電子レンジの千倍の電波で、1億度の火をおこす

京都大学発の核融合スタートアップ、京都フュージョニアリング、三菱商事など17社からシリーズCで105億円調達。ジャイロトロン開発など加速 - 電子レンジの千倍の電波で、1億度の火をおこす - 章扉

家庭の電子レンジは、目に見えない電波で食べ物の中の水を揺さぶり、温めている。その電波を千倍以上の力で、しかも周波数を40倍以上に高めて撃ち出す装置がある。名前はジャイロトロン。温める相手は食べ物ではない。核融合の実験装置の中に浮かべた、プラズマと呼ばれる高温のガスだ。これを太陽の中心よりもはるかに熱い、1億度の世界へ押し上げるのが、この装置の仕事である。

1台の値段は数億円。この装置を京都大学発のスタートアップが組み上げ、イギリス原子力公社の実験装置や、イギリスの核融合ベンチャー、トカマク・エナジーの実験炉、そしてアメリカ・サンディエゴにある国立の核融合施設へと納めてきた。京都フュージョニアリングという会社だ。

その京都フュージョニアリングが8月24日、シリーズDと呼ぶ資金調達の第1弾で、JR東日本や、国の脱炭素投資を担うGX推進機構など14社から167億円を集めたと発表した。銀行などの融資枠90億円を合わせると、手にした資金は257億円になる。創業以来、株式で集めたお金は約330億円となり、今回の1回でほぼ倍に膨らんだ。日本経済新聞は、この増資で同社の企業価値が1000億円を超えたと報じている。日本の核融合スタートアップとして、初めての大台だ。

不思議なのは、この会社が核融合炉そのものを作っていないことである。手がけるのは、炉の周りに欠かせない装置と仕組みだけ。それでも鉄道会社や国の機関、さらには韓国の鉄鋼や重工の大手までが、ファンドを通じて資金を投じた。その理由は、核融合という技術の成り立ちそのものにある。

核融合とは何か ― 海の水から取れる燃料で、太陽の火を灯す

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太陽が何十億年も輝き続けているのは、水素の原子核どうしがぶつかって合体し、ヘリウムに変わるたびに、膨大なエネルギーが生まれるからだ。この合体が核融合である。

地上で狙うのは、重水素と三重水素という、2種類の重たい水素を合体させる反応だ。量子科学技術研究開発機構、QSTによると、この燃料わずか1グラムで、石油8トンに相当するエネルギーが得られる。重水素は海水にたっぷり含まれている。発電のときに二酸化炭素は出ない。

ただし、火をつける条件は桁外れに厳しい。原子核どうしはプラスの電気を帯びて反発しあうので、1億度ほどの高温で激しく飛び回らせないと合体しない。そこで強力な磁石を使い、ドーナツ形の空間にプラズマを浮かせて、器の壁に触れさせずに閉じ込める。これがトカマク型と呼ばれる代表的な方式だ。ねじれた形の磁場で閉じ込めるヘリカル型や、レーザーで燃料の粒を一瞬で押しつぶすレーザー型もある。どの方式でも、核融合は連鎖反応ではないので、暴走や爆発の心配はない。条件が崩れれば、火はひとりでに消える。

問題は、火がついた後にある。核融合で生まれるエネルギーの8割は、中性子という電気を帯びない粒子が抱えて飛び出してくる。中性子は磁石では捕まえられない。そこで炉の周りを「ブランケット」と呼ぶ特殊な壁で包み、中性子を受け止めて熱に変え、その熱で発電する。ブランケットとは毛布のことで、その名のとおり炉をくるむ層だ。

ブランケットには、もう一つ大事な仕事がある。燃料づくりだ。三重水素、つまりトリチウムは、自然界にはほとんど存在しない。英国の専門誌ニュークリア・エンジニアリング・インターナショナルによると、世界の在庫はおよそ20キロで、値段は1グラム3万〜4万ドル(約470万〜630万円)。ところが出力100万キロワット級の核融合炉を1年動かすには、55キロほどが必要になるという。世界中の在庫をかき集めても、1基の半年分にも届かない。だから核融合発電所は、自分の燃料を自分で作れなければ成り立たない。ブランケットにリチウムを仕込んでおくと、中性子が当たったときにトリチウムが生まれる。燃やした分より多く作れるかどうか。この「トリチウム増殖率」が1を超えることが、発電所として成り立つ条件になる。

しかも、炉に送り込んだ燃料は一度ではほとんど燃えない。国際熱核融合実験炉ITERでは、1回で燃えるのは1%ほどとされる。燃え残りは排気として出てくるので、それを回収し、不純物を取り除き、種類ごとに分け直して、また炉へ戻す。この循環が燃料サイクルだ。

つまり核融合発電所には、炉の中心で起きる反応とは別に、火をおこす加熱装置、熱と燃料を取り出すブランケット、燃料を回し続ける燃料サイクルという、三つの設備が欠かせない。京都フュージョニアリングが手がけているのは、まさにこの三つである。

世界では、この分野をめぐる民間の競争が過熱している。アメリカの業界団体、フュージョン産業協会によると、2026年7月までの1年間に世界の核融合企業が集めた資金は44億8000万ドル(約7000億円)で過去最高となり、2021年からの累計は142億4000万ドル(約2.2兆円)に達した。調査に答えた企業の7割あまりは、2030年代に送電網へ電気を送れると見込んでいる。日本政府も2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」で、核融合を17の戦略分野の一つに据え、世界に先駆けた2030年代の発電実証と、将来の世界市場でシェア3割の獲得を目標に掲げた。内閣府の検討会には、世界の核融合市場が2040年に約120兆円規模になるとの試算も示されている。

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炉は作らない ― 「つるはし」を売るという戦略

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19世紀のアメリカで起きたゴールドラッシュで、確実に儲けたのは金を掘り当てた人よりも、つるはしやシャベル、丈夫な作業ズボンを売った人だったと言われる。誰が金を掘り当てても、道具は必ず売れるからだ。

京都フュージョニアリングの戦略は、これに近い。トカマク型、ヘリカル型、レーザー型。どの方式が勝つのかは、まだ誰にもわからない。だが、どの方式で発電するにしても、熱を取り出す仕組みと、燃料を作って回す仕組みは必ず要る。共同創業者で代表取締役会長CEOの小西哲之は、科学技術振興機構の取材に、ヘリカル型であれ、レーザー型であれ、発電をする時には必ず技術か製品を買ってもらうことになる、と語っている。今回出資したミネルバ・グロース・パートナーズも、同社を世界中の核融合プレーヤーを支える「つるはしとシャベル」だと表現した。

いま売上の柱になっているのが、冒頭のジャイロトロンだ。こちらは磁場で閉じ込める方式に向けた製品で、イギリス原子力公社の実験装置に2システム、トカマク・エナジーの実験炉に100万ワット級の1システムを納め、2025年に現地での据え付けを終えた。アメリカでは、ジェネラル・アトミクスが運営する国立核融合施設から2基を受注し、1基目を2025年に納めている。ドイツのマックス・プランク研究所向けには、150万〜200万ワット級の設計もまとめた。ビジネスインサイダー・ジャパンによれば、1台あたりの価格は数億円。会社側は、世界の主要プロジェクトの国際入札の大半を獲得してきたと説明している。

強さの源泉は、人と日本のものづくりにある。ジャイロトロン部門を技術面で率いる坂本慶司は、1980年代から国の研究機関でジャイロトロンの開発を続け、出力100万ワット、効率50%超、連続運転の三つを世界で初めて同時に達成した第一人者だ。南フランスで建設中のITERには、日本が高さ2.7メートルのジャイロトロンを納めている。京都フュージョニアリングの製品は、こうした国の研究機関が育ててきた技術を土台に、国内の電子管メーカーや超電導磁石メーカー、町工場から部品を集め、顧客ごとに違う仕様に合わせて、最後の精密な調整まで仕上げたものだ。日本経済新聞は、スタートアップでありながら国内数百社から部品を調達し、高い精度で核融合炉の周辺機器をつくりこむ技術力を、同社の強みに挙げている。

会社は今回の資金で、このジャイロトロンの量産体制を築く。滋賀県では、電子部品大手ニチコンのグループ会社の工場内に開発と生産の新拠点を設け、この秋から順次動かし始める。高電圧の大型電源を据え付けられる場所が必要だったからだ。目標は、短期で売上高100億円規模。核融合発電所の完成を待たずに、まず道具の商売で稼ぐという宣言である。

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京都、カナダ、テネシー ― 世界に三つの実証施設

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ジャイロトロンと違い、ブランケットと燃料サイクルは、まだ世界のどこでも本物の発電所で動いたことがない。そこで京都フュージョニアリングは、日本、カナダ、アメリカの3カ所に実証施設を作っている。まとめて「UNITYプログラム」と呼ぶ。

一つ目のUNITY-1は、京都府内の研究拠点にある。核融合反応そのものは起こさず、炉の中と同じような高熱を人工的に再現して、熱の取り出しから発電、燃料の回収までを、実物の大きさで一続きに試す施設だ。2025年には、リチウムと鉛を混ぜた液体金属450リットルを500度で循環させ、4テスラの強い磁場の中での流れ方も確かめた。この秋からは、高温のループから実際に電気を起こし、水素をつくる統合試験に入る。

9月9日には、岸田文雄元首相や上川陽子衆院議員ら、自民党の核融合推進議員連盟がここを視察した。小西CEOはその場で、自分たちが取り組んでいるのは構想段階の設計ではなく、着実に前進している現実の装置開発だと強調した。

二つ目のUNITY-2は、カナダ・オンタリオ州のチョーク・リバーにある。カナダ原子力研究所との合弁会社、フュージョン・フュエル・サイクルズが建設しており、1日のサイクルで30グラムのトリチウムを実際に流しながら、燃料の注入から排気の回収、精製、分離、貯蔵までを一つの輪としてつなぐ。完全に統合された実トリチウムの燃料サイクルとしては世界初を目指し、年内にトリチウムを使った運転を始める計画だ。カナダでは重水炉という原発がトリチウムを副産物として生み出しており、チョーク・リバーの研究所にはそれを扱う専用の設備がある。アメリカの老舗核融合企業ジェネラル・アトミクスは2025年、この施設を自社の部品開発に使うことも見込んで、10年間で2000万ドル(約31億円)を投じると決めた。

三つ目のUNITY-3は、アメリカ・テネシー州のオークリッジ国立研究所に建てる。加速器で、燃える炉の中と同じ14メガ電子ボルトという高いエネルギーの中性子をつくり、ブランケットの試作品に当てて、トリチウムが計算どおりに増えるかを測る。トリチウム増殖率が1を超えるブランケットの実証は世界初になる見通しで、2028年末の完成を目指す。米エネルギー省が資金を約束し、京都フュージョニアリングはアメリカの本社をオークリッジに移す。テネシー州政府の発表では、同社の現地での投資は4690万ドル(約74億円)、新たな雇用は51人にのぼる。この施設のデータは、ジェネラル・アトミクスのほか、リアルタ・フュージョン、シア・エナジー、タイプ・ワン・エナジーといったアメリカの核融合スタートアップも、自社の炉の設計に使う予定だ。

小西CEOはこの発表に寄せて、核融合の商用化はもはや主に物理学の課題ではなく、工学と技術の課題になりつつある、と述べた。三つの施設は、その工学の答えを、紙の上ではなく実物で出すための場所だ。そして他社も使う試験場になれば、施設そのものが商売になる。

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教授の自宅から始まった ― 創業秘話

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始まりは、一人の研究者が抱いた素朴な疑問だった。

小西哲之は40年以上にわたって核融合の工学を研究してきた。京都大学エネルギー理工学研究所の教授を務め、ITER計画ではブランケット研究の国際的な代表も担った。その小西が抱いたのが、核融合は技術的には可能なところまで来ているのに、なぜ実用化されないのか、という問いだった。科学技術振興機構の取材に、小西はこう答えている。大学や研究所で行うのは、必要な装置の原理を実証し、プロトタイプを作るところまで。実用化を目指す段階に移るには、装置を作って供給する企業が必要だと思った。税金で賄う国家予算である限り、執行までの手続きには時間がかかる、とも。

2019年、京都大学の投資会社である京都大学イノベーションキャピタルが、研究者と経営者を引き合わせる催しを開いた。小西はそこで、一人の京大OBと出会う。長尾昂である。長尾は京大の大学院で機械工学を学んだ後、製造業やインフラに強いコンサルティング会社アーサー・ディ・リトルを経て、電力ベンチャーのエナリスで新規事業の立ち上げや東証マザーズへの上場を手がけた。大型の電源に関わる仕事をしたいと考えていた長尾は、ジャフコのインタビューで、小西の尊敬できる人柄に惹かれ、自分も人生を費やして核融合に取り組みたいと思った、と振り返っている。

2019年10月、会社は4人で生まれた。小西と長尾に、小西の教え子で核融合ビジネスを研究していた武田秀太郎と、リチャード・ピアソンが加わった。社名は、核融合を意味するフュージョンと、エンジニアリングを組み合わせた造語だ。最初の本社は小西の自宅で、郵便受けは自宅のガレージに置かれていた。インターネットで会社を見つけたドイツ国籍の博士号取得者が、その郵便受けに履歴書を投函していったこともあったという。

転機は2021年に訪れた。イギリス原子力公社から、ジャイロトロンの大型契約を勝ち取ったのだ。同じ年の春には、ジャイロトロンの第一人者である坂本慶司と、三菱商事で約10年事業開発に携わり、ベンチャーキャピタルのコーラル・キャピタルを経た世古圭が加わった。研究者の夢から始まった会社が、顧客に製品を届ける会社へと姿を変え始めた。いまでは検査や品質管理、海外向けの書類づくりを、商社出身の人材が担っている。

経営の形も変わった。2023年10月から段階的に体制を移し、技術を率いてきた小西がCEOに、資金集めや組織づくりを担ってきた長尾が会長に回った。長尾は2024年12月に取締役も退き、共同創業者で株主という立場から会社を支える側に移った。長尾は当時、創業者に依存しない自律的な組織がコンセプトだと語っている。2025年春からは、京都大学の起業支援プログラムの幹部として、その経験を後に続く起業家に伝えている。いまは小西が代表取締役会長CEO、世古が代表取締役社長COOとして並び立つ。4人で始まった会社は、5カ国に拠点を持つ160人超の組織になった。

105億円のシリーズCから、330億円へ ― 株主名簿が語る成長

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最初の資金は、2020年の1億5000万円だった。翌年に1億1600万円を加え、2022年のシリーズBでは、コーラル・キャピタルやジャフコ、政府系のJICベンチャー・グロース・インベストメンツなどから13億3000万円を集めた。ジャフコのキャピタリスト、高原瑞紀は当時、日本は70年以上にわたって世界の核融合研究を牽引してきた数少ない国であり、この会社の最大の魅力は、蓄積してきた技術を産業化できるメンバーが揃った、世界で見ても類まれなスタートアップである点だ、とコメントしている。

大きな節目は、2023年5月のシリーズCだった。三菱商事や三井物産、INPEX、関西電力グループ、商船三井グループなど、11社の新顔を含む17社から105億円を集めたのである。リード投資家はJICベンチャー・グロース・インベストメンツで、募集を上回る申し込みが集まった。商社、資源、電力、海運。エネルギーを本業とする企業が、一斉に株主に名を連ねた。三菱商事は、京都大学の研究成果と日本のものづくりから生まれた同社が、核融合の社会実装で主導的な役割を果たすことを期待すると述べている。

シリーズCは、その後も延長された。2024年には、三井不動産系のファンドやフジクラ、丸紅、ニチコンが加わり、アメリカの情報機関CIAを支える投資会社インキューテルも出資した。インキューテルのスティーブ・ボウシャーCEOは、電力とエネルギーの分野で投資機会を探し続けると述べている。2025年9月には、京セラのファンドやJERAなどから14億5000万円を集めたうえで、日本政策金融公庫や国際協力銀行、三菱UFJ銀行などから、融資枠を含めて53億円を借り入れた。ビジネスインサイダー・ジャパンは、赤字が続くディープテック企業がこの規模のデットファイナンスを実現したことを、「衝撃」という言葉で見出しに掲げた。

そして今回のシリーズDである。株式による調達は1回で167億円と、2023年の105億円を大きく上回った。日本経済新聞の独自推計では、同社の企業価値は2024年9月末時点で721億円だった。それが今回、1000億円を超えた。

株主の顔ぶれの移り変わりを並べると、この会社の成長の段階がくっきり見える。初期は、大学系や独立系のベンチャーキャピタルが、技術と人に賭けた。シリーズCでは、将来の顧客や提携先になりうる商社やエネルギー会社が集まった。延長ラウンドでは、フジクラやニチコンといった部材メーカーと、アメリカの安全保障系の投資会社が加わった。そして今回、国の政策資金、社会インフラの担い手、海外の投資家、上場の前後をまたいで株を持つ投資家が入ってきた。技術への賭けから、産業への投資へ。株主名簿そのものが、核融合が研究から産業へ移りつつあることを映している。

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シリーズDに、誰が、なぜ乗ったのか

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新しい株主の一つ目の顔は、国の政策マネーだ。GX推進機構は、脱炭素への移行を資金面で後押しするために国が設けた機関で、今回の出資の狙いを、ジャイロトロンの製造能力の増強と性能の向上、そして熱サイクル技術の高度化の支援だと説明した。炉の方式を問わず必要になる基幹機器を開発している点を評価し、同社の成長が、材料、精密加工、重電、プラントエンジニアリングといった日本の得意分野に広く波及すると期待を示している。政府系の日本政策投資銀行も新たに加わった。

二つ目は、社会インフラの担い手である。JR東日本の西村佳久常務執行役員は、エネルギーの安定確保と脱炭素化の両立は極めて重要な経営課題だとしたうえで、核融合はその解決にとどまらず、水素社会の実現にも寄与する、日本が注力すべき次世代技術の一つだとコメントした。大量の電気で列車を走らせる鉄道会社が、未来の電源を支える会社に直接出資したことになる。

三つ目は、海外の資金だ。韓国の投資会社IMMの日本法人は、日本と韓国の企業を結ぶ「日韓融合ファンド」を通じて出資し、自社の発表で「リード投資家」として参画したと説明した。このファンドには、韓国の鉄鋼大手ポスコのグループや、重工のドゥサン、建設のGS建設などが資金を出している。日本経済新聞は、京都フュージョニアリングが今後、韓国などアジアにも展開すると伝えた。ヨーロッパからは、ブルガリアのウェブホスティング大手サイトグラウンドの創業者らが運営する投資会社、サイトグラウンド・キャピタルが加わった。同社のテンコ・ニコロフ氏は、核融合はもはや実現するかどうかではなく、誰がそのインフラを作るかの問題だとし、京都フュージョニアリングはブランケット、燃料サイクル、プラズマ加熱という最も難しい工学の課題を、業界の共通認識になる何年も前に見抜き、規律をもって実行してきたと評価した。

四つ目が、いわゆるクロスオーバー投資家である。ミネルバ・グロース・パートナーズは、メルカリの元CFOとモルガン・スタンレー出身者が立ち上げた成長投資ファンドで、上場の前から後まで長く株を持ち続けることを前提にしている。会社側も今回のラウンドについて、グローバル投資家やクロスオーバー投資家が新たに参画したと明記した。上場の時期について、会社は何も表明していない。ただ、上場をまたいで株を持つ投資家の参加は、一般に、資本政策が上場を視野に入れた段階に入ったサインと受け止められる。

既存の株主も追加で出資した。京都キャピタルパートナーズは、AIの普及による電力需要の高まりや地政学リスクの顕在化を背景に挙げ、SMBCベンチャーキャピタルは、核融合が数十兆円とも言われる巨大な市場を生むと期待を示した。2022年のシリーズBから付き合う大和企業投資は、この約5年で世界のエネルギー情勢が一層複雑になったと振り返っている。

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各紙と業界は、どう報じたか

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日本経済新聞は、企業価値が国内の核融合新興で初めて1000億円を超えたことを見出しに取り、欧米向けの受注の伸びと、韓国などアジアへの展開、そしてユニコーン、つまり企業価値10億ドル(約1570億円)超えを狙う姿勢を伝えた。紙面では「核融合国内の技術結集」という見出しを立て、国内の部品メーカーを束ねる同社の役割を描いている。

海外では、アメリカのテッククランチが8月11日、UNITY-3の建設開始を独占で報じた。核融合専門のニュースレター、フュージョン・レポートは、今回の調達はトップ級の炉メーカーの規模には及ばないとしつつ、供給網に特化した企業としては際立った資金集めだと評価し、同社を「つるはしとシャベル」の供給者と位置づけた。韓国紙コリア・ヘラルドは、ポスコとドゥサンが、IMMが主導する日本の核融合スタートアップへの賭けに加わったと報じている。

規模の差は、たしかに大きい。同じ1年で、アメリカのコモンウェルス・フュージョン・システムズは1社で8億6300万ドル(約1350億円)を集めた。京都フュージョニアリングが創業から株式で集めた約330億円の、4倍を超える額だ。

それでも投資家がこの会社に注目するのは、業界の関心が「炉」から「供給網」へ広がっているからだ。フュージョン産業協会が6月に公表した報告書によると、核融合企業が部品や設備の購入に使った金額は、2025年に5億3800万ドル(約840億円)と前年から24%増え、2026年には6億8100万ドル(約1070億円)に膨らむ見通しだ。いまのボトルネックとして熱の管理技術を挙げた回答は44%、将来の懸念として燃料サイクルの設備を挙げた回答は48%にのぼった。燃料サイクルの技術開発で外部の供給業者と組むつもりの核融合企業も、54%あった。どれも京都フュージョニアリングの本業である。同協会のアンドリュー・ホランドCEOは、この競争の勝者は、最初にたどり着いた国ではなく、最も強く、最もよく統合された供給網を持つ国になるだろう、と語っている。

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強み ― 「売上がある」核融合スタートアップ

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投資家の目で見たとき、京都フュージョニアリングの最大の強みは、核融合発電所がまだ一つもない今の段階で、すでに売上があることだ。

炉そのものを作る企業は、発電が始まるまで、基本的に売るものがない。一方、同社はこれまでに140億円を超える受注を積み上げてきた。お客さんは、世界の研究機関と、炉を作ろうとしている民間企業そのものだ。2026年5月には、QSTから、ITERで試験するブランケット向けに、トリチウムを回収して量を測る装置の試作品開発も受注した。7月には、ベリリウムの扱いに長けたNGK、旧日本ガイシと、炉の冷却材などに使う溶融塩の共同開発で覚書を結んでいる。国の研究機関からも、大手メーカーからも仕事が来る。

売上と受注があるから、借金ができる。2022年に7億円だった借り入れは、2025年に政策金融機関を含めて53億円、今回は銀行などから90億円の枠へと膨らんだ。赤字のスタートアップにこの規模の融資枠がつくのは、受注という裏付けがあってこそだろう。株式だけに頼らず借り入れを組み合わせれば、既存の株主の持ち分が薄まるのを抑えられる。投資家にとって見逃せない点だ。

二つ目の強みは、中立の立場と、試験場という資産である。どの方式の炉にも売れる立場にいるうえ、UNITYの施設は、他社がお金を払ってでも使いたい試験場になりつつある。ジェネラル・アトミクスがUNITY-2に2000万ドルを投じ、UNITY-3のデータをアメリカのスタートアップが使う予定なのは、その表れだ。試験のデータとノウハウは施設に積み上がり、後から追いかける企業にはまねしにくい。

三つ目は、人と日本の産業基盤だ。ジャイロトロンの坂本、ブランケットの小西という、日本の核融合工学の中心にいた人材がいる。そして、その装置を形にする国内の部品メーカーや町工場がある。三菱UFJ銀行はコメントで、同社の技術や設備には国内企業の優れた技術やノウハウが数多く生かされており、その成長は日本のものづくりの強みを、核融合という新分野での競争力につなげるものだと述べている。

四つ目は、会社の分け方だ。発電の実証炉を目指すFASTプロジェクトは、2025年4月に設けたグループ会社のスターライトエンジンが担い、カナダのUNITY-2は現地の研究所との合弁会社で進める。投資家の目で見れば、巨額の資金がかかる実証炉のリスクを、装置を売る本体から切り離し、それぞれに合った投資家を集める構造とも読める。スターライトエンジンは2026年7月、グローバル・ブレインをリード投資家に、17社から60億6000万円を初めて外部から調達した。社長には2026年4月、三菱商事の元常務執行役員、菊地清貴が就いている。

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課題 ― 赤字、時間、競争、そして「中立」の行方

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強みの裏側には、はっきりした課題もある。

一つ目は、膨らむ赤字だ。官報に載った決算公告によると、純損失は2024年9月期に約19億円、2025年9月期には約25億円に広がった。テネシーへの投資や滋賀の新拠点、年内に動き出すカナダの施設を考えれば、出ていくお金はさらに増える。小西CEOは科学技術振興機構の取材に、赤字は良くないことだが、リスクをとるのをやめて黒字をめざすなら、アマゾンやグーグルのレベルにはなれないだろう、と語っている。短期で売上高100億円規模という目標に、どれだけの速さで近づけるかが問われる。

二つ目は、時間だ。今のお客さんの多くは、発電所ではなく研究用の実験装置である。核融合企業の資金繰りや各国の予算が細れば、受注の波は大きく揺れる。フュージョン産業協会の報告書でも、核融合向けの需要を長期にわたって見通せないと答えた供給業者が69%にのぼった。

三つ目は、競争である。ジャイロトロンの世界には、アメリカのCPI、フランスのタレス、ロシアのGYCOM、そして日本のキヤノン系の電子管メーカーといった老舗がいる。ドイツでは、マックス・プランク研究所などが国の予算で200万ワット級の新型の開発を進めており、試作機はタレスが手がける。ヨーロッパの大型案件では、地元勢との真っ向勝負が続く。

四つ目は、トリチウムと規制だ。トリチウムをまとまった量で扱える設備と許可を持つ場所は、世界でも限られる。燃料サイクルの本格的な実証をカナダの研究所の中で行うのは、そのためでもある。日本では、内閣府の有識者会議が2025年3月、核融合の装置は原子炉には当たらないとして、原子炉等規制法ではなく、放射性同位元素などを規制する法律を土台に安全を確保する考え方をまとめ、原子力規制委員会も新しいルールに向けた論点の整理を進めてきた。国内で発電の実証炉を動かすには、このルールづくりが間に合うことが前提になる。

五つ目が、「中立」の行方である。京都フュージョニアリングは、どの炉の会社とも競合しないことを強みにしてきた。一方でグループのスターライトエンジンは、高温超電導の磁石を使うトカマク型の実証炉、FASTを率いている。核融合の出力5万キロワットほど、日本と欧州が共同で茨城県に建てた実験装置JT-60SAと同じくらいの大きさで、2028年に建設を始め、2035年に運転を始め、2038年に発電の実証に入る計画だ。発電実証までに1兆円規模の資金が要るとみて、数年のうちに民間から1000億円規模を集めることを目指している。

経済産業省が総額600億円規模を用意した発電実証の補助金では、スターライトエンジンを幹事とし、京都フュージョニアリングが加わる共同事業体が、条件付きで採択されたと9月に発表された。同じく条件付き採択となったのは、ヘリカル型のヘリカルフュージョン、レーザー型のエクスフュージョン、そして独自方式のLINEAイノベーションで、いずれも国内で炉そのものの実現を目指すスタートアップだ。すべての炉に道具を売る会社のグループが、自らも炉の実証に挑み、同じ国の予算を争う。この二つの顔を顧客や投資家にどう説明し、どう両立させていくのかは、今後の大きな論点になる。

京都大学発の核融合スタートアップ、京都フュージョニアリング、三菱商事など17社からシリーズCで105億円調達。ジャイロトロン開発など加速 - 課題 ― 赤字、時間、競争、そして「中立」の行方 - 図表1

これから何を、いつ見るか

京都大学発の核融合スタートアップ、京都フュージョニアリング、三菱商事など17社からシリーズCで105億円調達。ジャイロトロン開発など加速 - これから何を、いつ見るか - 章扉

最初の節目は、もう目の前にある。スターライトエンジンは10月15日まで、FASTの建設候補地を全国の都道府県と政令指定都市から募っている。60ヘクタール以上の敷地を用意できることが条件で、2028年までに場所を決める。どの地域が手を挙げるかは、核融合が地域の産業政策として本気で受け止められているかを測る物差しになる。

この秋には、滋賀のジャイロトロン拠点が順次動き出し、京都のUNITY-1では、高温のループから実際に発電し、水素をつくる統合試験が始まる。そして年内には、カナダのUNITY-2で、トリチウムを使った運転が始まる予定だ。完全に統合された燃料サイクルが予定どおり動き出すかどうかは、燃料の専門企業としての信用を左右する。

時期はまだ示されていないが、経済産業省の補助金の正式な採択と交付額、そしてシリーズDの第2弾で、どんな投資家がいくら加わるのかも焦点になる。日本経済新聞が伝えたユニコーン入り、つまり企業価値約1570億円までの距離は、この第2弾の条件から見えてくるはずだ。

その先の山場は2028年だ。テネシーのUNITY-3が年末の完成を目指し、FASTは建設開始を予定する。経済産業省の補助事業は2029年2月までが期間で、ここまでにFASTの設計がどこまで固まるかが問われる。さらに2035年のFAST運転開始、2038年の発電実証、そして2040年代の商用化へと続く。

投資家が見るべき数字は三つある。一つ目は、ジャイロトロンの売上が100億円規模に届くかどうか。二つ目は、UNITY-2が予定どおり年内に動き、他社が使う試験場として稼げるかどうか。三つ目は、韓国を含むアジアで最初の受注が取れるかどうかだ。この三つがそろえば、核融合の火が灯る前から稼ぐ「つるはし屋」のビジネスモデルは、本物だと証明される。

核融合の火が灯る日は、まだ先にある。だが、その火をおこすための道具の商売は、すでに始まっている。


京都大学発の核融合スタートアップ、京都フュージョニアリング、三菱商事など17社からシリーズCで105億円調達。ジャイロトロン開発など加速 - これから何を、いつ見るか - 図表1