都市鉱山とは何か——日本の資源は地下ではなく押し入れに眠っている

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 都市鉱山とは何か——日本の資源は地下ではなく押し入れに眠っている - 章扉

都市鉱山という言葉は、使い終わった電子機器や家電の中に蓄積された金属を、鉱山の埋蔵量に見立てた呼び方である。1988年に東北大学選鉱製錬研究所の南條道夫氏らが提唱した概念だが、それが単なる比喩ではないことを数字で示したのが、物質・材料研究機構(NIMS)が2008年1月11日に公表した推計だった。日本国内に蓄積された金は約6,800トンで世界の現有埋蔵量の約16%に相当し、これは世界最大の産金国だった南アフリカの埋蔵量を上回る。銀は約6万トンで約22%、液晶ディスプレイの透明電極に使われるインジウムに至っては世界埋蔵量の61%が日本の「都市鉱山」に眠っている、というのがこの推計の骨子である。

なぜそんなことになるのか。理由は単純で、日本が長年にわたって電子機器の生産国であり、かつ大量消費国だったからだ。ひとつ具体例を挙げると、スマートフォン1台には金・銀・銅に加えて、錫、タンタル、リチウム、コバルト、ネオジム、ジスプロシウム、インジウム、パラジウムといった十数種類の金属が、それぞれ数ミリグラムから数グラムの単位で使われている。1台では屑にしかならないが、これが国内に数億台の単位で滞留すれば、鉱床としての規模になる。しかも品位が桁違いに高い。天然の金鉱石は1トンあたり数グラムの金を含めば優良鉱山とされるが、携帯電話やパソコンから外した基板は1トンあたり数百グラムの金を含む。「掘る」よりも「集める」ほうが濃い、というのが都市鉱山の本質である。

この理屈が国民的に可視化されたのが、東京2020大会の「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」だった。2017年4月から2019年3月までの2年間で全国から使用済み携帯電話や小型家電を集め、金30.3キログラム、銀4,100キログラム、銅2,700キログラムという回収目標を達成し、オリンピックとパラリンピックの約5,000個のメダルすべてを再生金属でつくった。全国1,300の教育機関と2,100の家電量販店が協力している。NIMSでこの推計と回収プロジェクトを主導した原田幸明氏は、その功績で瑞宝小綬章を受けている。

ただし「眠っている」という表現には落とし穴がある。眠っているものは、掘り起こさなければ資産ではない。国連訓練調査研究所(UNITAR)と国際電気通信連合(ITU)が2024年3月に公表した『Global E-waste Monitor 2024』によれば、2022年に世界で発生した電子廃棄物は6,200万トンで、2010年の3,400万トンから82%増えた。この中に含まれる金属の価値は910億ドル(約14.4兆円)に達し、内訳は銅190億ドル(約3.0兆円)、鉄160億ドル(約2.5兆円)、金150億ドル(約2.4兆円)である。ところが正式に回収・リサイクルされたと記録されたのは重量ベースで22.3%にすぎず、620億ドル(約9.8兆円)分の資源が行方不明になっている。しかも発生量の伸びが回収の伸びの5倍速いため、2030年には発生量が8,200万トンに増える一方、回収率は20%に低下すると同レポートは予測している。

日本も例外ではない。小型家電リサイクル法に基づく回収量は令和2年度で10万2,489トンと施行以来最多を記録したが、国が掲げた年間14万トン(国民1人あたり年1キログラム)の目標には届いていない。環境省と経済産業省が2026年3月6日の関係閣僚会議に提出した資料は、日本の実態をより率直に整理している。日本は石油・ナフサ・鉱石・金属製品などの資源を年間約31兆円分輸入する一方で、鉄スクラップ771万トン、銅スクラップ42万トン、アルミスクラップ44万トンを海外に輸出し、廃プラスチックの約8割にあたる約709万トンを焼却・埋立している。回収はできるが循環できていない、という構造的な弱点である。

産業としての規模はどうか。環境省の『環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書』によれば、国内の環境産業の市場規模は2000年の約63兆円から2023年には約130兆円へ2.1倍に拡大した。そのうち松田産業などが属する「再資源の商品化(非鉄金属第二次精錬・精製業)」は、2000年の約5,800億円から2023年には約2.2兆円へと3.8倍に伸びている。ただし個々のプレーヤーは小さい。前述の政府資料は、静脈企業の売上高として欧州のヴェオリアが約7.3兆円、米国のウェイスト・マネジメントが約3.3兆円であるのに対し、日本最大級のDOWAが約6,800億円であることを並べて示した。技術で勝って規模で負けている、というのが日本の静脈産業の現在地である。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 都市鉱山とは何か——日本の資源は地下ではなく押し入れに眠っている - 図表1都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 都市鉱山とは何か——日本の資源は地下ではなく押し入れに眠っている - 図表2都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 都市鉱山とは何か——日本の資源は地下ではなく押し入れに眠っている - 図表3

AI半導体と光電融合が需要構造を変えた——銅・金・銀、そしてインジウム

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - AI半導体と光電融合が需要構造を変えた——銅・金・銀、そしてインジウム - 章扉

都市鉱山が10年以上「有望だが儲からない」領域にとどまってきたのは、結局のところ地金価格が回収コストに見合わなかったからである。その前提が2025年から2026年にかけて崩れた。

まず銅である。ロンドン金属取引所(LME)の銅現物決済価格は2026年8月19日に1トン1万4,180ドル(約224万円)、8月17日には1万4,850ドル(約235万円)を付けた。2026年5月13日にはCOMEXで1ポンド6.72ドルの史上最高値、LMEでも日中に1万4,196.50ドルを記録している。国内の銅建値も2026年8月12日時点で1トン238万円という水準にある。数年前まで1トン9,000ドル前後が高値圏だったことを考えると、相場の地形そのものが変わった。

理由はAIデータセンターだ。データセンターは電力を運ぶ導体と冷却系統に銅を大量に使う。業界の試算では設備容量1メガワットあたり27〜33トンの銅が必要とされ、ギガワット級のAIキャンパスが世界各地で同時に立ち上がれば、需要は年単位で跳ね上がる。一方で供給側は、新規鉱山プロジェクトの枯渇に加えて中国製錬所の減産という別の制約を抱えている。米国は2025年7月30日の大統領布告で半製品・派生製品の銅に50%のセクション232関税をかけ、あわせて商務長官の勧告に基づき、国内で生産される銅原料の25%を2027年から国内販売する要件(2028年に30%、2029年に40%へ引き上げ)と、高品質銅スクラップの25%国内販売要件を打ち出した。環境省・経済産業省はこれを「国内発生の高品質銅スクラップの一部を2027年から国内販売義務付け」と整理している。銅は自由に流れる商品ではなくなりつつある。

貴金属はさらに激しい。金は2026年1月29日に先物で1トロイオンス5,542.40ドルの史上最高値を付け、その後調整して8月19日時点で4,512ドル(約71万円)。銀は1月に120ドルを超える記録的な水準まで駆け上がり、8月19日は66.97ドル(約1万600円)である。松田産業のスポンサードリサーチを担当するQUICK企業価値研究所は、米地質調査所(USGS)のデータをもとに、2025年末時点で経済的に採掘可能な金の埋蔵量は約6万6,000トン、同年の鉱山生産量は約3,300トンであり、新規鉱脈の発見を考慮しない単純計算での可採年数は約20年にすぎないと整理している。

そして、この記事のテーマにとって最も重要なのがレアメタルである。2026年前半、AIサーバー関連の「コンピュート金属」が軒並み暴騰した。コンデンサ向けタンタルのインゴットは2025年末から2026年6月1日までに158%上昇し、インジウムも年初から6月中旬までに約60%値上がりした。AIサーバー用の高多層基板に使うHVLP4銅箔は、2026年下期の需要が上期比で少なくとも倍増し月間560トンに達する見通しで、供給不足が今後3年の「ニューノーマル」になるとの分析が出ている。

ここに中国の輸出管理が重なる。中国は2023年8月のガリウム・ゲルマニウムを皮切りに、同年12月に黒鉛、2024年9月にアンチモン、2025年2月にタングステン・テルル・ビスマス・モリブデン・インジウム、2025年4月に重レアアース7種と、対象鉱種を積み上げてきた。2025年10月には中国産レアアースを価値比率0.1%以上含む外国製品にまで輸出許可を義務づける「再輸出規制」を発表し、これは米中協議を受けて2026年11月まで1年間停止されている。さらに2026年1月6日、中国商務部は日本向けデュアルユース品目の輸出管理を強化する公告を出した。国際エネルギー機関(IEA)は2026年7月の『Global Critical Minerals Outlook 2026』で、これらの措置が全面実施された場合、自動車・ハイテク・防衛・エネルギー分野を中心に中国域外の年間6.5兆ドル(約1,030兆円)規模の川下生産がリスクにさらされると警告した。欧州のガリウム価格は中国国内価格の約5倍、ゲルマニウムは約3倍まで乖離している。

光電融合との接点はここにある。AIデータセンターの通信ボトルネックを解く技術として期待される共同パッケージング光学(CPO)や光トランシーバーには、電気信号と光信号を相互変換できるインジウムリン(InP)基板や、ガリウム砒素(GaAs)系の化合物半導体が不可欠だ。NTTのIOWN構想は、データセンター間を光でつなぐIOWN 1.0を2023年に商用化し、サーバー内のボード間を光化するIOWN 2.0(PEC-2)を2026年第4四半期に商用サンプル提供、パッケージ間を光化するCPOは2027年1〜3月に商用サンプルを出す計画である。ラピダスと技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)も2026年4月に北海道千歳で光電融合パッケージング技術の研究を立ち上げ、研究施設は2028年度の完成を予定している。

つまり、AI半導体と光電融合の進展は、銅という「量」の金属と、インジウム・ガリウム・タンタルという「質」の金属の両方を同時に逼迫させる。そして後者は、そもそも天然鉱床から単独で採れる金属ではない。インジウムは亜鉛製錬の副産物であり、実際に日本で回収されている量の大半は、ITOターゲットの製造工程で出る使用済み材料——つまり都市鉱山である。AIの最先端デバイスが、産業廃棄物の再生に依存している。この逆説が、いま非鉄各社のバリュエーションを動かしている。

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国家戦略になった資源循環——「2030年、電解銅の3割を都市鉱山から」と、銅製錬の同時再編

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政策の側でも、2026年は明確な転換点になった。

政府は2026年4月21日、循環経済に関する関係閣僚会議で「循環経済行動計画」を正式決定した。木原稔官房長官が議長を務め、循環経済への移行を国家戦略として進めることを打ち出したこの計画は、高市内閣が掲げる危機管理投資・成長投資の一環として位置づけられている。冒頭の情勢認識は率直だ。中国が重要鉱物の輸出管理を強化しつつ2024年10月に官民出資の中国資源循環集団を設立し、EUが電子スクラップの域外輸出を厳格化する中で、「もはや一次資源のみならず、二次資源の獲得競争の時代に突入している」と書く。

計画の中核は「メタルリサイクル推進戦略」で、鉄・アルミ・銅・永久磁石の4分野に2030年の定量目標を置いた。鉄は低品位スクラップを高品位化する処理能力を年約200万トン追加確保する。アルミは再生原料の使用が難しいとされる展伸材について国内生産量の約4割を再生原料由来にする。永久磁石は国内で供給される原材料の約3割をリサイクルで賄う。そして銅については、「2030年時点で、国内で生産される銅(電解銅)の約3割を、e-scrapや銅スクラップ等の再生資源由来とする」と明記した。国が電解銅の再生原料比率に数値目標を置いたのは初めてである。これらを支えるために、2030年までに官民で約1兆円の投資を目指すとした。

計画は具体的な支援対象も列挙している。前処理設備・保管設備、港湾インフラ、製錬設備を含む再資源化拠点の構築と、都市鉱山からのレアメタル・レアアースの製錬・分離精製技術の開発、製錬施設でのe-scrap処理量を増やす前処理技術、リチウムイオン電池の無害化・解体施設、太陽光パネルのリサイクル体制——いずれもこの記事で扱う7社の投資計画と重なる領域だ。国土交通省は物流面から、高度なリサイクル産業が集積する港湾を「循環経済拠点港湾(サーキュラーエコノミーポート)」として選定・整備する。制度面では、2025年11月に全面施行された再資源化事業等高度化法の大臣認定制度について3年で100件以上の認定を目指し、2026年4月に施行された改正資源有効利用促進法で製造事業者に再生プラスチックの利用計画策定と定期報告を義務づけた。

国際ルールの動きも同時進行している。EUの改正廃棄物輸送規則(Regulation (EU) 2024/1157)は2024年5月20日に発効し、大半の規定が2026年5月21日から適用され、輸出関連の規定は2027年5月21日から適用される。非OECD国向けのe-waste輸出は原則禁止となり、OECD国向けもモニタリングが強化される。EU域外への廃棄物輸出については、輸出先の処理施設が環境上適正な処理を行っているかを3年ごとに独立機関が監査する。これはEUから日本にe-scrapを運んで直島や佐賀関で処理する、という従来のビジネスモデルが2027年以降は成り立ちにくくなることを意味する。

一方で日本を「ハブ」にしようという同志国連携も動いている。日米は2024年9月の政策対話でe-scrap輸出入に係る国際ルール形成に合意し、2025年10月の首脳会談で合意された重要鉱物に関する文書にもリサイクル協力が盛り込まれた。2026年2月には重要鉱物閣僚会合が初開催され、FORGE(資源の戦略地政学的関与に関するフォーラム)が創設された。2025年7月のクアッド外相会合で設立された重要鉱物イニシアティブは、e-wasteからの重要鉱物のリカバリーと再加工を優先事項に据えている。ASEANとは2023年9月の日ASEANサミットで重要鉱物・e-waste循環パートナーシップが歓迎され、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンでe-waste回収の法令整備を支援し、各国で適切に解体・選別したe-scrapを日本でリサイクルする国際資源循環体制を構築中である。2025年9月には、バッテリーを含む使用済自動車が対象に追加された。

政府資料が示す国産再生材の利用割合を見ると、日本の弱点がどこにあるかも見える。タングステンは国内製造原料の33%を国産再生材で賄えているが、ネオジムは5%、ジスプロシウムは4%にすぎず、ネオジムは製造原料の44%が埋立処分、ジスプロシウムは34%が埋立処分に回っている。都市鉱山は、掘っていない鉱区がまだ大量に残っている。

TC/RC崩壊と2026年10月の4社統合

政策が「二次資源へ寄せろ」と旗を振る一方、現場では別の時計が動いている。日本の非鉄産業がいま直面している最大の構造問題、銅製錬の採算崩壊である。

銅製錬所は鉱山から銅精鉱を買い、それを電気銅に仕上げる。その加工賃にあたるのがTC(製錬費)とRC(精錬費)だ。中国で銅製錬所の新設が続いた結果、銅精鉱の取り合いが激化し、TC/RCは歴史的な低水準に沈んだ。パンパシフィック・カッパー(PPC)の2026年積み買鉱交渉では、TCが1トン25ドル〜10ドル台半ば、RCが1ポンド2.5セント〜1セント台半ばの範囲で個別に妥結したと報じられている。2025年積みがTC25ドル・RC2.5セントだったことを考えれば、条件はさらに悪化した。三菱マテリアルの田中徹也CEOは2025年11月の中期経営戦略説明会で「現在のTC/RCでは、生産するほど収益が上がらない構造になっている」と述べている。作れば作るほど赤字が膨らむ装置を抱えている、ということだ。

この状況に対する日本側の答えが、2026年10月1日に予定される銅原料事業の4社統合である。JX金属、三井金属、丸紅が出資するPPCに、三菱マテリアルが銅精鉱の購入と電気銅・硫酸・レアメタル・貴金属副産物の販売に係る事業を統合する。2025年11月11日に協議開始を公表し、2026年5月28日に最終契約を締結した。統合後のPPCの出資比率はJX金属32.50%(従来47.8%)、三菱マテリアル32.00%、三井金属21.90%(従来32.2%)、丸紅13.60%(従来20%)となり、4社すべてがPPCを持分法適用会社とする。統合対象事業は新設子会社「PPCマテリアル」に移る。買鉱交渉力を4社分に束ね、販売を効率化し、国内の製錬能力を経済安全保障の観点から維持する、というのが公表された狙いである。

注目すべきは、この統合が「規模の拡大」ではなく「規模の縮小に耐えるための統合」だという点だ。三菱マテリアルは中期経営戦略で銅精鉱処理量を2025年度比60〜70%に減らす方向を明示している。JX金属も銅地金の生産削減を打ち出した。一次原料の処理を絞り、その分を二次原料——すなわち都市鉱山——に置き換える。政府の行動計画が「そもそも銅製錬事業の維持・強化が不可欠」と書き、「国際連携によって適正な銅製錬委託費の実現」に取り組むと明記したのは、この置き換えが製錬炉というインフラの上でしか成立しないからである。e-scrapを溶かす炉は、銅精鉱を溶かす炉と同じ炉だ。一次製錬をやめれば、二次製錬もできなくなる。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 国家戦略になった資源循環——「2030年、電解銅の3割を都市鉱山から」と、銅製錬の同時再編 - 図表1都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 国家戦略になった資源循環——「2030年、電解銅の3割を都市鉱山から」と、銅製錬の同時再編 - 図表2都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 国家戦略になった資源循環——「2030年、電解銅の3割を都市鉱山から」と、銅製錬の同時再編 - 図表3都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 国家戦略になった資源循環——「2030年、電解銅の3割を都市鉱山から」と、銅製錬の同時再編 - 図表4

JX金属(5016)——大煙突からInP基板へ

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - JX金属(5016)——大煙突からInP基板へ - 章扉

JX金属の創業は1905年12月にさかのぼる。久原房之助が茨城県の赤沢銅山を買収し、日立鉱山と改名したのが起点である。久原は大正初期までにこれを足尾・別子・小坂と並ぶ日本四大銅山のひとつに育て、1912年に久原鉱業を設立した。ただし急成長には代償があった。銅の生産増大に伴う亜硫酸ガスの煙害が周辺の農地と山林を壊滅させ、地域との対立が深刻化する。久原の答えは、補償金ではなく設備投資だった。1914年12月、当時世界一の高さを誇る155.7メートルの大煙突を完成させ、煙を上空へ拡散させることで被害を激減させた。煙害という外部不経済を技術で内部化し、地域との「共存共栄」を掲げたこの決断は、日立市が「ものづくりのまち」として発展する原点になった。100年後にこの会社が環境事業を収益源にしていることを思えば、示唆的な出発点である。

その後、1928年に2代目社長となった鮎川義介が久原鉱業を日本産業(日産)に改称し、翌1929年に鉱業部門を日本鉱業として分離。1992年に金属部門が日鉱金属となり、2002年に新日鉱ホールディングス、2010年にJXホールディングス傘下のJX日鉱日石金属を経て、2016年にJX金属となった。英文社名は2024年にJX Advanced Metals Corporationへ改めている。

そして2025年3月19日、JX金属は東京証券取引所プライム市場に上場した。ENEOSホールディングスが保有株の57.6%を売り出し、売出価格820円でオーバーアロットメントを含め4,386億円を調達した、2018年のソフトバンク以来となる国内最大級のIPOである。上場初日の株価は6.6%上昇し、時価総額は8,110億円となった。ENEOSは42.4%を保有し続けたが、この親子上場の解消がその後の資本政策の軸になる。2026年5月11日、JX金属は総額2,500億円の転換社債型新株予約権付社債を発行し、その資金でENEOS保有分の一部を自己株式公開買付けで取得することを決議、6月18日に完了した。この結果、親会社所有者帰属持分は2026年3月末の7,265億円から6月末には6,424億円に減少している。

事業構造は明快で、「フォーカス事業」と「ベース事業」に分かれる。フォーカス事業は半導体材料と情報通信材料で、半導体の配線形成に使うスパッタリングターゲットで世界シェア約6割、フレキシブル基板向け圧延銅箔で約78%という圧倒的な地位を持つ。ベース事業は資源・製錬・リサイクルである。2026年3月期の連結売上収益は8,846億円(前期比23.7%増)、営業利益は1,750億円(同55.5%増)だった。

2026年度第1四半期(2026年4〜6月)は劇的だった。売上高2,606億円(前年同期比36%増)、営業利益814億円(同175%増)、親会社帰属四半期利益531億円(同181%増)。営業利益の内訳はフォーカス事業275億円、ベース事業568億円で、ベース事業にはチリのカセロネス銅鉱山の権益一部譲渡益190億円が含まれる。同社は2026年3月10日、カセロネス銅鉱山の運営会社SCM Minera Lumina Copper Chile株式5%をカナダのランディン・マイニング傘下へ約340億円(2億1,500万ドル)で譲渡し、あわせてロス・ヘラドス鉱床の持分30.9%とラ・リオハ鉱床の40%を手放すと発表した。2026年4月に実行された、資源からの明確な撤退である。

会社は8月6日、通期見通しを大幅に上方修正した。売上高1兆250億円、営業利益2,320億円(5月公表比420億円増)、親会社帰属当期利益1,410億円。為替157円、LME銅価586セント/ポンドが前提だ。フォーカス事業の営業利益は2023年度273億円、2024年度518億円、2025年度710億円、2026年度見通し1,000億円と急拡大し、利益率は9%から17%へ上がる。

生産能力増強の中身が、この会社の賭けを物語る。半導体用ターゲットはひたちなか工場で2025年度比1.3倍、それに合わせて台湾で1.4倍・韓国で2倍の最終工程加工能力を2027年度から順次立ち上げる。磯原工場の磁性材ターゲットは1.2倍を2026年度下期に、タイのタンタル粉末は1.5倍を2027年前半に。そして最大の投資がインジウムリン基板である。2026年6月16日、同社は磯原工場とひたちなか地区に4年間で最大1,200億円(既公表分を含めると計約1,500億円)を投じ、InP基板の生産能力を2025年度比7〜10倍に引き上げる方針を決定した。2026年2月時点では「2030年に3倍」という計画だったものを、わずか4カ月で桁違いに積み増した格好だ。会社はInP基板を「半導体用スパッタリングターゲットと並ぶ収益の柱」にすると宣言している。光通信の用途がサーバー間からサーバー内へ広がるという読みが背景にある。あわせて2026年6月には株式交換で東邦チタニウムを100%子会社化し、MLCC向け超微粉ニッケルや高純度チタンを取り込んだ。2024年11月に完全子会社化したタツタ電線では、AIサーバー向け漏水センサの能力を2025年度比3割増強することを2026年8月に決めている。

リサイクルはどうか。JX金属は佐賀関製錬所で、銅精鉱とリサイクル原料を同じ設備で同時に処理する「グリーンハイブリッド製錬」を推進している。銅精鉱に含まれる硫黄や鉄の酸化熱で溶解するため化石燃料がほぼ不要という点が肝で、リサイクル原料比率を現状の20%前後から2028年度に25%、2040年度に50%以上へ引き上げる計画だ。2025年9月には約70億円を投じて前処理用のキルン炉などを増設し、E-scrap処理能力を約5割増やすと発表した。稼働は2027年度下期を予定する。集荷面では2024年7月1日、三菱商事と共同でJX金属サーキュラーソリューションズ(JX金属80%、三菱商事20%)を立ち上げ、廃家電・廃電子機器・車載用リチウムイオン電池を対象にリサイクル原料の年間取扱量20万トン、売上高1,000億円強を目指している。

強みは、半導体材料という高収益のニッチトップを複数持ち、その原料である銅・インジウム・タンタルを自社の製錬・リサイクル網から調達できる垂直統合にある。課題は二つある。ひとつは、2026年度第1四半期の営業利益814億円のうち568億円がベース事業、しかもその大半が銅価と一過性の売却益によるものだという事実だ。「半導体材料株」として評価される一方で、短期の利益は依然として市況に大きく左右される。もうひとつはバリュエーションである。8月20日終値は3,624円、時価総額3兆4,398億円、予想PER24.01倍、PBR5.36倍。年初来では1月5日の1,984円から5月11日の5,828円まで約2.9倍に駆け上がったあと3割超下げており、期待の変動幅そのものがリスクになっている。配当利回りは0.55%で、この7社のなかで最も低い。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - JX金属(5016)——大煙突からInP基板へ - 図表1都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - JX金属(5016)——大煙突からInP基板へ - 図表2

三菱マテリアル(5711)——豊島の不法投棄が生んだ世界最大級のE-Scrap拠点

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 三菱マテリアル(5711)——豊島の不法投棄が生んだ世界最大級のE-Scrap拠点 - 章扉

三菱マテリアルの金属鉱業は、1873年に岩崎彌太郎率いる九十九商会(三菱商会の前身)が岡山県の吉岡鉱山を買収したことに始まる。当時は日本坑法により鉱物の売買が禁じられていたため、採掘した鉱石をその場で製錬する「山元製錬」が主流だった。三菱は瀬戸内海の銅山群を束ねる中央製錬所の建設を構想し、当初は豊島に建てようとしたが、農業を軸とする島の反対で断念する。代わりに手を挙げたのが直島村だった。「最新技術によって公害・煙害を出さないこと」を条件に誘致を受け入れ、1917年10月に直島製錬所が操業を開始する。翌1918年4月10日に三菱鉱業が設立され、三菱合資会社から鉱業事業を継承した。

直島は二度、産業史の転換点を刻んでいる。一度目は1974年、原料装入から精錬までを連続的に行う「三菱連続製銅法」の実用化である。冶金学者が3,000年追い求めた連続製銅を実現したこの技術は、月産4,000トンから始まり、1991年の新連続炉で月1万7,000トン、2000年には月2万2,500トンまで拡張された。二度目は1990年、隣の豊島で大規模な産業廃棄物の不法投棄が発覚したことだった。豊島事件をきっかけに直島製錬所は産業廃棄物の処理を引き受け、2004年には有価金属リサイクル施設が稼働する。かつて誘致を断られた島の廃棄物を、断られた側の製錬所が引き受けて資源に変える——この歴史の折り返しが、いま同社の主戦場になっている。なお現在の三菱マテリアルは、1990年に三菱金属と三菱鉱業セメントが合併して誕生した法人である。

2025年11月26日に公表した中期経営戦略(2026〜2028年度)は、この会社の重心移動を宣言するものだった。基本方針は「資源循環ビジネスで未来を創る企業」。田中徹也CEOは「量から質へ経営を転換し、銅精鉱処理から二次原料製錬への収益構造の転換」を掲げ、銅精鉱処理量を2025年度比60〜70%に減らす一方、E-Scrapの集荷・処理量を2035年度に倍増させると打ち出した。田中CEOは質疑で「現状約15万トン処理しており、35年度には33万トンまで増加する計画」と具体的な数字を示している。2030年度の中間目標は24万トンだ。直島では2026年度内に完了する増強工事でE-Scrap処理量を11万トンから14万トンへ引き上げる。

もっと大きいのは海外展開である。EUの改正廃棄物輸送規則によって欧州域外へのe-scrap持ち出しが制限されると読み、欧州では三菱マテリアルヨーロッパで二次原料製錬所の新設を検討、米国では二次原料製錬所を新設する「Exurbanプロジェクト」を推進している。田中CEOは説明会で、この投資判断を「来年の中ほど」——つまり2026年半ば——に行いたいと述べ、欧州と米国はほぼ同時期になると答えている。3カ年で見込む5,000億円のキャッシュインのうち成長投資1,500億円を充て、そのおよそ半分を二次製錬所の建設に投じる想定だ。効果が本格化するのは2029年以降とされる。

タングステンも柱である。2024年度に買収したドイツのH.C. Starckにより世界最大のスクラップ処理能力を獲得し、リサイクル量を1.5倍に拡大する設備投資と米国内リサイクル拠点の新設を検討中で、中国拠点を除く欧・米・アジア・日本の製造拠点におけるリサイクル原料比率を2030年度までに100%にする目標を置いた。日本新金属が国内リサイクル基盤に約80億円を投じ、オランダのMMMRがスクラップ集荷センターの役割を担う。中国が2025年2月にタングステンを輸出管理対象に加えたことを踏まえれば、この投資の意味は明白である。

財務目標は2028年度でROE8%以上、ROIC7%以上、ネットD/Eレシオ0.5倍以下、ネット有利子負債/EBITDA倍率3.5倍以下。2029年度以降はROE10%を目指す。抜本的構造改革として2025年9月末までに間接人員158人の希望退職を実施し、伸銅品ではブスバーからの撤退を始めている。

足元の数字は、この中計の前提を軽々と超えてしまった。2026年度第1四半期は売上高5,970億円(前年同期比38.4%増)、営業利益329億円(前年同期は営業損失)、経常利益519億円、四半期純利益512億円。8月6日には通期予想を売上高2兆4,000億円、営業利益1,300億円、経常利益1,800億円(前期比84.5%増)、純利益1,400億円へ引き上げた。経常利益は1,070億円の上方修正で、19期ぶりの最高益更新となる。中期経営戦略で示された2028年度の利益水準を、初年度の途中で上回った計算になる。銅・タングステン・金の価格上昇と円安、鉱山からの受取配当金増加、AI関連需要が重なった結果である。

もうひとつの近い材料が、UBEと折半出資するUBE三菱セメントの上場だ。2026年7月1日に東証へ株式上場を申請した。同社の2026年3月期は売上高5,383億円、純利益240億円である。

強みは、E-Scrapの集荷・処理で世界トップクラスの規模と技術を持ち、家電リサイクルから伸銅品までのバリューチェーンを自社で抱えている点にある。課題は資本市場からの評価だ。8月20日終値5,345円、時価総額7,028億円、予想PER4.99倍、PBR0.90倍。過去最高益を更新する見通しでありながら、PBRは依然1倍を割っている。市況が剥がれたときに何が残るのかを市場がまだ信じていない、ということでもある。田中CEO自身が説明会で語った「量が拡大していく前提条件を立て投資を行うものの実際には量が拡大していかない。その結果、固定費が上がって利益が出ないということを繰り返している」という自己診断が、そのまま投資家の警戒点である。

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住友金属鉱山(5713)——別子から335年、「シン・3事業連携」の再構築

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住友金属鉱山の起点は1590年、蘇我理右衛門が京都で銅製錬・銅細工の「泉屋」を開いたことにある。理右衛門はここで、粗銅から銀を分離する「南蛮吹き」という技術を日本で初めて完成させた。当時の日本の粗銅には銀が含まれたまま輸出されており、南蛮吹きはその銀を国内に留める技術革新だった。1691年(元禄4年)に別子銅山の採掘権を獲得して開坑すると、良好な鉱床条件もあって急速に発展し、1698年には年間1,521トンという世界有数の産銅高を記録する。別子は1973年の閉山まで283年間稼働し、住友財閥の礎を築いた。

現在の同社は、資源(鉱山権益)・製錬・材料の3事業連携を掲げる。2024年6月に社長に就任した松本伸弘氏は、2025年度から始まる中期経営計画2027のテーマを「事業環境変化への対処」と「次の成長への準備」に置いた。前中計期間では大型プロジェクトのうちインドネシアのポマラプロジェクトの検討を中止し、電池材料で573億円、フィリピンの製錬子会社コーラルベイニッケルを含むニッケル系で554億円の減損を計上している。松本社長は統合報告書で「足元の当社グループの稼ぐ力は低下し収益基盤が大きく揺らいでいる」と率直に書いた。

そのうえで打ち出したのが「シン・3事業連携」である。従来はニッケル鉱石の確保から電池材料生産までを一貫させる一方向のサプライチェーンを太らせる発想だったが、これに循環型の発想を織り込む。象徴が、愛媛県で建設中のリチウムイオン二次電池リサイクルプラントだ。2024年3月に建設を決定し、東予工場(西条市)に乾式工程、ニッケル工場(新居浜市)に湿式工程を置く。設備能力はLIBセル換算で年間約1万トン、完成は2026年中頃を予定する。不純物の多い使用済みLIBも効率的に処理できる乾式と湿式の組み合わせが特徴で、回収したニッケルを磯浦工場で正極材に加工することにより、日本で初めて使用済みLIBからの「Battery to Battery」水平リサイクルを実現する構想である。パナソニックとのクローズドループ連携のほか、主要リサイクル事業者9社とサプライチェーン構築のパートナーシップ協定を結んでいる。

銅のリサイクルでも動いている。松本社長は2026年1月の日刊産業新聞のインタビューで、二次原料の使用量を10万トンから14万トンへ拡大する方針を示した。国内の銅スクラップをパートナーシップで確保するとともに、海外の製錬所から処理が難しいスラッジの輸入を増やす。生産効率に優れる東予工場は、歴史的低水準のTC/RC下でもフル生産を続けることが最善の選択だとしている。新規案件では、豪州でJVパートナーと進めるウィヌ銅・金プロジェクトやカルグーリーニッケルプロジェクトを次期中計に向けたフィージビリティスタディの対象に据えている。

業績は資源価格の追い風を受けて急回復した。2026年3月期は売上高1兆7,416億円(前期比9.3%増)、税引前利益2,557億円(同714.7%増)、親会社帰属当期利益1,763億円(同969.3%増)。2026年度第1四半期は売上高5,401億円(前年同期比42.3%増)、税引前利益1,180億円(同211.4%増)、親会社帰属四半期利益879億円(同220.5%増)となり、通期予想を売上高2兆650億円、税引前利益3,240億円、親会社帰属当期利益2,160億円へ引き上げた。年間配当予想は207円である。

強みは、鉱山権益・製錬・材料を垂直に持ち、菱刈鉱山という国内随一の金鉱山を稼働させ続けている点にある。金価格の高騰局面では、この構造が他社にない収益源になる。課題は、成長の柱と位置づけた領域の逆風が続いていることだ。ニッケルはインドネシアの増産で2026年に約17万3,000トンの供給過剰が見込まれ、価格の上値は重い。チリのケブラダ・ブランカではテーリングダムの堤体工事の遅れから十分な生産量を確保できていない。電池材料は顧客ニーズの変化でLFP(リン酸鉄リチウム)への品種転換が進み、ニッケル系正極材に強みを持つ同社にとっては市場そのものが動いた。8月20日終値は10,630円で前日比10.76%高、時価総額3兆914億円、予想PER13.25倍、PBR1.34倍。年初来では1月5日の6,552円から3月2日の13,300円まで駆け上がり、その後調整している。

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松田産業(7456)——写真フィルムの銀と卵白から始まった二刀流

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 松田産業(7456)——写真フィルムの銀と卵白から始まった二刀流 - 章扉

松田産業の創業は1935年6月、写真フィルムの感光材料から銀を回収し、銀地金に製錬する事業を始めたことにある。それから13年後の1948年5月、創業地の近くにあったマヨネーズ工場で不用とされていた卵白を、練り製品の「つなぎ」として使えると食品メーカーに提案したことをきっかけに、食品原材料の卸売業も始まった。創業者の松田太郎氏が家業を通じて育んだ「もったいない」の精神と「創意・挑戦」の志が、当時「不用」と見なされていたモノから価値を生み出す二つの事業を同時に生んだ——これが同社の企業理念「限りある地球資源の有効活用」の原点である。

その後の法人の系譜はやや込み入っている。1951年6月に竹善商事(形式上の存続会社)を設立し、1956年に卵白販売を目的とした松田商店、1957年に金属の製錬・販売を目的とした松田商店をそれぞれ設立。1964年に前者が松田産業へ商号変更し、1978年9月には半導体・電子部品業界を対象とした貴金属リサイクルを目的にマツダ貴金属工業(実質上の存続会社)を設立した。1987年には新日本製鐵との合弁で日鉄マイクロメタル(出資比率は同社30%、新日鉄70%)を設立し、ボンディングワイヤ領域に足がかりを得ている。1992年7月に各社が合併して現在の松田産業となり、1995年8月に株式を店頭登録、1999年に東証二部、2001年に一部、2022年にプライム市場へ移行した。1960年に2代目社長へ就任した松田洋氏が創業精神を企業理念へと発展させ、1988年に取締役として経営に加わり2003年に社長となった松田芳明氏が、1992年のシンガポール支店開設を皮切りにアジア各地への進出を進めた。

事業の中身は明快だ。貴金属関連事業では、半導体や電子部品の製造工程で発生する「スペックアウト品」(規格外品)を国内外のメーカーから集荷し、含まれる貴金属を回収・精製する。対象となる「鉱源」はめっき廃液、スラッジ、真空成膜装置の治具、蒸着・ターゲット材、プリント基板、切削屑、廃触媒、歯科合金、宝飾のバフ粉と幅広く、乾式製錬と湿式製錬を原料特性に応じて使い分ける。精製した地金はロンドン地金市場協会(LBMA)とロンドン・プラチナ・パラジウム・マーケット(LPPM)の公認溶解業者ブランドとして登録され、大阪取引所では金・銀・プラチナ・パラジウムの4品目が受渡供用品に指定されている。使用金地金が100%リサイクル金であることを示すUL2809認証も取得済みだ。QUICK企業価値研究所によれば、同社が2024年度にリサイクルした金は約25トンにのぼる。日本の年間の金地金需要規模から見ても大きな数字である。

食品関連事業は水産・農産・畜産の原料輸入卸で、すりみは年間約7万トンを供給し水産練り製品業界で国内トップシェア(同社推定)を持つ。貴金属相場に振られやすい事業と、生活必需品で需要が底堅い事業を組み合わせることで連結収益の安定性を確保する、というのが同社のポートフォリオ思想である。

業績は絶好調だ。2026年3月期は売上高6,878億円(前期比46.7%増)、営業利益224億円(同77.0%増)で、売上高が初めて6,000億円台に乗った。2026年度第1四半期は売上高2,086億円(前年同期比42.3%増)、営業利益103億円(同175.6%増)、経常利益109億円(同176.1%増)、四半期純利益76億円(同153.1%増)。セグメント別では貴金属関連が売上高1,777億円(同53.8%増)・営業利益92.7億円(同233.3%増)と牽引し、宝飾分野のリサイクル取扱量が減った一方でAIデータセンター向けが引っ張る電子デバイス分野が伸びた。食品関連は売上高309億円(同0.5%減)ながら価格転嫁と付加価値向上で営業利益10.4億円(同8.3%増)と改善した。8月7日には通期予想を売上高7,400億円、営業利益285億円、経常利益296億円、純利益206億円へ上方修正し、年間配当予想も100円から120円へ引き上げた。

注目すべきは、2027年3月期を初年度とする「中期経営計画2028」が最終年度の2029年3月期に掲げた営業利益280億円という目標を、初年度の会社予想(285億円)ですでに上回った点である。ROE11.0%以上、ROA10.0%以上、3カ年累計営業CF350億円という目標も、貴金属相場が現在の水準にとどまれば前倒しで届きうる。自己資本比率は2026年3月末の52.0%から6月末に59.0%へ改善し、中計が掲げる60%の目安に迫った。

強みは資源リサイクルの総合力である。回収・精製から再加工製品の販売、産業廃棄物処理までを一貫して手掛け、DOWA・AREホールディングスとの比較でも2026年3月期のROEは15.4%で3社首位、総資産回転率3.5回は他2社の1.0回を大きく上回る。過去10期の売上高CAGRは15.6%、営業利益CAGRは21.8%といずれも高い。

課題は二つある。ひとつは運転資本だ。貴金属価格の上昇は在庫と売上債権を膨らませる。前中期経営計画の4カ年累計営業CFは60億円にとどまり、2026年3月期は89億円のマイナスだった。第1四半期は棚卸資産の減少で営業CFが74億円のプラスに転じたが、この改善が続くかは相場次第である。もうひとつは、QUICK企業価値研究所がSWOT分析の「脅威」に挙げた「省金化・脱金化」だ。電子部品の複雑化で金の使用総量は増えているが、金価格が高騰すれば顧客であるメーカーは金の使用量を減らす技術開発や代替金属へのシフトを進める。金が高いことは短期の追い風だが、長期には原料そのものを細らせる。8月20日終値は6,650円、時価総額1,789億円、予想PER8.34倍、PBR1.37倍。

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DOWAホールディングス(5714)——藤田伝三郎の小坂鉱山と「難処理」の技術

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - DOWAホールディングス(5714)——藤田伝三郎の小坂鉱山と「難処理」の技術 - 章扉

DOWAグループの創業は1884年、藤田傳三郎率いる藤田組が政府から秋田県の小坂鉱山の払い下げを受けたことにさかのぼる。小坂は銅・鉛・亜鉛・金・銀などが複雑に混じり合った「黒鉱」の鉱床で、当時の技術では扱いが難しく、一度は経営が行き詰まった。ここから同社の技術的アイデンティティが生まれる。1898年に黒鉱の乾式製錬、1902年には黒鉱の自溶製錬の操業を開始し、混ざり合った鉱石から複数の金属を取り分ける技術を確立した。1937年に株式会社藤田組、1945年に同和鉱業へ改称し、2006年の持株会社移行でDOWAホールディングスとなっている。

この「複雑なものを分ける」技術が、そのまま現代の都市鉱山ビジネスの中核になった。小坂製錬のTSL炉は、廃基板や自動車の触媒、シュレッダーダストといった不純物だらけの二次原料から銅・金・銀・パラジウム・レアメタルを回収する。鉱石で難しいことをやってきた会社にとって、廃棄物は延長線上の原料である。

現在のセグメントは環境・リサイクル、製錬、電子材料、金属加工、熱処理の5部門。福田健作社長COOのもと、2026年度から中期計画2027がスタートした。テーマは「循環のクオリティを追求する。」で、2025年5月20日の公表時点では2027年度の営業利益470億円・経常利益600億円、ROA9%以上・ROE10%以上、配当性向35%かつ1株150円という目標を掲げていた。

だが実績は目標を追い越した。2026年度第1四半期は売上高2,534億円(前年同期比58.2%増)、営業利益247億円(同281.0%増)、経常利益325億円(同277.5%増)、四半期純利益235億円(同266.4%増)。部門別では製錬が売上高1,257億円(同69.4%増)・営業利益156億円(同697.1%増)と爆発した。金・銀の平均価格上昇に加え、期末にかけての銀価格下落に伴うヘッジ取引評価益、メキシコのティサパ鉱山の生産回復による持分法投資利益の増加が効いている。環境・リサイクル部門は売上高652億円(同33.1%増)・営業利益43.5億円(同9.1%増)で、溶融・再資源化の処理量と処理単価、溶融メタル販売が堅調に推移し、家電リサイクルの処理量とグループ製錬所向けリサイクル原料の集荷量が増えた。長らく赤字だった電子材料部門は、ウェアラブル機器向け近赤外LEDと受光素子、太陽光パネル向け銀粉、データ保存用テープ向け磁性粉の伸びで営業利益15.4億円と黒字転換している。会社は通期予想(売上高9,410億円、営業利益530億円、経常利益800億円、純利益570億円)を据え置いた。これも中期計画の2027年度目標を上回る水準である。

強みは、廃棄物処理から製錬、電子材料までを一気通貫で持つ「静脈の総合力」と、東南アジアでの展開である。インドネシアやタイでの廃棄物処理受注が増加しており、ASEANで回収・解体したe-scrapを日本でリサイクルするという政府の国際資源循環構想と、企業の実態が噛み合っている。前述のとおり、政府資料でも日本の静脈産業を代表する企業として名指しされている。

課題は規模と収益構造である。第1四半期の営業利益247億円のうち環境・リサイクル部門は43.5億円で、利益の大半は製錬部門と金属価格に依存している。本業であるはずの環境・リサイクルは増収33.1%に対して増益9.1%にとどまり、処理単価の改善が追いついていない。通期の純利益予想は前期比8.7%減で、これは前期に一過性の利益があったためだが、増益局面でも純利益が減るという説明のしにくさは残る。8月20日終値は9,789円、時価総額6,068億円、予想PER10.16倍、PBR1.26倍、配当利回り3.45%と7社中最も高い。2026年3月期の期末配当は普通268円に特別配当100円を加えた368円だったが、2027年3月期予想は338円と減配見通しになっている。

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三和油化工業(4125)——廃液を「分離」し、そして「混ぜる」

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 三和油化工業(4125)——廃液を「分離」し、そして「混ぜる」 - 章扉

三和油化工業は1965年3月、名古屋市で油剤・化学品の販売を目的に個人創業したことに始まる。1970年6月に法人化し、1989年12月に産業廃棄物処分業の許可を取得して、化学品の売り手から「使い終わった化学品の引き取り手」へと事業の重心を移した。愛知県刈谷市に本社を置き、東証スタンダード市場と名証メイン市場に上場している。自動車産業の集積地で溶剤や油剤を扱ってきた歴史が、そのまま静脈事業の出発点になった珍しい会社である。

同社が掲げるコア技術は「分離・高純度化」と「混ぜる」の二つだ。前者からは有機溶剤の蒸留リサイクル、貴金属・レアメタルのリサイクル、溶媒抽出による混酸の分離回収という三つの事業が生まれ、後者からは混合エマルジョン化・混練によるサーマルリサイクルが生まれた。半導体や電池の製造工程から出る廃液には、銅、タングステン、インジウム、リン酸、フッ酸などが混じり合った状態で含まれている。それを取り分けて高純度化し、再び半導体・電子機器・電池向けの副資材として売る——この会社は、他社が「処理費をもらって処分するもの」と見ている液体を、原料として買っている。

2026年3月期は売上高202.63億円(前期比26.3%増)、営業利益15.43億円(同84.6%増)、営業利益率7.6%と、前期から2.4ポイント改善した。2025年10月1日に金属マテリアルリサイクルを手掛けるエー・アンド・エイチ・ジャパンを7億円で子会社化したことにより、貴金属・レアメタルの再資源化取扱量が大きく増えている。2026年度第1四半期は売上高64億円(前年同期比61.7%増)、営業利益6.91億円(同210.1%増)と急伸した。九州拠点では、エア・ウォーター・マテリアルとの共同出資会社サンワマテリアルソリューションズ(三和65%)を通じて北九州工場を建設中で、投資額は当初の60億円から80億円に増額されている。

強みは、規模を追わずに「他社が扱いたがらないもの」に特化していることだ。混ざった酸、不純物の多い廃液、少量多品種の廃薬品は、大手製錬所の原料としては扱いにくい。そこを取りにいく専業者として、半導体・電池という成長産業の廃棄物フローに食い込んでいる。政府の循環経済行動計画が支援対象に挙げた「リチウムイオン電池の再資源化のための無害化・解体施設」「都市鉱山からのレアメタル、レアアース等の製錬・分離精製」は、まさにこの会社の事業領域である。

課題は明確に規模である。時価総額164億円は、7社のなかで桁がひとつ以上小さい。政府が「日本の資源循環産業は地域ごとに小規模分散化しており、高度リサイクルへの投資も進んでいない」「製造業と長期・大口契約を結べるような、競争力のあるリサイクラーが少ない」と書いたときに想定されているのは、まさにこの層である。設備投資の負担は相対的に重く、北九州工場の20億円の増額が示すように、建設コストの上振れは中小規模の事業者ほど直撃する。8月20日終値は3,800円、予想PER14.92倍、PBR1.19倍。年初来では1月5日の2,275円から8月17日に4,100円の高値を付けており、7社のなかで唯一、直近が年初来高値圏という値動きになっている。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 三和油化工業(4125)——廃液を「分離」し、そして「混ぜる」 - 図表1

AREホールディングス(5857)——写真の定着液から北米の金銀精錬へ

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - AREホールディングス(5857)——写真の定着液から北米の金銀精錬へ - 章扉

同社のルーツは1964年4月、大阪市城東区で設立された朝日化学研究所にある。写真の定着廃液の回収と銀地金の精錬・販売、写真用薬品・材料の販売が創業事業だった。写真の現像に使う定着液には、フィルムから溶け出した銀が溶け込んでいる。それを回収して地金にする——松田産業の創業と同じ発想が、およそ30年後に大阪で立ち上がった。1973年12月には写真関連の廃棄物処理業者として全国で初めて神戸市の許可を受け、産業廃棄物処理事業に日本で先駆けて参入する。ここで「貴金属を取る」事業と「廃棄物を処理する」事業の二本立てが固まった。1983年11月には銀地金がロンドン金属取引所の公認ブランドに認定され、1997年にアサヒプリテックへ商号変更、2002年に東証一部へ上場。2009年4月、アサヒプリテックとジャパンウェイストの共同株式移転でアサヒホールディングスが設立された。

転機は海外である。2015年3月に北米の金銀精錬事業を取得し、ソルトレイクシティとカナダのブランプトンを拠点とするアサヒリファイニングとしてグループに加えた。この事業は鉱山から出る粗金・粗銀を精錬するもので、都市鉱山とは逆方向の「一次原料」の精錬だが、精錬という装置産業のスケールを一気に世界水準へ引き上げた。2019年には米マイアミのリパブリック・メタルズ・コーポレーショングループを買収している。そして2023年、貴金属の回収と精錬を分けるグループ内の事業再編を経て、7月1日付でAREホールディングスへ商号変更した。ARE はAsahi(アサヒ)、Resources(資源)、Environment(環境)の頭文字である。アサヒグループホールディングス(2502)との混同が投資家の間で続いていたことも、改称の理由のひとつだった。

現在のセグメントは貴金属事業と環境保全事業の二つ。貴金属事業はエレクトロニクス、宝飾、触媒、歯科、家電リサイクルなど幅広い分野から使用済み貴金属を回収・精製し、産業用貴金属材料として供給する。環境保全事業は廃棄物の収集運搬から無害化処理、再資源化までを担う。

2026年3月期は売上収益5,700億円(前期比12.6%増)、営業利益371億円(同85.6%増)と大幅増益になった。2026年度第1四半期は売上収益1,972億円(前年同期比43.8%増)、営業利益122.6億円(同106.8%増)、親会社帰属四半期利益86.1億円(同136.6%増)。エレクトロニクス分野と触媒分野の回収量増加と採算改善に加え、北米精錬関連事業で鉱山からの原料投入が増えたことが効いた。通期予想(売上収益6,800億円、営業利益410億円)は据え置いている。2024年4月に公表した中長期ビジョンでは2030年度を見据え、連結営業利益の継続的拡大とROEの向上、2030年度までにCO2排出量を2023年度比42%削減することを掲げ、北米での精錬設備増強とアジア地域での工場建設、AI関連の電子・半導体分野への対応強化を打ち出している。

強みは、鉱山由来と都市鉱山由来の両方を精錬できる世界トップレベルの精錬規模と、それを支えるグローバル拠点網である。松田産業との比較では2026年3月期の営業利益率6.5%が3社中最高で、財務レバレッジ3.1倍を効かせた資本効率型のモデルになっている。課題はその裏返しで、レバレッジが高いぶん相場の逆回転に弱い。株価の振れ幅もそれを反映しており、8月20日終値3,755円は前日比7.13%高だが、年初来では3月2日の4,720円から6月26日の2,838円まで4割下げたあとの戻り局面にある。時価総額3,261億円、予想PER11.13倍、PBR1.43倍、配当利回り3.60%。金相場が動いた日に最も大きく動く銘柄のひとつであり、それは事業の性質そのものである。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - AREホールディングス(5857)——写真の定着液から北米の金銀精錬へ - 図表1

投資家とVCはどこに賭けているか

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 投資家とVCはどこに賭けているか - 章扉

7社を投資家の目線で横に並べると、評価の落差が際立つ。2026年8月20日終値ベースで、予想PERはJX金属24.01倍、三和油化工業14.92倍、住友金属鉱山13.25倍、AREホールディングス11.13倍、DOWA10.16倍、松田産業8.34倍、三菱マテリアル4.99倍。PBRはJX金属5.36倍を頂点に、ARE1.43倍、松田産業1.37倍、住友金属鉱山1.34倍、DOWA1.26倍、三和油化1.19倍と続き、三菱マテリアルは0.90倍で1倍を割っている。

同じ「都市鉱山」というテーマの下にいながら、市場はJX金属を半導体材料株として、三菱マテリアルを市況株として値付けしている。両社が中期計画で語っている戦略の方向——一次原料を絞って二次原料へ寄せる——はほとんど同じであるにもかかわらず、である。この差は、フォーカス事業のような「相場から切り離された高収益の柱」を投資家に見せられているかどうかで説明がつく。JX金属のフォーカス事業は営業利益率17%へ向かい、三菱マテリアルは2028年度でROE8%を目標にしている。二次原料製錬の収益貢献が本格化するのは2029年以降だと同社自身が説明しており、市場はそれを織り込みに行っていない。裏を返せば、三菱マテリアルのPBR0.90倍は、欧米の二次原料製錬所の投資判断とその執行が、この会社の再評価トリガーになりうることを示している。

海外のリスクマネーは、この領域にはっきりと張っている。バッテリーリサイクル最大手のレッドウッド・マテリアルズは、テスラ共同創業者のJ.B.ストラウベル氏が率い、2026年1月にシリーズEを総額4億2,500万ドル(約672億円)でクローズし、企業価値は60億ドル(約9,480億円)を超えた。エクリプスがリードし、アルファベット傘下のグーグル、キャプリコーン、ゴールドマン・サックス・オルタナティブズに加え、NVIDIAのベンチャー部門であるNVenturesが新規に参加している。AI半導体の親玉が、電池リサイクルに出資しているという構図そのものが、この産業の位置づけを物語る。

レアアース磁石のリサイクルを手掛けるカナダのサイクリック・マテリアルズは、2026年1月23日に7,500万ドル(約119億円)のシリーズCをクローズした。リードはT・ロウ・プライスで、マイクロソフト、アマゾン、カナダ・グロースファンド、日立ベンチャーズ、BMW i Ventures、ジャガー・ランドローバーのInMotion、エナジー・インパクト・パートナーズ、アークターン・ベンチャーズ、フィフス・ウォールが名を連ねる。2023年の2,700万ドル(約43億円)のシリーズA、2024年の5,300万ドル(約84億円)のシリーズBから、資金の出し手が事業会社と資産運用会社の混成へと変わってきたことが読み取れる。

一方で、この領域が難しいことを示す事例もある。カナダのLi-Cycleは2025年5月にカナダの会社債権者調整法(CCAA)に基づく債権者保護と米連邦破産法チャプター15の適用を申請し、8月8日付でグレンコアが約4,000万ドル(約63億円)で資産を取得した。グレンコアは2022年に2億ドル、2024年に7,500万ドル、合わせて2億7,500万ドル(約435億円)を投じていた。破綻の直接の原因はニューヨーク州ロチェスターの中核工場で、当初5億6,000万ドル(約885億円)とされた建設費が10億ドル(約1,580億円)近くまで膨らみ、ついに稼働しなかった。リサイクルは技術の問題であると同時に、装置産業としての建設・運営の問題である——この教訓は、いま欧米で二次原料製錬所を建てようとしている三菱マテリアルにも、北九州工場の投資額を60億円から80億円へ増額した三和油化工業にも等しく当てはまる。

対照的に、電気化学的な抽出技術を持つ米マサチューセッツ州のNth Cycleは、2026年3月に資源商社のトラフィギュラと10年・約11億ドル(約1,740億円)規模の精製バッテリーメタル供給契約を結んだ。累計調達額が5,970万ドル(約94億円)にすぎない会社が、商社との長期オフテイク契約で資金調達構造そのものを変えた形である。供給元となるサウスカロライナとオランダの2拠点は2028年の稼働を予定する。

政府マネーの流れも変わった。米国では2025年7月、MP Materialsが国防総省と12億5,000万ドル(約1,975億円)規模のパートナーシップを結び、4億ドル(約632億円)の優先株出資で国防総省が同社の筆頭株主になった。2026年2月には北テキサスで「10X」磁石製造キャンパスの建設を開始している。磁石リサイクルのHyProMag USAは、ダラス・フォートワース地域の拠点整備に向けて米輸出入銀行(EXIM)から最大9,200万ドル(約145億円)の融資を追求している。重要鉱物のリサイクルは、もはやESGファンドの投資対象ではなく、安全保障予算の対象である。

日本のスタートアップでは、日本原子力研究開発機構発のエマルションフローテクノロジーズが注目されている。同社は核燃料再処理の研究から生まれた「エマルションフロー法」という溶媒抽出技術を持ち、使用済みリチウムイオン電池に含まれるリチウム・コバルト・ニッケルを低コスト・低環境負荷で高純度に分離回収する装置を開発している。2024年10月にはValue Chain Innovation Fundをリード投資家とするシリーズBで、日本政策金融公庫からの融資3億円を含む合計13億5,000万円を調達した。分離精製という、日本の非鉄大手が最も得意とし、かつ最も設備集約的な工程を、装置として外販できる形に切り出そうとしている点が、この会社の投資テーマである。

上場企業側では、事業会社が自らVC的な動きをしている点も見逃せない。JX金属と三菱商事のJX金属サーキュラーソリューションズ、三菱マテリアルによるExurbanへの出資、欧州のElemental Groupとの提携とその米国E-Waste・ITAD事業の取得、米コルト・リサイクリングとの協業はいずれも、集荷というボトルネックを資本で押さえにいく動きである。IEAは2050年に重要鉱物のリサイクル市場が約2,000億ドル(約31.6兆円)規模に成長する可能性を指摘し、各国の気候公約が実現するシナリオでは、リサイクルによって2050年までに銅とコバルトの新規鉱山開発ニーズを40%、リチウムとニッケルを25%削減できるとしている。「掘らずに済ませる」ことの経済価値が、はじめて定量化されつつある。

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 投資家とVCはどこに賭けているか - 図表1都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 投資家とVCはどこに賭けているか - 図表2

今後——2026年秋から2030年までに何が計測されるか

都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 今後——2026年秋から2030年までに何が計測されるか - 章扉

この産業で次に何が起きるかは、比較的はっきりしたカレンダーになっている。

最も近いのが2026年10月1日の銅原料事業4社統合である。JX金属32.50%、三菱マテリアル32.00%、三井金属21.90%、丸紅13.60%という新体制でPPCが銅精鉱の買鉱と電気銅等の販売を担い、日本の銅製錬は事実上ひとつの交渉窓口を持つことになる。各社にとっては持分法適用会社化に伴う会計上の変化と、2027年積み買鉱交渉での成果が、最初の答え合わせになる。

その翌月、2026年11月に中国が米中協議を受けて停止しているレアアース関連の再輸出規制の期限が来る。延長されるのか、失効して再発動されるのか、あるいは別の形で置き換わるのか。IEAが「全面実施されれば中国域外の年間6.5兆ドルの川下生産がリスク」と警告した措置であり、日本の磁石・半導体材料メーカーにとっては最大の外部変数である。あわせて、EUの改正廃棄物輸送規則では2026年11月21日から非OECD国向けのプラスチック廃棄物輸出が禁止され、2027年5月21日には輸出関連規定が本格適用される。三菱マテリアルが欧州に二次原料製錬所を建てようとしている理由が、そのまま期限として設定されている。

企業側の予定も詰まっている。JX金属はInP基板の増強を2026年度下期から順次立ち上げ、磯原工場の磁性材ターゲットも2026年度下期に1.2倍化する。住友金属鉱山のリチウムイオン電池リサイクルプラントは2026年中頃の完成予定で、稼働すれば国内初の「Battery to Battery」水平リサイクルが商用ラインに乗る。三菱マテリアルは直島のE-Scrap処理量を2026年度内に11万トンから14万トンへ引き上げる。田中CEOが2025年11月に「来年の中ほど」と述べた欧州・米国の二次原料製錬所の投資判断は、その期限が目前に迫っている。UBE三菱セメントは2026年7月1日の上場申請を経て、審査を通れば年内にも上場する。

2027年に入ると、NTTが1〜3月にCPOの商用サンプル提供を始め、光電融合はいよいよ収益化フェーズに入る。JX金属の半導体用ターゲットは日本1.3倍・台湾1.4倍・韓国2倍の増強が2027年度から順次立ち上がり、佐賀関のE-scrap処理能力5割増は2027年度下期の稼働を予定する。米国では銅原料の国内販売要件が2027年に25%から始まり、2028年30%、2029年40%と上がっていく。

そして2030年。政府は循環経済行動計画で、国内で生産される電解銅の約3割をe-scrapや銅スクラップ等の再生資源由来にすると宣言した。永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄い、アルミ展伸材の国内生産量の約4割を再生原料由来にし、鉄スクラップを高品位化する処理能力を年約200万トン追加確保する。そのために2030年までに官民で約1兆円を投じる。三菱マテリアルのE-Scrap処理量は2030年度に24万トン、2035年度に33万トンへ。JX金属の佐賀関はリサイクル原料比率を2028年度に25%、2040年度に50%以上へ。

これらの数字が達成されるかどうかは、技術ではなく集荷で決まる可能性が高い。日本のE-scrap輸入は2026年2月時点で月間1万7,577トンと前年同月比101%の水準にとどまり、EUと米国が域内処理へ舵を切れば、輸入に依存した供給は細る。国内では小型家電の回収量が年間14万トンの目標に届いていない。政府資料が指摘したとおり、日本の資源循環産業は地域ごとに小規模分散しており、製造業と長期・大口契約を結べる競争力のあるリサイクラーが少ない。炉を増やしても、入れるものがなければ意味がない。

7社の第1四半期決算が示したのは、金属価格と円安が同時に効いたときの利益の跳ね方である。JX金属の営業利益2.8倍、三菱マテリアルの黒字転換、住友金属鉱山の税引前利益3.1倍、DOWAの営業利益3.8倍、松田産業の営業利益2.8倍、AREホールディングスの営業利益2.1倍、三和油化工業の営業利益3.1倍。だがこれらはいずれも、相場が戻れば剥がれる利益でもある。三菱マテリアルがPBR0.90倍に据え置かれているのは、市場がその区別をつけているからだ。この産業が本当に再評価されるのは、相場が反転しても二次原料の処理量と単価で稼げることが数字で示されたときであり、その最初の検証は、統合後のPPCが2027年積み買鉱交渉に臨む2026年末から2027年初にかけて訪れる。


都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 今後——2026年秋から2030年までに何が計測されるか - 図表1都市鉱山から採掘せよ。JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)、松田産業(7456)、DOWAホールディングス(5714)、三和油化工業(4125) 、 アサヒH(5857) - 今後——2026年秋から2030年までに何が計測されるか - 図表2