1分間に7200回転する円盤と、5646億円の赤字

ニデック、最終赤字 5646 億円と 2 年連続の意見不表明。それでも残った HDD モーター 8 割シェアと、AI データセンターの水冷、子会社ニデックコンポーネンツ売却 - 1分間に7200回転する円盤と、5646億円の赤字 - 章扉

巨大なデータセンターの棚に、弁当箱ほどの金属の箱がぎっしりと並んでいる。ハードディスクだ。ふたの下では、鏡のように磨かれた円盤が1分間に7200回、昼も夜も回り続けている。この円盤を回す小さなモーターの、およそ8割を作っているのが、京都のニデックである。

そのニデックが9月30日、2026年3月期の決算を発表した。最終損益は5646億円の赤字で、過去最大だ。決算書を調べた監査法人は、数字が正しいかどうか判断できないとして、意見を出さなかった。前の年に続く、2年連続の「意見不表明」である。

発表までの1週間も嵐だった。1兆円規模の減損を計上するという報道で株価はストップ安になり、翌日には社長が辞任した。同じ日には、電子部品の子会社ニデックコンポーネンツを米投資ファンドのカーライルに、1000億円を超える値段で売る最終交渉に入ったと報じられた。

一方で、工場は止まっていない。AIが生み出す膨大なデータを保存するため、ハードディスクは2026年分がほぼ売り切れという状況で、ニデックのHDD用モーターの売上高は1割近く伸びた。AIサーバーの熱い半導体を水で冷やす装置でも、ニデックは世界の先頭集団にいる。上場を維持できるかどうかの瀬戸際に立ちながら、手元にはAI時代に欠かせない技術が残っている。それが、いまのニデックだ。

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ニデックとは――「回るもの、動くもの」を作ってきた会社

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ニデックは、モーターの会社だ。モーターと聞くと扇風機や洗濯機を思い浮かべるかもしれないが、ニデックの製品は、もっと見えないところに入り込んでいる。パソコンやサーバーの記憶装置を回すモーター、車のハンドル操作を軽くする電動パワーステアリングのモーター、エアコンや冷蔵庫の中で働くモーター、工場のロボットの関節を動かす減速機。社内では、自分たちの領域を「回るもの、動くもの」と言い表してきた。

始まりは1973年、永守重信氏が仲間3人と京都で起こした小さな会社だった。当時の社名は日本電産で、2023年にニデックへ改めた。飛躍のきっかけは、1970年代の終わりに手がけたハードディスク用のモーターだ。ここで世界の頂点に立ち、稼いだお金で次々と会社を買った。永守氏が主導した買収は70件を超える。赤字の会社を買っては立て直す「永守流」の経営は、日本の製造業の成功物語として語られてきた。

2026年3月期の売上高は2兆7087億円。グループの法人は353、拠点は248にのぼる。売上高の4割は家電・商業・産業用のモーターで、自動車向けが4分の1強、HDD用を含む精密小型モーターが2割弱を占める。

永守氏は「2030年度に売上高10兆円」という目標を掲げていた。いまの4倍近い規模だ。その高すぎる目標と、そこへ向かう強烈な圧力が、今回の問題の根っこにある。

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「意見不表明」――監査法人が決算書にお墨付きを出さなかった

ニデック、最終赤字 5646 億円と 2 年連続の意見不表明。それでも残った HDD モーター 8 割シェアと、AI データセンターの水冷、子会社ニデックコンポーネンツ売却 - 「意見不表明」――監査法人が決算書にお墨付きを出さなかった - 章扉

上場企業の決算書には、外部の監査法人が「この数字はおおむね正しい」と保証する報告書が付く。健康診断に例えれば、医師の診断書のようなものだ。ニデックの診断書には、「判定できない」と書かれていた。これが「意見不表明」である。数字が間違っていると言い切る「不適正意見」とは違うが、判断の材料そのものが信用できないという意味で、投資家にとっては同じくらい重い。

監査を担当するPwC Japan有限責任監査法人は、その理由をこう説明している。不正な会計処理に関わったり、監査法人にうその説明をしたりした役員や社員の一部が、いまも決算づくりの責任ある立場に残っている。そのため、会社から出てくる資料や説明を証拠として信じ切れず、見つかっていない誤りが残っていないかを確かめられない。減損の金額や、どの年度に計上すべきだったかについても、十分な証拠が得られなかったという。会社自身も、財務報告にかかわる内部統制は有効でないとしたうえで、その評価結果すら示せないとする報告書を出した。2025年9月以降に出たニデックの決算で、監査法人が中身にお墨付きを与えたものは一つもない。

問題の発端は2025年にさかのぼる。イタリアの子会社で米国向け輸出の関税をめぐる問題が見つかり、調べるうちに、中国の子会社での不適切な会計処理の疑いや、グループ各社が資産の評価を下げる時期を都合よく調整していた疑いが次々に浮かんだ。ニデックは9月に第三者委員会を設けたが、その月の下旬に提出した2025年3月期の有価証券報告書に、PwCは最初の意見不表明を付けた。東京証券取引所は10月28日、ニデック株を「特別注意銘柄」に指定した。内部の管理体制を立て直さなければ上場廃止もあり得る、という警告の札である。

弁護士や公認会計士など約200人が半年以上かけてまとめた第三者委員会の報告書は、厳しい中身だった。売れる見込みのない在庫を資産のまま残す。減損を避けるために、実現しそうにない売上計画を使う。本来は費用にすべき人件費を、設備の値段に紛れ込ませる。こうした会計不正がグループの多くの拠点で見つかり、監査法人に書類を隠したり、改ざんした記録を渡したりした例まであった。背景には「赤字は悪」という考え方と、実力を超えた利益目標を必ず達成せよという強烈な圧力があったと指摘し、「最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるをえない」と結論づけた。

社内では、いずれ処理しなければならない損失の種を「負の遺産」と呼んでいた。報告書によれば、2022年度の終わりに各部門が申告した負の遺産は1600億円あまり。ところが、その年の営業利益を1000億円より下回らせないという方針が先にあったため、実際に処理されたのは約566億円にとどまり、残りは先送りされた。

永守氏は2025年12月に代表取締役を退き、2026年2月には名誉会長も辞めて、会社を完全に離れた。決算の訂正によって、2025年3月期の営業利益は、当初発表の2378億円から1282億円へと4割あまり減っている。

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5646億円の中身――買ってきた会社の値札がはがれた

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赤字の大部分は「減損」という損失だ。会社を買うとき、買い手は工場や設備の値段に、将来の稼ぎへの期待を上乗せして払う。この上乗せ分が「のれん」である。買った会社が期待どおりに稼げないと分かれば、その期待の値札をはがして、損失に計上しなければならない。これが減損だ。

ニデックが2026年3月期に計上した減損は6321億円。大半は、買収で手に入れた事業にかかわるものだった。最も大きいのは家電・商業・産業用モーターの部門で、約2988億円。中国の家電向けモーターで過当競争が起き、稼ぐ力が落ちたためだ。次いで、欧州の自動車大手ステランティスと組んだ電気自動車用モーターの合弁会社で約1163億円、オムロンから買った車載電子部品の会社、ニデックモビリティで約731億円。EVの伸び悩みや、北米事業の不振が響いた。

対照的なのが、HDD用モーターなどを手がける精密小型モーターの部門だ。こちらの減損は約19億円にとどまった。HDD用モーターは、創業期から自前で育ててきた事業である。

傷はほかにも見つかった。過去の決算を訂正した結果、2022年3月期から2026年3月期までの5年間に行った配当と自社株買い、合わせて2400億円あまりが、会社法で許される上限を超えていたことが分かった。9月には個人株主が、このうち2022年から23年の分を問題にして、永守氏と元社長の小部博志氏に約287億円を会社へ払うよう求める株主代表訴訟を、京都地裁に起こしている。親会社単体の純資産は190億円まで減り、自己資本比率はわずか1.0%。2026年3月期は無配で、今期の配当も未定だ。

品質の問題も重なった。9月4日に公表された外部の調査委員会の報告では、この10年ほどの間に844件の品質に関する不適切な行為が認定された。9割以上は、お客の承認を得ないまま材料や工程、設計を変えていたもので、試験や検査の記録をでっち上げた例もあった。多くは家電と車載の事業で起きていた。

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9月最後の週――社長辞任、ストップ安、そして売却報道

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9月25日の金曜日、ニデックの株価は2840円で取引を終えた。週明け28日の早朝、経済誌ダイヤモンドの電子版が、25日の臨時取締役会で岸田光哉社長の解任が決議され、1兆円規模の減損を計上する方針だと報じた。ニデックは、役員の変更や大規模な減損を「検討していることは事実」としつつ、「決定した事実はない」とコメントした。それでも株価には売りが殺到し、値幅制限いっぱいの500円安、2340円のストップ安で引けた。

29日、ニデックは岸田氏が代表取締役社長を辞任したと発表した。決算の訂正作業の中で、岸田氏にも「財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動」があったことが確認されたという。取締役会で今後の体制を議論した後、本人が辞意を示し、取締役会が受理した、という形をとった。日本経済新聞は、社外取締役が辞任を迫ったと報じている。岸田氏はソニーでスマートフォン事業の立て直しを率いた経営者で、2022年にニデックに移り、電気自動車用の駆動装置などの車載事業を担った後、2024年に社長に就いていた。

後任の社長には、最高技術責任者の戒田理夫氏が就いた。70歳。1979年に検査装置メーカーのリードエレクトロニクスに入社し、同社がニデックグループに加わった後も長く経営を担ってきた技術者で、会社の立て直しを議論する「ニデック再生委員会」の副委員長を務めてきた。当面の代表権は、トヨタ自動車の人事部門出身で、コンプライアンスを担当する南井正之氏が持つ。戒田氏は年内に開く臨時株主総会を経て、代表取締役に就く予定だ。

同じ29日には、日本経済新聞が、ニデックコンポーネンツをカーライルに1000億円超で売る最終交渉に入ったと報じた。30日の株価は一時6%あまり上がり、2355円で引けた。それでも1週間前より2割近く低い。時価総額はおよそ2.7兆円で、ブルームバーグによれば、2021年のピーク時には8兆円規模あった。

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それでも残った、HDDモーター世界シェア8割

ニデック、最終赤字 5646 億円と 2 年連続の意見不表明。それでも残った HDD モーター 8 割シェアと、AI データセンターの水冷、子会社ニデックコンポーネンツ売却 - それでも残った、HDDモーター世界シェア8割 - 章扉

ハードディスクの中をのぞくと、レコード盤を小さくしたような円盤が何枚も重なっている。その表面から、髪の毛の太さの1万分の1にも満たないすき間を保って、データを読み書きする磁気ヘッドが浮いている。円盤がわずかでもぶれれば、ヘッドがぶつかり、データが失われる。だから円盤を回すスピンドルモーターには、何年も休まず、揺れずに回り続ける精度が求められる。

ニデックはこのモーターで、世界シェアのおよそ8割を握る。ハードディスクを作る米シーゲイト、米ウエスタンデジタル、東芝の3社すべてに納めている。強みの一つが、軸を金属の玉ではなく油の膜で支える「流体動圧軸受」だ。回り始めると、軸のまわりのわずかなすき間で油に圧力が生まれ、軸が浮き上がるように支えられる。玉が転がる軸受に比べて、振動も音も小さい。1970年代の終わりにハードディスク用モーターを手がけてから、半世紀近く磨いてきた技術である。

ハードディスクは一時、衰退産業と見られていた。パソコンやスマートフォンの記憶装置が、より速いフラッシュメモリーに置き換わったからだ。流れを変えたのがAIである。AIの学習に使うデータや、AIが生み出す文章、画像、動画を、大量に、しかも安く保存するには、今もハードディスクが最も安上がりだ。データセンター向けの大容量の「ニアライン」と呼ばれるハードディスクの需要が急増し、ウエスタンデジタルのアービング・タンCEOは2026年の初め、同年分の生産能力が「ほぼ売り切れ」だと明かした。シーゲイトも、ニアライン向けの生産能力は2026年いっぱい割り当て済みだとしている。

ニデックのHDD用モーターの売上高は、2026年3月期に1101億円と、前の期より9.8%増えた。2年前は706億円だったから、2年で1.5倍を超えた。会社全体が5000億円を超える赤字に沈む中で、この事業は伸び続けている。

ただし、HDD用を含む精密小型モーター部門全体の営業利益は、年度末の第4四半期に損失を出したため、年間で約300億円と半分に減った。ハードディスクの追い風を、部門全体の利益にきちんとつなげられるかも問われている。

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AIサーバーを水で冷やす――もう一つの「残ったもの」

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AI用の最新の半導体は、とてつもない熱を出す。エヌビディアのGPUを72個つないだ最新のサーバーは、人の背丈ほどの棚1台で、家庭用の電気ストーブ100台分ほどの熱を出す。扇風機のように風を当てるだけでは、もう冷やしきれない。そこで広がっているのが、水で冷やす「液冷」だ。

仕組みは、車のエンジンを冷やすラジエーターに似ている。GPUの上に、中を冷却液が流れる金属の板「コールドプレート」を貼り付けて熱を液に移し、温まった液を熱交換器で冷まして、ポンプで再び送り出す。この心臓部にあたる装置を「CDU」、冷却液分配ユニットと呼ぶ。棚1台の中に収める小型の「インラック型」と、棚の列の脇に置いて何台もまとめて冷やす大型の「インロー型」がある。

ポンプも、モーターも、精密な加工も、ニデックの得意分野だ。2018年には、パソコン向けの放熱部品で実績のある台湾の超衆科技を傘下に収め、熱を扱う技術を取り込んだ。インラック型のCDUは累計1万台を出荷し、日本経済新聞は2025年3月、ニデックの水冷装置の世界シェアを5割ほどと報じている。顧客には、米スーパー・マイクロ・コンピューターなど大手サーバーメーカーが並ぶ。

2025年からは、最大2メガワットの冷却能力を持つインロー型を、タイの工場で量産している。エヌビディアのGPUを積んだ棚12台をまとめて冷やせる能力で、従来品の約10倍にあたる。生産には、HDD用モーター工場の空いたスペースを活用した。グーグルが公開した設計仕様に沿う2メガワット級の装置も試作しており、この仕様に取り組む唯一の日本企業だとしている。

水冷事業の売上高は、足元で年200億〜300億円の規模だ。ニデックはこれを2031年3月期に1000億円以上へ伸ばす計画を掲げ、CDUの月産能力を3000台から5000台に引き上げる。タイに加え、中国や米国でも生産の準備を進める。2026年5月に示した新しい5カ年計画でも、成長領域の最初にAIデータセンターを挙げた。データセンターの停電に備える非常用発電機や、電気をためる蓄電システムの需要も右肩上がりだという。

もっとも、この市場には強力な相手がひしめく。米バーティブ、仏シュナイダーエレクトリック、台湾のデルタ電子などが競い合い、2026年3月には米イートンが、液冷などの熱管理を手がける米ボイドの事業を95億ドル(約1兆5000億円)で買収した。ニデックの時価総額の半分を超える値段である。液冷の技術にそれだけの値がつく時代に、ニデックはこの事業を手元に持っている。

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旧コパル電子をカーライルへ――初めての「主要子会社」売却

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売却が報じられたニデックコンポーネンツは、目立たないが手堅い電子部品の会社だ。電子機器の基板の上で、小さなねじを回して抵抗の値を微調整する「トリマポテンショメータ」や、設定を切り替える小型のスイッチ、液体や気体の圧力を電気信号に変える圧力センサなどを作っている。圧力センサは、半導体製造装置や医療機器、工場の自動化設備に使われている。

前身は1967年に生まれたコパル電子だ。ニデックは1998年に資本参加し、2014年に完全子会社にした。2023年に今の社名になっている。売上高は2025年3月期で約327億円。日本経済新聞によれば、ニデックはこの会社をカーライルに1000億円超で売る方向で最終交渉に入っている。ニデックは「売却を検討していることは事実」とする一方、「現時点で決定した事実はない」とコメントした。

1000億円超という値段は、年間の売上高の3倍を超える。カーライルにとって、2026年は日本の電子部品に大きく張る年になった。3月には、オムロンが93年続けてきた祖業の電子部品事業を、事業価値810億円でカーライルに売ると発表している。カーライル・ジャパンの西澤利彦パートナーは東洋経済の取材に、「親会社にとってはノンコアだった事業を、カーライルでは中核事業に位置付けて意思決定を進めることができる」と語った。カーライルは2024年、日本向けのバイアウトファンドとして過去最大となる4300億円を集め、大企業から切り出される事業を主な狙いの一つにしている。

ニデックにとって、この売却は象徴的だ。主要な子会社を売るのは初めてで、永守氏が70件を超える買収で築いた「買って大きくなる」路線からの転換を意味する。2026年5月に示した新しい5カ年計画は、成長や収益性の低い事業からは速やかに撤退や売却を進めると明記し、拠点と法人をそれぞれ160〜180程度に集約する目標も掲げた。同じ5月には、永守氏の肝いりで始めた電気自動車用の駆動装置「イーアクスル」をめぐり、中国の広州汽車集団との合弁を解消する協議に入ったことも明らかになっている。当時社長だった岸田氏は、「レッドオーシャンになっているイーアクスル事業からは撤退したい」と語っていた。

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投資家と各紙はどう見ているか

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株主名簿を見ると、ニデックがいま誰の目にさらされているかが分かる。ブルームバーグによれば、永守氏側の持ち分は約8%。これにほぼ並ぶのが、香港のアクティビスト・ファンド、オアシス・マネジメントだ。3月に6.74%の保有を明らかにし、9月には7.97%まで買い増した。今後3カ月以内にさらに買い増す可能性や、役員の選任、資本政策、事業の譲渡などについて提案する可能性も示している。オアシスは、ニデックの事業そのものは競争力が高く、株価は本来の価値より大幅に安いと主張してきた。

ブルームバーグが3番目の大株主と伝えるのが、同じ香港のヘッジファンド、アスペックス・マネジメントで、約7%を持つ。アスペックスは岸田氏の辞任が発表される前日、取締役会に書簡を送り、決算の正常化と上場廃止リスクの解消を優先すべきだとして、岸田氏の続投を求めていた。大株主の間でも、継続か刷新かで考えが割れていたことになる。

アナリストの見方も一様ではない。シティグループ証券の内藤貴之アナリストは、コンポーネンツの売却が実現すれば「構造改革の進展を示すポジティブな印象」だとし、大規模な減損や経営陣交代の悪影響は一定程度、株価に織り込まれたとみる。ブルームバーグの取材に、英調査会社ペルハム・スミザーズ・アソシエイツのジュリー・ブート氏は、会社が傷めば傷むほど買収の標的としての魅力は増すと語り、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹氏は、会計不正の影響がある程度はっきりしない限り、他社が手を出すのは難しいと指摘した。藍澤證券の三井郁男氏は、十分にクリーンな組織として出直せれば、技術と市場シェアにひかれる投資家はいると話す。ブルームバーグは、不振の自動車事業を切り離して稼ぐ事業を残す、東芝のような分割のシナリオにも触れた。ニデックは外為法で安全保障上の「コア業種」に分類されており、外国の投資家が一定以上の株を取得するには、事前の届け出が必要になる。

銀行は下支えに回っている。三菱UFJ銀行と三井住友銀行は2025年11月、担保も保証もなしで合計6000億円の融資枠を設けた。その一方で、東洋経済によれば、主力行の1行は同じ月、ニデックに対する社内の信用格付けを2段階引き下げている。

訂正後の数字で測ると、株価は安売りの水準ではない。30日の終値2355円は、新たに示された1株あたり純資産の3倍を超え、会社が見込む今期の1株利益の約27倍にあたる。HDDモーターや水冷が稼ぎ続け、立て直しが進むことを、市場はある程度織り込んでいる。

各紙の見出しにも、関心の違いが表れた。日本経済新聞は「上場維持厳しさ増す」と、上場の行方に焦点を当てた。日経の英字媒体である日経アジアは「EVモーターの減損」を見出しに取ったが、金額で最も大きかったのは家電向けモーターの減損だ。ダイヤモンドは社長交代を「不可解な『内紛劇』」と描き、東洋経済は主力銀行の厳しい目を伝えた。

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強みと課題

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強みは、はっきりしている。第一に、AIの時代に息を吹き返したハードディスクの心臓部を、世界の8割という圧倒的なシェアで押さえていること。半世紀近く積み上げた軸受と精密加工の技術は、簡単にはまねできない。第二に、AIサーバーの水冷で、早くから量産の実績を積んだこと。モーターとポンプ、精密加工という本業の技術がそのまま生き、HDDの工場の空いた場所まで転用できる。第三に、データセンター向けの非常用発電機や蓄電システムなど、AIインフラの周辺にも伸びる製品を持つこと。お金の面でも、2026年3月末の手元資金は8522億円あり、本業で稼ぐ現金も2342億円のプラスを保っている。

課題は、それ以上に重い。最大の課題は信頼だ。監査法人が2年続けて意見を出さなかったということは、どれほど工場が忙しくても、投資家や取引先が決算の数字をそのまま信じられないことを意味する。PwCが挙げた理由は、不正に関わった人が決算づくりの要職に残っていることだった。ここを直さない限り、次の決算でも同じ判断が繰り返されかねない。

品質の問題は、お客との関係を直撃する。自動車や家電のメーカーは、部品の材料や工程が勝手に変えられていないことを前提に製品を作っている。844件の不適切行為の後始末は、補償や点検の費用という形で、これから表に出てくる可能性があると会社自身が認めている。

事業の面では、中国の価格競争にさらされる家電向けモーターと、EVの伸び悩みに苦しむ車載事業の立て直しが残る。財務の面では、親会社単体の純資産が190億円まで細り、株主に配当を払う余力がほとんどない。経営の面では、1年足らずの間に創業者が去り、社長も替わった。会社が掲げる「第二創業」を、70歳の新社長のもとで、社員と投資家がどこまで信じられるかが問われる。

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今後――10月28日から年末にかけての関門

ニデック、最終赤字 5646 億円と 2 年連続の意見不表明。それでも残った HDD モーター 8 割シェアと、AI データセンターの水冷、子会社ニデックコンポーネンツ売却 - 今後――10月28日から年末にかけての関門 - 章扉

最初の関門は10月28日だ。特別注意銘柄に指定されてからちょうど1年となるこの日、ニデックは管理体制が改善したことを示す「内部管理体制確認書」を、東京証券取引所に出す予定だ。東証はこれをもとに審査し、問題がないと認めれば指定を解除する。体制は整ったが運用がまだ十分でないと判断すれば、指定を続けて改善を見守る。問題があると認めれば、原則として上場廃止となる。

審査にどれだけの時間がかかるかは読みにくい。東芝の不正会計では、2016年9月に確認書を出してから約3カ月後に「指定継続」が決まり、指定が解除されたのは2017年10月だった。ニデックの結論も、年をまたぐ可能性がある。

11月6日には、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が設けた6000億円の融資枠が、1年の契約期限を迎える。更新されるのか、どんな条件になるのかは、銀行がニデックをどう見ているかを映す物差しになる。

年内には臨時株主総会が開かれる。2026年3月期の決算を株主に報告し、戒田氏を取締役に選ぶための場で、オアシスやアスペックスといった大株主の動きが注目される。延期が続く4〜6月期の決算と、4〜9月期の半期報告書に監査法人がどんな結論を付けるかも、正常化の度合いを測る材料になる。会社は今期、最終損益で1000億円の黒字を見込んでいる。

事業の組み替えも続く。ニデックコンポーネンツの売却が正式に決まれば、関心は次にどの事業が売られるかに移る。広州汽車との合弁解消の行方や、2030年度までの中期経営計画の具体的な数字も、これから示される。永守氏らの法的責任を調べる役員責任調査委員会の結論と、京都地裁の株主代表訴訟の行方も控えている。

AIの時代に欠かせない部品で世界の頂点に立つ会社が、自らの決算書への信頼を取り戻せるのか。最初の答えは、この秋から冬にかけて出てくる。


ニデック、最終赤字 5646 億円と 2 年連続の意見不表明。それでも残った HDD モーター 8 割シェアと、AI データセンターの水冷、子会社ニデックコンポーネンツ売却 - 今後――10月28日から年末にかけての関門 - 図表1