IOWN構想とは何か——光で「電力効率100倍」を狙う、NTT発の情報基盤構想

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)は、NTTが2019年5月に発表した次世代の通信・情報処理基盤の構想である。きっかけは同年4月に英誌Nature Photonicsへ掲載されたNTTの光電融合型素子の成果で、当時社長だった澤田純氏のもとで「ネットワークだけでなく、コンピュータの中まで光にする」という大構想へと拡張された。
構想は三つの柱で成り立っている。第一がオールフォトニクス・ネットワーク(APN)で、ネットワークから端末まで可能な限り光技術を導入し、電気変換に伴う電力と遅延を削ぎ落とす。第二がデジタルツインコンピューティング(DTC)で、実世界のヒトやモノをデジタル空間に写し取り、掛け合わせて未来を予測する。第三がコグニティブ・ファウンデーション(CF)で、クラウドからネットワーク、端末までのICTリソースを全体最適に配備・管理する。公式に掲げる性能目標は、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドツーエンド遅延200分の1という、桁違いの三点セットである。
構想を一社で背負わないための器が、IOWN Global Forumだ。2019年10月31日にNTT・米Intel・ソニーの3社が設立合意を発表し、翌2020年1月に米国で設立された。会員は2026年4月時点で180を超え、NVIDIA、AMD、Cisco、Microsoft、Samsung、KDDI、トヨタ、三菱UFJ銀行といった名前が並ぶ。2026年4月14日から17日にシドニーで開かれた年次総会には20カ国超から250人以上が集まり、新会員としてAdtran、アルテリア・ネットワークス、ベイカレント、Dassault Systèmes、そして本稿でも取り上げるTPSCoが加わった。次の中間総会は2026年9月29日から10月2日にかけてアムステルダムで開催される。
実装も進んでいる。APNは2023年3月16日にNTT東日本・西日本が世界初の商用サービス「APN IOWN1.0」を開始し、遅延200分の1の目標を実際に達成した。2024年8月29日には台湾・中華電信と組んで武蔵野〜桃園間の約3,000キロメートルを片道約17ミリ秒で結ぶ世界初の国際間APNを開通させ、2025年の大阪・関西万博ではNTT西日本本社に置いた光電融合デバイス実装サーバーを、従来比8分の1の消費電力で会期184日間にわたり動かし続けた。

光電融合デバイスの世代ロードマップ——光はどこまでチップに近づけるか

IOWNの中核をなす光電融合デバイスは、PEC(Photonics-Electronics Convergence)という呼称で世代管理されている。要点は単純で、「光と電気の変換点を、どこまで半導体チップの近くに持っていけるか」という一本の軸で世代が刻まれている。近づけば近づくほど省エネ効果は大きくなり、技術的難度も跳ね上がる。
第1世代のPEC-1は、長距離コヒーレント伝送向けの小型光デバイスであるCOSA(Coherent Optical Sub-Assembly)などで、2023年ごろから商用化されIOWN1.0を支えてきた。第2世代のPEC-2は、コンピュータのボード間の電気配線を光に置き換える「光エンジン」である。幅およそ20ミリメートル、6.4テラビット毎秒のこの部品を、Broadcom製スイッチASICの周囲に16個実装することで、合計102.4テラビット毎秒という市場最高水準の容量を、スイッチ単体で電力を約50%削減しながら実現する。NTTは2025年10月6日のIRデーでこの構成を正式に発表し、商用サンプルの提供時期を2026年度第4四半期(2027年1〜3月)、商用提供開始を2026年度中と示した。競合製品が光エンジンをはんだ付けするのに対し、NTT方式はソケット式で交換できるため修理コストを抑えられる点も、実運用を意識した差別化として説明されている。
生産はNTTイノベーティブデバイスが担う。1ラインあたり月5,000個の生産能力を持ち、少なくとも3ラインまで増強する計画で、日刊工業新聞は同社が光エンジンで売上高1,000億円超を狙うと報じている。
その先、第3世代のPEC-3は半導体パッケージ間を結ぶ「光チップレット」で、1.11ミリメートル×2.75ミリメートルという極小のメンブレン型デバイスとなる。商用サンプルは2028年ごろが目標で、伝送容量125倍という目標の達成期にあたる。最終形の第4世代PEC-4はチップ内部の配線までを光化するもので、2032年ごろのIOWN4.0で電力効率100倍を実現するという絵が描かれている。ここから先、34社を一社ずつ見ていく。

フジクラ——AIデータセンターの「血管」で、5期連続の最高益へ

フジクラは1885年創業の電線大手で、光ファイバケーブルと融着接続機、そしてデータセンター内の高密度配線で世界的な地位を築いてきた。祖業の銅線から光へ軸足を移し、いまや利益の大半を情報通信事業が稼ぐ構造に変わっている。
2026年3月期の連結売上高は1兆1,824億円(前期比20.7%増)、営業利益1,887億円(同39.2%増)、純利益1,572億円(同72.5%増)といずれも過去最高だった。さらに2026年6月18日、期初予想からわずか1カ月あまりで通期予想を上方修正し、売上高1兆4,620億円、営業利益3,100億円(従来予想2,110億円)、純利益2,290億円へ引き上げた。理由として同社は、想定していなかったハイパースケーラーからの光コンポーネント製品のプロジェクト受注と売価上昇を挙げている。
光電融合における同社の立ち位置は、デバイスそのものではなく「光を通す道」である。光電融合が進めばデータセンター内の光ファイバ本数は爆発的に増え、極細径ケーブル、多心一括融着、そして高密度な光配線の設計力がそのまま需要になる。岡田直樹社長は決算会見で「光ケーブルの需要は非常に旺盛で、生産能力増強が喫緊の課題」と述べており、増産投資が業績を左右する局面にある。
強みは、需要の伸びが構造的で、かつ同社が世界の主要ハイパースケーラーに直接食い込んでいる点だ。課題は二つある。ひとつは業績が特定用途の設備投資サイクルに強く連動するようになったこと。2024年に株価が約6倍となり日経平均採用銘柄の値上がり率トップとなった同社は、2026年に入っても大きな上下動を繰り返しており、AI投資の減速が直撃するリスクを抱える。もうひとつは、光ファイバ製造に不可欠な水素などの供給制約で、同社自身が上方修正の理由に「水素不足の影響緩和」を挙げたことは、裏を返せばそこが弱点でもあることを示している。

京セラ——セラミックパッケージから「OPTINITY」へ、光を基板に載せる

京セラは1959年に稲盛和夫氏らが京都セラミックとして創業し、ファインセラミックスを軸に半導体パッケージ、電子部品、通信機器まで広げてきた総合部品メーカーである。2026年3月期の売上高は2兆702億円(前期比2.8%増)、一時損益を除く営業利益は1,181億円と大幅な増益となり、AIデータセンター向け有機パッケージやセラミックパッケージを含むコアコンポーネント部門が売上高6,534億円(同10.4%増)と牽引した。2027年3月期は売上高1兆9,400億円、営業利益1,300億円を見込む。
光電融合での京セラの武器は、光デバイスを高精度に位置合わせして基板に載せる実装力にある。同社が開発する光電気集積モジュール「OPTINITY(オプティニティ)」は、サーバー用プリント配線板に搭載してCPUなどからの電気信号を光信号に変換する部品で、2025年10月のCEATEC 2025ではキオクシア、アイオーコアと組み、光SSDの読み書き速度が従来の電気接続と同等になることを実演した。2026年3月10日には、PCIe 6.0(レーンあたり64GT/s)に対応するプラガブル型の「OPTINITY OSFP-XD」を発表し、OFC 2026で披露している。この製品は台湾のスタートアップAuthenXとの協業から生まれ、京セラのCVCファンドが出資関係の起点になっている点も特徴的だ。
NEDOグリーンイノベーション基金の「次世代グリーンデータセンター技術開発」では、1FINITY、古河ファイテルオプティカルコンポーネンツとともに光スマートNICの開発を担当しており、国のプロジェクトにおける役割も明確である。強みは、セラミックパッケージ・有機パッケージ・光学部品・実装装置をすべて自社に抱える垂直統合。課題は、事業の裾野が広すぎて光電融合の成果が全社業績に見えにくいこと、そして光モジュールの完成品市場では中国勢との価格競争に晒される点にある。
santec Holdings——「光を測る」専業メーカーが握るCPO量産の関門

santec Holdings(東証スタンダード・6777)は愛知県小牧市に本社を置く光技術の専業メーカーで、光通信部品、光測定器、光イメージングセンシングを事業領域とする。知名度は高くないが、波長可変レーザーをはじめとする光測定器の分野で世界的な地位を持つ、典型的な「隠れた急所」企業である。
2026年3月期は売上高315億円(前期比31.1%増)、営業利益103億円(同39.0%増)、純利益76億円(同51.3%増)と過去最高を更新し、営業利益は5期連続の最高益となった。北米向けの光通信関連製品が伸びを牽引している。2027年3月期は売上高370億円(17.4%増)、営業利益120億円(16.2%増)、純利益88億円(14.8%増)を計画する。
光電融合における同社の役割は、量産の最大のボトルネックである「光の位置合わせ」に直結する。2026年1月16日、santecは米Aerotech、SENKO Advanced Componentsと共同で、CPO量産向けのアクティブアライメント・アーキテクチャ「PICAlign」を発表した。数千本の光ファイバをナノメートル精度で6自由度にわたって整列させるという難題に対し、Aerotechの6自由度モーション制御、santecの光パワーメータOPM-200と安定化光源SLS-200による多チャネル同時サンプリング、SENKOの脱着可能コネクタ技術を組み合わせ、約1.5秒でグローバル最適値の0.1デシベル以内に到達し、連続生産で30,000時間超のMTBFを達成したとしている。
強みは、CPOがどのメーカーの製品であっても測定と位置合わせは必要という、陣営に依存しない中立性だ。課題は事業規模の小ささで、売上高300億円台の企業が世界的な量産ラインの要求に応え切れるか、生産能力と人材が試される段階に入っている。

SENKO Advanced Components——四日市発、NVIDIAエコシステム入りした光コネクタ

SENKO Advanced Componentsは、三重県四日市市に本社を置くセンコーアドバンス(Senko Advance Co., Ltd.、1946年創業)の完全子会社として、1990年代初頭に米国で設立された光インターコネクトの専業企業である。現在の本社機能はマサチューセッツ州マールボロにあり、SN、CS、MPO-PLUS、LCといった各種光コネクタで25年以上の実績と1,500件を超える特許を持つ。物流大手のセンコーグループとは別法人である点は、日本語表記が似ているだけに注意を要する。
光電融合における位置づけは明確だ。NVIDIAが2025年3月にSpectrum-X Photonics/Quantum-X Photonicsを発表した際、公式のエコシステムパートナーとして名前が挙がった顔ぶれのなかに、TSMC、Coherent、Corning、Foxconn、Lumentumらと並んでSENKOと住友電気工業が入っている。CPOではスイッチASICの脇から大量の光ファイバを引き出す必要があり、その脱着可能なインターフェースを誰が握るかが実装設計を左右する。SENKOはまさにそこを押さえている。前述のPICAlignでも、脱着可能コネクタ技術と高度なアライメントシステムの統合という役割を担った。日本勢との連携も深く、2019年9月には住友電気工業から非接触型多心光コネクタ「AirMT」の技術ライセンス供与を受けている。
強みは、設計から試作までを数カ月ではなく数週間で回す開発スピードと、事実上の業界標準を作ってきた実績である。課題は非上場のため財務情報が乏しく外部からの評価が難しいこと、そしてコネクタは規格化が進むほど価格競争に晒されるという構造的な宿命を抱えることだ。
白山——MTフェルール世界2位、古河電工傘下で「1位」を狙う金沢の精密企業

白山は1947年に東京都港区で白山工業所として創業し、2016年10月に子会社の白山エレレックスと合併して現社名となった。その後、本社を東京から石川県金沢市へ移し、経済産業省のMETI Journalが「東京からの本社移転で再生・成長」と紹介する再建劇を経て、光コネクタ部品の世界的プレーヤーへと転じた。売上高は約47億円(2024年10月期)、従業員は142名(2025年4月時点)と規模は小さいが、多心光コネクタの中核部品であるMTフェルールで世界シェア2位を握る。
2024年11月7日、古河電気工業が代表取締役の米川達也氏と大和PIパートナーズ運営のファンドから株式約67%を取得すると発表し、2025年1月30日付で子会社化が完了した。古河電工は買収の狙いを「低損失型MTコネクタ市場で世界第1位を目指すとともに、光電融合用コネクタの先駆者となること」と明言している。
技術の中身も光電融合に直結する。白山は外径80マイクロメートルの細径MTフェルール、リフロー工程に耐えるMTHR、狭ピッチのMTDS、そしてCPOやOBO(オンボード光)に対応するセラミック多心フェルール「CMF」を展開し、ボード内光配線向けのポリマー導波路も研究している。社内には「IOWN推進部」を置き、IOWN Global Forumで光接続構成の最適化を議論する立場にある。2026年はスペイン・マラガのECOC 2026と、9月9日から11日に深圳で開かれるCIOE 2026に出展する。
強みは、光電融合の最終形まで一貫して効く精密樹脂・セラミック成形の蓄積である。課題は規模で、142名の会社が世界のハイパースケーラー需要に応えるには、古河電工の生産・調達基盤をどこまで使いこなせるかが問われる。
本多通信工業——樹脂光学でCPO用コネクタのコストを3割下げる

本多通信工業(HTK)は産業機器・車載を中心とするコネクタメーカーで、樹脂成形と光学設計を組み合わせた独自技術を持つ。かつては東証上場企業だったが、2022年7月29日にミネベアミツミが1株705円でTOBを実施し、9月12日の終了時点で約86%(取得価額約140億円)を取得、同年12月20日に上場廃止となって現在はミネベアミツミの傘下にある。
光電融合への関与は明確だ。2025年9月30日、同社はCPO向けの低コスト・小型光ファイバ接続コネクタの開発着手を発表した。狙いは、高価な金属・ガラス製の既存品に対して30%以上のコスト削減と、同程度の実装面積削減を同時に達成することにある。自社の樹脂光学技術で実現可能性を確認済みとし、2028年度の量産開始を目標に掲げている。発表文はこの製品を、IOWN構想が掲げる光電融合技術の中核デバイス向けと明確に位置づけている。
強みは、車載コネクタで鍛えた樹脂成形の量産技術をそのまま光の世界に持ち込める点である。CPOの普及局面では、性能もさることながら「安く、小さく、大量に」が勝負を分ける。課題は、上場廃止によって外部からの業績追跡が難しくなったこと、そして2028年度という量産目標が、2026年から立ち上がるCPO市場に対してやや後発になる点だ。親会社ミネベアミツミの生産基盤をどう活かすかが鍵になる。
ケル——光化の前段を支える高速電気コネクタ、業績は正念場

ケル(東証・6919)は東京都多摩市に本社を置く産業機器・車載向けコネクタの専業メーカーで、小型・狭ピッチ品を得意とする。従業員281名、資本金16億1,700万円、代表は土居悦郎氏。連結事業の構成はコネクタが88%、ラックが11%を占める。
2026年3月期は売上高128億5,700万円(前期比8.3%増)と伸びた一方、原材料価格の高騰と中国工場の量産立ち上げ遅れが利益を圧迫し、営業利益は2億8,400万円(同52.3%減)と大幅減益となった。2027年3月期も売上高136億円(5.8%増)に対し営業利益2億3,000万円(19.3%減)と、増収減益の計画である。データセンター関連需要を背景に工業機器向けは底堅く推移したものの、コスト構造の改善が追いついていない。
光電融合での立ち位置は、光そのものではなくその「手前」にある。同社はPCIe 5.0相当の高速伝送に対応する0.5ミリメートルピッチのフローティングコネクタ「JIシリーズ」や、SATA Rev3.0の伝送要件を満たす「DTシリーズ」を展開しており、光化が進むまでの過渡期、そして光化後もなお残る電気配線区間を支える立場にある。CPOが普及しても、電源系や低速の制御系まですべてが光になるわけではない。
強みは、微小ピッチと機械的な位置ずれ吸収(フローティング)という、地味だが代替の効かない設計技術である。課題は明白で、収益性の低さと海外生産の立ち上げに苦しむ足元の業績、そして本稿の34社のなかでは光電融合との距離が最も遠い部類に入ることだ。高速電気コネクタから光への橋渡しをどう描くかが、中期の分岐点になる。
IP Infusion——IOWNを走らせるネットワークOS、NTTが筆頭株主に

IP Infusionは米カリフォルニアを拠点とするネットワークOSの専業企業で、東証プライム上場のACCESS(4813)の子会社である。主力製品「OcNOS」は、通信機器メーカーが自社ハードウェアと一体で売ってきたルーターやスイッチの「中身」だけを切り出して提供するもので、いわゆるホワイトボックス化の中核ソフトウェアにあたる。
IOWNとの接点は深く、かつ古い。同社は2021年1月からIOWN Global Forumのジェネラルメンバーであり、2024年9月4日にはNTT、NTT-AT、ACCESS、Broadcom、Edgecore、UfiSpace、富士通オプティカルコンポーネンツ、NECの9社連合で「IOWNネットワークソリューション(400G)」を構成した。従来の一体型構成に比べ、構築・運用コストを50%、消費電力を40%削減できるとされる。2025年6月3日にはSKテレコム、Edgecoreと組み、IOWN APNを活用したIPoDWDMのライブPoCを完了させている。2026年6月24日には総務省の「海外AIデータセンターにおけるオールフォトニクス・ネットワーク技術の展開に関する調査研究」を受託した。
資本関係も構想と直結する。NTTは2023年12月にIOWNの発展を目的とした資本業務提携でACCESS株の12.9%を取得し、2026年7月22日にはNTTが議決権比率13.6%で主要株主である筆頭株主となったことが確認された。首位交代は、それまで筆頭だった個人投資家の保有減少によるものである。
足元は苦しい。2026年1月期の連結売上高192億15百万円に対し営業損失26億88百万円、純損失33億98百万円。ネットワーク事業の外部売上84億88百万円に対し研究開発費37億38百万円と、比率44%という異例の先行投資が続く。ACCESSは決算短信で継続企業の前提に関する重要事象等の存在を明記したうえで、コストコントロールが可能として重要な不確実性はないと判断している。一方で受注残高は57億44百万円(前期比504.4%増)へ膨らみ、2027年1月期第1四半期はネットワーク事業が前年同期比147.0%増、セグメント損益が黒字に転じた。強みはIOWN標準に沿ったマルチベンダー構成を実現できる稀少なソフト資産、課題は財務基盤の薄さと、UAE・ドバイのEvollabs Tech FZ-LLCとの3年7,000万ドル(約110億円)契約で生じた入金遅延に象徴される取引先集中リスクである。
新光電気工業——光電融合スイッチのパッケージ基板を担う「後工程の要」

新光電気工業は1946年設立の半導体パッケージ基板メーカーで、長らく富士通の子会社としてフリップチップ用基板やリードフレームの世界的供給者だった。2023年12月12日、産業革新投資機構(JIC)が1株5,920円・総額約6,850億円でTOBを実施すると発表し、2025年3月19日に成立、その後のスクイーズアウトを経て非公開化された。出資構成はJIC80%、大日本印刷15%、三井化学5%である。
光電融合での役割は、NTTのIOWN 2.0エコシステムのなかで最も具体的だ。102.4テラビット毎秒の光電融合スイッチにおいて、Broadcomがスイッチ用LSIを設計し、Accton Technologyが筐体を設計・製造し、そのすべてを載せる半導体パッケージ基板を新光電気工業が担当する。光エンジンとASICを同一パッケージに極近接で並べるCPO構造では、基板の反り、伝送損失、放熱、そして光ファイバの取り出し経路まで基板設計が決めてしまうため、この役割は下請けではなく設計の中枢に近い。同社は光チップレット/Co-Packaged Optics向けの製品ラインを公開しており、日経クロステックは同社が光電融合の製造受託(OSAT)で「TSMCにはない魅力を」打ち出そうとしていると報じている。
強みは、JICの出資により上場企業としての短期業績圧力から解放され、AI向け先端パッケージへ長期投資できる体制を得たことだ。加えて、DNPと三井化学という材料の当事者が株主に並ぶ構図は、材料と基板の共同開発を加速させる。課題は非公開化により業績の透明性が下がったこと、そしてイビデンという国内の強力な競合と、CPO基板でTSMCやAmkorといった海外勢が同じ土俵に上がってくることである。
イビデン——AIサーバー向けパッケージ基板で7〜8割、3年5,000億円の増強

イビデンは1912年に揖斐川電力として創業した岐阜の企業で、電力事業から出発してセラミックス、そして半導体パッケージ基板へと軸足を移してきた。現在はAIサーバー向けICパッケージ基板の分野で圧倒的な存在感を持ち、会社説明によれば同分野の自社シェアは70〜80%程度、需要は自社の生産能力を上回る状態が続いている。
2026年3月期は売上高4,162億円(前期比12.7%増)、営業利益620億円(同30.3%増)、純利益637億円(同89%増)。2027年3月期は売上高5,000億円(20.1%増)、営業利益900億円(45.1%増)と、さらに強気の計画を掲げる。2026年2月には、2026年度から2028年度の3カ年で電子事業に総額約5,000億円規模を投じる設備投資計画を決議した。
光電融合との関係は、CPOがパッケージ基板の要求水準を一段引き上げるという点に集約される。光エンジンとASICを同居させるCPOでは、基板が大型化・多層化するほど反りが致命傷になり、同時に高速信号の損失を抑える低誘電材料と微細配線が必要になる。イビデンが得意としてきた大型・高多層のFC-BGAは、その延長線上にある。
強みは、AI向けの最先端基板で先行者の地位を築き、顧客がキャパシティを確保するために列を作っている状態にあることだ。課題は投資規模そのもので、5,000億円という金額は同社の売上高を上回る。市場が減速したときの償却負担は重く、実際、同社は過去に2度の巨額損失を経験している。株価もPER70倍前後で評価されており、期待の織り込みは相当に進んでいる。

AGC——ガラスコア基板と光導波路、EUVマスクブランクスの「世界3社」

AGCは1907年に旭硝子として創立した総合ガラスメーカーで、建築・自動車用ガラスと化学品を柱としつつ、半導体関連部材を成長領域に据えている。2025年12月期の純利益は691億6,200万円、2026年12月期は前期比11.3%増の770億円を見込む。2026年1〜6月期は売上高1兆1,006億円(前年同期比11%増)、営業利益646億円(同20%増)と、半導体製造装置向け配管部材や後工程用フィルムの出荷増が効いた。半導体関連事業は2025年12月期時点で売上高1,000億円程度、これを2030年に2,000億円へ倍増させる方針を2026年6月2日の事業説明会で示している。
光電融合における同社の位置づけは三層ある。第一にEUV露光用フォトマスクブランクスで、低膨張ガラス基板に多層膜を積層するこの部材を供給できるメーカーは世界に3社しかない。第二にガラスコア基板で、500ミリメートル角パネルまたは300ミリメートルウエハー形状で、室温から約250度までシリコンと熱膨張係数を整合させた基板を供給できる。第三が光導波路で、日経クロステックは光電融合の導波路材料をめぐり「ポリマー」と「ガラス」の選択肢でAGCとDNPが火花を散らす構図を報じている。
強みは、ガラスを自社で溶かして成形しているという垂直統合だ。レーザー加工速度を上げるための添加剤調整も、特定周波数帯の誘電損失を最小化する組成設計も、材料側から手を入れられる。TGV(ガラス貫通電極)の形成でも、東京大学との共同研究でベッセルビームを用いた高速化技術を開発している。課題は、ガラスコア基板が本格採用される時期がなお不確実なことと、Samsungが2026年以降の量産を掲げるなど競争が国際化していることである。
TOPPANホールディングス——FC-BGA新ライン稼働、CPO対応基板を展示

TOPPANホールディングスは1900年創業の印刷大手で、印刷技術を微細加工技術に転用して半導体フォトマスクとパッケージ基板の有力プレーヤーとなった。2026年3月期は売上高1兆8,050億円(前期比5%増)と過去最高を更新した一方、営業利益は941億円(同3.5%減)と減益。新中期計画では2028年度に営業利益1,450億円を掲げ、500億円の自社株買いも打ち出している。
光電融合での動きは着実だ。半導体パッケージ基板のFC-BGAでは、新潟県新発田市の新潟工場に新製造ラインを構築し、2026年1月から稼働を開始した。これにより生産能力は2022年初比で2倍となり、AI・データセンター向け先端半導体が求める高速伝送と大型・多層のハイエンド品への対応力を強化した。技術面では、TGVによる高密度配線と、深さの異なるキャビティを同一基板内に混在させた大型ガラスパネル基板の開発に成功している。ガラスをコアに使うFC-BGA基板は、チップレット化に伴う基板大型化の最大の課題である反りを大幅に低減できると期待される一方、ガラス特有の「裏面クラック」を構造と加工の最適化で抑え込む必要があり、同社はそこに取り組んでいる。2026年6月の展示会では、LSIと光デバイスを近接実装するCPO対応基板を出展した。
強みは、フォトマスクとパッケージ基板という半導体の前工程・後工程の両方に足場を持ち、印刷由来の大面積・高精度パターニング技術を持つことである。課題は、全社の利益構造のなかでエレクトロニクスの比重がまだ限定的であること、そしてFC-BGAでイビデンや新光電気工業といった先行者との差を詰め切れていないことだ。
DNP(大日本印刷)——TGVガラスコア基板のパイロットライン、2028年度量産へ

大日本印刷は1876年創業で、TOPPANと並ぶ印刷大手であると同時に、半導体フォトマスクとリードフレーム、有機ELディスプレイ用メタルマスクの主要供給者でもある。2026年3月期は売上高1兆5,125億円(前期比3.8%増)、営業利益1,010億円(同7.9%増)、純利益1,039億円(同6.1%減)。エレクトロニクス部門は売上高2,518億円(同1.6%増)に対し営業利益507億円(同11.6%減)と、フォトマスクの設備・開発投資に伴う固定費増と為替が利益を押し下げた。
光電融合での主戦場はガラスコア基板だ。DNPは次世代半導体パッケージ向けの「TGVガラスコア基板」を開発し、埼玉県の久喜工場にパイロットラインを新設して2025年12月から段階的に稼働させた。2026年初から高品質サンプルの提供を始め、顧客需要と市場動向を見極めながら2028年度の量産開始を目指す。SEMICON Japanでは光電融合パッケージ基板を出展しており、光導波路の材料選択でAGCと競い合う立場にもある。加えて、新光電気工業へのJIC主導TOBに15%出資しており、パッケージ基板の当事者としても資本を投じている。
強みは、フォトマスクという半導体産業の最上流に立つ地位と、ナノインプリントを含む微細パターン形成技術の蓄積である。ガラスへの貫通孔形成と金属充填は、まさに印刷会社が得意とする「穴を開けて埋める」技術の延長にある。課題は量産開始が2028年度と先であること、そしてガラスコア基板そのものが、Intel、Samsung、AGC、TOPPANを含む世界的な開発競争のただ中にあり、どの規格が主流になるかまだ確定していないことだ。
レゾナック——後工程材料の総合力とUS-JOINT、半導体比率50%超へ

レゾナックは、昭和電工が日立化成を取り込んだうえで2023年1月に社名変更して誕生した化学メーカーで、旧日立化成が持っていた半導体後工程材料の厚みが最大の資産である。2025年12月期は売上収益1兆3,471億円(前期比3.2%減)、コア営業利益1,091億円(同18.4%増)。2026年12月期は売上収益1兆3,100億円(2.8%減)ながらコア営業利益1,400億円(28.3%増)、営業利益1,050億円(125.0%増)を計画する。2026年5月発表の第1四半期はコア営業利益が126.4%増と、後工程材料が牽引して急伸した。同社は2030年までに半導体・電子材料の売上比率を50%超へ引き上げる方針を掲げ、後工程材料の年平均成長率を25〜50%と見込んでいる。
光電融合での立ち位置は、材料の面的な網羅性にある。エポキシ封止材、ダイボンディング材料、銅張積層板、感光性フィルム、感光性ソルダーレジストといった後工程材料群は、CPOのパッケージでもほぼそのまま必要になる。加えて同社は世界シェア1位の半導体材料を5つ持つ。特徴的なのは、材料メーカーが単独で最適化しても先端パッケージは成立しないという認識のもと、装置・基板・材料の企業を集めたコンソーシアムを主宰している点だ。2024年設立の「US-JOINT」は2026年前半に米国の研究開発拠点が本格稼働し、2025年には「JOINT3」も立ち上げた。
強みは、この「材料の束」を一社で提供できる稀少性と、コンソーシアムを通じて顧客の設計に早期から入り込む仕組みである。課題は、石化事業など非中核の再編が道半ばであることと、材料の採否が最終的にはパッケージメーカーの設計思想に左右されるため、独占的な価格決定力を持ちにくい点にある。
味の素——ABFという「見えない独占」は、光電融合でも続くのか

味の素は言うまでもなく調味料の会社だが、半導体産業においては別の顔を持つ。味の素ビルドアップフィルム(ABF)は、CPUやGPUのパッケージ基板で回路層を絶縁する層間絶縁材で、ハイエンド向けではほぼ100%に近いシェアを持つ事実上のデファクトスタンダードである。2026年3月期の全社売上高は1兆5,837億円(前期比3.5%増)、事業利益1,811億円(同13.7%増)。電子材料を含むファンクショナルマテリアルズ事業は、全社売上高の1割に満たないにもかかわらず、事業利益のおよそ3割を稼ぎ出す。なお同期の純利益の伸びには本社ビル売却益が含まれており、実力値は事業利益で見るのが妥当だ。
光電融合との関係は、機会と脅威の両面がある。機会は、CPOのパッケージが大型化・多層化するほど絶縁材の使用量が増え、しかも高速信号のために低誘電率・低誘電損失の要求が厳しくなること。ABFは、鉛フリーはんだ環境での260〜280度への耐熱性、レーザー穴開けの加工性、めっき工程との整合を長年の検証で作り込んできた蓄積があり、この要求水準の引き上げはむしろ参入障壁を高める。脅威は、配線ピッチが10マイクロメートル/10マイクロメートル以下へ微細化する領域と、ガラスコア基板の台頭である。ただしガラスコアはコア材の置き換えであり、その上に積む絶縁層は依然として必要なため、ABFが即座に消えるという構図ではない。
強みはこの独占的地位と50%を超える利益率で、課題は市場からの評価とガバナンスにある。2026年3月、アクティビストのPalliser Capitalは「最も収益化が遅れているAIインフラの独占者」と題した提案を公表し、ABFの値上げ余地、電子材料事業の分離、企業価値の大幅な上昇余地を主張した。食品と半導体材料という異質な事業を抱えるコングロマリット構造を、どう説明し続けるかが問われている。
日東紡——Tガラス世界シェア9割、AI基板の隠れたボトルネック

日東紡は1923年設立の繊維メーカーを出自とし、現在はガラス繊維と特殊ガラスクロスを主力とする。半導体パッケージ基板やAIサーバー用プリント基板の内部には、樹脂を補強するガラスクロスが必ず入っており、そのうち熱で反りにくい低熱膨張の「Tガラス」で同社は世界シェア約9割を握る。低誘電正接のNE/NERガラスも展開し、高速信号の損失低減に不可欠な素材となっている。
2026年3月期は売上高1,182億2,900万円(前期比8.4%増)、営業利益208億1,900万円(同26.6%増)と過去最高を更新した。経常利益215億4,400万円(同22.6%増)、純利益417億7,000万円(同225.4%増、特別利益を含む)。2027年3月期は売上高1,370億円(15.9%増)、営業利益260億円(24.9%増)と3期連続の最高益を計画する。増産にも動いており、福島事業センターに150億円を投じて新工場棟を建設し、生産能力を最大3倍へ引き上げて2027年の稼働を目指す。
光電融合における立ち位置は、フジクラや白山と同様「デバイスではないが不可欠」というものだ。CPOでパッケージが大型化すれば反りの制御はさらに厳しくなり、低熱膨張ガラスクロスの重要性は増す。日本経済新聞は2026年1月20日付で「iPhoneに使う日東紡の特殊ガラス、AI大手が争奪」と報じており、需給の逼迫は市場でも広く認識されている。
強みは、代替の効かない9割シェアと、生産に十数年単位の経験を要するガラス溶融・紡糸の技術蓄積である。課題は、その圧倒的シェアゆえに増産の意思決定が業界全体の供給量を左右してしまうこと、そして高シェアが長期的には顧客側の代替材料開発を誘発しやすいことだ。株価も2026年1月に10連騰、4月には2万6,000円台へ急伸しており、期待は既に相当織り込まれている。

デクセリアルズ——京都セミコンダクター買収で得た、光半導体という第二の柱

デクセリアルズは、ソニーケミカル&インフォメーションデバイスを前身として2012年に現社名となった機能性材料メーカーである。異方性導電膜(ACF)で世界トップの地位を持ち、スマートフォン向けの光学フィルムなども手がける。2026年3月期は売上高1,138億円(前期比3.1%増)、営業利益380億円(同4.1%減)、事業利益393億円(同3.4%増)だった。
光電融合との接点は、2022年3月に子会社化した京都セミコンダクターを通じた化合物半導体レーザーとフォトダイオードの事業にある。同社はデータセンター向け光トランシーバーに使われる高速応答フォトダイオードを製造しており、2026年3月期第3四半期に量産体制が安定して黒字化を達成した。光トランシーバーは送信側のレーザーばかりが注目されるが、受信側のフォトダイオードは高速化のたびに特性の作り込みが必要になる部品であり、ここに日本企業の居場所がある。さらに日経クロステックは、村田製作所とデクセリアルズがそれぞれCPO向けの新たな部材を開発中だと報じている。
強みは、材料メーカーとしての基盤の上に光半導体という高付加価値デバイスを乗せた二層構造で、フォトニクス事業が「成長ドライバー」として明確に位置づけられていることだ。課題は、主力が依然としてスマートフォン向けのフィルム材料であり、そのサイクルに業績が振られること、そして光半導体の売上規模がまだ全社を動かすほどではないことである。買収から4年を経てようやく黒字化した事実は、この分野の立ち上げに時間がかかることも示している。
NGK(日本ガイシ)——チップレット支持材「ハイセラムキャリア」を3倍に

日本ガイシは1919年に日本陶器から独立したセラミックスの専業メーカーで、碍子や自動車用触媒担体で世界的な地位を築いた。2025年6月26日の定時株主総会で商号変更が承認され、2026年4月1日付で「NGK株式会社」となっている。2026年3月期は売上高約6,300億円(前期比2%増)、営業利益約750億円(同8%減)で、米国の関税影響が約50億円の重荷となった。
光電融合そのものを主戦場とする会社ではないが、先端パッケージの製造工程で不可欠な位置にある。2025年11月に発表した「ハイセラムキャリア」は、複数の小型チップを組み合わせるチップレット集積の工程で、半導体チップを一時的に固定するサポートウエハー(支持材)である。CPOのように異種のチップとデバイスを同一パッケージに集積する構造ほど、加工中の平坦性と熱の安定性が歩留まりを左右するため、この地味な部材の性能が量産可否を決める。同社は2026年春から国内工場の設備を拡張し、2027年度までに生産能力を約3倍へ引き上げる。投資額は計200億円で、製造を担うNGKセラミックデバイス(愛知県小牧市)の設備増強に加え、前工程を担うNGKエレクトロデバイス(山口県美祢市)にも成形・焼成設備を導入する。2030年度までに年200億円の売上高を目指す。日本経済新聞は2026年5月、同社が半導体・通信向けの開発に2,500億円を投じ「AIの裏方」に軸足を移すと報じた。
強みは、セラミックスの組成設計から焼成までを一貫して持ち、要求スペックが変わっても材料側から追随できる点だ。課題は、事業の柱がなお自動車関連にあり、半導体部材の売上規模が全社に比して小さいことである。
信越化学工業——シリコンウエハーとフォトレジスト、光電融合の「地面」を作る

信越化学工業は1926年設立で、半導体シリコンウエハーで世界首位、フォトレジストとマスクブランクスでも最上位級という、日本の素材産業を代表する企業である。2026年3月期は売上高2兆5,739億円、営業利益6,352億円。2027年3月期は売上高2兆7,000億円(前期比4.9%増)、営業利益7,000億円(同10.2%増)、純利益5,250億円(同10.6%増)といずれも過去最高を見込み、年間配当も116円へ増配する計画だ。投資も続き、2026年に300ミリメートルウエハーの増設へ1,200億円、フォトレジストでは伊勢崎の新拠点を4月に稼働させた。
光電融合における同社の役割は、専用製品を売ることではなく、産業の「地面」を供給することにある。シリコンフォトニクスは文字どおりシリコン基板の上に光回路を作る技術であり、その基板品質が光導波路の損失を決める。パターンを描くのはフォトレジストであり、その原版を作るのがマスクブランクスだ。加えて同社は、SAWフィルタ用のニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)の酸化物単結晶ウエハーの供給者でもある。これは、シリコンを超える性能が期待される次世代材料「薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)」の母材と同じ系統にあたる。
強みは、供給責任を果たし続ける財務力と、価格ではなく品質と安定供給で選ばれる地位である。課題は、光電融合という文脈で同社の名前が前面に出にくいこと、つまりテーマ株としての物色対象になりにくい構造にある。加えて、TFLNのウエハー供給では中国勢が優位に立っており、次世代材料で同じ地位を再現できるかは未知数だ。
東京応化工業(TOK)——光導波路を「描く」フォトレジスト、ナノインプリントに挑む

東京応化工業は1936年設立で、半導体製造の要であるフォトレジストにおいて世界首位級、とりわけEUV用フォトレジストで高い評価を得ている。2026年12月期は売上高2,610億円(前期比10.1%増)、営業利益522億円(同10.2%増)を見込み、2026年1〜3月期は売上高670億7,700万円(前年同期比23.6%増)、営業利益150億7,400万円(同53.8%増)と好調な滑り出しとなった。郡山工場では世界最大級のフォトレジスト製造棟が2026年上期に稼働する。
光電融合との関係は明快だ。シリコンフォトニクスの光導波路は、結局のところリソグラフィで「描く」ものであり、その解像度と側壁の滑らかさが伝送損失を決める。同社はシリコンフォトニクスおよび光電融合デバイス製造用材料の開発を明示的に手がけており、光導波路やレンズを形成するためのフォトレジストと、その信頼性評価に取り組んでいる。2025年1月29日には東京科学大学(Science Tokyo)との共同研究で、UVナノインプリント(UV-NIL)によるシリコンフォトニクス製造プロセスを開発したと発表した。開発した光硬化性樹脂は、SF6-C4F8混合ガスプラズマへのエッチング耐性を高め、残膜厚を20ナノメートル以下に制御することで、電子線描画に匹敵する光導波路特性を実現したという。電子線描画は精度が高い代わりに遅い。ナノインプリントで同等の性能が出せるなら、光導波路の製造コストが桁で変わる可能性がある。
強みは、EUVで培った最先端の材料設計力を、そのまま光の世界に持ち込める点だ。課題は、光電融合向け材料の市場規模がまだ小さく、当面は先端ロジック向けフォトレジストの伸びに業績が左右されること、そしてナノインプリントが量産技術として採用されるまでには時間を要することである。
JX金属——InP基板とスパッタリングターゲット、上場1年で時価総額4倍

JX金属は2025年3月19日に東証プライムへ上場した非鉄金属・先端材料メーカーで、売出規模約4,400〜4,600億円という2018年のソフトバンク以来の大型IPOだった。上場時の時価総額は約8,100億円だったが、東洋経済は2026年3月19日付で上場後1年で時価総額が4倍になったと報じている。
2026年3月期の営業利益は前期比55.6%増の1,750億円。AIデータセンター需要を背景に、半導体用スパッタリングターゲット、インジウムリン(InP)基板、タンタル粉の販売が好調に推移した。会社資料では2024年度を100とした販売指数で、半導体用ターゲットが121、InP基板が128と、光トランシーバー需要の拡大が数字に表れている。2027年3月期は営業利益1,900億円(8.6%増)を計画する。
光電融合における同社の最大の意義は、InP基板にある。シリコンは電気を流すのは得意でも光を出せないため、レーザーを作るにはInPやガリウムヒ素といった化合物半導体が要る。このInP基板の世界供給は、住友電気工業、米AXT(中国子会社の北京同美を含む)、そしてJX金属の上位3社で9割超を占める極端な寡占市場である。需給は逼迫しており、AXTが中国の輸出許可の遅れで出荷を制約されている状況は、地政学リスクが光チップの供給を直撃する典型例となっている。加えて同社の圧延銅箔とスパッタリングターゲットは、パッケージ基板と前工程の双方で使われる。
強みは、この「誰も一朝一夕には代替できない急所」を複数握っていることだ。課題は、非鉄金属メーカーとして銅価格や資源市況の変動を受けること、そして上場後の株価上昇によって期待値が既に高い水準にあることである。
アドバンテスト——テスタ世界首位、CPOの「良品判定」という次の関門

アドバンテストは1954年にタケダ理研工業として創業し、1985年に現社名となった半導体テスタの世界首位企業である。2026年3月期は売上高1兆1,286億円(前期比44.7%増)、営業利益4,991億円(同118.8%増)といずれも過去最高で、テスタ市場のシェアは65%(前年比7ポイント増)に達した。
勢いは2027年3月期に入っても加速している。2026年7月29日に発表した第1四半期(4〜6月期)は売上高3,675億円(前年同期比39.3%増)、営業利益1,900億円(同53.3%増)、四半期利益1,748億円(同93.8%増)と四半期ベースで過去最高を更新。同時に通期予想を、売上高1兆4,200億円から1兆7,140億円へ、営業利益6,275億円から8,460億円へ、当期利益4,655億円から6,600億円へと大幅に上方修正した。AI推論向け半導体のテスタ需要が想定を大幅に上回り、生産能力の増強を前倒ししたことが理由である。
光電融合において同社が重要なのは、CPOの「良品判定」が桁違いに難しいからだ。電気信号のテストは接触子を当てれば済むが、光は位置のわずかなずれで結合効率が変わり、しかも電気と光が混在するCPOでは両方を同時に評価しなければならない。この検査工程は、CPO量産普及の最大のボトルネックの一つと指摘されている。テスタで世界首位に立つ同社にとって、光・電気一体の検査は新たな成長フロンティアである。
強みは、HBMとAIロジックという現在最も伸びている領域でシェアを伸ばしていること、そして検査は市場が成熟しても必ず必要とされる工程であることだ。課題は、業績が特定の巨大顧客のAI投資に強く連動していること、そして光テストの標準がまだ確立しておらず、装置メーカー各社が同じスタートラインに立っている点である。

アンリツ——800Gから1.6Tへ、光トランシーバ試験の常連

アンリツは1895年創業の電子計測器メーカーで、移動体通信の測定で世界的な地位を持つ。2026年3月期は売上収益1,174億6,000万円(前期比4.0%増)、営業利益148億3,000万円(同22.3%増)で、営業利益率は12.6%へ1.9ポイント改善した。主力の通信計測事業は減収ながら利益率15.7%へ向上し、営業利益は28.7%増となった。2027年3月期は売上収益1,400億円(19.2%増)、営業利益200億円(34.9%増)と、通信計測事業の23.6%成長を前提に大幅増益を計画する。
光電融合における同社の役割は、光トランシーバの開発・製造現場の標準測定器を提供することにある。サンプリングオシロスコープ「BERTWave MP2110A」は、10Gから800G、そして1.6Tまでの光トランシーバとモジュールについて、アイパターン、振幅、ジッタ、スキュー、そしてPAM4方式で必須となるTDECQ(送信器・分散アイ閉塞)を1台で評価できる。同社自身が、生成AIの普及によりデータセンターが400GEから800GEへ移行し、1.6TEの要求が前倒しになっていると分析しており、オール光化の潮流が測定器需要を押し上げている構図である。
強みは、規格が新しくなるたびに測定器が必ず先に必要になるという、装置産業のなかでも上流に位置する立場だ。1.6T世代への移行が本格化する2026〜2027年は、同社にとって明確な追い風になる。課題は、事業規模が売上高1,000億円台と、同じ計測分野のアドバンテストや米キーサイトに比べて小さいこと、そして通信計測が携帯端末の開発サイクルにも左右されるため、データセンター需要だけで業績が決まるわけではないことである。
横河電機——光スペクトラムアナライザ、測定器事業がAI需要で二桁成長

横河電機は1915年創業の計測・制御機器メーカーで、プラント向け制御システム(DCS)が事業の柱である。2026年3月期は売上高6,048億2,900万円(前期比7.5%増)と過去最高を更新した一方、営業利益は825億5,500万円(同1.2%減)と減益、純利益は581億1,300万円(同11.5%増)だった。
注目すべきは測定器事業である。同事業は売上高340億600万円(前年同期比13.6%増)、営業利益77億9,200万円(同25.2%増)と二桁成長し、受注も大幅に増加した。要因はAIデータセンター関連需要で、とりわけ光トランシーバー関連製品の需要が堅調だと説明されている。
光電融合での立ち位置は、子会社の横河計測が展開する光スペクトラムアナライザにある。光の波長ごとの強度を測るこの装置は、波長多重(WDM)伝送や光デバイスの評価に不可欠で、同社製品は業界の事実上の基準器として扱われてきた。2025年には生産現場向けの「AQ6361」を投入し、従来機に比べ測定速度を20倍、本体サイズを半分に抑えた。開発の背景には、データセンターの新設に伴い光デバイス・光モジュールの生産量が急増し、研究開発用ではなく「量産ラインで速く測る」ニーズが生まれたことがある。販売目標は2025年度400台、2026年度500台とされる。1200ナノメートルから1650ナノメートルを高分解能・広ダイナミックレンジで測る「AQ6380」も併売する。
強みは、光測定器という参入障壁の高い領域で長年の実績を持ち、しかも量産向けへの製品展開に成功していることだ。課題は、全社に占める測定器事業の比率が小さく、業績の大半をエネルギー・プラント向け制御事業が握っているため、AI需要の恩恵が株価に反映されにくい点にある。
NTT——構想の発案者にして、デバイスメーカーへの転身を賭ける当事者

NTTは1985年の民営化以来40年ぶりとなる商号変更を行い、2025年7月1日付で「日本電信電話株式会社」から「NTT株式会社」となった。2026年3月期は営業収益14兆4,091億円(前期比5.1%増、過去最高)、営業利益1兆7,062億円(同3.4%増)、当期利益1兆370億円(同3.7%増)。2027年3月期は営業収益15兆600億円、当期利益9,800億円と減益予想で、AI・データセンター投資に伴う減価償却費と金融コストの増加が理由である。2026年5月8日には新戦略「New Value Creation 2030 Powered by IOWN & AI」を発表し、2026〜2030年度に総投資約12兆円、うち成長分野に約7.5〜8兆円を投じるとした。同時に、インフラをAI仕様へ転換する「AIOWN」という概念を打ち出している。
光電融合における立ち位置は、構想の発案者であると同時に、自らデバイスを作って売る当事者へ移行しつつあるという点にある。2023年8月に事業を開始したNTTイノベーティブデバイスがその実行部隊で、PEC-1のCOSAを供給し、PEC-2の光エンジンと102.4テラビット毎秒スイッチを製品化中である。国際的な足場づくりも進み、2026年6月10日には米投資家のヤング・ソン氏、韓国SKグループ、台湾・中華電信、日本政策投資銀行と共同で約800億円(約5億ドル)規模の「IOWN AI Fund」の組成を発表し、運用会社Catalight Capitalをシリコンバレーと東京に設立した。フォトニクス、AI半導体設計・パッケージング、光データインフラのスタートアップに投資する。
強みは、メンブレン(薄膜)デバイスという他社にない素子技術と、APNという既に商用化された広域ネットワーク資産、そしてBroadcom・Accton・新光電気工業を束ねたエコシステムである。課題は率直に言って多い。IOWN関連の売上高は連結14兆円のなかでまだ極小で、収益化の規模と時期が見えない。株価は150円前後で伸び悩み、時価総額は約13.8兆円。Nikkei Asiaは2026年6月17日付で「NTTは光データネットワークを主導するはずだったが、AIとNVIDIAがそれを変えた」と報じ、構想の戦略的地位が相対的に低下したと指摘している。デバイスメーカーとして規模の経済を確立できるかが、この構想の成否を分ける。
TPSCo——魚津の300mm工場が「シリコンフォトニクスの国産ファウンドリ」になる

タワーパートナーズセミコンダクター(TPSCo)は、2014年にイスラエルのTower Semiconductor(51%)とパナソニック系のNuvoton Technology Japan(NTCJ、49%)が設立した合弁ファウンドリで、富山県魚津市、砺波市、新潟県妙高市の新井に生産拠点を持つ。イメージセンサー、パワーデバイス、高周波RF CMOS、化合物半導体など多様なプロセスを扱ってきた。
2026年に入り、この会社の位置づけが大きく変わった。2026年3月25日、TowerとNTCJはTPSCoの戦略的再編で合意し、Towerが魚津の300ミリメートル工場を100%取得、NTCJが砺波の8インチ工場を100%取得する。完了予定は2027年4月1日で、EE Times Japanによれば再編に伴いNTCJからTowerへ約2,500万ドル(約39億円)が支払われる。続く2026年7月14日、Towerは日本で総事業規模約6,000億円を投じ、300ミリメートルのシリコンフォトニクス、SiGe、先端パッケージングの研究開発・製造能力を拡大すると発表した。経済産業省が最大約1,600億円を助成する。新井工場を再整備するとともに、魚津工場に隣接して新たな300ミリメートル工場を建設し、生産能力目標は300ミリメートルウエハー換算でシリコンフォトニクスが月16,000枚、SiGeが月2,000枚。供給開始はシリコンフォトニクスが2027年5月、SiGeが2027年9月とされる。TPSCoは2026年4月のIOWN Global Forumシドニー年次総会で新会員として加入した。
これが実現すれば、日本国内に本格的な300ミリメートル・シリコンフォトニクス量産ファウンドリが誕生する。強みは、Towerが既にシリコンフォトニクスのファウンドリプロセス(PH18)で実績を持ち、そこに日本の生産基盤と国費が乗る構図だ。課題は、供給開始が2027年で、TSMCのCOUPEが2026年に量産入りするのに対して後発であること、そして再編完了が2027年4月と時間がかかり、その間の顧客獲得が実質的な勝負になることである。
ソニーグループ——IOWN創設3社の一角、VCSELと光電融合に「スマホの次」を託す

ソニーグループは1946年に東京通信工業として設立され、現在はイメージセンサーで世界首位に立つ半導体事業を抱える。IOWN構想との関係は最も古く、2019年10月31日にNTT、米Intelとともに「IOWN Global Forum」の設立合意を発表した3社の一角である。設立時のボードメンバーとして構想の運営を担い、通信・RF技術の専門性が参画理由の一つとされた。フォーラム内では、放送・メディア事業の知見を活かしたリモートメディアプロダクションのユースケース検討に参加し、2024年7月にユースケース文書を公開、2025年にPoCへ向けた計画を進めた。
デバイス面での関与も進みつつある。ソニーセミコンダクタソリューションズは、電気信号で直接変調できる光通信用VCSEL(面発光レーザー)を開発しており、これは低消費電力・低コストな光通信モジュールを実現する要素技術にあたる。日本経済新聞は2025年12月4日付で、同社が「人型ロボと光電融合に託す未来」と題して、スマートフォン向けイメージセンサーの次を担う新規事業としてデータセンター向け光電融合の研究開発を進めていると報じた。
強みは、化合物半導体の量産経験と、世界最大級の半導体設備投資を回してきた実行力である。VCSELは既にスマートフォンの測距センサーで大量生産されており、その延長で光通信用の量産に踏み込める余地は大きい。課題は、現時点で光電融合が「研究開発段階の新規事業」にとどまり、製品としての姿がまだ見えないことだ。IOWN創設メンバーという象徴的な地位と、実際のデバイス供給者としての存在感の間には、まだ距離がある。
富士通——1FINITYの光伝送とIOWN APN、光スマートNICの担い手

富士通は1935年設立で、ITサービスを主力としつつ、光伝送装置とスーパーコンピュータ用プロセッサという通信・計算の両インフラを手がける。2026年3月期は売上収益3兆5,029億円(前期比1%減)、営業利益3,483億円(同31%増)、調整後営業利益3,905億円(同27%増)と減収増益。サービスソリューションの調整後営業利益3,614億円は過去最高で、Fujitsu Uvanceの売上収益は7,093億円(同47%増)と目標を達成した。2027年3月期は売上収益3兆5,100億円、調整後営業利益4,250億円(9%増)を計画し、次世代プロセッサFUJITSU-MONAKAを含む先進研究開発へ200億円の追加投資を予定する。
光電融合における役割は二つある。第一が光伝送で、フォトニクスシステム事業の「1FINITY」ブランドのもと、2024年5月14日にIOWN向けのディスアグリゲーション型光伝送ソリューション「FUJITSU Network 1FINITY T250」の提供を開始した。既存の光ネットワークを段階的にIOWN対応へ引き上げる装置であり、IOWN Global Forumでの活動も同社は明示的に公開している。第二がNEDOグリーンイノベーション基金の「次世代グリーンデータセンター技術開発」で、富士通は低消費電力CPUを担当し、光スマートNICは1FINITY、古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ、京セラの3者が分担する体制となっている。
一方で、注意すべき構造変化もある。光変調器と光トランシーバを手がけていた富士通オプティカルコンポーネンツ(FOC)は、2025年4月1日付で古河電気工業へ約44億円で譲渡され、古河ファイテルオプティカルコンポーネンツとなった。強みは、伝送装置とプロセッサの両方を持ち、IOWNのシステム全体を設計できる立場にあること。課題は、光デバイス製造の実体を手放したことで、光電融合において装置・システム側の役割に集中せざるを得なくなった点である。
NEC——海底ケーブル世界2割、12コアファイバでNTTと世界記録

NECは1899年設立の総合電機・ITベンダーで、光海底ケーブルシステムと光伝送装置という通信インフラの中核を長く担ってきた。2026年3月期は売上収益3兆5,827億円(前期比5%増)、営業利益3,599億円(同40%増)、Non-GAAP営業利益3,972億円と、営業利益率が初めて二桁に到達し、売上収益・営業利益の双方で富士通を上回った。2027年3月期は売上収益3兆5,000億円(2%減)、Non-GAAP営業利益4,200億円を計画する。
光電融合での立ち位置は、デバイスよりも「光を運ぶ大動脈」に近い。同社は光海底ケーブルの世界サプライヤーシェアで約2割を占め、生成AIによる大陸間データ需要の急増が直接的な追い風になっている。研究面でも先端を走り、2024年3月にはNTTと共同で、12コア光ファイバによる7,000キロメートル超の長距離伝送実験に世界で初めて成功した。1本のファイバに12本の光路を通すマルチコア技術は、IOWNが目指す伝送容量125倍の重要な構成要素である。
IOWNの実装でも当事者だ。2024年9月の「IOWNネットワークソリューション(400G)」ではNTT、IP Infusion、Broadcom、Edgecoreらとともに9社連合の一角を占めた。NEDOグリーンイノベーション基金では低消費電力アクセラレータの開発を担当している。
強みは、海底ケーブルという参入障壁の極めて高い事業で世界2割を握り、しかもそこがAI時代に構造的な成長市場になったことだ。課題は、光デバイス単体の事業を持たないため光電融合の部品層では存在感が薄いこと、そして国内公共・官公需への依存度が高い収益構造をどう転換するかにある。
アイオーコア(AIO Core)——PETRA発、世界最小級「光I/Oコア」のスタートアップ

アイオーコアは、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)から知的財産権と技術の一部を承継して設立された、シリコンフォトニクスのスタートアップである。主力製品「光I/Oコア(IOCore)」は、シリコンフォトニクス技術を用いた世界最小級・低消費電力の光トランシーバーで、チップの脇に置いて電気を光へ変える役割を担う。本稿の34社のなかで、唯一のベンチャー企業だ。
その存在感は、大企業の出資動向に表れている。2023年10月には日本航空電子工業が車載向け部品開発で資本業務提携を結び、2024年9月5日にはヒロセ電機が資本業務提携を締結して高機能光アクティブコネクタを共同開発することで合意した。日本のコネクタ二大メーカーが揃って同じ光電融合ベンチャーに出資した事実は示唆的で、完成品ではなく「接続の規格と部材」を早期に押さえに行く上流プレーヤーの戦略が透けて見える。VCではみらい創造機構(みらい創造二号ファンド)やテックアクセルベンチャーズが出資しているが、累計調達額は公開情報からは確認できない。
国のプロジェクトでも中核だ。NEDOグリーンイノベーション基金の「次世代グリーンデータセンター技術開発」では、光電融合デバイス(光チップレット)の開発を単独で担当している。2025年4月には京セラ、キオクシアとともにPCIe 5.0(32GT/s×4)対応の広帯域光SSDを開発し、光接続でも従来の電気接続と同等の読み書き速度を実現することを実証した。
強みは、大企業が持ちにくい機動力と、PETRA由来の完成度の高い技術資産である。課題は資本と生産能力の規模で、Ayar Labsが2026年3月に5億ドル(約785億円)を調達して評価額37.5億ドル(約5,890億円)に達したのに対し、日本の光I/Oスタートアップの資金調達規模は桁が違う。
古河電気工業——DFBレーザー5倍増産、白山とFOCを取り込んだ「光の総合企業」

古河電気工業は1884年に古河市兵衛が電線製造所を開いたことに始まり、1920年に現在の法人が設立された電線大手である。光ファイバ、光ファイバ融着接続機、そして通信用レーザーを手がける。2026年3月期は売上高が初めて1兆3,000億円を超え、営業利益639億円、純利益は前期の2倍超となった。光ファイバケーブルなどデータセンター関連が牽引したインフラセグメントは、売上高3,709億円(前期比20.0%増)、営業利益214億円(同276.1%増)と急伸している。
光電融合での存在感は、この2年間の買収で一気に高まった。2025年1月30日にMTフェルール世界2位の白山を約67%取得して子会社化し、2025年4月1日には富士通オプティカルコンポーネンツ(FOC)を約44億円で取得して古河ファイテルオプティカルコンポーネンツとした。FOCはニオブ酸リチウム(LN)を用いた高速光変調器で長年世界トップ級のシェアを持つ企業であり、これで同社は光源、変調器、コネクタ部品、ファイバ、ケーブルという光の主要部材をほぼ一気通貫で揃えたことになる。
自前の技術も強い。信号光源用のDFBレーザーダイオードチップと、光ファイバ増幅器に欠かせない励起レーザーで世界的な地位を築いており、「FITEL」ブランドの1480ナノメートル帯励起光源は1999年以来ナンバーワンを自負する。CPOではチップの外に光源を置く外部光源(ELS)方式が主流になりつつあり、同社はその供給者にあたる。増産投資も大きく、岩手県とタイに計380億円を投じてDFBレーザーチップの生産能力を2025年度比5倍超へ引き上げる計画で(2028年めど)、タイ第2工場は2026年2月に完成した。データセンター事業の営業利益は2031年3月期に2,000億円(前期比8.5倍)を目標とし、新経営方針では2030年度に営業利益4倍、データセンター関連へ5,000億円を投じるとしている。
強みは、この垂直統合の完成度である。課題は、買収した事業の統合を短期間で連続して進める難しさと、レーザーチップの増産が計画どおりに立ち上がるかという実行リスクだ。
住友電気工業——InP基板という、世界の急所を握る

住友電気工業は1897年に住友伸銅場として創業した非鉄・電線大手で、自動車用ワイヤハーネスから光ファイバ、化合物半導体まで幅広く手がける。2026年3月期は売上高5兆1,101億円(前期比9.2%増)、経常利益4,312億円(同39.3%増)。2027年3月期は経常利益4,320億円(0.2%増)と4期連続の最高益を見込む。2026年5月14日には時価総額10兆円クラブ入りが報じられ、同年7月1日付で株式分割を実施した。
光電融合における同社の重みは、レーザー光源の土台となるインジウムリン(InP)基板にある。前述のとおりInP基板の世界供給は上位3社で9割超を占める寡占市場で、住友電工のシェアは推計でおよそ4〜6割とされる。シリコンは光らない以上、レーザーを作るにはInPという「畑」が要る。その畑を世界で最も多く持つのが同社である。加えて、AIデータセンターの送信側光源として業界トップとされるEML(電界吸収変調器集積レーザー)も手がける。NVIDIAが2025年3月にCPO製品を発表した際の公式エコシステムパートナー一覧に、日本企業としてSENKOとともに名を連ねたのは象徴的だ。
投資も加速している。2025年初に通信用光デバイスの増産へ約140億円を投じると発表し、横浜製作所の新研究開発棟を2026年3月に竣工・7月に稼働させた。光デバイスの生産能力は2028年度に2024年度比で数倍、InP基板の生産能力は2027年までに約40%増やす計画で、データセンター関連には3年で2,000億円を投じる(2026年5月)。
強みは代替不可能性そのものだ。世界のInP需要は2025年の出荷が60万〜70万枚にとどまる一方で需要は150万〜200万枚に達したとの推計もあり、供給不足が続いている。課題は、その希少性ゆえに供給責任と地政学リスクの矢面に立たされること、そして本業の自動車用ワイヤハーネスが全社利益の大半を占めるため、光デバイスの成長が業績に反映されるまで時間がかかることである。

OKI——CFBで「InPをシリコン300mmに貼る」という異能

OKI(沖電気工業)は1881年に明工舎として創業した日本初の通信機器メーカーで、現在はATMや社会インフラ向けシステム、EMS(電子機器受託製造)を主力とする。2026年3月期は売上高4,216億円(前期比6.8%減)、営業利益188億円(同1.2%増)、純利益215億円(同72.4%増)。2027年3月期は売上高4,500億円、営業利益190億円、純利益140億円を計画する。
本稿の文脈で同社が重要なのは、業績規模ではなくCFB(クリスタル・フィルム・ボンディング)という技術にある。CFBは、半導体基板から機能層だけを剥離し、接着剤を使わず常温で分子間力のみによって異種材料の基板へ貼り付ける技術だ。光電融合の根本的な課題は、光を出せるInPやガリウムヒ素が小径ウエハーでしか作れないのに対し、電子回路は300ミリメートルのシリコンで作られるという「口径の断絶」にある。OKIは2025年6月、この断絶を埋める「タイリングCFB」を開発したと発表した。2インチのInPウエハー1枚から、300ミリメートルシリコンウエハーの全面に52回にわたってタイリングでき、位置精度は±1マイクロメートル、角度精度は±0.005度に達する。西横手工場には8インチのパイロットラインを増設し、2026年の製品化を目指している。同技術は半導体・オブ・ザ・イヤー2025を受賞した。
強みは、この技術が特定のデバイス設計に縛られない「工程技術」であることだ。光電融合デバイスであれGaNパワー半導体であれ、異種材料をシリコンに載せたい全ての企業が潜在顧客になる。実際、2024年10月には日清紡マイクロデバイスとCFBによる薄膜アナログICの3次元集積にも成功している。課題は、この技術がまだ実験室から量産への移行段階にあること、そして全社の主力事業がATMや社会インフラであるため、CFBの成果が業績として現れるまでには相当の時間を要することである。

キオクシア——光SSDという最後のピース、そして異次元の決算

キオクシアは2017年に東芝メモリとして東芝から分社し、2018年に米ベイン主導の企業連合へ売却され、2019年に現社名へ改称、2024年12月18日に東証プライムへ上場したNAND型フラッシュメモリの大手である。2026年3月期は売上収益2兆3,376億円(前期比37%増)、Non-GAAP営業利益8,762億円(同93%増)といずれも2年連続で過去最高を大幅更新した。データセンター向けを含むSSD&ストレージ部門の売上高は1兆3,626億円と前期比約4割増。
そして2026年7月31日に発表した2027年3月期第1四半期は、桁が変わった。売上収益1兆7,671億円(前年同期比415.5%増)、Non-GAAP営業利益1兆3,262億円(同約29倍)、四半期純利益8,421億円(同約46倍)である。生成AIの拡大でエンタープライズSSDの需要が急増し、2026年分の生産枠は事実上完売の状態にある。同社は2026年7〜9月期の純利益を前年同期比31倍の1兆2,700億円と見込み、自社株買いと株式分割も発表した。時価総額は2026年6月12日に約44.4兆円となりトヨタ自動車を抜いて国内首位に立ち、6月下旬には一時50兆円を超えたが、7月に4割超下落して首位を明け渡している。
光電融合との関係は、データの出し入れ口をどう光化するかにある。同社はNEDOグリーンイノベーション基金の「次世代グリーンデータセンター技術開発」で広帯域SSDの開発を担当し、2025年4月には京セラ、アイオーコアと共同でPCIe 5.0対応の広帯域光SSDを開発した。ストレージまで光でつながれば、データセンター内の電気配線は本当に消える。またRapidusの出資8社の一角でもある。
強みは圧倒的な需給環境と、光インターフェースSSDという次世代の布石を国のプロジェクトの中で打っている点だ。課題は、メモリ市況の循環性そのものである。株価の乱高下が示すとおり、市場はこの利益水準の持続性を測りかねている。

業界の状況——IOWN構想の競合は誰か

光電融合の主導権を握っているのは、率直に言って米国と台湾の巨人たちである。Broadcomは51.2テラビット毎秒のCPOスイッチ「Bailly」を2024年に発表し、Micas Networksが2025年3月17日に業界初の量産開始を宣言、Metaが実網に配備して2025年11月時点で累計100万デバイス時間のリンクフラップゼロを報告した。第3世代の102.4テラビット毎秒「Tomahawk 6 – Davisson」は2025年10月8日に発表と同時に出荷を開始している。
NVIDIAは2025年3月のGTCでInfiniBand向け「Quantum-X Photonics」とEthernet向け「Spectrum-X Photonics」を発表し、レーザー数4分の1、電力効率3.5倍、信頼性10倍を主張した。出荷はQuantum-Xが2026年前半、Spectrum-Xが2026年後半で、GTC 2026(2026年3月16日、サンノゼ)では初のCPOスイッチのフル量産を表明している。GTC直前の2026年3月2日には、InPレーザーの製造能力を確保する目的でCoherentに20億ドル(約3,140億円)、Lumentumに20億ドル(約3,140億円)、計40億ドル(約6,280億円)の出資と複数年の購買コミットを発表した。製造基盤ではTSMCの光エンジン「COUPE」が2026年に量産入りし、Samsungは2029年のCPOターンキーを掲げて追走する。Marvellは2025年12月2日に光インターコネクトのCelestial AIの買収を発表し(前払い約32.5億ドル=約5,100億円、収益マイルストーン達成で最大約55億ドル=約8,600億円)、2026年2月2日に完了した。
代替アプローチも侮れない。GoogleはMEMSミラーで光のままポートを切り替える光回線交換(OCS)「Apollo」をTPU v4以降の全システムに導入済みで、OCS1台の消費電力は約100ワットと従来の電気スイッチ(約3キロワット)比で95%減とされる。Microsoftは中空コアファイバに賭け、2025年9月にNature Photonicsで減衰0.091デシベル毎キロメートルという、シリカファイバの理論限界を下回る世界記録を報告した。2026年初時点で1,280キロメートル超が無障害で商用稼働している。
こうしたなかでIOWNをどう位置づけるべきか。要点は「競合というより階層の分担」である。データセンター内部のスイッチ〜GPU間という短距離戦は、Broadcom・NVIDIA・TSMC陣営が規模の経済で先行している。一方、データセンター間や広域の分散処理は、NTTのAPNが2023年から商用で走っている領域だ。ただしPEC-3以降が狙うチップ間の光I/Oは、Ayar Labs、Lightmatter、TSMCのCOUPEと正面から競合する。市場規模でみると、LightCountingは2026年の光トランシーバー市場を約400億ドル(約6兆2,800億円)とし、2031年に約800億ドル(約12兆5,600億円)へ拡大すると予測。光チップ市場は2025年の40億ドル(約6,280億円)から2031年に150億ドル(約2兆3,550億円)へ伸び、内訳はInPレーザーが69億ドル(約1兆833億円)、シリコンフォトニクスチップが63億ドル(約9,891億円)と見込まれる。
日本勢の現在地も直視すべきだ。2000年代から2010年代前半にかけて光トランシーバの上位常連だった日本企業は、いまや完成品トップ10からほぼ姿を消した。LightCountingの2024年ランキングでは中国のInnoLight(中際旭創)が世界1位、Eoptolinkが3位で、トップ10のうち7社が中国勢である。それでも本稿で見てきたとおり、InP基板、EML、MTフェルール、Tガラス、ABF、テスタといった上流の急所では、日本企業が依然として世界の供給を支えている。


IOWN構想のタイムライン——2019年から2032年まで

構想の起点は2019年4月、NTTの光電融合型素子の成果がNature Photonicsに掲載されたことにある。翌5月にIOWN構想が発表され、10月31日にNTT・Intel・ソニーがIOWN Global Forumの設立合意を発表、2020年1月に米国で設立された。
2023年3月16日、NTT東西が世界初のAPN商用サービス「APN IOWN1.0」を開始し、遅延200分の1を達成。同年8月1日にNTTイノベーティブデバイスが事業を開始した。2024年4月17日には改正NTT法が成立して研究成果の開示義務が撤廃され、8月29日には台湾・中華電信と世界初の国際間APN(約3,000キロメートル、約17ミリ秒)を開通させた。
2025年は実証の年だった。4月13日から10月13日の大阪・関西万博で光電融合デバイス実装サーバーを消費電力8分の1で184日間稼働させ、7月1日に「NTT株式会社」へ商号変更。10月6日にIOWN 2.0を発表し、Broadcom・Accton・新光電気工業とのエコシステムで102.4テラビット毎秒の光電融合スイッチを2026年度に商用化すると明言した。11月のR&Dフォーラム2025では、島田明社長がIOWN 2.0から3.0、4.0へのロードマップと光量子コンピュータへの展開を提示している。
2026年は商用化の年である。3月のMWC Barcelona 2026とOFC 2026で光電融合と光量子コンピュータを展示、4月14〜17日のシドニー年次総会で会員が180を超え、5月8日に新戦略「New Value Creation 2030 Powered by IOWN & AI」を発表、6月10日に約800億円のIOWN AI Fundを組成した。9月29日〜10月2日にはアムステルダムで中間総会が開かれる。そして2026年度第4四半期(2027年1〜3月)、光電融合スイッチの商用サンプルが出荷される予定だ。
その先は、2028年にPEC-3の光チップレット商用サンプルと、NEDOが採択したLSTC主導の光電融合パッケージング拠点(千歳)の完成。2029年ごろにIOWN 3.0でチップ間接続と伝送容量125倍。2030年に光量子コンピュータ100万量子ビット級を目標とし、2032年ごろのIOWN 4.0でチップ内の光化と電力効率100倍という最終形に至る。

投資家と各紙はどう報じているか——「上がらないNTT株」と沸騰する周辺銘柄

報道の論調は、この2年で「期待」から「条件付き評価」へ明確に変わった。日経クロステックは2025年10月に「光電融合、製品化ラッシュ NTTや国内素材大手は勝負の年」として、先頭を走るのはNVIDIAとBroadcomであり、NTTはIOWNへの活用で巻き返す立場だと位置づけた。東洋経済オンラインは2025年10月13日付で「IOWN構想から6年、世界で幕が上がる光電融合の開発競争」と題し、NTTが最大の強みである光技術でデバイスメーカーとして存在感を示せるかを問うた。最も厳しいのがNikkei Asiaの2026年6月17日付記事で、生成AIの急拡大とNVIDIAらの光インフラ進出によりIOWN構想の戦略的地位が相対的に低下したと論じている。IEEE ComSoc Blogも2026年5月9日付で「NTTのIOWNは(ようやく)オールフォトニクス・ネットワークへ進化しつつある」と、進捗の遅さを含意する見出しを掲げた。一方で日経クロステックは「光電融合の国内動向、NTTだけにあらず 部素材に強み」として、IOWN一色の見方を相対化する記事も出している。
株式市場の反応は、この論調と正確に一致している。NTT株は2026年8月上旬時点で150円台前半、時価総額約13.8兆円で横ばいが続き、現代ビジネスは2026年4月3日付で「NTT株はなぜ上がらない?決定的技術『IOWN』について足りない『ひとつのこと』」という記事を掲載した。2026年5月8日には上限2,000億円の自己株式取得を決議し、予想年間配当5.4円で利回りは約3.5%だが、AI相場のなかでは物足りない。一方、周辺銘柄は沸騰した。フジクラは2024年に株価が約6倍となり日経平均採用銘柄の値上がり率トップ、日東紡はAI基板向けTガラスの独占的地位が意識されて2026年1月に10連騰、アドバンテストは2025年から2026年にかけて再三の上場来高値更新、キオクシアは上場から1年半で時価総額が約30倍となり一時トヨタを抜いた。会社四季報オンラインは2026年5月と6月に「光電融合21銘柄」の特集を組んでいる。
資本の動きも見ておきたい。国内では新光電気工業がJIC主導で非公開化され、JX金属が2025年3月に大型上場、白山とFOCが古河電工へ、本多通信工業がミネベアミツミへと、光電融合の中核部品が次々に資本の傘の下で再編されている。海外ではAyar Labsが2026年3月に5億ドル(約785億円)を調達して評価額37.5億ドル(約5,890億円)、Lightmatterが4億ドル(約628億円)で評価額44億ドル(約6,908億円)、Celestial AIはMarvellに買収された。この落差は明白で、日本は「部材の再編」、米国は「新規プレーヤーの創出」に資本が向かっている。
政策面では、NEDOグリーンイノベーション基金「次世代デジタルインフラの構築」(総額1,836.1億円)が富士通、NEC、アイオーコア、キオクシア、京セラらを支え、ポスト5G基金は経済産業省・NEDOがNTTイノベーティブデバイスの光電融合デバイス実用化に最大452億円を措置した。2026年4月にはLSTCの「光電融合を加速する半導体パッケージング技術開発」がNEDO事業に採択され、Rapidusの後工程拠点に隣接する千歳に2028年度完成予定の拠点整備が動き出している。TowerへのSiPh投資に経産省が最大約1,600億円を助成する決定も、この文脈の延長にある。


VCの視点——34社が示す「日本の勝ち筋」と、これから計測すべきこと

34社を一望して浮かび上がるのは、日本の産業構造が持つ独特の非対称性である。完成品――スイッチ、GPU、光トランシーバのモジュール――では日本勢は既に主導権を失っている。にもかかわらず、その完成品を作るために不可欠な急所は、驚くほど多くが日本にある。レーザーの畑であるInP基板(住友電工・JX金属)、光を結合するMTフェルールとコネクタ(白山・SENKO・本多通信工業)、パッケージ基板(イビデン・新光電気工業・TOPPAN・DNP)、その中の絶縁材と補強材(味の素・日東紡・レゾナック)、パターンを描くレジストとマスク(信越化学・TOK・AGC)、そして良否を判定する測定器(アドバンテスト・アンリツ・横河電機・santec)。ゴールドラッシュで最も確実に稼いだのは金を掘った者ではなく、つるはしとジーンズを売った者だった――その構図が、AIインフラという現代のゴールドラッシュでほぼそのまま再現されている。
シリコンバレーのVCがこの領域をどう見ているかは、投資の流れが物語る。第一に、彼らは「銅は死んだ」と腹をくくっている。AIが伸びる限り光化は不可避だという確信である。第二に、投資の重心が研究志向のベンチャーから、現実的な量産ロードマップを持つ企業へ明確に移った。Ayar Labsの5億ドルは研究資金ではなく量産・試験能力への投資だ。第三に、地政学が価値になった。GlobalFoundriesが2025年11月にシンガポールのAdvanced Micro Foundryを買収して「China-free」を掲げ、NVIDIAがInPレーザーの製造能力そのものに40億ドルを投じたのは、供給網の物理的な確保が投資判断の中心に来たことを意味する。この三点は、日本の部材・装置企業にとってはいずれも追い風である。
ただし、勝ち筋には三つのリスクが張り付いている。第一が「量産メーカーの空白」だ。部品で強くても、それを束ねて世界規模で量産する完成品プレーヤーが日本には乏しい。NTTイノベーティブデバイスとTPSCoがその空白を埋められるかが問われる。第二が素材の上流リスクで、InPの需給逼迫とTFLNにおける中国のウエハー独占は、日本の強みすら供給制約に飲み込まれかねない。第三が設計の決定権で、CPOのアーキテクチャを決めるのはNVIDIAとBroadcomであり、日本企業はその仕様に合わせて部材を出す立場にとどまりやすい。新光電気工業が「TSMCにはない魅力を」と光電融合の製造受託に踏み込もうとしているのは、この構造から抜け出す試みだと読める。
これから何を計測すべきか。直近では、2026年9月20〜24日のECOC 2026、10月13〜16日のCEATEC 2026、9月29日〜10月2日のIOWN Global Forum中間総会(アムステルダム)、例年11月のNTT R&Dフォーラム、そして2027年3月7〜11日のOFC 2027が、技術の到達点を確認する定点となる。企業側では、2026年度第4四半期に予定されるNTTの光電融合スイッチ商用サンプル出荷が最大の関門であり、これが遅れれば構想全体のスケジュールが後ろにずれる。並行して、フジクラ・古河電工・住友電工の各決算における光・データセンター事業の売上比率、イビデンの5,000億円投資とTOPPAN・DNPのガラスコア基板の量産判断、Towerの魚津新工場の建設進捗と2027年5月のシリコンフォトニクス供給開始、そして日東紡の福島新棟が2027年に予定どおり立ち上がるか。これらはいずれも、IOWNという構想が絵で終わるか産業になるかを、決算と工場という具体で示してくれる指標である。
2026年から2028年は、日本が「黒子の部品屋」から「実装の主役」へ一段上がれるかどうかの正念場だ。NTTのPEC-2商用化、千歳に集積する光電融合パッケージング拠点、そしてTowerの300ミリメートル・シリコンフォトニクス工場――この三つが噛み合った先に、日本が急所を握る国から流れを決める国へ進化できるかが懸かっている。

