ウォルフィアとは何か——世界最小の花を咲かせる植物が抱えるタンパク質

ウォルフィア(Wolffia)は、被子植物のなかで最も小さい部類に属するウキクサ科(Lemnaceae)ミジンコウキクサ属の水生植物である。京都大学の伊藤照悟氏が2025年に発表した総説によれば、ウキクサ植物は現在5属35種3雑種に分類され、進化の方向は一貫して「簡略化」だった。祖先的なウキクサ属(Spirodela)やヒメウキクサ属(Landoltia)は1枚の葉状体(フロンド)の裏側から複数の根を出すが、アオウキクサ属(Lemna)では根が1本に減り、さらにウォルフィア属とWolffiella属に至っては根も維管束も完全に失われ、分裂組織すら左右2カ所から1カ所へと削ぎ落とされている。残ったのは、直径0.2ミリメートル、長さ1ミリメートル程度の緑色の粒だけだ。味の素はこれを「世界最小の葉野菜」と呼び、葉の直径は約0.5ミリメートルと説明している。
この極端な単純化が、食料資源としての価値を生んだ。根も茎も持たないということは、可食部が事実上100%だということでもある。栄養価をめぐる数値は栽培条件と系統によって幅があり、そこは正確に押さえておく必要がある。Floatmealは自社サイトとプレスリリースで「タンパク質含有量40%」を掲げ、日本経済新聞は2026年7月14日付の記事で同社の乾燥品が重量比44%のタンパク質を含むと報じた。日本政府の広報誌KIZUNAは2025年9月26日の記事でウォルフィアのタンパク質含有率を36〜40%とし、大豆の34%、ブロッコリーの28%と比較している。イスラエル企業Hinomanが欧州食品安全機関(EFSA)に提出した「Mankai」粉末の規格ではタンパク質43〜46%だった。学術文献では乾燥重量あたり29.6〜48.2%という広いレンジが報告される一方、2026年2月にFoods誌へ掲載されたVenkatachalamらの総説は粉末形態で100グラムあたり20.55〜22.74グラムという控えめな実測値も併記している。タイでは農業局と国家革新機構(NIA)、スラナリー工科大学・マハーサーラカーム大学・マヒドン大学が2024年から2025年にかけてタンパク質46〜48.6%の高品質系統を3つ開発した。つまり「40%前後」は達成可能だが自動的に得られる数字ではなく、系統選抜と栽培管理の産物である。ここが技術企業にとっての勝負どころになる。
タンパク質の「量」以上に投資家の関心を引くのは「質」だ。ウォルフィアは9種すべての必須アミノ酸を含み、Clinical Nutrition誌に掲載されたランダム化比較試験では、消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)0.75、タンパク質消化率補正アミノ酸スコア(PDCAAS)89%と、大豆に匹敵する水準が示された。さらに注目すべきは、Nutrients誌の研究がウォルフィア(Mankai)に生理活性型のビタミンB12が含まれ、ヒトで良好に吸収されることを報告した点である。B12は通常、植物性食品からはほとんど摂取できない。ウォルフィアが表面に共生させる細菌がこれを供給していると考えられており、植物性食品の最大のアキレス腱を、この植物は生態系ごと抱え込むことで回避している。増殖速度も並外れており、最適条件下では1日で量が倍になる。北海道大学の研究シーズ資料によれば、ウキクサが吸収するのは排水中の窒素とリンであり、タンパク質含有率30%前後、条件次第でデンプンは50%まで蓄積する。日本経済新聞は2026年7月15日付の記事で、光合成によるCO2吸収量が大豆の5倍に達すると報じている。


タイ北部・東北部の日常食「ผำ」——100年の食習慣がEUの扉を開いた

ウォルフィアはシリコンバレーが発明した食材ではない。タイ北部と東北部(イサーン)、ラオス、ミャンマーでは、沼や池に自然発生するこの植物が古くから食卓に上がってきた。タイ語では「ผำ(パム)」あるいは「ไข่ผำ(カイパム)」「ไข่น้ำ(カイナム)」と呼ばれる。カイナムは直訳すれば「水の卵」で、粒々の見た目と、卵に近い使われ方の両方を言い当てた名前だ。ワライラック大学のブログは、コーンケン、マハーサーラカーム、チエンマイといった北部・東北部の各県で自生すると記している。
食べ方は驚くほど日常的である。イサーン料理の定番「แกงไข่ผำ(ゲーン・カイパム)」は、パムをハーブや魚とともに煮込む汁物で、家庭料理のレシピサイトにいくつも作り方が並ぶ。卵と一緒に焼く「ไข่เจียวไข่ผำ(パム入りオムレツ)」、北部では「คั่วผำ(クワ・パム=炒め物)」として供される。The Nation紙が2026年5月15日に報じたところによれば、地域社会ではカレー、卵焼き、蒸し卵に混ぜ込むのが一般的な使い方だ。北部タイのチリペースト「น้ำพริกอ่อง(ナムプリック・オン)」にウォルフィアを加えるレシピも料理学校が公開している。ご飯や麺の代わりに使い、ココナッツカレーやトムヤムに落とし、ハーブとドレッシングで和えてサラダにする——タイの人々にとってこれは「未来の食」ではなく、単なる野菜だ。
この「食べ続けてきた」という歴史が、規制の局面で決定的な意味を持った。EUの新規食品(Novel Food)制度には、第三国で25年以上の安全な食経験がある食品を対象とする簡易審査ルートがある。イスラエルのGreenOnyx社は2020年9月7日にこのルートで届け出を行い、欧州委員会は2021年12月10日、実施規則(EU)2021/2191によりWolffia arrhizaおよびWolffia globosaの生鮮植物体の域内上市を「第三国の伝統的食品」として認可した。官報掲載は同年12月13日である。認可の根拠は、ラオス、ミャンマー、タイにおける食経験そのものだった。
対照的なのが、工業的な粉末製品としての道である。Hinomanが同じ時期にEFSAへ申請した「Wolffia globosa 'Mankai' 粉末」は、2021年10月27日付の意見書で「安全性を確立できない」と判断された。理由はマンガンだ。EFSAの評価では規格上マンガンが最大116.5mg/kgに達し、年齢層と用途によっては摂取量が17〜39%増加する。加えてフィロキノン(ビタミンK1)がサプリメント形態で1日2.4mgに達し得るためワルファリンなど抗凝固薬に干渉する懸念、タンパク質含有率40〜50%に由来するアレルギー反応の可能性も指摘された。米国でもHinomanはGRAS通知(GRN 984)を提出したが、FDAは2021年10月8日、届出者の要請により「評価を中止した(ceased to evaluate)」としてファイルを閉じている。これは「異議なし」レターとは異なる。
伝統食としての生鮮ウォルフィアは通り、工業粉末は通らなかった。この非対称性はいまも業界の前提条件であり、日本企業がウォルフィアを海外展開する際の設計思想を規定する。なおマンガン問題は解決不能ではなく、オランダのワーヘニンゲン大学研究陣はマンガン濃度をホウレンソウ並みに下げることを実証し、Lemna minorとLemna gibbaは2025年1月29日採択の実施規則(EU)2025/153でEUの新規食品リストに追加された。栽培水の組成を制御できれば規制はクリアできる、というのが2025年以降の共通認識である。
タイ国内では、この伝統食材が急速に産業化している。The Nation紙によれば、大規模事業者は1日500キログラム超の生パムを生産し、閉鎖系栽培ではタンパク質40%に達する。乾燥タンパク質粉末は1キログラムあたり3,000〜5,000バーツ(約1万5,000〜2万4,000円)で取引され、米国、欧州、中東、そして日本への輸出が加速している。同紙が挙げた事業者にはAdvanced GreenFarm社(ブランド名「flo」)、Farm Ban Khai Pham、Wolffia Bangkok、Wolffia Plusが並び、競合として米Plantible Foodsとともに日本のFloatmealの名も明記されている。Advanced GreenFarmを率いるのはマヒドン大学のメーター・ミータム准教授で、藻類と水生植物の栽培で25年超の経験を持つ。同社はタイ初のフードテック・アクセラレーターSPACE-Fの出身で、NIAの発表によればシードラウンドで80万ドル(約1.3億円)を調達した。FoodNavigatorが2026年1月21日に報じたところでは、精密養殖技術による屋内栽培で2年のうちにカルシウム含有量を倍増させ、鉄と亜鉛を標準的なウォルフィアの5倍以上に高めている。同紙は同時に、食品安全上の懸念からパムがタイの食卓から「ほぼ消えかけていた」とも記しており、伝統食材の産業化は復権のプロジェクトでもある。世界のウキクサ由来タンパク質市場は2033年までに3億4,488万ドル(約565億円)、年率8.5%成長と予測され、アジア太平洋が45%を占める。


ニュージーランドで生まれ、オーストラリアで育つ——「もあな」という名前の由来

北村もあな氏は日本人の両親のもと、ニュージーランドで生まれた。「もあな」は同国の先住民マオリの言葉(テ・レオ・マオリ)で「海」を意味する。この事実は同社の公式メッセージページに明記されており、彼女自身のキャリア選択を貫く一本の線になっている。海の名前を与えられた子どもが、海洋生態系の研究者になり、最終的に水面に浮かぶ植物を育てる会社をつくった。
生後3カ月で日本に戻り、小学2年生までを埼玉、東京、兵庫で過ごした。父親の仕事の都合で一家はオーストラリアへ移り、小学3年から中学2年まで現地校に通う。地中海性気候の土地だった。言葉が通じない環境に放り込まれた結果、内気だった性格は一変する。自分の存在を主張しなければ誰にも認識されない場所で、社交的にならざるを得なかったのだと本人は振り返っている。放課後はバイオリン、バレエ、水泳。分刻みで組まれたスケジュールが、時間管理の習慣を叩き込んだ。
中学2年のとき、両親が先に帰国することになり、彼女だけが現地に残って半年間の寮生活を送った。北海道の大学生メディア「Knowsノース」のインタビューで、この半年が自己解決能力を育てたと語っている。13歳か14歳で、家族のいない国に一人取り残されて半年を過ごす——のちに学部生の身で法人の代表取締役に就く人物の原型は、ここにある。帰国したときの第一印象は日本の夏の暑さで、「アッツ!!」だったという。

学生時代——現地校、寮生活、水泳部、そして一度の不合格

帰国後は公立中学に入り、その後、中高一貫の東京学芸大学附属国際中等教育学校へ移った。この学校は帰国生受け入れの草分けで、前身の東京学芸大学附属大泉中学校・高等学校の時代から50年以上にわたって帰国生を受け入れてきた。2010年2月に国際バカロレア(IB)のMYP認定校、2015年3月にはDP認定校となり、MYPとDPの一貫教育を実践する国内初の国公立校となっている。2014年にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、2015年にスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定され、2020年度からはワールドワイドラーニング(WWL)連携校として探究学習を続ける。「国際教養」「課題解決学習」「少人数・習熟度別の英語教育」を三本柱に掲げる環境は、海外の現地校で6年を過ごした生徒にとって最も摩擦の少ない受け皿だった。
もっとも本人が高校時代の中心として挙げるのは、IBでもSSHでもなく水泳部である。オーストラリアの部活動が教員主導だったのに対し、日本の部活は生徒が自分たちで運営する。この違いを彼女は肯定的に受け止め、部活動に打ち込んだ。競技として泳いだ経験と、海の近くに住んでいた記憶、そして自分の名前が「海」を意味すること。「海が好きだったんです」という単純な理由で、志望校は北海道大学水産学部に決まった。オープンキャンパスに思い立って行き、キャンパスの自然に惹かれて決めたという、進路選択としてはずいぶん軽やかな決め方だった。
そして現役では不合格になる。浪人を選び、翌年に再挑戦した。センター試験の出来は「いまいち」だったが、二次試験で逆転して合格する。本人はこれを「根拠のない自信」と呼んでいる。この一年の回り道は、彼女のキャリアで唯一の明確な失敗であり、同時に「迷ったらやってみる」という彼女の行動原理が単なる楽観ではないことの証拠でもある。
北大水産学部から北極海へ——四つの活動を三つ捨てた選択

北大に入学した1年目、彼女は四つの活動を同時に走らせていた。全学教育の枠を超えたリーダー育成プログラムである新渡戸カレッジ、アルバイト、農業サークル、そしてアルティメットのサークルである。手当たり次第に見えるが、これはオーストラリア時代に叩き込まれた「予定を埋める」習慣の延長でもあった。
転機はコロナ禍で訪れる。実家に帰省した半年間、彼女は自分に「1、2年後もやっていたいか」と問い直し、四つのうち三つを辞めた。この決断によって「自分の将来について考える余裕」が生まれたと語っている。空いた時間で何をしたかというと、募集メールに「片っ端から全部応募」した。失敗を重ねた末に残ったのが、ゼミのTA(ティーチングアシスタント)経験と、ハルトプライズのボランティアだった。この二つが、Floatmealへの導線になる。
学部での研究テーマは気候変動、大学院(北海道大学大学院水産科学院)では北極海の環境変化が海洋生態系に与える影響を扱った。1カ月にわたる北極海の航海に参加し、気候変動の影響を現場で目にしている。K-NICのインタビューで彼女はこう述べている。「気候変動の影響の深刻さについて危機感を抱き、解決策を模索したいと思いを抱きながらも、問題の大きさに対して何から取り組めば良いのかとアクションを起こせずにいました」。研究者としての知識は増えるが、問題の規模に対して自分の行動が見合わない——この落差が、彼女を起業に向かわせる直接の動機になった。

職務経歴と人物像——翻訳担当から代表取締役へ

Floatmealにおける北村氏の最初の役割は、代表でもマーケターでもなかった。学部3年当時のインタビューで彼女が挙げている担当は、PR、マーケティング、そして翻訳である。とりわけ翻訳の比重が大きかった。共同創業者のカマル・シュブロ・サジャッド氏はバングラデシュ出身で、微生物学の修士号を取得後に高校教員を経験し、その後日本政府の奨学金で来日して北海道大学大学院環境科学院で博士号を取得した研究者だ。技術と論文は書けるが、日本語の助成金申請書は書けない。北村氏が申請書類の翻訳を担当するうちに、ウォルフィアという素材が気候変動に対して持つ可能性の全体像が彼女の中で像を結んでいった、というのが同社の創業経緯として語られている流れである。
現在の同社の陣容は、STARTUP DBの2026年7月2日時点のデータで約10人。英語版サイトのAboutページには、Co-founder & CEOの北村もあな氏、Co-founder & CTO兼Head of Productionのサジャッド氏に加え、広報責任者の櫻井博香氏、インドネシア担当のYeni Khairina氏、タイ担当のKannapat Udompant氏が並ぶ。日本人2桁未満の会社に、インドネシアとタイのアウトリーチ担当が正式なメンバーとして載っている構成は、この会社が最初から国内市場だけを見ていないことを示す。
人物像を最もよく表すのは、彼女自身の言葉である。チャレンジフィールド北海道の対談(2023年4月14日公開)で、彼女はサジャッド氏と並んでこう語っている。「自分ひとりだけの力じゃ何もできないけど、ここに参加したら何かできるかも!」「リスクを負ってでもできる限り挑戦してみたい」「今は学生なので貯金もそこまで無いし、失うものも少ない。逆に今ならサポートしてくれる人がたくさんいる」「失敗しても死なないですしね(笑)」。そして北海道について「北海道から世界に向けて新しい食を発信したい」。学生起業のリスク計算を、資産ではなく「失うものの少なさ」と「支援の厚さ」で説明する冷静さがある。
外部からの評価として最も具体的なのは、豊橋市産業部地域イノベーション推進室の澤田恭平氏が2026年1月のプレスリリースに寄せたコメントだ。「同社の事業は、世界の食料問題の解決に繋がる可能性を秘めた素晴らしいもので、そしてそれに挑むメンバーの皆さんの真っすぐな姿に感動しました」。自治体職員が農地と生産者のマッチング制度を動かしてまで拠点誘致に踏み込んだ背景に、この「真っすぐさ」への評価があったことを示している。組織運営の面では、K-NICのスタートアップハンズオンプログラムで得た価値として彼女が挙げたのが「社内で意見が割れた際に、メンターの方が中立的な立場で考えを整理してくれたこと」だった。技術者と経営者が異なる母語と異なる専門を持つ二人組の会社で、意思決定が割れたときに外部の中立者を入れて解く——若い経営者としては手堅い運用である。
そして最大の評価は、人事そのものに表れている。ウォルフィアの技術も、ハルトプライズ学内大会を勝ち抜いたチームも、JST STARTの採択課題も、すべてサジャッド氏が起点だった。にもかかわらず、法人化にあたって代表取締役の席に座ったのは当時まだ学生だった北村氏である。技術の生みの親が経営の舵を渡したという事実は、どんな推薦文よりも雄弁だ。

創業物語——ハルトプライズの一夜から法人化まで

2021年1月16日、北海道大学のハルトプライズ学内大会が開かれた。ハルトプライズは社会課題解決型のビジネスアイデアを競う国際学生コンペティションで、この年は食料問題がテーマだった。コロナ禍のため、登壇者と最小限のスタッフだけが会場に入り、審査員と観客はZoomで参加するハイブリッド形式である。エントリーした15チームから5チームが決勝に進み、優勝したのが「FLOATMEAL」だった。チームリーダーは環境科学院博士課程2年のカマル・シュブロ・サジャッド氏。環境科学院、経済学部、工学部に所属する留学生3人が加わった、全員が外国人のチームである。彼らが提案したのが、東南アジアで食べられているウキクサを食料問題の解に据えるというアイデアだった。北大新聞の取材にサジャッド氏は、次のラウンドに向けて「実際にウキクサを栽培する」段階まで進めたいと語っている。
北村もあな氏はこの大会の運営ボランティアだった。彼女がのちに「募集メールに片っ端から応募した」なかから残った二つのうちの一つが、この大会である。勝ち上がっていくチームを間近で見て、その技術者と知り合い、日本語の助成金申請の翻訳を引き受けるようになった。
技術のバックボーンは学内にあった。北海道大学の森川正章研究室は、ウキクサとその表層に共生する微生物の関係を長年にわたり研究してきた。同大の研究シーズ資料によれば、森川研究室は大学植物園のウキクサから「P23」と名付けた植物成長促進細菌を単離しており、この菌との共生によってウキクサの生産速度はおよそ2倍になる。遺伝子組み換えではなく、植物表面の「スイッチを押す」タイプの技術で、PCT/JP2016/069474および特許第6800484号として権利化され、科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発に採択された経緯を持つ。Floatmealが2026年1月のプレスリリースで「北海道大学・森川研究室による約15年にわたる研究成果と知見を基盤に」と書くのは、この蓄積を指す。なお森川氏は2026年3月に定年退職し、現在は特任教授である。
2021年度、サジャッド氏を代表者としてJSTの大学発新産業創出プログラム(START、大学・エコシステム推進型 拠点都市環境整備型)に「持続可能な食用タンパク源ウキクサWolffiaのオンデマンド生産技術開発」が採択される。学生プロジェクトが公的資金で技術開発の実体を持ち始めた瞬間だ。そして2023年5月25日、Floatmeal株式会社が設立された。本社は札幌市白石区東札幌五条1丁目1-1、札幌市産業振興センターC5。北大発認定スタートアップとして登録され、2026年7月時点で106社を数える同大の認定企業群の一つとなった。
以降の展開は、研究室スケールから生産スケールへの階段を一段ずつ上がる典型的なディープテックの軌跡である。2024年3月、北洋銀行スタートアップ研究開発基金と北海道銀行中小企業人材育成基金の助成(「高たんぱく植物ウキクサ成長促進栽培管理システム開発」に対し100万円)を獲得。同年6月10日、廃棄物処理を手がける株式会社三友環境総合研究所(CEO小松和史氏)とパートナーシップを締結し、北海道勇払郡安平町安平308-6に「Abira Laboratory」を開設した。1棟あたり200平方メートルのビニールハウスによる実証である。7月にKPMG Dream賞、9月11日にNoMaps Dream Pitch 2024で最優秀賞と野村證券札幌支店賞、9月17日発売の週刊東洋経済「すごいベンチャー100」2024年版に「フード・農業」カテゴリーで選出、12月17日には「J-TECH STARTUP 2024」認定と「大学・研究機関発スタートアップ賞」を受賞した。2025年2月19日にはICCサミットFUKUOKA 2025のリアルテック・カタパルトに登壇し、7社中4位となっている(優勝はソニア・セラピューティクス、2位EXORPHIA、3位FingerVision)。
2026年1月19日、同社はNEDOの2025年度「研究開発型スタートアップの起業・経営人材確保等支援事業/ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP)/躍進コース3000」への採択と、愛知県豊橋市への研究開発・生産拠点新設を発表した。躍進3000は助成対象費用の上限が3,000万円のプログラムである。豊橋拠点はスマート温室と自社の栽培技術を組み合わせ、研究から試作、生産検証までを一体で行う設計で、食品メーカーとの共同開発やサンプル提供に応じられる中規模生産体制を目指す。北海道の実証拠点と、農業・食品加工が集積する東三河の生産拠点という二極構成になった。

技術の中核と、タイへの二本の橋

Floatmealの技術的な主張は明快だ。ウォルフィアの単作栽培では藻類の混入(コンタミネーション)が最大の障害になるが、同社は微生物を用いた独自技術でこれを解決し、成長促進・品質安定化・栄養価向上を同時に実現するとしている。プレスリリースでは、CTOサジャッド氏の指揮のもと、スマート温室と独自栽培技術の組み合わせで量産技術を確立すると明記した。KIZUNAの記事で北村氏はこう説明している。「ウォルフィアは東南アジアなどの淡水域で自然に生育し、自然界ではさまざまな微生物と共存しています。食料として開発するために、研究用の温室で有効な栽培方法を探っています。ウォルフィアの成長速度を加速し、栄養価を高める微生物の研究もそこに含まれます」。
ここで見落とされがちなのが、この会社とタイを結ぶ橋が二本あることだ。一本目は市場としての橋である。日本経済新聞が2025年5月29日に報じたところによれば、同社は2027年にもタイに生産拠点を設ける計画で、タイ国内で約1ヘクタールの土地に目処をつけている。KIZUNAの記事では、1ヘクタール規模の生産設備を複数、現地農家に栽培技術を提供する形で展開し、市場を育てたうえで日本へ輸入する構想が示された。北村氏は「ウォルフィアはタイで100年以上、食用植物として親しまれてきました」と述べている。2026年1月のプレスリリースで同社が募集した職種に「海外拠点における品質管理体制の構築・運用」が含まれていることは、この計画が採用計画にまで落ちていることを示す。
二本目は、より深い学術の橋だ。JSTの地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)では、「タイ国・生物循環グリーン経済実現に向けたウキクサホロビオント資源価値の包括的開拓」(JPMJSA2004)が2021年10月から2026年10月まで走っている。日本側研究代表者は北海道大学の森川正章氏。タイ側の中核はカセサート大学で、コンケン大学、チュラロンコン大学、マヒドン大学、ナコンパトム・ラチャパット大学、国立遺伝子工学・バイオテクノロジー研究センター(BIOTEC)、国立ナノテクノロジー研究センター(NANOTEC)が参加する。そして、タイ側の参加機関リストにはAdvanced GreenFarmの名がある。つまりFloatmealの技術的な母体である森川研究室と、タイでウォルフィアの産業化を最も先へ進めた企業は、同じ国際プロジェクトの内側にいる。プロジェクトの達成目標には「食用ウキクサの生産性向上と高機能性食品の開発」、具体的には高品質な食用Wolffia globosaを持続的に大量培養するシステムの構築が明記されている。タイ東北部の伝統食が、北海道の研究室を経由して日本のスタートアップに接続する構図は、偶然ではなく設計されたものだ。

先行者の教訓——味の素・Hinoman、GreenOnyx、Plantible

ウォルフィアの商業化を最初に本格的に試みたのは日本の食品最大手だった。味の素は2017年3月23日、イスラエルのバイオベンチャーHinoman Ltd.(テルアビブ、CEO ロン・サルペテル氏、2010年8月設立)と契約し、Mankai(ウォルフィア)の日本国内独占販売権を取得。2021年7月30日、次世代ベジタブルドリンク「Mankai」を通信販売限定で発売した。1本あたりマンカイ4.8グラムを配合した抹茶風味の粉末で、30本入り4,500円。「たんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など60種類の栄養素」を訴求し、卵に匹敵するアミノ酸バランスを比較図で示した。FY2021の販売目標は消費者購入ベースで約3億円。日本食糧新聞は2021年8月4日の記事で、2030年に年商100億円を目指す構想と報じている。
その味の素ダイレクトのMankai関連ページは、現在いずれも「お探しのページがみつかりませんでした」を返し、直販ラインアップに同商品は見当たらない。上流でも異変が起きていた。イスラエルの経済メディアCalcalist(CTech)が2025年10月5日に報じたところによれば、Hinomanには味の素、シンガポールの投資ファンド、インドネシアの大手麺メーカーなどから累計6,500万ドル(約106億円)超が投じられたが、2022年1月に1億7,000万シェケル(約83億円)の負債を抱えて債務再編に入った。うち2,800万シェケル(約14億円)はキブツ・ベエリに対する債務である。同社は裁判所の監督下でシモン・ベンヘモ氏(メコロット元CEO)とオフェル・リンチェフスキ氏(イスラエル鉄道元CEO)のグループに600万シェケル(約3億円)で売却され、無借金で再出発した。持分は同グループ74%、キブツ・ベエリ26%。2023年10月7日のハマスの襲撃では温室の一部が損傷し、キブツの担当者が空挺部隊の護衛付きで数日後に戻って植物を守ったという。CTechは、現在の経営陣がイスラエルを試験市場と位置づけ、ナスダック上場も視野に入れつつ、日本市場については味の素と交渉を継続していると伝えている。
もう一社のイスラエル勢GreenOnyxは、2013年にツィピ・ショハム氏とベニー・ショハム氏が設立し、QFarming技術で「Wanna Greens」ブランドの生鮮ウォルフィアを育てる。累計調達額は3,000万ドル(約49億円)。2023年11月には国際宇宙ステーションへの打ち上げを実施し、2025年のAgTech Breakthrough Awardsで「Vertical Farming Company of the Year」に選ばれた。EUの伝統食ルートでの届け出人になったのもこの会社である。
ウキクサ属(Lemna)に軸足を置く米Plantible Foodsは、この分野で最も資本市場の評価が高い。2018年にトニー・マルテンス・フェキニ氏とマウリッツ・ファン・デ・フェン氏が創業し、ルビスコ(Rubisco)を精製した「Rubi Protein」はタンパク質含有率85%、PDCAAS 1.0、卵白に近い乳化・ゲル化・脂肪結合機能を持つ。2024年11月、Piva CapitalとSiddhi Capitalが共同リードする3,000万ドル(約49億円)のシリーズBをクローズし、Betagro Ventures(タイの食肉大手ベタグロのCVC)、Cultivate Next(チポトレ)、Nourish Ventures(グリフィス・フーズ)、既存投資家Astanor Venturesが参加した。テキサス州エルドラドの商業プラントは稼働済みで、能力を3倍に引き上げるための追加調達を進めている。Siddhi Capital共同創業者のスティーブン・フィン氏は「機能性、モジュール式のスケール製造、栄養価、そして消費者にわかりやすいクリーンラベルへの集中が決め手になった」と述べている。
これら三社が示す教訓は明快だ。第一に、規制は「伝統食」ルートなら通る。第二に、素材の物語だけでは資本市場は動かず、動くのはオフテイク契約と機能性である。第三に、温室資産を先に積み上げると需要が追いつかず倒れる。Hinomanは70デュナムの温室と6,500万ドルを持ちながら、2022年に潰れた。

VCと投資家はどう見ているか——シリコンバレーの採点表

まず市場環境を直視する必要がある。Good Food Institute(GFI)の集計によれば、2025年の代替タンパク質への投資額は8億8,100万ドル(約1,440億円)で、2024年の11億ドル(約1,800億円)から20%減少した。2021年のピーク50億ドル(約8,190億円)に対して約18%であり、2019年の10億ドル水準さえ下回った。内訳は植物性が4億5,000万ドル(約737億円)、発酵が3億5,700万ドル(約584億円)、培養が7,400万ドル(約121億円)。培養肉は2019年以来初めて1億ドルを割った。地域別では欧州拠点企業が4億1,800万ドル(約684億円)で、北米の3億4,000万ドル(約557億円)を2年連続で上回っている。GFIのダニエル・ガートナー氏は、減少の主因をベンチャーキャピタルのAIへのシフトに求めた。上位3件のディールが全資本の38%を占め(2023年は25%)、資金はカテゴリーリーダーに集中している。2024年9月以降、業界では60社超が買収・合併・破綻・閉鎖に至った。
この地合いのなかでFloatmealを採点するとき、サンドヒルロードの投資家がまず見るのはキャップテーブルである。同社は現時点で、エクイティによる資金調達ラウンドを公表していない。公表されている資金は、北洋銀行スタートアップ研究開発基金、北海道銀行中小企業人材育成基金の100万円、2024年度第2回研究開発助成金、そして上限3,000万円のNEDO NEP躍進コース3000、加えてJST STARTという公的・準公的資金である。設立から3年3カ月、従業員約10人。これは弱さの証明でもあり、強さの証明でもある。
弱さの側から言えば、非希薄化資金だけで進む会社は、規模のスイッチを入れる決断を先送りできてしまう。1ヘクタール級の生産設備を海外に複数構えるという2027年の計画には、助成金の桁では届かない。プロダクション・ファイナンスを組む段階で必ずエクイティかデットが要る。逆に強さの側から言えば、代替タンパク質の資金が18%まで縮んだ3年間を、希薄化ゼロで生き延びたということでもある。Hinomanが6,500万ドルを溶かした期間に、Floatmealは200平方メートルのビニールハウスから始めた。同時期に閉鎖された60社超の多くは、需要が確定する前に資本を設備に変えた企業である。この資本効率は、いま最も評価されにくく、しかし最も再現困難な資産だ。
投資家コミュニティからの評価は、資金ではなく票として現れている。ICCサミットFUKUOKA 2025のリアルテック・カタパルトでは、39名の審査員の投票により7社中4位。優勝は医療機器のソニア・セラピューティクス、2位はエクソソーム創薬のEXORPHIA、3位はロボット用触覚センサーのFingerVision——いずれもIP密度と参入障壁で勝負する分野である。食品原料で4位という結果は、コンセプトの魅力が審査員に届いた一方、「なぜこの会社でなければならないか」の説得力では医療・ロボティクス勢に及ばなかったことを示す。NoMaps Dream Pitch 2024の最優秀賞と野村證券札幌支店賞、KPMG Dream賞、J-TECH STARTUP 2024の「大学・研究機関発スタートアップ賞」、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」2024年版のフード・農業カテゴリー選出。地域とプログラムの評価は一貫して高い。
シリコンバレーの視点で最も重要な論点は、この会社が売るものが何かという定義である。ウォルフィアを「野菜」として売るなら、勝負は生鮮流通とブランドであり、GreenOnyxのように小売チェーンとの棚の戦いになる。「タンパク質原料」として売るなら、勝負は機能性とコストであり、Plantibleのように85%純度のルビスコと卵白代替という明確な用途で戦うことになる。Floatmealの現在地は、乾燥重量44%のタンパク質を含む粉末を食品メーカーに供給する原料モデルに寄っている。KIZUNAによれば国内の数十社の食品メーカーから引き合いがあり、プロテインドリンク、麺、菓子、飲料への応用が検討されている。粉末原料市場での競争相手は、大豆タンパク質やエンドウ豆タンパク質であり、それらは1キログラム数百円のコモディティだ。タイの乾燥タンパク質粉末が1キログラム3,000〜5,000バーツ(約1万5,000〜2万4,000円)で取引されている現状は、この素材がまだプレミアム市場にしか存在しないことを意味する。
だからこそ、投資家が注視すべき差別化軸はタンパク質のパーセンテージではない。ビタミンB12である。植物性食品でB12を生理活性型かつ吸収可能な形で供給できる素材は極めて少なく、Nutrients誌の研究はウォルフィアがそれを満たすことを示した。The Nation紙も、タイの輸出加速の背景に「ビタミンB12を含む低炭素な植物性タンパク質」への需要があると書いている。汎用タンパク質原料としてはコモディティ競争に飲み込まれるが、「B12を含む植物性タンパク質」という一点であれば、価格弾力性のある市場が存在する。加えて、EFSAがHinomanの粉末を退けた理由がマンガンだったことを踏まえれば、微生物制御による栽培水管理で低マンガン・高B12の系統を安定供給できることは、そのまま規制上の参入障壁になる。森川研究室由来の微生物技術がこの一点に効くのであれば、それは食品原料企業ではなくプラットフォーム企業の評価軸に載る。

強みと課題

強みは三つに整理できる。第一に、技術の出自が明確であること。森川研究室の約15年の蓄積、P23をはじめとする植物成長促進細菌、特許第6800484号という具体的な基盤があり、CTOはその研究室で博士号を取った当事者である。大学発スタートアップにありがちな「大学の名前だけを借りた」構造ではない。第二に、タイへの接続が市場面と学術面の二重になっていること。SATREPSを通じて森川研究室とタイの大学群・Advanced GreenFarmが同じプロジェクトにいる事実は、2027年のタイ進出が白紙からの海外展開ではないことを意味する。第三に、規制上の追い風が既に存在すること。EUは2021年に生鮮ウォルフィアを、2025年にLemna 2種を認可済みで、タイでは伝統的食材として長く認められている。日本政府は2026年6月24日、フードテック分野に官民で9.7兆円の投資を想定する成長戦略を示し、うち「新規食品」に1兆円、2040年度に売上3兆円という目標を掲げた。追い風の向きと会社の向きが一致している。
課題も三つある。第一が資本構成だ。エクイティ調達を公表していない状態で、2027年に海外複数拠点という計画を実行するには、資金調達の一段のジャンプが不可避である。設備投資を伴うスケールアップで、公的助成の3,000万円規模は明らかに足りない。第二がユニットエコノミクスの不透明さだ。同社は「タンパク質1キログラム当たりの生産コストが他の農産物と比べ極めて低い」と主張するが、実際のコスト構造は公開されていない。スマート温室での閉鎖系栽培は、藻類混入を防ぐという品質上の要請と引き換えに、露地栽培に対する設備償却と電力・空調コストを背負い込む。Hinomanの破綻は、まさにこの構造で起きた。第三が需要の確定である。「数十社から引き合い」は商談であって契約ではない。Plantibleが3,000万ドルを調達できたのは複数の数百万ドル規模のオフテイク契約が先にあったからだ。日本の食品メーカーがサンプル評価から本採用へ進むまでの時間は長く、その間にキャッシュが尽きるのがこの業界の典型的な死に方である。
もう一つ、素材固有のリスクとして押さえておくべきはマンガンとアレルゲンだ。EFSAが2021年に指摘した論点は解決不能ではないが、日本国内で食品原料として本格流通する際にも、栽培水由来のミネラル管理と表示設計は避けて通れない。タンパク質含有率40〜50%の新規素材である以上、アレルギー表示の議論も遠くない。

今後の展望——2026年後半から2027年に計測できる指標

今後12〜18カ月で、この会社の実力は具体的な事象として計測できる。
第一に、豊橋拠点の稼働実績である。2026年1月に開設された同拠点は「食品メーカーとの共同開発やサンプル提供に対応可能な体制」を目的としており、2026年下期には最初の共同開発案件が形になるかどうかが問われる。日本経済新聞が2026年7月14日・15日に同拠点の量産技術実証を報じた段階では、まだ商用化前である。食品メーカー名を伴う共同開発の公表があれば、それが最初の実需シグナルになる。
第二に、経営体制の補強だ。2026年1月のプレスリリースで同社が募集したのは、事業開発部門のCOO候補、メカニカルエンジニア、微生物研究者、そして海外拠点における品質管理担当である。COO候補の採用は、創業者2名体制から次の段階に移る合図であり、同時にエクイティ調達の前提条件でもある。海外拠点の品質管理担当の採用は、タイ計画が実行フェーズに入る先行指標になる。
第三に、資金調達である。エクイティラウンドが公表されるなら、時期としては豊橋の生産検証が一巡し、共同開発案件が具体化する2026年度後半から2027年前半が自然なタイミングになる。調達額そのものより、リード投資家が誰かのほうが情報量が大きい。ディープテック系VCがリードすれば技術資産としての評価、食品事業会社のCVCがリードすれば供給契約とセットの評価、地域系ファンドが中心なら国内実装重視——三つのシナリオで会社の進む方向は変わる。Plantibleのラウンドにタイのベタグロ、チポトレ、グリフィス・フーズという需要家系CVCが並んだ構図は、この分野で機能する資本の型を示している。
第四に、タイ拠点だ。日本経済新聞が報じた「2027年にもタイに生産拠点」という計画に対し、土地の目処は約1ヘクタール分ついている。SATREPSプロジェクトが2026年10月に終期を迎えるため、その成果が現地でどう事業に接続されるかは2026年度末から2027年度にかけて見えてくる。現地農家への栽培技術供与という形をとるなら、それは設備投資を抑えつつ供給量を確保するアセットライトな設計であり、Hinomanの失敗を回避する筋の通った選択になる。
第五に、規制と表示だ。国内で食品原料として広く流通させる段階では、栽培水由来のミネラル管理と成分規格の整備が必要になる。EUへ輸出するのであれば、2021/2191の枠組みが生鮮植物体を対象としている点を踏まえた形態設計が要る。日本政府が「新規食品」に1兆円の投資を想定する政策環境は、この整備を進める企業にとって有利に働く。
ウォルフィアは、シリコンバレーが好む物語の条件をほぼすべて備えている。世界最小の花を咲かせる植物、1日で倍増する成長速度、大豆の230分の1の水、63分の1の土地、5倍のCO2吸収、そして植物には稀なビタミンB12。だが同じ物語で6,500万ドルを調達したイスラエル企業は3年で債務再編に入った。物語と事業を分けるのは、契約と原価と、規模を上げる順番の選択である。北村もあな氏が学生時代に四つの活動のうち三つを捨てて一つを深めた判断は、まさにその種類の判断だった。海の名を持つ経営者が次に何を捨て、何を残すかが、この会社の次の18カ月を決める。
