銀の代わりに、銅の粉で半導体を貼る

住友金属鉱山(5713)、パワー半導体向けナノ銅粉の量産を開始。新ブランドCuALL(キュオール)として展開 - 銀の代わりに、銅の粉で半導体を貼る - 章扉

電気自動車のモーターのそばには、電池の電気をモーター用の電気に作り替える、弁当箱ほどの箱が付いている。その中で、爪の先ほどの半導体チップを土台に貼り付けている薄い層は、高性能な製品では銀を焼き固めてできている。この銀を銅に置き換えるための、髪の毛の太さの数百分の1という細かな銅の粉を、住友金属鉱山が東京都青梅市の青梅事業所で量産し始めた。

発表は2026年9月29日。同社は、このナノ銅粉を含む銅の機能性材料と、その技術をまとめた新しいブランド「CuALL(キュオール)」も立ち上げた。翌30日から10月2日まで幕張メッセで開かれた素材の展示会「サステナブル マテリアル展」で、初めて披露している。

銅は銀よりはるかに安い。ただし、すぐにさびる。しかも粉を細かくするほど、さびやすくなる。住友金属鉱山は、粒の表面を独自の膜で覆うことで、この弱点を抑え込んだ。会社は特長として、低い温度で焼き固まること、粒の大きさがそろっていること、酸化しにくいことの三つを挙げる。

背景には、銀の高騰がある。銀の国際価格は2026年1月29日、1オンス(約31グラム)あたり121ドル余り(約1万9,000円)と、史上最高値をつけた。チップを貼る「のり」に銀を使う限り、部品のコストは銀の相場に振り回される。銅で同じ仕事ができれば、その不安から抜け出せる。

パワー半導体は、熱との戦い

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パワー半導体は、電気の流れを高速で開け閉めして、電圧や電流の形を作り替える部品だ。電気自動車では、電池の直流をモーターを回す交流に変える。データセンターでは、送られてきた電気をサーバーが使える形に整える。エアコンや鉄道の車両の中でも働いている。

開け閉めのたびに、電気の一部は熱に変わる。大きな電流を扱うので、その熱は小さなチップに集中する。電気自動車で主役になりつつあるシリコンカーバイド、つまりSiCのチップは、従来のシリコンより高い電圧と温度に耐え、無駄も少ない。そのぶん熱い環境で使われ、175度前後まで耐えるように作られる。

チップは、熱を逃がすための銅の板やセラミックの基板に貼り付けて使う。この貼り付けを「ダイアタッチ」と呼び、使う材料を接合材という。接合材は、チップを固定する接着剤であり、熱を下へ逃がす通り道であり、電気の通り道でもある。ここで熱がこもれば、チップは壊れる。

長く定番だったのは、はんだだ。ところが、熱くなっては冷えるのを繰り返すうちに、はんだは少しずつ変形し、やがてひびが入る。SiCの高い温度では、この弱さが目立つ。そこで広がったのが、銀の粉を焼き固めて貼る「銀焼結」だ。英国の調査会社IDTechExは2024年の分析で、テスラやフォルクスワーゲン、中国のBYDがSiCのモジュールで銀焼結に切り替えたと指摘している。

溶かさずに固める「焼結」と、銀の値段

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焼結とは、粉を溶かさないまま、粒同士をくっつけて固める技術だ。降り積もった雪は、溶けてもいないのに、時間がたつと粒がつながって固く締まっていく。金属の粉でも、似たことが起きる。粒を細かくするほど、体積に比べて表面の割合が大きくなる。表面の原子は動きやすく、溶ける温度よりずっと低い温度で、隣の粒と結びついていく。

銀が溶けるのは約960度だが、細かな銀の粉なら200度台で焼き固められる。一度固まれば、ほぼ銀の塊になるので、900度を超えるまで溶けない。低い温度で貼れて、高い温度に耐える。はんだにはない性質だ。

弱点は値段である。銀は2025年、平均で1オンス40ドル余り(約6,300円)と、前の年より4割高くなった。2026年に入ると1月末までに121ドル余り(約1万9,000円)へ駆け上がり、その後は急落した。10月初めは60ドル前後(約9,600円)と、ピークのほぼ半分だ。それでも1年前より3割ほど高い。

1グラムに直すと、銀は今でも300円ほどする。銅の国際価格も上がってはいるが、1トン1万4,000ドルあまり(約227万円)で、1グラムなら2円あまりにすぎない。重さあたりで、100倍以上の開きがある。

銀を減らしたいのは、パワー半導体だけではない。銀の業界団体シルバー・インスティテュートが2026年4月に公表した調査では、銀の需要が供給を上回る状態は、2026年で6年連続になる見通しだ。太陽電池のメーカーは、銀の使用量を減らしたり、ほかの金属に置き換えたりする動きを加速させているという。

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銅の弱点は「さび」

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それなら初めから銅を使えばいい。そう簡単にいかないのは、銅がさびるからだ。十円玉が使ううちに茶色くくすむのは、表面の銅が空気中の酸素と結びつくためである。

粉を細かくすると、この問題は一気に深刻になる。粒の直径を0.2マイクロメートルまで小さくすると、わずか1グラムの粉の表面積が、計算上、畳2枚分ほどにもなる。その広い面が、まるごと空気にさらされる。表面にさびの膜ができると、粒同士がうまくつながらず、電気も熱も通りにくくなる。

このため銅の焼結では、酸素を追い出した窒素の中で作業するのが一般的だ。米国の材料メーカー、インジウム・コーポレーションは、銅の焼結材料には乾燥、貼り付け、焼き固めの各工程で窒素が必要で、工程も長くなりがちなため、そのぶんコストがかさむと説明している。IDTechExも2024年の時点で、銅の焼結材料は量産の規模がまだ小さく、価格が銀と同じか、かえって高い場合があると指摘していた。

材料の値段が100分の1でも、扱いにくさで差が消えてしまう。銅の焼結が長く「次世代の技術」のままだった理由は、ここにある。

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さびにくいナノ銅粉「CuALL-Powder」

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住友金属鉱山のナノ銅粉「CuALL-Powder(キュオール・パウダー)」は、粒の大きさが平均0.2マイクロメートル、つまり200ナノメートル前後が中心だ。液体の中で銅の粒を少しずつ育てる「湿式」の作り方で、大きさのそろった粒を作る。そのうえで、粒の表面を独自の有機物の膜で覆っている。

会社の説明では、この膜のおかげで、常温から160度未満の範囲なら酸化はごくゆるやかにしか進まず、空気の中でそのまま扱える。それでいて、200度以下で焼結が始まる。銅が溶けるのは1,085度だから、その5分の1にも満たない温度で、粒同士がつながり始めることになる。粒の大きさがそろっているので、焼き固めた面は緻密になりやすい。銅の成分は99%近くあり、不純物の少ない層ができるという。

製品の一覧には、平均の粒の大きさが0.2マイクロメートルと0.4マイクロメートルの品種が並ぶ。細かい粉を粗い粉と混ぜると、すき間が埋まって詰まり具合がよくなり、焼き固まる温度も下がる。このため会社は、ほかの銅粉に混ぜて焼結を助ける使い方も提案している。

ここまでの道のりは長かった。日刊工業新聞によると、同社が印刷で電子回路を作る用途に向けて銅粉の開発を始めたのは2020年ごろ。2024年の初めは、愛媛県新居浜市の研究所で少量を作る段階だった。2025年9月には、さらに細かい粒径100ナノメートルの品種を開発したと発表し、先行していた200ナノメートル級について、顧客の認定に向けたサンプル評価を急ぎ、2026年度の量産開始を検討するとしていた。今回、その計画を形にした。

量産の場となった青梅事業所は、1967年に半導体用のリードフレームを作る工場として始まり、いまはスマートフォンなどに使う機能性材料の主要な生産拠点だ。鉄鋼新聞によると、生産の規模は年間数トンからのスタートで、需要の伸びに応じて能力の拡大も視野に入れる。同じ会社の製錬所は、2026年度の上期だけで22万3,000トンの電気銅を作る計画だ。量で見れば、ナノ銅粉はほんのひとつまみにすぎない。

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ブランド「CuALL」と、印刷でつくる銅の配線

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CuALLのCuは、銅を表す元素記号だ。そこに、英語で「すべて」を意味するALLを重ねた。会社はブランドの目的を「銅を進化させ、輝く明日をみんなに。」と掲げ、技術の進歩を一部の人だけでなく、すべての人に届けたいという思いを込めたと説明する。特設ページでは、金や銀のような貴金属だけが持っていた働きを、より広く使われている銅で実現できないか、都市にあふれる銅を原料として再利用できないか、という問いも掲げている。

ブランドの柱は二つある。一つは、量産を始めたナノ銅粉。もう一つが、まだ開発段階のペースト「CuALL-Paste(キュオール・ペースト)」だ。

このペーストは、銅とニッケルを含む「金属錯体インク」に、ナノ銅粉を混ぜたものだ。金属錯体インクは、金属を粒ではなくイオンの形で溶かし込み、ほかの分子で包んで安定させたインクで、加熱すると銅が現れて配線になる。このとき銅のまわりにニッケルの薄い膜ができ、さびを防ぐ。もとになったインクは、物質・材料研究機構、NIMSの三成剛生グループリーダーらと、NIMS発のベンチャー企業プリウェイズが開発した。住友金属鉱山は粉とペーストの技術を持ち込み、2024年1月に共同開発を発表している。

使い方は、プリンターで紙に字を刷るのに近い。フィルムや基板の上の、回路が必要な部分にだけペーストを印刷し、200度前後で焼き固める。これまでの回路づくりは、銅の箔を全面に貼ってから、要らない部分を薬品で溶かして捨てていた。印刷なら、その無駄が出ない。ナノ銅粉を混ぜたことで、一度に刷れる膜の厚さは一般的な導電性インクの3倍以上になり、大きな電流を流す配線も描ける。用途としては、太陽電池や曲げられるディスプレー、IoTのセンサー、電子基板を想定している。

ブランドを立てる手法には前例がある。住友金属鉱山は、太陽の熱のもとになる近赤外線を吸収する材料に「SOLAMENT(ソラメント)」という名前を付けて売り込み、2024年には国際的なデザイン賞であるレッドドット・デザイン賞を受けた。部品の奥に隠れていた材料に名前を付け、用途を一緒に探す相手を増やす。CuALLは、この戦略の二つ目の看板になる。

強み——山から粉まで、一社で持つ

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住友金属鉱山の強みは、まず成り立ちにある。銅を掘る鉱山、鉱石から純度の高い地金を取り出す製錬所、そして地金から機能性の材料を作る工場を、一つの会社の中に持つ。資源、製錬、材料の三つの事業をつなぐこの形を、同社はビジネスモデルの核に据えている。

粉の技術にも積み重ねがある。同社はスマートフォンの積層セラミックコンデンサー向けのペーストや、電気自動車の電池に使う正極材など、金属の粉を作り、その表面を整える技術で稼いできた。2025年度から始まった中期経営計画でも、「粉体合成・表面処理技術」を四つの中核技術の一つに挙げている。ナノ銅粉は、この技術を銅に振り向けたものだ。

銅という素材にも、銀にない利点がある。銀は湿気と電圧がかかると、イオンになって移動し、回路のショートを招く「マイグレーション」を起こしやすい。銅ではこの心配が小さい。インジウム・コーポレーションは、銅なら土台の銅の板に直接貼れるため、銀で貼るために施していた銀めっきも省けると指摘する。耐久性でも、レゾナックは自社の銅焼結ペーストについて、熱くしては冷やす試験で、焼き固めた銀の約5倍長持ちしたと主張している。

さらに住友金属鉱山は、SiCのチップのもとになる基板も手がけている。高品質な単結晶SiCの薄い層を、電気を通しやすい多結晶SiCの板に貼り合わせた「SiCkrest(サイクレスト)」で、単結晶の板1枚から50枚以上を作れる。6インチ品は新電元工業のSiC MOSFETに採用され、8インチ品は月6,000枚の量産ラインを整えて、2026年度中に納入を始める予定だ。2026年9月18日には、貼り合わせ型として世界で初めてという12インチ品のサンプル出荷も発表した。

チップが載る「床」と、チップを留める「のり」。その両方に手を伸ばす構図は、SiCのウエハーとパワーモジュール向けの材料を併せ持つレゾナックと重なる。

課題——「認定」の壁と、混み合う競争

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最大の壁は、顧客の認定だ。接合材はチップの寿命を左右する。とりわけ自動車向けでは、熱くしては冷やす試験を何千回、何万回と重ね、何年もかけて採用を決める。住友金属鉱山も2025年の時点で、顧客の認定に向けて複数のサンプル評価を進めていると説明していた。今回の発表でも、採用した顧客の名前や売上の目標は明らかにしていない。

業界全体を見ても、銅の焼結はまだ評価の段階にある。IDTechExは2024年、銅の焼結が2024年の終わりから2025年半ばにかけて採用され始めると予想していた。だが2026年に入ってからの各社の発表には、「評価中」や「サンプル提供」という言葉が並ぶ。インジウム・コーポレーションは、当面は銀が焼結材料の主役であり続けるとみている。

競争も激しい。国内では三井金属、三菱マテリアル、レゾナックといった素材の大手が、銅の焼結材料を相次いで打ち出した。三井金属は2026年5月、チップ用に続いて放熱板との接合用の製品を発表し、国内外の20社以上が評価中だという。三菱マテリアルは同じ年の1月、粒径100から200ナノメートルの銅の粒を使ったペーストとシートを発表した。スタートアップでは、金属インクで回路基板を作る技術で知られるエレファンテックが、2026年3月に銅のナノペーストを発表し、銀のナノペーストの約100分の1のコストで作れると主張している。海外でもインジウム・コーポレーションや、米化学メーカーのエレメント・ソリューションズ傘下にあるマクダーミッド・アルファが、銅の焼結材料を売り込む。

住友金属鉱山がパワー半導体の接合向けに量産を始めたのは、ペーストの原料になる粉だ。三井金属や三菱マテリアル、エレファンテックは、粒の設計からペーストまでを自前で手がけている。粉を買ってペーストを作るメーカーを、どれだけ取り込めるかが問われる。

銀の値下がりも逆風になりうる。銀がピークの半分に戻った今、置き換えを急ぐ動機は1月ほど強くない。ただ、前の年の平均の3倍まで跳ね上がり、そこから半値に落ちるような値動きそのものが、部品を作る側にとってはリスクになる。

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お金の流れ——大手は「認定」に値段を付ける

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この分野にお金を出す顔ぶれを見ると、ベンチャーキャピタルよりも、事業会社が目立つ。

象徴的なのが、米国のKuprion(クプリオン)だ。ナノサイズの銅でチップを貼る技術を開発していたシリコンバレーのスタートアップで、米ベンチャーキャピタルのアルソップ・ルイ・パートナーズなどが出資していた。2023年、マクダーミッド・アルファの親会社であるエレメント・ソリューションズが買収した。米証券取引委員会への届け出によると、買収の時点で払ったのは1,590万ドル(約25億円)。そのうえで、製品の認定や売上の目標を達成するごとに、2030年末までに最大2億5,900万ドル(約410億円)を追加で支払う条件が付いていた。

最初に払った額は、追加分の上限の10分の1にも満たない。価値の大半は、顧客の認定を取れるかどうかに懸かっている。買い手は、ナノサイズの銅の技術そのものより、認定の成否に値段を付けたことになる。住友金属鉱山にとっても、量産の開始はゴールではない。認定という本当の関門の手前に立った、という意味を持つ。

国内では、三菱電機が動いた。同社はベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインと共同で運営するファンドを通じて、2023年にエレファンテックへ出資した。2026年3月には40億円を追加で出資し、事業提携も結んでいる。提携の主眼は、インクジェットで回路基板を作る新しい製法の実用化だ。それでも、パワー半導体の大手が、銅のナノ材料を手がけるスタートアップと深く結びついた意味は小さくない。

印刷で配線を作るインクの分野でも、出資者には事業会社が並ぶ。銅のインクを開発するイスラエルのCopprint(コップリント)には、独ヘンケルや米HP、日本のタツタ電線が出資した。金属錯体インクを手がける米Electroninks(エレクトロインクス)には、アプライド・マテリアルズの投資部門や、米国の情報機関系の投資会社In-Q-Tel(インキューテル)が出資している。認定までの道のりが長い材料の世界では、製品の出口を自ら握る事業会社が、資金の出し手の中心にいる。

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報道と株式市場は、どう見ているか

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国内の報道は、いずれも銀からの置き換えという文脈で、量産の開始を伝えた。量産の規模に踏み込んだのは鉄鋼新聞で、年間数トンでのスタートと、将来の能力拡大を視野に入れていることを報じた。電波新聞は「ナノ銅粉に注力」と見出しを立て、MONOistはブランドの狙いと製品の写真を紹介した。1年前の開発発表の際には、日本経済新聞が「ナノ級の微細銅粉をパワー半導体接合材に」と報じ、日刊工業新聞はSiCなどのパワー半導体との相性の良さを見出しに取った。ただ、どの報道も、顧客の名前や値段、売上の目標には触れていない。会社が明らかにしていないからだ。

株式市場の目線は、別のところにある。住友金属鉱山の株価を動かしてきたのは、金や銅の値動きだ。株価は2026年の年明けに6,500円台だったが、金の急騰を追い風に上場来高値を次々に塗り替え、3月2日には1万3,300円をつけた。10月2日の終値は9,724円で、時価総額はおよそ2兆8,000億円になる。

2026年4〜6月期の純利益は879億円と、前の年の同じ時期の3.2倍に膨らんだ。会社は通期の純利益予想を、1,390億円から2,160億円に引き上げた。金属の値上がりと円安に加え、データセンター向けの電子部品に使う材料の需要が堅調なことを理由に挙げている。株予報Proがまとめたアナリスト9人の平均目標株価は1万1,949円で、足元の株価を2割余り上回る。

この規模の会社にとって、年に数トンのナノ銅粉が目先の利益を動かすことはない。投資家から見たCuALLは、銀から銅への切り替えが本格化したときに価値が膨らむ、満期の長いオプションに近い。同社は長期の目標として、材料事業で年250億円の税引前利益を掲げている。電池材料の立て直しが続くなか、機能性材料でどこまで利益を積み上げられるかを測る材料の一つになる。

もう一つ、見逃せない点がある。住友金属鉱山は、銅の製錬とあわせて銀も生産している。銀が高ければ、製錬の売上は膨らむ。銀が高すぎれば、材料の側で、銀の代わりになる銅が売れる。銀の相場がどちらに振れても、どこかに商機が残る構図だ。

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次の節目——いつ、何が見えてくるか

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最初の節目は、11月10日に予定される2026年度上期の決算発表だ。住友金属鉱山は2024年、11月の決算発表に続いて経営戦略の進捗説明会を開き、機能性材料事業の責任者がSiCkrestなどの成長製品を紹介した。今回、CuALLが投資家向けの説明でどこまで語られるかが、会社の力の入れ具合を測る手がかりになる。

展示会も続く。12月9日から11日には、半導体の製造技術を集めたSEMICON Japanが東京ビッグサイトで開かれる。2027年2月17日から19日のネプコンジャパンは、住友金属鉱山が印刷配線の材料を繰り返し出展してきた場だ。2024年1月にはNIMSなどと共同開発したインクを、2026年1月には配線材料と印刷技術を組み合わせた電子基板を、この場で公開している。

足元の計画では、SiCkrestの8インチ品の量産品の納入が、2026年度中、つまり2027年3月までに始まる。ナノ銅粉では、より低い温度で焼き固まる100ナノメートル品の量産や、需要に応じた生産能力の拡大が、次の発表の候補になる。

そして本当の節目は、パワーモジュールのメーカーが、銅の焼結を量産品に採用したと公表する日だ。舞台は電気自動車だけではない。フランスの調査会社Yole(ヨール)グループは、SiCパワー半導体の市場が2031年に110億ドル(約1兆7,000億円)へ広がると予測し、AIデータセンターの電源を新たな成長の機会に挙げている。エヌビディアは、データセンターの中で電気を800ボルトの直流で配る新しい設計を打ち出し、インフィニオンやSTマイクロエレクトロニクスなどのパワー半導体メーカーが協力を表明した。電気を扱う部品が増えるほど、チップを貼る「のり」の出番も増える。

銀の相場からも目が離せない。銀がもう一度跳ね上がれば、銅への切り替えを検討する部品メーカーは増えるはずだ。

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銀を取り出した会社が、銀を銅に置き換える

住友金属鉱山(5713)、パワー半導体向けナノ銅粉の量産を開始。新ブランドCuALL(キュオール)として展開 - 銀を取り出した会社が、銀を銅に置き換える - 章扉

住友の事業は1590年、京都で銅を精錬し、銅の細工を手がけるところから始まった。やがて、粗い銅から銀を吹き分ける「南蛮吹き」と呼ばれる技術を手にし、事業の足場を固めた。銅から銀を抜き出すことで身を起こした会社が、436年後、銀の仕事を銅にさせようとしている。

CuALLの特設ページは、ブランドが目指す姿を三つの場面で描く。貴金属に代わる接合材として電気自動車の電子回路を安くし、移動の手段を地方から都市まで行き渡らせる。データセンターの半導体を省電力にして、冷却に使うエネルギーを減らす。高性能なセンサーを、あらゆるモノに組み込めるようにする。

どれも、銅が銀の代わりを務められるという前提の上に立つ。その前提を証明するのは、展示会の来場者ではない。熱くしては冷やす試験を、何万回もくぐり抜けたチップだ。弁当箱ほどの箱の中で、銀の層が銅の層に置き換わるかどうか。答えが出るのは、顧客の認定が下りたときになる。