益の詳しい数字が正式に開示されれば、投資家はOpenAIと並べて比べ始める。OpenAIの300億ドルの資金集めが、その前にまとまるかどうかが最初の焦点になる。
10月27日から28日には、FRBが金融政策を決める会合を開く。追加の利上げに動けば、借金で建てるAIの計算機の値段はさらに上がる。28日にはマイクロソフトが決算を発表し、大手IT企業の決算が続く。設備投資の見通しがどこまで引き上げられるかが、データセンター関連株の行方を決める。
11月3日は米国の中間選挙だ。4日には、ソフトバンクグループが担保に入れているアームが決算を発表する。日本時間では5日の朝になる。
11月10日には、ソフトバンクグループが7〜9月期の決算を発表する。OpenAIの株式の価値をどう見積もったのか。アーム株の下落でLTVはどこまで上がったのか。アライド・ユニバーサルの買収と、OpenAIへの追加出資の資金をどう用意するのか。孫氏の説明が、CDSの行方を左右する。
そして11月中旬、アンソロピックが上場する見通しだ。最先端のAI研究所に、初めて株式市場が値段をつける。その値段は、OpenAIの評価、ひいてはソフトバンクグループが持つ資産の価値を測る物差しになる。デイワンが上場に踏み切るのか、規模を縮めるのか、延期するのかも、数週間のうちに決まる。11月には、コアウィーブとエヌビディアの決算も控えている。
日々の値動きで追える物差しもある。ソフトバンクグループとオラクルのCDS、コアウィーブの社債の利回り、そしてハイパーリキッドの先物に映るOpenAIの値段だ。これらが落ち着けば、市場が「借金で建てるAI」を再び受け入れ始めた合図になる。
その先には、もっと大きな山がある。FTの報道どおりなら、OpenAIが3月に集めた資金は、いまのペースでは2028年に底をつく。アーム株を担保にしたローンの期限は2027年9月、OpenAI株にひもづいた100億ドルの借り入れは2028年8月に返済の期限を迎える。2027年以降とされるOpenAIの上場が実現するかどうかは、ソフトバンクグループにとって、借金の借り換えの成否と表裏一体だ。
ショッピングモールに、客は来ている。AIを使いたい人と企業は増え続け、計算機は足りず、GPUの借り賃は上がっている。変わったのは、核テナントの顔ぶれと、建設資金の金利だ。この1年あまり、OpenAIの署名ひとつでモールが建った。いまは看板の大きさより、賃料を最後まで払い切れるかどうかが問われている。
OpenAIスーパーサイクルが終わったのだとすれば、それはAIの終わりではない。一つの会社の署名に、業界全体の借金をぶら下げる時代の終わりだ。その仕組みに最も深く賭けたソフトバンクグループの株価は、6月の半値で、11月の答え合わせを待っている。
