大阪湾の南に、原発1基の半分の電気を飲み込む建物

大阪湾の南側の海沿いに、大型の原子力発電所1基の半分にあたる電気を、昼も夜も休まず飲み込み続ける巨大な建物が建とうとしている。中にずらりと並ぶのは、米国のAI企業アンソロピック(Anthropic)の対話AI「Claude(クロード)」を動かすためのサーバーだ。建てて運営するのはNTTグループのNTTデータグループで、建設費は最大で1兆円にのぼる。
NTTデータグループとアンソロピックは、大阪府南部の湾岸地域にデータセンターを新設する方向で、最終協議に入っている。施設が受け入れられる電気の上限を示す「受電容量」は最大500メガワットで、国内最大級になる。両社は2026年度末、つまり2027年3月までの契約締結をめざし、早ければ2028年に一部が動き出す。実現すれば、アンソロピックが日本に持つ初めての専用データセンターになる。日本経済新聞が13日、複数の関係者の話として報じた。NTTはロイターの取材に対し、コメントを控えている。
500メガワットもの電気を送電網から引き込むには、長い時間がかかる。そのため当初は、敷地の中で発電する設備や燃料電池などで電気をまかなう案が検討されている。1兆円は建物と設備の費用で、AIの計算に使う高性能なGPUを積んだサーバーを大量に運び込めば、総投資は数兆円規模に膨らむ可能性がある、と日経は伝えた。
通信会社のNTTが、なぜ米国のAI企業のために1兆円の建物を建てるのか。アンソロピックは、なぜ日本に自前の拠点を求めるのか。そして、NTTが7年をかけて育ててきた光の通信基盤「IOWN(アイオン)」は、この巨大なAI施設とつながるのか。
スマホの質問は、どこで答えになるのか

スマートフォンでClaudeに「この契約書で気をつける点を三つ挙げて」と打ち込むと、数秒で答えが返ってくる。だが、その文章を組み立てているのは手元のスマホではない。質問は光ファイバーを通って遠くの建物に届き、そこに並ぶAI用の半導体が一斉に計算して、答えを送り返している。この建物がデータセンターだ。
AIの仕事は、大きく二つに分かれる。膨大な文章を読ませてAIを賢くする「学習」と、賢くなったAIが利用者の質問に答える「推論」だ。どちらも、GPUのような計算専用の半導体を何千、何万と並べて、一斉に動かす。
AIのデータセンターは、巨大な厨房に似ている。注文が入るたびに、無数のコンロが同時に火を噴き、料理を仕上げる。コンロにあたる半導体は大量の電気を食い、猛烈な熱を出す。だから建物には、太い電線で電気を引き込む受電設備と、熱を逃がす冷却設備が欠かせない。最近は風を当てて冷やすだけでは追いつかず、液体を流して直接冷やす「液冷」が広がっている。
その規模を測る物差しが、受電容量だ。1ギガワット、つまり1,000メガワットが、大型の原子力発電所1基分にあたる。大阪の計画は、その半分を一つの敷地で使う。
日本全体と比べると、大きさがよく分かる。日経が引く米調査会社ABIリサーチの推計では、日本のAI向けデータセンターの受電容量は、2026年時点で合わせて1ギガワットほどだ。大阪の一か所だけで、いまの日本全体の半分に相当する。同じ推計で、米国は8.2ギガワット、中国は3.1ギガワットにのぼる。
NTT自身の規模と比べても突出している。NTTグループは全国160か所以上にデータセンターを持つ国内最大手だが、サーバーそのものに届ける電気の量で数えたその合計は、約300メガワットだ。冷却などに使う電気も含む受電容量とは数え方が違うものの、一か所で最大500メガワットという計画が、国内の常識を外れた大きさであることは伝わる。
もう一つ大事なのが、役割分担だ。データセンター事業者は、土地を押さえ、電気と冷却と通信回線を備えた建物を建てて、24時間運用する。借り手のAI企業やクラウド企業は、そこに自分の計算機を持ち込む。いわば「AI専用の貸しビル」の大家と店子の関係だ。ブルームバーグによれば、NTTデータの国内データセンター事業の売上は、8割超を世界的なクラウド企業が占めている。今回の借り手は、クラウド企業ではなく、AIモデルをつくる会社そのものだ。ここに、この案件の新しさがある。

最大1兆円の中身:1メガワット20億円という相場

1兆円を500メガワットで割ると、1メガワットあたり20億円になる。この数字には、物差しがある。ブルームバーグは8月、NTTデータグループが国内のデータセンターに2033年までに少なくとも1兆5,000億円を投じる見通しだと報じた。その試算の前提が、日本で1メガワット分の設備を整える費用は20億〜25億円、ただしAI用の半導体は含まない、という相場だった。大阪の1兆円は、この相場の下限にぴたりと収まる。報道された金額は、業界の積算に沿った見積もりだと読める。
同じ報道の中で、NTTデータの幹部は、AIの推論のために100メガワット前後を確保したいという企業から引き合いが来ていると明かしていた。容量は完成するそばから埋まっていく、とも語っている。大阪の計画は、その大口の引き合いを、さらに大きく上回る。
大家としてのNTTの稼ぎ方は、長期の賃料だ。その姿は、数字が開示されている海外事業の方が見えやすい。NTTの海外データセンター事業の売上高は2025年度に5,203億円で、6月末の受注残高は3兆3,203億円に積み上がっている。NTTは、この事業の稼ぐ力を示すEBITDA、つまり利息や税金、減価償却を差し引く前の利益を、2030年度に約4,000億円まで伸ばす計画だ。
注目したいのは、元手の回し方だ。2025年度のEBITDA約2,800億円のうち、約1,300億円は、完成した施設を売って得た利益だった。NTTは2025年7月、シンガポール取引所にデータセンターのリート、つまり不動産投資信託を上場させ、約7億7,300万ドル(約1,200億円)を集めている。建てて、借り手で埋め、価値が固まったところで投資家に売り、そのお金で次を建てる。NTTはデータセンター事業について、外部の資本を使って財務の健全さを保ちながら投資を続ける方針を掲げている。大阪の1兆円をどう賄うのかはまだ明らかになっておらず、この循環に乗せられるかどうかが、投資家にとっての焦点になる。
1兆円は、NTTの時価総額およそ15兆7,000億円の6%強にあたる。1社の借り手に向けた一つの建物としては、桁外れの大きさだ。
それでもNTTが踏み込める背景には、2025年の再編がある。NTTは、上場していたNTTデータの残りの株を約2兆3,700億円で買い取り、完全子会社にした。AIとデータセンターを成長の柱に据え、グループの資金と判断を一本化するためだ。親会社と上場子会社の利害を調整する手間がなくなり、1兆円規模の案件にも、グループ全体で動きやすくなった。

アンソロピックが「自前の拠点」を求める理由

借り手のアンソロピックは、米オープンAIの元幹部らが2021年に立ち上げたAI企業で、いま世界で最も速く伸びているAI企業の一つだ。ロイターによれば、年換算の売上高は7月末に650億ドル(約10兆3,000億円)を超えた。2025年末の約90億ドル(約1兆4,000億円)から、7倍に増えた計算になる。5月には、米アルティメーター・キャピタルや米セコイア・キャピタルなどが主導する資金調達で、企業価値は9,650億ドル(約152兆円)と評価された。
その成長を縛っているのが、計算資源だ。ロイターが確認した上場申請の目論見書によると、アンソロピックは6社のパートナーと組み、10年間で少なくとも5,180億ドル(約82兆円)をAIインフラに投じる。名前が明かされた相手では、グーグルに2033年までに少なくとも1,111億ドル(約17兆6,000億円)、アマゾンに2036年までに1,100億ドル(約17兆4,000億円)を支払う。全体の約8割は、途中で解約できないか、使わなくても支払う契約だ。
目論見書は、もう一つの方向転換も記している。クラウド大手から計算機を借りるだけのやり方から、専用のデータセンターや、直接リースする半導体を使う形へ移りつつある、というのだ。背景も書かれている。グーグル、アマゾン、マイクロソフトの3社は、アンソロピックにとって出資者であり、顧客であり、クラウドの貸し手であり、販売の窓口であり、そして競合相手でもある。その利害は「完全には一致しない可能性がある」。一つの相手に頼り切らない計算の置き場所を持つことは、成長のためだけでなく、交渉力のためでもある。
その動きは、すでにアジア太平洋で形になり始めた。9月、アンソロピックはオーストラリア東部クイーンズランド州の大型データセンター計画で、同国で初めての賃貸契約を結んだ。ロイターなどによれば、IT容量1.44ギガワットの敷地を、マッコーリー・キャピタルなどの企業連合から借りる。主な用途は推論で、豪州の外国投資審査委員会の承認が条件になっている。クラウド大手を通さず、データセンターの開発事業者から直接借りるという形は、大阪の計画とよく似ている。
拠点づくりも進む。アンソロピックは2025年10月、アジア太平洋で最初の事務所を東京に開き、ダリオ・アモデイCEOが来日して高市首相と面会した。このとき同社は、アジア太平洋の年換算の売上が1年で10倍を超えて伸びたと説明している。その後、ソウル、インドのベンガルール、シドニーにも拠点を構え、14日にはシンガポールに5か所目を開く。日本では楽天やパナソニック、野村総合研究所などがClaudeを使い、2026年に入るとNEC、富士通、日立といった大手IT企業が相次いで手を組んだ。富士通は、グループの社員10万人にClaudeを使わせる。

日本の利用者にとって何が変わるのか

日本の企業や官庁がAIを使うとき、必ず問われるのが「データはどこで処理されるのか」だ。銀行や病院、役所では、顧客の情報を国の外に出したくないという要請が強い。日経は、今回の施設が、データを国内で保管・処理する「ソブリンAI」の基盤にもなり得ると伝えている。
アンソロピックのAIは、今もアマゾンのクラウドなどを通じて日本から使える。アマゾン ウェブ サービスは2025年10月、Claudeの一部のモデルについて、東京と大阪の拠点の間だけで処理を完結させる仕組みを用意した。インドでは今月、主力のモデルを含めて、国内で処理を完結させる提供が始まっている。
ただし、日本に巨大な施設ができることと、日本の利用者のデータが日本の中で処理・保存されることは、別の話だ。テクノロジー解説サイトのXenoSpectrum(ゼノスペクトラム)は、アンソロピックのプライバシーの説明では処理が米国、欧州、アジアなどで行われ得ると指摘し、判断にはサービスとデータの取り扱い条件の公開が必要だと書いた。大阪の施設を学習と推論のどちらに使うのか、日本向けの国内処理に充てるのかは、まだ示されていない。
借り手と大家の距離感も興味深い。NTTデータは、アンソロピックの競合である米オープンAIとも近い。7月にはオープンAIが、NTTデータグループでシステム障害の解析にかかる時間を3日から30分に縮めた事例を紹介している。どのAI陣営とも取引しながら、計算の置き場所を貸す。データセンター事業者にとって、この中立性は強みになる。
IOWNとは何か:光の専用道路と、光で動くスイッチ

IOWNは、NTTが2019年に打ち出した、次世代の通信と計算の基盤の構想だ。狙いを一言でいえば、「電気でやっていることを、できるだけ光に置き換える」ことにある。
いまのインターネットの通信は、手紙のリレーに似ている。光ファイバーの中を光で運ばれてきたデータは、途中の中継所に着くたびに電気の信号に戻され、宛先を読み取られ、また光に変えて送り出される。そのたびに、少しずつ時間と電気を使う。IOWNの柱の一つ「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」は、出発点から到着点までを光のまま走る専用道路をつくる。途中の信号待ちがないので、遅れが小さく、ばらつきも少ない。NTTは2023年3月にこのサービスを始め、遅延を従来の200分の1にできると説明している。
もう一つの柱が「光電融合」だ。サーバーやスイッチの中では、半導体どうしが銅の配線で電気の信号をやり取りしている。データの量が増えるほど配線は熱を持ち、電気を食う。そこで配線を光に置き換え、光の部品と電子の部品を一体にする。NTTは、光を計算機の奥へ少しずつ入れていく工程表を示している。データセンターどうしをつなぐ段階から始め、2025年には基板どうし、2028年以降は半導体のパッケージどうし、2032年以降はチップの中まで、光でつなぐ。最終的には電力効率を100倍にするという目標だ。基板どうしをつなぐ部品を使った「光電融合スイッチ」は、米ブロードコムや台湾のアクトン・テクノロジーなどと組んで、2026年度中に商用提供を始める予定になっている。
そして2026年4月、NTTはこの構想に、AIを前面に出した新しい看板を掲げた。「AIOWN(エーアイオン)」だ。GPUなどの計算資源、通信、電力をまとめて最適化し、AIのための基盤として提供する。国内のデータセンターの容量を2033年度に3倍超の約1ギガワットへ広げ、全国47都道府県の県庁所在地を毎秒800ギガビットのAPNで結ぶ基盤を2027年度までにつくる、という計画も示した。島田明社長は、2030年のAIの推論の仕事量は、2025年の4倍以上に増えると見込む。名前を変えた理由について、NTTの説明は率直だった。IOWNにはもともとAIの要素が含まれていたが、顧客に伝わりやすいよう「AI」を足した、というのだ。

IOWNとAIは繋がるか

光の道路は、AIの計算にどこまで役立つのか。手がかりになる実験がある。
2025年11月から2026年2月にかけて、GMOインターネットとNTT東日本、NTT西日本、九州の通信会社QTnet(キューティーネット)は、東京と福岡のデータセンターをAPNで結ぶ実験を行った。AIを学習させる計算機と、学習に使うデータを置く倉庫を、東京と福岡に分けて置く。新幹線でおよそ5時間の距離だ。それでも、米メタが公開した700億パラメーターの言語モデルの学習では、同じ建物の中で動かした場合との差が0.5%ほどにとどまった。データの読み込みが多い画像認識の学習では差がやや大きく出たものの、実用に耐える水準だったという。
NTTドコモビジネスは7月、札幌、金沢、大阪、福岡と首都圏の計8か所に分散させたGPUをAPNで結んだ実験環境を、企業に開放した。離れた場所の計算機を、一つの大きな計算機のように束ねて使えるかを、利用者自身に試してもらう場だ。
IOWNの名付け親で、NTTのチーフエグゼクティブフェロー、IOWNグローバルフォーラム会長の川添雄彦氏は、9月の時事通信のインタビューでこう語っている。「地方で生まれたエネルギーを使って、地方に作ったデータセンターでAIの計算をし、その情報をお客さまに届けることが最も効率的ではないか」。遅れの小さい光の道路があれば、データセンターは利用者のそばになくていい。電気のある場所に建てればいい、という発想だ。
この発想は、国の政策にもなりつつある。総務省は電力と通信の整備を一体で考える「ワット・ビット連携」を掲げ、今年度、APNで地方の分散データセンターを結ぶ実証を各地で始めた。九州では九州電力やインターネットイニシアティブ(IIJ)などが、佐賀と福岡の3か所のデータセンターをAPNなどでつなぎ、仮想的な一つの大きなデータセンターとして動かす。栃木では、NECが地元のケーブルテレビ会社と組み、各社の拠点に置いたGPUをAPNで共有する。APNという考え方は、NTTの手を離れて広がり始めている。裏を返せば、光の道路づくりでも、NTTは競争相手を迎えることになる。
では、大阪のアンソロピック向け施設は、IOWNの舞台になるのか。いまのところ、その答えは見えていない。日経アジアが英語で配信した記事を含め、伝わった計画の中身は、場所、規模、費用、時期、電源までで、IOWNの文字は出てこない。この案件の核にあるのは、土地を押さえ、電気を確保し、巨大な建物を期日どおりに建てて動かすという、データセンター事業そのものの実力だ。
建物の中の計算機も、いまのIOWNとは別の世界にある。アンソロピックのAIは、主にグーグルのTPU、アマゾンのTrainium(トレイニアム)、エヌビディアのGPUという3種類の半導体で学習・運用されている。NTTの光電融合の部品が、これらの計算機に入るという話は出ていない。
それでも、接点は三つ考えられる。
一つ目は、建物の外の道路だ。大阪の施設と東京の利用者、あるいはNTTのほかのデータセンターとを、遅れの小さいAPNで結べば、離れた場所の計算機を一体で使える。NTTデータが大阪府茨木市に建てている「大阪北データセンター」は、APNを引き込み、グループや顧客のデータセンターとつなぐ計画をすでに掲げている。
二つ目は、時間軸の重なりだ。大阪の施設が一部稼働をめざす2028年は、NTTの工程表で、半導体のパッケージどうしを光でつなぐ段階が始まる年にあたる。しかも、NTTが光電融合スイッチを共に手がける米ブロードコムは、グーグルのTPUづくりを支える会社でもある。アンソロピックの目論見書には、ブロードコム関連の機器のリース債務が約1,612億ドル(約25兆5,000億円)あると記されていた。NTTとアンソロピックは、ブロードコムという共通の取引相手を持っている。
三つ目は、主権の議論だ。川添氏は同じインタビューで、光は波長ごとに閉じた空間をつくれるとしたうえで、こうも述べている。「データセンターは大部分がハイパースケーラー向けだが、AI主権を確保するためにも分けていく必要がある」。米国のAI企業の施設を国内に呼び込めば、日本の利用者のデータを国内で扱う道は開けるが、AIそのものは米国企業が握る。IOWNが、その間をつなぐ「閉じた光の道」を提供できるかどうかが問われる。
課題は、IOWNの稼ぐ力が見えないことだ。IOWNの売上を、NTTは開示していない。島田社長は5月の会見で、IOWNによる増収効果について「お答えするのが難しい」と述べた。米IEEE通信学会の技術ブログは5月、光だけでつなぐネットワークは1990年代末から約束されながら日の目を見なかったと書き、IOWNの前進を「ついに」と表現した。
結論を言えば、IOWNとAIは、つながりつつある。ただ、今回の1兆円の主役は、まだ光ではなく、電気と土地と建物だ。光がこの施設の内側まで入り込めるかどうかは、2028年以降の工程表にかかっている。
大阪湾岸という場所:工場の跡地からデータセンターの集積地へ

なぜ大阪の湾岸なのか。日経によれば、大阪湾岸ではかつての製造業の勢いが落ち、広い工場の跡地でデータセンターの整備や計画が相次いでいる。関西は首都圏に比べて電力に余裕があり、海沿いに大きな敷地を確保しやすい。
代表例が、シャープの堺工場の跡地だ。ソフトバンクが買い取り、受電容量を将来250メガワット超まで広げるAIデータセンターへの転換を進めている。関西電力は米データセンター大手サイラスワンと折半出資の会社をつくり、10年ほどで1兆円以上を投じて、合計900メガワットの受電容量をめざす。その2号案件は、大阪府箕面市で2029年ごろの完成を見込む。大阪府は、東京が災害で動けなくなったときに首都の機能を代わりに担う「副首都」の指定も視野に、データセンターの誘致に力を入れている。
首都圏の事情も、関西への流れを後押しする。データセンターが集まる千葉県印西市の周辺では送電網の容量不足が慢性化しており、NTTデータの幹部はブルームバーグに、承認を得るまで8年から10年かかる場合があると語っていた。
国内全体では、建設ラッシュが始まっている。日経の調査では、国内のAI向けデータセンターは2030年代半ばまでに2025年末の4倍超に増え、8年で10兆円規模の投資が見込まれる。海外勢も動いており、オーストラリアのデータセンター大手エアトランクは、今後5年で最大300億ドル(約4兆8,000億円)を日本に投じると10月に明らかにした。秋田では、最大500メガワット、総額2兆円規模の計画も報じられている。大阪の計画は、こうした競争の中で、国内最大級の一つとして名乗りを上げた形だ。

最大の壁は電気:燃料電池でつなぐ最初の数年

この計画の最大の難所は、電気だ。500メガワットを送電網から受け取るには、変電所や送電線の工事が要る。それを待っていては、2028年に間に合わない。
そこで検討されているのが、燃料電池などによる敷地の中での発電だ。燃料電池は、都市ガスなどから取り出した水素を空気中の酸素と反応させ、燃やさずに電気をつくる装置で、家庭用のエネファームを巨大にしたものと考えればいい。送電網の工事を待たずに、建物の隣で発電を始められる。
米国では、AIの電力不足が燃料電池を一気に表舞台に押し上げた。燃料電池の米ブルーム・エナジーは4月、米オラクルのAIデータセンター向けに最大2.8ギガワットの燃料電池を納める契約を結び、株価は年初から3倍超に上がった。
NTT自身も、発電の持ち駒を持っている。2023年に再生可能エネルギーの発電大手グリーンパワーインベストメントを子会社にし、2030年度に年約80億キロワット時の再生可能エネルギーを確保する目標を掲げる。ただ、仮に500メガワットを1年間使い切ると、約44億キロワット時になる。NTTグループが2030年度にめざす再生可能エネルギーの半分を超える量を、この一か所が飲み込む計算だ。AIの施設が、いかに電気を食うかが分かる。
電源をどう組み合わせ、いつ送電網につなぐのか。燃料のガスをどう確保するのか。契約の行方とともに、ここが計画の実現性を左右する。

各紙と投資家はどう見たか

市場はまず、株価で答えた。13日の東京市場で、NTT株は午前10時過ぎに171.9円まで下げていたが、日経の報道が流れた直後の午前11時1分に、その日の高値174.7円をつけた。終値は173.3円で、前の営業日より0.4円高い。日経平均株価が1,253円安と大きく崩れた日に、プラスで引けた。売買高は約2億3,000万株と、前の営業日の1.5倍に膨らんだ。投資情報会社のウエルスアドバイザーは「前場終盤に切り返した」と伝えている。
証券会社の評価も、すでに動いていた。報道の6日前の10月7日、野村證券はNTTの目標株価を引き上げ、株価上昇のきっかけとして海外データセンター事業の拡大を挙げた、と時事通信は伝えている。
慎重な見方もある。インフラ投資会社ディープストーン・パートナーズの最高経営責任者は、8月にブルームバーグの取材に答え、データセンターへの巨額の投資はNTTの株価の重しになり得ると述べ、資金力で勝る海外勢との競争で不利になりかねないとの見方を示した。一方で、「電力の制約は現実で、高い需要と少ない供給の差は続くだろう」とも語っている。
海外のメディアは、規模の大きさに焦点を当てた。ロイターは日経を引用して第一報を世界に配信し、アジアのデータセンター専門メディアW.Mediaは、建設費とは別にサーバーやGPUへの追加投資が必要になる点を強調した。韓国のアジア経済は見出しで「日本最大のデータセンター」とうたい、関西の電力の余裕や、データを国内で扱うソブリンAIの文脈に触れた。先に紹介したXenoSpectrumは、施設の大きさと、日本の利用者のデータが国内で処理されるかどうかは別の問題だと、冷静に指摘した。
投資の地図の上でも、この案件は意味を持つ。NTTは6月、光電融合や半導体、AIなど、次世代のAIインフラにかかわる新興企業に投資する約800億円規模の「IOWN AI Fund」を立ち上げた。運営は、シリコンバレーと東京に拠点を置くCatalight Capital(キャタライト・キャピタル)で、NTTのほか、韓国のSKグループ、台湾の中華電信、日本政策投資銀行、JA三井リースなどが資金を出す。最初の投資先は、AIデータセンター向けに光の回路を切り替えるスイッチを開発するスペインのiPronics(アイプロニクス)で、エヌビディアも加わった1億2,500万ドル(約200億円)の資金調達に参加した。光の技術でAIの計算を支えるという賭けは、データセンターの建設と並行して、投資の面でも進んでいる。
借り手側の投資家にとっても、小さな話ではない。アンソロピックの5月の資金調達を主導したのは、アルティメーター・キャピタル、ドラグーニア、グリーンオークス、セコイア・キャピタルといった米国の大手投資会社だ。ブルームバーグによれば、アンソロピックは11月9日の週に投資家への説明を始め、11月中旬以降の上場をめざす。上場時の企業価値は2兆ドル(約316兆円)規模とも報じられ、ロイターの論評欄ブレーキングビューズは、その評価を支える急成長が続くのかを問うた。巨額の計算資源の契約が、売上の伸びに見合うのか。日本の拠点は、その問いへの答えを示す材料の一つにもなる。
NTTの強みと今後:2026年度末の契約から2028年の稼働へ

NTTの強みは、三つある。
一つ目は、規模と実績だ。NTTは国内で160か所以上のデータセンターを持つ最大手で、世界でも米エクイニクス、米デジタル・リアルティに次ぐ3位につける。世界で約2ギガワットを運用し、2030年度までに約4ギガワットへ広げる計画だ。AIの半導体を液体で冷やす設備は世界で250メガワット以上の実績があり、国内では最先端半導体の量産をめざすラピダスも採用した。
二つ目は、通信だ。データセンターを建てる会社は多いが、全国の光ファイバー網と、APNという遅れの小さい光の道路を自前で持つ会社は限られる。福岡では海底ケーブルに直結するデータセンターを計画し、アジアとの玄関口にする。大阪の施設を、東京や福岡、そして海外とどうつなぐのか。ここは、NTTだからこそ描ける絵だ。
三つ目は、資金の回し方と中立性だ。完成した施設をリートや外部の投資家に売って資金を回収する仕組みを持ち、オープンAIとも、アンソロピックとも取引する。
一方で、リスクもはっきりしている。電力を予定どおり確保できるのか。1社の借り手に、1兆円の建物をどこまで頼るのか。エアトランクやソフトバンク、関西電力とサイラスワンの連合など、競争相手も一斉に動いている。そして、交渉はまだ最終段階にあり、両社とも公式には何も認めていない。
これからの日程も見えている。14日には、アンソロピックがシンガポールに事務所を開く。11月4日には、NTTが4〜9月期の決算を発表する。経営陣がデータセンターへの投資やアンソロピックとの協議について、どこまで語るかが最初の確認点になる。続いて11月中旬以降には、アンソロピックの上場が控える。正式な目論見書が公開されれば、計算資源の契約の全体像が、より詳しく見えてくる。
2027年3月までには、大阪の契約がまとまるかどうかの答えが出る。同じ2026年度のうちに、NTTは光電融合スイッチの商用提供を始める予定で、2027年度中には、APNが全国の県庁所在地に届く。そして早ければ2028年、大阪湾岸の施設で最初のサーバーが動き出す。それは、NTTの工程表で、光が半導体のパッケージにまで入り込む段階が始まる年でもある。
IOWNとAIは繋がるか。その答えは、大阪湾岸に灯る最初のサーバーの明かりと、そこから延びる光の道が、どこへ、どれだけ速くつながっていくかで見えてくる。
