熊本の避難所に届いた、10万枚の肌着

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 熊本の避難所に届いた、10万枚の肌着 - 章扉

2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1、最大震度7の地震が発生した。気象庁が「令和8年熊本地震」と命名したこの地震では、宇城市と氷川町で震度7、熊本市・八代市・宇土市・美里町・益城町・嘉島町で震度6強を観測し、有明海・八代海には16時29分に津波注意報が発表され、同日18時10分に解除されている。

熊本県災害対策本部が8月20日14時時点でまとめた被害情報によれば、人的被害は計398名にのぼり、うち死亡は38名。市町村が災害が原因と確認した死者が36名、負傷の悪化などにより死亡した可能性のある死者が1名、災害との関連を調査中の死者が1名という内訳である。住家被害は推計値を含めて計3万5048棟、全壊が1555棟、半壊が1627棟、一部破損が1万5084棟。避難所は11市町で69か所が開設され、2925名が避難生活を送っていた。国土交通省の8月21日時点の災害情報では、断水は4県15自治体で発生し最大10万8100戸に達したが、熊本県の3自治体で約4300戸を残すまで回復し、8月末の断水解消を目標に応急復旧が進められている。

この被災地に、グンゼは男女用の肌着約10万枚を届けていた。同社が8月18日に公表したところによれば、関係省庁などの要請に応じて7月30日から支援物資の発送を開始し、8月3日に熊本県へ搬入している。地震発生からわずか6日である。

これとは別に、同社は緊急災害対応アライアンス「SEMA(シーマ)」を通じたルートでも支援を行った。男性用の肌着上下1850枚、女性用1050枚、男児・女児用の子ども肌着上下850枚を、グンゼ物流の岡山物流センターから出荷し、SEMA加盟団体である公益社団法人ピースボート災害支援センターを通じて届けている。到着先は熊本県上益城郡益城町のSEMA物資拠点が8月8日、そして熊本県氷川町向けの拠点となっていた佐賀県武雄市が8月10日だった。同社は「今後も被災地の状況に応じてできる限りの支援を続けてまいります」としている。

支援の規模感を掴むには、同業他社との比較が分かりやすい。ファッション専門メディアのFASHIONSNAPが8月7日時点でまとめたファッション・流通各社の支援状況によれば、ファーストリテイリングがユニクロ商品約2万点の寄贈と1億円規模の寄付を予定、レッグウェア大手のアツギが下着などの実用衣料を約4000点寄付、東レが1000万円の寄付に加えて医療用弾性ストッキングなどを提供、ゴールドウインが500万円を寄付といった内容である。グンゼの約10万枚は、点数でみればユニクロの5倍、アツギの25倍にあたる。グンゼが公表したのは8月18日で、8月7日を最終更新とするこの集計には載っていない。

グンゼの災害支援は今回が突発的なものではない。2011年3月、東日本大震災の直後には肌着とレッグウェアを中心に2億円相当の支援物資を拠出したと報じられている。2024年1月の能登半島地震では、男女の防寒肌着1万2000枚と防寒ソックス4000足を、SEMAの七尾市集積所へ、加盟団体のシビックフォースを通じて届けた。肌着は1月12日、ソックスは翌13日に現地へ到着している。

SEMAは、大規模自然災害の発生時に民間企業と市民団体が連携し、企業が持つ物資やサービスの支援をワンストップで提供する災害対応アライアンスである。自治体に負担をかけずに民間だけで支援を行うことを目的として2017年8月に民間企業17社と市民団体6団体で設立され、2026年8月時点では123社・6団体まで拡大した。グンゼの参画も2017年で、同社の沿革にも記載されている。SEMAの公開情報では、グンゼは肌着とソックスを季節や被災者ニーズに合わせて提供するほか、エコノミークラス症候群の予防に用いる弾性ストッキングも供給対象としている。

肌着は、避難生活で最も交換頻度が高く、最も他人から借りにくい物資である。10万枚という数字は、避難者2925名が1人あたり30枚以上を受け取れる計算になる。そして、この10万枚を出荷したアパレル事業こそが、グンゼの決算で最も苦戦している部門にほかならない。

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そもそもグンゼとは何をしている会社か

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グンゼという社名から肌着を連想する人は多いが、同社の利益の大半は肌着以外から生まれている。ここを押さえないと、以降の議論は理解できない。

グンゼは2023年から事業を4つのセグメントに再編している。機能ソリューション事業、メディカル事業、アパレル事業、ライフクリエイト事業の4つである。2026年3月期の連結売上高1309億18百万円のうち、アパレルが585億97百万円で最大だが、営業利益では機能ソリューションが72億34百万円と圧倒的に稼いでおり、アパレルは13億34百万円の赤字だった。

機能ソリューション事業の中核はプラスチックフィルムである。ペットボトル飲料に巻かれている収縮ラベル、いわゆるシュリンクフィルムがその代表格で、グンゼはPETとPSを積層したハイブリッドフィルムを手がけている。ガスバリア性とピンホール耐性に優れたナイロンフィルム、半導体製造やEV電池向けの工業用テープ、防曇性を訴求したOPPフィルムなども展開し、米国・中国・ベトナムの3拠点で平板収縮フィルムを生産している。同事業のもう一つの柱がエンジニアリングプラスチックスで、複合機やプリンターの定着ベルト、中間転写ベルトに用いるフッ素薄膜チューブでグローバルトップシェアを持つ。近年は半導体製造用フィルターサポート材やカテーテル製造用チューブなど、非OA分野を成長領域に据えている。

メディカル事業は、生体吸収性材料を使った医療機器を自社開発している。手術中の縫合部を補強し空気漏れを防ぐ組織補強材、生体吸収性の骨接合材、コラーゲンを使った吸収性人工皮膚、そして凹凸形状を付与したフィルム状ゼラチンからなる癒着防止材が主力である。2026年3月期の売上高は131億97百万円で規模は小さいが、営業利益率は11.2%と高い。

ライフクリエイト事業は、不動産、スポーツクラブ、緑化の集合体である。兵庫県尼崎市の商業施設「グンゼタウンセンター つかしん」は、かつての塚口絹製品工場の跡地に建つ。大阪・御堂筋のイチョウ並木の樹木供給も同社の緑化事業が担っている。

そしてアパレル事業には、インナーウエア、レッグウエア、ライフスタイルアパレル、そしてミシン糸などの繊維資材が含まれる。ブランドで言えば、メンズの「BODY WILD」、レディスの「KIREILABO(キレイラボ)」、ストッキングの「SABRINA(サブリナ)」、ティーン女子向けの「unTuché」などがある。近年の看板商品が「アセドロン」で、汗対策に特化した機能ブランドとして2024年3月にデビューし、半年で累計出荷80万枚、同年末に100万枚、2025年7月に200万枚、そして2026年2月に300万枚を突破した。2026年にはTシャツを3080円、ノンワイヤーブラジャーを2750円、ブラキャミソールとブラタンクトップをそれぞれ3080円で追加投入している。

ここで対照を一つ置いておきたい。ユニクロの「ヒートテック」は2017年9月時点で累計販売枚数が約10億枚を突破したと発表されている。発売15年目での到達だった。アセドロンの300万枚は日本のインナー市場では十分にヒットの部類だが、300倍を超える開きがある。グンゼのアパレル事業が置かれた構造は、この差に集約されている。

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「郡是」という社名の由来と、蚕糸業からの130年

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 「郡是」という社名の由来と、蚕糸業からの130年 - 章扉

2026年は、グンゼにとって創業130周年の年である。創立は1896年8月10日。熊本県へ肌着10万枚が届いた8月3日は、130周年のちょうど1週間前だった。

創業の地は京都府何鹿郡、現在の綾部市である。設立時の社名は「郡是製絲株式会社」といった。この「郡是」という耳慣れない言葉が、そのまま現在の「グンゼ」になっている。由来は、創業の前年に綾部で行われた前田正名の演説にある。殖産興業の推進者として知られた前田は、国全体の方針を意味する「国是」、県の方針を意味する「県是」と同じように、郡には郡の産業振興方針、すなわち「郡是」があるべきだと説いた。これに共鳴した波多野鶴吉が、地域の蚕糸業を郡ぐるみで振興するという意志を社名に刻んだのである。初代社長には羽室嘉右衛門が就き、波多野自身は1901年に二代目社長となった。

波多野鶴吉は1858年に生まれ、8歳で波多野家の養子となった人物である。京都で事業に手を出しては失敗を重ね、養家の資産を使い果たして郷里に戻ったという経歴を持つ。小学校教員として養蚕農家の困窮を目の当たりにしたことが転機となり、上野の共進会で京都産の繭と生糸が「粗の魁」と酷評されたのを受けて、何鹿郡蚕糸業組合を率いる立場に推された。技術者の招聘と養蚕伝習所の設置で品質を底上げし、その延長線上に会社設立があった。グンゼの公式サイトは、波多野が製糸業で最も重要なのは繭でも資本でもなく「社会からも、職工からも十二分に信用を得たる経営者その人であり、至誠の人というに他ならない」と語ったと記している。

この思想は制度に落とされた。1909年、繭の品質を評価して品質に見合った価格を支払う「正量取引」を開始し、同年に川合信水を招聘して社内に教育部を設置している。1917年には郡是女学校を設け、養成科や裁縫科を含む5科の授業と礼儀作法を教えた。1927年には郡是病院を開設し、1990年まで運営している。綾部の人々は同社を「表から見れば工場、裏から見れば学校」と呼んだと伝わる。1926年に商標登録された社章は、中心円が会社を、外周の円帯が養蚕家を表し、共存共栄を図案化したものである。地域と従業員への還元を経営の前提に置く発想は、130年後の災害支援の姿勢と地続きに見える。

生糸事業は輸出で伸びた。1900年のパリ万国博覧会で金牌、1904年の米国セントルイス万国博覧会で最高賞牌を受け、1902年からは米国スキンナー商会への特約販売を開始、1933年にはニューヨークにグンゼシルクコーポレーションを設立している。株式上場も1933年の京都証券取引所、大阪証券取引所が最初だった。

肌着への転身は戦後である。1946年、宮津工場でメリヤス肌着の生産を開始した。これがグンゼの肌着事業の起点となる。1959年に梁瀬工場、1961年に久世工場を肌着事業へ転換し、1953年には「金の品質・銀の価格」というキャッチフレーズを掲げて全国に代理店網を築いた。1934年に塚口工場で始まったフルファッション靴下は1952年にナイロン製へ移行し、1968年にはパンティストッキングの生産を開始してレッグウエアの柱となった。1970年には山形県にメリヤス肌着製造の東北グンゼを設立している。

その一方で、非繊維への多角化も早かった。1962年にプラスチック事業、1983年にエンジニアリングプラスチックス事業、1984年にグンゼスポーツ設立、1985年にメディカル開発室設置と電子部品事業開始。同じ1985年に旧塚口工場跡地に商業施設「つかしん」を開業している。社名を「グンゼ株式会社」に変えたのは1967年、そして1987年、グンゼシルクの解散をもって創業以来の蚕糸業から完全に撤退した。創業91年目に、創業事業がゼロになったのである。

海外生産は1990年のThai Gunze、1995年のGunze(Vietnam)設立で本格化した。この2拠点が、2026年の国内工場閉鎖の受け皿となっている。130年前に「郡是」として一つの郡の産業を守った会社が、いま国内の肌着工場を1つに絞り、タイとベトナムへ生産を移す。歴史の反転が、まさに現在進行形で起きている。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 「郡是」という社名の由来と、蚕糸業からの130年 - 図表1

決算の中身——連結は黒字、アパレルは13億円の赤字

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 決算の中身——連結は黒字、アパレルは13億円の赤字 - 章扉

2026年3月期の連結業績は、売上高1309億18百万円で前期比4.5%減、営業利益48億82百万円で同38.4%減、経常利益49億20百万円で同39.9%減、親会社株主に帰属する当期純利益は5億9百万円で同91.9%減だった。黒字は維持したものの、最終利益は前期の62億79百万円から一気に9割超が消えた。1株当たり当期純利益は189円70銭から15円83銭へ縮んでいる。

セグメント別に見ると、機能ソリューション事業は売上高475億43百万円で8.9%減ながら営業利益72億34百万円と0.4%の増益を確保した。減収は前期末に終息した電子部品事業の影響が約29億円あったためで、その終息によって営業利益はむしろ約3億円改善している。メディカル事業は売上高131億97百万円で1.9%増だったが、営業利益は14億74百万円と39.3%の大幅減益。中国での高額医療規制と日中関係悪化に伴う日本製品の購入抑制が直撃し、加えて医療用レーザー事業の縮小に伴う在庫評価損を計上した。ライフクリエイト事業は売上高125億30百万円で4.4%増、営業利益12億32百万円で24.7%増と堅調だった。商業施設のリニューアル効果とスポーツクラブの不採算店舗削減が効いている。

そしてアパレル事業である。売上高は585億97百万円で3.6%減、営業損益は13億34百万円の損失となった。前期は7億53百万円の黒字だったから、20億87百万円の悪化である。決定打は期末に計上した棚卸資産の評価損で、前期比で約19億円増加した。集中特化戦略のなかで非継続品となる在庫を特定し、その実現可能価格を厳しく見積もった結果だと会社は説明している。

この赤字は「アパレル事業単体」の数字だが、グンゼ株式会社の個別決算そのものも赤字だった。単体の売上高は924億12百万円で4.7%減、営業損益は1億97百万円の損失。前期は19億76百万円の営業黒字だったから、単体ベースでも本業は赤字に転落している。子会社からの受取配当金などが乗る経常利益は47億35百万円、当期純利益は15億45百万円と黒字を保った。連結の黒字を支えているのは、フィルムと医療とショッピングセンターであって、肌着ではない。

期中の下方修正の経緯も記録しておく価値がある。2025年5月14日に公表した当初計画は売上高1400億円、営業利益85億円、当期純利益28億円だった。2026年2月5日、会社は売上高1330億円、営業利益64億円、当期純利益16億円へ下方修正する。理由として挙げられたのは、プラスチックフィルムの海外市場での消費停滞と低価格化、エンジニアリングプラスチックスにおける半導体市場の回復遅れ、メディカルの国内新商品の薬事承認遅れと中国販売の停滞、そしてアパレルにおける消費者の買い控えと「暖冬により季節商品が低迷」したことだった。それでも着地は営業利益48億82百万円と、修正後の計画すらさらに15億円下回った。期末の在庫評価損が上乗せされたためである。当初計画に対する営業利益の未達幅は36億円に達した。

一方、直近の2027年3月期第1四半期、すなわち2026年4月から6月は明確に潮目が変わっている。売上高313億67百万円で2.7%減と減収は続いたが、営業利益は33億87百万円で87.6%増、経常利益は34億19百万円で86.0%増、親会社株主に帰属する四半期純利益は26億40百万円と、前年同期の14億73百万円の赤字から黒字転換した。

注目すべきはアパレル事業である。売上高は133億21百万円で9.8%減と大きく落ちたが、営業利益は11億85百万円で226.7%増、営業利益率は8.9%に達した。ブランド集約と価格改定で販売数量は落としつつ、生産・物流拠点の集約と間接部門合理化で収益性を取りにいくという構造改革の設計図が、そのまま数字に出た四半期だった。DtoCルートではアセドロンが牽引して前年並みを維持した一方、量販店など既存ルートは売り場の縮小影響を受けたとしている。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 決算の中身——連結は黒字、アパレルは13億円の赤字 - 図表1グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 決算の中身——連結は黒字、アパレルは13億円の赤字 - 図表2

聖域なき構造改革——4工場・2物流拠点の閉鎖と、82人の希望退職

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 聖域なき構造改革——4工場・2物流拠点の閉鎖と、82人の希望退職 - 章扉

2025年8月6日、グンゼは取締役会でアパレルカンパニーの構造改革を決議した。中身は生産拠点と物流拠点の集約・再編、そして希望退職である。

生産拠点では、兵庫県朝来市の同社梁瀬工場と、同じく兵庫県で肌着を製造していた連結子会社の養父アパレルを2026年3月末を目途に操業停止。山形県寒河江市で肌着を製造する連結子会社の東北グンゼと、秋田県由利本荘市の矢島通商を2026年12月末を目途に操業停止とした。この結果、インナーウエアの国内生産拠点は京都府の宮津工場ただ一つに集約され、閉鎖する工場の機能は宮津工場とタイ・ベトナムの海外関係会社工場へ移管される。

物流でも、グンゼ物流の京都物流センター綾部事業所を2025年12月末、同福知山事業所を2026年12月末に閉鎖し、機能を国内物流関係会社7拠点へ移す。

宮津工場は、1946年にグンゼがメリヤス肌着の生産を始めたまさにその工場である。1959年に肌着へ転換された梁瀬工場、1970年に設立された東北グンゼが姿を消し、80年前の起点だけが残る。綾部の物流事業所の閉鎖に至っては、創業の地からの撤収を意味する。

希望退職は「ネクストチャレンジプログラム」の名称で実施された。対象はアパレルカンパニー在籍で2026年1月20日時点に満40歳以上の間接部門と営業部門の社員。募集人数は設定せず、2025年10月10日から24日までを募集期間とし、退職日を2026年1月20日、優遇措置として退職加算金の支給と再就職支援を用意した。11月5日に公表された結果は82名である。2026年3月末時点でグンゼ単体の従業員数は1299名、連結で4102名だから、単体従業員のおよそ6%に相当する規模となる。

これらに伴う費用として、グンゼは2026年3月期第1四半期に事業構造改善費用34億円を特別損失に計上した。通期での計上額は33億11百万円である。第1四半期に最終赤字14億73百万円を出したのはこの費用によるもので、翌年の同じ四半期に26億40百万円の黒字へ振れたのは、その反動が大きい。

構造改革の進捗は、決算説明資料で施策別に開示されている。2024年度対比2027年度で33億円の営業損益改善を目標とし、内訳は創益カテゴリーへの集中特化で17億円、生産物流拠点集約と海外生産シフトによるバリューチェーン改革で9億円、間接人員適正化などその他改革で7億円である。2026年度時点での達成率計画は93%。個別には集中特化が90%、バリューチェーン改革が101%、その他改革が89%とされ、集中特化とその他改革は2027年度での目標達成見込みとしている。

具体策としては、価格改定を2025年8月からストッキング、2026年2月からインナーとハウス(部屋着)で実施。ブランドポートフォリオの見直しでは2025年度から2026年度の累計でSKU削減率25%減を掲げる。2025年5月公表の中期経営計画「VISION 2030 stage2」では、さらに踏み込んでブランド数60%削減、SKU数25%削減、在庫数量40%削減という数値を明示していた。

ここで一つ算術を確認しておきたい。施策の積み上げは33億円だが、中期経営計画がアパレル事業に置いた2027年度の到達目標は営業利益23億円である。2024年度実績が7億円だから、実際に増える額は16億円にとどまる。差の17億円はどこへ消えるのか。答えは売上高にある。同計画はアパレル事業の売上高を2024年度の607億円から2027年度に541億円へ、66億円縮める前提で組まれている。ブランドとSKUを削り、価格を上げ、不採算カテゴリーから撤退すれば販売数量は必ず落ちる。その粗利減が、施策による改善の約半分を食う構図になっている。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 聖域なき構造改革——4工場・2物流拠点の閉鎖と、82人の希望退職 - 図表1グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 聖域なき構造改革——4工場・2物流拠点の閉鎖と、82人の希望退職 - 図表2

肌着という市場で何が起きているか——業界の地盤沈下と競合の惨状

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 肌着という市場で何が起きているか——業界の地盤沈下と競合の惨状 - 章扉

グンゼのアパレル事業が苦しいのは、同社固有の問題だけではない。市場そのものが縮んでいる。

矢野経済研究所が2024年に実施した調査によれば、レディスインナーウェア小売市場は2023年に5525億円で前年比99.8%、2024年見込みが5520億円で同99.9%。メンズインナーウェア小売市場は2023年に2280億円で前年比99.6%、2024年見込みが2270億円で同99.6%とされる。数字上はほぼ横ばいだが、同研究所は少子高齢化に伴う対象人口の縮小を構造的課題として挙げ、メーカーが高付加価値製品の投入による単価引き上げで数量減をカバーしている状況を指摘している。つまり、横ばいに見える金額の裏で数量は落ち続けている。

より深刻なのが販売チャネルの崩壊である。グンゼが決算資料で繰り返し使う「量販店など既存ルート」という表現は、総合スーパー(GMS)の衣料品売り場を指す。この市場は歴史的に消滅しつつある。ダイヤモンド・チェーンストアオンラインが報じたところでは、GMSの衣料品売上高は1992年の3兆9265億円から2021年には7290億円まで縮小した。30年で8割が消えた計算になる。

決定打はイトーヨーカ堂である。セブン&アイ・ホールディングスはイトーヨーカ堂の店舗を2026年2月末までに2割超削減し、アパレル事業から撤退する方針を打ち出した。同社の山本哲也社長は、肌着を除く婦人・紳士・子どもの衣料品から完全撤退すると述べている。肌着だけは残る形だが、周囲の衣料品売り場が消えれば来店客の動線そのものが失われる。アダストリアがイトーヨーカ堂向けに供給していた専用ブランド「ファウンドグッド」の仕入れ契約も2026年2月末で終了し、2024年2月の立ち上げからわずか2年で幕を閉じた。グンゼの資料にある「売り場の縮小」とは、この現実の言い換えである。

競合の状況を見ると、業界全体の疲弊がさらにはっきりする。

インナーウェア国内最大手のワコールホールディングスは、2026年3月期に売上収益1715億10百万円で1.4%減、営業利益198億77百万円で504.5%増、親会社の所有者に帰属する当期利益131億24百万円で81.8%増という決算を出した。数字だけ見れば大幅増益だが、中身は違う。営業利益の押し上げ要因は新京都ビル等の固定資産売却益195億45百万円である。売上原価と販管費を差し引いただけの「事業利益」は4億61百万円の損失で、前期の34億37百万円の損失に続く2期連続の赤字だった。ワコールヨーロッパののれんについては10億6百万円の減損損失も計上している。国内のワコール事業は実店舗の閉店と来店客数減少に押され、ECの伸長で辛うじて補っている状況である。2027年3月期の会社予想は売上収益1876億円に対し営業利益15億円と、前期比92.5%減を見込む。2026年4月から6月の第1四半期は売上収益489億5百万円で8.8%増と伸びたものの、事業利益は15億78百万円で34.3%減、営業利益は18億12百万円で90.8%減だった。

レッグウェア大手のアツギはさらに厳しい。2026年3月期の売上高は214億69百万円、営業損失10億19百万円、経常損失9億12百万円、当期純損失11億37百万円。同社の営業損益は2019年3月期から8期連続の赤字である。2027年3月期第1四半期も売上高43億99百万円に対し営業損失6億7百万円と、赤字は止まっていない。

この文脈に置き直すと、グンゼのアパレル事業に対する評価は変わる。2026年3月期の13億34百万円の営業赤字は、前期比で約19億円増えた在庫評価損を含んだ数字である。会社自身が2027年3月期の改善要因として「在庫評価減の解消(+19億円)」を挙げていることからも分かるとおり、この一過性要因を除けば同事業は黒字圏にあった。そして2027年3月期第1四半期には営業利益率8.9%を出している。同じ四半期のワコールホールディングス連結の事業利益率は3.2%である。季節性も事業構成も異なるため単純比較はできないが、構造改革が先行した分だけグンゼの肌着事業が競合より一歩先を歩いていることは、数字が示している。

市場全体の勝者は明確だ。ファーストリテイリングが展開するユニクロは、ヒートテックだけで2017年時点の累計販売枚数が約10億枚に達し、エアリズムと合わせて日本の機能性インナー市場の需要をほぼ独占している。グンゼが向かう先は、この巨人と正面から戦う道ではなく、汗対策のアセドロンや完全無縫製のKIREILABOのように、機能を極端に絞り込んだ「未充足ニーズ」の領域である。2026年4月に発表したグンゼ史上初の一体型接着カップを採用した綿100%リブハーフトップインナーも、その系譜にある。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 肌着という市場で何が起きているか——業界の地盤沈下と競合の惨状 - 図表1グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 肌着という市場で何が起きているか——業界の地盤沈下と競合の惨状 - 図表2

投資家はグンゼの何を買っているのか

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 投資家はグンゼの何を買っているのか - 章扉

ここからが、この銘柄の最も興味深い部分である。2026年3月期に最終利益を9割超失った会社の株価は、同じ期間に倍近く上がった。

2025年4月1日に1株を2株に分割したうえで、グンゼの株価は2025年4月7日に2283円の安値をつけ、2026年3月2日に4765円の高値を記録している。2026年8月21日の終値は4200円、時価総額は1326億円である。PBRは1.22倍。同社は2010年から2017年頃まで0.4倍から0.8倍のレンジで放置されてきた銘柄であり、中期経営計画「VISION 2030 stage2」の資料でも2021年度実績0.57倍、2024年度実績0.72倍と記載されていた。PBR1倍超は、この会社にとって10年以上手が届かなかった水準である。

きっかけは2025年5月14日の株主還元方針の変更だった。従来は「連結ROEが株主資本コストを上回るまで還元性向100%を継続」「DOE(株主資本配当率)2.2%以上」だったものを、「DOE4.0%以上」に引き上げ、さらに「連結ROEが8%以上となるまで、還元性向100%超となる株主還元(特別配当・自己株式取得)を機動的に実施」へと書き換えた。同時に2025年3月期の配当を1株390円(普通289円、特別101円)と決定している。直近の配当予想157円に対して233円の増配だった。

以後の実行は速い。2026年3月期の配当は分割後ベースで1株216円(普通147円、特別69円)、配当総額67億70百万円で、当期純利益が5億9百万円しかなかったため配当性向は1364.5%に達した。純資産配当率は6.0%である。自己株式取得は2025年11月5日の取締役会で140万株・50億円を上限に決議し、2026年3月12日までに115万3400株、49億9996万円を取得して終了。さらに2026年3月31日に300万株を消却した。消却前発行済株式総数の8.67%にあたる規模である。2027年3月期の配当予想も1株216円を据え置いており、会社予想の当期純利益52億円に対する配当性向は130.2%になる。

この設計の狙いは明快である。金融ライターの若山卓也氏はFinasee掲載の記事で、伊藤レポート以来ROE8%が日本企業の一つの基準線となっていることを指摘したうえで、配当と自己株式取得が株主資本というROEの分母を減らすため、収益力が改善しなくても比率そのものを押し上げる効果を持つと解説している。実際、グンゼの2026年3月期のROEは0.5%にすぎず、2027年3月期の会社予想である当期純利益52億円を直近の自己資本1078億円で割っても5%に届かない。8%はまだ遠い。分子が伸びないなら分母を削るというのが、いま実行されている資本政策である。

ただし、この政策には自ら設けた歯止めがある。同社は株主還元方針の変更理由のなかで、バランスシートコントロールの目安としてDEレシオ0.3倍程度、自己資本1000億円以上、自己資本比率60%程度を掲げた。ここに、投資家が押さえておくべき算術が潜んでいる。

自己資本は2025年3月末の1190億74百万円から、2026年3月末に1117億56百万円、そして2026年6月末には1078億39百万円まで減っている。1年3か月で112億円が消えた。目安の下限1000億円までの余裕は約78億円しかない。2027年3月期の会社予想は当期純利益52億円、年間配当総額は約68億円だから、それだけで自己資本は年16億円減る。ここに2025年度と同規模の50億円の自己株式取得が乗れば、年間の減少額は66億円前後になる。同じペースを続ければ、1000億円という目安に触れるのは2027年度、すなわち2028年3月期中という計算になる。有利子負債は2026年6月末で195億15百万円、DEレシオは0.18倍で目安の0.3倍にはまだ余地があるものの、自己資本の側の余白は明らかに薄くなってきた。

つまり、還元による株価の押し上げには賞味期限がある。期限までにアパレルを含む本業の利益が伸びなければ、ROE8%という条件も自己資本1000億円という制約も同時に達成できない。株主還元が続く前提で買われているPBR1.22倍は、その意味で「構造改革の完遂」に対する前払いである。

もう一つ、この銘柄の特徴を挙げておく。カバーするアナリストが極端に少ない。みんかぶが2026年8月22日時点で集計した証券アナリスト予想は、強気買い1人、中立1人の合計2人である。コンセンサスは「買い」、平均目標株価は4300円で、3か月前は評価が中立・目標株価4100円だった。IFIS株予報が集計する2027年3月期の経常利益コンセンサスは79億円で、会社予想の84億円をやや下回る。時価総額1326億円、東証プライム上場、創業130年の企業を2人のアナリストしか見ていないという事実は、情報の非対称性が残っていることを意味する。決算説明資料や中期経営計画のPDFを丁寧に読む投資家にとっては、それ自体が機会でもある。

株主構成の変化も見逃せない。有価証券報告書ベースの上位10大株主の合計持株比率は、2024年3月の44.53%から2026年3月には32.92%まで低下した。京都銀行は3.28%から2.14%へ、第一生命保険は0.93%まで持分を落とし、損害保険ジャパンは上位10位から姿を消している。政策保有株式の解消が進んでいることが読み取れる。浮動株が増えるということは、資本政策への市場の反応が今後より直接的に株価へ出るということでもある。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 投資家はグンゼの何を買っているのか - 図表1グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 投資家はグンゼの何を買っているのか - 図表2

強み——キャッシュを生む「非繊維」と、災害時に効く垂直統合

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 強み——キャッシュを生む「非繊維」と、災害時に効く垂直統合 - 章扉

グンゼの最大の強みは、アパレルが赤字でも会社が揺るがない収益構造にある。

2026年3月期の営業キャッシュフローは172億71百万円と、前期の115億72百万円から57億円近く増えた。営業利益が38%減ったにもかかわらずキャッシュが増えたのは、減価償却費72億60百万円に加え、棚卸資産が53億59百万円減少したためである。構造改革で在庫を吐き出しながら現金を作るという、教科書どおりの動きが出ている。自己資本比率は72.8%、インタレスト・カバレッジ・レシオは236.7倍。財務は極めて健全で、事業構造改善費用34億円も減配せずに吸収した。

利益の柱である機能ソリューション事業は、市況が変わっても粘る。2027年3月期第1四半期は売上高123億54百万円で7.3%増、営業利益25億26百万円で59.7%増と急回復した。原料価格上昇に対する前倒し受注、販売価格と原料価格の変動タイムラグによる押し上げ、海外市場の回復、国内外での製品原価構造の改善が重なった結果である。エンジニアリングプラスチックスも半導体市場の回復基調を捉えている。2023年に守山工場で竣工した資源循環型工場「サーキュラーファクトリー」を核に、リサイクルを前提とする「サーキュラーメーカー」への転換を掲げており、2026年3月期には環境対応型の新製品展開が国内フィルム事業の増益要因になった。需要側の変化を製品で取りに行く体制ができている。

第二の強みが、アパレル事業そのものが持つ生産・物流網である。今回の熊本地震で、グンゼは関係省庁などの要請を受けて7月30日から発送を始め、8月3日には10万枚の肌着を熊本県に搬入した。さらにそれとは別建てで、SEMA経由の細かなニーズにも岡山物流センターから応えている。これは、自社工場・自社物流・全国複合販路という垂直統合を維持しているからこそ可能な芸当である。企画から販売までを外部に委ね、必要な分だけを都度仕入れるモデルでは、災害発生から数日で10万枚の在庫を動かすことはできない。

第三に、ブランド資産と科学的な機能開発力がある。アセドロンが2年で300万枚に到達したのは、「汗」という単一の悩みに機能を絞り込み、それを継続的に訴求し続けた結果である。「KIREILABO」の完全無縫製、「BODY WILD」のムレ対策メッシュ、2026年4月の一体型接着カップなど、素材と縫製の技術で差異化を図る蓄積は、価格だけで戦うプレイヤーには模倣しにくい。同社は2030年に向けたアパレル事業の経営資源として「高信頼ブランド資産」「高度な生産加工技術と独自素材」「科学的評価技術」「生販一体の垂直統合」を挙げている。

第四に、130年の地域資産がある。グンゼ博物苑の2025年度年間入場者数は過去最高の8万人を突破した。2026年7月からは京都府ミュージアムフォーラムとの連携企画として、創業者・波多野鶴吉夫妻の肖像写真を展示する企画展を開催している。創業130周年のキャッチコピーは「読めない、GUNZE。」で、社名を読めない若年層が増えている現実を逆手に取り、20代をメインターゲットに据えたキャンペーンである。ブランド認知の再構築を、歴史の否定ではなく歴史の再解釈で行おうとしている点は、老舗の資産活用として理にかなっている。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 強み——キャッシュを生む「非繊維」と、災害時に効く垂直統合 - 図表1

課題——「アパレルの利益」がまだ存在しないこと

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 課題——「アパレルの利益」がまだ存在しないこと - 章扉

強みの裏返しが、そのまま課題になる。

第一の課題は、アパレル事業の資本効率である。中期経営計画「VISION 2030 stage2」は、アパレル事業の2024年度実績を売上高607億円、営業利益7億円、投下資本403億円、ROIC1.3%、GVA赤字と明記した。GVAとはグンゼ独自の指標で、税引後営業利益に受取配当金を加えた額から、期末投下資本に加重平均資本コストを掛けた額を差し引いて求める。要するに資本コストを上回る価値を生んでいるかどうかの物差しであり、アパレル事業はこれが赤字だった。403億円の資本を投じて1.3%しか回らない事業を抱えているという事実は、投資家の目にはきわめて厳しく映る。同計画は2027年度に投下資本を315億円へ88億円圧縮し、ROIC5.1%、GVA黒字化を目指すとしている。工場と物流拠点の閉鎖、在庫40%削減は、利益改善策であると同時に資本の解放策でもある。

第二の課題は、前中計「VISION 2030 stage1」でアパレルが計画を大きく外した実績そのものである。同社の振り返り資料によれば、2024年度のアパレル事業は営業利益7億円に対して目標30億円で、23億円の未達だった。全社でも営業利益79億円に対し目標100億円、ROE5.3%に対し目標6.3%と届いていない。全社のGVAはマイナス9億円で、赤字部門としてアパレルとライフクリエイトが名指しされている。今回の33億円の改善計画がstage1と同じ道をたどらないという保証は、まだどこにもない。

第三の課題は、目標到達までの傾斜である。VISION 2030 stage2は2027年度に全社営業利益125億円、ROE8%以上、ROIC6.6%以上を掲げる。しかし2027年3月期、すなわち2026年度の会社予想は営業利益88億円である。残る1年で37億円を積み増さなければならない。セグメント別の2026年度計画は機能ソリューション83億円、メディカル18億円、アパレル13億円、ライフクリエイト13億円だから、アパレルが計画どおり2027年度に23億円へ伸びても寄与は10億円にとどまる。残り27億円を機能ソリューション、メディカル、ライフクリエイトで作る必要がある。

第四の課題はメディカルである。営業利益は2025年3月期の24億30百万円から2026年3月期に14億74百万円へ39.3%減り、2027年3月期第1四半期も3億15百万円で41.7%減と底が見えていない。中国の高額医療規制と日中関係悪化に伴う日本製品の購入抑制、医療用レーザーを含む美容医療領域の縮小が主因である。会社は自社製品中心の構成への転換と、欧州・米州・APACでの販売拡大による中国依存度の低減を打ち出し、営業利益率20%への早期回復を目指すとしているが、時間はかかる。成長ドライバーと位置づけてきた事業が踊り場に入ったことは、全社計画の下振れリスクを高める。

第五の課題は季節である。2026年2月の下方修正で会社が挙げた理由の一つは「暖冬により季節商品が低迷」だった。防寒肌着は冬の気温に、汗対策インナーは夏の気温に売上を左右される。第1四半期に営業利益率8.9%を叩き出したアパレル事業の通期計画が2.3%にとどまっているのは、下期の構造的な弱さを織り込んでいるからにほかならない。裏を返せば、2026年から2027年にかけての冬が再び暖冬になれば、13億円の黒字化計画は前期とまったく同じ形で崩れる。構造改革でコストを削っても、気温だけは削れない。

第六に、株主還元の持続性という論点がある。前章で示したとおり、自己資本1000億円という自ら課した目安までの余裕は約78億円しかない。還元を絞れば株価の支えが外れ、還元を続ければ財務目安に抵触する。この二律背反を解く唯一の道が、アパレルを含む本業の利益成長である。

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - 課題——「アパレルの利益」がまだ存在しないこと - 図表1

これから何が計測されるのか

グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - これから何が計測されるのか - 章扉

今後1年から2年で、投資家と業界が確認することになる観測点を時系列で整理しておく。

まず2026年秋である。10月末から11月上旬に2027年3月期第2四半期の決算が発表される。第1四半期に営業利益87.6%増という好スタートを切ったが、IFIS株予報が集計するアナリストの経常利益コンセンサスは79億円と会社予想の84億円を下回っている。中間期の進捗が会社計画に沿うかどうかで、コンセンサスと会社予想のどちらが正しかったかが判定される。同時に、グンゼは2022年から2025年まで4年連続で、11月上旬に自己株式取得の決議を開示してきた。2026年も同じタイミングで新たな取得枠が示されるかどうかは、自己資本1000億円の目安との距離を会社がどう見ているかを測る材料になる。

次が2026年12月末である。山形県の東北グンゼと秋田県の矢島通商が操業を停止し、グンゼ物流の福知山事業所も閉鎖される。これで国内インナー生産の宮津工場一本化と、物流拠点の再編が完了する。バリューチェーン改革の目標額9億円は2025年度から2026年度の2年計で達成率101%と報告されており、この工程が予定どおり終われば、2027年3月期後半から2028年3月期にかけて固定費削減効果がフルに乗る。逆に、閉鎖に伴う追加費用や生産移管のトラブルが出れば、そこが最初のつまずきになる。

2027年2月上旬には第3四半期決算がある。前期はこのタイミングで下方修正が出た。冬物の売れ行き、すなわち2026年から2027年にかけての冬の気温が、この時点の数字に直接反映される。

2027年5月中旬の2027年3月期通期決算が、最初の本格的な採点日となる。会社が掲げたアパレル事業の営業利益13億円、すなわち前期の13億34百万円の赤字からの黒字転換が達成できるかどうか。会社は改善要因として、在庫評価減の解消による19億円のプラスと、工場集約・間接人員削減・価格改定の効果の本格発現を挙げている。同時に、2027年度が中期経営計画の最終年度にあたるため、全社営業利益125億円とROE8%への到達可能性についての会社の見解が示されるはずだ。

2027年度、すなわち2028年3月期は、VISION 2030 stage2の総決算となる。アパレル事業は売上高541億円、営業利益23億円、投下資本315億円、ROIC5.1%、GVA黒字化が目標である。同時に、還元を現在のペースで続けた場合に自己資本が1000億円の目安に近づく時期でもある。この年に、収益改善が資本政策の制約に間に合うかどうかが決まる。

2028年以降については、岡高広社長が2026年7月に大阪で開いた事業説明会で方向性を示している。繊研新聞の報道によれば、2026年から2027年は重点ブランドのブラッシュアップに充て、2028年からは次世代の「新定番」の確立とグローバル化を目指す。そして2030年には営業利益率10%、年間在庫回転率4回転、リードタイムの半減、GVAの黒字化を掲げた。岡社長は早稲田大学を卒業して1987年にグンゼへ入社し、2017年に執行役員プラスチックカンパニー長、2022年に常務執行役員経営戦略部長、2025年に専務執行役員経営戦略部長を務めたのち、2026年6月25日の定時株主総会を経て社長に就任した人物である。アパレル畑ではなく、機能ソリューションと経営戦略の出身者が構造改革の最終局面を指揮するという人事そのものが、グループの重心がどこにあるかを物語っている。前社長の佐口敏康氏は代表取締役会長に退いた。

最後に、災害支援について。熊本県では8月末の断水解消が目標とされ、建設型応急住宅は8月3日に氷川町と宇城市で着工し、8月21日時点では八代市、宇土市、美里町、甲佐町にも建設が広がっている。避難所生活から仮設住宅へ、そして夏から秋冬へと局面が移れば、必要とされる肌着も変わる。グンゼは能登半島地震では1月に防寒肌着1万2000枚と防寒ソックス4000足を届けた実績を持ち、SEMAには季節や被災者ニーズに合わせた供給を登録している。今回の熊本でも「今後も被災地の状況に応じてできる限りの支援を続けてまいります」と表明しており、気温が下がる10月以降に第二波の支援が動くかどうかが、次の観測点になる。

13億円の赤字を出した事業部が、10万枚の肌着を6日で被災地に届けた。この二つの事実は矛盾していない。国内に工場と物流網を抱え、全国の量販店に配荷し、在庫を持つという構造こそが、赤字の原因であると同時に、災害時の即応力の源泉である。構造改革とは、この能力を失わずにコストだけを落とすという難題を解くことにほかならない。グンゼが2027年度までにその解を出せるかどうかを、市場はPBR1.22倍という値付けで先に評価している。


グンゼ(GUNZE)(3002)、連結黒字維持も、主力の肌着を含むアパレル事業は厳しく単体で13億円の営業赤字。東日本大震災や能登半島地震に続き、熊本地震にも肌着10万枚を寄付 - これから何が計測されるのか - 図表1