15センチ角のガラス板を、露光機と同じ光で覗く

レーザーテック(6920)、EUVマスク検査で事実上の独占 - 15センチ角のガラス板を、露光機と同じ光で覗く - 章扉

手元に、15センチ角、厚さ6ミリほどのガラス板があると想像してほしい。表面には、モリブデンとシリコンを交互に40層から50層積み重ねた鏡がつくられていて、その上に最先端AI半導体の回路が一面に刻まれている。1枚で数千万円。これがEUVマスク、半導体の「原版」だ。

この原版に、幅50ナノメートル、高さ1ナノメートルの、ほとんど「うねり」としか呼びようのない凹凸がひとつあるとする。髪の毛の太さの千分の一よりも小さい。ところがこの凹凸は、ウェハに焼き付けられるとき、そこから生まれるチップすべてに、同じ場所に、同じ形でコピーされる。1枚のマスクが数万個のチップを不良にする。だから半導体工場は、原版を隅々まで覗く。

問題は、この凹凸が「普通の光では見えない」ことだ。表面は平らに見える。多層膜の内側で位相がずれているだけだからである。見えるのは、実際の露光で使うのと同じ、波長13.5ナノメートルの極端紫外線だけ。そしてその光でマスクを丸ごと走査できる装置を製品として売っている会社は、世界に一社しかない。横浜のレーザーテックが手がける、ACTIS(アクティス)という装置だ。

その会社が2026年8月6日、6月に締めた決算を発表した。受注高は前の期の1052億円から2375億円へ、2.3倍に跳ね上がっている。ところが翌営業日、株価は4万3330円から3万7460円へ、13.5%下げた。6月19日につけた5万8580円という上場来高値からは、2か月あまりで4割が消えた計算になる。世界シェアを独り占めしている会社で、受注が倍増しているのに、である。

なぜこうなるのか。独占の中身と、その独占が抱えている弱点を、順にほどいていく。

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そもそもフォトマスクとは何か

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半導体づくりの中心にあるのは「露光」という工程で、これは要するに写真の焼き付けである。回路の図柄が描かれた原版に光を当て、その像をレンズで縮小して、感光剤を塗ったシリコンウェハに転写する。この原版がフォトマスク、現場ではレチクルとも呼ばれる。ハンコを想像してもいい。ただし、押すたびに同じ絵が出るハンコが、1枚数千万円する。

昔ながらのマスクは、透明なガラス板にクロムの遮光膜で図柄を描いた「透かし絵」だった。光はガラスを通り抜け、遮光膜のあるところだけ影になる。単純である。

ところがEUVでは、この単純さが使えない。波長13.5ナノメートルの光は、ほとんどあらゆる物質に吸収されてしまうので、ガラスを透過してくれないのだ。そこでEUVマスクは、透かし絵ではなく「鏡」としてつくられる。石英基板の上に、モリブデンとシリコンをきわめて薄く交互に積み上げ、その積層の干渉によってEUV光を反射させる。厚みにして0.3マイクロメートルほどの、精密な多層膜の鏡である。その上にルテニウム系の保護層を載せ、さらにタンタル系の吸収体で回路の図柄を描く。光が当たると、吸収体のないところだけが反射する。

この構造から、EUVマスク特有の厄介な欠陥が生まれる。位相欠陥である。基板にごくわずかな窪みや盛り上がりがあると、その上に積んだ多層膜が全体としてゆがみ、反射光の位相が局所的にずれる。表面を光学顕微鏡で見ても、そこには何もない。しかし露光すれば、ウェハ上にはっきり写る。原版の内部に潜む、見えない傷である。

さらにもう一枚、話をややこしくする膜がある。ペリクルだ。マスクの表面から数ミリ浮かせて張る薄膜で、空気中のゴミがマスクに直接落ちるのを防ぐ。これがないと、ゴミ1粒がそのままチップ全数の不良につながる。

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「アクティニック」という一語が、独占の正体

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検査の世界には「アクティニック」という言葉がある。露光に使うのと同じ波長の光で見る、という意味だ。ごく当たり前の話に聞こえるが、EUVではこれが技術的な断崖になっている。

従来のマスク検査装置は、波長193ナノメートルのDUV光を使う。これで13.5ナノメートル用のマスクを検査するのがどれほど無理筋か、業界の技術者はこう言い換える。193ナノメートル用のマスクを、波長2760ナノメートルの中赤外線で検査するようなものだ、と。解像力がまるで足りない。しかも多層膜の内側でしか起きていない位相欠陥は、原理的に193ナノメートルでは見えない。

決定打はペリクルである。EUV用ペリクルは193ナノメートルの光を通さない。つまりDUVの検査装置は、ペリクルを張ったままのマスクを覗けない。検査するには、いったんペリクルを剥がし、マスクを洗浄し、検査し、また新しいペリクルを張る。工程が増え、時間がかかり、その作業自体が新たな異物混入の機会になる。

13.5ナノメートルの光なら、ペリクルを透かしてマスクを見ることができる。剥がさずに済む。これがレーザーテックの装置が置き換え不能である理由の核心だ。同社の仙洞田哲也社長は、2019年の初号機投入から5年たっても競合が出せていない、と語っている。

同社の製品は3つの場所に置かれる。回路を描く前のマスクブランクスを13.5ナノメートルで検査するABICS。回路を描いたあとのマスクをペリクル越しに丸ごと走査するACTIS。そしてDUV光を使う従来型のマスク検査装置MATRICS(マトリクス)である。

競合との棲み分けもはっきりしている。米KLAのTeronシリーズは、設計データと突き合わせる方式でマスクショップの主力を担うが、光源はDUVだ。独ツァイスのAIMS EUVは13.5ナノメートルを使うが、役割が違う。欠陥を見つける装置ではなく、見つけて修理したあと「これは本当にウェハに写らないか」を、露光機と同じ照明条件で1点ずつ確かめる検証装置である。マスク全面を走査して欠陥を探す仕事とは別の工程だ。ツァイスは2026年2月から次世代機AIMS EUV 3.0の世界展開を始めており、スループットは前世代の3倍、High-NAにも対応するとしている。強力ではあるが、ACTISの代わりにはならない。

もうひとつ、レーザーテックの深いところにある強みが光源だ。13.5ナノメートルの光は簡単には出せない。マスク検査用のEUV光源は、ウシオ電機が2019年に量産プロセス向けとして初出荷した経緯があるが、レーザーテックは2023年、自前の高輝度光源「URASHIMA」を開発した。高速回転する液体スズにレーザーを撃ち込んでプラズマを起こす方式で、ペリクルへの入熱を抑えるよう最適化してある。強い光を当てれば感度は上がるが、薄膜のペリクルが熱で傷んでしまう。この矛盾を光源設計そのもので解いた。検査装置メーカーが光源まで内製する例は多くない。

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業界の見取り図——ブランクスからウェハファブまで

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EUVマスクが1枚できあがるまでの流れを追うと、レーザーテックがどこに座っているかが見える。

出発点はマスクブランクス、つまり回路を描く前の多層膜つき基板である。これを量産できるのはHOYAとAGCの実質2社しかない。両社で世界のほぼ全量を占める、それ自体が寡占の世界だ。ここでブランクスの中に位相欠陥がないかを13.5ナノメートルで確かめるのが、レーザーテックのABICSの役目になる。

次にマスクショップ。凸版フォトマスクや大日本印刷、米フォトロニクスといった専業に加え、インテル、サムスン、TSMCはそれぞれ自前のマスク工場を持っている。ここで電子ビーム描画機が回路を描く。EUV世代では、日本のニューフレアテクノロジーと、インテル系のIMSナノファブリケーションが手がけるマルチビーム描画機が必須になった。単一ビームでは書き込み時間が非現実的に長くなるからだ。描いたマスクは検査され、欠陥が見つかれば電子ビームで修理され、ツァイスのAIMSで「もう写らない」ことを確かめてから出荷される。

そして最後がウェハファブ、つまりチップを実際に量産する工場だ。ここが近年、新しい市場として立ち上がってきた。マスクショップから届いたマスクを受け入れるとき、そして稼働中のマスクを定期的に品質確認するとき、ペリクルを剥がさずに検査したいという需要である。レーザーテックが2025年10月に発表したACTIS A200HiTは、まさにこのウェハファブ向けで、従来機に対して検査速度を3倍にした。マスクショップは世界に数えるほどしかないが、EUVを使うウェハファブはこれから増える。装置が置かれる場所が増えるということだ。

この生態系全体を押し上げているのがASMLである。同社は2026年に低NAのEUV露光機をおよそ65台出荷する計画で、2027年にはEUVの生産能力をさらに3割引き上げるとしている。露光機が増えれば、そこに差し込むマスクが増え、マスクを検査する装置が増える。SEMIが2026年7月に出した年央予測では、世界の半導体製造装置市場は2026年に過去最高の1659億ドル(約26兆円)、2028年には2295億ドル(約36兆円)に達する見通しだ。

一方で、この構造には裏返しの脆さもある。レーザーテック自身が有価証券報告書で、製品には特殊な部材が多く使われ、とくに光源や光学部品の一部には簡単に代替のきかないものがある、と書いている。独占する側であると同時に、上流では代えのきかない相手に依存している。

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1960年、X線テレビカメラから始まった

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レーザーテックの出発点は、半導体とは何の関係もない。

1960年、大手電機メーカーで働いていた内山康が、世界でまだ誰も成功していないものを自分でつくりたいという理由で会社を辞め、東京ITV研究所という小さな会社を興した。2年後に日本自動制御へと改組する。最初の仕事は、医療機関で使うX線テレビカメラの開発受託だった。その後、磁気テープの張り具合を測る装置や、テープの幅を測る装置を自社製品として売り始める。2台のカメラの映像を突き合わせて幅を割り出すという発想が、同社にとって最初の光学技術になった。

この技術が半導体に接続するのが1975年である。当時のフォトマスク検査は、工場に人が並び、顕微鏡を覗いて回路の不良を目視で探すという、過酷で見落としの多い作業だった。同社はここに自動化を持ち込む。翌1976年には、同一マスク上の隣り合うチップの映像を2台のカメラで捉えて比較する方式で、世界初のLSIフォトマスク自動欠陥検査装置を製品化した。

1985年には走査型カラーレーザー顕微鏡を世界に先駆けて開発し、翌1986年、中核技術である「レーザー」を社名の前面に出してレーザーテックへ改称する。2000年にマスクブランクス検査装置、2006年にフォトマスク検査装置と、現在まで続く2本の柱がこの時期に生まれた。

そして2009年、会社は存亡の危機に立つ。リーマン・ショックで液晶テレビ向けの需要が消え、売上の半分を占めていたディスプレー関連事業が吹き飛んだ。2009年6月期の売上高は92億円、最終損益は6億5000万円の赤字。時価総額は50億円台まで落ち、純資産を下回った。この年の7月に社長に就いた岡林理は、2期連続赤字ならクビが飛ぶ、という状況からのスタートだったと振り返っている。

翌期に黒字へ戻したあと、岡林が選んだのは「選択と集中」だった。薄利多売で差別化しにくい分野からは退き、技術的に難しく、自社の強みが効く領域に資源を寄せる。その先にEUVがあった。2010年代前半、官民共同のEUVリソグラフィ基盤開発センターとNEDOのプロジェクトに参画し、ブランクスメーカー・マスクメーカー・デバイスメーカーが集まる場で、位相欠陥の検出手法を煮詰めていく。プラズマ光源から飛び散る数十ナノメートルの微粒子が光学系を汚す、というきわめて泥臭い問題を、発光条件と気体の流れと熱の入り方を延々と調整して潰した。

こうして2017年にEUVマスクブランクス検査装置ABICSが、2019年にはアクティニックEUVパターンマスク検査装置ACTIS A150が、いずれも世界初として市場に出る。岡林の社長就任時に100億円前後だった時価総額は、2兆円を超えるところまで来た。2024年7月、当時47歳の仙洞田哲也が社長を引き継ぎ、岡林は会長に回っている。仙洞田はNEC系列のエンジニアから2008年に転じた技術畑の人物で、フォトマスク検査装置でKLAからシェアを奪い返した仕事で知られる。

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数字で見る「独占の利益」と、その裏側

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2026年6月期の決算を見ると、独占という言葉が具体的に何を意味するかがわかる。

売上高は2304億円で前期比8.3%減、営業利益は1052億円で14.3%減。減収減益ではある。しかし営業利益率は45.7%、自己資本利益率は33.9%、自己資本比率は73.3%で、有利子負債はゼロだ。売上の半分近くが営業利益として残る製造業は、日本にほとんど存在しない。

さらに驚くのは人数である。連結の従業員は1163人。この人数で2300億円を売り、1000億円を稼いでいる。一人あたりの売上は2億円に届く。生産を外部に委託する「ファブライト」を貫き、社員のおよそ7割をエンジニアに寄せ、売上の5〜10%を研究開発に投じる。工場を持たないから景気の谷でも固定費が重くならない。この構造が高い利益率の土台になっている。

一方で、危うさもはっきり数字に出ている。有価証券報告書によれば、2025年6月期の売上のうちインテル向けが33.3%、TSMC向けが26.3%、サムスン電子向けが19.9%。この3社だけで約8割である。世界で最先端の露光をやっている会社が3社しかないのだから当然ではあるのだが、うち1社の設備投資が止まれば、業績はそれだけで大きく揺れる。

その揺れが、実際に前期の受注に現れていた。2025年6月期の受注高は1052億円と、前の期の2728億円から6割以上減っている。楽天証券の分析によれば、この期のACTISの受注高はマイナス105億円だった。既存の受注が1台キャンセルされ、見込んでいた1台も取れなかったためだ。装置1台が数十億円という世界では、1台の増減がそのまま四半期の数字を動かす。

そして2026年6月期、受注は2375億円へ戻った。ACTISは620億円、MATRICSは772億円。ここに、独占の物語だけでは見えない事実がある。「EUV独占企業」の受注のうち、いちばん大きかったのはEUVの装置ではなく、DUV光を使う従来型のマスク検査装置だったのだ。MATRICSは前期の453億円から772億円へ増えている。先端ノードが複雑になるほど、EUV以外の層のマスクも増え、検査回数も増える。EUV一本足の会社ではない、ということでもある。

もうひとつ地味だが効いているのがサービス収入だ。2026年6月期は586億円、前期比36.5%増で、売上の4分の1を占めるまでになった。装置の据付台数が積み上がるほど、保守と消耗品の収入が自動的に増える。装置の受注が谷に落ちた期に、この部分が下支えとして機能した。

貸借対照表には別の顔がある。仕掛品は1224億円。売上の半分以上にあたる規模の未検収装置を抱えている。同社の売上は顧客の検収時に立つので、装置が顧客の工場で立ち上がるまでは仕掛品のままだ。リードタイムが1年半から2年という長さである以上、構造的にこうなる。ただし在庫の評価損は前期の21億円から50億円へ増えており、前受金も644億円から443億円へ減った。研究開発費は116億円から163億円へ約4割増えている。

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市場はこの決算をどう読んだか

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8月6日の午後3時45分、決算が開示された。翌日の株価は13.5%下げた。受注が2.3倍になった会社の話とは思えない。

理由は前を向いた数字にある。会社が示した2027年6月期の計画は、売上高2900億円、営業利益1250億円。売上は市場予想とほぼ同水準だったが、営業利益は市場が見ていた1400億円前後に届かなかった。加えて、決算説明会で示した今期の受注見通しが3000億〜4000億円。前期の2375億円からの大幅増ではあるものの、一部の投資家が期待していた「4000億円超」には上限が届かなかった。仙洞田社長はこの場で、デバイスメーカーの投資計画はさらに拡大していると述べている。それでも市場は、期待と会社の慎重さの差を売った。

この銘柄をめぐる評価の割れ方は、日本株でもかなり極端な部類に入る。2026年7月下旬、モルガン・スタンレーMUFG証券は投資判断をアンダーウエイトに据え置いたまま、目標株価を1万5600円から3万6000円へ引き上げた。一方、6月から7月にかけて、ゴールドマン・サックス証券とみずほ証券はいずれも買い判断で目標株価を6万7000円まで引き上げている。UBS証券とSBI証券は中立で4万7000円台。ジェフリーズ証券は8月上旬に買いへ引き上げて5万7000円としたあと、決算を受けて8月中旬に5万1000円へ切り下げた。同じ決算書を読んで、目標株価が3万6000円と6万7000円で並ぶ。

なぜここまで割れるのか。理由は単純で、この会社の価値のほとんどが「これから何台売れるか」に依存しており、その台数が顧客3社の投資判断でしか決まらないからだ。装置1台が数十億円、年間の出荷台数が数十台という世界では、需要予測に台数を1つ足し引きするだけで、算出されるフェアバリューが数千円動く。バリュエーションの前提が、統計ではなく個別の意思決定なのである。

株主構成もボラティリティを増幅している。2025年6月末時点で、個人株主が10万8000人を超え、所有株式数では個人その他が約4割、外国法人等が約4分の1を占める。日本株のなかでも売買が活発な銘柄であり、材料に対する反応が大きく出る。実際、8月中旬に株価は3万9000円台から3万5000円台まで一気に下げたが、これはレーザーテック固有の悪材料ではなく、米半導体株安と国内金利上昇を受けて日経平均が2日で4000円近く下げた市場全体の調整に巻き込まれたものだ。

思い出しておくべき事件もある。2024年6月、米国の空売りファンド、スコーピオン・キャピタルが同社を「日本史上最大級の企業不正」と名指しし、在庫の急膨張や主力装置の光源の欠陥を主張するレポートを公表した。株価は一時8%を超えて下落したが、会社は販売を検収基準で認識していること、検収前は仕掛品として扱っていること、長期滞留在庫の調査を通じて評価に反映していることを翌日に補足説明し、株価は急反発した。その後の展開を示す事実として、レーザーテックは2026年3月、インテルからEPICサプライヤー・アワードを受賞している。インテルの全世界のサプライチェーンから41社だけが選ばれる表彰である。

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High-NAは来るのか——TSMCが「使わない」と言った意味

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レーザーテックの次の成長を語るとき、必ず出てくるのがHigh-NA EUVだ。露光機のレンズの開口数を0.33から0.55へ広げ、解像度をさらに上げる次世代技術である。1台の価格は3億5000万〜4億ドル(約560億〜640億円)。この世代のマスクは、縦と横で投影倍率が違う「アナモルフィック光学系」を使うため、検査装置も縦横で異なる解像度を要求される。レーザーテックが2023年に発表したACTIS A300は、この要求に応える設計になっている。

では、High-NAはいつ来るのか。ここで3社の判断がきれいに分かれた。

インテルは最も前のめりだ。ヒルズボロのD1X工場に世界初の量産向けHigh-NA機を据え付け、次世代プロセス14Aで、量産ロジックとしては業界初となるHigh-NA採用に踏み切る。同社は2026年7月の四半期決算で、14Aのリスク生産を2027年後半、量産を2028年へと、従来計画からおよそ1年前倒しすると発表した。

メモリではSKハイニックスが動いた。同社は利川のM16工場にASMLの次世代機を設置し、DRAMメーカーとして初めてHigh-NAを手にした。次世代の1c世代DRAMではEUVを使う層を5層以上に増やしており、メモリ工場のEUV密度がロジックに近づきつつある。マイクロンも次々世代でEUV適用層を増やす計画だ。

そしてTSMCである。同社は2026年4月の北米技術シンポジウムで2029年までのロードマップを示したが、そこにHigh-NAの採用計画は一切なかった。A16は2027年、A14は2028年、その先のA13とA12は2029年。いずれも従来の低NA EUVとマルチパターニングで通すという判断だ。理由はコストで、High-NAを使うと露光コストが最大2.5倍に膨らむと見られている。世界最大のEUVユーザーが、少なくとも3年は乗らないと宣言したことになる。

これはレーザーテックにとって、素直に読めば逆風だ。High-NA対応のA300が本格的に必要になるタイミングが後ろにずれる。だが、それだけを見ると本質を外す。同社の当面の成長ドライバーは、High-NAの到来ではなく、低NAの世界でアクティニック検査がどこまで普及するかにあるからだ。

業界団体eBeamイニシアティブが2023年に実施した調査では、EUVマスクのうちアクティニック検査を受けているものの割合は加重平均で30%だった。これが2026年には63%へ、3年でおよそ倍増するという予測が示されている。裏を返せば、それでもまだ4割近いマスクは、露光と違う波長でしか検査されていない計算になる。この残りを埋める余地が、そのまま市場になる。しかも埋める先はマスクショップだけではなく、ウェハファブでの受入検査と定期検査という、装置台数の母数がずっと大きい領域だ。検査速度を3倍にしたA200HiTは、まさにその市場を狙って設計されている。

ASMLが2026年に低NA機を約65台出荷し、2027年に生産能力を3割上積みするという計画も、この文脈で効いてくる。High-NAが来なくても、EUVを使う工場そのものが増え続けている。

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強みと課題——「代わりがいない」ことのコスト

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強みを整理すると、3つに集約できる。

第一に、13.5ナノメートルで見るという原理そのものが参入障壁になっていること。光源、超精密な反射光学系、ナノメートル精度のステージ、そしてペリクル越しに強い光を当てても壊さない熱設計。どれか1つが欠けても製品にならない。しかも顧客の生産ラインに一度組み込まれれば、装置を入れ替えるのは工程の作り直しを意味する。

第二に、身軽さ。生産を外に出し、社員の7割をエンジニアに配する。半導体装置の景気の谷で工場の稼働率に苦しむ会社が多いなか、同社は谷でも営業利益率20%以上を堅持することを目標に掲げている。

第三に、収益の質が変わってきていること。据付台数が積み上がるにつれてサービス収入が伸び、売上の4分の1に達した。装置売上の谷を、ストック収入がならす。

課題も同じくらい明確だ。

最大のものは顧客集中である。3社で売上の8割。しかもその筆頭がインテルで、同社の先端プロセスの立ち上がり方に業績が連動する。2026年6月期は台湾向けの装置売上が前期の515億円から274億円へ半減した一方、韓国向けが伸びて地域別の首位に立った。顧客ごとの投資サイクルが揃わないぶん、四半期ごとの振れは大きい。

売上を検収時に立てる会計も、期ずれの原因になる。装置1台の検収が四半期をまたぐだけで数十億円が動く。1224億円の仕掛品はその構造の裏返しであり、評価損が前期の2倍以上に増えたことは、それが単なる「未来の売上」ではないことを示している。会社が中期経営計画の最優先課題にリードタイム短縮を掲げ、現在の1年半から2年を0.5年から1.5年へ縮めるとしているのは、この重さを軽くするためでもある。

競合の輪郭も、じわりと変わりつつある。ツァイスのAIMS EUV 3.0は、欠陥探索そのものではないにせよ、13.5ナノメートルを扱う技術で世界の主要メーカーに入り込んでいる。KLAはDUVの側からAIによる欠陥分類で検査効率を上げている。レーザーテックの領域に正面から入ってくる装置は依然として存在しないが、周辺は静かではない。

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これから何が計測されるか

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投資家の視点で、次に何を見ればいいかを整理しておきたい。

直近では、2026年9月24日に有価証券報告書が提出され、翌25日に定時株主総会が開かれる。顧客別の売上構成が更新されるので、インテル・TSMC・サムスンの比率がどう動いたかがわかる。台湾向けの装置売上が半減した局面で、顧客別ではどうなっていたのか。ここは中期の需要地図を読むうえで重要だ。

本当の答え合わせは10月末ごろの第1四半期決算になる。焦点は業績そのものではなく、会社が示した3000億〜4000億円という今期の受注レンジがどう改定されるかである。同社は前期、期の途中でこのレンジを1700億〜2200億円から2000億〜2400億円へ引き上げ、最終的に上限に近い2375億円で着地させた。レンジの改定こそが、この会社が発する最も強い信号だ。上限が4000億円を超えて動くなら、市場が織り込みきれていない需要が来ているということになる。

その先は、2027年後半のインテル14Aリスク生産と、2028年の量産立ち上げ。ここが本格的なHigh-NA需要の入口になる。並行して、SKハイニックスのDRAM側でHigh-NAがどこまで広がるか、そしてTSMCが2029年より先のロードマップでHigh-NAに言及するかどうか。この3点で、ACTIS A300の需要曲線の形が決まる。

会社自身は2030年6月期に売上高4000億〜5000億円、営業利益率35%以上、年平均成長率10%以上という中期目標を掲げている。2026年6月期の2304億円から見れば、5年で倍増という絵だ。その実現可能性を測る指標として、四半期ごとに追うべきは4つになる。受注レンジの改定方向、ACTISとMATRICSの受注構成、売上に占めるサービスの比率、そして仕掛品と前受金の残高である。

EUVマスクを露光と同じ光で覗ける会社は、いまも世界に一社しかない。ただし独占は、株価が一直線に上がることを意味しない。顧客が3社しかない市場では、独占企業の業績もまた、その3社の意思決定に従属する。市場がこの銘柄に3万6000円と6万7000円という二つの値札を同時に貼っているのは、その従属をどう評価するかが分かれているからだ。


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