砂漠の巨大データセンターに、電気が届かない

メキシコとの国境に近い米ニューメキシコ州の砂漠で、東京ドーム約120個分の土地に、AIのための巨大な建物が4棟、立ち上がりつつある。
完成すれば、この一か所だけで2.45ギガワットの電気を使う。大型の原子力発電所およそ2基分で、米国の家庭に置き換えれば約180万世帯分にあたる。建物の中には、AIの頭脳にあたるNVIDIAのGPUを詰め込んだサーバーがずらりと並び、その計算力は、ChatGPTを動かすOpenAIに提供される予定になっている。
ところが、この施設で電気をつくるための燃料、天然ガスを運ぶはずのパイプラインが、州の許可を得られずに止まっている。
そして、この建物群の主な借り手である米オラクルが、貸し手の開発会社に一通の通知を送っていた。「不可抗力」、英語でフォース・マジュールと呼ばれる契約条項を持ち出す通知である。9月24日にこの事実が明るみに出ると、オラクル株は取引開始から売り込まれ、一時は前日比7.7%安と、8%近くまで下げた。終値は3.5%安の139ドル54セント(約2万1900円)。売買高は直近3か月平均の1.7倍に膨らみ、翌25日もさらに1.7%下げた。
施設の名前は「プロジェクト・ジュピター」。2025年1月にトランプ大統領がホワイトハウスで、オラクル、OpenAI、ソフトバンクグループの首脳と並んで打ち上げた巨大AIインフラ計画「スターゲート」の中核拠点の一つだ。スターゲートは、米国内にAI専用の巨大データセンターを次々に建て、4年間で5000億ドル(約78兆5000億円)を投じるとうたう。ジュピターについては、地元の郡が2025年9月、30年間で最大1650億ドル(約26兆円)を投じる計画として税優遇の枠組みを承認しており、ニューメキシコ州の歴史で最大の民間投資とされる。
市場が身構えたのは、これが一つの施設の工期の問題にとどまらないと受け止めたからだ。OpenAI、オラクル、NVIDIAの間をぐるぐると回る巨額のお金。その流れのどこかで、目詰まりが始まっているのではないか。今回の一通は、その不安に火をつけた。

「不可抗力」通知とは何か——台風と納期の話

台風で工場が水につかり、部品メーカーが約束の納期に部品を届けられなかったとする。このとき、部品メーカーに違約金を払わせるのは酷だろう。そこで契約書には最初から、「天災地変、戦争、法令の改廃など、当事者の責めに帰さない事由」で約束を果たせないときは責任を問わない、と書いておく。これが不可抗力条項で、日本の取引契約にも広く入っている。コロナ禍で大型イベントが相次いで中止されたときにも、この条項が持ち出された。エネルギーや資源の世界では、悪天候や紛争で製油所やパイプラインが止まるたびに使われる、ありふれた道具だ。
では、オラクルは何をしようとしているのか。第一報を出したブルームバーグによると、オラクルはテナント、つまり借り手の座から降りようとしているのではない。ジュピターが2028年の予定どおりに動き出せなかった場合に備えて、支払いを先送りする権利を確保しようとしている。電力の確保にかかわる不可抗力が起きたと双方が認めれば、オラクルは賃料の支払い開始を3年遅らせられる可能性があるという。その間も他の費用は払い続け、賃料の支払いが始まれば、契約期間の全額を払う。
ロイターが別の関係者から得た説明は、さらに具体的だ。建設期間中、オラクルは開発会社に「開発段階の賃料」と呼ばれる低めの支払いを続けている。不可抗力を使えば、この低い賃料の期間が延び、完成後の本来の高い賃料が始まる時期が後ろにずれる。本来の賃料を受け取る期間そのものは短くならない。そして同じ関係者は、計画は1年遅れる見通しだと語った。
見逃せないのは、この関係者が明かした契約の中身だ。用地の電力を確保するのはオラクルの責任で、オラクルはいかなる場合も賃貸契約を解除できない。借入金の利払いもオラクルが負う。つまりオラクルは、逃げ道のない長期契約を結んだうえで、電力というもっとも読みにくいリスクまで自分で抱えている。不可抗力は、その中に残された数少ない安全弁というわけだ。
オラクルの広報担当者は「不可抗力の通知は、この規模の開発では一般的で、契約上の権利を守るために使われることが多い。通知そのものが、プロジェクトの遅れを確定させたり、引き渡しの見通しを変えたりするものではない」と説明し、「プロジェクト・ジュピターは計画どおりのスケジュールで進んでいる」と強調した。開発会社を傘下に持つ米投資会社ブルー・アウル・キャピタルも「今回の通知は、この複数年にわたるプロジェクトへの財務上の約束を変えるものではない」とコメントしている。
この一手でオラクルが過去に約束した支払い義務から本当に解放されるかどうかは確かではない、とブルームバーグ自身も書いている。米大手法律事務所クイン・エマニュエルは6月の顧客向けレポートで、「AIデータセンターの案件で、不可抗力はもはや契約書の末尾に置かれた決まり文句ではない。遅れが一か所で収まるのか、建設、顧客、電力、保険、融資の各契約へと連鎖していくのかを決める、訴訟とリスク配分の中核的な道具になった」と警告していた。同じレポートは、リスクが知られた後に結ばれた契約ほど「予見できたはずだ」という反論を受けやすく、機器の長い納期や送電網への接続待ち、電力の制約はその典型だとも指摘している。同事務所のパートナー、ラジャット・ラナ氏はロイターに「今年1月のデータセンター契約と今日の契約を比べると、まるで別物だ」と語った。

誰が誰に払うのか——建設中ビルの「一括借り上げ」

話が分かりにくいのは、登場人物が多いからだ。いちばん近いたとえは、建設中のオフィスビルの一括借り上げだろう。大家がビルを建て、大口の借り手が丸ごと借り、それを自分の顧客に貸し出す。
大家にあたるのが、開発会社のスタック・インフラストラクチャーと、地元のボーダープレックス・デジタル・アセッツだ。スタックはブルー・アウル・キャピタルの投資先で、ブルー・アウル側が約30億ドル(約4700億円)の自己資金を入れ、約20の銀行団が180億ドル(約2兆8000億円)を融資している。ロイターによれば、ブルー・アウルは建設中は出資額に対して年9%、完成後は借入の効果も加わって約11%の利回りを得る設計になっている。
主な借り手がオラクルだ。建物を借り、NVIDIAのGPUを買って並べ、自社のクラウド「オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)」として計算力を貸し出す。
その計算力を使うのがOpenAIである。両社は2025年7月、最大4.5ギガワット分の計算力をオラクルが用意することで合意した。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、2027年から5年間で総額3000億ドル(約47兆円)規模の契約だと報じている。OpenAIは同年9月、スターゲートの新拠点5か所を発表し、そのうちテキサス州シャクルフォード郡、ニューメキシコ州ドニャアナ郡、中西部の3か所をオラクルと開発すると明らかにした。このドニャアナ郡の拠点が、ジュピターだ。
お金の流れをたどると、仕組みが見えてくる。OpenAIがオラクルに利用料を払う。オラクルはそのお金で賃料と借入金の利払いを賄う。賃料は、ブルー・アウルの利回りと銀行への返済の原資になる。オラクルの受注残、正確には「残存履行義務」と呼ばれる、契約済みでまだ売上になっていない金額は、8月末に6640億ドル(約104兆円)に達した。格付け会社S&Pグローバルは7月、当時6380億ドル(約100兆円)だったこの受注残のおよそ半分がOpenAI向けだと推計している。
この鎖は、どこか一か所が止まると全体が詰まる。ガスが届かなければ発電できない。発電できなければGPUは動かない。GPUが動かなければ、オラクルはOpenAIに計算力を引き渡せず、その分の売上は立たない。それでも建物の賃料と借金の利息は、暦どおりにやってくる。オラクルが不可抗力を持ち出したのは、この時間のずれに備えるためだ。

ガス管1本で止まる理由——発電所を抱え込むデータセンター

これほどの電気を、既存の送電網からすぐに引いてくることはできない。そこでジュピターは、敷地の中に自前の発電設備を持ち、施設だけで電気をまかなう「マイクログリッド」として設計されている。
当初はガスタービンとディーゼル発電機を並べる計画だった。排出ガスや水の使用をめぐって住民の懸念が強まるなか、オラクルは2026年4月、米ブルーム・エナジーの燃料電池に切り替えると発表した。燃料電池は、ガスを燃やすのではなく、化学反応で直接電気を取り出す装置だ。日本の家庭用燃料電池「エネファーム」を、途方もない規模に大きくしたものを思い浮かべるとよい。導入量は最大2.45ギガワットで、窒素酸化物の排出はガスタービンより約92%少なく、水もほとんど使わない。
ただし燃料電池も、燃料の天然ガスがなければ動かない。そのガスを運ぶのが、米エネルギー・トランスファーが計画する長さ約29キロの「グリーン・チリ」パイプラインだ。このうち州の土地を通る区間は、わずか1キロほどにすぎなかった。ところが州の公有地長官ステファニー・ガルシア・リチャード氏は、その通過申請を3月と7月の2度にわたって退けた。「この規模の事業のために大量のガス利用を進めることは、州の信託地にとって利益にならない」というのが理由だった。事業者はルートを連邦政府の管理地に付け替えたが、稼働予定は2026年8月15日から2027年2月1日へ、約5か月半ずれ込んだ。
もう一つの関門が、燃料電池の排出に関する州環境局の大気許可だ。9月に予定されていた公聴会は、環境団体の訴えで手続きが止まり、開かれなかった。州最高裁は9月中旬に環境団体の申し立てを退けて手続きの再開を認めたが、新しい審理官の任命と日程の決め直しが必要になっている。環境局が判断を下す期限は11月23日だ。
住民の目も厳しい。ブルームバーグによれば、開発側は計画の全容を明かす前に地元当局と優遇策や情報公開の段取りを詰めており、住民がオラクルとOpenAIの名前を知ったのは承認の後だった。敷地内に掘られた新しい井戸は、4月以降だけで約1億300万ガロン、25メートルプールでおよそ1000杯分の地下水をくみ上げたと、地元の調査報道メディアが伝えている。
通知の報道の2週間前、9月10日の決算発表の場で、オラクルの最高財務責任者ヒラリー・マクソン氏は記者団に「今わかっていることの中に、ニューメキシコや他の拠点が、2027年度の見通しに織り込んだ日程より遅れていると考える材料はない」と語っていた。共同最高経営責任者のクレイ・マグワーク氏もアナリスト向けの電話会見で、ジュピターは2027年度の業績見通しに影響しないと述べ、大気許可の取得に取り組んでいると説明していた。その14日後に、通知の存在が報じられたことになる。

株価急落の本当の理由——借金で走るオラクル

工期の遅れ一つで、時価総額4000億ドル(約63兆円)を超える企業の株がここまで揺れたのには理由がある。オラクルは、巨大クラウド事業者の中で唯一、AI設備の拡大を主に借金でまかなっている会社だからだ。
6月から8月までの四半期、オラクルの売上高は前年同期比30%増の193億ドル(約3兆300億円)、AI向けを含むクラウド基盤の売上は2倍超に伸びた。一方で、設備投資は前年同期の85億ドル(約1兆3000億円)から285億ドル(約4兆5000億円)へと3倍超に膨らみ、フリーキャッシュフローは54億ドル(約8500億円)のマイナスだった。有利子負債は1250億ドル(約19兆6000億円)。この四半期には、市場で少しずつ株を売り出す方式で、200億ドル(約3兆1000億円)の新株も発行している。
S&Pグローバルは7月9日、オラクルの格付けを「BBB-」に1段階引き下げた。投資適格の最下位で、その一つ下は「投機的」、いわゆるジャンク級だ。S&PはOpenAIを「中心的な信用リスク」と名指しし、OpenAIが支払えなくなれば、オラクルの手元には、簡単には解約も転貸もできない長期のデータセンター賃貸契約が残ると指摘した。2027年度の設備投資は900億〜950億ドル(約14兆〜15兆円)に達し、事業で稼ぐ現金から投資を差し引いた資金は約420億ドル(約6兆6000億円)の赤字になるとみている。
そこへ、通知の報道が重なった。オラクルの社債が返ってこなくなる事態に備える保険、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保険料は、9月24日に過去最高を更新した。ジュピター向けの180億ドル(約2兆8000億円)の融資は、額面100に対して90を割り込む水準で取引されている。英フィナンシャル・タイムズは通知の報道より前の9月18日の時点で、銀行がこの融資に89から91の値を付けており、より広い投資家への売却が滞っていると報じていた。米国の長期金利が約20年ぶりの高さにあることも、借金で走る企業には逆風だ。
米証券キーバンク・キャピタル・マーケッツのアナリスト、ジャクソン・エイダー氏は「オラクルは主要なハイパースケーラー、つまり巨大クラウド事業者の中で、最も綱渡りの資金繰りにある」と指摘する。こうした問題は他社にも広がりうるが、手元資金の厚い大手より、オラクルこそが最も強く痛みを感じる、というのが同氏の見立てだ。
冷静な見方もある。米証券ウィリアム・ブレアは「実務上、2027年度は影響を受けないはずだ。ジュピターは今年度の売上に寄与しないからだ」とし、短期的な影響は限られるとみる。米証券DAデビッドソンのギル・ルリア氏は米CNBCで、ニューメキシコの計画が中止される可能性は低いとの見方を示した。
余波は周辺にも及んだ。24日はブルー・アウル株が3.6%、燃料電池のブルーム・エナジー株が3%下げ、翌25日の東京市場では、スターゲートの旗振り役であるソフトバンクグループ株が朝方に3.9%安まで売られた。


警戒される「循環取引」——お金がぐるりと回る仕組み

町のパン屋が、近所に開く喫茶店に開業資金を出したとしよう。喫茶店はそのお金で、パン屋からパンを仕入れる。パン屋の売上は伸び、喫茶店も立派な店を構えられる。ところが、喫茶店に思ったほど客が来なかったらどうなるか。パン屋は、出資したお金と、あてにしていた売上を、同時に失う。
AIの世界では、これと同じ形の取引が数十兆円単位で積み重なっている。「循環取引」と呼ばれるもので、ブルームバーグは、ある会社が別の会社に出資し、その会社が出資元の製品やサービスの大口顧客になることで、両者の運命が結び付く取引だと説明している。
中心にいるのがNVIDIAとOpenAIだ。NVIDIAは2025年9月、OpenAIが同社のシステムを1ギガワット導入するごとに段階的に出資し、総額で最大1000億ドル(約15兆7000億円)を投じる意向を示した。この構想は結局、2026年2月に300億ドル(約4兆7000億円)の出資に置き換わった。OpenAIが同月に発表し、3月末に1220億ドル(約19兆円)で締めた資金調達の一部で、企業価値は8520億ドル(約134兆円)と評価された。同じ取引の中で、OpenAIはNVIDIAの次世代システム「ベラ・ルービン」で、推論用に3ギガワット、学習用に2ギガワットの計算力を確保している。NVIDIAのジェンスン・フアン最高経営責任者は3月、この出資が、上場前のOpenAIへの「最後の出資になるかもしれない」と語った。
このお金はOpenAIからオラクルへの利用料となり、オラクルはそれでNVIDIAのGPUを買う。テキサス州アビリーンの旗艦拠点では、オラクルがNVIDIAの最新チップ約40万個、約400億ドル(約6兆3000億円)分を購入すると、英フィナンシャル・タイムズが2025年に報じている。NVIDIAが出したお金が、OpenAIとオラクルを経由して、NVIDIAの売上に戻ってくる。今回の件で名前の挙がる3社の「輪」とは、この流れのことだ。
輪はさらに広がっている。NVIDIAは8月、ソフトバンクグループ傘下のSBエナジーがオハイオ州で建設するOpenAI向けデータセンターについて、最大1050億ドル(約16兆5000億円)の信用補完、つまり事実上の保証を引き受けたことを開示した。7月末には最大2500億ドル(約39兆円)の保証が協議されていると報じられ、ブルームバーグは、韓国SKグループとの提携と合わせたNVIDIAの一連の案件が7500億ドル(約118兆円)を超え、「循環取引への懸念を再燃させた」と書いた。半導体大手AMDは2025年10月、OpenAIにGPUを供給する契約と同時に、OpenAIの購入量などに応じて自社株を最大1億6000万株、1株1セントで取得できる権利を与えた。アマゾンもOpenAIに500億ドル(約7兆9000億円)の出資を約束し、そのうち350億ドル(約5兆5000億円)は上場か汎用人工知能の実現が条件となっている。OpenAIはアマゾンのクラウドを大規模に借りる契約も結んでいる。
こうした取引に早くから疑問を投げてきたのが、米ベンチャーキャピタル、ベンチマークのビル・ガーリー氏だ。2025年12月に公開されたポッドキャスト番組で、同氏は循環取引の始まりを、マイクロソフトがOpenAIに出資し、OpenAIがマイクロソフトのクラウドを買った取引に求めた。アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者が「アマゾンは、私たちが持っていないお金を使わせたかったので、さらにお金をくれた」と説明したのを聞いて、「それこそが、この行為が疑わしい理由だ」と感じたという。NVIDIAがクラウド事業者のコアウィーブに出資したうえで、売れ残った計算力を買い取る約束までしている点にも触れ、「すっきりした会計を目指すなら、こんなことはしない」と語った。
擁護する声もある。アモデイ氏自身は、資金力のある企業が、将来の売上を見込みながらも資金の足りないAI開発企業に資金を出すことに「何ら不適切な点はない」と述べている。フアン氏はオハイオの案件について「OpenAIが、世代ごとに更新できる最も生産性の高いAI工場を展開できるよう、NVIDIAの計算資源のための長寿命のインフラを確保している」と説明した。
中央銀行も目を光らせている。イングランド銀行は7月の金融安定報告で、AI企業が設備投資のために外部資金、とりわけ借入への依存を強めており、それが2026年前半に加速したと指摘した。AIの供給網は少数の巨大IT企業の投資判断に依存しているため、悪い知らせが一つ出れば、AI関連企業全体の業績見通しが一斉に引き下げられる恐れが高まっている、とも警告している。
ジュピターの一件は、この輪にもう一つの弱点があることを示した。お金はいくらでも速く回せる。しかし最後は、砂漠の建物に電気を通し、GPUを動かさなければならない。許可、パイプライン、住民の同意。物理的な世界の遅れは、契約書の上の支払い日を待ってはくれない。好調なときに互いの数字を押し上げる仕組みは、逆回転が始まれば、損失を連鎖させる仕組みに変わる。

各紙・各社はどう報じたか

第一報のブルームバーグは、この件を「反対運動と規制上のつまずきに見舞われた計画に、新たなしわが加わった」と描いた。同社が強調したのは政治の文脈だ。ジュピターはAIデータセンターブームへの反発の象徴になりつつあり、11月の中間選挙を前に、選挙戦をデータセンターの是非を問う住民投票のように変えかねない火種になっている、と。翌25日には、モルガン・スタンレーの分析として、今回の通知をきっかけにデータセンター向けの融資契約や賃貸契約が改めて精査され、AIインフラを借入で賄おうとする企業の資金調達を一段と難しくしていると伝えた。
ロイターは契約の中身を掘り下げた。オラクルが契約を解除できないこと、電力の確保がオラクルの責任であること、ブルー・アウルの出資額と利回り。そのうえで銀行家や投資家への取材をもとに、通知が「1兆ドル(約157兆円)規模のAIインフラ金融市場に冷や水を浴びせた」と分析した。オハイオ州でOpenAI向けの拠点を開発するSBエナジーの資金調達の協議にも波紋が及んでいるといい、同社は今週、新規株式公開の延期を決めている。コンサルティング会社アーサー・D・リトルのショーン・マクデビット氏は「AIインフラの資金の出し手は、需要の側よりもはるかに厳しい問いを投げ始めている。需要そのものは依然として非常に強いが、投資家と貸し手の関心は、リスクがどう配分されているかに向かっている」と語った。ロイターはまた、調査会社データセンター・ウォッチの集計として、2026年1〜3月に約1300億ドル(約20兆円)分、75件の計画が住民の反対などで頓挫し、4〜6月にも少なくとも45件、680億ドル(約10兆7000億円)分が反対運動に直面したと伝えている。
米CNBCは、オラクル、ブルー・アウル、ブルーム・エナジーの三者がそろって計画への関与は変わらないと強調したことを伝えつつ、フィナンシャル・タイムズを引いて、ジュピター関連の借入がすでに「ストレス水準」で取引されていると付け加えた。米アクシオスは、通知がAI経済の土台の安定性を疑う投資家を動揺させたと書いた。個人投資家向けの米モトリーフールは、何かが壊滅的に壊れた兆候というより、使えないデータセンターに先に払わないための法的な手当てだとして、「今日慌てる話ではないが、注視すべき話だ」とまとめている。
日本では日本経済新聞がシリコンバレー発で、データセンター計画の不透明さが意識され、関連銘柄に売りが出たと報じ、GPUを担保にした融資や証券化など、複雑になるAIデータセンターの資金調達の危うさを特集する記事も続けて掲載した。日本にとっても対岸の火事ではない。オラクルが使うテキサス州とウィスコンシン州の2拠点向けの約380億ドル(約6兆円)の融資では、三菱UFJフィナンシャル・グループが主幹事の一角を務め、三井住友銀行も加わったと、ブルームバーグが2025年に報じている。
シリコンバレーのVCはどう見ているか

2026年は「遅延の年」になる——。セコイア・キャピタルのパートナー、デビッド・カーン氏は2025年12月のエッセーでそう予言していた。AIデータセンターの建設には平均で約2年かかる。発電機や冷却装置のような重要な資材は数十種類あり、どれか一つが遅れれば全体の日程を後ろにずらさざるを得ない。熟練労働者の不足も足かせになる。カーン氏が挙げたのは主に供給網と人手の制約だったが、現実には、許認可と地域の政治という、もう一つの遅延要因が加わった。
カーン氏は今年、もう一つの問いも投げかけている。2026年のAIインフラへの支出は1兆5000億ドル(約235兆円)に達し、それを正当化するには3兆ドル(約471兆円)の売上が必要になる、という計算だ。
セオリー・ベンチャーズのトマシュ・トゥングズ氏は9月4日のブログで、巨大IT企業とデータセンター事業者が今後5年間に約4兆ドル(約630兆円)の借金を必要とすると試算した。世界のプライベートクレジット市場の1.4倍、米国の地方債市場の9割に相当する規模で、年6.5〜7.5%の金利なら、利払いだけで年2600億〜3000億ドル(約41兆〜47兆円)になる。同氏は「AIインフラブームの資金調達は、もはやベンチャーキャピタルや企業業績の話ではない。金融史上最大級の債務拡大に匹敵する、マクロ経済の信用イベントだ」と書いた。
強気派の代表格、アルティメーター・キャピタルのブラッド・ガースナー氏も、勝負どころは同じ場所にあるとみる。OpenAIとアンソロピックの双方に投資する同氏は、9月の「オールイン・サミット」で、AI研究所の売上を「いま市場で最も重要な一つのデータ」と呼んだ。アンソロピック、OpenAI、そしてxAIを傘下に持つスペースXの3社の年換算売上は、7月時点で合計約1000億ドル(約15兆7000億円)。これを年末までに少なくとも1800億ドル(約28兆円)へ引き上げなければ、「AIトレードを維持するだけでも」足りない、と同氏は言う。そして「こんな売上は、資本主義の歴史で一度も起きたことがない」と付け加えた。
では、そのOpenAIの足元はどうか。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、OpenAIの4〜6月期の売上高は67億ドル(約1兆500億円)で、1〜3月期の57億ドル(約8900億円)から伸びたものの、一部の投資家の期待には届かなかった。株式報酬を含む営業赤字は123億ドル(約1兆9000億円)に広がった。同じ期間にアンソロピックの売上は倍以上の116億ドル(約1兆8000億円)に伸び、初めてOpenAIを上回った。OpenAIは、7月の新モデル投入後、7〜9月期に成長が再び加速していると投資家に説明している。その一方で、2030年までの計算資源への支出計画は約7500億ドル(約118兆円)に引き上げた。サム・アルトマン最高経営責任者は9月、米フォーチュン誌のインタビューで、上場は「2026年ではない」と語っている。
VCの目で見ると、ジュピターの「1年の遅れ」には、額面以上の意味がある。NVIDIAはいまや毎年新しい世代のチップを出し、新世代のベラ・ルービンは、推論の性能で前世代のブラックウェルの5倍をうたう。一方、データセンターは用地を確保して電気を通すまで、最低でも1年から2年かかる。実際、オラクルとOpenAIは2026年3月、アビリーンの旗艦拠点を拡張する計画を取りやめたと報じられた。オラクルは報道を「誤り」としたが、既存の計画が順調だと述べただけで、拡張には触れなかった。米CNBCによれば、電気が来る頃には一世代前になるブラックウェルではなく、より新しいGPUの大規模なクラスターを別の場所で使いたい、というのがOpenAI側の理由だった。建物の賃貸契約は15年、20年と続く。その間、中に置くチップの価値は1年ごとに目減りしていく。完成が1年遅れれば、その間に、借り手が求めるものそのものが変わってしまうかもしれない。オラクルが抱えているのは、工期のリスクだけではなく、この時間のずれのリスクだ。


今後——いつ、何が見えてくるか

最初の節目は10月5日だ。付け替えたパイプラインのルートについて、米連邦エネルギー規制委員会は環境への重大な影響はないとする評価をまとめており、一般からの意見募集がこの日に締め切られる。その後の承認と着工が順調に進むかどうかが、2027年2月1日の稼働目標を守れるかを左右する。
並行して、州環境局の大気許可の手続きが再開される。まず注目されるのは、新しい審理官の任命と公聴会の日程がいつ決まるかだ。判断の期限は11月23日。許可が下り、パイプラインも2月に間に合えば、今回の通知は保険として打った一手だったことになる。許可が遅れたり却下されたりすれば、通知は現実の支払い延期へと近づく。
10月25日から28日には、オラクルが年次イベント「オラクルAIワールド」をラスベガスで開く。通知の報道後、オラクルの経営陣が大勢の顧客や投資家の前に立つ最初の大舞台で、ジュピターとOpenAIとの関係について何を語るかが試される。
11月3日は米中間選挙だ。ニューメキシコ州知事選では、民主党のデブ・ハーランド候補が、当選すれば就任初日に行政命令で大規模データセンターの新規計画を一時凍結すると公約した。建設中のジュピターは凍結の対象外だが、同氏はジュピターについても責任を問う姿勢を示している。共和党のグレッグ・ハル候補は凍結に反対の立場だ。オラクルとOpenAIの拠点が集まるテキサス州では、アボット知事が9月21日、8月の送電網への接続審査の凍結に続いて、データセンター関連の環境許可の発行も止めるよう州当局に命じた。ブルームバーグNEFは、テキサスの凍結で全米のデータセンター計画の約2割が影響を受けうると試算している。NBCニュースの世論調査では、米国人の64%が、地元へのデータセンター建設を支持する候補者には投票しにくくなると答えた。
12月中旬には、オラクルの9〜11月期決算が出る。受注残の積み上がり、設備投資とフリーキャッシュフロー、資金調達の手当て、そしてジュピターの日程。格付けが投資適格の最下位にある以上、この決算は株式市場だけでなく、債券とCDSの市場でも厳しく読まれる。
そして2028年。ジュピターの当初の完成予定の年だが、ロイターの取材に応じた関係者は、計画は1年遅れる見通しだと話している。不可抗力が認められれば、オラクルの本来の賃料の支払い開始は3年後ろにずれる可能性がある。市場がもう一つ注目しているのは、今回の件が一つの案件の契約上のやり取りで終わるのか、それとも他のデータセンターの借り手が同じ手を使い始める前例になるのか、という点だ。

主役は「チップ」から「電気と契約書」へ

2023年から2024年にかけて、AI業界の悩みはGPUが手に入らないことだった。2025年には、それが電気に変わった。そして2026年、ボトルネックは許認可と地域の政治、そして契約書の条文へと移りつつある。ジュピターの一通は、その移り変わりをはっきりと示した。
循環取引の構図の中で、オラクルは独特の位置にいる。NVIDIAのように圧倒的な利益を生む供給者でもなければ、OpenAIのように将来の成長に賭ける投資家から資金を集める立場でもない。借金で建物とGPUを確保し、解約できない長期契約を背負い、電力のリスクまで引き受けた「つなぎ役」だ。お金が勢いよく回るときには、その中間に立つ者が最も大きく伸びる。逆回転が始まれば、最初に締め付けられるのもまた、中間に立つ者である。
これから数か月、見るべき数字ははっきりしている。一つは、OpenAIをはじめとするAI研究所の売上が、ガースナー氏の言う年末1800億ドル(約28兆円)のラインに届くかどうか。二つ目は、11月23日の大気許可と2月1日のパイプラインという、物理的な日程。三つ目は、オラクルのCDSとジュピターの融資の値段という、お金の出し手の体温計だ。
AIの未来を左右するのは、最先端のGPUの性能だけではない。砂漠を横切る長さ30キロ足らずのガス管と、州の役所が11月までに出す一枚の許可証もまた、数十兆円のお金の流れを止めうる。9月24日の株価の急落は、そのことを市場に思い出させた。
