Coherentとは何か——光を「つくり、測り、動かす」総合フォトニクス企業

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Coherentを一言で表すなら、「光にまつわる部品と材料を、原料の結晶から完成した装置まで一貫してつくる会社」である。半導体が電子を制御する産業だとすれば、フォトニクス(光技術)は光子(フォトン)を制御する産業だ。Coherentはその光子を「発生させるレーザー」「伝える光部品」「加工に使う装置」「その大元になる化合物半導体材料」を、垂直統合で束ねている点に最大の特徴がある。

具体例を挙げると分かりやすい。いま世界中のAIデータセンターでは、何万個ものGPUが互いに膨大なデータをやり取りしている。その配線の大半は、もはや銅線ではなく光ファイバーだ。GPU同士を結ぶ「光トランシーバ」の内部では、電気信号を光のオン・オフに変換する微細な半導体レーザー(EMLやVCSELと呼ばれる素子)が高速で明滅している。生成AIに質問を投げるたび、その信号はCoherentが手がけるタイプの光部品の中を通り抜けている、と言っても大げさではない。

産業の現場に目を移すと、折りたたみスマートフォンの極薄ガラスを割れないように切り出すのも、先端半導体パッケージに髪の毛より細い穴(ビア)を開けるのも、有機ELディスプレイのパネルを結晶化(アニール)するのも、Coherentのエキシマレーザーや紫外線レーザーが担う。工場ではファイバーレーザーが金属を溶接・切断し、EV(電気自動車)の電池セルを接合する。さらに医療・美容機器や科学研究用の精密レーザー、光の量を測るセンサーまで、同社の製品は「光が関わるあらゆる場所」に広がっている。

こうした製品群を支えるのが、亜鉛セレン化物(ZnSe)やインジウムリン(InP)、炭化ケイ素(SiC)といった化合物半導体・光学材料の内製能力である。多くの競合が「レーザーだけ」「モジュールだけ」を手がけるのに対し、Coherentは材料の結晶成長からデバイス、モジュール、装置までを自社で押さえる。売上高では約58億ドル(約9,400億円)とフォトニクス専業として世界最大規模で、従業員は世界で2万人超(2023年時点で約2万6,000人、その後の事業売却で変動)、本社は米ペンシルベニア州サクソンバーグに置く。事業は2025年7月から「データセンター&コミュニケーションズ」と「インダストリアル(産業用)」の2セグメントに再編され、前者だけで全社売上の約75%を占める、まさにAI時代の主役企業へと姿を変えている。

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AIブームの主役に躍り出た——業績・株価・NVIDIA出資

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Coherentが2026年にこれほど注目される最大の理由は、数字が物語っている。2025会計年度(2025年6月期)の売上高は前年比23%増の58億1,000万ドル(約9,410億円)と過去最高を記録。牽引役のデータセンター&コミュニケーションズ部門は43%増の37億5,500万ドル(約6,080億円)に達した。勢いは2026会計年度に入って一段と加速し、第1四半期(2025年9月期)15億8,000万ドル、第2四半期(12月期)16億9,000万ドル、第3四半期(2026年3月期)は前年同期比21%増(会社が示す事業ベースでは27%増)の18億1,000万ドル(約2,930億円)と、四半期ごとに記録を塗り替えている。第3四半期はデータセンター&コミュニケーションズが40%増の13億6,200万ドルに伸びる一方、産業用は16%減の4億4,400万ドルと明暗が分かれた。会社は第4四半期(2026年6月期)に19億1,000万〜20億5,000万ドル(約3,090億〜3,320億円)の売上を見込み、通期では7兆円換算の年間ラン・レートに迫る勢いだ。

株式市場の評価も一変した。COHR株は2026年に入って年初来で106%超上昇し、7月中旬時点でおよそ292ドル(約4万7,300円)、時価総額は約570億ドル(約9兆2,000億円)に膨らんだ。2026年3月23日にはS&P500指数に新規採用され、指数連動ファンドの買いも追い風になった。

そして市場を最も驚かせたのが、2026年3月3日に発表されたNVIDIAからの出資である。NVIDIAはCoherentに20億ドル(約3,240億円)、競合のLumentumにも同額を投じ、合計40億ドル(約6,500億円)を2社に振り向けた。optics.orgなどの報道によれば、うちCoherent分は1株256.80ドル(約4万1,600円)で約780万株を現金取得する株式引き受けで、発行済み株式の数%程度にあたる少数株主となる形だ。これは買収ではなく、あえて両社を残して競争を保ちつつ、AIインフラに不可欠な光部品の供給を囲い込む狙いがある。出資には複数年にわたる購入契約と、後述する次世代技術CPO(共同実装光学)の供給合意が伴う。この20億ドルの現金が第3四半期にCoherentの手元資金を約30億ドル(約4,860億円)へと押し上げ、財務体質の改善を一気に前進させた。

経営を託されているのは、2024年6月に就任したジム・アンダーソンCEOだ。半導体企業ラティス・セミコンダクターのCEOを2018〜2024年に務め、収益性を劇的に改善させた実績を持つ。Fortuneやequilarの集計によれば、アンダーソン氏の2024年の報酬総額は約1億150万ドル(約164億円)と全米CEOで最高額となり、その大半は株式報酬だった。就任時にこれだけの報酬を積んだこと自体が、取締役会が「フォーカスと収益改善」による再建に賭けている表れでもある。同社は2026年7月にはTIME誌の「America's Best Companies 2026」にも選ばれている。

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業界の構図——競合とサプライチェーン、そして「チップに利益が集まる」構造

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Coherentが属する光通信・フォトニクス業界は、AIによって地図が塗り替えられている。TrendForceによれば、AI関連の光トランシーバ市場は2025年の約165億ドルから2026年には約260億ドル(約4兆2,000億円)へと急拡大し、通信速度800Gビット/秒以上の製品が出荷の6割超を占める見通しだ。この爆発的な需要が、業界の勢力図と利益の所在を大きく動かしている。

まず押さえるべきは、光トランシーバという製品には「モジュール(完成品)を組み立てる層」と「その中核となるレーザー・チップをつくる層」の二層構造があることだ。完成モジュールの組み立てでは、中国勢が圧倒的に強い。中際旭創(InnoLight/Zhongji InnoLight)は800Gモジュールで世界シェア3〜4割を握るトップ企業で、Eoptolink(新易盛)がこれに続く。業界推計では両社でNVIDIA向け800G数量の約6割を供給し、中国メーカー全体では世界の光モジュール供給の6割超(2025年に約63%)を占め、世界トップ10のうち7社を中国企業が占めるとされる。

ところが、利益が最も濃く溜まるのはモジュールではなく、その中に入るチップ——EML(電界吸収型変調レーザー)やInP、VCSELといった発光・変調素子——の層である。ここで存在感を示すのがCoherent、Lumentum、Broadcom、そして三菱電機や住友電工といった日本勢だ。「中国が箱を組み立て、欧米・日本のチップ屋が儲ける」という構図が、業界を貫く最大の力学である。Coherentが独特なのは、この二層の両方に立っている点だ。自らモジュールもつくるが、同時に発光素子であるInPレーザーを外販し、ときにはモジュールで競う中国メーカーにもチップを供給する。速度が1.6T、さらに3.2Tへと上がるほど、モジュールの付加価値は薄れ、精密なレーザー・チップこそがボトルネックかつ価値の源泉になる——この「武器商人」的な位置取りこそ、投資家がCoherentを評価する核心にある。

サプライチェーンの最大の関門が、そのInP(インジウムリン)だ。シリコンフォトニクスでも光を「生む」部分にはInP系レーザーが要り、2025年後半にはInP系EMLの逼迫が業界の話題をさらった。NVIDIAが主要EMLサプライヤーの生産枠を前もって押さえ、リードタイムが2027年以降まで延びたと報じられる。ここでCoherentが打った布石が、2025年8月に量産を開始した「世界初」を称する6インチInPウエハーの生産基盤(米テキサス州シャーマンとスウェーデンのイェルフェラ)である。従来の3インチ主体のラインに比べ、1枚のウエハーから取れる素子は4倍、ダイ(チップ)当たりコストは6割以上削減できるという。まさにNVIDIAが40億ドルを投じてCoherentとLumentumの米国生産能力を増強させた背景には、この「光の心臓部」を中国依存から切り離し、信頼できる西側デュオポリ(複占)で確保したいという狙いがある。

競合を分野別に整理すると、データセンター光通信ではLumentum、Broadcom、Marvell(Acacia)、そして前述の中国モジュール勢。産業用レーザーではドイツのTRUMPF(トルンプ)、米IPG Photonics、中国の大族レーザー(Han's Laser)、独Jenoptik、米MKS Instruments。センサー・材料では日本の浜松ホトニクスなどが挙がる。売上規模で見ると、Lumentumが四半期6億6,550万ドル(約1,080億円、2026年12月四半期)でラン・レート約27億ドル、IPGが2024年通期9億7,710万ドル(約1,580億円)にとどまるのに対し、Coherentは年間ラン・レートで70億ドル(約1兆1,300億円)規模と、フォトニクス専業では頭一つ抜けた最大手だ。地域別売上(2025年6月期)は北米が約61%、欧州12%、中国12%、日本7%、その他8%で、米国データセンター向けの比重が急速に高まっている。

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二つの「コヒレント」が一つになるまで——合併による巨大化の歴史

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いまのCoherent Corp.は、社名こそ「Coherent」だが、その本体は実は買収した側の会社である。この一見ややこしい成り立ちにこそ、同社の巨大化の物語が凝縮されている。

物語の一方の主役、旧Coherent, Inc.は1966年5月、物理学者ジェームズ・ホバート氏ら6人が米カリフォルニア州パロアルトで創業したレーザーの草分けだ。当初の資本金はわずか1万ドル。220ボルトの電源を確保するため民家の洗濯室にこもり、雨どいの一部を部品に流用してプロトタイプの工業用レーザーを組み上げたという逸話が残る。同社は商用CO2レーザーの先駆けとなり、1970年に株式を公開。以後、科学・産業・医療・美容と幅広い分野でレーザーを供給する名門へと育った。社名の「Coherent(コヒーレント=可干渉性)」は、位相のそろったレーザー光そのものを指す。

もう一方の主役が、現在の法人格の母体であるII-VI Incorporated(ツー・シックス)だ。1971年、カール・ジョンソン氏らがペンシルベニア州サクソンバーグで創業した。社名の「II-VI」は周期表の第II族と第VI族に由来する。創業事業がテルル化カドミウム(Cd=II族、Te=VI族)だったことにちなんだ、いかにも材料屋らしい命名である。同社はZnSeなどCO2レーザー用光学材料から出発し、半世紀にわたって数十件のM&Aを重ね、化合物半導体・光学材料のコングロマリットへと膨張していった。

そのII-VIが放った二つの大型買収が、現在のCoherentを形づくった。第一が2019年9月に完了したFinisar(フィニサー)の買収で、株式価値ベースでおよそ32億ドル(約5,200億円)。これによりデータコム用トランシーバ、VCSEL、InPといった光通信の中核資産を一気に取り込んだ。第二が2022年7月1日に完了した旧Coherent, Inc.の買収である。買収額は完了時点で約65.6億ドル(約1兆600億円、2021年3月の合意発表時は約70億ドル規模とされた)。II-VIは同年9月、この歴史ある被買収企業の名を採り、社名を「Coherent Corp.」へと改めた。旧II-VIの創業年(1971年)と本社所在地は維持したまま、ブランドだけを載せ替えた格好だ。株式もかつてのNASDAQ(IIVI)から、現在はニューヨーク証券取引所にCOHRとして上場している。

もっとも、巨大化には代償も伴った。二段構えの買収でCoherentの負債は2023年に約42億ドル(約6,800億円)まで膨らみ、資金調達にはベイン・キャピタルやDEショーからの優先株も使われた。ここから同社は「ポートフォリオの外科手術」に乗り出す。2023年10月には炭化ケイ素(SiC)事業に、デンソーと三菱電機がそれぞれ5億ドル(約810億円)ずつ計10億ドル(約1,620億円)を出資し、Coherentが75%を握る子会社として切り出した(同12月完了)。さらに2025年には航空宇宙・防衛(A&D)事業を投資会社Advent(アドベント)へ4億ドル(約650億円)で売却することで合意。約550人・売上約2億ドル規模で、全社平均より利幅の低かった事業を切り離し、得た資金を負債返済に充てた。2024年にはヴィンセント・マテーラ前CEOからジム・アンダーソン氏へと世代交代し、「選択と集中」による再建路線が鮮明になった。

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光通信コンポーネント——強みと課題

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Coherentの現在の心臓部であり、成長の源泉が光通信コンポーネント事業だ。その強みは、繰り返しになるが「垂直統合」に集約される。InPやGaAs(ガリウムヒ素)の基板結晶から、EML・DFB・VCSELといったレーザー・チップ、そして完成した光トランシーバまでを自社の屋根の下でつくる企業は世界でも数えるほどしかない。ジオヴァンニ・バルバロッサ最高戦略責任者が「規模を伴う垂直統合は当社の中核戦略であり、品質・性能・市場投入スピード・コストで勝つ源泉だ」と語る通り、これがCoherentの堀(モート)である。

技術面の目玉が、前述の6インチInP基盤だ。200GのEMLやDFBレーザー、マッハツェンダー変調器、シリコンフォトニクス向けの高出力CWレーザーなどをこの新基盤に載せ替えつつある。会社側は2026会計年度中にInP生産能力を倍増する目標を、実行の前倒しで1四半期早く達成できる見込みとし、さらに2027年末までにもう一段の倍増を計画する。2026年6月には米CHIPS・科学法に基づく最大5,000万ドル(約81億円)の直接補助も取り付け、シャーマン工場の生産スペースを倍増、ウエハー生産能力を4倍にする増強を進める。製品ラインも800Gが広く普及し、1.6Tが売上計上を伴って本格立ち上がりに入り、その先の3.2Tを視野に入れる。長距離・データセンター間接続(DCI)向けには400ZR/800ZRのコヒーレント・プラガブルを供給し、AIデータセンターの高密度化に対応する液冷12.8Tモジュール規格「XPO MSA」には創設メンバーとして参画した。

さらに、投資家の目線でとりわけ重要なのが、次世代技術における布石である。液晶を使った光回線交換機(OCS)は差別化製品として初期売上が立ち始め、市場機会を2030年までに20億ドル(約3,240億円)押し上げるとされる。そしてAIインフラの本命と目されるCPO(共同実装光学)では、2026年3月のOFC(光ファイバー通信国際会議)で、シリコンフォトニクスを用いた6.4T(32×200G)のソケット型CPO、自社の高出力InP CWレーザーを積んだ外部光源(ELS)モジュール、高速VCSELを用いたマルチモードCPO、400G動作のシリコン上InP変調器といった多彩な技術を披露した。同社はCPOの獲得可能市場(SAM)を150億ドル(約2兆4,300億円)、OCSを40億ドル(約6,500億円)、新たに提示した熱管理を20億ドル(約3,240億円)とし、成長領域の合計機会を230億ドル(約3兆7,000億円)超に引き上げている。これらはNVIDIAが自社スイッチ「Spectrum-6」に200GのCPOシリコンフォトニクスを組み込む計画と直結しており、NVIDIAとの出資・供給契約はこの成長を裏打ちする。2026年第3四半期時点で受注は過去最高、受注残の可視性は2028年(暦年)まで伸びている。

一方で課題も明確だ。第一に、完成モジュールの組み立てでは中国勢が数量とコストで先行し、モジュール層のコモディティ化圧力が絶えない。第二に、需要がハイパースケーラーとNVIDIAに集中しており、AI設備投資(capex)サイクルに業績が大きく左右される。第三に、CPOという技術転換そのものが両刃の剣となりうる。CPOが従来のプラガブル型トランシーバを置き換えれば、Coherentの現在の稼ぎ頭であるモジュール売上を侵食しかねない。もっとも、CPOでもレーザー光源(ELS)とInPチップは必要であり、「どちらに転んでもチップは売れる」構造がリスクを和らげている。加えて、InPの原料インジウム自体が中国に偏在する調達リスクを抱えており、能力増強と歩留まりの実行力が、そのまま投資判断の分かれ目になる。

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産業用レーザー装置——強みと課題

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もう一つの柱が、産業用(インダストリアル)セグメントだ。旧Coherent, Inc.が得意としたレーザー技術と、II-VI由来の材料・光学部品が融合した領域で、エキシマレーザー、CO2レーザー、固体・紫外レーザー、ファイバーレーザー、そしてそれらを組み込んだ加工装置までを幅広く手がける。

用途を具体的に見ると、その裾野の広さが分かる。折りたたみスマホの極薄ガラスの切断、先端半導体パッケージの微細ビア加工、有機EL/LTPSディスプレイの結晶化アニール、半導体製造装置に組み込む高出力レーザー、精密マイクロマシニング、EV電池の溶接、さらには科学研究用の超短パルスレーザーまで——「光でものを加工・計測する」あらゆる現場にCoherentのレーザーが入り込む。強みは、材料科学の裏打ちと製品の幅広さ、そしてディスプレイ・半導体向けエキシマレーザーや科学用レーザーで築いた地位にある。とりわけ半導体製造装置向けの露出は、先端パッケージングやAI関連の投資が続くかぎり追い風になりうる。

しかし、この事業は目下、二つの逆風にさらされている。一つは景気循環性だ。産業用は2026会計年度第3四半期に前年同期比16%減の4億4,400万ドルと、中国の産業需要の弱さなどを映して縮小した。もう一つは競争環境で、高出力ファイバーレーザーのワット当たりコストではIPG Photonicsが、板金加工システムの統合ではTRUMPFが、中国市場では大族レーザーが、それぞれ強固な地歩を築く。産業用レーザー市場全体の成長率は年5.8%前後(2025年の約78億ドルから2031年に約109億ドル、約1兆7,700億円との予測)と、データコムのハイパーグロースに比べれば穏やかだ。Coherent社内でも産業用は相対的に利幅が低く、A&D事業の売却に象徴されるように、非中核事業の刈り込み対象となってきた。とはいえ、半導体・ディスプレイ設備投資の回復が2026年に見込まれており、データセンター一本足の同社にとって、この事業の底打ちは業績の振れを和らげる分散効果としても意味を持つ。

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コヒレント・ジャパン

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日本市場を担うのが、コヒレント・ジャパン株式会社である。1981年の創業以来、本社を東京(渋谷区)に置き、大阪支店や厚木テクニカルセンター(厚木TEC)といった拠点を展開してきた。取り扱う製品は本国のラインアップを反映し、CO2レーザー、半導体レーザー、マシンビジョン用レーザー、ファイバーレーザーといった各種レーザーから、レーザー切断・溶接装置、ビーム伝送コンポーネント、半導体レーザー部品、さらにレーザーパワー・エネルギーセンサーなどの計測機器まで幅広い。材料加工、マイクロエレクトロニクス、ライフサイエンス、科学研究といった分野の日本の顧客に対し、販売と技術サポート、サービスを提供している。日本の商社(丸文やオプトサイエンスなど)を通じた販売チャネルも併用し、きめ細かく市場を押さえる。

日本法人の位置づけは、単なる販売拠点にとどまらない。日本はCoherentの全社売上の約7%を占める重要市場であると同時に、同社のサプライチェーンと競争構造の結節点でもある。SiC事業では出資パートナーとしてデンソーと三菱電機が名を連ね、光通信のEMLでは三菱電機・住友電工が有力な競合であり、半導体・ディスプレイ製造装置メーカーは主要顧客だ。つまり日本の産業界は、Coherentにとって「顧客であり、パートナーであり、ライバルでもある」多面的な存在であり、コヒレント・ジャパンはその接点として、材料・部品エコシステムの厚い日本市場を橋渡しする役割を担っている。

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投資家はどう見ているか——強気と慎重の綱引き

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VC・アナリストの視線でCoherentを眺めると、強気論と慎重論が綱引きを演じている。

強気派の主張は明快だ。AIデータセンターの光化は構造的なメガトレンドであり、その最深部にあるレーザー・チップとInPのボトルネックを、垂直統合で押さえるCoherentは価値を捕捉しやすい立ち位置にある。NVIDIAの20億ドル出資と複数年供給契約は、需要の下支えであると同時に、CoherentとLumentumを西側の「信頼できる複占」として温存する国家安全保障的な供給網再編の一環でもある。加えて、SiC出資・A&D売却・NVIDIA資金によって、合併直後に2.3倍前後だった純負債レバレッジは2026会計年度第3四半期に0.5倍前後まで低下したと報じられ、格付けもFitchが「BB」・安定的(2025年11月)を維持する。アンダーソンCEOが半導体流の「フォーカス+利幅拡大+負債圧縮」を着実に回しているとの評価だ。実際、Rosenblattのマイク・ジェノベーゼ氏は2026年6月25日に目標株価を375ドルから425ドル(約6万8,900円)へ引き上げ、2027会計年度売上見通しを約10億ドル上乗せして92億ドル(約1兆4,900億円)とした。Raymond Jamesも7月2日に435ドル(約7万500円)を提示するなど、S&Pグローバルの集計では22人のアナリストのコンセンサスは「買い」、平均目標株価は約384ドル(約6万2,200円)に位置する。

慎重派はブレーキ役に回る。株価は年初来106%超の急騰で割高感が強く、モルガン・スタンレーは光市場のTAM拡大を認めつつも「イコールウェイト(中立)」、目標株価330ドル(約5万3,500円)と、買い推奨の一群より控えめだ。懸念材料は、AI設備投資の持続性、NVIDIAとハイパースケーラーへの顧客集中、CPOによる自社トランシーバの共食いリスク、中国モジュール勢との価格競争、そしてInP原料など中国調達依存にある。要するに、業界の追い風は本物だが、増産・歩留まりの実行、需要サイクルの読み、技術転換のタイミングという「執行リスク」で少しでもつまずけば、高い株価は手のひらを返す——というのが慎重論の核だ。この強気と慎重のあいだで、「モジュールからチップへ利益が移る」構造をどれだけ取り込めるか、という一点に投資家の関心は収斂している。

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今後の展望——次の号砲はいつ鳴るか

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最も近い号砲は、2026年8月13日に予定される第4四半期・通期(2026年6月期)決算だ。ここでは、データセンター&コミュニケーションズの伸び率、粗利益率の一段の改善、そして何より2027会計年度のガイダンスが焦点になる。経営陣はすでに「2027会計年度の成長は2026会計年度を上回る」との見方を示しており、その裏づけとなる受注残(暦年2028年まで可視化)と1.6Tの立ち上がりカーブが試される。

中期の駆動力は三つある。第一にInP生産能力の拡張で、2026会計年度中の倍増を前倒し達成し、2027年末までにさらに倍増以上を計画する。この供給力こそが、逼迫するEML市場でシェアを取りにいく武器になる。第二に速度世代の移行で、1.6Tが2026〜2027年に本格量産化し、3.2Tが地平線に現れる。第三にCPOの商用化だ。NVIDIAのQuantum-X InfiniBandが2026年前半、Spectrum-X Ethernetが2026年後半に商用化される計画で、そこにCoherentのCPO/外部光源(ELS)がどれだけ載るかが、次の成長ステージを左右する。液晶OCSの採用拡大も、データセンターの新たな市場を切り開く。

リスクとして注視すべきは、AI設備投資の一巡(デジェスチョン)局面が訪れた場合の反動、CPO移行の時期とそれに伴うプラガブル需要の変調、中国市場と中国原料をめぐる地政学、そして増産・歩留まりの実行力である。より長い時間軸では、6G無線向けInP、車載、量子技術といった新しい応用も控える。総じてCoherentは、AIという歴史的な追い風を受けながら、「光の心臓部」をいかに安定供給し、利益率の高いチップ層へ価値をシフトできるかを問われる局面にある。2026年8月13日の決算は、その進捗を測る最初の関門となる。


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