大さん橋に浮かぶ実験室──何が、どう動いているのか

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 大さん橋に浮かぶ実験室──何が、どう動いているのか - 章扉

横浜港大さん橋ふ頭の突端に、縦25メートル、横80メートルの平たい鋼製浮体が係留されている。国が所有し横浜市港湾局が管理するこの「ミニフロート」は、本来は災害時に緊急物資を海上から搬出入するための施設で、平時は花火の打ち上げ台などに使われてきた。2026年3月25日、その上でテープカットが行われ、世界で初めて再生可能エネルギーだけで動く浮体型データセンターが稼働を始めた。

積まれているのは、コンテナ型データセンターと太陽光発電設備、そして蓄電池設備の3点セットである。太陽光の出力は44kW、蓄電池は出力80kW・容量358kWh。データセンター内にはサーバーラック4基分のGPUサーバが収められ、電力負荷は最大でも20kW程度にとどまる。重要なのは、この設備が商用電力系統に接続されていないことだ。日中に太陽光で発電した電力を蓄電池に溜め、夜間や曇天時はそこから放電してGPUを回す。系統からの補給も、非常用発電機による下支えもない完全なオフグリッド運転である。データの出入りは携帯電話回線を使っており、将来的に沖合へ出る場合は衛星通信や海底ケーブルの利用が検討されている。

5者の役割分担は明確に切り分けられている。日本郵船がプロジェクト全体を統括して洋上データセンター事業の開発を推進し、NTTファシリティーズが設計・構築・安定運用の技術検証を担う。ユーラスエナジーホールディングスは再エネ100%で運用するオフグリッド型データセンターの技術検証を、三菱UFJ銀行は金融知見とネットワークを活用した次世代データセンターの事業共創および関連事業に係る金融支援の検討を担当する。横浜市はカーボンニュートラルポート形成に向けたリーディングポートとして海域での再エネ活用を検討し、あわせて大さん橋ふ頭の陸上電力供給設備への導入を含めた災害時の再エネ・蓄電池活用も検討する。

2026年度末までを目処とする検証項目は、大きく三つに絞られている。塩害環境下での機器の耐久性、波による三次元的な振動が精密機器に与える影響、そして複数の再エネ電源と蓄電池を組み合わせたエネルギーマネジメントである。NTTファシリティーズ技術部門長の橋本誠一郎氏はマイナビの取材に対し「三次元の動きに関しては非常に関心が高い」と述べ、技術的な課題は揺れと塩害の二つに収斂すると整理したうえで「見通しとして、実現できると考えています」と語っている。日本郵船で実証を率いる寿賀大輔チーム長も日経クロステックに対し「塩害は現在運航している船と同じように対策すれば計算上問題ない」「振動も問題ない範囲だと考えているが、揺れを抑える仕組みもあるため必要に応じて導入する」と述べており、外航海運で精密機器を船上運用してきた蓄積がそのまま前提条件になっている。

このプロジェクトは、いきなり実証から始まったわけではない。5者が覚書を締結したのは2025年3月27日で、当初は2025年秋から約1年間の実証を予定していた。開始は半年ほど後ろにずれたが、その間の2026年2月9日には内閣府の日本オープンイノベーション大賞で総務大臣賞を受賞している。審査員は「脱炭素対応とデータセンター需要急増への対応を両立して進めることの社会的意義は大きい」「各業界を代表する企業が連携して取り組むことの事業規模・社会的インパクトは非常に大きい」と評価した。さらに遡れば、発端は日本郵船社内の草の根である。2022年ごろから「海」をテーマにした新規事業の議論が社内で始まり、2023年に6名の有志がワーキンググループを立ち上げ、社内の研究開発支援制度「みらいファンド」を使って構想を育てた。開所式の運営を担ったのは2025年入社の若手社員だったという。

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洋上浮体型データセンター(FDC)とは何か

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洋上浮体型データセンター(Floating Data Center、FDC)は、文字どおり海に浮かぶ構造物の上にサーバー設備を載せたデータセンターを指す。海底に沈める「海中型(UDC)」とは区別され、バージ(非自航台船)を岸壁に係留するタイプ、既存の船舶を改造するタイプ、外洋に設置する専用浮体型まで幅がある。横浜の実証は、既設の浮体式係留施設にコンテナ型データセンターを載せた最も軽量な形態にあたる。

なぜ海なのか。答えは陸上データセンターが同時に抱える三つの不足にある。第一に電力である。系統接続の順番待ちは首都圏・近畿圏で常態化しており、送電線の増強工事を待つと稼働まで数年を要する。第二に用地である。都心に近く、地盤が良く、水と電気が来ていて、周辺住民の理解が得られる土地は事実上枯渇しつつある。第三に環境負荷と時間である。建設費の高騰と工期の長期化が重なり、AIの需要拡大速度に供給が追いつかない。

海上に出ると、この三つが一度に緩む。用地の取得も地盤改良も杭打ちも要らず、洋上風力発電所の隣に置けば送電ロスなしで電力を引ける。浮体は造船ドックで組み上げて曳航できるため、現地工事がほとんど発生せず工期が劇的に短くなる。NTTファシリティーズの児玉和之氏は「海であれば候補が膨大にあります」「造船所で組み上げ、それを必要な場所に海上輸送で持っていくことができます」と説明し、さらに「陸の場合は移設はできませんが、海の場合は移設ができる」という資産としての柔軟性にも言及している。冷却も有利で、海水を汲み上げて熱交換器を通し、データセンター内を循環する真水を冷やす多段ループ方式を採れば、陸上より大幅に低いPUEが期待できる。日本郵船の社内報では、海水冷却の導入によって運用コストが通常比で3〜4割削減できる可能性が示されている。地震国の日本では、沖合であれば免震構造が不要になり、津波の影響も受けにくいという副次的な利点も加わる。

逆に不利な点も明確である。塩水と波は機械にとって単純に敵であり、腐食と振動が長期信頼性を削る。海上での保守は陸上より手間もコストもかかり、部品交換の即応性は落ちる。通信は海底ケーブルを敷くか衛星に頼るかの二択で、後者は帯域・遅延・可用性のいずれでも妥協を伴う。そして最大の問題は規模である。ハイパースケーラーが建設している数百MW〜GW級の施設と比べると、現在提案されているFDCは一桁も二桁も小さい。海洋への排熱が生態系に与える影響の評価も、AIアクセラレータの短い更新サイクルと洋上設備の長い償却期間のミスマッチも、まだ解かれていない。

先行事例の教訓は重い。Microsoftは2015年にカリフォルニア沖、2018年にスコットランド沖で「Project Natick」を実施し、12ラック・864台のサーバーを海中に沈めた。2020年に回収した際の故障率は陸上施設の8分の1という好結果だったが、同社は事業化に進まなかった。Googleは2008年に浮体式データセンターの特許を取得し2013年に試験を行ったが、連邦海事安全規制への対応にかかる時間とコストを理由に撤退している。日本郵船の森福将之氏がNTTファシリティーズの事例記事で「ルールメイキング」の重要性を挙げているのは、まさにこの歴史を踏まえてのことだろう。

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日本郵船──1885年創業、141年目の海運会社が浮かべるサーバー

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 日本郵船──1885年創業、141年目の海運会社が浮かべるサーバー - 章扉

日本郵船の起点は、1885年(明治18年)9月29日である。政府の仲介により、岩崎彌太郎が率いた郵便汽船三菱会社と、三井系の共同運輸会社が合併して日本郵船会社が設立され、10月1日に創業した。資本金1,100万円のうち500万円は岩崎家の出資である。彌太郎は1873年に三菱商会と改称し、1875年に政府から日本海運を任されたことを機に海運部門を郵便汽船三菱会社としたが、共同運輸との激烈な運賃競争で両社とも消耗し、共倒れを恐れた政府が調停に入った結果が合併だった。白地に赤二線の社旗「二引」は、この二社合併を意味している。彌太郎自身は合併の年に世を去った。

以後の歩みは、日本の産業史そのものである。1893年に日本初の遠洋定期航路であるボンベイ航路を開設し、1896年には欧州・シアトル・豪州の三大航路を揃えた。1916年のパナマ運河開通を受けてニューヨーク線を開き、1926年に第二東洋汽船、1939年に近海郵船を合併して船隊を厚くした。だが戦争がすべてを奪う。1945年の終戦時、所有船舶はわずか37隻まで減っていた。

戦後の再建は、船種の高度化と結びついていた。1959年に初の原油タンカー「丹波丸」、1962年には世界初の大型LPG専用船「ブリヂストン丸」を竣工させ、1964年の海運集約で三菱海運と合併して規模を回復する。1968年には日本初のフルコンテナ船を北米西岸航路に就航させ、1970年に自動車専用船、1974年に大井ふ頭の自営コンテナターミナル、1983年にLNG専用船「越後丸」と、現在の収益源となる船種を次々に立ち上げた。1991年に日本ライナーシステム、1998年に昭和海運を合併して総合物流企業へと脱皮し、2005年には日本貨物航空を連結子会社化して空も押さえた。2017年には邦船3社のコンテナ船事業を統合したONEを設立し、2018年から事業を開始。2019年に有人自律運航船に向けた自動運航実証に世界で初めて成功し、2021年には2050年ネット・ゼロエミッションを宣言、2024年には世界初のアンモニア燃料商用船「魁」を竣工させている。洋上データセンターは、この「世界初」の連なりの最新項に位置づけられる。

現在の経営は、稼ぎ頭の偏りと市況変動という積年の課題を抱えている。2026年3月期の連結業績は売上高2兆4,236億円(前期比6.4%減)、営業利益1,386億円(同34.3%減)、経常利益2,111億円(同57.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益2,117億円(同55.7%減)。定期船事業の経常利益は前年から2,245億円も減り、自動車事業も円高とインフレによるコスト上昇で979億円と154億円減った。日経ビジネスは、コンテナ船と自動車輸送が全体の利益の4分の3以上を占めるという集中度の高さを指摘し、トランプ関税による不透明性がこの構造を直撃しかねないと報じている。

ところが足元では風向きが変わった。2026年7月30日、同社は2027年3月期の業績予想を上方修正し、売上高2兆8,810億円(前期比19%増)、経常利益2,500億円(同18%増)、純利益2,400億円(同13%増)とした。従来予想からそれぞれ2,760億円、650億円の上振れで、純利益は1,950億円(8%減)の減益予想から一転して増益に転じた。米政権の代替関税が7月下旬に期限切れとなるのを見据えた「駆け込み輸送」が急増し、年末商戦向けの出荷が前倒しされてコンテナ運賃が上がったことが理由である。日本経済新聞は7月31日、これを受けて年間配当が従来予想の200円から240円前後へ引き上げられる公算が大きいと報じた(前期実績は230円、配当性向40%の方針)。

だが駆け込み需要は定義上一過性である。曽我貴也社長が「120%の力」で挑むべきは新規事業だと語り、自動車・エネルギー・ドライバルクの3事業を「ボラティリティを抑える機関車」と位置づけているのは、この構造を熟知しているからだ。2023年度から始まった中期経営計画「Sail Green, Drive Transformations 2026」は4年間で当初1.2兆円、後に約1.4兆円へ増額された事業投資を掲げ、最終年度である2026年度の経常利益目標を2,700億円としている。洋上データセンターは、アンモニア燃料船や宇宙関連事業と並ぶ新規事業群の一角として、2026年4月に同社が「DXプラチナ企業2026-2028」に選定された際の評価対象にも挙がっている。海運から離れた領域に見えて、実際には浮体設計、係留、船上での精密機器運用、そして港湾当局との折衝という、この会社にしか蓄積されていない能力の再利用である点が本質だ。

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NTTファシリティーズ──国内DCの7割に関与する「見えない巨人」

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NTTファシリティーズは1992年12月1日に営業を開始した、資本金124億円の企業である。株主はNTTアーバンソリューションズが100%を保有し、グループ連結の売上高は2,532億円(2025年度)、従業員数は7,300名(2026年3月31日時点)。代表取締役社長は川口晋氏が務める。一般的な知名度は高くないが、この会社の実力を端的に示す数字がある。同社は日本オープンイノベーション大賞受賞時のリリースで、2024年から2026年に竣工(予定含む)する国内データセンターのうち約7割に、件数ベースで何らかの形で関与していると自ら開示している。

強みの源泉は、100年以上にわたる通信ビルの設計・構築・保守で培ったノウハウにある。無停電を絶対条件とする通信局舎の電源設計・空調設計・防災設計は、そのままデータセンターの要求仕様と重なる。同社はデータセンター空調自動制御システム「Smart DASH」で2012年のGreen Grid Datacenter Award最優秀賞を受けるなど省エネ技術で実績を重ね、2022年にはデータセンター関連機能を一元化した「データセンターエンジニアリング事業本部」を新設して体制を集約した。取締役の山田隆史氏が同事業本部長を務めている。今回の実証で同社が担う「設計・構築・安定運用の技術検証」は、単に洋上仕様を作るという話ではない。同社は受賞時のリリースで、技術検証を通じて「洋上に限らない将来のデータセンターに共通して活用可能なエンジニアリングノウハウの蓄積を行っていきます」と明言しており、狙いは自社のエンジニアリング資産の更新にある。

一方で課題も見えている。第一に規制環境の激変である。2026年4月から省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業への措置が始まり、年度のエネルギー使用量が原油換算1,500kl以上の事業者、およびエネルギー使用量1,500kl以上またはサーバー室面積300平方メートル以上のデータセンターが対象となった。ベンチマーク指標は対象事業者の平均PUE1.4以下、2029年度以降に新設する施設のエネルギー効率基準はPUE1.3以下である。電気使用量とPUE実績値の報告に加えて年度末までのウェブ公表も義務化され、2026年度以降はホスティング・クラウド型の事業者も対象に加わった。設計を担う同社にとっては追い風であると同時に、要求水準が一段上がったことを意味する。第二に、この規制強化は液冷や海水冷却のような新方式への移行圧力を強めるが、それは同社が長年最適化してきた空冷ベースの設計資産の陳腐化リスクでもある。第三に、NTTグループ内にはNTTデータグループ傘下のNTT Global Data Centersという自らデータセンターを保有・運営する事業体があり、施設エンジニアリングに軸足を置く同社との役割分担をどう描くかは、AI時代の設備投資競争が激しくなるほど問われることになる。

NTTファシリティーズの児玉和之氏は洋上データセンターについて「われわれの試算では、非常に大きなコスト低減が可能であると見込んでいます」としつつ、市場全体を置き換えるとは考えておらず「マーケットの10%から20%くらい」を洋上が補完する姿を想定していると述べている。同氏はまた「2027年あるいは2028年頃には次のステップに進める」との見通しも示している。技術者としての慎重さと、事業としての現実的な射程が両立した発言と言える。

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ユーラスエナジーホールディングス──国内風力No.1の強みと、洋上風力の逆風

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ユーラスエナジーホールディングスは2001年11月1日設立(2002年9月30日に現商号へ変更)、資本金181億9,920万円、豊田通商が100%を保有する再生可能エネルギー専業会社である。代表取締役社長は諏訪部哲也氏、グループ従業員数は806名(2026年4月時点)。同社は国内における風力・太陽光の連系容量5.1GWで国内No.1を掲げ、18の国と地域で180件のプロジェクトを操業している。日本オープンイノベーション大賞のリリースでも「日本国内における風力発電の連系容量国内シェアNo.1」を自認した。

現在の資本構成に至る経緯は、日本の再エネ業界の一つの転換点だった。同社はもともと豊田通商と東京電力ホールディングスの合弁だったが、2022年5月26日に豊田通商が東電HDの保有する40%を取得すると発表し、同年8月1日に完全子会社化が完了した。東電HDはこの売却で1,184億円の譲渡益を計上している。2025年4月1日にはグループのテラスエナジーと経営統合し、ユーラスエナジーを存続会社として体制を一本化した。

このプロジェクトにおける同社の役割「再生可能エネルギー100%で運用するオフグリッド型データセンターの技術検証」は、実は横浜の実証だけで閉じていない。豊田通商とユーラスエナジーは2026年1月14日、北海道稚内市で国内初の風力発電所直結型グリーンデータセンター事業の開始を発表した。ユーラスエナジーが土地と建屋を整備し、隣接する樺岡ウインドファーム(4,200kW×10基=42,000kW、2024年2月営業運転開始)から自営送電線を通じて「生グリーン電力」を直接供給する構造で、初期の受電容量は3MW、2026年4月着工、2027年中の本格稼働を目指す。豊田通商グループは稚内地域で10件の風力発電所、総連系容量525.5MWを運営しており、2030年頃を目途に10MW〜20MW規模の次期データセンター、その先には大規模なデータセンター集積エリア開発まで構想している。横浜の浮体上で検証するオフグリッド制御は、この陸上プロジェクトと共通の技術基盤の上にある。逆に言えば、同社にとって洋上は選択肢の一つであって、必須ではない。

課題は、洋上風力そのものの停滞である。三菱商事を中心とする陣営は2021年の第1ラウンドで秋田県沖など3海域を極めて低い価格で総取りしたが、想定を超える建設コストの上昇を理由に2025年8月に撤退を表明した。中西勝也社長は「売電価格が2倍以上でも投資回収できない」と説明している。国は2025年末までに原則20年間の固定費回収を可能とする追加支援策を示して撤退の連鎖を食い止めにかかったが、第4ラウンドの公募プロセス再開は2026年夏以降にずれ込む見通しで、評価軸も価格重視から実現性・供給網・地域調整の重視へと転換する局面にある。ユーラスエナジー自身は北海道島牧郡島牧村沖で最大出力約550,000kW規模の着床式案件を進めているが、「洋上風力の隣に浮体型データセンターを置く」という2030年以降の絵は、洋上風力の建設スケジュールが遅れればそのまま後ろにずれる。同社にとって最大のリスクは技術ではなく、自社が最も得意とする電源そのものの制度環境にある。

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三菱UFJ銀行と横浜市──「カネ」と「海面」を握る二つのイネーブラー

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三菱UFJ銀行の役割は、金融知見とネットワークを活用した次世代データセンターに関する事業共創、および関連事業に係る金融支援の検討である。表彰式には常務執行役員営業本部長の石川幸治氏が出席した。実証段階のプロジェクトに銀行がなぜ入るのかは、この事業の資金需要の性質を考えれば明快である。浮体型データセンターは船舶に近い資産でありながら、キャッシュフローの源泉はコロケーション契約というデータセンター事業のそれになる。船舶ファイナンス、プロジェクトファイナンス、不動産・インフラの証券化のいずれの型にも収まりきらない資産をどう格付けし、どう担保設定し、どう保険を付けるか──この設計を実証段階から一緒に考える相手がいなければ、商用化フェーズで資金が付かない。銀行が「金融支援」ではなく「事業共創」を先に置いているのは、その順序を理解しているからだ。

同行の実績は数字で裏づけられる。三菱UFJ銀行はプロジェクトファイナンスの専門誌Project Finance Internationalのグローバルアレンジャー・リーグテーブルで2012年から2019年、および2022年から2025年にかけて世界1位を獲得している。日本経済新聞は2026年5月、インフラや資源開発への融資額が2026年3月期に初めて100兆円規模となり5年前の2倍になったこと、前期首位が三菱UFJであったことを報じた。AIデータセンターへの傾斜も明確で、同行は2025年12月にBlackRock、Microsoft、NVIDIAなどが参画するAIインフラストラクチャー・パートナーシップ(AIP)と出資契約を結んだ。同枠組みの規模は300億ドル(日経の換算で4兆6,500億円)とされる。さらに同行は、横浜市・東京電力パワーグリッド・海上パワーグリッド・戸田建設と組んだ「電気運搬船」プロジェクト(浮体式洋上風力の電力を蓄電池搭載船で運ぶ世界初の構想、2025年1月覚書締結)にも名を連ねており、横浜臨海部の脱炭素インフラに面で関与している。ちなみに海上パワーグリッドが実施した約11億円の資金調達には、パワーエックス、日本政策投資銀行などとともに日本郵船も出資者として参加していると日本経済新聞は報じている。5者連合は、この地域ですでに何重にも重なった関係の上に立っている。

横浜市が提供しているのは、実は最も稀少な資源である。データセンターを海に置こうとすると、まず海面利用の許可という壁にぶつかる。同市は既設の防災用ミニフロートという「使ってよい海面」と、カーボンニュートラルポート(CNP)という政策的な正当性の両方を差し出した。横浜市臨海部から排出されるCO2は市域全体の約4割を占めており、同市は港湾脱炭素化推進計画(令和7年3月25日策定、令和8年4月に第3回改訂)で2030年度にCO2を2013年度比47%減の480万t削減、2050年に実質ゼロという目標を掲げ、121の事業を推進している。実績も積み上がっており、2024年7月には世界初のTruck to Ship方式によるアンモニア供給、2026年2月には日本初のShip to Shipメタノール給油を実施した。表彰式に出席したのは港湾局政策調整部長の林総氏、開所式には副市長の平原敏英氏が名を連ねている。横浜港臨海部ではJERAが発電所内にデータセンターを整備する計画も動いており(日本経済新聞、2026年2月10日)、市は「電力のある水際」という自らの立地条件を明確に商品化しにきている。

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世界のFDC競争──中国は商用化、韓国は造船ドック、米国はVCマネー

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日本の5者連合が「世界初の再エネ100%浮体型データセンター」を名乗れたのは事実だが、洋上コンピューティング全体で見れば日本は先頭ではない。2026年の1年間だけを切り取っても、地域ごとにまったく性格の異なる競争が同時進行している。

最も先へ進んでいるのは中国である。北京Highlander Digital Technologyが2020年に設立したHiCloud(海兰云)は、上海臨港新片区の沖合、水深約35メートルの海底に24MWのデータセンターを設置し、2025年6月に着手、10月に設置完了、2026年2月からの試験運転を経て同年5月に本格商用運転に入った。約2,000台のサーバーを収容し、周囲を50基を超える洋上風力タービンが囲む。公表されているPUEは1.15以下、グリーン電力比率は最大95%、年間6,100万kWhの節電、土地利用90%削減、水使用ゼロという数字が並ぶ。建設費は約2億2,600万ドル(約355億円)と推計され、利用者にはChina Telecomやリンクワイズ(LinkWise)が名を連ねる。浮体ではなく海中型だが、「実証」ではなく「商用運転」に到達している点で一歩先にいる。

韓国勢は造船ドックという物理的資産を武器に一気に押し寄せている。サムスン重工業は2026年4月に米国で開催されたData Center Worldで5万kW級浮体式データセンターの概念設計認証を取得し、LNG自家発電を備えたバージ型モデルで2028年4〜6月期の商用化を狙う。同社は米Supermicroと共同開発協約を結び、2026年6月のPosidonia(アテネ)ではLloyd's RegisterおよびCapital Clean Energy Carriers Corp.と浮体式データセンター設計の共同開発プロジェクト(JDP)でMOUを締結した。この枠組みでは、サムスンが技術と建造、Capitalが用地開拓と投資、Lloyd's Registerが規制基準と認証を担う。HD現代グループのHD韓国造船海洋は2026年7月7日、仏Schneider Electricと浮体式データセンターの共同開発でMOUを締結し、洋上プラットフォーム上に電力・冷却インフラと浮体技術を統合する設計技術を共同開発すると発表した。ハンファオーシャンも参入を検討中と報じられている。中央日報は、陸上データセンターの建設費が10万kW当たり8億〜12億ドル(約1,250億〜1,880億円)であるのに対し、浮体式は海水冷却設備や安全設備が加わるぶん単価も収益性も高くなるとの業界評価を伝え、「大型浮体式データセンターを作れる大型ドックを持つ造船所は世界的に韓国、中国、日本程度」だと指摘している。

シンガポールは土地・電力・水の制約が最も厳しい市場であり、そのぶん実装が具体的だ。Seatriumの技術子会社Seatrium Technology & Innovationは2026年7月27日、Bureau Veritas Marine & Offshoreから30MWの自給電力型浮体式データセンターコンセプトについて基本承認(AiP)を取得した。ジェッティ係留の非自航バージに、IT機器・冷却・配電を1つに収めた5MWの「Data-in-a-Box」モジュールを6基積む構成で、天然海水冷却を用いる。同社は並行して100MW級の開発も進めており、ハイパースケール展開への道筋を示すとしている。Keppelはさらに実務的で、2019年から開発してきた浮体式データセンターについて2023年に規制承認を得て、2026年に着工、2028年の稼働を予定している。容量は約25MWで、Keppel Data Centre Fund IIが支援し、グローバルハイパースケーラーの利用がすでに確約されている。

米国では性格がまったく異なる。象徴的なのがPanthalassaだ。オレゴン州ポートランド近郊を拠点とする同社は2026年5月、Peter Thielがリードする1億4,000万ドル(約220億円)のシリーズBを発表した。新規投資家にはJohn Doerr、Marc BenioffのTIME Ventures、Max LevchinのSciFi Ventures、Susquehanna Sustainable Investments、Hanwha Group、Anthony Pratt、Fortescue Ventures、Future Positive、Supermicroなどが並び、既存投資家のFounders Fund、Gigascale Capital、Lowercarbon Capital、Unless、WovenEarthも追加出資した。累計調達額は2億1,000万ドル(約330億円)に達する。Financial Timesは同社の評価額を約10億ドル(約1,570億円)と報じた。CEO兼共同創業者はGarth Sheldon-Coulson氏。技術は独特で、海面で上下動する球体と水面下に伸びる約280フィート(約85メートル)の鋼製構造が波エネルギーを取り出してタービンを回し、密閉したAIサーバーを周囲の海水で冷やす。外部との通信はStarlinkを想定する。2026年中に北太平洋でOcean-3のパイロットノードを展開し、2027年の商用展開を目指す。Thiel氏は「未来は想像を超えるコンピューティング需要を要求する」と述べている。

一方で、洋上データセンターの草分けだったNautilus Data Technologiesの軌跡は反対の教訓を残す。同社は2021年からカリフォルニア州ストックトンの90メートル級バージで商用運転を続けており、現在のIT負荷容量は6.5MW。マルセイユにも拠点を持つ。累計調達額は11ラウンドで2億2,300万ドル(約350億円)に達し、直近のシリーズDは2026年1月28日である。しかし同社はメイン州の旗艦データセンター計画を中止し、自らIT設備を持つモデルから、水冷技術「EcoCore」を外部に供給するモデルへと軸足を移した。同社のEcoCore FCDはNVIDIAのVera Rubinアーキテクチャを含む最先端AI GPUクラスタに対応可能と検証されており、発注から12〜16週で世界供給できるという。海に浮かべること自体より、そこで磨いた冷却技術のほうが売れた、という結果である。

英国のAikido Technologiesは2026年3月、15〜18MWの風車と蓄電池、そして10〜12MWのAI計算能力(3〜4MWのデータホール3基)を1つの浮体式洋上風力プラットフォームに統合した「AO60DC」を発表し、ノルウェーで100kWのPoCを実施、2028年に英国沿岸での商用配備を目指す。Mocean Energyも「Blue Core」という自家発電型の洋上データセンター構想を打ち出した。市場予測としてはResearchAndMarketsが浮体式データセンター市場を2023年の2億2,420万ドル(約350億円)から2033年に7億3,260万ドル(約1,150億円)へ、年平均12.57%で成長すると見込んでいる。参考までに、Moody'sは2030年までにAIデータセンターインフラ全体へ最大3兆ドル(約470兆円)が投じられると予想している。桁が三つ違う。

日本国内でも競争は始まっている。商船三井は2026年3月30日、日立製作所および日立システムズと、中古船を改造した浮体式データセンターの開発・運用・商用化に関する基本合意書を締結した。商船三井が船舶改造の企画・推進、港湾当局との協議、係留・保守などの海上運用要件整理、資金調達スキーム検討を担い、日立側がデータセンターの設計・建設・運用の技術検討とITインフラ要件定義、顧客開拓を担当する。対象は自動車運搬船で、約54,000平方メートルの床面積は延べ床面積ベースで日本最大級の陸上データセンターに匹敵する。改造工事は1年程度で済み、陸上建屋型と比べて開発期間を最大3年短縮できる見込みで、日本・マレーシア・米国を中心に2027年以降の稼働開始を見据えている。The Registerは、この構想を120メートル級船舶で20〜73MWの容量と報じた。日本郵船の実証が20kWであることを思えば、商船三井が狙う規模は三桁大きい。同じ日本の海運大手が、一方は小さく速く、一方は大きく重い戦略を選んだ格好である。

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 世界のFDC競争──中国は商用化、韓国は造船ドック、米国はVCマネー - 図表1日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 世界のFDC競争──中国は商用化、韓国は造船ドック、米国はVCマネー - 図表2日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 世界のFDC競争──中国は商用化、韓国は造船ドック、米国はVCマネー - 図表3

投資家の視点──このプロジェクトのどこに値段がつくのか

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 投資家の視点──このプロジェクトのどこに値段がつくのか - 章扉

Peter Thielが1億4,000万ドル(約220億円)を投じたPanthalassaと、日本郵船が横浜港に浮かべた20kWの実証を同じ「洋上データセンター」として括ると、判断を誤る。両者はまったく違う商品を売ろうとしている。

Panthalassaが売っているのは、電力系統から完全に独立した計算能力である。外洋で波から電気を作り、その場でAI推論を回し、Starlinkで結果だけを送り返す。系統接続の順番待ちも、地元の反対も、水利権の争いも存在しない世界を提示しており、それゆえベンチャーキャピタルは「電力制約というボトルネックの完全な迂回路」に賭けている。裏を返せば、外洋での製造・保守コストと衛星帯域の経済性が成立しなければ、企業価値はゼロに近づく。極端に高いリスクと極端に高いリターンの組み合わせであり、これはVCの領域である。

対して日本郵船の座り方は根本的に異なる。同社が売ろうとしているのは、既存資産の再利用によるリスク低減である。浮体設計も、係留も、船上での精密機器運用も、港湾当局との折衝も、すでに社内にある。新規に取りに行くのはIT側の知見だけで、それはNTTファシリティーズが持ち込む。ユーラスエナジーが電源を、三菱UFJ銀行が資金設計を、横浜市が海面と政策的な正当性を差し出す。5者はそれぞれ、自分が既に持っている資産を出し合っているだけで、誰も自社の中核事業を賭けていない。日本郵船にとって20kWの実証にかかる費用は、経常利益2,500億円(2027年3月期予想)の会社にとって丸め誤差である。この構造は、日本のコーポレートベンチャリングにおける現実的な最適解でもある。VCマネーの厚みで劣る日本において、大企業連合が資産を持ち寄って実証コストを分散させる形は、単独ベンチャーがゼロから資金を集める形より遥かに実行可能性が高い。

投資家として問うべきは、したがって「この実証が成功するか」ではなく「成功した場合に誰の企業価値が動くか」である。三つの見立てが立つ。

第一に、日本郵船の株価に洋上データセンターがすぐ効くことはない。2027年3月期の業績予想上方修正を牽引したのはコンテナ船運賃であり、株式市場が同社を評価している軸は依然として市況である。新規事業がPERの前提を書き換えるには、収益が数字として現れる必要があり、それは早くても2028年以降のBay DC以降になる。一方で、市況依存という構造的ディスカウント要因を将来的に薄める材料としての意味はあり、中期経営計画の次期版で非海運事業の利益目標がどう置かれるかは注視に値する。

第二に、真の勝者はエンジニアリングとファイナンスの側になる可能性がある。Nautilusが自社データセンター運営から冷却技術供給へ転換して生き残ったように、洋上データセンターの経済的価値は「海に浮かべること」そのものではなく、その過程で得られる高効率冷却・オフグリッド電源制御・モジュール化設計のノウハウに宿る。NTTファシリティーズが「洋上に限らない将来のデータセンターに共通して活用可能なエンジニアリングノウハウ」を目的に掲げているのは、この構造を正確に射抜いている。同様に、三菱UFJ銀行にとっての本命は横浜の1隻ではなく、船舶ファイナンスとデータセンターファイナンスを接続する新しいアセットクラスを最初に定義することにある。プロジェクトファイナンスの世界一を維持してきた銀行が、AIインフラという次の巨大資産クラスの入口に実証段階から座っているという事実は、それ自体が戦略である。

第三に、規模の壁は依然として最大のリスクだ。ハイパースケーラーが求めるのは数百MW〜GW級の連続した計算能力であり、現在提案されているFDCの30MW、25MW、24MWという数字はその一区画にすら届かない。The Registerが「ハイパースケーラー向けの数ギガワット施設と比較すると、浮体プロジェクトは経済規模で適合困難」と指摘したのは的を射ている。児玉氏が「マーケットの10%から20%」と言い、「通常の陸のデータセンターが全て置き換わるとは考えていませんが、ニーズによる棲み分けはあり得る」と述べているのは、この現実を踏まえた誠実な位置づけだ。逆に言えば、洋上が狙うべきは陸上の代替ではなく、陸上では絶対に成立しないニッチ──島嶼部、電力系統が脆弱な地域、都心至近で低遅延が必要だが用地がない場所、そして出力制御で捨てられている再エネの受け皿である。日本郵船が国内事業化の次にインドネシアやフィリピンなど島嶼部への展開を視野に入れているのは、この論理に沿っている。

Microsoftが技術的には成功したProject Natickを事業化しなかった事実は、投資判断において最も重い先行事例として残り続ける。技術の成立と事業の成立は別の問題であり、後者を決めるのは経済規模、安全性、信頼性、そして規制の受容である。

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 投資家の視点──このプロジェクトのどこに値段がつくのか - 図表1

今後の動き──2027年の小規模商用化から2030年のOcean DCへ

日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 今後の動き──2027年の小規模商用化から2030年のOcean DCへ - 章扉

5者連合が描いているロードマップは、段階を明確に区切っている。まず2026年度末(2027年3月)までに横浜の実証を終え、塩害・振動・エネルギーマネジメントの検証データを揃える。次いで2027年に小規模な商用化に踏み出す。日本郵船専務執行役員の鹿島伸浩氏は日経クロステックに対し「将来的な用途を絞っているわけではないが、小規模なものから始めることで早期の商用化を実現したい」と述べており、いきなり大型化を狙わない方針が示されている。2028年にはLNGを活用した「Bay DC」を、2030年以降には洋上風力発電などと連携した「Ocean DC」を展開する構想が示されている。Ocean DCで想定されているのは、波風の力を受け流す円柱型の浮体で、造船ドックで製作して海上輸送し、現地施工をほぼ不要にする設計である。日経ビジネスや日経ESGは同プロジェクトの商用化目標を「2030年」と、日経クロステックは「2027年」と報じているが、これは小規模商用化の2027年と本格事業化の2030年という二段構えを、どちらの断面で切り取るかの違いに対応している。

短期的に動きが観測されるポイントを挙げるなら、まず2026年度下期から2027年3月にかけての実証結果の公表が最初の関門になる。塩害と振動が「船と同じ対策で足りる」という日本郵船の見立てが数値で裏づけられるかどうかが、次のフェーズの資金調達条件を左右する。次に、2027年の小規模商用化に向けた顧客の獲得である。NTTファシリティーズが指摘するとおり「ユーザーの認知と懸念払拭」が最大の障壁であり、初号案件がどのような顧客・用途で決まるか──科学技術計算か、AI推論か、災害時のバックアップか──で市場の受け止めが変わる。第三に、ルールメイキングの進展である。洋上データセンターは船舶なのか建築物なのか、どの法体系で安全性を担保し、どの船級協会が認証するのか。Seatriumが Bureau VeritasのAiPを、サムスン重工業が概念設計認証を、Lloyd's RegisterがJDPのなかで規制基準と認証を担う体制を作っているのに対し、日本側でClassNKなどがFDC向けのガイドラインをどう整備するかは公表されていない。ここで後れを取れば、技術で先行しても事業で追い抜かれる。

中期では、ユーラスエナジーの稚内プロジェクトが実質的な先行指標になる。宗谷グリーンデータセンターI(仮称)は2026年4月に着工済みで、2027年中の稼働を目指している。風力発電所直結の3MW陸上データセンターが安定運用できれば、洋上でのオフグリッド運転にも同じ制御ロジックが適用できる。逆にここで躓けば、洋上の難易度はその上に積み上がる。同時に、日本の洋上風力第4ラウンドの公募が2026年夏以降に再開されるかどうか、そして評価軸の転換が実際の建設スケジュールにつながるかどうかが、2030年のOcean DC構想の前提を決める。

国際的には、2027年から2028年にかけて複数のFDCが同時に商用化の可否を問われることになる。サムスン重工業が2028年4〜6月期、Keppelが2028年、Aikido Technologiesが2028年、Panthalassaが2027年、商船三井・日立連合が2027年以降。中国のHiCloudはすでに商用運転中で、次の展開規模と海外輸出の有無が焦点になる。日本郵船の実証は20kWと小さいが、この競争のなかで日本が「造船ドックを持つ3か国」の一角として残るための入場券にあたる。2026年度末に出てくる検証データが、その入場券を本券に換えられるかどうかを決める。


日本郵船(NYK)、横浜港での世界初の洋上浮体型データセンター(FDC)の実証実験。NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5社 - 今後の動き──2027年の小規模商用化から2030年のOcean DCへ - 図表1