ADEKAとは──「素財」で世界を支える化学メーカー

ADEKA(アデカ)は、東京都荒川区に本社を置く総合化学メーカーである。1917年1月27日設立、東証プライム上場(証券コード4401)、2026年3月末時点で連結従業員5,434名、世界20の国と地域で事業を展開している。2026年3月期の連結売上高は4,165億円に達した。一般消費者の目に触れる最終製品を作る会社ではないが、スマートフォン、自動車、食品、そして半導体といった身近な産業の「一歩手前」を支える中間素材の分野で、複数の世界トップシェア製品を持つ。同社が「素材」ではなく「素財(そざい)」という造語を掲げ、自らを「地味だけど、すごい」と表現するのはこのためだ。
事業は大きく三本柱で構成される。第一が中核の化学品事業で、その中身はさらに、プラスチックの酸化・紫外線劣化を防ぐ樹脂添加剤(光安定剤や酸化防止剤、透明化剤など。世界トップクラスのシェアを持つ)、本稿の主役である半導体材料、そして環境材料に分かれる。第二が食品事業で、マーガリンや加工油脂などをメーカー向けに供給する。第三がライフサイエンス事業だ。祖業の塩素電解から始まり、化学と油脂を二本柱に育て、そこから樹脂添加剤や半導体材料といった高機能領域へと軸足を移してきた歩みが、この幅広い事業構成に表れている。
企業の出自は古河グループにさかのぼる。1915年、古河合名会社(現・古河機械金属)が中心となって「東京電化工業所」を設立し、電解法による苛性ソーダ(カセイソーダ)の製造から出発した。1917年に株式会社へ改組して「旭電化工業株式会社(あさひでんかこうぎょう)」となり、2006年5月1日に現社名のADEKAへ変更、本社を創業の地である荒川区へ戻した。この古河グループとのつながりが、後述する半導体材料参入の伏線になっている。

「地味だけどすごい」を象徴する半導体材料事業

ADEKAの半導体材料は、売上規模こそ小さいが、同社の稼ぐ力と将来性を象徴する事業である。2026年3月期の連結決算は売上高4,165億円(前期比2.3%増)、営業利益416億円(同1.5%増)、経常利益427億円(同8.7%増)、純利益278億円(同11.4%増)と、いずれも過去最高を更新した。牽引したのはライフサイエンスや樹脂添加剤で、化学品セグメント全体は売上高2,148億円(同1.7%減)、営業利益263億円(同6.0%減)と減収減益になった。半導体材料に限れば売上は伸びたものの、後述する研究開発の増員や生産設備の新設という先行投資が固定費を押し上げ、利益は減少した。
この半導体材料が全社売上に占める比率は、証券アナリストの推計で2026年3月期が約8.6%、2027年3月期予想でも約9.0%と、まだ1割に満たない。それでも同社が全社を挙げてこの事業に経営資源を集中させるのは、営業利益率が突出して高いからだ。ADEKAが2025年2月に公表した半導体材料の事業戦略資料によれば、同事業(ディスプレイ材料を除く)の売上高は2023年度で約325億円、営業利益約90億円と、営業利益率は28%に達する。全社平均の利益率(2026年3月期で約10%)を大きく上回る、まさに「稼ぐ力」の源泉である。ADEKAはこの事業を、売上高で2030年度(2031年3月期)に1,100億円超、営業利益で220億円超へと育てる中期の絵姿を描いている。

先端DRAM向けALD用高誘電材料とは──原子1層ずつ積む職人技

ここで、ADEKAが世界一を握る「先端DRAM向けALD用高誘電材料」とは何かを、順を追って具体的に見ていきたい。
DRAM(Dynamic Random Access Memory)は、パソコンやスマートフォン、そしてAIを動かすデータセンターのサーバーに大量に載る主記憶メモリである。DRAMは「1ビット=1個のコンデンサ(キャパシタ)」に電荷をためて情報を記憶する。より多くのデータを1枚のチップに詰め込むには、キャパシタを微細化し、より高密度に並べる必要がある。ところがキャパシタが小さくなるほど、ためられる電荷(静電容量)は減ってしまう。そこで技術者たちは、キャパシタを深い井戸のように縦に掘り下げて表面積を稼ぎ、さらに絶縁膜に「高誘電率(high-k)材料」を使うことで、小さな体積でも大きな静電容量を確保しようとしてきた。誘電率が高いほど、同じ膜厚でも多くの電気をためられるからだ。ここに使われるのが酸化ジルコニウム(ZrO₂)や酸化ハフニウム(HfO₂)で、いずれも誘電率が20を超え、バンドギャップも広く、後述の成膜法との相性がよい。現行のDRAMキャパシタでは、ZrO₂を酸化アルミニウム(Al₂O₃)で挟んだ「ZAZ」構造や、窒化チタン電極で挟んだ「TiN/ZrO₂/TiN」構造が広く使われている。
ではその高誘電膜を、どうやってナノメートル単位の深い穴の底までむらなく形成するのか。ここで登場するのがALD(Atomic Layer Deposition=原子層堆積)という成膜技術である。ALDは、原子1層ずつを積み木のように重ねて膜を作る手法だ。工程は概ね四つのステップの繰り返しで進む。まず、金属の元になる原料ガス(前駆体=プリカーサー、ここがADEKAの供給する「ALD材料」だ)を供給し、基板の表面に分子を1層だけ吸着させる。次に余分な原料をパージ(洗浄・除去)する。続いて反応ガスを供給して1原子層分の金属酸化膜を形成し、再びパージする。この①原料供給→②パージ→③反応ガス→④パージのサイクルを何百回と繰り返すことで、狙った厚みの膜を1層ずつ積み上げていく。1サイクルで1層しか付かないため成膜は遅いが、その代わり、深く細い穴の底から入り口まで、驚くほど均一で緻密な膜を形成できる。これが、微細化で「より深く、より細く」なる一方のDRAMキャパシタにとって不可欠な理由である。
DRAMのセル構造は、1990年代のスタック型から、シリンダー型、ピラー型へと進化し、2030年ごろには縦にセルを積む「3D-DRAM」への移行が見込まれている。構造が変わるたびに、キャパシタ周りの絶縁膜・電極に求められる材料も入れ替わる。ADEKAは、扱いの難しい有機金属錯体を不純物を制御しながら合成する技術を武器に、キャパシタ用の高誘電ALD材料だけでなく、電極や配線に使うメタルALD材料、必要な場所にだけ膜を付ける選択成膜(ASD=Area Selective Deposition)材料へと開発領域を広げつつある。同社が「2〜3世代先を見据えて開発する」と繰り返し強調するのは、顧客であるメモリメーカーの世代交代に、材料の準備段階から並走する必要があるからだ。

業界の状況──小さな市場の大きな要衝

高誘電・ALD/CVD用金属前駆体の世界市場は、複数の調査会社の推計で年間およそ6億〜7億ドル(約1,000億〜1,150億円)規模と、半導体材料全体から見れば決して大きくない。Mordor Intelligenceは2025年の約6.7億ドルから、年平均6.7%前後で2030年に約9.3億ドル(約1,500億円)へ拡大すると見込む。しかしこの「小さな市場」は、DRAMやロジック、3D NANDの最先端をつくるうえで欠かせない要衝であり、供給できるプレーヤーは世界でも一握りに限られる。
競合勢力図
この分野の主要サプライヤーは、日本のADEKA、フランスのAir Liquide(エア・リキード)、そして独Merck(メルク)である。半導体業界誌の報道によれば、かつてADEKA、Air Liquide、Versum(バーサム)の上位3社で高誘電・前駆体市場の約75%を占めていた。そのVersumを2019年にMerckが買収したことで、Merckは金属・高誘電・誘電体の各前駆体を横断的に扱う最大手級の存在へと浮上した。このほか、フィルターや先端材料に強い米Entegris(インテグリス)、韓国のDNF、SoulBrain(ソウルブレイン)、UP Chemical、Hansol Chemical、そして日本のトリケミカル研究所などが名を連ねる。ADEKAの立ち位置は、「市場全体の最大手」ではなく、「先端DRAM向け高誘電材料という最も難しく付加価値の高い一角で世界No.1・シェア50%超」(日経クロステック等)という、ニッチトップ型である点が重要だ。
サムスンの調達分散とハフニウム前駆体の特許問題
ADEKAの牙城に、いま静かな変化が起きている。韓国の半導体専門メディアThe Elec(2026年4月)が報じたところによれば、サムスン電子は従来、DRAMの先端プロセスに使うハフニウム前駆体をADEKAからほぼ独占的に調達してきたが、2025年ごろからSK trichem(エスケー・トライケム)が新たに供給を開始し、現在はサムスンの調達比率でSK trichemが約2割、ADEKAが約8割を占めるという。
背景にあるのが特許だ。The Elecによれば、ハフニウム系高誘電前駆体の中核特許は日本のトリケミカル研究所(TCLC)が保有し、韓国での正式なライセンス権はSK trichem(2016年にSKとトリケミカル研究所が65対35で設立した合弁会社で、その後SKの持ち分はSKの材料事業側へ移管された)が握る。同メディアは、ADEKAが「正式なライセンスなしに材料を供給してきたとみられる」と伝えている。Merckがこの特許の無効を求めて争ったものの2023年・2024年ともに退けられ、韓国の裁判所が特許の有効性を認めたことが、サムスンが一部をライセンス保有側へ振り向ける判断につながったという。もっとも同メディアは、当該特許が2026年後半に期限切れを迎える見通しであるとも指摘しており、そうであればADEKAにとってのこのリスクは時間とともに薄れていく可能性がある。特許・ライセンスをめぐる法的評価は当事者間で見解が分かれうる論点であり、ここではThe Elecの報道内容として記す。
顧客と地理的展開
高誘電ALD材料の最終需要家は、事実上サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーというDRAM大手3社に集約される。ADEKAはこの需要地に工場を張り付ける戦略を取り、韓国では2024年10月に半導体材料の第3工場を稼働、研究開発拠点も拡張・移転した。台湾では先端ロジック材料を狙って2023年10月に台南(タイナン)工場を建設(投資額25億円)、米国では2024年4月に西海岸オフィスを開設して次世代材料の新規採用を働きかけ、中国ではレガシー(成熟)領域の材料販売を伸ばす。日本と韓国で培った知見を、台湾・米国へと横展開する構図である。



創業から現在までの歩み──塩から半導体へ

ADEKAの100年を超える歩みは、「塩から半導体へ」と要約できる。1915年、古河合名会社が中心となって東京電化工業所を興し、塩水を電気分解して苛性ソーダをつくったのが原点だ。1917年に旭電化工業として株式会社化し、1919年には水素を使った硬化油の製造を始めて、化学と油脂という二本柱を確立した。ここから食品(マーガリン・加工油脂)事業が育っていく。戦後は樹脂添加剤に進出し、プラスチックの高機能化を支える世界的サプライヤーへと成長した。
半導体材料への道は1980年代に開かれる。同社は1981年に高純度液化塩素の製造を始め、高純度ガスのパイオニアとして半導体・FPD・光通信の各分野に食い込んでいった。日経クロステックによれば、本格的な転機は、同じ古河グループの富士通からの要請で半導体の層間絶縁膜に使うCVD材料の開発に着手したことにあり、さらに1990年代、DRAMへの参入を狙う海外メモリメーカーから声がかかり、DRAM向けの新しい高誘電(high-k)材料を共同開発したことが、今日の世界トップシェアの礎になったという。塩素電解という祖業で培った精密な化学の技術が、高純度塩素→エッチングガス→CVD材料→ALD材料→フォトレジスト用材料へと連なっていったわけだ。
2006年に旭電化工業からADEKAへ社名を変え、2010年代以降は半導体材料を明確な成長領域と位置づける。2024年7月に化学品事業の中に「電子材料事業部」を立ち上げて営業・研究・企画の機能を統合し、2025年4月にはこれを半導体に特化した「半導体材料事業部」へ再編した。従来「電子材料」と呼んでいたサブセグメントの呼称も、同時に「半導体材料」へ改めている。祖業の塩からおよそ110年、ADEKAは半導体材料を全社の未来を担う事業へと据え直したのである。

2026年7月、半導体イノベーションセンター始動と2035年の絵姿

こうした流れの結節点となったのが、2026年7月2日に開かれたメディア発表会と、同月から本格始動した「半導体イノベーションセンター」だ。同センターは埼玉県久喜市の久喜地区に新設された地上7階建ての基幹研究所で、実験室・クリーンルーム・分析室などを備え、半導体材料の研究開発に特化する。総工費は約120億円。実験室の面積は現行比2.7倍、クリーンルームはワンフロアで850平方メートル超を確保し、研究人員も大幅に増員して、開発のスピードアップを図る。ADEKAは2026年5月、この動きに合わせて久喜開発研究所を「ADEKAテクノロジーセンター久喜(ACT-S=ADEKA Center of Technology for Semiconductor and Sustainability)」へと改称し、新研究棟を半導体イノベーションセンターと名付けた。
発表会でADEKAが掲げたのが、「2035年、半導体材料が利益を牽引する」という長期構想である。グループの営業利益を2025年度の416億円から、2035年度に2倍超へ拡大させ、そのうち半導体材料が営業利益325億円(2025年度比で4倍超)を稼いで、グループ全体の営業利益の40%超を占めるプロフィットセンターに育てる、という青写真だ。事業の軸も、現在の「先端メモリ向け高誘電材料」中心から、先端ロジック向けALD材料、EUV露光を支える半導体リソグラフィ材料(光酸発生剤やMOR=金属酸化物レジスト用の金属化合物)、そして後工程・パッケージ材料へと広げ、「メモリ・ロジック・リソグラフィ・後工程・パッケージの全領域をカバーする総合半導体材料メーカー」を目指すと宣言した。ハイブリッドボンディング(横浜国立大学とNEDOの枠組みで共同研究)や、電気配線を光で補う光電融合(co-packaged optics)向け接着剤・封止材といった後工程材料も、その射程に入る。
この構想の追い風となるのが、AIとデータセンターがもたらす半導体需要の膨張だ。ADEKAは、世界のデータセンターの電力需要が2024年度の415TWhから2030年度に945TWh(日本の総電力需要に匹敵)へ拡大すると示す。世界半導体市場についても、WSTS(世界半導体市場統計)の2026年6月予測をもとにした同社資料では、かつて「2030年に1兆ドル(約160兆円)」とされた規模が、AI需要とメモリ価格の上昇によって想定以上に前倒しで拡大し、2020年代末には1.9兆ドル(約300兆円超)規模をうかがう、という強気の絵が描かれている。


強みと課題

ADEKAの強みは、第一に、扱いの難しい有機金属錯体を不純物を制御しながら自在に合成する技術力にある。半導体の厳しい品質基準を満たす純度管理と、顧客と密に連携して課題に応えるトータルソリューションの提案力が、そこに重なる。第二に、デバイス性能に直結する材料を、2〜3世代先を見据えて世界トップメーカーと20年超にわたり共同開発してきた実績と信頼関係だ。先端メモリの材料は、一度採用されると世代をまたいで使われ続ける「粘着性」が高く、参入障壁として働く。第三に、その結果としての高収益性である。半導体材料の営業利益率は28%(2023年度、事業戦略資料)と全社平均を大きく上回り、少ない売上で大きな利益を生む構造は、資本効率を重視する投資家にとって魅力的だ。財務も健全で、2026年3月期は1株112円へ増配(2027年3月期は120円を計画)、配当利回りは約2.9%と東証プライム平均(約1.9%)を上回る。
一方で課題も明確だ。最大の懸念は、事業の規模がまだ小さく、利益貢献が実力に追いついていない点である。半導体材料は全社売上の1割弱にとどまり、しかも生産設備の新設や研究人員の増員という先行投資が先行して、2026年3月期は「増収減益」を強いられた。利益回復には、最新世代DRAMの立ち上がりに合わせた新製品の出荷拡大という時間軸が必要になる。第二に、メモリ市況への依存だ。DRAM価格とメモリメーカーの設備投資は循環的に振れやすく、2023〜2024年の市況低迷は同社の成長シナリオを実際に遅らせた。第三に、前章で述べたサムスンの調達分散とハフニウム前駆体の特許・ライセンス問題という、顧客・知財の両面にまたがる固有リスクである。加えて、Versumをのみ込んだMerckや、韓国メーカーの国産化(ローカライゼーション)といった競争の激化も、ニッチトップの座を絶えず揺さぶる。世界一のシェアは、裏を返せば「これ以上シェアを伸ばしにくく、削られる余地が大きい」という宿命も抱えている。
投資家はどう見ているか──「世界一なのに放置」の再評価物語

ADEKA株(4401)を機関投資家やアナリストがどう見ているかを整理すると、そこには一つの明快な物語が浮かぶ。「先端メモリ材料で世界シェア1位なのに、市場から放置されてきた割安株」という再評価(リレーティング)の物語である。
株価は直近1年で約55%上昇し(2026年6月時点)、Finaseeは「半導体株に乗り遅れた人が注目する銘柄」と評した。それでもなお割安感が語られるのは、世界No.1という事業の質に対して、半導体材料の売上・利益貢献がまだ小さく、株価が本格的な半導体バリュエーションを織り込んでいないと見られているからだ。アナリストの評価はおおむね中立からやや強気に分かれる。日系大手証券は2026年5月にレーティングを中立に据え置きつつ、目標株価を3,800円から4,800円へ引き上げた。より強気の中堅証券は目標株価5,490円を提示し、複数アナリストのコンセンサスは12カ月ターゲットでおおむね4,600円台(高値予想5,490円、安値予想3,200円)にある。配当利回りの高さと合わせ、値上がり益と配当の「二兎」を狙える点も、新NISA時代の個人投資家に響く材料とされる。
VC・機関投資家の視点でこの銘柄を評価するなら、ポイントは「オプション価値」にある。ADEKAは、樹脂添加剤や食品という安定したキャッシュフローで本体を支えながら、半導体材料という高成長・高収益の「事業内スタートアップ」を内包している。この半導体材料が2035年に全社利益の4割超を稼ぐ構想が実現に近づけば、市場はADEKAを「割安な化学株」から「半導体材料のピュアプレー的成長株」へと評価し直す余地がある。逆に言えば、投資判断の分水嶺は、(1)先行投資が売上・利益の実額へと転換し「増収増益」に復するタイミング、(2)メモリ市況の回復持続、(3)サムスン調達分散と特許問題の帰趨、という三点に絞られる。世界シェアという「静的な強さ」ではなく、それが利益として顕在化する「動的な変化」をどれだけ早く織り込めるかが、この銘柄のリターンを左右する。

今後の注目点──いつ、何が動くか

今後半年〜数年の観測ポイントを、時間軸に沿って挙げておきたい。まず短期では、2027年3月期の業績が試金石になる。会社計画は売上高4,530億円(前期比8.7%増)、営業利益468億円(同12.5%増)と全セグメントでの増収増益を見込み、半導体材料でも高誘電材料と半導体リソグラフィ材料の販売拡大を計画する。ここで半導体材料が「増収減益」から「増収増益」へ転じるかどうかが、第一の焦点だ。四半期決算(8月・11月・翌2月・5月)ごとに、先行投資の回収局面入りを示す利益率の改善が確認できるかを見たい。
技術・製品面では、最新世代DRAMの量産立ち上げに合わせた新製品の採用と出荷数量の増加、EUV露光の普及とPFASフリー化を追い風とする先端フォトレジスト用材料(光酸発生剤・MOR用金属化合物)の伸長が鍵になる。2026年7月に始動した半導体イノベーションセンターが評価設備の拡充を通じてALD成膜材料や後工程材料の開発をどれだけ加速させるかも、中期の成長速度を左右する。競争・知財の面では、The Elecが2026年後半の期限切れを指摘するハフニウム前駆体特許の帰趨と、サムスンの調達比率がその後どう推移するかが、ADEKAのメモリ材料シェアを占ううえで重要な変数となる。さらに長期では、2030年前後に見込まれる3D-DRAMへの移行と、2nm・オングストローム世代のロジック(ナノシート、裏面電源供給)に向けたメタルALD・新規Low-k材料での採用獲得、後工程のハイブリッドボンディングや光電融合材料の事業化が、2035年構想の実現度を測る物差しになる。
「地味だが要衝」を占めるADEKAにとって、問われているのは技術ではなく時間である。世界一の材料を、いつ・どれだけの利益に変えられるか。その転換点を、市場は2027年3月期以降の数字で確かめようとしている。