ワールドカップの夜に——「カナデビア」とは何者か

DAZNのW杯CMでもお馴染みカナデビア(旧日立造船)とは。洋上風力、ゴミ焼却発電。日立グループ離脱からガバナンスの立て直し - ワールドカップの夜に——「カナデビア」とは何者か - 章扉

2026年6月21日、サッカーのワールドカップ(北中米W杯)日本対チュニジア戦の中継のなかで、見慣れない社名のテレビCMが初めて流れた。元日向坂46の影山優佳が出演し、ポルノグラフィティが書き下ろしたイメージソング「ヴィヴァーチェ」が流れる企業ブランドCM「カナデビアの働く人」第4弾『未来の道をすすむ人たち』篇である。同CMはW杯期間中の関連番組のほか、テレビ朝日系『報道ステーション』木曜枠、そしてスポーツ配信プラットフォームのDAZNでも展開される。キーメッセージは「未来は、みんなでつくるからおもしろい。」――聞き慣れない「カナデビア」という名を、一夜にして茶の間に刷り込もうという狙いだ。

しかし「カナデビア」と聞いてピンと来なくても、「旧・日立造船」と言えば多くの人が思い当たる。同社は2024年10月1日、81年使い続けた「日立造船株式会社」の看板を下ろし、「カナデビア株式会社」へと商号を変更した(東証プライム上場、証券コード7004)。本社は大阪市住之江区、東京本社は品川区の大森ベルポートに置く。連結従業員はおよそ1万2千人、2026年3月期(2025年度)の連結売上高は6,452億円と過去最高を更新した。

社名に「造船」とあるが、同社はもう船をつくっていない。主力はごみ焼却発電施設の建設・運営をはじめとする環境プラント事業であり、橋梁やシールド掘進機などのインフラ機械、産業機械、そして近年は水素やメタネーション(合成メタン)といった脱炭素技術へと広がっている。ブランド露出を一気に高めるW杯CMの裏側には、後述する深刻な品質不正からの信頼回復という、もう一つの切実な事情が隠れている。

「奏でる」と「道」——81年ぶりの改名

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「カナデビア(Kanadevia)」は、日本語の「奏でる」と、ラテン語で「道」を意味する「Via(ビア)」を組み合わせた造語である。「人類と自然の調和を奏でることで新しい道を切り拓く」という思いを込めたとされる。同時に、東京ドーム傘下の多目的ホール「TOKYO DOME CITY HALL」は2025年4月から命名権により「Kanadevia Hall(カナデビアホール)」となり、新ブランドの認知拡大の場となっている。

改名の最大の動機は、社名と実態の乖離だった。前社長で改名を主導した三野禎男氏は2022年の時点で「(日立造船という社名は)誤解を与える」と語っていた。第一に、すでに造船事業から撤退しているのに「造船」を名乗り続けていたこと。第二に、後述するように戦後の財閥解体で日立グループから外れているのに「日立」を冠していたこと。グローバルに環境・脱炭素ビジネスを展開するうえで、「日立グループの造船会社」という二重の誤解はむしろ足かせになっていた。海外売上高比率が約49%に達し、欧州子会社が事業の主役級に育ったいま、日本の旧財閥色を薄めた中立的なグローバルブランドへと衣替えする必要があったのである。

「日立」を名乗り続けた会社——大阪鉄工所からグループ離脱まで

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カナデビアのルーツは、1881年に英国(北アイルランド)出身の実業家E.H.ハンターが大阪に興した「大阪鉄工所」にさかのぼる。日本の近代造船・重工業の草分けの一つであり、大型タンカーや橋梁、産業機械を手がけてきた。1934年に日本産業(日産コンツェルン)の傘下に入り、1936年には日立製作所が全株式を取得して日立グループの一員となる。「日立造船株式会社」へ改称したのは1943年のことだ。

ところが、ここが多くの人が誤解している点だが、同社が「日立グループの会社」だったのはごく短い期間に過ぎない。1946年の財閥解体によって日立製作所との資本系列から外れ、以後は独立企業として歩んできた。つまり日立製作所はもはや株主ではなく、「日立」の名は約80年にわたって実体を伴わないまま残り続けた、いわば歴史の化石のような商号だったのである。

造船事業そのものも段階的に切り離された。2002年10月、同社はNKK(日本鋼管)との合弁で造船部門を「ユニバーサル造船」に分離(同社は後にIHIの造船部門と統合し、現在のジャパン マリンユナイテッド〈JMU〉となる)。日立造船はJMU株の売却方針も打ち出し、造船との縁を実質的に断った。「造船」も「日立」も実態を失った会社が、ごみ焼却発電という地味だが社会基盤的な事業を本業に据え直す――その総決算が2024年の「カナデビア」誕生だったと言える。

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相次ぐ不祥事——40年続いた燃費データ改ざんの全容

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ブランド刷新の華やかさの裏で、同社は創業以来でも最大級の信頼失墜に直面している。発端は2024年7月5日、子会社の舶用エンジン事業で重大な品質不正が発覚したことだ。子会社2社(日立造船マリンエンジン、アイメックス)が、出荷した舶用ディーゼルエンジンの燃料消費率(燃費)の計測データを、実際とは異なる値に書き換えていたのである。

2025年3月25日に国土交通省へ提出された最終調査報告書によれば、燃費データの改ざんは少なくとも1980年代から続いており、2000年前後にNOx(窒素酸化物)規制が導入されて以降は排ガスのNOxデータの不正も加わっていた。改ざんは過去約20年で出荷した1,364台に及び、調査対象とした1,375台のうち1,335台はNOx規制値に適合していたものの、40台は適合性が不確実、ないし判定に必要なデータが不足していた。さらに悪質なのは、他社の内部告発や内部通報があり、当時の会長・社長ら経営トップが問題を認識した後も不正が継続されていた点である。報道では、現場が上げた警告の声が「抹殺」されていた構図も指摘されている。

不正は舶用エンジンにとどまらなかった。2025年2月には広島・向島工場で無資格者による橋梁の溶接が判明し、その件数は2013年1月から2025年1月までの12年間で172件に達した。加えて、ごみ焼却施設でのデータ不正や鋳物製品の不適切な製造も相次いで明るみに出た。同社は舶用エンジン以外の不正についても2025年4月30日付で調査報告書を公表し、「改ざんを発生させない基本的な仕組みが確立されていなかった」「法令や顧客合意を順守する意識が低かった」「品質コンプライアンスの監督が不足し、経営陣の問題把握も不十分だった」と、ガバナンス上の構造的欠陥を自ら認めた。

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なぜ起きたのか——業界共通の病理

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注目すべきは、これがカナデビア一社の問題にとどまらないことだ。舶用エンジンの燃費・排ガスデータ改ざんは、奇しくも同時期に川崎重工業やIHI(傘下のIHI原動機)でも発覚した。三社に共通するのは、いずれもドイツの舶用エンジン大手MANエナジー・ソリューションズの設計ライセンスを受けてエンジンを製造している点である。設計どおりに造っても、複数のエンジンが規定の燃費性能を満たせない――その事実を顧客に説明する手間や責任を回避するために、データを「あるべき値」に書き換える、という動機が各社で驚くほど共通していた。

こうしたデータ改ざんは、2017〜2018年に社会問題化した神戸製鋼所や三菱マテリアルの品質不正にも連なる、日本の重厚長大産業に根深い「製造業の病理」でもある。日本経済新聞などは、IHI・川崎重工・カナデビアのような多角化した複合企業(コングロマリット)ほど事業ごとの縦割りが強く、組織が「タコツボ化」して内部統制が及ばない死角が生まれやすい、と分析している。多くの不正が数十年単位で温存されてきた事実は、内部通報や定期監査では発見できなかった統制の弱さを物語る。カナデビアの一件は、個社の不祥事であると同時に、日本のものづくりが抱える構造問題の縮図として読むべきものだ。

ガバナンスの立て直し——経営陣の刷新と再発防止策

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一連の不正を受け、カナデビアは経営体制とガバナンスの抜本的な見直しに動いた。象徴的なのがトップ人事だ。2025年4月1日付で、社長兼COOだった桑原道氏が代表取締役社長兼CEOに就き、それまでCEOを務めた三野禎男氏は代表権のない取締役へと退いた。実質的な経営責任の所在を明確にした人事である。

再発防止策としては、まず2025年3月1日付の組織改正で全社的リスクを統括する「ERM室(エンタープライズ・リスク・マネジメント室)」を新設。溶接工学や破壊力学といった分野の外部専門家から技術的検証や原因究明、再発防止策の評価について厳格な助言を受ける枠組みを整え、調査・是正プロセスの客観性を担保した。コンプライアンス・プログラムを見直し、多数の子会社・拠点にまたがるリスクを横断的に把握する管理体制の構築も進めている。同社は「品質不適切行為の再発防止策の実行状況」を専用ページで継続開示しており、進捗を外部から検証できるようにしている。

もっとも、市場や株主の視線は依然として厳しい。2025年6月の定時株主総会では、決議事項は原案どおり可決されたものの、リスク管理体制の一段の強化を求める株主意見が相次いだ。金融庁も2025年10月のコーポレートガバナンス改革に関する有識者会議の資料でカナデビアの事例に言及しており、同社の不正は日本の上場企業統治を巡る制度論にまで波及している。ガバナンスの「立て直し」が本物かどうかは、これから数年かけて実績で示すほかない。

本業の実力——「世界一」のごみ焼却発電とKanadevia Inova

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不正の影に隠れがちだが、カナデビアの本業はきわめて強い。中核のごみ焼却発電(廃棄物発電、WtE=Waste to Energy)は、自治体などが出すごみを高温で燃やし、その排熱で蒸気タービンを回して発電する社会インフラだ。同社グループの累計納入実績は2025年9月時点で1,661施設(国内567施設+ライセンシー実績を含む海外1,094施設)にのぼり、廃棄物発電施設の納入実績で世界一を誇る。

海外事業の主役が、スイスに本拠を置く子会社カナデビア・イノバ(Kanadevia Inova、旧・日立造船イノバ/HZI)である。約3,000人を擁し17カ国で展開、1933年からWtEプラントを手がけ、世界で1,600件超のリファレンスを持つ欧州の環境技術リーダーだ。直近でも英ケンブリッジシャー州ウィズビーチで年間62万5,600トン処理・出力50MWeのごみ焼却発電プラントを受注したほか、英国でバイオガスプラント2件を取得して欧州のバイオガス保有施設を英・蘭・スウェーデン・伊の4カ国17施設に拡大。2025年5月にはデンマークのバブコック・アンド・ウィルコックス(B&W)からごみ焼却の燃焼装置に関する知的財産とエンジニアを取得し、技術ポートフォリオを補強した。2026年3月期にカナデビアが受注・売上ともに過去最高を記録できたのは、この海外WtE事業の好調が大きい。

廃棄物発電の世界市場は2025年の約407億ドル(約6.0兆円)から2026年に約438億ドル(約6.4兆円)へと年率7.8%で拡大し、2032年には約500億ドル(約7.3兆円)に達するとの市場予測がある。欧州が約4割の最大シェアを占め、ドイツ・スウェーデン・オランダ・デンマークが先進国だ。競合はヴェオリア、スエズ、コヴァンタ、ケッペル・セガース、バブコック・アンド・ウィルコックス、三菱重工業など。埋め立て依存から脱却し、ごみを資源・エネルギーに転換する「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の文脈で、WtEは地味ながら底堅い成長市場であり、カナデビアはその最前列に位置している。

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成長への賭け金——洋上風力・水素・e-メタン

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カナデビアが脱炭素時代の次の柱と位置づけるのが、洋上風力・水素・メタネーションだ。長期ビジョン「2030 Vision」と中期経営計画「Forward 25」(2023〜2025年度)のもと、ごみを燃料・素材・化学品・水素・リン回収などへ変える「Waste to X」の構想を掲げ、再生可能エネルギーと脱炭素技術への投資を加速してきた。

洋上風力では、カナデビアは着床式の基礎よりも、水深の深い海域に適した浮体式(フローティング)基礎に賭けている。鹿島建設と共同でセミサブ型浮体の中央コラムに鋼・コンクリート複合(ハイブリッド)構造を採用してコストを抑える工法を開発し、2026年2月には浮体式洋上風車基礎で国内初となる技術認証を完了した。さらに大成建設・商船三井と、浮体基礎の製作・曳航・係留を一体で担う覚書を締結し、商用化に向けた布陣を整えている。サクションバケット式基礎の国内初開発にも取り組む。ただ足元では洋上風力の一部案件を断念し、約15億円の損失を計上するなど、事業化の難しさも露呈している。

ライバルの構図も鮮明だ。固定式の大型モノパイル(鋼管杭)では、JFEエンジニアリングが岡山・笠岡で重量約2,500トンの超大型モノパイルを年間50本量産する体制を整え、2025年12月には秋田の一般海域向けに国内初の国産モノパイルを受注。2026年1月には「着床式・浮体式の双方を製造できる国内唯一の企業」を掲げ、攻勢を強めている。日鉄エンジニアリングも浮体基礎の高速大量生産に向けた設備投資を国のGXサプライチェーン構築支援事業に採択させた。カナデビアは「浮体式」という難度の高い領域で先行者利益を狙うが、量産化と価格競争力の確立はこれからだ。

水素・メタネーションでは、カナデビアは「装置・触媒のサプライヤー」という堅実な立ち位置にある。2026年2月にINPEXと大阪ガスが新潟県長岡市で運転を開始した世界最大級のe-メタン(合成メタン)実証設備――年約400Nm³-CO₂/h、家庭約1万戸分のガス消費量に相当――では、カナデビア製の多管シェル&チューブ式メタネーション装置が採用され、同社はe-メタン生成用の高性能触媒の量産も進める。日本政府は2030年までに都市ガスの1%を合成メタンに置き換える目標を掲げ、約100兆円ともいわれる既存ガスインフラの活用を狙う。海外子会社カナデビア・イノバも、スイス・ブックスのごみ焼却発電施設に併設したアルカリ水電解で時間あたり550Nm³・350バールのグリーン水素を製造し、ディーティコンの「Limeco」では世界初級の産業規模の生物学的メタネーション(パワー・トゥ・ガス)を稼働させるなど、欧州で実装を先行させている。

数字が映す現在地——過去最高の売上高、半減した利益、PBR1倍割れ

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事業の地力と不正のツケが、決算ではっきり交錯している。2026年3月期(2025年度)の連結業績は、売上高が前期比5.7%増の6,452億円と過去最高を更新した一方、営業利益は54.8%減の121億9,200万円、経常利益は44.0%減の136億円、親会社株主に帰属する当期純利益は49.6%減の111億円と、利益はほぼ半減した。環境部門の追加工事費用や、品質不正に絡む対応費用・特別損失が重くのしかかった形だ。期中には業績予想の下方修正が繰り返され、2025年11月には通期の営業利益予想を従来の270億円から180億円へ引き下げるなど、市場の失望を招いた。

株価とバリュエーションも、不正の「ガバナンス・ディスカウント」を映している。株価は2024年3月に1,355円の高値を付けた後、2025年4月のトランプ関税ショック時に749円まで下落し、その後は下げ幅の半分を取り戻す「半値戻し」の水準でもみ合った(2025年9月18日終値で1,043円)。同時点のPBR(株価純資産倍率)は0.93倍と1倍を割れており、東証プライムの加重平均(約1.5倍)を大きく下回る。7期連続の増収増益という実績を持ちながら、純資産にすら見合わない評価に甘んじているのは、不正と低収益性ゆえだ。会社側は2030年度に利益率10%への引き上げを課題に掲げるが、東証が求めるPBR1倍割れの是正は、信頼回復と稼ぐ力の両方が伴って初めて実現する。

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シリコンバレーVCの視点——「退屈なインフラ」への資本回帰

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ここでシリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)の視点を持ち込むと、カナデビアという銘柄の見え方が変わってくる。2021〜2022年の気候テック(クライメートテック)ブームでは、グリーン水素や電解槽(エレクトロライザー)、合成燃料、直接空気回収(DAC)といった「未来の技術」に巨額のリスクマネーが流れ込んだ。だが2025年は様相が一変した。米シリコンバレーバンク(SVB)の分析などによれば、気候テック投資額は2021・2022年に次ぐ過去3番目の規模を保ったものの、件数は絞り込まれ、収益と顧客を持つレイターステージ企業へと資金がシフトした。「夢」から「実装と単価」へ――投資家の物差しが現実的になったのである。

象徴的なのがグリーン水素の調整局面だ。2025年には世界で約60件もの大型水素プロジェクトが中止・延期に追い込まれた。確実なオフテイク(引き取り)契約の欠如、インフラのボトルネック、政策支援の不確実性が露呈したためだ。水素・燃料電池の代表格である米プラグパワーは、2026年1〜3月期の売上高が約1億6,351万ドル(約240億円)に対し、純損失は約2億4,530万ドル(約360億円)に膨らんだ。技術が成熟し製造コストが下がっても、「バンカブル(融資適格)」な事業に育てるのは別問題だ、という冷厳な現実を市場は突きつけている。洋上風力も同様で、日本では三菱商事連合が2025年8月、建設コストの想定外の高騰を理由に秋田・千葉沖の3海域から撤退を表明。経済産業省は「価格重視」の評価制度を反省点として認め、2026年以降の再公募では応札価格に下限を設け、国内調達など安定性の配点を増やす方向で制度を修正する。

この潮目の変化こそが、カナデビアのような「退屈な実物インフラ」企業を再評価させる構図を生む。VC流に言えば、ゴールドラッシュで一獲千金を狙う採掘者(水素スタートアップ)ではなく、ツルハシとスコップを売る側(装置・触媒・EPCを供給するカナデビア)に資本が回帰し始めている、ということだ。ごみ焼却発電は補助金頼みのバブルではなく、自治体の廃棄物処理という不可避の需要に支えられたキャッシュ創出事業であり、e-メタンでも同社は投機的な事業主体ではなく装置サプライヤーとして手堅く稼ぐ。問題は、その堅実さを「ガバナンス・ディスカウント」が打ち消してしまっていることだ。米国の機関投資家やアクティビストが日本株を見るとき、いまや財務だけでなく「S(社会)」と「G(ガバナンス)」を厳しく採点する。40年続いた改ざんを抱えるカナデビアのPBR1倍割れは、技術や受注ではなく統治への不信が株価に課す「割引率」そのものなのである。

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各紙はどう報じ、次に何が起きるか

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報道のトーンは明確に二層化している。日本経済新聞や日刊工業新聞、海事プレスといった経済・業界メディアは、不正の経緯と経営責任、そして下方修正の連鎖を厳しく追及してきた。一方でロイターやWaste Today、Bioenergy Insightなど海外の環境専門メディアは、カナデビア・イノバを「サーキュラーエコノミーを牽引するグリーンテックの世界的リーダー」として、英国のWtE受注や欧州バイオガス事業の拡大、グリーン水素実証といった前向きな話題で取り上げる。国内では「不正企業」、海外では「環境技術の雄」という二つの顔を、同社は同時に生きている。

今後の注目イベントの時間軸も見えてきた。短期では、2026年6月下旬に予定される定時株主総会で、再発防止策の実効性とガバナンス改革が改めて問われる。中期経営計画「Forward 25」は2025年度(2026年3月期)で一区切りを迎えており、次期中計と2030年に向けた事業ポートフォリオの「選択と集中」をどう描くかが、次の最大の焦点だ。洋上風力では、三菱商事撤退後に経産省が修正する新ルールでの再公募が2026年中にも見込まれ、カナデビアの浮体式技術が国産サプライチェーンのどこに食い込めるかが試される。e-メタンと水素では、長岡実証の成果と2030年・都市ガス1%目標に向けた商用化の進捗が鍵を握る。

総じて言えば、カナデビアの物語は「日立でも造船でもなくなった会社が、ごみと水素で世界を相手にしながら、40年分の負債(=改ざん体質)を清算する」という再生ドラマである。W杯の夜にお茶の間へ流れた新CMは、その再出発の号砲だ。技術と受注という「実」が市場に正当に評価されるか、それともガバナンスの傷が「割引率」として残り続けるか――答えは、これからの数年の実績が出す。