パソコンのフタを開けると出てくる、あの「緑色の板」

新光電気工業(旧6967)、産業革新投資機構JICによる買収で上場廃止。イビデンと競うAI半導体パッケージ基板の主導権 - パソコンのフタを開けると出てくる、あの「緑色の板」 - 章扉

まず、今日の主役がどんな製品なのかを、なるべく手触りのある話から始めたい。

デスクトップパソコンのケースを開けて、CPUを取り外したことのある方なら、見覚えがあるはずだ。CPUというのは、上から見ると金属の平たいフタが付いている。そのフタを外すと、中には小指の爪ほどの黒っぽいシリコンのかけらが載っている。これが「半導体チップ」、いわゆる回路そのものだ。

では、そのチップは何の上に載っているのか。フタと同じくらいの大きさをした、緑色や黒っぽい薄い板。これが「パッケージ基板」であり、新光電気工業が80年かけて磨いてきた製品である。

役割は大きく四つある。壊れやすいチップに強度を与えること。湿気やゴミから守ること。チップの信号を外の基板へ受け渡すこと。そして、チップが出す熱を逃がすこと。新光電気自身が今年2月、経済産業省関東経済産業局の人材育成フォーラムで使った資料でも、まさにこの四つを挙げて「半導体の入れ物」と説明している。

ただ「入れ物」という言葉は、いまや実態を表していない。チップの裏側には、数千から数万の極小の端子が並んでいる。パッケージ基板は、その一本一本を受け止め、太さの違う配線に乗せ換えて、外の世界へ送り出している。都市にたとえるなら、チップが超高層ビルで、パッケージ基板はその下に敷かれた地盤と、上下水道と、道路網をぜんぶ兼ねている。ビルだけ立派に建てても、地盤と道路が追いつかなければ、そのビルは機能しない。

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AIが、この地味な板を主役に変えた

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十年前まで、この業界は華やかな話題とは無縁だった。パソコンやスマートフォンの出荷台数に連動して、静かに増えたり減ったりする部品産業である。それを引っくり返したのが、生成AIだった。

理由は、AI用の半導体の作り方が変わったことにある。かつては一枚のシリコンに演算もキャッシュも入出力も全部載せていた。ところが微細化が限界に近づき、大きな一枚を作ろうとすると不良品だらけになる。そこで業界が選んだのが「チップレット」という考え方だ。役割ごとに小さなチップを作り分けて、後から一つのパッケージの上で貼り合わせる。

さらにAIは、演算チップのすぐ隣に大量のメモリを置きたがる。HBMと呼ばれる、メモリを縦に積み上げた特殊な部品だ。演算チップ一つに対して、四個、六個、八個と数が増えていく。

結果として何が起きたか。パッケージが、どんどん大きく、どんどん厚くなった。新光電気の資料には、演算チップとHBMを四個並べた構成から、八個並べた構成へと、パッケージの平面図が段階的に膨らんでいく図が載っている。板が大きくなれば、熱で反る。反れば、その上に載せたチップの接合が外れる。だから板を硬くしなければならない。信号を通す配線も、幅十マイクロメートル程度あったものが、いまや二マイクロメートル、髪の毛の太さのおよそ四十分の一まで細くなっている。層の数も増え、二十層を超えるものが当たり前になってきた。

つまり、AI半導体の性能を決めているのは、もはやチップの微細化だけではない。その下に敷く板を、どこまで大きく、硬く、細かく作れるか。ここが勝負どころになった。だからこの数年、パッケージ基板メーカーの名前が、投資の世界で急に大きく扱われるようになったのである。

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電球の再生から始まった80年

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新光電気工業の出発点は、戦争が終わった直後の長野にある。

1946年、家庭で切れた電球を回収して再生する、いわば町工場のような事業所として始まった。その事業を引き継いで会社の形に整えたのが、同年9月12日。つまりこの記事が出るちょうど一週間後に、同社は創立80周年を迎える。今年4月に新しい企業理念を制定した際、会社は「私たちの原点は、電球の再生を通じて人々の暮らしに光をもたらすことにあった」と、その出自をあえて前面に出している。

会社の設立時には、富士電機の長野の拠点から設備と人を引き継いでいる。その富士電機の通信部門が分かれて生まれた会社が、富士通だった。ここから長い関係が始まる。1948年、通信機器用のランプの製造に成功して富士通へ納入。1957年には富士通が資本参加し、半導体分野へ足を踏み入れた。

その後の歩みは、半導体パッケージの技術史そのものだ。1966年に金属のパッケージ、1982年に多層セラミックのパッケージ、1995年に樹脂を使った有機の多層基板、そして2010年には基板の芯となる板を取り払った「コアレス基板」の量産にこぎつけた。素材が金属からセラミック、そして樹脂へと移り変わるたびに、新光電気は前の世代の製品も捨てずに残してきた。

その結果、いまの同社は少し変わった構成になっている。事業は大きく二つ。フリップチップ型パッケージ、いわゆるFC-BGA基板を中心とする「プラスチックパッケージ」と、リードフレームやヒートスプレッダー、そして半導体製造装置に組み込むセラミック静電チャックなどを扱う「メタルパッケージ」である。工場は長野県内に四つ、新潟県内に二つ、そのほか福島に開発拠点を持ち、連結でおよそ五千人が働く。

最後に公表された2025年3月期の売上高は、2,150億円である。

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富士通が手放した「虎の子」、6,850億円のディールの中身

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2023年12月12日、富士通は保有する新光電気工業株のすべてを手放すと発表した。買い手は、官民ファンドである産業革新投資機構JICの傘下ファンドを中心とした陣営。大日本印刷と三井化学が共同で出資し、買収総額はおよそ6,850億円とされた。日経ビジネスがこの案件を報じた記事の見出しは「ようやく売れた虎の子子会社」だった。富士通にとって新光電気は、2022年度には全社の営業利益のおよそ半分を稼ぐ存在だったからである。

取引の組み立て方が、この案件のいちばん技術的で、いちばん重要なところだ。

まず富士通は、公開買付け、いわゆるTOBには応じない。JIC側が設立したJICC-04という会社が、富士通以外の株主が持つ株だけを対象にTOBを行う。買付価格は一株5,920円。発表前日の終値5,240円に、およそ13%の上乗せをした水準である。そのうえで富士通が持つ50.02%は、新光電気自身が自己株式として買い取る。譲渡価額は2,851億円と開示された。

なぜこんな回り道をするのか。会社が自社株を買い取る形にすると、売り手である富士通側の税務上の扱いが変わり、手取りが厚くなる。そのかわり、新光電気は自分の懐から数千億円を払うことになる。実際、同社はこの支払いに必要な「配当できるお金」を作るために資本金を大幅に減らした。かつて242億円あった資本金は、2025年12月時点で3億円台まで縮んでいる。上場企業から、ファンドに買われた会社へ、財務の姿がそっくり入れ替わった瞬間だった。

スケジュールは、当初の予定から半年以上ずれ込んだ。当初は2024年8月にTOBを始める計画だったが、ベトナムと中国での競争法上の手続きが終わらず、二度にわたって延期された。日本の半導体部材会社を、政府系ファンドが買う。その事実が、海外の競争当局の審査を長引かせたことになる。

TOBが動いたのは2025年2月18日から3月18日まで。5,928万株あまりが応募し、JICC-04は43.87%を取得した。5月20日の臨時株主総会で株式併合を可決し、6月6日に上場廃止。その五日後の6月11日、新光電気は富士通が持つ株の買い取りを実行し、富士通の持ち分はゼロになった。富士通はこの売却で、2026年3月期におよそ1,400億円の売却益を計上している。

出資比率は、JICのファンドが80%、大日本印刷が15%、三井化学が5%。金額でいえば大日本印刷がおよそ857億円で、同社にとって過去最大のM&Aとなった。三井化学がおよそ350億円。この二社はどちらも半導体材料を成長分野に据えており、単なる出資者ではなく、基板の中身を一緒に作る相手として名を連ねた形だ。さらにここに、長野の地域金融である八十二銀行系のファンドも加わっている。地元企業を地元の金融機関が一部支える、という絵柄も含まれていた。

なお、この案件には米国のKKRなど海外ファンドも名乗りを上げていたと、東洋経済オンラインが倉嶋進社長への取材として報じている。倉嶋社長は、価格だけでJICを選んだのではなく、投資先を成長させて回収するという使命を持つファンドである点を評価した、という趣旨の説明をしている。

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なぜ官民ファンドが買ったのか、そして業界は何を警戒したのか

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JIC側が掲げた買収の理由は、経済安全保障の文脈にある。先端半導体の三次元実装や光電融合といった領域で日本の技術を維持すること。重要技術が海外へ流出するのを防ぐこと。そして、短期の業績に縛られずに中長期の競争力向上に取り組める環境を作ること。日経クロステックはこの案件を伝える記事のなかで、野村総合研究所の見立てとして、先端パッケージ基板ではイビデンと新光電気の二社で世界シェアのおよそ8割を握る、と紹介している。国が守りたくなる理屈は、たしかにある。

一方で、業界の受け止めは割れた。日刊工業新聞のニュースイッチが伝えた現場の声は、なかなか辛辣だ。JICは2024年に半導体材料のJSRも買収している。ある化学業界の幹部は、JSRについて「海外の顧客が極めて慎重になっている」と語ったという。有事に政府が供給に介入するのではないか、という懸念である。再編の効果そのものへの疑いも紹介されている。二社が一社になれば取引先は必ず発注を絞る、だから一足す一は二にならず一・五にしかならない、という指摘だ。国主導の再編が必ず成功するわけではないことは、ジャパンディスプレイという先例が示している、とも書かれている。

ここは、新光電気にとって軽い話ではない。同社が上場していた最後の有価証券報告書、2024年3月期の開示では、売上の10%以上を占める顧客としてインテル、AMD、そしてラムリサーチの三社が名前を挙げられている。いずれも米国企業だ。政府系ファンドが100%株主である、という事実は、この顧客構成の会社にとって中立な情報ではない。

そして、JICは出口も明言している。事業成長と企業価値向上が実現したのちに再上場を行うことを基本方針とする、という表現が、新光電気のIRサイトにいまも残っている。倉嶋社長自身は、上場廃止から「5年を目安に、できるだけ速やかに再上場を目指す」と2024年春の時点で語っていた。逆算すると、2030年前後が一つの節目になる。

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イビデンが先に走った──AI基板でついた差

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さて、記事のタイトルにある「主導権」の話に入る。

結論から言えば、いまのところ先を走っているのはイビデンである。しかも、差は開いている。

イビデンが2026年8月4日に発表した2026年4〜6月期は、売上高1,232億円、営業利益269億円。売上高営業利益率は21.8%まで上がった。とりわけ電子事業は売上775億円と3割以上伸び、全社の売上の63%、営業利益のおよそ8割を叩き出している。同社は同じ日に通期の見通しを引き上げ、売上高を5,000億円から5,500億円へ、営業利益を900億円から1,270億円へと、一気に4割以上積み増した。8月下旬の時価総額はおよそ5兆4,000億円。株価は年初来安値の3倍近い水準にある。

対する新光電気の最後の決算は、2025年3月期の売上高2,150億円、営業利益253億円である。しかもその中身を分解すると、投資家にとって見過ごせない事実が出てくる。

同社をセグメント別に見ると、FC-BGA基板を含むプラスチックパッケージは売上1,226億円に対して経常利益が53億円。利益率にして4%台である。ところが、セラミック静電チャックやヒートスプレッダー、リードフレームを扱うメタルパッケージは、売上841億円に対して経常利益202億円。利益率は24%に達している。

つまり買収が実行された時点の新光電気は、AI向けパッケージ基板で儲けている会社ではなかった。稼ぎ頭は、半導体製造装置に組み込む部品のほうだったのだ。JICが手にしたのは、装置部品で堅く稼ぎながら、AI基板という大きなオプションを抱えた会社である。ここは、この案件を「AI基板の会社を国が買った」と要約してしまうと、完全に見落とす部分だ。

なお、FC-BGA基板を持っていれば自動的に勝てるわけではないことは、京セラが証明してしまった。同社の有機基板事業は、AIサーバーではなく汎用サーバー向けに軸足を置いていたため、需要がAIへ一気に移った局面で取り残された。半導体関連部品のセグメントは減損を含めて278億円の赤字に沈み、2025年5月には鹿児島の生産を2029年3月期までに終えて京都と富山に集約すると発表している。物言う株主のオアシス・マネジメントは、集約では足りない、事業から完全に撤退せよと迫った。

同じ「FC-BGA基板メーカー」という肩書きでも、AIの本流に載れたかどうかで、これだけ運命が分かれる。イビデンが載り、京セラが外れた。新光電気は、その中間にいる。

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詰まっているのは工場ではなく、材料だった

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ここで供給網の話をしておきたい。この産業のいちばん面白いところは、ボトルネックが基板工場ではなく、その手前の材料にあることだ。しかも、その材料をほぼ日本企業が握っている。

まず、層と層のあいだを絶縁するフィルム。これは味の素グループが作る「ABF」、味の素ビルドアップフィルムという製品が、高性能CPU向けでほぼ100%のシェアを維持している。うま味調味料の会社が、AI半導体の中身を独占しているという、業界では有名な話である。

次に、基板の芯に入れるガラスの布。大きなパッケージが熱で反らないようにするには、熱で伸び縮みしにくい特殊なガラス繊維が要る。日東紡がこの「Tガラス」で世界シェアの9割前後を握るとされる。ところがこの会社は、需要が爆発しているにもかかわらず、能力を大きく増やさない姿勢を崩していない。2026年5月と8月の二度、日経はこの「増産なし」を材料に同社株が急落したと報じている。売り手が意図的に絞っているのだから、詰まりは簡単には解けない。

三つめが、極薄の銅箔。配線を細くするには、薄い銅を精密に扱う必要があり、三井金属鉱業の「マイクロシン」というキャリア付き極薄銅箔が事実上の独占状態にある。同社は2026年8月7日、AIデータセンター向けの銅箔類に2030年度までで総額420億円を投じると発表した。マイクロシンだけで300億円を充て、生産能力を6割増やす計画だ。

こうした材料の目詰まりが、基板そのものの需給にそのまま出る。台湾メディアが伝える市場調査では、ABF基板の需給は2026年こそ供給がわずかに上回るものの、2027年には需要が供給を2割以上超え、2028年にはその開きが3割近くまで広がると見込まれている。台湾のユニマイクロン、キンサス、南亜電路板の三社はすでに事実上の完売状態で、エヌビディアが長期契約と前払いで能力を押さえに動いているとも報じられている。

新光電気が新しい工場棟を立ち上げようとしているのは、まさにこの「これから足りなくなる」局面である。追い風は吹いている。問題は、その風をつかまえる製品を持っているかどうかだ。

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新光の反撃、三つの賭け

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新光電気が仕掛けているのは、イビデンと同じ土俵で正面から量を競うことではない。次の世代の技術で先回りする、という賭けを三つ並べている。

一つめが「i-THOP」と名付けた基板である。AI半導体では、演算チップとHBMを極細の配線でつなぐために、いまはシリコンで作った「インターポーザー」という中継板を挟むのが主流だ。ただしシリコンは高いうえ、大きくすると作りづらい。i-THOPは、この中継板の役割を果たす超微細な配線層を、樹脂の基板の上に直接作り込んでしまう。配線の幅と間隔は二マイクロメートル。シリコンの中継板を樹脂で置き換えられれば、コストも大きさの制約も一気に変わる。

そしてこのi-THOPの量産のために用意されているのが、長野県千曲市の工場に建てる新しい棟だ。投資額は533億円。経済安全保障推進法にもとづく「供給確保計画」に認定され、国が最大178億円を補助する。供給開始の目標は2029年7月とされている。

二つめが、ガラスコア基板である。樹脂の芯をガラスに置き換えると、反りにくく、寸法が安定し、パッケージを大きくしやすい。新光電気は今年7月のアドバンスト・パッケージング・サミットで、片面11層ずつ、合計22層を積み上げたガラスコア基板を披露した。ガラスは熱をかけると端から欠けたり剥がれたりするのが最大の難所だが、端を樹脂で補強して応力を逃がすことでこれを抑え込んだ、と説明している。

ここは国際競争が激しい。インテルは2026年5月の国際学会ECTCで、既存の生産ラインでガラスコア基板を使ったパッケージを作る技術を確立したと明らかにし、量産は2030年ごろを見据えている。韓国SKグループのアブソリクスは米国ジョージア州に工場を構え、CHIPS法から7,500万ドル、日本円でおよそ120億円の支援を受けて、2026年中の生産入りを狙う。サムスン電機は住友化学系の東友ファインケムと「GlaSSEM」という合弁を立ち上げた。資本金はおよそ4,800億ウォン、日本円にしておよそ550億円規模である。ただしこちらは立ち上げ時期が三度後ろにずれ、量産目標は2028年になったと韓国メディアが報じている。皮肉なことに、日本の化学会社の韓国子会社が、韓国勢の追い上げを支える構図でもある。そして新光電気の株主である大日本印刷自身も、埼玉にガラス基板の試作ラインを持ち、2028年の量産を目指している。

三つめが、光電融合だ。パッケージの中の配線を、銅から光に置き換える。距離が伸びても信号が減衰しにくく、消費電力が劇的に下がる。新光電気は、光の通り道を作り込んだパッケージ基板を開発中で、加えて自社が長年スマートフォン向けに出荷してきた積層パッケージ技術を、光と電気を一つのパッケージに収める「CPO」の組み立てに応用しようとしている。

すでに具体的な案件が動いている。NTTイノベーティブデバイスが手がける光電融合デバイス「PEC-2」を使った通信スイッチだ。ブロードコムがASICを、台湾のアクトンが筐体を担い、新光電気が基板の製造とCPOモジュールの組み立てを受け持つ。毎秒102.4テラビットという伝送容量を、従来より大幅に少ない電力で実現する製品で、2026年の第4四半期に商用サンプルの提供が見込まれている。

この分野で新光電気が狙っているのは、TSMCの正面ではない。開発統括の執行役員は日経クロステックの取材に対し、スタートアップの製品や試作、少量生産といった、TSMCが受けきれない仕事を取りにいくと語っている。エヌビディアやブロードコムにとっての二番手、三番手の供給元になることは、顧客にとってもエコシステムにとっても意味がある、という主張だ。「TSMCにはない魅力を」という言い方に、この会社の現在の立ち位置がよく表れている。

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強みと課題──総合力の会社が抱える一本足

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強みから整理する。

第一に、扱える技術の幅が異常に広い。金属、セラミック、樹脂という三系統のパッケージを全部持ち、そのうえIC組み立てまで自社でやる。リードフレームからガラス端子、ヒートスプレッダー、そして半導体製造装置に入るセラミック静電チャックまで作っている会社は、世界を見渡してもほとんどない。80年ぶんの工程ノウハウが、そのまま参入障壁になっている。

第二に、その幅が財務の安定装置として効いている。すでに見たとおり、AI基板の利益が薄い局面でも、装置部品のメタルパッケージ事業が利益の大半を支えた。基板一本足のメーカーが景気の谷で赤字に沈むなか、この会社は谷でも黒字を維持できる。

第三に、国が背中を押している。千曲の新棟には最大178億円の補助が付き、投資回収に時間がかかる次世代技術に、短期の株価を気にせず金を投じられる立場を手に入れた。上場企業のままなら、これほどの投資を株主に説明し続けるのは容易ではなかっただろう。

では課題は何か。

最大の課題は、顧客の偏りである。2024年3月期の開示で、インテル向けが538億円、AMD向けが264億円、ラムリサーチ向けが225億円。この三社だけで売上のおよそ半分を占める。とくにインテルは、2022年3月期には一社で1,000億円を超えていた大口顧客だが、そのインテル自身がいま、次世代プロセスの外部顧客を確保できるかどうかという正念場に立っている。新光電気の業績は、長らくインテルの調子とほぼ同じ波形を描いてきた。この一本足を、AI向けの新しい顧客でどこまで置き換えられるか。ここがすべてと言っていい。

第二に、規模の差だ。イビデンは2026年度からの三年間で電子事業に約5,000億円を投じる計画を決議している。第一弾として岐阜・大垣の河間事業場に約2,200億円、第二弾として大野事業場に約2,800億円。しかもイビデンは、顧客に投資相当額を負担してもらい、その一部を前受金として受け取る方式をとっており、前受金の残高は2026年6月末で1,545億円まで積み上がった。顧客の金で工場を建てているのである。対する新光電気は、富士通株の買い取りで数千億円を吐き出した直後に、設備投資の山を迎えることになる。同じように顧客が前払いする仕組みを取り付けられるかどうかは、今後を占ううえで決定的に重要だ。

第三に、政府系ファンドが100%株主であること自体のリスク。前述のとおり、上位顧客はすべて米国企業である。有事に日本政府の意向が供給に影響するのではないか、という疑念は、JSRのケースで実際に指摘された。技術流出を防ぐための買収が、顧客の分散を妨げるという逆説を含んでいる。

第四に、情報が消えたことだ。新光電気はもはや四半期決算も通期見通しも公表しない。先端パッケージ基板の世界シェア8割を占める日本の二社、その片方が、外から数字を追えなくなった。これは投資家にとってだけでなく、この会社の技術を前提に製品を設計する顧客にとっても、判断材料が減ることを意味する。

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何を、いつ見ればいいのか

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決算という定点観測ができない以上、投資家や業界関係者は別の物差しを持つ必要がある。今後の見どころを時系列で並べておく。

まず今月、2026年9月12日に創立80周年を迎える。4月に制定した新しい理念で、会社は自らを「半導体の未来をつなぐイノベーティブカンパニー」と定義し直した。役員構成も入れ替わり、JICキャピタルのマネージングディレクターが取締役として社内に入って経営変革室を率い、大日本印刷の事業推進本部長が社外取締役に就いている。取締役会の議長は社外取締役が務める。ファンド傘下企業の典型的な体制が、一年かけて整った。

年内の最初の実弾は、光電融合だ。NTTイノベーティブデバイス、ブロードコム、アクトンと組んだ光電融合スイッチが、2026年第4四半期に商用サンプル提供の予定である。新光電気が基板とCPOモジュールの組み立てを担う。この製品が予定どおり出るかどうかは、同社が「光電融合のOSAT」を名乗れるかの最初の関門になる。

2027年は、需給が反転する年だ。ABF基板の需要が供給を2割以上上回るとの見方が広がり、日東紡の増設分が市場に出てくるのも2027年半ば。イビデンの河間事業場も2027年度から順次立ち上がる。基板が足りない世界で、新光電気にどれだけ声がかかるか。

2028年は、ガラスコアの決着がつき始める年になる。サムスン電機も大日本印刷も、量産の照準をここに合わせている。業界関係者が口を揃えて言うのは、勝敗を決めるのは技術の華やかさではなく、顧客の品質認定を先に通し、歩留まりを安定させられるかだという点だ。新光電気の22層という数字は、その競争で先行していることの証拠ではあるが、認定を通した証拠ではない。

そして2029年7月、千曲工場の新棟が供給を開始する予定になっている。i-THOPをはじめとする次世代FC-BGA基板の量産拠点だ。この立ち上がりが、JICの投資回収の成否をほぼ決める。

最後に2030年前後。倉嶋社長が語った「5年を目安」という再上場のタイミングと、JICキャピタルが基本方針として掲げる再上場が、視野に入ってくる。新光電気を丸ごと手に入れるのにかかった金額は、およそ6,850億円だった。同じ時期、イビデンの時価総額は5兆円を超えている。この差の一部でも埋められるなら、官民ファンドによる買収としては近年まれに見る好取引になる。埋められなければ、装置部品で堅く稼ぐ会社を高く買った、という評価に落ち着く。

答えが出るまで、数字はほとんど公表されない。手がかりは、補助金の認定書と、学会で発表される論文と、工場の求人と、地方紙が淡々と伝える人事の記事しかない。世界のAI半導体の土台を作る会社が、これから数年、そういう静けさの中で戦うことになる。


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