戦闘機126機を止めた、爪の先ほどの磁石

中国鎖国と騒がれる出入国管理規定が施行。ミサイル操舵、対潜哨戒、航空宇宙、海中センサーなどに利用されるレアアース磁石、ジスプロシウム(Dy)・テルビウム(Tb)・サマリウム(Sm)の製造技術流出を阻止 - 戦闘機126機を止めた、爪の先ほどの磁石 - 章扉

爪の先ほどの黒い金属片が一つ見つかっただけで、最新鋭ステルス戦闘機126機の引き渡しが止まった。

2022年8月31日、米国防契約管理局はF-35の受領を停止した。原因は、エンジンの始動発電機に電力を送る「ターボマシン」という部品の中に入っていた小さな磁石である。磁石そのものは米国内で着磁されていたが、素材であるサマリウムとコバルトの合金が中国産だった。飛行の安全に影響はなく、情報が抜けるわけでもない。それでも米国防総省は、ラプランテ調達・維持担当次官が国家安全保障上の免除に署名する10月8日まで、新造機を1機も受け取らなかった。

止まった理由は性能ではなく、産地である。米国の国防調達規則は、特定の国で採掘・精錬・溶解された特殊金属を防衛装備に使うことを禁じている。中国はその「産地」を握っている。そして2026年9月15日、中国は産地に加えて、その作り方を知っている人間そのものを国境で止められるようにした。

9月15日に施行された規定は、何を決めたのか

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李強首相が2026年7月22日に署名した国務院令第841号は、7月31日に公布され、9月15日に施行された。全19条という短い規定で、条文の大半は海外渡航時の安全情報の発信や、ビザ申請の真実性の確認、留学・移住の仲介業者の届出制といった、ごく事務的な内容である。

問題になっているのは第4条だ。中国国民の出国を認めない場合を3つ並べている。

1つ目は、証明書をだまし取ったり不法に出入国したりして行政拘留を受けた場合。2つ目は、国外で違法・犯罪行為をして国家の安全と利益を害した場合。この2つには、処罰の執行終了日または帰国日から6か月以上3年以内、という期限が明記されている。

3つ目が今回の核心である。輸出管理や技術輸出入管理などの規定に違反し、国家の産業安全・技術安全を害するおそれがある者について、国務院商務主管部門などが出国を認めないと決定できる。国際法律事務所のDLAパイパーが指摘しているとおり、この3つ目にだけ期間の上限が書かれていない。誰が解除を決めるのかも書かれていない。

もう一つ、外国人の側を定めた第5条も見逃せない。ビザ申請や入国時に虚偽の資料を出した外国人は1年以上5年以内の入国禁止となる。さらに、中国が独自に作っている反制リスト、信頼できないエンティティリスト、悪意あるエンティティリストに載った外国人については、ビザを出さない、あるいは入国させないという措置がとられる。これまで別々の枠組みだった対抗措置と国境管理が、一本の条文でつながった。

第6条は、出国を認めない決定をする機関に対し、事実・理由・根拠・救済の手段を書面で本人に告げるよう求めている。ただし、国家の安全や刑事事件の捜査に影響する場合は告知しなくてよい、という但し書きが付く。

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モノを止めても、技術は人の頭に入って歩いて出ていく

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なぜ出入国の規定にレアアースが出てくるのか。答えは、中国がこの3年で組み上げてきた規制の積み木の、最後の一段だからである。

まず2023年12月21日、商務部と科学技術部が「中国禁止輸出制限輸出技術目録」を12年ぶりに改訂した。禁止類、つまり輸出そのものができない技術のリストに、レアアースの抽出・分離技術、レアアース金属および合金材料の生産技術、そしてサマリウムコバルト磁石、ネオジム鉄ボロン磁石、セリウム磁石の製造技術が並んだ。この時点で、中国の分離工場の設計図を持ち出すことは違法になった。

次に2025年4月4日、商務部と海関総署の公告第18号が、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムという中重希土類7種と、それらを含む合金・磁石材料に輸出許可制を課した。ここでモノが止まった。

そして2025年10月9日の公告第62号が、レアアース関連技術の輸出に許可を義務づけたうえで、中国国内で外国の組織や個人に技術を渡す行為も規制対象にした。いわゆる「みなし輸出」である。工場見学も、技術指導も、国内で行われれば輸出とみなされる。

さらに2026年7月1日に施行された国務院の対外投資規定は、第13条で、国が輸出を禁じている貨物・技術・サービス・データを、技術者の越境派遣、他国での就業のあっせん、越境での技術指導、越境研修といった方法で国外に移転してはならないと定めた。会社を通じたルートも塞がれた。

残っていたのは一つだけだった。技術者が個人として飛行機に乗り、外国の工場で働きはじめること。第841号令の第4条第3号は、そこを閉じる。

この文脈は突然生まれたものではない。2025年6月25日、ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国商務部が一部のレアアース企業に対し、技術者の専門分野、学歴、研究歴を含む名簿の提出を求めたと報じた。上流の分離工程だけでなく、磁石に加工する下流の担当者も対象に含まれていたという。一部の技術者は、勤務先や地方当局に旅券を預けるよう求められたとも伝えられた。

同じ手法はAI分野にも広がった。2026年5月26日、ブルームバーグは、アリババやDeepSeekといった民間企業の中核AI人材にも海外渡航の事前承認が求められるようになったと報じている。役職の高さではなく、その人物の戦略的価値でリストに載るかどうかが決まる、という点が特徴的だ。

もっとも生々しい実例が、AIエージェント「Manus」を運営するButterfly Effectである。Metaが2025年12月30日に20億ドル超(約3,100億円)での買収を発表した後、フィナンシャル・タイムズは、シンガポールを拠点にしていた肖弘最高経営責任者と季逸超チーフサイエンティストが2026年3月に北京へ呼ばれ、そのまま出国できなくなったと報じた。4月27日、国家発展改革委員会はこの外国投資を禁止し、取引の撤回を求めると発表している。人を止めれば、案件そのものが止まる。第841号令は、この手法を条文にしたものだ。

中国側の説明はまったく違う。司法部・公安部・国家移民局の3部門は記者団への回答で、規定の狙いは海外での安全リスクへの備え、虚偽申請の是正、仲介業者の管理にあると述べ、第4条第3号については、違法に出国したうえで国外へ技術を不正に移転し、国家の産業安全・技術安全を害する行為を対象とすると説明した。環球時報は社評で「閉関鎖国」という見方を無稽の談だと退け、安全は開放の前提であり、新しい規定は開放にブレーキをかけるものではなく、交流にシートベルトを締めるものだと書いた。実際、国家移民管理局によれば2025年の出入国者は延べ6億9,700万人で前年比14.2%増、2026年上半期も延べ3億6,900万人と過去最高を更新している。国境が閉じているわけではない。

閉じているのは、特定の職種の、特定の頭脳に対してだけである。人権NGOのセーフガード・ディフェンダーズは、判決文データベースに出国禁止が現れる件数がこの数年で急増していると集計したうえで、第4条の文言が開かれすぎており濫用の余地が大きいと指摘している。

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そもそもレアアース磁石とは何か

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ここで一度、話を物理的なモノに戻したい。

冷蔵庫に貼るマグネットを思い浮かべてほしい。あれはフェライト磁石で、原料は酸化鉄、1グラムあたり数円の世界である。一方、いま問題になっているネオジム磁石は、同じ大きさなら10倍以上の力で鉄を引きつける。1980年代に日本の佐川眞人氏らが発明し、ネオジム、鉄、ホウ素を焼き固めて作る。世界で最も強い実用磁石だ。

強い磁石があると何が嬉しいのか。モーターが小さくなる。イヤホンのドライバー、ハードディスクのヘッドを動かす機構、電動アシスト自転車、産業用ロボットの関節、風力発電機、そして電気自動車の駆動モーター。同じ出力を出すのに必要な体積と銅の量が減るので、車なら航続距離が伸び、ロボットなら腕が軽くなる。

ところがネオジム磁石には決定的な弱点がある。熱に弱い。温度が上がると、磁石が磁力を保とうとする粘り、専門用語で保磁力と呼ばれる性質が急速に落ちる。ある温度を超えると、外から逆向きの磁界を受けただけで磁力が抜けてしまう。冷蔵庫のドアなら問題ないが、EVの駆動モーターの内部は連続運転で摂氏150度から180度に達する。ミサイルの尾翼を動かすアクチュエータや、ジェットエンジンの近くとなればさらに厳しい。

この「熱に弱い」を解決するために投入されるのが、ジスプロシウムとテルビウムである。そして、そもそも熱に強い別種の磁石を作るために使われるのが、サマリウムだ。

ジスプロシウムとテルビウムは、磁石に「耐熱」を与える

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ネオジム磁石は、ネオジム2原子・鉄14原子・ホウ素1原子という結晶が無数に集まってできている。この結晶が磁化の向きを保とうとする力の強さを磁気異方性という。ネオジムの結晶では約7.5テスラだが、ネオジムの位置をジスプロシウムに置き換えると約15テスラ、テルビウムなら約22テスラに跳ね上がる。数字の意味は単純で、熱で揺さぶられても向きが崩れにくくなる、ということだ。

問題は、この2元素が鉄と逆向きに磁気を持つため、混ぜすぎると磁石全体の力そのものが弱まってしまう点にある。そこで日本のメーカーが磨いてきたのが粒界拡散法という技術だ。磁石の表面にジスプロシウムやテルビウムの化合物を塗り、熱を加えて結晶粒の境目にだけ染み込ませる。結晶の内部には入れず、外殻だけを固める。少ない量で耐熱性だけを買うわけで、いま世界のEV用磁石の多くがこの方法で作られている。

テルビウムとジスプロシウムには、もう一つ、磁石とは別の顔がある。テルビウム、ジスプロシウム、鉄を合わせたターフェノールDという合金は、磁界をかけると目に見えるほど伸び縮みする。この性質を使うと、電気信号を強い低周波の音に変えられる。ピエゾ素子より低い周波数で効率がよいため、潜水艦の船体装備ソナーの送波器に使われてきた。低い音は海中を遠くまで届く。相手の潜水艦を遠距離で見つけられるかどうかは、この素子の性能に直結する。対潜哨戒と海中センサーの話に希土類が出てくるのは、このためだ。

日本の重希土類の輸入は、経済産業省の資料で中国依存度100%と整理されている。ジスプロシウムとテルビウムに関して言えば、日本には代替の入口がほとんど存在しない。

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サマリウムは、燃える弾の中で効く磁石をつくる

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粒界拡散でネオジム磁石を鍛えても、届かない領域がある。摂氏300度を超える世界だ。

そこで使われるのがサマリウムコバルト磁石である。サマリウムとコバルトの合金で、キュリー温度が高く、代表的な組成なら摂氏350度前後まで安定して働く。温度が変わっても磁力の変化が小さく、錆びにくい。力そのものはネオジム磁石に劣り、値段は高く、割れやすい。それでも、熱と振動と腐食にさらされる場所ではこれしかない。

具体的にどこか。ミサイルの操舵である。空対空ミサイルAIM-120や、機体中央部に舵を持つ対地攻撃ミサイルの可動翼は、サマリウムコバルト製のアクチュエータで動かされる。発射直後の加速と空力加熱のなかで、舵が指令どおりに動かなければ命中しない。同じ理由で、レーダーシーカー、ジャイロ、慣性航法装置にも使われる。人工衛星の姿勢制御ホイールや進行波管、航空機の高温部の発電機も同様だ。

F-35については、米国防産業協会の機関誌ナショナル・ディフェンスが2026年7月、1機あたり最大50ポンド、およそ23キログラムのサマリウムコバルト磁石が使われており、高度な電子機器の冷却などに役立っていると報じている。同誌によれば、米国の防衛産業が確保しているサマリウムの在庫は2、3年分にすぎず、その相当部分はフランスのラロシェルでソルベイが数十年前から抱えていた在庫だという。米国内でサマリウムコバルト磁石を量産できる会社は、片手で数えられる。

そして2025年4月の公告第18号で輸出許可制の対象となった7元素の筆頭が、サマリウムだった。中国はネオジムではなく、まず軍需に直結する側から手をつけた。

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中国が本当に握っているのは、鉱山ではなく分離工程と人

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レアアースは、名前に反してそれほど珍しい元素ではない。地殻中の量ならセリウムは銅より多い。難しいのは、化学的性質がよく似た15の元素が同じ鉱石の中に混ざっていて、それを1つずつ引き剥がす作業のほうだ。

工業的には溶媒抽出という方法をとる。水と油のように混ざらない2つの液体の間で、目当ての元素だけがわずかに片方へ寄る性質を利用し、その「わずか」を数百段から千段以上も繰り返して純度を上げていく。装置は同じような槽が延々と並ぶだけで、写真で見ても何がすごいのか分からない。すごさは、どの抽出剤をどの濃度で使い、酸性度をどこに保ち、どの段で何を戻すか、という運転条件の側にある。原料の鉱石が変われば条件も変わる。教科書には書けず、現場で覚えるしかない。

だからこの産業では、設備よりも人が希少資源になる。ブルームバーグは2026年、シドニー工科大学のマリナ・ユエ・チャン准教授の見立てとして、中国にはレアアース分離の専門家が数千人いるのに対し、米国は100人に満たないと伝えている。同記事は、米国の鉱業関連プログラムの卒業生数が中国の15分の1にとどまることも指摘した。ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスのリサーチマネジャー、ネハ・ムカジー氏は、中国はこれを極めて低コストかつ効率的に行う基盤を持っていると述べている。

数字がその差を裏づける。ライナス・レアアースは2025年5月にジスプロシウム、6月にテルビウムの分離に成功し、中国外で初めて重希土類を生産した企業になった。だが2026年1〜3月期のジスプロシウムとテルビウムの生産量は合わせて8トン、4〜6月期でも19トンである。世界の需要は年間で数千トン単位だ。マッキンゼーは、この2元素について中国以外からの供給が2035年になっても需要の5分の1に届かないと見ている。ベンチマークは、2031年時点でも中国とミャンマーが世界供給の約8割を占めると試算する。

中国側の規模も見ておきたい。江西金力永磁科技は磁性材料の生産能力を年4万トンとし、2027年末までに年6万トンへ引き上げる計画を掲げている。後述するとおり、米国が国費を投じて2028年に立ち上げようとしている拠点は年1万トン級だ。桁が違う。

第841号令の第4条第3号が狙っているのは、この差を埋めるいちばんの近道、つまり中国で20年働いた分離エンジニアを高い報酬で引き抜くというルートである。米国防総省がいくら資金を出しても、運転条件を知っている人間が来なければ工場は歩留まりを上げられない。逆に言えば、中国は自国の優位が資源ではなく人に宿っていることを、誰よりも正確に理解している。

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日本への影響は、すでに数字に出ている

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日本にとって、この話は仮定ではなくすでに起きたことである。

2025年11月7日、高市早苗首相が国会で台湾有事が存立危機事態になり得ると答弁したことをきっかけに、日中関係は急速に冷え込んだ。そして2026年1月6日、中国商務部は公告第1号で、日本の軍事ユーザー・軍事用途、および日本の軍事力向上に寄与する一切の最終用途に対する両用品目の輸出を禁止した。品目リストは示されておらず、最終用途と最終需要者で判断される仕組みである。同じ材料でも、売る先次第で止まる。

2月24日には公告第11号・第12号で、日本の企業・機関20団体が管控名単に載って原則輸出禁止となり、別の20団体が関注名単に載って個別審査と誓約書の対象になった。

結果は貿易統計に出ている。日本経済新聞によれば、輸出規制対象のレアアースの2026年1〜6月の対日輸出量は前年同期比で半減し、3月と4月は前年同月比で8割を超えて落ち込んだ。とりわけ高性能磁石に不可欠なジスプロシウムとテルビウムは、1月の公告以降、日本向けの流れが極端に細っている。ジェトロが集計した中国税関のデータでも、レアアース永久磁石の対日輸出は2025年4月以降に急落と回復を繰り返しており、月ごとの振れが大きい。日本企業がジェトロに寄せた声としては、自社製品が管理対象かどうかの判定が難しいこと、許可取得に3か月以上かかる例が多いこと、地方の商務部門からサプライチェーンや製品組成の詳細資料を求められる懸念があることが挙がっている。

日本の対応は、供給源の確保と技術の両面で進んでいる。JOGMECと双日が共同出資した日豪レアアースを通じてライナスに総額2億豪ドル(約220億円)を追加出資し、JOGMECと岩谷産業が共同出資した日仏レアアースを通じてフランスのCaremagに最大1億1,000万ユーロ(約200億円)を出融資することを決めた。永久磁石は経済安全保障推進法の特定重要物資に指定されており、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、省レアアース磁石が支援対象に並ぶ。

技術で殴り返す動きも本格化した。プロテリアルは2025年7月、重希土類を使わないEV駆動モーター向けネオジム焼結磁石を発表し、残留磁束密度1.42テスラ、保磁力1,830キロアンペア毎メートル以上という材料について2026年4月から量産工場での試作サンプル対応を始めた。ジスプロシウムもテルビウムも入れずに、これまで重希土類の添加が必須とされてきた耐熱領域に手が届きつつある。大同特殊鋼も重希土類を添加しない異方性熱間加工磁石の生産能力を引き上げている。

信越化学工業は2026年6月11日、福井県内にレアアース工場を新設すると明らかにした。同社が国内でレアアースの生産設備を新設するのは約18年ぶりで、投資額は少なくとも350億円以上、うち175億円に政府の補助金を活用するとみられている。同社は越前市の武生工場でレアアースの製錬から磁石製造までを手がけており、国内でも屈指の生産能力を持つ。

国産資源にも手が伸びた。2026年2月1日未明、深海掘削船「ちきゅう」が南鳥島沖のおよそ水深6,000メートルからレアアースを含む泥を初めて船上に引き揚げた。2027年2月には日量350トン規模の大規模試験が計画されており、島内には脱水設備を建設する。実用化の目標は2028年以降である。

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米国と欧州、そしてインドが動かした金額

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米国は資金と持ち株で応じた。

MPマテリアルズは2025年7月、国防総省と提携し、4億ドル(約620億円)の転換優先株の引き受け、レアアース分離設備の拡張向け1億5,000万ドル(約230億円)の融資、そして10年間にわたりネオジム・プラセオジムに1キログラムあたり110ドル(約1万7,000円)の最低価格を保証する差額補填を受けた。同社がテキサス州フォートワースに建設する年産1万トン級の磁石工場については、10年間の全量引き取りも約束されている。すでに稼働している同州のインディペンデンス工場からは、ゼネラル・モーターズ向けに車載品質認証用の磁石を納入済みで、商業出荷の開始は2026年10〜12月期の見通しだ。

2026年1月26日には商務省がUSAレアアースの株式を取得した。普通株1,610万株と1,760万株分のワラントを受け取り、権利行使次第で政府持分は8%から16%になる。2億7,700万ドル(約430億円)の補助と13億ドル(約2,000億円)の融資を含め、枠は16億ドル(約2,460億円)規模とされる。同社はオクラホマ州スティルウォーターの磁石工場で2026年3月に第1段階の試運転に入った。

2025年11月には、ノースカロライナ州のバルカン・エレメンツと精錬のリエレメント・テクノロジーズが米政府と総額14億ドル(約2,150億円)の枠組みを結んだ。国防総省戦略資本室からの6億2,000万ドル(約950億円)の直接融資、CHIPS法に基づく商務省の5,000万ドル(約77億円)の資金、5億5,000万ドル(約850億円)の民間資本、そしてリエレメント向けの8,000万ドル(約120億円)の融資という構成で、目標はネオジム鉄ボロン磁石の年産1万トンだ。政府は両社のワラントを受け取り、商務省はバルカンの株式も保有する。

民間の側では、テキサス州のノビオン・マグネティクスが2026年1月、ワン・インベストメント・マネジメントによる2億ドル(約310億円)を中心とする2億1,500万ドル(約330億円)のシリーズCを完了した。同社は使用済み磁石を原料に焼結磁石を作る手法で、米国内での焼結レアアース磁石の量産を最初に取り戻した企業である。

そして2026年6月23日、ウランとレアアースのエナジー・フューエルズが、ドイツの磁性材料大手バキュームシュメルツェをアラ・パートナーズから買収する最終合意を発表した。現金7億1,800万ドル(約1,100億円)と新株6,585万3,000株の組み合わせで、6月22日終値ベースの株式価値はおよそ19億ドル(約2,900億円)、これに1億4,000万ドルの純有利子負債の引き受けが加わる。完了は2027年初めの見込みだ。同社はユタ州ホワイトメサ工場で1億400万ドル(約160億円)を投じ、ジスプロシウムとテルビウムの分離回路を2027年末に試運転する計画で、目標はジスプロシウム年約120トン、テルビウム年約20トンである。鉱山から酸化物、金属、合金、磁石までを1社でつなぐ構図がここで初めて西側に現れる。

欧州は制度で動いた。欧州委員会は2025年12月3日にRESourceEUを採択し、重要原材料の備蓄、市場監視、循環経済の強化を打ち出した。加盟国と共同で進める備蓄の試験的な枠組みは2026年前半に動き出し、欧州のリサイクル業者の原料が国外へ流出するのを防ぐため、永久磁石のスクラップと廃材の輸出制限を2026年第2四半期に提案する方針が示された。2026年3月4日には産業加速法も提案されている。

インドは2025年11月に728億ルピー、およそ8億ドル(約1,200億円)の焼結ネオジム磁石製造支援策を閣議決定し、12月15日に告示した。年産6,000トンを5社に割り振り、国営IREL(India)がネオジム・プラセオジム酸化物の一定量を供給する。原料の当てのない磁石工場を作らせない設計になっている。

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投資家はこの規定をどう読んだか

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市場が最初に反応したのは、価格の二重構造である。

ファストマーケッツによれば、2026年8月27日時点で酸化ジスプロシウムは中国国内が1キログラムあたり270〜330ドル(約4万〜5万円)であるのに対し、欧州は1,250〜1,675ドル(約19万〜26万円)と4.9倍の開きがあった。酸化テルビウムも中国国内の1,180〜1,270ドル(約18万〜20万円)に対し、欧州は4,200〜5,000ドル(約65万〜77万円)と3.8倍だ。同じ元素に、事実上2つの世界価格がついている。

この価格差こそが、非中国のプロジェクトの投資判断を成立させている。中国の設備コストは西側のおよそ3分の1とされ、まともに競争すれば勝負にならない。ところが「中国を経由していないジスプロシウム」には5倍近い値段がつく。防衛産業にとってはこれが唯一の選択肢だからだ。

もう一つの構造変化は、投資家の顔ぶれである。従来この分野に張っていたのは資源系のファンドだったが、いまリードを取っているのは政府だ。ブルームバーグは、2025年のレアアース関連プロジェクト向け投資が総額63億ドル(約9,700億円)で、その6割強を米政府による支援が占めたと伝えている。株式、ワラント、価格保証、全量引き取りという道具立ては、ベンチャーキャピタルというより産業政策のそれである。

ベンチャー側の視線も変わった。かつては採掘への出資が中心だったが、いま資金が集まっているのは処理・リサイクル・代替材料という中間の工程だ。マサチューセッツ州のフェニックス・テイリングスは、鉱滓から溶融酸化物電解でレアアースを取り出す手法で、2026年2月に4,020万ドル(約62億円)を追加調達し、シリーズB累計を1億1,660万ドル(約180億円)とした。既存投資家には住友商事のベンチャー部門プレシディオや、ヤマハ発動機のベンチャー投資部門が名を連ねる。カナダのサイクリック・マテリアルズは使用済みモーターやハードディスクから磁石原料を回収する事業で、T.ロウ・プライスが助言する口座が主導する7,500万ドル(約115億円)の戦略的資金調達を実施した。同社にはBMWの投資部門、マイクロソフト、ジャガー・ランドローバーの投資部門が出資している。

そして、レアアースを使わない磁石そのものに賭ける投資家もいる。ミネソタ州のナイロン・マグネティクスは鉄と窒素だけで永久磁石を作る技術を開発しており、GMベンチャーズ、ステランティス・ベンチャーズ、サムスンのベンチャー部門が出資者に並ぶ。もし性能が届けば、ジスプロシウムもテルビウムも要らなくなる。

投資家が第841号令を重く見る理由は、この構図の中にある。中国が資源を止める措置は、価格が上がれば非中国の供給が増えるという形で、いずれ自壊する。だが人材の流出を止める措置は、非中国側の立ち上がる速度そのものを遅らせる。分離工場の歩留まりを決めるのは設備ではなく運転ノウハウであり、それを持つ人間が数千人と100人未満に分かれている以上、この規定は西側プロジェクトの実行リスクを構造的に引き上げる。裏を返せば、すでに人を確保して稼働に入っている企業のプレミアムが上がるということでもある。

中国鎖国と騒がれる出入国管理規定が施行。ミサイル操舵、対潜哨戒、航空宇宙、海中センサーなどに利用されるレアアース磁石、ジスプロシウム(Dy)・テルビウム(Tb)・サマリウム(Sm)の製造技術流出を阻止 - 投資家はこの規定をどう読んだか - 図表1

次に何が、いつ動くのか

中国鎖国と騒がれる出入国管理規定が施行。ミサイル操舵、対潜哨戒、航空宇宙、海中センサーなどに利用されるレアアース磁石、ジスプロシウム(Dy)・テルビウム(Tb)・サマリウム(Sm)の製造技術流出を阻止 - 次に何が、いつ動くのか - 章扉

観測すべき日付は、そう多くない。

最初は2026年9月24日である。習近平国家主席がワシントンを訪れ、5月の北京に続く今年2度目の首脳会談に臨む。5月の北京会談では、ホワイトハウスがレアアースへのアクセス改善で合意したと発表した一方、拘束力のある供給約束は公表されなかった。ロイターは9月4日、中国のレアアース企業の一部が、禁輸対象の需要家に転売されることを恐れて米国向けの出荷を自主的に断っていると報じている。首脳会談の成果は、公表文よりも、その後の輸出許可の実際の下り方で判定するほかない。

次が11月10日だ。2025年10月9日に公告された第55号、第56号、第57号、第58号、第61号、第62号は、同年11月7日の公告第70号によって2026年11月10日まで停止されている。ここで何もしなければ、価値ベースで0.1%以上の中国産レアアースを含む外国製品や、中国の技術を使って外国で作られた製品にまで許可が要る域外規制と、レアアース関連技術の輸出規制が自動的に復活する。延長、部分的な再発動、全面復活のどれになるか。ファストマーケッツの取材に応じた関係者は、抜本的な変化がない限り停止が延長されると考えるのは楽観的すぎる、と述べている。

2027年1月1日には、米国側の期限が来る。国防授権法の規定により、採掘・精錬・分離・溶解・製造のいずれかの段階が中国、ロシア、イラン、北朝鮮で行われたサマリウムコバルト磁石とネオジム鉄ボロン磁石は、国防総省の調達から締め出される。CSISは、今後8か月で相当量の生産能力が立ち上がらない限り、防衛メーカーがこの要件を満たすのは難しいと指摘している。2022年のF-35のように、免除に署名して切り抜けるのか、それとも本当に供給網を入れ替えるのか。

その先は生産の話になる。2027年2月に南鳥島沖で日量350トン級の揚泥試験。2027年初めにエナジー・フューエルズによるバキュームシュメルツェ買収の完了、2027年末にホワイトメサのジスプロシウム・テルビウム回路の試運転。2028年にMPマテリアルズの年産1万トン級磁石工場。同じ2027年末に、江西金力永磁は年6万トンへ到達する計画を掲げている。

CSISが使った表現を借りれば、この1年で進んだのは距離であって、置き換えではない。発表された金額と、実際に出荷された磁石のトン数の差は、まだ埋まっていない。そして第841号令は、その差を埋める最短ルートを、法律の条文で封鎖した。国境で止められているのは荷物ではなく、20年かけて手が覚えた運転条件のほうである。


中国鎖国と騒がれる出入国管理規定が施行。ミサイル操舵、対潜哨戒、航空宇宙、海中センサーなどに利用されるレアアース磁石、ジスプロシウム(Dy)・テルビウム(Tb)・サマリウム(Sm)の製造技術流出を阻止 - 次に何が、いつ動くのか - 図表1