ドローンという「四つの顔」を持つ産業——まず全体像から

ドローンと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、結婚式や旅行先で空撮に使う手のひらサイズのマルチコプターだろう。だが産業として見たドローンは、少なくとも四つのまったく異なる顔を持つ。第一に空撮やレースを楽しむホビー・消費者用途、第二に農薬散布・インフラ点検・測量・物流・ドローンショーといった商用・産業用途、第三に偵察から攻撃までを担う軍事用途、そして第四に海面下で働く水中ドローン(ROV/AUV)である。同じ「無人機」でも、田んぼに農薬を撒く機体と、ウクライナ戦線で戦車を仕留めるFPV(一人称視点)ドローン、洋上風力発電の基礎を点検する潜水ロボットとでは、要求される技術も価格も、そして誰が金を出すのかもまるで違う。
市場規模を全体で捉えると、防衛用途まで含めたドローン市場は2026年に約960億ドル(Grand View Research、約16兆円)から約1,007億ドル(Fortune Business Insights、約16.4兆円)とされ、年平均成長率はおおむね9.5〜9.6%と見込まれている。このうち民生・商用に限ると、Grand Viewは2024年の約300億ドル(約4.9兆円)から2030年に約546億ドル(約8.9兆円)へ拡大すると予測する。地域で見ると、金額ベースでは米国の防衛調達を背景に北米が最大(4〜5割)だが、数量と成長率ではアジア太平洋、とりわけ中国が牽引する。中国は2025年10月に承認された第15次五カ年計画で、ドローンを含む「低空経済」を2035年に3.5兆元規模へ育てる目標を掲げている。
この産業を貫く一本の軸が「DJIの一強」である。深圳のDJI(大疆創新)は、数量ベースで世界のドローン市場の約7割、消費者向けに限れば9割前後を握る(Drone Industry Insights/SCSPの2025年報告)。ドローン防御企業Dedroneの検知データでも、2025年に世界で検知された機体の83.5%がDJI製だった。DJIの強さは単体の製品力だけでなく供給網に根ざしている。ドローンに不可欠なレアアース磁石の約9割、バッテリーの約99%を中国が握っており、米国のBlue UAS認証機ですら中国製部品から完全には逃れられていない——これが後述する「排除」を難しくしている構造だ。
日本国内市場も無視できない規模に育った。インプレス総研『ドローンビジネス調査報告書2026』によれば、国内のドローンビジネス市場は2024年度の4,371億円から2025年度は4,973億円(前年度比+13.8%)へ拡大し、2026年度は5,501億円、2030年度には9,544億円(2025〜30年度の年平均成長率13.9%)に達すると見込まれる。点検・土木・農業・ドローンショーを含むサービス分野が全体の約54%(2,711億円)を占め、市場を牽引している。ただしその内実には大きなねじれがある。日本経済新聞や東洋経済の報道によれば、日本の産業用ドローン市場は中国製が9割超を占め、国産メーカーのシェアはわずか3%程度にとどまる。「巨大だが中身は輸入依存」という日本の姿は、以下すべての領域で繰り返し顔を出す。




農業ドローン(国内)——水田大国の実装最前線と、ナイルワークス退場が示すもの

具体例から入ろう。愛媛県のかんきつ農家では、約20アールの傾斜地への防除作業が手作業なら約3時間かかっていたところ、ドローンなら約10分で終わる。長崎のビワ農家の実証では散布時間が9割以上短縮された。ドローン散布のコストは地上散布の3分の1から5分の1とされ、農薬・肥料の空中散布は、担い手不足と高齢化に苦しむ日本農業にとって数少ない「実装済みの省力化技術」になっている。
規模を数字で見ると、日本の農業用ドローンの稼働機数は2024年時点で約4万機と、2019年の約4,000機から5年で約10倍に膨らんだ。農林水産省の資料によれば、防除用ドローンの新規販売は令和2年度(2020年度)の6,314機をピークに、近年は年3,000〜4,000機で高原状態にある(令和5年度=3,295機)。一方でドローンによる延べ散布面積は令和5年度に109万7,000ヘクタールと、初めて100万ヘクタールを突破した(前年度は82万4,000ヘクタール)。ドローン散布に適した登録農薬も2018年度末の646から2023年度末には1,309へと倍増し、稲・麦から野菜・果樹・豆類へと対象作物が広がっている。金額ベースの市場規模は、調査会社IMARCが2024年の9,080万ドル(約148億円)から2033年に3億5,070万ドル(約572億円)、Market Research Centerが2025年の1億480万ドル(約171億円)から2034年に3億5,780万ドル(約583億円)と、年率15%前後の成長を見込む。
プレイヤーとシェアの構図は明快だ。数量首位はここでもDJIで、Agrasシリーズ(T10/T25/T50/T55/T70P/T100など)が圧倒的に普及している。DJIは自社報告として日本の水田の約3割で自社機が使われているとするが、これはDJI自身の数字である。第二勢力が、1990年代の無人ヘリコプター「RMAX」で産業用ドローンを切り拓いたヤマハ発動機で、現在は35キログラムの搭載量と衛星経由で90キロメートルの運用範囲を持つ無人ヘリ「FAZER R G2」(第二種型式認証取得)や多目的マルチローター「YMR-II」を展開する。ガソリンエンジンの無人ヘリは、電動機に比べて連続稼働時間と重積載で優位に立つ。国産勢では、NTT東日本やオプティムなどが出資するNTT e-Drone Technologyが「AC101/AC102」(AC102はバッテリー1本で最大2.5ヘクタールを散布)を手がけ、後述する破綻したナイルワークスの自動飛行・精密散布技術を2025年6月に引き継ぎ、2026年2月には住友商事と国産ドローン普及で提携した。ほかにマゼックス(飛助シリーズ)、トプコン、クボタ、オプティム(JA高根沢との「ピンポイントタイム散布」)、スカイマティクス(センシングの「いろは」)、EAMS Roboticsなどが国産の一角を占める。
ここで象徴的な事件が起きた。かつて「国産農業ドローンの旗手」と目され、稲の生育をAIで診断しながら精密散布するナイルワークスが、2026年5月20日に特別清算を申請し、負債約25億円で事実上の破綻に至ったのだ(帝国データバンク等)。開発資源はNTT e-Droneへ、画像解析事業はクロロスへと引き継がれた。技術で先行しても、DJIの価格と量産力の前では国産ハードが単独で生き残ることの難しさを、この退場劇は突きつけている。技術面では、液剤の「散布」と粒剤の「散粒」、RTKによるセンチメートル級測位、ミリ波レーダーや画像による障害物回避、NDVI等のAIセンシングによる生育・病害虫診断、可変量散布、さらには水稲の「直播(じかまき)」まで機能が広がった。制度面では2022年12月に国家資格「一等・二等無人航空機操縦士」が始まり、有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)には一等資格が要る。民間資格保有者への移行措置は2025年12月18日で終了し、受託散布を担う事業体(農業支援サービス事業体)への集約が進んでいる。



農業ドローン(海外)——DJI・XAGの寡占と、米国「自滅」の逆説

世界の農業用ドローン市場は、調査会社によって2025〜26年で約26億ドル(MarketsandMarkets、約4,300億円)から約58億ドル(Vyansa、約9,400億円)と2倍以上の開きがあるが、いずれも年率22〜33%という高成長で一致し、2030年前後には100億ドル超(約1.6兆円超)に達すると見る。地域別ではアジア太平洋が約39%と最大だ。
この市場の主役もまたDJIである。DJIが2026年4月にブラジルの農業見本市Agrishowで公表した第5回農業ドローン報告によれば、同社の農業用ドローンの世界稼働台数は2025年末に60万台を突破し(前年末の約40万台から+33%)、100カ国以上・300種以上の作物で使われている。米国の農薬散布ドローン市場でもDJIのシェアは約8割に達する。第二勢力は同じ中国のXAG(極飛科技)で、中国国内シェアは20.8%(2024年)、2024年に初の通期黒字(売上高約10.7億元=約260億円)を計上して香港市場への上場を申請、2026年3月に再申請した。海外売上比率は25.2%まで高まり、2026年には世界で150万ヘクタール超をカバーする計画で、新型「P150 Max」や空陸ロボット連携の完全自律防除にも乗り出している。DJIとXAGの価格競争は激しく、両社の寡占は当面揺るがない。
普及の地域差も鮮明だ。ブラジルでは農業でのドローン利用が近年10倍以上に急増し、大豆・サトウキビ・コーヒー・綿花でDJI Agrasが標準装備になりつつある。インドは補助金主導で、女性の自助グループにドローンを配る「ナモ・ドローン・ディディ」計画(機体価格の8割・上限8万ルピーを補助)や「キサーン・ドローン」政策が普及を後押しする。東南アジアも中国製ドローンの一大成長地域だ。
ここに、他のどの領域よりも鮮烈な「逆説」がある。米国では、後述する中国製ドローン締め出し(FCCの措置)によって、散布面積が2025年に前年比58.7%増の1,640万エーカーへ拡大し、連邦航空局(FAA)のパート137認証事業者も58.3%増の1,710に伸びたにもかかわらず、新規の散布ドローン販売台数は約8,950台(2024年)から約3,711台(2025年)へと約59%も激減した。需要が伸びているのに供給が絞られる——中国製排除が自国農家の首を絞める構図だ。西側の代替勢力は苦戦している。米国産・NDAA準拠を掲げるHylio(同等積載でDJI比4万ドル超=約650万円)や、電動固定翼機でブラジルのSLC Agrícolaに採用が進むPyka(4,000万ドル=約65億円のシリーズB調達)が孤軍奮闘する一方、5,170万ドル(約84億円)を調達しながら量産に届かなかったGuardian Agricultureは2025年8月に事業を停止し、Rantizoはハードから離れてソフトウェア企業へと転じた。DJI・XAGの二強の外側で農業ドローンのハードを作ることは、太平洋の両側で等しく難しい。



軍事ドローン(国内)——「攻撃ドローンを作る企業は国内にない」からの出発

日本の軍事ドローンを語る最も正直な出発点は、小泉進次郎防衛相の言葉である。「現在、日本に攻撃ドローンを製造する企業はない」——国産化を望みつつも、産業界には安定した需要見通しが要る、というのがその含意だ。専守防衛の下で武装無人機の整備に長く消極的だった日本は、ウクライナ戦争を機に明確に舵を切った。
予算がそれを裏づける。2022年12月に閣議決定された防衛力整備計画(2023〜27年度、総額約43兆円)は、空・海・海中を含む「無人アセット防衛能力」に5年間で約1兆円を充てる。2026年度(令和8年度)の防衛予算は総額9兆353億円に達し、無人アセット関連は概算要求の3,128億円から予算案で約2,773億円が計上された。目玉は無人機で多層的に沿岸を守る「SHIELD」構想(2026年度1,001億円)で、この中に海上監視用の大型無人機MQ-9B シーガーディアン(米ジェネラル・アトミクス製)の初度4機分765億円が含まれる。海上自衛隊は2024年11月にMQ-9Bを選定し、2028年度ごろから約10年かけて23機を導入する計画で、海上保安庁はすでに2022年から同型機を運用している。高高度偵察用のRQ-4B グローバルホークも青森・三沢に3機が配備済みだ。
日本の「初の攻撃ドローン」もまた輸入だった。防衛装備庁の小型攻撃用UAV I型の入札には丸紅エアロスペースのみが応札し、豪DefendTex社の「Drone40」が採用された。契約は2026年3月26日、約36.8億円で約310機、2027年5月末までの納入である。より射程の長いII型・III型(徘徊型弾薬=ロイタリング・ミュニション)は選定中で、候補はイスラエルのHERO-120やSkyStriker、米AndurilのAltius-600M、ポーランドのWarmate 5、独HelsingのHX-2など、いずれも外国製だ。
では国産メーカーは何を取っているのか。上場する純粋ドローン専業のACSL(証券コード6232)は、NTTドコモやヤマハ発動機と共同開発した機体「SOTEN(蒼天)」で防衛省案件を積み上げ、2026年は3月に約10億円、4月に計約4.2億円と受注が段階的に増え、年間累計で約14.2億円規模になった(ただし依然として赤字)。川崎重工の複合型無人ヘリ「K-RACER-X2」は国内最大級の約200キログラムの搭載量を持ち、2024年1月に無人機として国内初となる海自艦艇への物資輸送を実演、2026年度の量産化を目指す。三菱重工とヤマハ発動機は約200キログラム積載の中型マルチコプター(空のトラック)を共同研究し、SUBARUは2025年7月、有人機と連携する「遠隔操作型支援機」(ロイヤル・ウィングマン型)の試作機を防衛装備庁に納めた。対ドローン兵器では三菱重工の10キロワット車載レーザーが試作を終えている。
もっとも、ここでも注意が要る。防衛市場に活路を求めて2026年に参入を表明したテラドローン(東証グロース、278A。無人航空機のテラ・ラボとは別会社)は、2024年11月の新規上場が公開価格割れ(初値は公開価格比マイナス8%)のいわゆるダウンラウンド上場だったうえ、迎撃ドローン「Terra A2」を4月に披露したものの、2026年5月に得た初の装備庁契約は「モジュール型UAV(汎用型)教育用」300式・約1億1,543万円という訓練用機材であって、Terra A2そのものでも攻撃ドローンでもない。同社のTerra A1/A2を「実戦実証済み」とする説明は、同社の発表と、その出資先であるWinnyLab社経由のウクライナ実戦投入という情報に基づくもので、防衛省やJane'sなど独立した機関の確認は取れていない。
構図を俯瞰すれば、大型偵察機(MQ-9B、RQ-4)も初の攻撃ドローン(Drone40)も輸入に頼り、国産勢はより小型のISR(情報・監視・偵察)、輸送、訓練、対ドローンといったニッチを取る、というのが実像だ。産業用ドローンの9割超を外国機に依存する現状を踏まえ、経済産業省はドローンを「特定重要物資」に指定し、2030年に年8万機の国内生産能力を目標に掲げる。地経学研究所などが指摘する「防衛は輸入だけでは築けない」という命題——飛行制御・通信・サイバーセキュリティ・継続的改良は国内に残す——が、政策の背骨になっている。足元で最も熱いのは対ドローン(カウンターUAS)で、装備庁は2026年6月に「迎撃ドローン早期取得プログラム」を公示し、8月末の量産契約・9月納入という異例の速さで、シャヘド型の長距離自爆型無人機への対処を急ぐ。背景には、2025年11月15日に中国の無人機が与那国島と台湾の間を通過して太平洋へ抜け、航空自衛隊がスクランブルを強いられた事案がある。無人機1機に有人戦闘機2機を上げる非効率さ——これこそがSHIELDと迎撃ドローンを駆り立てる原体験だ。


軍事ドローン(海外)——ウクライナが書き換えた戦争と、桁違いのマネー

軍事ドローンの世界を一変させたのはウクライナ戦争である。ウクライナは2025年、軍にFPV攻撃ドローンを300万機供給した(前年の約2.5倍)とされ、産業界の生産能力は年800万機を超えるという。2025年6月1日の「クモの巣作戦(Operation Spiderweb)」では、トラックに潜ませた117機のFPVがロシア奥地の航空基地を襲い、推定70億ドル(約1.1兆円)規模の損害を与えた。数百ドルの機体が数千万ドルの戦略爆撃機を焼く——この非対称性が、世界中の軍と投資家の常識を書き換えた。妨害電波に強い光ファイバー制御ドローンや、ドローン対ドローンの空戦、1機あたりのコストを20万ドルから7万ドルへ下げつつ日産170機規模で撃ち込まれるロシアのシャヘド/ゲラーンが、この戦争の新しい文法である。市場規模の推計は調査会社間で大きくぶれ(2025〜26年で約280億〜350億ドル、成長率も8%から26%まで幅がある)、むしろ確かな信号は各国の調達額とベンチャー投資の奔流にある。
米国では、無人自律システムが巨額マネーの受け皿になった。象徴がAnduril(アンドゥリル)だ。2026年5月、50億ドル(約8,150億円)のシリーズHで評価額は610億ドル(約9.9兆円)へと、前年6月の305億ドルから倍増した。2025年の売上高は約22億ドル(約3,590億円)で、無人戦闘機「Fury」や巡航ミサイル「Barracuda」、指揮統制基盤「Lattice」を武器に、2026年は約43億ドルの売上を見込む(同社予想)。ロイタリング・ミュニション「スイッチブレード」で知られるAeroVironment(AV)は、BlueHaloとの41億ドル(約6,700億円)の株式合併を経て時価総額約75億ドル(約1.2兆円)規模となり、2026年2月には1億8,600万ドル(約300億円)の陸軍向け受注を得た。自律飛行ソフト「Hivemind」とV-BATを持つShield AIは2026年3月に評価額127億ドル(約2.07兆円)へ跳ね上がり、消費者向けから完全撤退したSkydioは評価額44億ドル(約7,200億円)で、2026年3月に約3,000機のX10Dを5,200万ドル(約85億円)で米陸軍に納入する——単一ベンダーとしては米軍史上最大の小型無人機調達となった。米国防総省のドローン戦略も桁が変わった。バイデン政権の「Replicator」構想は2025年末に特殊作戦軍(SOCOM)傘下の新組織DAWG(Defense Autonomous Warfare Group)へと再編され、2027会計年度の要求額はドローンと対ドローンで750億ドル(約12.2兆円)、うちDAWG単独で546億ドル(約8.9兆円)と、前年の2億2,590万ドルから実に約240倍に膨らんだ。
米国以外も熱い。トルコのBaykar(バイカル)は2025年の輸出額22億ドル(約3,590億円)で3年連続の世界最大の武装無人機(UCAV)輸出企業となり、ジェット無人機「Kızılelma」の実戦配備を2026年に予定する。イスラエルのElbit Systemsは2025年通期売上高79億ドル(約1.29兆円)、受注残281億ドル(約4.58兆円)を積み上げ、IAIはHeronやHarop徘徊弾を供給する。中国はCH(彩虹)やWing Loong(翼竜)シリーズで2013〜23年に17カ国へ200機超を輸出した。欧州も一気に動いた。AI防衛のHelsingは2026年7月、18億ドル(約2,930億円)調達で評価額180億ドル(約2.9兆円)という欧州防衛テック史上最大級の資金調達に成功し、ISR無人機のQuantum Systemsは評価額80億ドル(約1.3兆円)、攻撃ドローンのStarkはSequoiaとFounders Fund主導で5億ユーロ(約925億円)を集めた。2025年9月にロシアの無人機約23機がポーランド領空へ侵入した事件を機に、NATOは「Eastern Sentry(東部見張り)」作戦を発動し、EUは「ドローンの壁」構想へと動いている。防衛テック全体へのベンチャー投資は2025年に約491億ドル(約8兆円)と、前年の272億ドルから記録的に急増した(PitchBook)。



ホビー・消費者ドローン——DJI一強、そして米国市場からの「行政的排除」

空撮ドローンの代名詞といえばDJIの「Mavic」「Mini」「Neo」シリーズだろう。この消費者向け市場の規模は2026年で約70億〜84億ドル(約1.1兆〜1.4兆円、年率13%前後)と、冒頭で見た約16兆円規模のドローン市場全体のごく一部にすぎない。そしてこの狭い土俵は、世界で最もDJIが強い領域でもある。DJIの消費者向けシェアは約7〜8割(米国では約8〜8.5割)に達する。非公開企業のためDJIの業績は推計だが、中国メディアは2024年の売上高を約500億元(約1.2兆円)、純利益率約4割と報じる。
2025年のDJIの製品攻勢は、まるで「窓が閉まる前」を意識したかのように矢継ぎ早だった。1月に249グラムの「Flip」(439ドル=約7万円)、5月にハッセルブラッド搭載の旗艦「Mavic 4 Pro」(国際版で約2,049ドル=約33万円、ただし米国では正規販売せず)、9月に1インチセンサーの「Mini 5 Pro」(約1,397ドル=約23万円)、11月には約199ドル(約3.2万円)級の超小型「Neo 2」を投入した。FPV分野でも「Avata 2」(619ドル=約10万円)を持つ。
対抗馬はむしろ「撤退の歴史」で語られる。Skydioは2023年に消費者向けから撤退して防衛・公共安全に軸足を移し、Autelは2025年7月に小型消費者機「EVO Nano/Lite」を世界的に終売してプロシューマー/法人向けへ退いた。フランスのParrotも消費者を捨て、防衛ISR機「ANAFI UKR」(約1万6,200ドル=約264万円)に転じた。代わって伸びるのが、自撮りドローンのHoverAir(Zero Zero Robotics、X1が429ドル=約7万円)や、Potensic・Holy Stoneといった100〜300ドルの入門ブランド、そしてBetaFPVやiFlightに支えられた自作FPVの世界だ。実際、前述のDedrone検知データでは自作・FPV系が9.82%と前年比4.3倍に伸び、いまや「カテゴリー第2位」を占める。
この領域で2025〜26年最大の事件が、米国によるDJIの「行政的排除」である。2025年12月22日、米連邦通信委員会(FCC)は、国家安全保障上の判断に基づき、外国製の無人航空機と重要部品を丸ごと「カバードリスト」に追加した。特定企業ではなく製品カテゴリー全体を指定する初の措置で、DJIとAutelが名指しされた。効果として、新たな機体は米国内で認証・輸入・販売ができなくなる。ただし遡及はせず、2025年12月23日以前に認証済みの機体は引き続き販売・使用できる「日没(サンセット)」型の規制だ。DJIは2026年2月20日に第9巡回区控訴裁判所へ提訴し、この措置で2026年に15億ドル(約2,450億円)超の損失と最大25機種の投入停止が生じると訴える。6月にはFCCが玩具ドローン(150グラム以下・カメラなし等)に限る狭い例外を設けたが、カメラ機は救われない。関税も2025年4月に累計約170%まで跳ね上がった後、米中の休戦で低下しており、いまや障壁の主役は関税ではなくカバードリストだ。加えて税関国境警備局(CBP)は、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)に基づきDJIの輸入を2024年から留め置いてきた。日本の消費者ドローン市場は世界屈指の厳格な登録制で、2022年6月以降100グラム以上の機体登録とリモートID(日本ではBluetooth方式)が義務づけられ、登録数は2024年11月の約45万機をピークに、最初の更新期を経て2025年末には約36万機となった。FPVレースの世界では草の根のMultiGPが最大勢力で、プロリーグのDrone Racing League(DRL)は2024年4月にInfinite Realityに2億5,000万ドル(約408億円)で買収された。



水中ドローン——最後のフロンティアと「海の自律化」

空の次のフロンティアは海面下にある。洋上風力発電の基礎点検、養殖網や船体の検査、橋脚・ダムの点検、そして機雷掃海——潜水士の不足と危険を、有線遠隔のROV、自律航行のAUV、軍用の無人潜水艇UUVが肩代わりし始めている。市場は2026年で約52億〜71億ドル(約8,500億〜1.16兆円)と推計され、内訳は石油ガスと洋上風力に支えられるROV市場が約37億ドル(約6,100億円、洋上風力が年率18.8%で最速)、軍事色の濃いUUV市場が約50億〜90億ドル、防衛が45%を占めるAUV市場が約19億〜38億ドルと、定義によって大きくばらつく。
消費者・業務用の水中ドローンでは中国勢と「オープンソース」が目立つ。深圳のQYSEA(FIFISHシリーズ、V6 Expertが約2,999ドル=約49万円)やChasing、そして研究・自作の事実上の標準となったBlue RoboticsのBlueROV2(2,900ドル=約47万円から、ArduSub搭載のオープンソース機)、養殖網検査で定番のカナダDeep Trekker(Revolutionが約4万5,999ドル=約750万円)、ノルウェーのBlueye Roboticsなどが並ぶ。
日本は、実は水中ロボットで存在感がある。筑波発のFullDepth(フルデプス)は水深300メートル級ROV「DiveUnit300」を核に、2025年12月に9.5億円のシリーズDを調達し(古野電気が戦略投資家)、2026年1月には内閣府SIP事業として静岡・沼津沖で国産小型AUVの実海域試験に成功した。川崎重工の「SPICE」は世界初のロボットアーム搭載AUVとして水深3,000メートルで海底パイプラインを自律点検し、英Modus社が2機を導入した。国立研究開発法人JAMSTECの巡航型AUV「うらしま8000」は2025年に8,000メートル級の潜航を達成し、KDDIスマートドローンとプロドローンは空を飛んで海に潜る「水空合体ドローン」で2026年3月に防波堤の水中点検を実演した。背景には、政府が2030年に1,000万キロワットを掲げる洋上風力のO&M需要と、深刻な潜水士不足がある。
産業用ではノルウェーと英米の巨人が競う。Saab Seaeyeの全電動作業級ROV「SR20」はOcean Infinityが10機を発注し(同社最大級のROV受注)、世界最大のROV運用会社Oceaneeringは2026年第2四半期に7億6,800万ドル(約1,250億円)の売上を計上し、母船を要さない常駐型「Liberty E-ROV」を展開する。オランダのFugroは無人洋上船とeROVで世界初の完全遠隔による洋上風力点検を実現し、KongsbergのHUGIN Superiorは2026年2月に米海軍へ納入され、Teledyneの「Gavia」AUVは18カ国で使われている。
そして海はいま、軍事自律化の最前線でもある。Andurilの大型無人潜水艇「Ghost Shark」は豪州向けに17億豪ドル(約1,800億円)・5年契約で、2026年1月に豪海軍への初号機が引き渡された。同社は米海軍のCAMP計画向け「Dive-XL」や自律型水中弾薬「Copperhead」も走らせる。ボーイングの超大型UUV「Orca」は16隻・総額約11.3億ドル(約1,840億円)が計画され、HIIの「Lionfish」(REMUS 300ベース)は最大200隻・総額3億4,700万ドル超(約570億円)に達した。水素燃料電池で2,023キロメートルを連続潜航したカナダCellulaの「Envoy」や、2025年12月に6,000万ドル(約98億円)を調達した新興のVatn Systemsも登場した。米英豪の安全保障枠組みAUKUSは、その「柱II」の旗艦プロジェクトに無人潜水艇を据えた。空で起きたことが、いま海で始まっている。



シリコンバレーVCの視点——空は飽和、次は「海」と「群れ」。号砲はいつ鳴るか

ここまでの断片を一枚の地図に統合すると、シリコンバレーのVCが描く物語が見えてくる。それは「西側は価格でDJIに勝てない。ならば政府調達の壁で市場そのものを作る」という戦略だ。
その司令塔がAndreessen Horowitz(a16z)である。同社は2026年1月に総額150億ドル(約2.4兆円)の巨大ファンドを組成し、うち「American Dynamism(米国のダイナミズム)」に11.76億ドル(約1,920億円)を割り当てた。投資先にはAnduril、Shield AI、無人艦艇のSaronic、極超音速のCastelionが並ぶ。ソフトウェアと自律性、そして国内の製造能力を「国力」の道具と捉える思想だ。象徴的なことに、共同創業者のマーク・アンドリーセンは2026年6月、国防総省の国防政策委員会に加わった——DJI排除で利益を得るドローン企業に投資するVCが、その排除を決める側にも近づいている、という利益相反の色がここにある。実際、この壁の最大の受益者Skydioは35億ドル(約5,700億円)の米国内生産拡張「SkyForge」を打ち出した。ただし皮肉なことに、Blue UAS認証機ですら中国製部品から逃れきれておらず、レアアース磁石9割・電池99%という中国のチョークポイントが「脱・中国」を遅らせている。
そして投資家の関心は、すでに次の海域へ移りつつある。PitchBookのアナリストは「空飛ぶドローンは投資家目線ではもはや飽和(オーバーサチュレート)」と評し、2026年の主戦場を海洋自律(無人艦艇のSaronicは評価額92.5億ドル=約1.5兆円、水中のVatn)とドローンの群れ(スウォーム)に見立てる。合言葉は「発明より量産」——ベンチャーマネーを大規模製造に翻訳できるかが勝負を分ける、という見立てだ。日本では、世界唯一のドローン特化VCであるDrone Fund(千葉功太郎氏)が累計約170億円・58社の陣容で、前述のFullDepthなどを支えるが、噂される4号ファンドは公式には確認されていない。日本の賭け金は、DJIの商用支配が動かぬ以上、経済安全保障と防衛こそ国産の唯一の活路だ、という判断に置かれている。
最後に、いつ・どこで次の号砲が鳴るのか。2026年後半の焦点は、DJIが争う米FCC訴訟(第9巡回区)の判断、期限を超過しているFAAのレベル4飛行規則(パート108)の最終化、そして日本の装備庁が8月末に結ぶ迎撃ドローンの量産契約である。2027年に向けては、欧州「ドローンの壁」が2026年末に初期能力・2027年末に完全運用へ、AUKUSの無人潜水艇が初期納入へ、AndurilのFury量産とDAWGの巨額予算(2027会計年度750億ドル)が動き出す。中期では、日本のレベル4物流の面的拡大、2030年の国産8万機体制、洋上風力AUV点検の本格化が控える。最大の変数は依然として中国のサプライチェーン支配で、2026年2月24日には中国商務省(MOFCOM)が日本の防衛・航空関連20社を輸出規制リストに加えた。数量はDJI(中国)、価値と規制は米国、実装は日本、そして海という新戦線——ドローンメーカーの比較地図は、そのまま米中デカップリングの縮図なのである。

