レドックスフロー電池とは——タンクに貯めた「電気の素」を循環させる蓄電池

レドックスフロー電池を一言で言えば、「液体に電気を溜める電池」である。スマートフォンやEVに入っているリチウムイオン電池が、固体の電極材料そのものに電気を出し入れするのに対し、RFBは電気を蓄える役目を電解液(液体)に丸ごと預けてしまう。住友電工をはじめ商用機の主流は、電解液にバナジウムという金属イオンを硫酸に溶かした水溶液を使う「バナジウム系(VRFB)」だ。
仕組みはイメージしやすい。プラス用とマイナス用、二つの大きなタンクにバナジウム水溶液を貯めておき、ポンプでそれぞれを「セルスタック」と呼ばれる発電・充電ユニットに送り込む。セルスタックの中央はイオンだけを通す膜で仕切られ、左右で液が混ざらないようになっている。充電するとバナジウムイオンの価数(電子の数)が変わり、放電すると元に戻る。バナジウムは2価から5価まで複数の状態を取れる珍しい金属で、プラス側もマイナス側も同じバナジウムを使うため、たとえ左右の液が少しずつ混ざっても「別の物質に変わってしまって戻せない」という劣化が起きにくい。これがRFBの設計思想の核心である。
この方式がもたらす最大の特徴は、「出力(パワー、kW)」と「容量(持続時間、kWh)」を別々に設計できることだ。住友電工自身が説明するように、出力はセルスタックの台数で、充放電できる時間はタンクの電解液の量で決まる。リチウムイオン電池では電池セルを増やせば出力も容量も同時に増えてしまうが、RFBは「タンクを大きくするだけ」で4時間を6時間にも10時間にも延ばせる。長時間ためる用途ほど割安になりやすい、という性質はここから生まれる。原理そのものは1974年に米航空宇宙局(NASA)が提案し、日本でも産業技術総合研究所(産総研)が同時期に基礎研究を始めた、息の長い技術だ。
「燃えない・劣化しない・減らない」の中身——三つの強みを具体例で読み解く

本稿のタイトルが掲げる三つの言葉は、単なるキャッチコピーではなく、それぞれ物理的な裏づけを持つ。
第一の「燃えない」。RFBの電解液は硫酸バナジウムの水溶液、つまり中身はほとんど水である。住友電工は公式に「不燃性。たとえ正負の液が混合しても発火することはありません」と明記し、製品はUL1973認証を取得している。リチウムイオン電池が抱える熱暴走(一つのセルの発熱が連鎖して火災に至る現象)が原理的に起こらない。後述するように、この一点がAIデータセンター時代に決定的な意味を持ち始めている。何十億ドルものGPUを並べる建屋の足元に置く電池に、まず求められるのは「火を出さないこと」だからだ。
第二の「劣化しない」。一般的な電池が寿命を縮める主因は、充放電のたびに電極の材料が溶けたり析出したり、結晶構造が崩れたりすることにある。RFBでは反応の主役が液中のバナジウムイオンであり、電極自体は反応の「場」を提供するだけで溶けも析出もしない。住友電工は「電極の劣化はありません。また電解液自体の劣化もありません」とし、充放電サイクル数は事実上無制限、システムとしての耐久年数は従来型で20年超としている。リチウムイオンが数千回程度で容量を大きく落とすのに対し、RFBは2万回を超えるサイクルに耐え、毎日何度も満充電・全放電(100%深放電)を繰り返しても性能がほとんど落ちない。実機でもそれは裏づけられており、米カリフォルニア州でサンディエゴ・ガス&エレクトリック(SDG&E)に納めた2MW/8MWh機は稼働率99%を記録し、20年間にわたり容量の90%以上を保つと見込まれている。
第三の「減らない」。劣化しない電解液は、システムの寿命が来ても中身のバナジウムが消耗しているわけではない。だから住友電工が説明する通り、電解液はリユース・リサイクルが可能で、電池を更新するときも「電気の素」であるバナジウムは資産として残る。電解液が高価であることはRFBのコスト面の弱点だが、裏を返せば、その高価な液は使い減りせず回収できる「半永久的な仕掛品在庫」でもある。後述する電解液リース(電解液を買わずに借りる)というビジネスモデルが成立するのも、この「減らない」性質があればこそだ。

弱点はどこか——かさばり、高く、効率で劣る。それでも「8時間の壁」で輝く理由

ここまで長所を並べたが、RFBが万能でないことも公平に押さえておきたい。最大の弱点はエネルギー密度の低さである。水溶液に溶かせるバナジウムの量には限界があるため、同じ電力量を蓄えるのにリチウムイオンよりはるかに大きく重いタンクと敷地が要る。スマホやEVに積むのはおよそ非現実的で、用途は据え置き型の系統用・産業用に絞られる。第二に初期コストの高さ。バナジウムが高価なうえ、ポンプや配管、セルスタックといった付帯設備が増える。第三に往復効率がやや低いこと。ポンプを回す電力(自家消費)が必要なため、充電した電気のうち取り出せる割合はリチウムイオンの約9割に対しておおむね6〜7割台にとどまる。
この損得を一枚の絵にすると、RFBが選ばれる条件がはっきりする。短時間(4時間以下)の用途では、エネルギー密度とkWhあたり単価で勝るリチウムイオンがほぼ無敵だ。実際、業界専門メディアの分析でも、4〜8時間という「経済的に最も重要な帯」はリチウムイオンが価格と供給網の強さで押さえ、長時間側にもリチウム製品が安値で流れ込んでいる。ところが放電時間が8時間を超え、毎日激しく充放電する使い方になると、サイクル劣化が無視できないリチウムイオンに対し、「2万回でも劣化しない」RFBの経済性が逆転し始める。揚水発電が地形的に作れない場所で、太陽光とセットで一日分をならす——そんな「中〜長時間の毎日の循環」がRFBの主戦場だ。英Faraday Institutionは、系統が弱く太陽光と組み合わせて信頼性の高いバックアップを求める南アフリカ・インドネシア・タイ・インドのような新興国市場が最も恩恵を受けると指摘する。LDES Council は、こうした長時間蓄電の市場が2040年までに85〜140TWh規模に達しうると見込む。要するにRFBは「リチウムを置き換える電池」ではなく、「リチウムが苦手な長時間帯を埋める電池」なのだ。

住友電工はなぜ世界に先行できたのか——1982年に始まった40年の助走

住友電工がこの分野で世界に先んじた背景には、40年を超える執念にも近い継続がある。話は1980年前後にさかのぼる。当時の日本ではエアコンの普及で昼と夜の電力需要の差が広がり、夜間の余剰電力を貯めて昼に使う「負荷平準化」が国家的な課題になっていた。そこで通商産業省(当時)主導の国家プロジェクト「ムーンライト計画」が立ち上がり、電力貯蔵用として4種類の新型蓄電池の開発が始まる。その一つがレドックスフロー電池だった。
この時、電力ケーブル事業への依存から脱却し新しい収益源を探していた住友電工が、「材料に開発課題がある」RFBを新規テーマとして採択したのが1982年である。電線・ケーブルで培った材料技術と親和性が高いと見たわけだ。以来、同社は地道に実機の規模を引き上げてきた。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の大型実証として2015年12月、北海道電力ネットワークの南早来(みなみはやきた)変電所に出力15MW/容量60MWhの設備を稼働させ、これは当時として世界最大のRFBだった。2022年には同変電所で17MW/51MWh機も立ち上げている。海外でも前述のカリフォルニアSDG&E向け2MW/8MWh(2017年、米国で初めてカリフォルニアの卸電力市場に参加したフロー電池で、マイクログリッドとして約70戸を約5時間自立給電した実績を持つ)をはじめ、ベルギー(John Cockerill向け)、台湾(工業技術研究院ITRI向け)、豪州クイーンズランド州(Energy Queensland向け)などへ展開してきた。2024年4月には、実証ではなく商業運転用として日本初のRFBを北海道電力に納入している。住友電工の累計の開発・納入実績は30年以上、180MWh超に達する。
「世界に先行」という見出しには、しかし注釈が要る。累計の研究開発期間と多様な実績で先行してきたのは確かだが、単一プロジェクトの規模では、後述する中国勢にすでに追い越されている。住友電工の強みは「最大」ではなく「最長」と「最安全」、すなわち長年の運用知見と品質にある、と理解するのが正確だ。

新型V40と国内の現在地——2026年、30年寿命モデルが受注を取り始めた

その住友電工が2025年9月11日に発表したのが、新型「V40シリーズ」である。最大の売りは運用可能年数を従来の20年超から最長30年へ延ばしたこと。あわせて電池出力を従来比で約30%高め、エネルギー密度も向上させて、必要な電池台数や電解液量を減らし、システム導入費と設置面積を圧縮した。受注開始は2026年1月。狙うのは、長期間にわたる脱炭素電源を募る国の「長期脱炭素電源オークション」のような、20年・30年という時間軸で投資回収を考える用途だ。寿命が長いほど一年あたりのコストは下がるため、30年運用は投資採算を一段押し上げる。
国内市場でも追い風が吹き始めた。2026年2月10日、経済産業省の令和7年度「系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」に、RFBを使う3件のプロジェクトが採択された。内訳は、RS Technologiesによる福島県浪江町の2MW・6時間、三井住友ファイナンス&リースと美樹工業による兵庫県太子町の2MW・4時間、RYODEN(リョーデン)と日本エネルギー総合システムによる鳥取県倉吉市の2MW・3時間である。安全性・長寿命・環境性が評価され、補助対象として採用が広がった格好だ。
事業としての位置づけも明確になってきた。住友電工の井上治社長は、RFBを将来の収益の柱の一つと位置づけ、「早期に年間100億円を超える規模の売上高として収益化する」と語る。同社グループは2030年度に連結売上高5兆円・ROIC10%超を掲げる長期ビジョンを持ち、RFBはその「未来の収益源」候補という整理だ。裏返せば、現時点のRFB事業はまだ小さく、原価低減と初期費用の引き下げが引き続き課題である、というのが同社自身の率直な認識でもある。

世界の勢力図——中国・Rongke Powerの圧倒、欧州Invinityの突破口

視野を世界に広げると、RFBの実装は中国が突出している。主役は遼寧省大連に本拠を置くバナジウムフロー専業のRongke Power(大連融科儲能)だ。同社は2023年第3四半期から2025年第2四半期にかけて約3GWhのVRFBを導入し、累計の接続容量は3.5GWhを超える。とりわけ新疆ウイグル自治区ジムサル(吉木薩爾)の太陽光併設プロジェクトは200MW/1,000MWhと、世界で初めてギガワット時級に達した稼働中で世界最大のVRFBで、総投資額は38億元(約830億円)、敷地は1,870ヘクタールに及ぶ。さらに175MW/700MWhの系統形成(グリッドフォーミング)型プロジェクトも展開する。単機の規模で言えば、住友電工や欧米勢は中国に大きく水をあけられているのが現実だ。
中国以外で頭一つ抜けているのが、英国のInvinity Energy Systems(ロンドン上場)である。同社は17か国・5大陸の90を超えるプロジェクトに190MWh以上を納め、2026年には製造コストを36%引き下げたと公表した。2026年1月には英国のインフラ銀行UK Infrastructure Bankから2,500万ポンド(約54億円)の中核投資を受けて増産に踏み込み、イングランド南東部イーストサセックスのCopwood(コップウッド)に20.7MWhを納入、2026年後半に稼働すれば欧州最大のVRFBになる。年産能力は各拠点合計で500MWh規模だ。そしてInvinityの名を一気に高めたのが、スイスのデータセンター開発会社FlexBaseから受注した案件である。スイス・ドイツ国境のラウフェンブルク(Laufenburg)に建設するAIデータセンター向けに、最大1.5GWh(将来2.1GWhへ拡張可能)という世界最大級のフロー電池を設計する内容で、稼働は2028年夏を予定する。2026〜27年は設計・エンジニアリングの段階で、ここがマイルストーン達成に応じてInvinityの売上に立つ。市場全体では、RFB市場は2026年の約11億ドル(約1,760億円)から2031年に約25億ドル(約3,970億円)へ年率17.6%で伸びるとの民間予測(Mordor Intelligence)があり、調査会社IDTechExは2036年に92億ドル(約1兆4,700億円)規模、2026〜2036年の年平均成長率27%と見込む。

米国勢の明暗——ESSの生存戦と、鉄・有機フローの新顔

米国のフロー電池勢は、文字どおり明暗が分かれている。象徴的なのが、ビル・ゲイツ氏のBreakthrough Energy Venturesなどが出資し、2021年にSPAC(特別買収目的会社)経由でニューヨーク証券取引所に上場した鉄系フロー電池のESS Tech(ティッカー:GWH)だ。同社は四半期売上が数百万ドルを超えることがほとんどなく赤字が続き、2025年には破産の可能性を投資家に警告、CEOが退任して戦略の見直しに追い込まれた。2025年10月にはYorkville Advisors系のYA II PNとの4,000万ドル(約64億円)の資金調達枠を確保し、その後も取締役・経営陣によるつなぎ融資や設備のセール&リースバック、最大2,500万ドル(約40億円)のスタンバイ株式購入契約などを組み合わせた総額約3,100万ドル(約50億円)規模の手当てで「延命」を図った。同社のFY2026第1四半期(2026年)の開示でも、なお「事業の立て直し(operational reset)」の途上にあることがうかがえる。主力の「Energy Base」では8MWh級の初受注を得ており、米国産・長時間・安全という追い風を収益に変えられるかが正念場だ。
一方で新顔も登場している。テキサス州ベルビル(Bellville)では、新興のTerraFlowが9.6MW/48MWh(5時間)のVRFBを計画し、2027年第1四半期の初期通電を目指す。同案件はバナジウム電解液をStorion Energy(Largo傘下のLargo Physical Vanadiumと連携)からリース調達する形を取り、電解液を買い取らずに使う前述のモデルを採用する。技術の幅も広がっている。ハーバード大学発の有機フロー電池を商用化するQuino Energyは、キノンという有機分子を水に溶かして使い、高価なバナジウムに依存しない。2025年11月にAtri Energy Transition主導で1,000万ドル(約16億円、追加で600万ドルの増資枠付き)のシリーズAを調達し、米エネルギー省(DOE)からも2021年に1,790万ドル(約29億円)、2024年に260万ドル(約4億円)の支援を受けて、最初の主要案件の商用運転を2027年に見込む。欧州では独CMBlu Energyが有機フローで電力大手Uniperと5GWhの条件付き供給契約、メルセデス・ベンツに11MWhを納入するなど、自動車・電力業界と組んで存在感を増している。
シリコンバレーVCの視点——資金はなぜ「鉄」と「データセンター」へ向かうのか

ここからが本稿の核心、シリコンバレーのVCがこの市場をどう見ているか、である。結論から言えば、2025〜2026年のLDES投資には二つの大きな潮流がある。一つは「資金の総量が絞られ、勝ち筋の絞り込みが進んだ」こと。もう一つは「データセンターという巨大な新需要が、技術選定の基準を書き換えつつある」ことだ。
まず資金の流れ。長時間蓄電セクターは世界で494社、うち資金調達済みの249社が累計78.9億ドル(約1兆2,600億円)を集めた巨大な裾野を持つ(Tracxn)。だが金利高とAIデータセンター・送電網への資金集中のあおりで、Wood Mackenzieによれば2025年のLDES向け資金は前年比で約30%減った。要するに「広く薄く」の時代は終わり、2021〜2025年に単独で10億ドル超を調達できたのはHydrostor、Eos Energy、Form Energyの3社だけ——という勝者集中の様相を呈している。VCの関心は、技術的な美しさよりも「製造を立ち上げ、巨大なオフテイク(引き取り手)を確保できるか」に移った。
その象徴がForm Energyだ。同社の主力は厳密にはフロー電池ではなく「鉄空気電池」で、鉄が錆びる(酸化する)反応を使って最長100時間という超長時間放電を、目標20ドル/kWh級という破格の安さで狙う。鉄と空気と水という、地球上にいくらでもある材料で作れるのが投資家を惹きつける理由だ。Breakthrough Energy Ventures、Prelude Ventures、MITのThe Engine、Energy Impact Partnersらが支え、2024年10月にはT. Rowe Price主導、GE Vernovaも戦略出資者として参画する4億500万ドル(約650億円)のシリーズFを実施。累計調達は14億ドル(約2,240億円、PitchBook調べ)に達する(バリュエーションは非公開だが、二次市場では30億ドル超との推計報道もある)。そして2026年2月26日、TechCrunchがThe Informationの報道として伝えたところによれば、Googleはミネソタ州のデータセンターにForm Energyの電池を据える契約を約10億ドル(約1,600億円)で結んだ。風力1.4GWと太陽光200MWに、300MWを100時間出し続けられる電池を組み合わせる構想だ。Form Energyは2026年後半に新たに約5億ドル(約800億円)規模の調達を行い、2027年のIPO(株式公開)を視野に入れているとされる。
この「Google × Form Energy」と、前章で触れた「FlexBase × Invinity」を並べると、VCが何に賭けているかが見えてくる。鍵はAIデータセンターだ。2026年には世界で353.4GWhもの蓄電池が新設され、その牽引役がデータセンター需要だと見込まれている。データセンターにとって電池の選定基準の第一は、コストでも密度でもなく火災安全性である。Invinity幹部の言葉を借りれば、「数十億ドルのGPUを並べる建屋の真下に置く以上、極めて高い防火性が要る」。ここに、「燃えない」RFBや鉄系電池の出番が生まれる。短時間・高密度ではリチウムイオンに勝てなくても、「燃えない・劣化しない・毎日酷使できる」という長時間蓄電の特性が、AI時代の電力インフラという文脈で再評価されているのだ。シリコンバレーのVCは、もはやRFB単体を「リチウムの対抗馬」としては見ていない。むしろデータセンターや再エネ大量導入という「需要の文脈」に貼り付けられる長時間蓄電(LDES)の一群——バナジウムフロー、鉄空気、有機フロー、亜鉛系、圧縮空気——を一つのポートフォリオとして眺め、製造とオフテイクの確度で取捨選択している、というのが2026年時点の構図である。

今後の見通し——2026〜2028年、どこで何が動くか

最後に、いつ頃どんな動きが計測されそうかを整理しておく。短期(2026年内)に注目すべきは、住友電工のV40がオークションや補助事業で積み上げる受注の実数と、欧州InvinityのCopwood(20.7MWh)が予定どおり年内に稼働して「欧州最大」の実績を作れるか、そして資金繰りに苦しむ米ESSがEnergy Baseの初号案件をやり切れるか、である。バナジウム価格の動向も効いてくる。2022年に1ポンド9ドルだった五酸化バナジウム(V2O5)は2024年に4〜5ドルへ下落したが、2023年の中国の輸出割当で納期が6週間遅れ、Invinityが18か月分の電解液を前倒し購入した経緯もある。電解液を年8〜15ドル/kWhで貸し出すリースは初期資本を25〜30%圧縮できる一方、バナジウム高騰時にはコストが利用者へ転嫁されるため、価格と供給網の安定がそのまま普及速度を左右する。
中期(2027〜2028年)では、いくつかの「初物」が市場の評価軸を決める。米TerraFlowのテキサス案件(2027年Q1)とQuino Energyの有機フロー商用初号機(2027年)が、それぞれ「バナジウムをリースする型」「バナジウムを使わない型」の経済性を実地で示す。Form Energyは2027年のIPOで、超長時間蓄電が公開市場の資金を呼べるかを占う試金石になる。そして2028年夏に予定されるスイスFlexBaseの最大2.1GWhが計画通り立ち上がれば、「AIデータセンター×フロー電池」という新市場が絵に描いた餅でないことが証明される。総じて、長時間蓄電は2025年に世界で15GWh超(前年比49%増)まで伸びたとはいえ、なお蓄電池全体の6%にすぎない。この6%が、データセンターという強力な追い風と、各社の初号機の成否を通じて、これから数年でどこまで二桁台に乗せられるか——住友電工の40年の蓄積が「最長・最安全」という形で報われるのも、まさにこの局面である。
