オラクルとは何の会社か——まず全体像を押さえる

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オラクル(Oracle Corporation、NYSE: ORCL)を一言で説明するなら、「世界中の銀行・航空会社・政府機関の基幹システムの下で、数十年にわたってデータを保管し続けてきた会社」である。銀行のATMで残高を照会したとき、航空券を予約したとき、健康保険証を病院の窓口で通したとき——その裏側で動いているデータベースの相当部分が、オラクルのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)だ。

RDBMSとは、データを「表(テーブル)」の形で保管し、SQLという問い合わせ言語で自在に取り出せるようにしたソフトウェアを指す。オラクルはこの分野を1979年から支配してきた。重要なのは、その支配が「乗り換えにくさ」によって支えられている点である。企業の勘定系システムはオラクルのデータベースを前提に何十万行ものコードが書かれており、別製品に移すには数年と数十億円がかかる。だから顧客は毎年、購入したライセンス価格の22%前後を「サポート料」として払い続ける。この保守収入は解約率が極めて低く、オラクルの長年の利益の源泉だった。

その上に、オラクルは買収で応用ソフトの層を積み上げてきた。人事給与のPeopleSoft、営業支援のSiebel、中堅企業向けクラウドERPのNetSuite、そして電子カルテのCernerである。さらに2010年のSun Microsystems買収で、プログラミング言語Java、オープンソースデータベースMySQL、そしてサーバー・ストレージのハードウェア事業まで抱え込んだ。データベース専用機「Exadata」——データベースを高速に動かすためだけに設計されたハードとソフトの組み合わせ——は、この垂直統合の象徴である。

2026年5月期(FY2026、2025年6月〜2026年5月)の売上高は674億ドル(約10.6兆円)、前年比17%増。うちクラウドが340億ドル(約5.3兆円)で全体の半分を超えた。ここまでは「クラウドに移行しつつある老舗ソフト企業」という、ありふれた説明で足りる。しかし2025年以降のオラクルを説明するには、まったく別の語彙が必要になった。ギガワット、GPU、受注残、そして社債である。


主要な製品とサービス——OCI、AI Database、SaaS、マルチクラウド

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現在のオラクルの製品群は、大きく4つの層に分けて理解するのが分かりやすい。

第一の層が Oracle Cloud Infrastructure(OCI) である。AWSやMicrosoft Azureと同じ、仮想サーバーやストレージを時間貸しするパブリッククラウドだ。オラクルは2010年代半ばにAWS出身のエンジニアを集め、「第2世代クラウド」としてゼロから設計し直した後発組で、長らく市場シェアは数%にとどまっていた。ところが2023年以降、この後発ゆえの設計判断——具体的には、GPU同士を極低遅延で接続するRDMA(Remote Direct Memory Access)ネットワークを最初から標準装備したこと——がAI学習用途で決定的な強みになった。オラクルはGPU間レイテンシを最小2.5マイクロ秒と公表し、13万1,072基のGPUを単一のネットワークで束ねる「Zettascale」構成を提供している。2025年10月に発表した次世代の「OCI Zettascale10」は、複数データセンターにまたがって最大80万基のNVIDIA GPUを接続し、ピーク16ゼタFLOPSを狙う設計だ。

第二の層が データベース製品 である。2025年10月のイベントで、オラクルは主力製品の名称を「Oracle Database 23ai」から「Oracle AI Database 26ai」へ改めた。中身の主眼はベクトル検索の統合だ。従来のRDBMSは「請求書番号が12345の行を探す」という完全一致の検索が得意だったが、生成AIの時代に必要なのは「この契約書と意味が似た文書を探す」という曖昧な検索である。26aiはベクトルを標準のデータ型として扱い、業務データと意味検索を同じSQLの中で結合できる。自然言語の質問をSQLに翻訳する「Select AI」も同梱される。

第三の層が SaaS(クラウド応用ソフト) で、大企業向けの「Fusion Cloud Applications」と中堅企業向けの「NetSuite」の二本柱だ。FY2026のSaaS売上は159億ドル(約2.5兆円)、成長率は11%と、インフラ側の77%と比べれば穏やかである。ここでの主戦場は「AIエージェント」——請求書の督促や財務分析を自動で回すソフトの部品——であり、オラクルは100種類以上のエージェント機能を追加料金なしで提供する戦術をとった。2026年7月30日には、Google CloudとGeminiモデルをFusionとNetSuiteに組み込む提携拡大を発表している。対象はGemini 3.1 Flash LiteとGemini 3.5 Flashで、顧客は他社モデルも引き続き選べる。

第四の層が、投資家目線で最も過小評価されている マルチクラウド・データベース である。これは「オラクルのデータベースを、AWS・Azure・Google Cloudのデータセンターの中に物理的に置く」という、かつてのオラクルならば考えられなかった製品だ。顧客は基幹データをオラクルDBのまま維持しつつ、AWSやAzureのAIサービスから低遅延でアクセスできる。FY2026第4四半期のマルチクラウドAIデータベース売上は前年同期比404%増で、共同CEOのマイク・シシリア氏は同四半期の受注も325%増だったと決算説明会で述べている。ラリー・エリソン会長は、データベース事業を5年で200億ドル(約3.1兆円)規模に育てられると語ってきた。設備投資をほとんど伴わず、粗利率が高い。GPU賃貸業とは対極の性質を持つ事業が、同じ屋根の下で最速で伸びている点は記憶しておく価値がある。


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数字で見たピボット——FY2026決算が示した会社の変質

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2026年6月10日、オラクルは2026年5月期通期決算を発表した。表面の数字はどれも「過去最高」である。通期売上674億ドル(約10.6兆円、+17%)、クラウド売上340億ドル(約5.3兆円、+39%)、うちインフラ(IaaS)181億ドル(約2.8兆円、+77%)。第4四半期単独ではIaaSが58億ドル(約9,100億円)で93%増と加速した。非GAAP営業利益は289億ドル(約4.5兆円)、非GAAP EPSは7.631ドルで27%増。

しかし決算資料を数ページめくると、この会社が別の生き物になっていることが分かる。FY2026の設備投資は557億ドル(約8.7兆円)で、前年の212億ドルから2.6倍に膨らんだ。営業キャッシュフローは54%増の320億ドル(約5.0兆円)と絶好調だったが、それを設備投資が丸ごと飲み込み、フリーキャッシュフローはマイナス237億ドル(約3.7兆円)に沈んだ。決算資料に付された4四半期移動ベースの推移を見ると、FCFは2025年5月期にマイナス3億9,400万ドルで赤字転落した後、四半期を追うごとに赤字幅を広げ、一度も黒字に戻っていない。

バランスシートの変化はさらに劇的だ。有形固定資産は435億ドルから1,000億ドル(約15.7兆円)へ2.3倍になり、オペレーティングリース資産は131億ドルから297億ドルへ増えた。有利子負債は流動・非流動合わせて1,295億ドル(約20.3兆円)。株主資本は431億ドル(約6.8兆円)にすぎない。第4四半期の支払利息だけで14億ドル(約2,200億円)、前年同期比47%増である。総資産2,618億ドルのうち約4割がデータセンターとサーバーという、ソフトウェア企業とは呼びがたい姿になった。

そして最も注目を集めた数字が、受注残高を示すRPO(Remaining Performance Obligations、残存履行義務)である。第4四半期末で6,380億ドル(約100兆円)、前年比363%増、前四半期からの3か月だけで850億ドル(約13.3兆円)積み上がった。年間売上の9.5倍の受注を抱えている計算になる。共同CEOのクレイ・マグイヤーク氏は決算説明会で「当四半期にAIインフラ契約を670億ドル(約10.5兆円)締結した。その大半は顧客持ち込みハードウェアか前払いによるものだ」と説明した。

この「顧客持ち込みか前払い」という構造がFY2026後半のオラクルの発明である。プレスリリースによれば、大型AI契約のうち前払い分と顧客供給ハードウェア分は合計750億ドル(約11.8兆円)に達し、「オラクルがAIデータセンター構築のために調達すべき資本を大幅に削減する」と明記された。スタートアップが年間前払いで運転資本を賄うのと同じ発想を、数兆円規模で実行していることになる。

FY2027(2026年6月〜2027年5月)のガイダンスは、売上900億ドル(約14.1兆円)、非GAAP EPS 8.05ドル。設備投資は総額900億〜950億ドル(約14.1兆〜14.9兆円)を見込み、顧客前払い200億〜250億ドルを差し引いた正味の現金支出を約700億ドル(約11兆円)としている。つまりFY2027は、売上とほぼ同額を設備投資に注ぎ込む年になる。


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誰が買っているのか——顧客の顔ぶれと契約の中身

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オラクルは通常、顧客名を個別開示しない。ところが2026年2月1日に公表した暦年2026年の資金調達計画のプレスリリースでは、資金使途を説明するために契約済み顧客を実名で列挙した。AMD、Meta、NVIDIA、OpenAI、TikTok、xAIの6社である。

このうち圧倒的に大きいのがOpenAIだ。2025年9月、OpenAIはオラクルから5年間で3,000億ドル(約47兆円)の計算資源を購入する契約を結んだと報じられた。所要電力は4.5ギガワット、開始は2027年からとされる。これはStargate——OpenAI、オラクル、ソフトバンクグループが2025年に発表したAIインフラ構想——の中核をなす契約である。

問題は集中度だ。S&Pグローバル・レーティングは2026年7月9日の格下げリポートで、6,380億ドルのRPOの「およそ半分」がOpenAI関連だと指摘した。DA DavidsonのGil Luria氏は「オラクルは、この顧客が支払えるかどうか極めて不確実な状況で、この顧客のために巨額を借りて容量を作らなければならない苦しい立場にある」と述べている。

OpenAI側の財務も見ておく必要がある。同社は2026年3月31日、1,220億ドル(約19.2兆円)を調達し、ポストマネー評価額8,520億ドル(約134兆円)としたことをBloombergなどが報じた。Amazonが500億ドル、NVIDIAとソフトバンクグループがそれぞれ300億ドルを拠出している(Amazonの投資のうち350億ドルはIPOまたはAGI到達を条件とする)。OpenAIは月次売上20億ドル(年換算240億ドル、約3.8兆円)を公表しており、CNBCは2026年末までのIPO準備を報じている。一方で2026年の現金燃焼は約270億ドル(約4.2兆円)、2027年は約630億ドル(約9.9兆円)に達するとの推計が複数のメディアで流通している。要するに、オラクルの最大の資産は、自らも資本市場へのアクセスに依存する顧客の支払い能力である。

顧客の顔ぶれの中で、Metaとの契約は2025年9月19日にBloombergとReutersが「約200億ドル(約3.1兆円)規模で交渉中」と報じ、同年10月16日にオラクル自身が契約の存在を認めた案件である(金額は非開示)。イーロン・マスク氏のxAIにはユタ州の施設から計算資源を供給している。

企業顧客以外では米政府が急速に存在感を増した。2026年7月23日、米国防総省はオラクルと10年最大69億ドル(約1.08兆円)のソフトウェア統合契約を締結したと発表した。最初の5年で33億ドル(約5,180億円)、延長オプションで36億ドルが上乗せされる構成で、国防総省・沿岸警備隊・情報コミュニティ全体を対象とし、個別購入と比べ最低4億4,100万ドル(約692億円)の節約になると説明されている。2026年2月には空軍のCloud Oneプログラム向けに8,800万ドル(約138億円)のタスクオーダーを、5月には機密ネットワーク上でのAI展開に関する合意を受注している。

TikTokは特殊な位置づけだ。2026年1月22日にTikTok USDSの合弁会社が発足し、オラクル、Silver Lake、アブダビのMGXがそれぞれ15%、ByteDanceが19.9%を保有する構成となった。オラクルは米国ユーザーデータの保管とセキュリティ監視を担う。同社の3月11日提出書類によれば、この持分の評価額は約20億ドル(約3,140億円)である。

日本では2024年4月に発表した10年80億ドル(約1.26兆円)の投資枠が土台にある。2026年4月15日、共同CEOのマイク・シシリア氏は高市早苗首相と官邸で面会し、日本経済新聞に対し「クラウドとAIコンピューティングで追加投資を検討している」と語った(具体的な金額の提示はなし)。ソフトバンク、富士通、NTTデータがソブリンクラウド/データ主権対応で連携する。日本オラクルのFY2026売上は前年比8.2%増の2,850億円で過去最高を更新した。


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業界の状況と競合——3強、ネオクラウド、そしてオラクルの位置

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クラウドインフラ市場の勢力図は、AI以前と以後で構造が変わりつつある。Synergy Research Groupの集計では、2026年第1四半期の世界クラウドインフラ支出は1,290億ドル(約20.3兆円)で前年同期比35%増、9四半期連続で伸び率が加速した。シェアはAWSが28%、Microsoft Azureが21%、Google Cloudが14%。オラクルは依然として大差の4番手グループにいる。同社の集計では、CoreWeaveやNebiusといった「ネオクラウド」が既に市場全体の5%を占め、AI特化領域ではさらに高い比率に達している。

しかし全体シェアという数字は、いまのオラクルを説明する指標としては役に立たなくなっている。AI学習用のGPUクラスタは、汎用クラウドとは購買主体も契約形態も違うからだ。従来のクラウドは何万社もの企業がクレジットカードで従量課金するロングテール市場だが、AI学習インフラは十数社のフロンティアAI企業が数年・数兆円単位で一括契約する寡占的な卸売市場である。オラクルが選んだのは後者だった。

この卸売市場でオラクルが競う相手は、AWS・Azure・Google Cloudだけではない。CoreWeaveやNebiusといった「ネオクラウド」——GPU貸しに特化した新興事業者——が同じ顧客を奪い合っている。CoreWeaveの2026年第1四半期売上は21億ドル(約3,300億円)で112%増、受注残は1,000億ドル規模に接近した。Nebiusは同3億9,900万ドル(約627億円)で684%増である。Microsoftは CoreWeave・Nebius・Nscaleと総額約600億ドル規模、MetaはCoreWeaveと352億ドル、Nebiusと最大270億ドルの契約を結んでいる。つまり、ハイパースケーラー自身がネオクラウドから容量を買う「又貸し」構造が常態化しており、オラクルもその一角を占める。

そして真の希少資源は、いまやGPUではなく電力になった。CoreWeaveは2026年末までに1.7ギガワットの稼働電力を目標に掲げ、Nebiusは最大1ギガワットの接続容量を狙う。オラクルはFY2026に1.2ギガワット超を顧客に引き渡し、FY2027第1四半期だけで1ギガワット近く——過去4四半期の合計にほぼ匹敵する量——を予定している。電力調達では2026年4月14日にBloom Energyと最大2.8ギガワットの固体酸化物燃料電池を調達する基本契約に拡大し、うち1.2ギガワットが契約済みとなった。系統接続の待ち行列を迂回してオンサイト発電で立ち上げる戦術である。

一方、伝統的な牙城であるデータベースと業務ソフトでも競争は続いている。分析基盤ではSnowflakeやDatabricks、オープンソースではPostgreSQLが浸食を進める。医療分野のOracle Health(旧Cerner)は米国の急性期電子カルテ市場で22.9%と、Epicの42.3%に大きく水をあけられている。オラクルは2026年3月31日に同部門の約30%を削減する一方、決算リリースでは「Cernerの完全な新AI版」を投入しFY2027にOracle Health全体を二桁成長に戻すと表明した。


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創業から現在までの歩み——1977年のSDLからGPUの大家まで

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1977年6月16日、カリフォルニア州サンタクララで、ラリー・エリソン、ボブ・マイナー、エド・オーツの3人がSoftware Development Laboratories(SDL)を設立した。3人はAmpex社で、CIAから受注した5万ドル(約785万円)のデータベース案件に関わっていた。そのプロジェクトのコードネームが「Oracle」——何を尋ねても答えを返す神託、という意味である。

3人が着目したのは、IBMの研究者エドガー・F・コッドが1970年に発表したリレーショナルモデルの論文だった。IBM自身は既存製品との競合を恐れて製品化を急がなかった。SDLは1979年、商用として世界初のSQL対応RDBMS「Oracle Version 2」を出荷する。バージョン1が存在しないのは、「最初のバージョンは誰も買わない」と考えた創業者たちのマーケティング判断による。社名は1979年にRelational Software, Inc.(RSI)へ、1983年に主力製品名に合わせてOracle Systems Corporationへと改められた。

1986年3月12日に株式を公開。1989年にカリフォルニア州レッドウッドショアーズへ本社を移し、1990年代を通じてクライアント・サーバー時代のデータベース標準の座を固めた。2000年代に入ると、エリソン氏は業界再編の主役に転じる。18か月に及ぶ敵対的買収の末に2005年にPeopleSoftを103億ドル(約1.6兆円)で、2006年にSiebel Systemsを58.5億ドル(約9,190億円)で、2008年にBEA Systemsを85億ドル(約1.33兆円)で、2010年にSun Microsystemsを74億ドル(約1.16兆円)で手中に収めた。2016年にNetSuiteを93億ドル(約1.46兆円)、2022年にCerner を283億ドル(約4.4兆円)で買収し、後者は同社史上最大の買収となった。

経営体制の面では、2014年にエリソン氏がCEOを退いて会長兼CTOとなり、サフラ・キャッツ氏がCEOに就任した。本社は2020年12月にテキサス州オースティンへ、2024年4月にはテネシー州ナッシュビルへの移転が発表されている。

転換点は2024年から2025年にかけて訪れた。生成AIの学習需要が爆発し、後発ゆえに大規模GPUクラスタ向けに最適化されていたOCIが、OpenAIやxAIといった顧客の受け皿になった。2025年9月9日のFY2026第1四半期決算でRPOが4,550億ドル(359%増)に跳ね上がると、翌10日の株価は1992年以来最大の日次上昇率を記録して史上最高値345.72ドルを付けた。この1日でエリソン氏の資産は890億ドル増え、Bloombergビリオネア指数上で一時イーロン・マスク氏を抜いて世界一の富豪となった(終値ベースでは3,830億ドルで、マスク氏の3,840億ドルにわずかに届かなかった)。

同月22日、オラクルは経営陣を刷新する。OCI部門を率いてきたクレイ・マグイヤーク氏(2014年にAWSから入社)と、業界別アプリケーションを率いたマイク・シシリア氏の2人が共同CEOに就任し、キャッツ氏は取締役会のエグゼクティブ・バイスチェアへ移った。エリソン氏は会長兼CTOに留任している。2026年4月6日には、シュナイダーエレクトリックのグループCFOだったヒラリー・マクソン氏をCFOに迎えた。電力機器大手で年商450億ドル超の財務を統括していた人物を、データセンターと電力への巨額投資を管理する最高財務責任者に据えた人事である。

そして人員は減った。FY2026末(2026年5月31日)時点の従業員数は14万1,000人で、1年前の約16万2,000人から2万1,000人(13%)減少した。退職金など再編費用は18億4,000万ドル(約2,890億円)を計上している。年次報告書には「AI技術の導入と展開が、当社の人員削減をもたらしており、今後も継続する可能性がある」と記された。


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資金調達という新しい競技——社債、優先株、ATM、そしてSPV

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粗利70%のソフト会社は、資金調達をほとんど必要としない。設備投資が売上と同規模になったオラクルは、いまや半分ファイナンス会社である。

FY2026にオラクルが調達したのは負債430億ドル(約6.8兆円)と株式50億ドル(約7,850億円)。2025年9月には180億ドル(約2.8兆円)規模の起債を行い、テック業界でも屈指の大型債となった。2026年2月1日には暦年2026年の資金調達計画を公表し、総額450億〜500億ドル(約7.1兆〜7.9兆円)のうち約半分を株式・株式性証券で賄う方針を示した。株式サイドはシティグループ、債券サイドはゴールドマン・サックスが主幹事を務める。

その具体策の第一弾が、2026年2月5日に発行した50億ドル(約7,850億円)の6.50%強制転換型優先株である。転換価格は約200.08ドル。加えて最大200億ドル(約3.1兆円)のATM(市場価格での随時株式発行)プログラムを設定した。FY2027には約400億ドル(約6.3兆円)を負債と株式で調達する計画で、そこにこのATMが含まれる。決算リリースは「暦年2026年中の追加の社債発行は想定していない」と明記した。

さらに重要なのが、貸借対照表に載らない部分である。オラクルは、データセンターを自社で建てる代わりに、開発事業者と金融機関が組成する特別目的会社(SPV)に建てさせ、完成後に長期リースで借りる方式を多用している。アビリーンのOpenAI向け施設ではBlue OwlとJPモルガンが約130億ドルを投じ、テキサスとウィスコンシンの2施設には380億ドル、ニューメキシコの1施設には180億ドルの融資が付いた。ミシガン州セイラインタウンシップの案件では、2025年12月にBlue Owlが降板した後、2026年4月24日にRelated DigitalとBlackstoneが160億ドル(約2.5兆円)の資金調達をまとめている。Blackstoneが約20億ドルの出資、バンク・オブ・アメリカが140億ドル(約2.2兆円)の債券を売却し、長期固定債はPIMCO運用のファンドがアンカーとなった。1ギガワット超の容量を持つ3棟構成の施設である。

S&Pはこれらを見逃さなかった。2026年7月9日の格下げで、同社はオラクルの調整後負債にリース契約約2,600億ドル(約40.8兆円)と無条件購入義務130億ドル(約2.0兆円)を加算した。これらのリースはFY2027からFY2029にかけて開始し、期間は15〜19年に及ぶ。長期発行体格付けはBBBからBBB−へ、短期格付けはA-2からA-3へ引き下げられ、投機的等級まで残り1ノッチとなった。ムーディーズも見通しをネガティブに置いている。S&Pの見立てでは、FY2027のフリーオペレーティングキャッシュフローの赤字は約420億ドル(約6.6兆円)に拡大し、調整後レバレッジは4倍の閾値を超えて4倍台半ばになる。クラウドインフラが売上に占める比率が27%からFY2028に約60%へ上がることで、「反復性の高いソフトウェア収入から、リターンが遅れる資本集約型事業へ」重心が移る点を格下げ理由に挙げた。

信用市場の反応は激しく揺れた。オラクルの5年物CDSスプレッドは約2.03%ポイントと18年ぶりの高水準に達した局面があり、その後2026年2月に資金調達計画が公表されると17%急低下し、3月11日には好決算を受けて1か月ぶりの低水準に戻ったとBloombergが報じている。CDSの上下動が株価に先行する——AI関連銘柄では珍しくなった光景が、オラクルで最も鮮明に現れている。


Oracle、RDBMSの雄からGPUクラウドへのピボット - 資金調達という新しい競技——社債、優先株、ATM、そしてSPV - 図表1Oracle、RDBMSの雄からGPUクラウドへのピボット - 資金調達という新しい競技——社債、優先株、ATM、そしてSPV - 図表2

強み——なぜオラクルはこのレースに参加できたのか

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第一に、ネットワーク設計の先見性である。OCIは2010年代半ばにAWS出身者が白紙から設計したため、GPU間の集団通信を前提としたRDMAファブリックを標準構成として持っていた。AI学習では数万基のGPUが同期して勾配を交換するため、ネットワークの遅延とジッターが実効性能を決める。汎用クラウド用に最適化された既存インフラを持たなかったことが、この局面では有利に働いた。

第二に、実行速度である。FY2026に1.2ギガワット超を引き渡し、FY2027第1四半期だけでそれに匹敵する容量を立ち上げようとしている。マグイヤーク氏は決算説明会で、全世界のGPU稼働率が97.5%であり、契約更改時に92%が元の顧客と、残り8%も90日以内に新規顧客と契約されたと説明した。稼働率97.5%という数字は、少なくとも現時点では「作れば埋まる」需要環境にあることを示している。

第三に、契約構造の巧みさだ。前払いと顧客持ち込みハードウェアで750億ドル分の資本負担を回避した設計は、資本効率の観点では見事である。マグイヤーク氏は部材コストの上昇について「価格を固定できる確度のある期間は固定価格契約、コストが読めない先の期間についてはパススルーの仕組みを持つ」と述べ、マージン毀損を避ける仕掛けがあると強調した。

第四に、GPU賃貸業とは独立した高収益の資産が残っている点である。マルチクラウドAIデータベースは第4四半期に404%成長し、設備投資をほとんど伴わない。国防総省との10年69億ドル契約や、TikTokのセキュリティ受託のような、参入障壁の高い規制業種の案件も積み上がっている。Ampere株式の売却で27億ドル(約4,240億円)の税引前利益を計上し、Bloom Energyのワラント行使でも利益を得た。バランスシートには表に出にくい含み資産がある。

第五に、創業者の意思決定速度である。エリソン氏はオラクル株の40.6%(11億6,000万株)を保有する筆頭株主であり、取締役会の承認を実質的に握っている。四半期利益の毀損を伴う数兆円規模の転換を、上場企業のスピードで決められる企業は多くない。ただしこの点は、次章で見るように諸刃の剣でもある。


課題——薄いマージン、単一顧客、減価償却、そして創業者のレバレッジ

Oracle、RDBMSの雄からGPUクラウドへのピボット - 課題——薄いマージン、単一顧客、減価償却、そして創業者のレバレッジ - 章扉

最初の課題は単純に、この事業が儲からないかもしれないことだ。2025年10月、The Informationは社内資料に基づき、オラクルのNVIDIAチップ関連クラウド事業が直近3か月の売上9億ドル(約1,410億円)に対して粗利率14%だったと報じた。案件によって10%未満から20%強までばらつき、平均は14〜16%だという。オラクル全社の粗利率が約70%であることを踏まえれば、事業ミックスの変化がそのまま利益率の希釈を意味する。CFOのマクソン氏は決算説明会で、インフラ事業の定常状態でのROIC(投下資本利益率)を「20%台後半」と説明したが、これは稼働率が上がった後の姿である。

第二が顧客集中である。S&Pが指摘した通り、6,380億ドルのRPOのおよそ半分がOpenAI関連だ。同社は契約が履行されない場合、オラクルが座礁したデータセンターリースを抱え込むリスクを明記している。オラクルの信用は、事実上OpenAIの資金調達力に連動する。

第三が会計上の論点である。オラクルはサーバーとネットワーク機器の耐用年数を、FY2023に4年から5年へ、FY2025に5年から6年へ延長した。FY2025だけで営業費用が7億3,300万ドル減り、純利益が5億7,300万ドル押し上げられた。マイケル・バーリ氏は2025年11月10日にX上で、NVIDIAのチップ更新サイクルを踏まえれば実際の経済耐用年数は2〜3年であり、耐用年数の引き延ばしは「現代で最もよくある不正の一つ」だと批判した。同氏は2028年にオラクルが利益を26.9%過大計上すると試算し、業界全体で2026〜2028年に約1,760億ドルの減価償却費が過少計上されると述べている。

第四が資産と負債の期間ミスマッチだ。データセンターのリース期間は15〜19年、顧客契約は5年前後、GPUの経済的寿命は議論があるものの数年である。長期の固定費を短期の収益で支えるこの構造は、需要が減速した瞬間に最も脆くなる。

第五に、計画そのものが縮小した実例がある。2026年3月、オラクルとOpenAIは旗艦拠点であるテキサス州アビリーンの600メガワット増設計画を断念したとBloombergが報じた。資金調達とOpenAI側の需要見通しの変化を巡る交渉が長引いたことが理由とされる。既存キャンパスの稼働と建設は続いている。アビリーンではCrusoeが最初の2棟を記録的な速さで建てた一方、3〜4棟目は2025年3月着工・2026年3月完成の当初計画に対し、2026年6月時点でまだ稼働していないと報じられた。実行リスクは理論上の話ではない。

第六が、創業者個人のレバレッジという他社に例のないリスクだ。エリソン氏は2025年12月、息子デイビッド氏率いるParamount SkydanceによるWarner Bros. Discovery買収(約1,100億ドル、約17.3兆円)に対し、404億ドル(約6.3兆円)の「撤回不能な個人保証」を差し入れた。その裏付けとなるオラクル株は保証差し入れ時の半値程度になっている。2025年9月時点で保有株のうち3億4,600万株(約30%)は既に個人債務の担保として差し入れ済みだった。買収には12州の司法長官が差し止め訴訟を起こし、2026年7月20日にアラセリ・マルティネス゠オルギン判事が14日間の一時的差止命令を出した。仮差止を巡る審理は2026年8月3日に予定されている。オラクル株が下がるほど筆頭株主の保証能力が疑われ、それがさらにオラクル株の重荷になるという循環を、市場は警戒している。


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投資家と各紙はどう報じているか

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株価の軌跡が、市場の評価の振れ幅をそのまま示している。2025年9月10日に史上最高値345.72ドルを付けた後、2026年は約196ドルで始まり、一度248ドル前後まで戻したものの、そこから崩れた。7月13日に6.5%下落して131.54ドル、7月下旬には52週安値114.50ドルを付け、7月31日の終値は129.87ドル、時価総額は約3,741億ドル(約58.7兆円)である。最高値からの下落率は6割を超え、7月単月では3割以上下げた。7月29日には200日移動平均を大きく割り込んだ状態が続いている。

エリソン氏の資産はこの間に激減した。2025年9月10日にはBloombergの集計で3,830億ドル(約60.1兆円)に達し、一時世界一の富豪となった。それがForbesの2026年7月13日時点の算定では約1,750億ドル(約27.5兆円)まで縮んでいる。同誌は6月9日、エリソン氏がジェフ・ベゾス氏に抜かれて5位に後退したと報じていた。

セルサイドの見解は極端に割れている。強気の代表がGuggenheimのジョン・ディフッチ氏で、目標株価400ドルを維持し、オラクルを2026年のベスト・ソフトウェア・アイデアに指名している。同氏は今回の下落に「明白な合理的理由はない」とし、短期のマージン圧縮への不安が前例のない受注シグナルをかき消していると主張する。対極にあるのがモルガン・スタンレーのキース・ワイス氏で、イコールウェイト(中立)を維持したまま目標株価を320ドルから213ドルへ、さらに207ドルへ引き下げた。FY2028の非GAAP EPS予想8.28ドルに25倍を当てた水準である。CLSAは2026年7月にホールド、目標株価145ドルでカバレッジを開始した。Benzingaが7月31日に集計したアナリスト平均目標株価は260.04ドルで、現値のほぼ2倍という異例の乖離が生じている。

報道の力点も媒体で分かれる。CNBCとBloombergは信用面——CDSの変動、S&Pの格下げ、資金調達計画——を軸に扱い、2026年2月にCDSが急低下した局面を「資金調達計画が投資家の信頼を回復させた」と報じた。The Informationは一貫してユニットエコノミクス、すなわちGPU賃貸の粗利率の薄さを追っている。ERP TodayやFuturum Groupといった業界誌は受注残と製品面の進展を評価する。日経による分析は、Alphabet・Microsoft・Amazon・Meta・オラクルの5社の財務注記を洗い出し、AIインフラ関連のオフバランス債務が合計1兆6,500億ドル(約259兆円)に上ると指摘した。

株式市場が何に反応しているかも明確になってきた。2026年7月30日、Microsoftが好決算と据え置きの設備投資計画を示すと、オラクルは7〜8%上昇し、Nebiusは27%、CoreWeaveは24%上昇した。同じ日、Metaはフリーキャッシュフローが7億8,400万ドルまで縮小し設備投資計画を引き上げたことで急落した。市場は「AI投資そのもの」ではなく「AI投資が利益と共存できるか」を採点している。オラクルにとっての追い風は、この日にGoogle CloudとのGemini提携拡大を発表できたことでもあった。


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今後——いつ、何が計測されるのか

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今後12か月、オラクルの物語が検証されるポイントは比較的はっきりしている。

最も近いのがFY2027第1四半期(2026年6〜8月期)の決算だ。日程は9月が見込まれており、Benzingaは9月8日、TipRanksは9月14日を予定日として掲載している。ここで見るべき数字は3つある。ガイダンス通り売上が27〜29%増えるか、クラウド売上が57〜63%(恒常通貨ベース)伸びるか、そして最も重要な、RPOの積み上がりが続くか反転するかである。第4四半期に850億ドル(約13.3兆円)分を積み増した後、大型契約が一巡すればRPOは横ばいか減少に転じる。市場はそれを「需要のピークアウト」と読む可能性が高い。マグイヤーク氏は同四半期だけで1ギガワット近い引き渡しを予告しており、これが実現するかは実行力の直接的な検証になる。

10月25〜28日にはラスベガスのベネチアンでOracle AI Worldが開催される。過去2年、この場で製品名の刷新(AI Database 26ai)や大型提携(AMDとの50,000基契約)が発表されてきた。今年の焦点は、決算リリースが予告した「Cernerの完全な新AI版」の投入と、Oracle Health事業をFY2027に二桁成長へ戻す計画の具体化になるだろう。

技術面の節目は暦年2026年第3四半期だ。オラクルはAMDのInstinct MI450を5万基規模で展開する最初のハイパースケーラーになると2025年10月14日に発表しており、その初期展開が始まる。1基あたりHBM4を432GB搭載し、AMDの「Helios」ラック設計とEPYC「Venice」、Pensando「Vulcano」ネットワークを組み合わせる構成である。NVIDIA一択だった調達構造に第二の供給源を作れるかは、長期の粗利率を左右する。

資金面では、暦年2026年中の追加社債発行はないと同社が明言している。したがって次に注目されるのは最大200億ドルのATMプログラムの執行ペースだ。株価が114ドル台まで下げた局面での増資は既存株主の希薄化を強く意識させるため、発行を急ぐかどうかが経営陣の需要見通しを映す。格付け面では、S&PがBBB−・見通し安定を維持できるか、ムーディーズのネガティブ見通しが実際の格下げに転じるかが、社債投資家の関心事になる。

外部要因では2つの日程が決まっている。1つがParamount SkydanceによるWarner Bros. Discovery買収の仮差止審理で、2026年8月3日に予定されている。買収は2027年6月1日より前には完了しない見通しで、エリソン氏の404億ドルの個人保証はそれまで開いたままとなる。もう1つがOpenAIのIPOだ。CNBCは2026年末までの株式公開準備を報じており、これが実現すればオラクルの最大顧客の資金調達力に関する不確実性は大きく低下する。逆に遅延や条件悪化があれば、RPOの半分の信用力に直接跳ね返る。

数年単位の検証点は、オラクル自身が示している。同社は2025年10月のアナリスト向け説明会で、FY2030に売上2,250億ドル(約35.3兆円)、年平均成長率31%、EPS成長率28%という目標を掲げ、OCI単体の目標を1,440億ドルから1,660億ドル(約26.1兆円)へ引き上げた。CFOのマクソン氏は6月の決算説明会で、この長期目標を「私の側から完全に再確認する」と述べている。FY2030のOCIは全社売上の約74%を占める計算になる。この会社をソフトウェア企業と呼ぶ人は、その頃にはいないだろう。


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VCの視点——これは成長ストーリーではなく、ビジネスモデルの交換である

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投資家がオラクルを誤読しやすいのは、この転換が「成長率の話」として語られているからだ。VCがスタートアップのピボットを評価するときに使う枠組みを当てはめると、見えるものが変わる。

第一に、これは倍率(マルチプル)の交換である。粗利70%・解約率数%のソフトウェア収入は、市場で売上の8〜12倍の評価を受ける。粗利15%前後の設備賃貸収入は、良くても売上の2〜4倍だ。オラクルの売上が伸びているのは事実だが、伸びている部分の質は下がっている。株価が最高値から6割下げたのは需要への疑念だけが理由ではない。市場が適用する倍率そのものを、ソフトの倍率からインフラの倍率へ差し替えている過程だと読むのが自然である。P/Eが約22倍まで下がった現在の水準は、その差し替えがかなり進んだことを示す。

第二に、RPOはARRではない。スタートアップの世界で「LOI(意向表明書)をARRに数えるな」というのは初歩の規律だが、6,380億ドルという数字の迫力はその規律を忘れさせる。RPOが363%増えた同じ年に、フリーキャッシュフローはマイナス237億ドルになった。受注残から現金への変換には、FY2027だけで約700億ドル(約11兆円)の先行投資と、15〜19年のリース債務と、顧客の支払い能力という3つの関門がある。RPO/売上比率が9.5倍という数字は、成長の証拠であると同時に、未履行のリスクが会社の規模の9.5倍あるという意味でもある。

第三に、前払いと顧客持ち込みハードウェアという設計は、資本効率の勝利であると同時に、上限の設定でもある。顧客がGPUを持ち込む契約でオラクルが得るのは、賃貸マージンではなくホスティングの手数料に近い。750億ドル分の資本負担を回避したのは賢明だが、その分だけ将来の収益プールも小さくなる。マージンを守る仕組みは、同時にアップサイドを削る仕組みでもある。

第四に、リスクの所在が移動している点は見落とされやすい。SPVを介した資金調達により、データセンターの建設リスクとエクイティリスクはBlackstone、PIMCO、Blue Owlといった民間クレジットの側に移った。オラクルが引き受けたのは長期リース債務、すなわち「作った箱を借り続ける義務」である。これはWeWorkが直面した構造——長期の賃借義務に対する短期の収益——と形式的には同型であり、違いは相手方の信用力の差にある。カウンターパーティがOpenAIとMetaと米国防総省であるうちは成立するが、その前提が崩れたとき、逃げ場のない側にオラクルがいることは意識しておくべきだ。Blue Owlがミシガン案件から降り、Blackstoneが入れ替わったという2025年12月から2026年4月の出来事は、資金の出し手側が案件を選別し始めた最初の兆候として記録される。

第五に、最も価値のある資産が最も語られていない。マルチクラウドAIデータベースは第4四半期に404%成長した。設備投資をほとんど伴わず、粗利率が高く、AWS・Azure・Google Cloudのデータセンターの中にオラクルの課金メーターを置く事業である。AI推論が本格化すれば、モデルは企業の基幹データにアクセスする必要があり、その基幹データの多くはいまもオラクルDBの中にある。GPU賃貸業が薄利多売の消耗戦になったとしても、この層の価値は減らない。3,000億ドルの契約に隠れて、5年で200億ドルという目標が地味に見えるが、粗利率を掛け合わせれば利益貢献の順位は逆転しうる。

結局のところ、オラクルへの投資判断は「AI需要は続くか」という問いではない。「粗利70%の会社が粗利15%の事業に売上の大半を移したとき、その会社はいくらの価値があるか」という問いである。強気派のディフッチ氏が見ているのは前者の答えであり、モルガン・スタンレーのワイス氏が価格に織り込んでいるのは後者の答えだ。2026年9月の第1四半期決算でRPOの積み上がりが続くかどうかが、この2つの読み方のどちらが正しかったかを判定する、最初の実効的なデータポイントになる。


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