LPガスとは何か — 2,418万世帯を支える「もう一つのガス」

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - LPガスとは何か — 2,418万世帯を支える「もう一つのガス」 - 章扉

LPガス(液化石油ガス、LPG)は、プロパンとブタンを主成分とする炭化水素ガスである。常温常圧では気体だが、プロパンなら常温でおよそ8気圧程度、ブタンならさらに低い圧力をかけるだけで液体になる。液化すると体積が約250分の1に縮むため、ボンベ1本、タンクローリー1台で運べるエネルギー量が桁違いに増える。都市ガス(主成分メタン)は液化に-162℃という極低温が必要でLNG基地と導管網なしには成立しないが、LPガスは常温の圧力容器で運べる。この物性の違いが、そのままビジネスモデルの違いになっている。

都市ガスが導管の敷かれた都市部でしか供給できないのに対し、LPガスは容器を置ける場所ならどこでも供給できる。日本LPガス協会は約2,400万世帯がLPガスを使っているとし、岩谷産業の資料はLPガスの供給可能地域が国土の約95%に及ぶことと、LPガス2,418万世帯・都市ガス3,099万世帯・オール電化683万世帯という世帯比率を示している。この比率で見ると日本の家庭用エネルギーはおおむね都市ガス5割・LPガス4割・オール電化1割の構図になる。地方に行くほどLPガスの比率が高く、過疎地・離島・山間部では事実上の唯一のガスインフラである。

災害時の復旧の速さも、この分散型構造から来る。導管が地中で切れれば都市ガスは面的に止まり復旧に数週間かかるが、LPガスは容器と調整器が無事なら個別に復旧できる。2026年5月の販売実績で見ると、家庭業務用が48.2万トン、工業用が16.9万トン、都市ガス原料用が13.4万トン、化学原料用が8.0万トン、自動車用が2.4万トンという構成で、家庭・業務用が過半を占めつつ、工業炉の燃料、都市ガスの熱量調整用、石油化学の原料としても使われる。年間の国内需要はおよそ1,200万トン、国内最終エネルギー消費に占めるシェアは約5%である。

流通は三層に分かれる。海外から輸入し備蓄基地を持つ「元売」(ENEOSグローブ、アストモスエネルギー、ジクシス、ジャパンガスエナジーなど)、地域でタンクローリー配送を担う「卸売」、そして消費者と直接契約する「小売」である。岩谷産業の資料では国内のLPガス小売事業者は17,170社にのぼり、同社が首位でもシェアは4.2%にすぎない。卸売でも1,100社が存在し、首位の岩谷でシェア13.2%である。都市ガスや電力と比べて、これは異様なまでに細分化された産業だ。ここで取り上げる六社の性格の違いは、この三層構造のどこに軸足を置いているかでほぼ説明できる。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - LPガスとは何か — 2,418万世帯を支える「もう一つのガス」 - 図表1LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - LPガスとは何か — 2,418万世帯を支える「もう一つのガス」 - 図表2

調達地図が10年で塗り替わった — 中東依存0.83%、米国93%という異形の構造

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 調達地図が10年で塗り替わった — 中東依存0.83%、米国93%という異形の構造 - 章扉

投資家がLPガス銘柄を見るうえで最初に押さえるべきは、この産業が過去15年で調達構造を完全に組み替えたという事実である。日本LPガス協会の国別輸入統計によれば、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の輸入総量1,013万8,588トンのうち、米国産が945万3,292トンで93.2%を占めた。前年度の680万6,818トン・65.5%から一気に押し上がった格好だ。カナダは前年度の218万9,180トンから22万9,252トンへ、オーストラリアは96万8,805トンから34万8,690トンへ縮み、中東からの輸入は合計8万3,891トン、比率にして0.83%まで落ちた。

2026年3月19日に開かれたグリーンLPガス推進官民検討会(第10回)で、座長の橘川武郎・国際大学学長は「LPガスのホルムズ海峡依存度は東日本大震災当時87%だったが、政策と調達多角化により4%まで低減し、これは震災後の日本のエネルギー政策で最も成功した事例の一つ」と述べている。同じ会合で資源エネルギー庁燃料流通政策室の甲元室長は、イラン情勢の緊迫化を受けて日本が国家備蓄原油30日分の放出と民間備蓄15日分の引き下げという緊急対応を取り、ガソリンには補助金を投入して170円/L程度の売価を維持する政策を始めたと説明したうえで、「LPガスについては中東依存度が4%未満と低く、供給量への影響は限定的と見られる」と整理した。原油の約95%を中東に頼る日本にあって、LPガスだけが別の地図の上に立っている。

この構造がどう効いたかは、2026年のホルムズ海峡危機で実証された。2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃を受けてイランが海峡を封鎖し、3月2日にはイラン革命防衛隊が封鎖を宣言、タンカーの通航はほぼゼロまで落ちた。4月13日には米海軍が逆封鎖に踏み切っている。6月に停戦の動きが出たあとも船舶への攻撃は断続的に続き、7月時点で通航は正常化していない。ブレント原油は7月30日時点でも1バレル約90.5ドル(約1万4,800円)と高値圏にある。ENEOSホールディングスの決算短信によれば、ドバイ原油は2026年3月期の期初76ドルから期末には121ドル(約1万9,400円)へ急騰し、円の対米ドル相場も期初150円から期末160円へ振れた。

岩谷産業は2026年3月期決算説明資料に「中東情勢への対応」という項目を設け、LPガスについて中東からの調達を停止し、北米と東南アジアからの調達および40日分の民間備蓄で安定供給を確保していると明記した。同社はヘリウムについてもカタールからの調達停止を開示している。ミツウロコグループホールディングスの決算短信も、石油事業について「3月の中東情勢悪化に伴うホルムズ海峡封鎖等の影響」で卸部門の数量・粗利がマイナスに転じたと記している。ニチガスは決算短信で「2026年2月に勃発したイラン紛争は史上最大級ともいえるエネルギー危機となり、自由貿易圏の中で、上流から下流まで安定したエネルギー供給がもはや当然ではないと再認識させるものとなりました」と書いた。

要するにLPガスは、原油と違って「モノが来ない」という危機には陥らなかった。代わりに来たのが価格と船賃の暴力である。中東産が世界市場から消えた分の需要が米国産に殺到し、米国側の現地価格と海上運賃が同時に跳ねた。日本のLPガス輸入基地在庫は2026年5月末時点で34万5,633トンと前年同月比368%に膨らんでおり、業界が予備的な積み増しに走ったことがうかがえる。法定備蓄は97万9,022トンで、これに一次・二次基地の在庫を合わせた総在庫は153万4,134トン、前年同月比112%だった。

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価格の三層構造とタイムラグ — 元売と小売で損益の向きが逆になる

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LPガス銘柄を分析する第二の鍵は、価格が三つの層で別々のスピードで動くことである。

最上流はサウジアラムコが毎月末に翌月積み分として通告するCP(Contract Price)だ。石油情報センターの公表資料によれば、2026年のCPはプロパンで1月525ドル、2月545ドル、3月545ドルと落ち着いていたのが、4月に750ドル、5月750ドル、6月760ドルへ急騰し、7月には580ドル(前月比▲180ドル)へ急落した。ブタンも6月820ドルから7月600ドル(▲220ドル)へ下げている。1カ月で180ドルというプロパンの下げ幅は、コロナ禍で需要が蒸発した2020年4月(▲200ドル)以来の大きさである。日本円に直すと、7月CPのプロパン580ドル/トンはおよそ9万5,000円/トン、6月の760ドルはおよそ12万4,000円/トンにあたる。

第二層が通関ベースのCIF価格である。石油情報センターの集計では、2026年3月の9万5,486円/トンから4月に11万4,561円、5月に12万5,718円へと上昇した。5月の水準は統計上の最高値であり、2022年度平均の9万8,132円を3割近く上回る。日経新聞は6月の記事で、4月速報値の輸入単価が1トンあたり11万5,660円と前月比2万175円(21%)上昇し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で中東産の出荷が滞ったため世界の需要が米国産に集中し、海上運賃の高騰が値上がりに拍車をかけたと報じた。CP高騰に加えて、1ドル163円台という40年ぶりの円安がそのまま円建て調達コストに乗っている。

第三層が家庭向けの小売価格で、ここが決定的に鈍い。石油情報センターの家庭用モニター価格(10m³あたり)は2026年2月が9,237円、4月が9,281円と、CIFが8万6,493円から11万4,561円へ32%跳ねた間にわずか0.5%しか上がっていない。速報ベースの一般小売価格(2026年6月30日時点)でも全国平均は10m³で9,662円である。しかも地域差が大きく、同じ10m³で北海道が1万1,563円、関東が9,025円と28%の開きがある。確報ベースの県別データ(2026年4月)では北海道1万1,541円に対し千葉県8,292円で、格差は39%に達する。

この三層のタイムラグが、投資家にとっての最重要ポイントを生む。岩谷産業は決算説明資料で自社の感応度を明示している。同社の卸売価格はLPガス輸入価格に連動し、輸入から販売までの期間は法定備蓄40日を含めて約3カ月かかる。したがって輸入価格の上昇局面では「売値の基準」が「原価の基準」を上回って増益効果が出て、下落局面では逆に減益効果が出る。同社は2025年度第3四半期から在庫評価を先入先出法から総平均法に変更し、原価の基準を「当月の輸入単価と前月末の在庫平均単価を加重平均した単価」としている。輸入価格が元の水準に戻れば影響はゼロになる、いわば往復する損益である。

一方、小売に軸足を置く事業者では符号が反転する。家庭向け価格が動かないまま調達コストだけ跳ねれば、そのぶんは丸ごとマージンから削られる。ニチガスは2027年3月期の連結業績予想について、中東情勢の緊迫化に伴う原料価格高騰の影響としておよそ20億円を織り込み、営業利益200億円・純利益140億円としたうえで、「この影響がなかりせば営業利益220億円、純利益154億円」と明記した。伊藤忠エネクスは逆に、2026年3月期のホームライフ事業で「持分法適用会社等におけるLPガス輸入価格の下落に伴う在庫影響により減益」と説明している。ミツウロコも「LPガスの卸売単価と棚卸単価差の縮小による収益悪化」を挙げた。CPが下がっていた2025年度は卸・元売寄りの事業者が痛み、CPが跳ねた2026年度前半は小売寄りの事業者が痛む——同じ商品を扱いながら、損益の向きは真逆に出る。

この構図を2026年度に当てはめると見通しが立つ。岩谷産業の総合エネルギー事業は2026年3月期に市況要因で▲57.1億円を被り(前期は+2.1億円で、前年差は▲59.3億円)、同事業の営業利益134億円を大きく削った。2027年3月期計画はLPガス輸入価格550ドル/トン(約9万円)、為替150円/ドルを前提に、この市況要因がゼロに戻る(+57.1億円の改善)ことを織り込んでいる。ところが実際の4〜6月のCPは750/750/760ドルで推移し、7月に580ドルへ落ちた。前提が上下に大きく振れているため、同社の第1四半期は市況要因がプラス方向に、第2四半期はマイナス方向に振れやすい。為替も163円台と前提の150円から乖離している。年度を通じてCPが期初水準に戻れば市況要因は相殺されるが、四半期ごとのブレは計画を大きく上回る可能性が高い。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 価格の三層構造とタイムラグ — 元売と小売で損益の向きが逆になる - 図表1LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 価格の三層構造とタイムラグ — 元売と小売で損益の向きが逆になる - 図表2LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 価格の三層構造とタイムラグ — 元売と小売で損益の向きが逆になる - 図表3

制度改革が変えた業界の収益構造 — 三部料金制と「無償貸与」の終わり

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 制度改革が変えた業界の収益構造 — 三部料金制と「無償貸与」の終わり - 章扉

2024年から2025年にかけて、LPガス業界は法制度の面でも地殻変動を経験した。

きっかけは賃貸集合住宅をめぐる商慣行である。LPガス事業者が不動産会社や建設業者に対し、エアコンやWi-Fi機器、宅配ボックスといったガスと無関係な設備を無償で貸与し、その費用を入居者のガス料金に上乗せして回収する——という取引が広く行われてきた。入居者は入居後にしかガス料金を知らされず、事業者を選ぶこともできない。経済産業省は2024年4月2日に液化石油ガス法施行規則の改正省令を公布し、同年7月2日に「過大な営業行為の制限」を、2025年4月2日に「三部料金制の徹底」と料金情報の提供義務を施行した。

三部料金制とは、料金を基本料金・従量料金・設備料金の三つに分けて表示するルールである。設備費用を従量料金に紛れ込ませる「外出し表示・計上」が禁止され、賃貸住宅ではガス器具など消費設備の費用をガス料金に計上すること自体が禁じられた。全国LPガス協会は2025年1月にLP販売指針を第5次改訂し、同年7月には「商慣行是正に向けた対応『自主取組宣言』の公表について」を発出して、宣言を出した販売事業所を一覧で公開している。

この制度改正が業界の収益構造に与えた影響は本質的だ。従来は「設備をタダで配って契約を取り、あとからガス料金で回収する」という前払い型の顧客獲得競争が可能だった。資本力の乏しい小規模事業者でも、将来のガス販売を担保に設備投資して契約を積めた。それが封じられた結果、顧客獲得は純粋にサービスと価格の勝負になり、規模と効率が効く世界に変わった。17,170社という細分化構造は、制度側から統合を迫られている。

もう一つ、投資家が見落としがちな政策上の非対称がある。政府は2026年5月26日、7〜9月使用分の電気・ガス料金支援として2026年度予備費から5,135億円の支出を閣議決定した。標準家庭で3カ月合計5,000円程度の負担軽減となる制度だが、対象は電気料金と都市ガス料金であってLPガスは含まれない。LPガス世帯への支援は都道府県・市区町村が重点支援地方交付金を使って行う形にとどまり、支援の有無・金額・期間は自治体ごとにばらつく。人口減少地域や高齢世帯の比率が高いLPガス圏に、国の一律支援が届かない構造になっている。CIF価格が過去最高を更新した2026年前半に家庭用小売価格がほとんど動かなかった背景には、この政治的な圧力もある。

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岩谷産業(8088) — 水素に賭けた100年企業のいま

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創業物語は1930年5月、岩谷直治が大阪市港区で酸素・溶接棒・カーバイドを扱う「岩谷直治商店」を開いたところから始まる。転機は1941年だった。硬化油脂工場で副生する水素が使い切れずに大気へ放出されている——それを知った直治は「もったいない」と考え、工場から余る水素を引き取って売る商いを始めた。日本の水素ビジネスの起点である。1945年2月に岩谷産業株式会社を設立して社長に就任し、1953年には日本で初めて家庭用プロパンガスの全国販売に踏み切った。1958年には水素の自社製造を開始している。「究極のエネルギーは水素である」という直治の言葉は、2005年に102歳で亡くなるまで社の背骨であり続けた。

現在の強みは三つある。第一に、LPガスの輸入・備蓄から卸・小売までを一貫して持つ国内最大手であること。家庭用ブランド「マルヰガス」は2026年3月現在で全国約340万世帯に供給し、小売・卸売の双方で業界1位を占める。第二に、水素での圧倒的地位である。液化水素は千葉県市原市・大阪府堺市・山口県周南市の3拠点で製造し、外販用水素市場での自社推計シェアは約7割、水素ステーションは2026年4月時点で国内52カ所・米国10カ所を運営する。中期経営計画「PLAN27」(2023〜2027年度)では5年間で4,700億円を投じ、うち1,780億円を水素戦略に充てる。第三に、コスモエネルギーホールディングス株式である。2023年12月に旧村上ファンド系の投資会社から約1,053億円で約20%相当を買い取り、2024年3月28日の追加取得で議決権比率20.07%として持分法適用関連会社とした。2026年3月期には同社に関連する持分法投資損益が109億円と、営業利益383億円の3割近くに相当する利益を稼いでいる。

課題も同じくらい明快だ。2026年3月期は売上高9,085億円(前期比+2.9%)と増収だったが、営業利益は383億円(同▲17.1%)と減益になった。ヘリウム市況の軟化で特殊ガス等が▲57.5億円、LPガスの市況要因が▲59.3億円と、二つの市況が同時に逆風になったためである。純利益476億円(同+17.8%)は東京本社(西新橋)売却益112.96億円という一過性要因に支えられた。資本効率も課題で、2026年3月期のROICは4.0%とWACC5.5%を1.5ポイント下回った。ROE11.6%は株主資本コスト8.0%を上回るものの、PLAN27最終年度(2028年3月期)の営業利益650億円という目標に対し、2027年3月期計画は488億円にとどまる。残り1年で162億円を積む算段はまだ見えていない。前提の為替150円/ドルと実勢163円の乖離、CPの乱高下という外部変数も上振れ・下振れの双方に効く。

経営体制は2026年4月1日付で節目を迎えた。長く会長兼CEOを務めた牧野明次が代表取締役会長となり、間島寬が代表取締役社長執行役員兼CEOに就いた。コスモ株取得を主導した牧野からの権限移譲が、投資回収局面の戦略にどう作用するかは注目点である。株価は7月29日終値で2,045円、年初来+24.6%と六社で最も強い。アイフィス株予報の集計によれば、米系大手証券は6月17日に目標株価を1,740円から2,020円へ引き上げつつレーティングは中立に据え置き、日系大手証券は6月3日に目標株価2,000円で中立を維持、日系中堅証券は5月18日に目標株価を2,300円から2,400円へ引き上げてやや強気を継続した。現値はこれら目標株価の中位を上回る水準にあり、株価を押し上げてきたのは水素の将来価値というより、コスモ持分の利益貢献と市況回復への評価に近い。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 岩谷産業(8088) — 水素に賭けた100年企業のいま - 図表1LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 岩谷産業(8088) — 水素に賭けた100年企業のいま - 図表2

日本瓦斯(8174) — 岩谷家が生み、岩谷と決別した「DXガス屋」

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 日本瓦斯(8174) — 岩谷家が生み、岩谷と決別した「DXガス屋」 - 章扉

ニチガスの創業は1955年7月、岩谷直治の長男・岩谷徹郎が資本金250万円で東京に設立した。初代社長には元島根県副知事の本山修策が就き、32年にわたり経営を担った。1964年の東京オリンピックでは聖火用ガスを供給し、1973年に東証二部、1979年に一部へ上場している。

ところが親子会社的な関係は続かなかった。営業方針の違いから2009年12月1日、岩谷産業はニチガスに対しLPガス・カセットガス・工業ガスの供給停止を通告する。2013年8月には両社の株式持ち合いも解消され、当時の岩谷産業社長・牧野明次はニチガス取締役を辞任した。創業家の縁で生まれた会社が、供給元を断たれたところから独力の調達網とビジネスモデルを作り直した——これが今のニチガスの原型である。

その再構築を主導したのが、2005年から2022年まで17年間社長を務めた和田眞治だった。和田はDXで業務を徹底的に効率化し、東京電力エナジーパートナーとの提携で電気とガスをセットで売るモデルを作り上げた。同社が公表するIoT検針デバイス「スペース蛍」は約85万台に達し、クラウド基幹システム「雲の宇宙船」とあわせて、自社の効率化ツールにとどまらず同業他社へ外販するプラットフォームになっている。グループ再編ではガス導管・LPガス配送に加えて都市ガス・LPガス・電気の調達卸機能を担う「エナジー宇宙」を設けた。和田は2024年12月29日、呼吸不全のため72歳で死去した。現社長は2022年就任の柏谷邦彦である。

2026年3月期は全ての利益項目で過去最高を更新した。売上高2,084億円(前期比+4.2%)、営業利益212億円(同+14.7%)、純利益148億円(同+28.3%)。ROEは前期16.5%から22.0%へ、ROICは11.3%から13.0%へ上昇し、前中期経営計画の目標ROE22.0%を達成した。顧客基盤はLPガス105万1千件(前期末比+2万1千件)、都市ガス60万9千件(同+1万9千件)、電気40万4千件(同+2万4千件)で、グループ全体で160万件を超える。ハイブリッド給湯器の販売台数を前期比36%伸ばし、機器・工事・プラットフォーム事業の粗利は47億69百万円(同+5億85百万円)に拡大した。同社は決算短信で、自社の電力メニューが卸電力市場価格に連動しない設計であるため、イラン紛争に起因する市場価格上昇のもとでは市場連動型プランを採る他の新電力に対する価格競争力がさらに高まると説明し、撤退する事業者からの顧客譲り受けを含めて事業規模を積極的に拡大する方針を示している。

2026年4月30日に公表した3カ年計画(2027年3月期〜2029年3月期)では、最終年度の営業利益250億円・純利益175億円・EPS165円・ROE22%を掲げ、デジタル基盤を同業に提供する「プラットフォーム事業」を独立セグメントに切り出した。3年間の配当総額は前計画の300億円から360億円超へ引き上げる。自己資本比率は2023年3月期の48%から2026年3月期に41%まで意図的に下げており、5月15日には上限150万株・30億円の自己株式取得枠(2027年3月31日まで)を新設した。「不要な株主資本をお預かりしない」という資本政策の徹底ぶりは、日本の中小型株では際立っている。決算短信は自社を「業界再編を実現し得る唯一のプレイヤー」と位置づけ、約100万世帯・営業圏シェア16%の基盤を武器に業界合理化を主導する意思を明言した。

課題は二つある。一つは期待値の高さである。7月29日終値2,970.5円はPBR4.7倍、2027年3月期予想PER22.5倍で、六社のなかで突出して高い。ROE22%を維持できる前提が崩れた瞬間の下落余地は大きい。もう一つは成長の実効性で、2026年3月期のM&Aは「小規模ながらも集計開始以来最多の企業からお客さまをお譲りいただいた」という表現にとどまり、件数は増えても1件あたりの規模は小さい。営業圏シェア16%という数字は、裏を返せば地元でもまだ8割超が他社の顧客だということでもある。2027年3月期予想は営業利益200億円と減益計画であり、株価は年初来▲0.7%と横ばいで推移している。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 日本瓦斯(8174) — 岩谷家が生み、岩谷と決別した「DXガス屋」 - 図表1

伊藤忠エネクス(8133) — 4部門分散型の安定と、子会社起訴という傷

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 伊藤忠エネクス(8133) — 4部門分散型の安定と、子会社起訴という傷 - 章扉

伊藤忠エネクスは1961年1月28日、伊藤忠石油の分割を機に「伊藤忠燃料株式会社」として発足した。高度経済成長期のさなか、新設された日本鉱業(現ENEOS)水島製油所の石油製品を全国に売りさばくための販路開拓とサービスステーション新設に奔走したのが出発点である。その後LPガス・オートガスへ業容を広げ、1979年に東京・大阪証券取引所の第一部に上場、本社を大阪から東京へ移した。2010年に電力小売、2014年にカーディーラー事業へ参入し、現在はホームライフ・カーライフ・産業ビジネス・電力ユーティリティの4部門体制を敷く。

強みは、この分散にある。2026年3月期は売上収益8,512億円(前期比▲7.9%)、営業活動に係る利益241億円(同▲10.2%)、当社株主帰属当期純利益161億円(同▲6.1%)と減収減益だったが、通期計画160億円に対する達成率は100%で着地した。一過性損益を除いた基礎収益は158億円である。部門別ではカーライフ52億円、産業ビジネス48億円、電力・ユーティリティ26億円、ホームライフ29億円と、どれか一つが崩れても全体が倒れない構成になっている。営業キャッシュフローは451億円、実質営業キャッシュフローは377億円を稼ぎ、ネット有利子負債は▲197億円の実質無借金である。株主還元は累進配当と連結配当性向40%以上を明示し、2026年3月期は66円(配当性向46.4%)、2027年3月期は68円を予定する。中期経営計画「ENEX2030」では2030年度の当期純利益200億円以上を掲げ、2025-26年度の2カ年で新規・戦略投資500億円を計画している(2025年度実績108億円、2026年度計画392億円)。

LPガス事業そのものは苦戦している。ホームライフ事業のLPガス直売軒数は2026年3月末で56万8千軒と前期末から7千軒減り、販売数量も40万8千トン(前期比▲2%)と縮小した。子会社統合による経費削減と利幅改善で営業利益は29億円(同+12.8%)と増えたが、これは効率化で数量減を埋めている姿である。同社は元売のジャパンガスエナジーに20%出資しており、その持分法損益は輸入価格の下落局面で在庫影響のマイナスを被った。

そして2026年、投資家が最も注意すべき論点が表面化した。連結子会社のエネクスフリート株式会社が、運送業者等向け軽油の販売をめぐり独占禁止法違反の疑いで2025年5月以降、東京地検特捜部と公正取引委員会の捜査・調査を受け、2026年4月17日に公取委から刑事告発され東京地検により起訴されたのである。公取委の発表によれば、告発されたのは東日本宇佐美、ENEOSウイング、エネクスフリート、キタセキ、共栄石油の5社で、給油カードで販売される軽油について、10月24日頃に前月比1リットルあたり2円以上の引き上げ、11月20日頃に前月水準の維持、12月20日頃に2.5円以上の引き上げをそれぞれ合意し、競争を実質的に制限したと認定された。エネクスフリートは2026年3月期にカーライフ部門で28億円の関係会社損益を計上した主力子会社であり、司法手続きの帰趨と課徴金・取引先への影響は今後の下振れ要因になる。親会社の伊藤忠商事が支配株主となる親子上場構造も、ガバナンス面での論点として残る。株価は7月29日終値2,109円で、52週高値2,126円のすぐ手前にある。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 伊藤忠エネクス(8133) — 4部門分散型の安定と、子会社起訴という傷 - 図表1

シナネンホールディングス(8132) — 無煙炭から始まり、シェアサイクルに賭ける

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1927年4月11日、合資会社電興無煙炭商会として設立されたのが始まりである。1929年に東京無煙炭株式会社へ改組して煉炭の製造販売を開始し、1934年に品川豆炭株式会社を設立、1936年に品川燃料株式会社へ商号を変更した。「シナネン」という社名は「品川燃料」に由来する。1953年に石油製品、1954年にLPガスと器具の販売を開始し、1963年に東証二部上場。1998年にシナネン株式会社へ改称し、2015年10月に持株会社体制へ移行した。2027年4月に創業100周年を迎える。

直近2年は「選択と集中」の物語である。2024年3月期に営業損失を計上して2024年6月に中込太郎が社長に就任すると、経営方針と体制を一新した。不採算事業からの撤退、シナネンエコワークの売却、早期退職優遇制度の実施と続き、2026年4月1日にはミライフ西日本・ミライフ・ミライフ東日本・シナネンの主力4社を統合して新生シナネン株式会社を発足させた。統合会社の代表には中川進弘・前ミライフ西日本社長が就いている。2026年3月期は売上高2,987億円(前期比▲6.2%)と減収ながら、経常利益53.8億円(同+20.1%)、純利益44.3億円(同+40.6%)で経常利益は過去最高を更新した。純利益が初めて40億円台に乗ったのは、子会社売却益15億円が統合関連費用▲2億円と特別退職金▲8億円を上回ったためである。2027年3月期は売上高3,345億円、営業利益64億円、経常利益66億円、純利益52億円、ROE8.4%を見込む。

面白いのは非エネルギー事業の存在感だ。建物メンテナンスのシナネンアクシアは集合住宅のメンテナンス業務のエリア拡大と斎場・病院の運営受託が伸び、シェアサイクル「ダイチャリ」は自転車投入台数約1万6,000台・ステーション数約3,000カ所まで拡大した。自転車小売の「ダイシャリン」は36店舗を展開する。2027年3月期からは開示区分そのものを組み替え、従来のBtoC・BtoB・非エネルギーという括りをエネルギー事業(シナネン、ミノス)、メンテナンス事業(シナネンアクシア)、モビリティ事業(シナネンサイクル、シナネンモビリティPLUS)、その他(抗菌剤のシナネンゼオミック)へ改めた。2027年3月期の増益内訳はエネルギー事業+9億円、メンテナンス事業+5億円、モビリティ事業+7億円で、非エネルギー側が増益の過半を稼ぐ計画である。2026年5月29日には簡易株式交換でLPガス販売のEスマートエナジーを完全子会社化することを決議し(効力発生日6月30日、交換比率1対28)、エネルギー側の顧客拡大も並行して進めている。第三次中期経営計画の最終年度(2028年3月期)目標は経常利益100億円・ROE8%以上である。

課題は規模と再現性である。時価総額は約749億円と六社で最小で、株価は7月29日終値6,900円。5月19日に9,080円の年初来高値を付けたあと24%下げており、業績回復への期待の巻き戻しが起きている。子会社売却益に依存した純利益の伸びが2027年3月期以降どこまで実力ベースの成長に置き換わるか、4社統合の実行リスク(同社自身が新販売管理システムによる営業事務効率化の「遅れ」を課題に挙げている)をどう管理するかが問われる。株主還元は2027年3月期から累進配当と総還元性向40%以上を導入し、年1回だった配当を中間・期末の年2回に変更した。予想配当120円に対する利回りは1.7%と六社で最も低い。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - シナネンホールディングス(8132) — 無煙炭から始まり、シェアサイクルに賭ける - 図表1

ミツウロコグループホールディングス(8131) — 主役は電力に移り、次はタイ

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起源は1886年(明治19年)、田島達策が高崎線新町駅前に開いたカネイチ運送店にさかのぼる。1892年に三鱗社と改めて東京へ進出し、1919年に三鱗石炭株式会社を設立、1926年5月に三井物産との合弁で三鱗煉炭原料株式会社を創立した。「三鱗」の名は、設立に3つの運送店が関わったことと、魚介類の運送を主に扱っていたことに由来する。1953年10月にLPガスの取り扱いを開始し、1961年6月に株式会社ミツウロコへ改称、1962年8月に東証二部へ上場した。2026年は設立100周年にあたり、2026年3月期の期末配当66円には記念配当5円が含まれている。

現在のミツウロコを一言で言えば、「LPガスの看板を掲げた電力会社」である。2026年3月期は売上高3,394億98百万円(前期比▲0.0%)に対し、営業利益123億68百万円(同+41.0%)、経常利益136億76百万円(同+36.7%)と大幅増益で、売上総利益・営業利益ともに過去最高を更新した。セグメント別では電力事業が売上高1,679億29百万円(同+7.0%)・利益115億37百万円(同+71.6%)と全社利益の大半を稼ぎ、エネルギー事業は売上高1,436億36百万円(同▲6.4%)・利益19億32百万円(同▲20.0%)にとどまった。LPガス小売の販売数量は前年同期比100.5%と顧客獲得で微増を確保したが、卸売で販売単価と棚卸単価の差が縮小し、人件費増も重なって利益は落ちた。営業増益にもかかわらず純利益が91億97百万円(同▲12.5%)へ減ったのは、前期に投資有価証券売却益という一過性の上乗せがあった反動である。前期は経常利益100億円に対して純利益105億円と逆転していた。

電力事業の中身は先進的だ。愛知県田原市・宮城県仙台市・北海道北広島市で系統用蓄電所を運用し、2025年5月からは他社向けの運用受託サービスを開始、同年11月には中部電力パワーグリッドと系統混雑解消の実証試験に入った。北海道網走市では2028年度運転開始予定の大型特別高圧系統用蓄電池の開発にも着手している。2026年1月にはINPEX JAPANと合弁で株式会社INPEXミツウロコ電力を設立し持分法適用会社とした。3月には小田急電鉄と業務提携して都市ガス料金プラン「小田急エナジー ガスプラン」を開始し、同月にはQPSホールディングスの第三者割当増資を純投資として約30億円引き受けている。LPガス配送効率化ソリューション「SmartOWL」は約19万軒の配送業務を効率化し、配送回数を約30%削減した実績を持つ。

そして2026年6月4日、同社はタイ証券取引所上場のSiamgas and Petrochemicals Public Company Limited株式3億6,757万2,600株を追加取得し、持分比率20.0%として持分法適用関連会社化したと発表した。サイアムガスはタイ石油公社に次ぐタイ第2位のLPガス事業者で、ベトナム・シンガポール・中国・マレーシアにも展開する。ただし同社の2025年12月期は売上高3,612億円に対し親会社株主帰属当期純利益がわずか39百万円と、前期の64億58百万円から急減している。ミツウロコは「連結業績に与える影響は軽微」としており、成長市場への布石であると同時に、業績が谷にある会社への出資という側面も併せ持つ。なお同社が2026年3月期に受け取ったサイアムガスからの配当金は4億68百万円だった。

課題は2027年3月期の計画である。売上高3,850億円(前期比+13.4%)と伸ばしつつ、営業利益85億円(同▲31.3%)、経常利益90億円(同▲34.2%)、純利益60億円(同▲34.8%)という大幅減益を見込む。会社は電力事業について、2025年度に負担が減った容量拠出金の価格が2026年度以降は上昇すると明記しており、これが利益水準を押し下げる。中東情勢の影響でJEPX卸電力価格が高騰していること、リビング&ウェルネス事業が1億18百万円のセグメント損失に転落したこと(横浜天然温泉SPA EASとハマボールがリノベーションで休業中、2026年夏に全館オープン予定)も重荷である。東証スタンダード市場上場で流動性が限られる点も、機関投資家にとってはハードルになる。株価は7月29日終値2,143円、年初来▲3.0%と六社で最も冴えない。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - ミツウロコグループホールディングス(8131) — 主役は電力に移り、次はタイ - 図表1

ENEOSホールディングス(5020) — LPガスは「持分50%の脇役」、主戦場は精製マージン

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - ENEOSホールディングス(5020) — LPガスは「持分50%の脇役」、主戦場は精製マージン - 章扉

創業は1888年5月、新潟県三島郡尼瀬村(現・出雲崎町尼瀬)にさかのぼる。尼瀬油田の石油開発ブームを受け、内藤久寛・山口権三郎・牧口荘三郎・本間新作・岸宇吉らが有限責任日本石油会社を設立し、内藤が常務理事(社長)として1926年まで経営を率いた。1894年に日本石油株式会社へ改組。以後の歩みは、そのまま日本の石油産業再編史である。1999年4月に三菱石油と合併して日石三菱、2002年6月に新日本石油、2010年4月に新日鉱ホールディングスと統合してJXホールディングス、2017年4月に東燃ゼネラル石油を統合してJXTGホールディングス、そして2020年6月の株主総会決議をもって現在のENEOSホールディングスとなった。明治の産油地企業が、130年以上をかけて日本最大のエネルギー企業に組み上がった格好である。

ただし、この会社をLPガス銘柄として扱うときは位置づけを正確に把握しておく必要がある。同社のLPガス事業は連結子会社ではなく、ENEOSが50%、三井物産が30%、丸紅が20%を出資する元売会社ENEOSグローブ株式会社が担っている。ENEOSグローブは2008年に三井物産と丸紅のLPガス事業が統合してできた三井丸紅液化ガスに、2011年3月にJX日鉱日石エネルギーのLPG事業が統合されて発足した。国内最多の8カ所の自社輸入基地を持ち、小売はENEOSグローブエナジーと興亜ガスが約100カ所の営業拠点で担う。2025年3月期の売上高は4,179億47百万円である。つまりENEOS本体の連結損益にとって、LPガスは主役ではない。

主戦場は石油精製販売である。2026年3月期は売上高11兆7,655億円(前期比▲4.5%)、営業利益4,666億円(同+339.8%)、在庫影響を除いた営業利益相当額4,744億円(同+3,107億円)、親会社所有者帰属当期利益2,587億円(同+14.4%)と、劇的なV字回復を遂げた。ドバイ原油は期初76ドル/バレルから軟調に推移したあと3月の中東情勢緊迫化で急騰して期末121ドル(約1万9,400円)となり、期中平均は前年比7ドル安の72ドル(約1万1,000円)。為替は期初150円から期末160円へ円安が進み、期中平均151円だった。石油製品ほかセグメントの営業利益は2,924億円(同+3,431億円)と急拡大している。第4四半期の定期修理除き稼働率は前年同期の77%から改善し、中東情勢による稼働率減5ポイントを除けば86%まで戻った。前第4四半期にJX金属が東証プライムへ上場し子会社から持分法適用会社になったため、金属事業は非継続事業に分類されている。

2027年3月期の会社予想は売上高12兆8,500億円、営業利益6,100億円(在庫影響除き5,900億円)、親会社所有者帰属当期利益4,150億円(同+60.4%)で、ドバイ原油85ドル/バレル(約1万3,200円)、為替155円/ドルを前提としている。株主還元では2026年5月14日の取締役会で上限8,200万株・500億円の自己株式取得と消却を決議した。発行済株式数は2025年3月期末の30億3,285万株から2026年3月期末には27億677万株へ、1年で10.7%減っている。年間配当は26円から34円へ引き上げられ、2027年3月期も34円を予定する。

課題は構造要因である。日本は原油輸入の約95%を中東に頼っており、国内最大の精製・販売事業者である同社は、LPガスとは対照的にホルムズ海峡リスクに真正面から晒される。同社自身、決算短信で「中東情勢の緊迫化を背景に原油供給を巡る不確実性が高まっており、当社の原油調達環境にも影響が生じています」と記し、国家備蓄の活用、調達先の多角化、市場からの緊急調達で凌いでいると説明した。国内石油製品需要の構造的減少と、アジアを中心とする国際競争の激化を踏まえ、2025年3月25日には横浜製造所での潤滑油・特殊燃料油の生産を2026年1月から2028年3月にかけて段階的に停止すると発表している。1922年操業開始の拠点で、潤滑油生産能力は年12万6,000kL、グリースは年3,900トン。これにより国内の潤滑油生産能力は従来から約15%減る。株価は7月29日終値1,310.5円、年初来+16.9%、直近1年では+65.6%と大きく水準を切り上げており、市況回復の相当部分はすでに株価に織り込まれている。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - ENEOSホールディングス(5020) — LPガスは「持分50%の脇役」、主戦場は精製マージン - 図表1

六社を同じ物差しで並べる

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 六社を同じ物差しで並べる - 章扉

2026年7月29日終値と各社の会社予想をもとに整理すると、六社の性格の違いが数字に表れる。

銘柄株価時価総額27/3期予想PERPBR予想配当利回り年初来騰落
岩谷産業(8088)2,045円約4,707億円約10.3倍約1.08倍2.3%+24.6%
日本瓦斯(8174)2,970.5円約3,164億円約22.5倍約4.72倍3.7%▲0.7%
伊藤忠エネクス(8133)2,109円約2,381億円約14.4倍約1.31倍3.2%+9.5%
シナネンHD(8132)6,900円約749億円約14.4倍約1.25倍1.7%+7.1%
ミツウロコGHD(8131)2,143円約1,171億円約19.9倍約1.11倍3.1%▲3.0%
ENEOS HD(5020)1,310.5円約3兆5,251億円約8.5倍約1.05倍2.6%+16.9%

業績面では規模と収益性のばらつきがさらに大きい。

銘柄26/3期売上高26/3期営業利益27/3期営業利益予想26/3期ROE
岩谷産業9,085億円383億円488億円11.6%
日本瓦斯2,085億円213億円200億円22.0%
伊藤忠エネクス8,512億円241億円245億円9.1%
シナネンHD2,988億円44億円64億円7.7%
ミツウロコGHD3,395億円124億円85億円9.0%
ENEOS HD11兆7,655億円4,666億円6,100億円8.0%

ここから読み取れることは三つある。第一に、これらは「同じテーマの六銘柄」ではない。ENEOSは精製マージンと原油市況の株、岩谷は水素とコスモ持分のオプション価値を含む商社株、ニチガスは高ROEの内需クオリティ株、エネクスは4部門分散のキャッシュ創出株、シナネンは自己変革中の小型株、ミツウロコは電力と蓄電池の株である。LPガスという共通項は、六社のいずれにとっても損益の全部ではない。

第二に、バリュエーションの散らばりが説明可能な範囲を超えている。PBR1.05〜1.08倍のENEOSと岩谷に対し、ニチガスは4.72倍。この差はROE8.0%対22.0%でおおむね説明できるが、逆に言えばニチガスのROEが二桁前半まで落ちればPBRは半減してもおかしくない。ミツウロコが予想PER19.9倍と割高に見えるのは、2027年3月期が前期比34.8%の純利益減益計画だからで、2026年3月期の実績EPS164.68円で測れば13.0倍にすぎない。減益の理由が容量拠出金という制度コストであるなら、この差は「見かけの割高」に近い。

第三に、CP変動への感応度の向きが銘柄ごとに違う。輸入・卸の比重が高い岩谷とENEOSグローブ側は、輸入価格の上昇局面で短期的に利益が出て、下落局面で損が出る。小売の比重が高いニチガス、ミツウロコのエネルギー事業、エネクスのホームライフは逆である。2026年4〜6月はCPが3月比で4割上がり、7月に24%下がった。この符号の反転が、8月に出そろう第1四半期決算の読み方を左右する。岩谷の総合エネルギー事業が2026年3月期に市況要因で失った▲57.1億円は同事業の営業利益134億円の4割強にあたる規模で、逆回転すれば同じ大きさの追い風になる。

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 六社を同じ物差しで並べる - 図表1LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 六社を同じ物差しで並べる - 図表2

今後の動き — 8月CPから2030年のグリーンLPガスまで

LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 今後の動き — 8月CPから2030年のグリーンLPガスまで - 章扉

直近で最初に動くのは価格である。サウジアラムコは通常、月末に翌月積み分のCPを通告する。7月30日時点で8月CPは未発表であり、ホルムズ海峡の通航が7月時点でも正常化していないことを踏まえれば、7月の580ドルから再び上振れる余地は小さくない。ブレントは7月30日時点で1バレル約90.5ドルと高値圏にあり、為替は7月29日に163円台後半で40年ぶりの164円台をうかがう水準にある。日銀は7月30〜31日に金融政策決定会合を開いており、円相場の振れ方によって円建て調達コストは5月に付けた過去最高のCIF水準を再び試す可能性がある。逆に、7月CPの急落が3カ月前後のタイムラグを経て原価に反映されれば、秋以降は小売段階のマージンが回復する局面に入る。

次が四半期決算だ。六社の2027年3月期第1四半期決算は7月末から8月中旬にかけて出そろう。前年(2026年3月期第1四半期)は伊藤忠エネクスが7月31日、岩谷産業とミツウロコグループホールディングスが8月8日に開示している。ここで確認すべきは、岩谷の総合エネルギー事業における市況要因が計画(年間でゼロという前提)に対しどれだけプラスに振れたか、ニチガスが織り込んだ原料高影響20億円が実勢とどれだけ乖離しているか、ミツウロコの容量拠出金負担増が計画どおりに出ているかの三点である。エネクスについては、エネクスフリートの刑事手続きに関する追加開示の有無も見どころになる。

政策日程では、9月30日が節目になる。7〜9月使用分の電気・都市ガス料金支援(予備費5,135億円)はここで期限を迎え、冬場に向けた延長・拡充の有無が10〜12月に議論される。LPガス世帯が国の一律支援の対象外に置かれている構造が続くのか、それとも中東情勢の長期化を受けて制度が見直されるのかは、LPガス小売各社の価格転嫁余地を直接左右する。商慣行是正の面では、2025年4月2日施行の三部料金制が丸1年を回り、資源エネルギー庁の液化石油ガス流通ワーキンググループで実効性の検証が進む段階にある。ルールの実装度合いによって、小規模事業者の退出ペースと大手のM&Aパイプラインが変わる。

中期の技術ロードマップも輪郭がはっきりしてきた。2026年3月19日のグリーンLPガス推進官民検討会(第10回)では、rDME(再生可能ジメチルエーテル)混合LPガスについて、家庭用コンロでDMEを15〜20%混合した場合の安全性が確認され、20%混合で7.45%程度のCO₂排出削減効果が得られたと報告された。今後は給湯器やメーター・調整器・ホース・ガス栓といった供給機器、業務用機器へ検証範囲を広げ、2028年度に限定的な実証実験、rDMEの初期ロットは2030年頃の供給開始を見込む。グリーンLPガス(合成プロパン)については2027年後半からサンプル出荷が始まる予定で、環境価値算定ガイドラインの整備が並行して進む。ガイドライン案はBooostが同検討会に示したもので、CO₂削減量(CI値)と原料の再生可能性という二軸で環境価値を整理し、ISO14067やISCCなど既存の国際認証を援用してラベル制度を設ける構想である。NEDOグリーンイノベーション基金の事業計画では、2026年にベンチプラントの実証運転を行い、2027年から年産1,000トン規模の大規模実証に入る。

足元の需要側では、高効率機器の普及が数字になって現れ始めた。学校体育館へのGHP(ガスヒートポンプエアコン)導入は、LPガス機で2023年の49件から2024年に264件、2025年見込みで700件へ急拡大しており、CO₂削減効果はGHP全体で2025年度4.9万トンの見込みである。ただしLPガス機のシェアは18.4%にとどまり、指定避難所への非常用電源とバルク供給を組み合わせたレジリエンス提案には大きな余地が残る。農業分野ではA重油焚き加温機からの燃料転換で最大77万トンのCO₂削減が可能と試算されたが、A重油の税制優遇と価格差、設備撤去費用が障壁になっている。産業用の燃料転換は元売5社ヒアリングで2024〜25年度に合計2.6万トンの削減が確認された。

再編の観点では、2026年に入ってからの動きが六社の方向性を示している。シナネンHDは4月1日に主力4社を統合し、6月30日にEスマートエナジーを完全子会社化した。ミツウロコは6月4日にサイアムガスを持分法適用関連会社化してアジアに軸足を伸ばした。ニチガスは4月30日に発表した3カ年計画でプラットフォーム事業を独立セグメント化し、M&Aと同業連携で業界集約を主導する構えを鮮明にした。岩谷は4月1日にCEOを交代し、コスモエネルギーHDとの水素連携を投資回収局面へ進める。エネクスは2カ年累計500億円の新規・戦略投資のうち392億円を2026年度に集中させる計画で、ENEOSは2028年3月までの横浜製造所停止を含む生産体制の再構築を進める。

リスクシナリオも押さえておきたい。第一に、ホルムズ海峡情勢の再悪化でCPと海上運賃が再度跳ねれば、小売比重の高い事業者のマージンはさらに圧迫される。第二に、円安が進めば同じCP水準でも円建てコストが膨らむ。第三に、日銀の金融政策転換で金利が上昇すれば、有利子負債を意図的に積んで自己資本比率を40%へ下げているニチガスのような資本政策はコスト増に直面する。第四に、猛暑が続けば給湯需要が減ってLPガスの1戸あたり販売数量はさらに落ちる(ミツウロコは2026年3月期にこの影響を明記している)。第五に、エネクスの軽油カルテル事件のように、コンプライアンス案件が個別銘柄の評価を毀損する余地は常にある。LPガスという同じ言葉でくくられていても、六社が抱えるリスクの束はまったく異なっている。


LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 今後の動き — 8月CPから2030年のグリーンLPガスまで - 図表1LPガス関連の銘柄。岩谷産業(8088)、日本瓦斯(8174)、伊藤忠エネクス(8133)、シナネンホールディングス(8132)、ミツウロコグループホールディングス(8131)、ENEOSホールディングス(5020) - 今後の動き — 8月CPから2030年のグリーンLPガスまで - 図表2