半導体露光装置とは何か — チップ製造の心臓部を具体例で理解する

半導体露光装置(リソグラフィ装置)、スタンプ方式のナノインプリントと後工程に強みのキヤノン、高精度なArF液浸の深掘りとASML互換のニコン - 半導体露光装置とは何か — チップ製造の心臓部を具体例で理解する - 章扉

スマートフォンのSoC、データセンター向けのAIアクセラレーター(GPU)、パソコンのCPU。これらの中身には、爪の先ほどのシリコンチップに数百億個のトランジスタが刻み込まれている。この極微の回路を「印刷」する工程がフォトリソグラフィ(露光)であり、その中核を担うのが半導体露光装置だ。

仕組みは、写真の引き伸ばし機やプロジェクターに例えると分かりやすい。まず、描きたい回路パターンを拡大して描いた「フォトマスク(レチクル)」という原版を用意する。これはガラス板に回路の設計図を焼き付けた、いわば版画の「版」や写真の「ネガ」にあたる。露光装置はこのマスクに光を当て、投影レンズで通常4分の1に縮小しながら、感光材(フォトレジスト)を塗ったシリコンウェハー上に像を結ばせる。光が当たった部分のレジストが化学変化を起こし、その後の現像・エッチング工程で回路の一層が形づくられる。

重要なのは、チップが一度の露光では完成しないという点だ。先端ロジックでは配線やトランジスタを何十層も積み上げるため、露光・現像・エッチング・成膜のサイクルを繰り返し、1枚のウェハーに対して数十回から、複雑なものでは60〜70回を超える露光が行われる。露光装置はこの繰り返しの精度と速度を決定づけるため、工場(ファブ)の中で最も高価かつ律速となる装置とされる。実際、先端のEUV露光装置は1台がジャンボジェット並みの価格で、標準機(開口数0.33)で1台あたりおよそ2億ドル弱(約300億円規模)、最先端の高開口数(High-NA)機に至っては約4億ドル(約640億円)に達する。

露光装置には、ウェハーを1ショットずつ止めて露光しては次の位置へ移動する「ステッパー」と、マスクとウェハーを同期させて走査しながら露光する「スキャナー」がある。先端量産は高スループットのスキャナーが主流で、成熟ノードや後工程ではステッパーが今も広く使われる。世界市場は決して小さくなく、フォトリソグラフィ装置市場は2026年に約148億ドル(約2兆3,800億円)、2030年に約213億ドル(約3兆4,260億円)へ拡大するとの調査もある。装置カテゴリー別ではリソグラフィが単独で最大の投資額を占め、その巨大な価値の大半を1社が握っている構図が、この産業を理解する出発点となる。

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光源の進化とASMLの独走 — なぜEUVが「一強」を生んだのか

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露光装置の性能を突き詰めると、「どこまで細い線を描けるか(解像度)」に行き着く。解像度はレイリーの式で近似され、光の波長(λ)に比例し、レンズの開口数(NA)に反比例する。つまり波長を短くするか、開口数を大きくするほど、より微細なパターンを描ける。半導体の歴史はこの2つを追い求めた歴史でもある。

光源の波長は、g線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)へと短くなり、さらにArFの193nmを使いながらレンズとウェハーの間を純水で満たしてNAを引き上げる「ArF液浸」が2000年代後半に主役となった。そして2019年前後から、波長13.5nmという桁違いに短い光を使うEUV(極端紫外線)が7nm世代以降の先端量産に投入された。EUVは反射光学系、真空環境、スズプラズマ光源など極めて複雑な技術の塊であり、これを商用化できたのはASMLだけだった。ここに「一強」が生まれた。

ASMLの支配力は数字に表れている。同社はEUVを事実上100%独占し、リソグラフィ全体でもおよそ9割(出典により80〜90%と幅がある)、ArF液浸を含むDUV(深紫外線)でも8割超のシェアを握るとされる。受注残高は2026年第1四半期時点でおよそ388億ユーロ(約7兆1,780億円)に積み上がり、複数年の売上が可視化されている。2026年通期の売上高見通しは360億〜400億ユーロ(約6兆6,600億〜7兆4,000億円)で、AIデータセンター向けの先端ロジック需要が成長の主因と同社は説明している。

技術のフロンティアはさらに先へ進んでいる。ASMLはNAを0.33から0.55へ引き上げた次世代機「High-NA EUV(TWINSCAN EXE:5200)」の量産機出荷を2025年に開始した。1台約4億ドル(約640億円)と半導体業界で最も高価な製造装置であり、最初の顧客はIntelとされる。Intelは自社の14Aノード向けに2027年のリスク生産を計画する。サムスンも量産機EXE:5200Bを導入し(2台で約7億7,300万ドル=約1,245億円との報道もある)、研究機関imecは2026年第4四半期の認定完了を目指す。一方でTSMCは当面A14ノードで従来の0.33 NA EUVを継続し、High-NAの本格採用を見送る構えと報じられており、先端の中でも採用ペースには温度差がある。この「ASML一強・EUV中心」への地殻変動が進むまさにその瞬間に、日本のキヤノンとニコンはまったく異なる2つの戦略で再挑戦を仕掛けている。

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キヤノンのナノインプリント — 光を使わない「スタンプ方式」という異端

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キヤノンの第一の武器が、ナノインプリント・リソグラフィ(NIL)だ。これは露光装置の常識を覆す発想に立つ。光で回路を「投影」するのではなく、微細な凹凸を刻んだ石英製の原版(テンプレート、マスク)をウェハー上のレジストに直接押し当て、判子のように回路を「型押し」する。プロセスはレジストの塗布・充填、位置合わせ、紫外線硬化、離型という流れで、1チップあたり1秒台で処理される。光学系の解像限界に縛られないため、原版の微細さがそのまま転写精度になるのが最大の特徴である。原版は電子ビームで描くため、理屈のうえでは極めて細い線も再現できる。

キヤノンは2023年10月、世界初の半導体量産用NIL装置「FPA-1200NZ2C」を製品化した。開発は一朝一夕ではない。キオクシア(旧・東芝メモリ)と約20年にわたり二人三脚で技術を磨き、装置をキヤノン、回路原版(テンプレート)を大日本印刷(DNP)、レジストを富士フイルムが担う日本連合の総力戦として結実させた。2024年9月には米国の半導体コンソーシアム、テキサス・インスティテュート・フォー・エレクトロニクス(TIE)へ同装置を出荷し、キオクシアやTIEでの実機評価が進む。

投資家の関心を引くのは、その経済性だ。キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は、ナノインプリント装置はEUVより「1桁安い」と公言している。標準的なEUV装置が1台300億円規模であるのに対し、NIL装置は1台数十億円とされ、強い光源を必要としないため消費電力はEUV比でおよそ10分の1、ランニングコストはウェハー1枚あたり4ドル程度(約640円)に抑えられるという。複雑な回路を一度の型押しで形成できるため、多重露光(マルチパターニング)で工程数が膨らむEUV/ArFに対し、工程そのものを減らせる可能性も持つ。

もっとも、課題は明確だ。判子である以上、原版のわずかな傷や異物がそのまま全チップの欠陥になり得る「欠陥(ディフェクト)」、原版の寿命、層と層を正確に重ねる「重ね合わせ(オーバーレイ)精度」、そして量産に耐えるスループットが問われる。キヤノンは1時間あたり100枚超のウェハー処理能力を掲げるが、成熟したArF/EUVスキャナーが持つ持続的な生産性と低欠陥率に、高量産(HVM)の現場で並べるかどうかが実用化の分水嶺となる。適用先としては、まず回路が周期的で欠陥管理がしやすい3D NANDフラッシュメモリーから入り、2027年前後の量産適用を視野に、DRAM、ロジックへと広げる計画だ。キヤノンは2028年以降、3D NANDでは線幅20nm・重ね合わせ5nm、DRAMでは線幅10nm・重ね合わせ2nm、ロジックでは線幅8nm・重ね合わせ1.6nmといった原版目標を示している。テンプレート側でもDNPが1.4nm世代向け原版の2027年量産を掲げる。ただし、現時点で大手ファウンドリがNILをHVMに正式採用したという事実はなく、ここが投資判断の最大の不確実性として残る。

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後工程と成熟ノードに根を張るキヤノン — AIパッケージング特需の受け皿

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キヤノンのもう一つの、そしてより手堅い強みが後工程(バックエンド)と成熟ノードだ。AI向けの高性能チップは、微細化だけでなく、複数のチップを高密度に積み・並べる先端パッケージング(3D積層、2.5D、ファンアウト、チップレット)に価値の重心を移している。HBM(広帯域メモリ)やGPUの実装に象徴されるこの領域では、再配線層(RDL)を形成するために露光装置が使われ、需要が急拡大している。

キヤノンはこの後工程露光で確かな地歩を築いてきた。2020年には515mm×510mmの大型パネル基板に対応した「FPA-8000iW」を投入し、複数チップを大きなパネル上でまとめて処理してコストを下げるパネルレベル・パッケージング(PLP)に道を開いた。2022年には後工程プロセス向けオプションで最大100mm×100mmという広い露光フィールドを実現し、2023年の「FPA-5520iV LF2オプション」では0.8μm解像度と、前世代比4分の1に低減した歪み補正で、反り・再構成基板を扱うファンアウト実装やヘテロジニアス集積に対応した。前工程で先端を追うのがEUVなら、後工程の高密度化を支えるのがこうしたステッパー群であり、AI特需の裾野を確実に取り込んでいる。

需要の受け皿を厚くする動きも出ている。キヤノンは栃木県宇都宮市に、報じられるところではおよそ500億円を投じて新工場を建設中で、これは約20年ぶりの新設ファブとされる。KrF・i線露光装置とナノインプリント装置の生産を担い、年産能力をおよそ5割引き上げる。レンズ加工エリアが2026年6月に立ち上がり、2027年に本格稼働、約1,300人の新規雇用を計画する。KrF・i線は成熟ノードや3D NANDの量産に欠かせない「働き者」の装置であり、NANDの供給逼迫を背景に引き合いが強い。キヤノン全体の2025年12月期は売上高が約4.6兆円(前期比2.5%増)、露光・スパッタリング・FPD露光を含む産業機器部門は売上高約3,611億円(同2.7%増、全社の8%、従業員7,757人)と、半導体・AI関連需要を追い風に堅調に推移している。派手さはないが、キャッシュを生む本業の上に、ナノインプリントという「もう一枚のカード」を重ねる構図だ。

ArF液浸の深掘り — ニコンが磨き上げた極限の光学

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ここで、日本勢のもう一方の雄、ニコンの主戦場であるArF液浸を技術的に掘り下げたい。ArF液浸は、193nmのArF光を使いながら、投影レンズとウェハーの間の空間を空気ではなく屈折率約1.44の超純水で満たす技術だ。なぜ水を挟むと解像度が上がるのか。開口数NAは媒質の屈折率に比例して大きくできるため、屈折率1.0の空気ではNAは1.0が上限だが、屈折率1.44の水を介在させることでNAを1.35という「ハイパーNA」領域まで引き上げられる。これにより、193nmの光を使いながら実効的にはより短波長のように振る舞わせ、微細化を進められる。

もっとも、単一露光での解像限界は存在する。NA1.35、プロセス係数k1を0.3とすると、レイリーの式から解像度はおよそ42nmハーフピッチ(実証では36.5nm、量産実力では40nm前後)にとどまる。ここから先、14nmや7nmのFinFET世代へ進むには、1つのパターンを2回・4回に分けて描く多重露光(マルチパターニング)でArF液浸を延命させてきた。EUVが普及した今も、ArF液浸は先端ロジック・メモリの多くの層を担う不可欠な「屋台骨」であり続けている。この領域でニコンは長年、光学設計と超精密ステージ、そして層を正確に重ねるオーバーレイ精度の技術を磨いてきた。

その到達点が液浸スキャナー「NSR-S636E」だ。開口数1.35のレンズを搭載し、露光前にウェハーの多点計測を行う高度なインラインアライメントステーション(iAS)で、ウェハーの反りや歪みを補正しながら次世代のオーバーレイ精度を実現。スループットは従来機比で10〜15%高いとされ、2024年1月に販売を開始した。さらに2025年9月には、より広い用途をカバーするドライArFスキャナー「NSR-S333F」を発表し、同年10月から受注を開始、初出荷は2026年後半を予定する。ロジック・メモリ・イメージセンサーまで幅広い微細パターニングを狙う布陣だ。ニコンの技術そのものは、依然として世界最高水準の光学・精密機械の結晶である。

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ASML互換で挑むニコンの再参入戦略 — 「刺さる」市場と厳しい足元

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問題は、その優れた技術が市場シェアに結びついていないことだ。ニコンはArFシステムを2024年3月期に11台出荷したが、2025年3月期は第3四半期まででゼロと報じられた。ASMLがリソグラフィ市場の8〜9割を握るなか、日本勢のシェア低下が続いてきた。ここでニコンが打ち出したのが、「ASML互換」という新機軸である。

日刊工業新聞やBits&Chipsなどの報道によれば、ニコンは新設計のレンズとウェハーステージを備えた新しいArF液浸プラットフォームを2028年度(2028年4月〜2029年3月)前後に投入する計画で、その要点は「ASMLのフォトマスクをサポートし、顧客の乗り換えを容易にする」ことにある。つまり、すでにASML機で構築されたラインに、既存のマスク資産を活かしたままニコン機を差し込めるようにする狙いだ。試作機の投入時期については、大手半導体メーカーへ2027年に納入するとの報道と、2028年度に試作機を投入するとの報道があり、時期には振れがある。2030年以降の次世代機も視野に入れる。

戦略の核心は価格と自前主義にある。ニコンはレンズを含む主要部品を内製する比率が高く、独ツァイスの光学と米サイマー(現ASML傘下)の光源に依存するASMLのグローバル・サプライチェーンに比べ、構造的なコスト優位を持つ。ニコンの液浸スキャナーはすでにASML相当機より2桁パーセント(十数%〜)安い水準にあるとされ、この価格差と互換性を武器に、第2の調達先を求める二番手ファウンドリやメモリメーカーの需要を取り込もうという算段だ。ArF液浸市場自体、3D集積の需要を背景に今後10年で40〜50%成長するとの見方もある。

ただし足元の財務は厳しい。ニコンの2026年3月期は売上高6,771億円(前期比5.3%減)、営業損失1,124億円、当期純損失860億円と過去最悪となった。もっとも損失の主因は金属3Dプリンティング(デジタルマニュファクチャリング)事業での900億円超の減損であり、半導体露光を含む精機(プレシジョンエクイップメント)部門は売上高1,673億円(同17.2%減)、営業損失46億円(前期は営業利益15億円)と、露光装置の販売台数減が響いたものの、損失幅そのものは相対的に小さい。会社は2027年3月期に営業利益100億円・純利益100億円への黒字回復を見込む。露光事業の巻き返しは、この回復シナリオの試金石でもある。

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VC・機関投資家・アナリストはどう見ているか — 「モノポリー・プレミアム」と2つの再挑戦

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投資家の視点でこの三つ巴を俯瞰すると、評価は驚くほどクリアに割れる。まずASMLは、EUVという他社が再現できない堀(モート)を持つがゆえに、株式市場で高い「独占プレミアム」を付与されてきた。AIによる先端ロジック投資が受注残を積み上げる構図は、装置株の中でも際立って可視性が高い。SEMIは世界の300mm前工程装置投資が2026年に前年比18%増の約1,330億ドル(約21兆4,000億円)に達し、2027年以降も二桁成長が続くと予測しており、AIが主因と明言する。この巨大な資本支出の最上流に、ASMLは陣取っている。

これに対し、ニコンへの評価は「増分(インクリメンタル)であって、変革(トランスフォーメーショナル)ではない」という言葉に集約される。Seeking Alphaに寄稿するアナリストは「ASMLアングルには限界がある」「ASMLの顧客を狙う」といった論考で、ArF液浸の価格・互換戦略に一定の妙味を認めつつ、Intel以外への顧客多角化と実際の受注フローが伴わなければ株価の再評価は難しいと指摘する。半導体調査で知られるThe Information NetworkのRobert Castellano氏は「ニコンはリソグラフィに戻りたい。だが市場はすでに先へ動いてしまった」と、より辛口だ。産業の重心がEUV・High-NAというASML独占領域へ移るまさにその時に、ニコンは成熟したArF液浸で戻ろうとしている——という構造的なジレンマである。総じてアナリストの見立ては、ニコンがArF液浸で追加的に10〜15%のシェアを取り得るとしても、その効果が明確に表れるのは2028年以降で、それまでは実行リスクと収益性の欠如が重しになる、というものだ。ニコン株は、この「ディープバリューな再生(ターンアラウンド)」をどこまで信じるかの賭けになっている。

キヤノンのナノインプリントは、投資家にとってさらに性格の異なる存在だ。堅調な本業(後工程・成熟ノード・事務機)というキャッシュフローの土台の上に乗った、破壊的技術への「安価なコールオプション」と位置づけられる。当たれば消費電力10分の1・装置価格1桁減という桁違いの経済性が効くが、大手ファウンドリのHVM採用という「行使条件」がまだ満たされていないため、正面から企業価値に織り込むのは難しい。IEEE Spectrumなどの技術メディアは、NILがEUVに対抗する現実味を丁寧に論じつつ、欠陥・スループット・重ね合わせという古くて新しい壁を強調する。つまりキヤノンは「本業でダウンサイドを守りつつ、NILでアップサイドを待つ」という、リスク・リワードの非対称性を提供する銘柄として読める。

そして見落とせないのが、この産業で「新しいVC」の役割を果たしているのが政府・ソブリン資本だという点だ。露光装置は一企業のベンチャー投資で覆せる規模を超えており、実際に大きな資金は国家から流れ込んでいる。米国のCHIPS法、EUのChips Act、日本の官民投資(JIC、経済産業省、そしてRapidusを軸とした先端ロジック国産化)に加え、中国は約500億ドル(約8兆円)規模の国家集積回路産業投資基金(通称・大基金3期)や、EUV国産化に向けた巨額投資を通じてリソグラフィの自立を急ぐ。上海微電子装備(SMEE)は90nmのArF装置を量産段階に乗せ、28nm液浸機を開発中で、2025年12月には約1億1,000万元(約25億円)の装置契約を獲得したと報じられた。ロイターは2025年12月、中国が深圳でEUV試作機を極秘に完成させ、2028〜2030年に動作チップを狙うと報じている(実力は未確認)。オランダは2019年以降EUVの対中輸出を禁じており、この地政学的な資本の奔流が、ASML一強に対する「第2の調達先」を求める強力な追い風を、皮肉にもキヤノンとニコン、そして中国勢の双方に生み出している。供給網のレジリエンス(強靱性)とASML依存の低減という物語は、投資家がこの領域を見るときの最大のレンズになりつつある。

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今後の測定ポイント — 2026〜2030年に何が計測されるか

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この三者のせめぎ合いは、今後数年の具体的なマイルストーンで検証されていく。2026年後半には、ニコンのドライArF「NSR-S333F」が初出荷を迎え、キヤノンの宇都宮新工場ではレンズ加工エリア(6月立ち上げ)が動き出す。ASML陣営では、imecがHigh-NA機EXE:5200を第4四半期に認定完了する見通しで、先端の実装評価が一段進む。

2027年は日本勢にとって節目の年になる。キヤノンはナノインプリントの量産適用(まずは3D NAND)を視野に入れ、宇都宮工場が本格稼働する。IntelはHigh-NAを用いた14Aのリスク生産に入り、ニコンは報道によればこの前後にArF液浸試作機を大手メーカーへ納入する可能性がある。ここで測るべき最重要指標は、ニコンがIntel以外へ顧客を広げられるか、そしてキヤノンのNILに大手ファウンドリが初めてHVM採用のコミットを示すか、である。

2028年前後には、ニコンの「ASML互換」ArF液浸プラットフォームが姿を現し、キヤノンはDRAM・ロジック向け原版の目標時期に差し掛かる。DNPの1.4nm世代原版量産、TSMCがA14で0.33 NA EUVを継続するのか否かも、この頃に輪郭がはっきりする。さらに2028〜2030年にかけては、中国のEUV国産試作が実チップを出せるか、ニコンが2030年以降の次世代機で何を仕込むかが焦点となる。

結論として、EUVという本丸ではASMLの牙城が当面揺るがない一方、その周縁——ArF液浸の価格・互換競争(ニコン)、光を使わないナノインプリントと後工程(キヤノン)、そして国家資本に支えられた自立化の動き(中国勢)——では、確かに地殻が動き始めている。投資家が計測すべきは華々しい技術発表そのものではなく、受注の多角化、HVM採用のコミット、そして政府資本が第2の調達先をどこまで押し上げるか、という地味だが決定的な数字である。日本勢の再挑戦が「増分」で終わるのか「変革」に化けるのかは、まさにこの2026〜2030年の測定期間に答えが出る。


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