3Dデータを上げると1分で値段が出る——meviyという「売り場」

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meviyを一言で説明するなら、「カタログに載っていない部品を、カタログと同じ手軽さで買えるようにした売り場」である。使い方は拍子抜けするほど単純だ。無料のミスミ会員IDでログインし、設計した機械部品の3D CADデータをブラウザにドラッグ&ドロップする。材質や表面処理といった条件を選んで見積確定ボタンを押すと、およそ1分で価格と出荷日が画面に返ってくる。そのまま注文すれば、最短で翌営業日には部品が工場を出る。アカウント取得もサービス利用も見積もりも無料で、ユーザーが支払うのは部品代だけだ。

ここで消えているのは「2D図面を作る工程」である。従来、装置設計者が特注部品を発注するには、3Dで設計したモデルからわざわざ2D図面を起こし(現場でいう「図面バラシ」)、複数の加工会社にメールやFAXで見積もりを依頼し、数日かけて返ってきた回答を比較し、発注書を作る、という長い手続きが必要だった。meviyはこの一連の往復をまるごと省く。ミスミの説明では、設備1台に必要な1,500点の部品を調達する場合、設計から納品までに従来およそ1,000時間を要していたが、meviyを使うとその9割以上が消える。日本の製造業38万社に敷衍すれば年間3億8,000万時間、経済価値にして約2兆円分の時間が浮く計算になる、というのがミスミ側の主張である。

対応する加工の幅も広い。板金加工、板金溶接、切削加工(角物・丸物)、樹脂加工が中核で、2023年からは2D図面をアップロードして見積もる「meviy 2D」も加わった。公開されている加工事例を見ると、板金部品が参考価格6,542円で出荷日5日目、溶接部品が6,505円で6日目といった具合で、1個から発注でき、2個以上は数量割引が効く。急ぎなら最短1日目出荷の短納期サービス、コストを抑えたいなら納期を後ろ倒しにする納期割引サービスと、時間と価格のトレードオフをユーザー側で選べるようになっている。5軸加工や製缶、架台、3Dプリント、注型、射出成形といったmeviy本体では見積もれない加工は、後述する「meviyマーケットプレイス」が受け止める設計だ。

適用分野は自動車や半導体製造装置にとどまらない。2026年に入ってからは航空宇宙向けにアロジン処理相当(三価クロム化成処理)や不動態化処理といった表面処理を追加し、5月には宇宙産業向けの特設ページを公開した。食品工場の自動化装置、飲食・小売向けOMOソリューションを手がけるNew Innovationsの部品手配(負担を約9割削減)、スタートアップtonariの調達リードタイム4分の1化といった導入事例が、ミスミ自身のプレスリリースとして次々に出ている。

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二つの発明——AI自動見積もりと、人のいない工場

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meviyが単なる「見積もりサイト」と決定的に違うのは、注文の後ろ側にミスミ自身の工場がつながっている点にある。ミスミはこれを、AI自動見積もりと並ぶ「もう一つの革新」と位置づける。

前段の仕組みはこうだ。アップロードされた3Dモデルの形状をシステムが認識し、製造可否をその場で判定する。加工できない形状であれば、その理由をメッセージで返すため、設計者は画面を閉じずに設計を直せる。この「なぜ作れないか」を返す機能は、若手技術者にとっては加工知識を学ぶ教材にもなっている。製造可能と判定されれば価格と納期が即座に確定する。

後段はさらに独特だ。受注と同時に設計データが工場へ送られ、工作機械を動かすための加工プログラムが自動生成される。ミスミが2023年11月に初公開した「meviyデジタルマニュファクチュアリングシステム」は、DDS(Digital Dispatch System)が材料投入を自動管理し、ウォータージェット加工で材料のムダを抑えながら最適形状に切り出し、工程間は自動走行ロボットが無人搬送する、という構成である。母工場は駿河生産プラットフォームの清水工場で、ベースにあるのは「どの商品がいつ、どれだけ受注されるか分からない状況でも標準納期2日、納期遵守率99.96%」を支えるミスミ生産方式だ。この無人生産システムは特許を取得しており、変種変量生産で確実短納期を成立させるための、他社が容易に模倣できない資産になっている。

2026年に入って、この二段構えの上にAIの層がさらに重ねられた。2月24日にはLLMを活用したAIチャットボットを本格搭載している。meviyは機能拡充を重ねた結果、技術・操作マニュアルが300ページを超え、「必要な情報にたどり着くまでに時間がかかる」という声が増えていた。生成AIコンサルティングのEdgeXと共同開発した専用チャットボットは、この300ページ超を学習し、根拠となる表や参照リンクを併記しながら回答する。複数のAIエージェントによる自動検証とマニュアルの自動更新連携で品質を保つ設計だという。

3月には欧州向けブログが「meviy v3」と呼ぶアップデートが入った。狙いは「ゼロタッチ製造」、つまりアップロードから価格確定までの人手を消し去ることにある。それまで設計者が精度の必要な穴を一つずつ選んで公差を手入力していた作業を、CADの色属性や穴タイプの紐づけ情報から自動認識し、原点からの位置寸法と公差を自動付与する。ユーザー設定で「自動付与しない」「公差まで設定する」「寸法のみ付与する」の三段階を選べるようにし、iCADやSolidWorksを規律よく使っているヘビーユーザーほど「ワンクリック見積もり」に近づく仕立てになっている。同じ3月には図面データ検索AI「meviy Finder」が手書き文字を含む図面情報のデータ化に対応し、CSVで調達実績を図面に一括で紐づけられるようになった。設計データという資産を「保管する」対象から「検索して再利用する」対象へ移す動きである。

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数字で見るmeviy——年商177億円、利用者24万人、2030年に2,000億円

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ここからは決算資料に即して、meviyの実像を数字で確認する。ミスミは成長戦略の核を「デジタルモデルシフト」と呼び、その内訳を四半期ごとに開示している。これは日本の製造業関連企業としては珍しい水準の粒度で、実際、経済産業省・東京証券取引所・情報処理推進機構による「DX銘柄2026」の選定でも、投資家との積極的な対話とデジタルモデルシフトの定量的な開示が評価ポイントに挙げられた。ミスミは選定30社のうち3社だけが選ばれる「DXグランプリ2026」に選出されている。

2026年3月期の実績を見ると、連結売上高は4,413億円(前年比9.8%増)、営業利益は476億円(同2.4%増)、純利益は404億円(同10.7%増)。このうちデジタルモデルシフト関連は642億円で、前年比81.6%増と全社を大きく上回るペースで伸びた。内訳はオンライン加工事業が321億円(meviy 177億円+Fictiv 143億円)、中国発の低価格帯商品群「エコノミーシリーズ」が183億円、大量調達を短納期でさばく「D-JIT」が138億円である。KPIとしてはmeviyの累計利用者数24万人(前年比26.3%増)、Fictivの顧客数約2,000社、エコノミーシリーズの顧客数9.5万社、D-JITのサイバーネットワーク調達連携700社超が併記されている。

もっとも、meviy単体の177億円は前年比11.2%増にとどまり、期初計画の219億円には届かなかった。ミスミは未達要因を「国内EV市況の減速影響」と説明している。この一点だけを見れば、meviyは「毎年倍々で伸びる新規事業」ではなく、顧客業界の設備投資サイクルに素直に連動する事業だということが分かる。

局面が変わったのは2027年3月期に入ってからだ。第1四半期(2026年4〜6月)の連結売上高は1,314億円(前年比32.3%増)、営業利益178億円(同85.3%増)、営業利益率13.6%と、いずれも四半期ベースで過去最高を更新した。デジタルモデルシフトは204億円(同85.4%増)まで拡大し、うちmeviyは46億円(同13.6%増)、Fictivは49億円である。meviyの13.6%増という数字は一見おとなしいが、北米事業をFictivへ一本化した影響を除けば前年比24.1%増になる。エコノミーシリーズは67億円(同72.7%増)、D-JITは41億円(同37.1%増)と、いずれも計画を上回った。

7月31日、ミスミは4月30日公表比で営業利益を120億円積み増し、2027年3月期の通期見通しを売上高5,320億円(前年比20.5%増)、営業利益670億円(同40.7%増)、営業利益率12.6%、純利益448億円へ上方修正した。AI関連投資を背景としたデータセンター・半導体向け需要の取り込みと、デジタルモデル施策の想定を上回る発現が理由である。デジタルモデルシフトは912億円(同42.0%増)へ引き上げられ、meviyは231億円(同30.6%増、北米除きで41.8%増)、Fictivは229億円(同59.6%増)が計画値となった。

そしてミスミは、この事業をどこまで持っていくつもりなのかも言明している。2026年1月にDave Evans氏の米州事業社長就任を発表した英文リリースの中で、同社はmeviyを筆頭とするデジタルモデル事業が2025年度に前年比80%増の621億円へ拡大する見込みだとしたうえで、2030年度に2,000億円へ到達することを長期目標に掲げた。会社全体の売上が2027年3月期見通しで5,320億円であることを踏まえれば、2030年度にはデジタルモデルが売上の相当部分を占める姿を描いていることになる。同リリースはあわせて、ミスミのデジタルサービスに毎日およそ1万件のCADファイルが投入されており、これが世界有数の製造設計データセットを形成してAIによる見積もり・製造性解析・工程最適化を支えている、と説明している。

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「そんな夢みたいなシステム、作れるはずがない」——meviy誕生秘話

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meviyの立ち上げを指揮したのは、ミスミグループ本社の吉田光伸氏である。国内大手通信会社と外資系ソフトウェアベンダーを経て2008年にミスミへ入社し、国内事業の再構築と中国事業を担当した後、新規事業としてmeviyを立ち上げた。2018年にはmeviy事業を担う「ID企業体」を設立してその社長を兼務した。

吉田氏が製造業に転じた動機は明快だ。日本の強みである製造業がITを使いこなせていないことを「非常にもったいない」と感じていた、と経済産業省のMETI Journalのインタビューで語っている。ミスミは1977年のカタログ創刊以来、商品バリエーションを800垓(がい、1兆の8,000万倍)にまで広げてきたが、それでも顧客ニーズの半分程度しか満たせていなかった。標準化しきれない一点物の特注加工品が、カタログの外側に膨大に残っていたからだ。「電気・ガス・水道・ミスミ」と呼ばれるほど製造業のインフラを担う企業として、この領域の非効率を放置するのは責任放棄に等しい——それが出発点だった。

発想の転換は、カタログを拡張するのではなく、顧客が描いた形をそのまま受け取ることだった。3D設計データをアップロードしてもらい、AIが即座に価格と納期を算出し、短納期・低コストで届ける。カタログの利便性を、カタログに載らない部品に対して再現する、という逆転である。

ところが、この構想を実装できる会社が見つからなかった。Webシステムと3D CADと実際の製造をすべて理解して構築できる企業など存在しない、と大手を含めてことごとく断られた。吉田氏の言い方を借りれば、「やりたい」というwillと「やるべき」というmustは十分だったが、「やる」ためのcanに見通しがまったくなかった。

ここから始まったのが、日経クロステックが「わらしべ長者作戦」と紹介した世界行脚である。吉田氏は「ゼロイチとは組み合わせである」という自身の経験則に従い、必要なピースを世界中から探して回った。3Dデータを扱うには数学が要る、ならば数学に強いインドへ行ってみよう、という具合だ。フランスの技術企業、スタンフォード大学の研究者らも加わり、最終的には12か国にまたがる開発チームが組成された。組織ではなく「この会社のこの人」という唯一無二の人材に賭けたことが、不可能を可能に変えたと同氏は振り返る。

もう一つの難関は、技術者が大切な設計データをクラウドに上げてくれるかという心理的障壁だった。通信の暗号化やVPC(Virtual Private Cloud)による外部遮断といったセキュリティ設計をきちんと伝えることに注力し、サービスがイノベーティブであるほど生じる抵抗感を、便益の大きさで上回らせる、という戦い方をした。

サービス開始は2016年。当初は金型用部品からで、2019年に切削加工(角物)と板金加工を投入して本格展開が始まった。2022年に切削加工(丸物)、2023年に溶接加工を追加。この間、2018年には累計アップロードデータが100万件を突破し、2023年には利用者10万人・アップロード1,000万件を超えた。2023年1月には、吉田氏とチームメンバー3名が第9回ものづくり日本大賞で最高賞にあたる「内閣総理大臣賞」を受賞している。

ちなみにmeviyというブランド名には「∞(無限大、メビウスの輪)」の想いが込められており、その8を数字に見立てて「∞×∞=創造性の開放」という意味づけから、8月8日が「メビーの日」に制定されている。2026年は令和8年8月8日と8が三つ並ぶ年にあたり、ミスミは「その一歩が、未来を創る」と題した投稿企画を7月8日に始動、8月7日には特設ページを公開した。応募は8月28日まで受け付け、9月に受賞投稿が発表される予定だ。マーケティング面では、YouTubeチャンネル「メビプレス編集部」が2026年4月にチャンネル登録者10万人を突破している。

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三住商事からミスミグループへ——63年の助走

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meviyの飛距離を理解するには、その助走路となったミスミ本体の歩みを押さえておく必要がある。

創業は1963年2月、社名は「三住商事」。創業者の田口弘氏が、三井物産・三菱商事・住友商事のような大企業を目指して各社から「三」と「住」の字を採ったものだ。1965年にプレス金型用部品の販売を始め、1977年にプレス金型用標準部品カタログを創刊。以後、1985年にプラスチック金型用、1988年にFA用メカニカル標準部品と、カタログの版図を広げていく。1989年に「ミスミ」へ商号変更し、1994年に東証二部、1998年に一部へ上場した。田口氏が掲げた「持たざる経営」のもと、生産機能も倉庫も持たない流通業として、2002年までに500億円企業へと成長する。

転機は2002年、田口氏がボストン・コンサルティング・グループ日本第1号コンサルタントで事業再生の専門家として知られた三枝匡氏をCEOに招いたことだった。三枝氏は340人の商社だったミスミを、グローバル1万人超の国際企業へと押し上げる。2005年には駿河精機を買収すると同時に持株会社体制へ移行し、カタログと在庫と物流だけを担ってきた流通会社に自社製造機能を取り込んだ。品質・コスト・納期を製造段階から制御できるこの「メーカー機能と商社機能の両立」こそが、後にmeviyを成立させる土台になる。

2010年には他社ブランド品を扱うVONA事業を開始し、2012年には米ダイトンプログレスとアンカーラミナを買収。2016年にmeviyが産声を上げ、2022年4月には東証プライム市場へ移行した。2025年6月には米Fictivの買収を完了している。

経営体制も2026年に大きく動いた。2月19日、12年4か月にわたり社長を務めた大野龍隆氏が取締役兼取締役会議長へ、後任に清水新氏が昇格する人事が発表され、4月1日付で就任した。清水氏は1972年6月生まれの山梨県出身。1997年に成蹊大学工学部を卒業して現アクセンチュアに入社し、2005年にエグゼクティブパートナー、2015年に戦略コンサルティング本部統括本部長・執行役員を務めた後、シーオスの代表取締役副社長COOなどを経て2020年6月にミスミの社外取締役に就任。2024年6月に専務取締役・CIO、2025年10月に取締役兼専務執行役員CIOとなり、社長に就いた。つまりミスミは、生え抜きではなくIT/コンサルティング出身でCIOを務めた人物をトップに据えた。同じ3月10日には、三枝匡氏が名誉会長を退任し特別顧問・第2期創業者へ就任することも発表されている。

清水社長は就任後の日本経済新聞電子版特集(2026年7月6日公開)で、就任直後から世界各地を視察して回っていること、米国ではヒューマノイド・航空宇宙・電動モビリティーが爆発的に成長しており、中国のスピードとコスト構造にはなお優位性があり、ベトナムやインドの熱気にも圧倒された、と語っている。ミスミを端的に表すなら「設計者・製造者のマニアックな要求に応える会社」だという自己規定も示した。

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海外進出とFictiv買収——北米でmeviyを畳んだ意味

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meviyの海外展開は、2021年の欧州を皮切りに、2022年に北米、2023年に中国とアジア、2024年に韓国へと広がった。欧州では現在、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ポーランド語の6言語でサービスサイトが運営されている。ドイツやフランス、イタリア、英国のほか、スイス、オーストリア、オランダ、ハンガリー、ポーランド、チェコなどが対象で、多言語化は2025年10月に3druckなど欧州の業界メディアが報じた。同社の欧州ブログは、CNCの公差、六価クロムからの脱却、板金の曲げといった技術記事を毎週のように出し、設計者コミュニティに直接語りかけるコンテンツ戦略をとっている。

しかし、海外展開の最大の転換点は欧州ではなく北米で起きた。2025年4月17日、ミスミは米Fictiv Inc.を総額3億5,000万ドル(同社開示では1ドル143.23円換算で約501億円)で買収すると発表し、6月に完了した。Fictivは2013年8月設立、米国・中国・インド・メキシコの4拠点に約400名を擁し、世界に約250社の製造パートナーネットワークを持つ、カスタム機械部品のオンライン調達サービス企業である。累計で4,000万点以上の商用・試作部品の製造を支援してきた。ミスミは買収の狙いを「meviyをはじめとするデジタルサービスの強化と顧客ドメインの拡大」と説明し、提供価値を設備製造の領域から、よりバリューチェーン上流の商品開発領域まで一気に広げると位置づけた。

そのうえでミスミは、北米のmeviyを畳んだ。米国向けmeviyは2026年3月16日に手動見積もりの受付を止め、4月17日に顧客インターフェースを恒久停止、5月16日を最後に新規注文を締め切った。それ以降、北米の特注加工品はFictivに一本化されている。決算資料が「北米事業はFictivへ一本化」と一行で書いている変更は、実務的には自社ブランドのサービスを市場から引き上げるという、それなりに重い決断である。米国では、meviyの見積もりが対応していたCNCと板金だけでなく、3Dプリント、射出成形、ダイカスト、ウレタン注型、溶接、組立まで扱えるFictivのほうが顧客の裾野が広い、という判断が働いた。

組織もこれに合わせて組み替えられた。2026年1月22日(日本時間29日発表)、ミスミはFictiv共同創業者兼CEOのDave Evans氏を米州事業MISUMI Americas Business Companyの社長に任命した。10年にわたりMISUMI USAを率いた芦田信之氏は2月末まで移行を支援して退任している。5月28日にはMISUMI Americasの正式発足が発表され、標準品3,000万点、コンフィギュラブル部品2,070万点、そしてFictivのAI駆動製造ネットワークを一つの窓口に束ねた。米国・メキシコ・中国・インド・日本の5極に製造ハブを持ち、250社超の拠点で1日20万件の出荷を回す体制である。6月1日には、標準品・コンフィギュラブル品・カスタム品をまたいだ調達判断を支援するAI「Compass AI」を含むプラットフォーム拡張を発表し、開発サイクルを30〜40%短縮し、BOM(部品表)総コストを15〜20%削減できるとする効果を掲げた(数値はいずれも同社の主張である)。

この米国向け発表で目を引くのは、ミスミが「10億ドル(1,500億円)のグローバル投資ビジョン」という表現を使っている点だ。日本の決算説明資料では同じ枠が「今後3年間で最大1,500億円の成長投資」と書かれている。同じ原資が、日本のIR文脈では中期の資本配分方針として、米国のPR文脈では米国投資を強調するメッセージとして、それぞれ語られている。日米で語り口を使い分けていること自体が、この会社が北米市場をどれだけ本気で獲りにいっているかの傍証だとも読める。

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業界地図——Xometry、Protolabs、そして退場した国内競合

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meviyが属するオンライン機械部品調達サービス市場は、テクノ・システム・リサーチの調査によれば、日本国内で2020年に9万3,400ユーザー(前年比153%)、2022年に14万7,400ユーザー(同122%)、2023年に17万5,100ユーザー(同119%)と拡大してきた。利用ユーザー数ベースのシェアは2020年に53.5%、2022年に57.0%、2023年に60.3%とmeviyが独走しており、ミスミは各種プレスリリースで「4年連続で国内シェアNo.1」と称している(脚注で引用されているのは2023年調査だが、meviyのサービスサイトでは2025年調査に基づく記載に更新されている)。

同調査で競合として挙げられていたのは、キャディのCADDi MANUFACTURING、CatallaxyのMitsuri、カブクのKabuku Connectである。このうち最大の対抗馬だったキャディは、2024年7月に祖業である部品・組立品の製造供給サービスを段階的に終了し、図面データ活用クラウド「CADDi Drawer」を軸とする製造業AIデータプラットフォームへ全面ピボットした。2025年3月にはシリーズCエクステンションとしてAtomicoをリードにエクイティ40億円、みずほ銀行など4行から長期デット51億円の計91億円を調達し、累計エクイティ調達額は257.3億円に達している。目標は2030年までにARR1,000億円のグローバルプラットフォームになることだ。

この一件は、業界構造を理解するうえで決定的に重要である。日本で最も資本を集めたスタートアップが「部品を実際に作って届ける」レイヤーから撤退し、「図面データを扱うソフトウェア」レイヤーへ移った。VCマネーは資本集約的で粗利率の読みにくい製造レイヤーを嫌い、ソフトウェアの粗利とマルチプルへ逃げた、と言い換えてもいい。結果として、国内で「注文を受けて実際に金属を削って出荷する」オンラインプラットフォームは、meviyがほぼ一人残る格好になった。ミスミが2022年に、ラピッドプロトタイピングの業務提携先だったプロトラブズの日本撤退という「アクシデント」を経験しながら、かえってユーザー数を伸ばした経緯も同じ文脈にある。

一方、海外に目を転じると景色は違う。米Xometryは2026年第2四半期に売上高2億2,930万ドル(約362億円、前年同期比41%増)、うちマーケットプレイス収益2億1,500万ドル(約339億円、同45%増)を計上し、4四半期連続で成長が加速した。調整後EBITDAは1,410万ドル(約22億円)で前年同期から1,020万ドル改善している。マーケットプレイスのアクティブバイヤー数は8万9,557(同20%増)、過去12か月の支出が5万ドル以上のアカウントは2,039(同23%増)に達した。同社は自社の推定TAMを2,750億ドル(約43兆円)とし、その1%未満しか取れていない、つまり見積もりがまだメールとローカル調達で回っている巨大なオフライン市場が残っている、と説明する。2026年はCEOが共同創業者のRandy Altschuler氏からSanjeev Singh Sahni氏へ7月1日付で交代し(2月24日発表、Altschuler氏は取締役会エグゼクティブ・チェアへ)、5月にはSiemensが5,000万ドル(約79億円)を第三者割当で出資、6月には公募増資で2億4,800万ドル(約391億円)を純調達した。四半期末の現金・有価証券は5億1,700万ドル(約815億円)に積み上がっている。同社は自らを「カスタム製造のインフラ層」と位置づけ、Siemens Design Centerのような他社プラットフォームへ自社の見積もり・調達インテリジェンスを埋め込む戦略を進めている。

米Protolabsは2026年第2四半期に過去最高の売上高1億4,930万ドル(約235億円)、非GAAP粗利率46.8%、非GAAP EPS 0.60ドル(前年同期比45.3%増)を計上し、通年の成長見通しを8〜10%へ引き上げた。同社は2026年2月に、自社工場生産とネットワーク充当をひとつの体験に統合するAI搭載プラットフォーム「ProDesk」を発表し、リアルタイム見積もりとDFM(製造性設計)解析を組み込んだ。インドにグローバル・ケイパビリティ・センターを設けてAI開発を加速させてもいる。

つまり、この業界には二つのモデルが並存している。自社工場を持って垂直統合するモデル(Protolabs、そしてmeviy)と、外部の加工会社ネットワークを束ねるマーケットプレイスモデル(Xometry、Fictiv)である。従来はどちらか一方を選ぶ話だった。ミスミはFictivを買い、meviyマーケットプレイスを立ち上げることで、両方を同時に運営する道を選んだ。

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サプライチェーン——自社工場、提携工場、そしてマーケットプレイス

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ミスミの供給網は、営業拠点65、生産拠点22、物流拠点20から成るグローバル5極生産体制が骨格だ。有事の際には生産工場を直ちに切り替えられる構成をとり、物流は自動化を導入したオペレーションを世界展開している。2025年6月には兵庫県川西市で西日本流通センターの起工式を行い、供給網の増強を進めている。2027年3月期第1四半期の海外売上比率は63.8%、通期見通しでは62.9%と、すでに事業の3分の2近くが海外だ。地域別の通期見通しは日本1,972億円、中国1,273億円、アジア894億円、アメリカ779億円、ヨーロッパ301億円である。

この物理的な供給網の上に、ミスミは三層のデジタル調達サービスを重ねている。

第一層がmeviy本体で、自社工場と提携工場で作る。第二層が2024年9月に開始した「meviyマーケットプレイス」だ。これは、ミスミが厳正な基準で選定した製造パートナーから、切削・旋盤・板金・板金溶接・3Dプリント・射出成形・注型・製缶・架台などをワンストップで調達できる、いわば日本版Xometryである。設計データをアップロードするとAIが条件に合うパートナーを最大3社まで自動提案し、パートナーごとの口座開設や契約手続きは不要、ミスミ会員IDだけで取引できる。見積回答は最短15分、最短1日目出荷、材料と表面処理の組み合わせは1万種類以上、最大対応サイズは4,000mmまで。ミスミの調査では、新規取引先1社と取引を始めるには探索・選定に80時間、契約手続きや口座開設に320時間、仕様の擦り合わせに80時間の計480時間を要していたが、マーケットプレイスならこれを0.5時間に圧縮できる——リードタイム99%削減という主張である。2025年7月にはAIによる製造パートナー自動提案機能、2026年3月には企業属性でスクリーニングする機能が追加された。

第三層が量産側の「D-JIT」である。顧客が1,000個を発注すると、A社在庫100個・B社在庫500個・C社在庫400個といった具合にアルゴリズムが在庫を組み合わせて即時回答する仕組みで、700社超の拠点とサイバーネットワークで連携している。「少量短納期のミスミ」から「大量でもミスミ」への転換を担う施策で、2025年3月に欧州、11月に米国・メキシコ、2026年3月にインドでサービスを開始した。

これらに加えて、間接材のトータルコストダウンサービス「MISUMI floow」が量産工場へ入り込んでいる。高頻度使用品は自販機型の什器から常時取り出せるようにし、中頻度品は定期便配送で欠品を防ぎ、都度調達品はECと専任担当が受ける、という三段構えだ。2025年から2026年にかけて、ソミック石川、グリコマニュファクチュアリングジャパン、放電精密加工研究所、東プレ岐阜事業所、石井精工葛飾工場、ジェイテクト亀山工場と、導入事例が続いている。

そして2026年6月30日、ミスミは供給網の外側にもう一歩踏み出した。生産管理システム大手のDAIKO XTECH(rBOM)およびテクノア(TECHS-S NOA)との3社業務提携である。両社は生産管理システム分野で合計約4,700社の国内導入実績を持ち、そこにミスミの3,000万点超の商品データベースがAPI直結する。ユーザーはミスミECサイトを開かずに、日常的に使っている生産管理システムの画面上で価格・納期・廃番をチェックし、見積・発注・受入まで完結できる。購買部門の生産性を最大2倍にすることを見込み、今後5年間で新たに国内1,000社超への導入を目指すという。生産材ECと生産管理システムのベンダーがコンソーシアムを組むのは初めてで、狙いは「新たな業界標準の構築」だと明言されている。これは、meviyという自社の売り場に顧客を呼ぶ発想から、顧客がすでに使っているシステムの中へミスミを埋め込む発想への転換であり、Xometryが「インフラ層」を標榜してSiemensのツールに入り込もうとしているのと、構図としては相似形である。

需要側では、成長産業への布石も打たれている。2026年7月31日、ミスミはデータセンター向け自動ステージとヒューマノイド産業関連部品の需要拡大を見据え、46億円の増産投資を決定した。1月に決めた20億円の投資と合わせ、2027年度には供給能力を2025年度比で3倍程度に引き上げる計画である。通信・データセンター関連向けの自動ステージは第1四半期に前年比2.5倍程度の売上となり、通期計画も当初の1.5倍から2倍程度へ引き上げられている。アグリテック領域ではOishii Farmとの資本業務提携を通じて植物工場の共同研究に取り組み、ロボティクス・ヒューマノイド分野では関連企業との資本業務提携を検討中としている(2026年4月末時点で具体的な決定事項はないとされる)。

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強み——「無限大の商品」を売る会社の堀

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投資家の目線でmeviyの競争優位を分解すると、少なくとも四つの層が積み重なっている。

第一に、需要側の既存基盤である。ミスミの販売先社数は2026年3月期で33万9,377社(前年比4.8%増)。meviyは、この巨大な既存顧客基盤に対して、新たに口座を開かせることなく提供できる。同じミスミ会員IDでログインでき、標準品とまとめて発注でき、支払いもミスミの口座で済む。オンライン調達サービスにとって最大のコストである「新規取引先の開拓」を、ほぼゼロで済ませられる構造だ。純粋なスタートアップがこの摩擦を乗り越えるのに何年もかかることを考えれば、ここは相当に深い堀である。

第二に、供給側の垂直統合である。マーケットプレイス型のプレーヤーは、注文が来ても外部工場の空き状況と品質にリードタイムを握られる。meviyは母工場を自社で持ち、無人化された生産システムで変種変量を回す。標準納期2日、納期遵守率99.96%というミスミ生産方式の数値は、外部委託だけでは再現しにくい。価格競争になったときの原価コントロールも、自社工場を持つ側に分がある。

第三に、データである。ミスミのデジタルサービスには毎日約1万件のCADデータが投入され、meviyだけでも累計3,000万件超の設計データがアップロードされてきた。この設計データと、実際に加工して出荷した結果(加工可否、原価、リードタイム、不良)が紐づいている点が本質的に重要だ。見積もりの精度、製造性判定の精度、工程最適化の精度は、このデータ量に比例して改善する。meviy v3の「ゼロタッチ」自動公差付与も、meviy Finderの図面読み取りも、この蓄積の上に立っている。競合が同じ精度に追いつくには、同じ量の「設計データ×実製造結果」のペアを集める必要があり、それには時間がかかる。

第四に、課金モデルである。meviyもmeviyマーケットプレイスも、アカウント取得・サービス利用・見積もりのすべてが無料で、収益は部品代からしか取らない。SaaSのようなサブスクリプション収益はないが、その代わり導入障壁が限りなく低く、設計者が個人単位で使い始められる。テクノ・システム・リサーチが2023年の調査で「教育機関やスタートアップといった新しい分野でユーザー獲得に成功している」と指摘したのは、この無料モデルの帰結である。ミスミは2025年6月から教育機関向け支援プログラム「meviy for education」も公募している。将来の設計者を学生のうちに囲い込む施策だ。

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課題——価格、未達、黒字化、そして開示

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一方で、投資判断の材料としては、いくつかの弱点も直視しておく必要がある。

まず価格である。現場からは「meviyの提示価格は正直安くはない」という声が繰り返し出ている。町工場の視点で書かれた記事では、加工屋から見れば一般的な単価と合わないという率直な指摘もある。meviyが売っているのは部品ではなく時間であり、即時見積もり・即時発注・設計変更への即応という価値に対価が乗っている以上、これは仕様に近い。ただし、同じ「時間」を売るサービスが増え、価格が下がっていけば、この構造は揺らぐ。実際、Xometryは調達サイクルの短縮とAIによる動的値付けを武器に、パラメータごとに部品価格を算出する新世代のコストモデルを投入している。

次に、成長率のブレである。2026年3月期のmeviyは、期初計画219億円に対して実績177億円と大きく未達に終わった。国内EV市況の減速という外部要因ではあるが、裏を返せば、meviyは顧客の設備投資サイクルから独立していないということだ。2027年3月期は31%増を計画するが、7月31日の上方修正でも、meviy単体の通期計画は4月30日公表の243億円から231億円へ4.6%引き下げられている(全社が大幅増額されたなかでの微減)。第1四半期決算説明会では「顧客の裾野が自動車以外にも広がり、半導体製造装置メーカーなどでも利用が進んでいる。ただし現状に満足しておらず、更なる成長策を考えている」という会社側の回答があった。

三つ目は収益性だ。ミスミは2026年4月30日の決算説明会で、meviyについて「取り扱い領域を拡大し36.8%成長を計画。2026年度にはグローバル全体での概ね黒字化を見据えている」と説明した。裏返せば、meviyは2026年3月期までグローバル連結では黒字化していなかったということになる。サービス開始から10年、売上177億円の段階でようやく損益分岐点にたどり着く——これが、自社工場を抱えて特注品を作るビジネスの資本効率である。Fictivも同様で、2026年3月期は営業損失1,300万ドル(営業利益率マイナス11%)、2027年3月期見通しでもマイナス500万ドル(同マイナス4%)と赤字が続く。会社は「最終的には2桁の営業利益を目指す」「2027年の黒字化目標に変更はない」としているが、利益貢献にはもう少し時間を要するとの見立てである。

四つ目は、国内顧客基盤の縮小だ。ミスミの国内販売先社数は2023年3月期の11万5,934社から2026年3月期の10万9,482社へと、3年で6,000社超減っている(2026年3月期は1.9%増と下げ止まった)。同期間に海外は20万4,442社から22万9,895社へ増えており、全体では成長しているが、日本国内の顧客企業数そのものが構造的に減っていることは動かない。2026年版ものづくり白書は、2025年の製造業就業者数が1,033万人へ微減し、中小企業の従業員過不足DIが製造業でマイナス17.9と人手不足感が強いこと、指導人材が不足していると答える事業所が6割を超えることを指摘している。meviyの追い風(人手不足によるDX需要)と向かい風(顧客企業そのものの減少)は同じ現象の裏表である。

五つ目は開示だ。2026年4月30日の決算説明会では、長期目標が開示されていない点についてガバナンス上の指摘があることを問われ、会社側は「中長期方針のディスクロージャー拡充の必要性を認識しており、改善に向けて取り組む」と回答している。デジタルモデルシフトの内訳を四半期ごとに出す姿勢は高く評価されているが、全社の中期経営計画としての目標開示はまだ整っていない。「2030年に2,000億円」というデジタルモデル事業の長期目標も、日本語の決算説明資料ではなく英文プレスリリースで示された数値である。

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投資家はmeviyをどう値付けしているか

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株式市場の反応は、この1年で大きく変わった。ミスミグループ本社(東証プライム・9962)の株価は、52週安値2,116円から高値4,204円まで振れている。7月31日の上方修正発表を受けて終値は前日の3,479円から3,861円へ11.0%上昇し、8月4日には終値で4,051円をつけた。8月7日の終値は3,748円。発行済株式数2億8,525万株(うち自己株式2,145万株)から単純計算すると、時価総額は1兆円前後の水準にある。5月22日にもSMBC日興証券の目標株価引き上げを受けて株価が一時8.1%高となったと日本経済新聞が報じており、上方修正と証券会社のレーティング変更が、この半年の株価を押し上げてきた構図が読み取れる。

資本配分の方針も、投資家対話を強く意識した内容に組み替えられている。2026年3月期のキャッシュアロケーションは、営業キャッシュフロー521億円に対し、戦略投資(M&A等)542億円、オーガニック投資142億円、自己株式取得250億円、配当113億円という配分で、手元資金は期初1,592億円から期末1,129億円へ減少した。Fictiv買収に踏み込んだ結果である。2027年3月期からは今後3年間で最大1,500億円の成長投資枠を設定し、配当性向35%を目安とする累進配当を新たに導入、2026年度は自己株式取得300億円を予定する。必要手元資金は「BCP対応時も6か月間の供給責任を果たせる水準」として700億円と定義され、それを超える余剰資金は株価水準を考慮したうえで自己株式取得に回すと明示された。成長投資枠のうちM&Aは全体の3分の1強を想定するという説明もあり、Fictivに続く買収がありうることを示唆している。

ここにVCの視点を重ねると、この業界の資本の流れがくっきり見えてくる。

Fictivは2013年の設立以来、7ラウンドで18の投資家から累計1億9,200万ドル(約303億円)を調達した。2022年5月のシリーズE 1億ドル(約158億円)はActivate Capitalがリードし、Angeleno Group、Cross Creek、The Westly Groupが新規に加わり、既存投資家としてAccel、ビル・ゲイツ氏、G2 Venture Partners、Standard Investmentsらが参加した。それが3年後、3億5,000万ドルの全額現金で事業会社に売却された。調達総額に対する倍率は1.8倍程度で、後期ラウンドの投資家にとって満足のいく結果とは言いにくい。Dave Evans氏はAxiosに対し、「シリーズEの資金調達時と比べて、高成長テクノロジー企業を取り巻く市場環境とバリュエーション水準は劇的に変わった」「上場している同業と相対比較すれば、今回のディールは良い結果であり、ミスミによる買収の戦略的性格を反映している」と述べている。

同じ時期、公開市場のXometry株は52週安値35.86ドルから高値106.08ドルへと駆け上がった。Siemensが5,000万ドルを出資し、増資で2億4,800万ドルを調達できる環境である。カテゴリー全体が嫌われていたのではなく、「上場して四半期ごとに数字を出し、マーケットプレイス型で粗利を積み上げられるプレーヤー」に資金が集中した、と読むのが自然だろう。プライベート市場で成長資金を繋ぎ続ける難易度が上がった非上場プレーヤーは、上場するか、事業会社に売るか、ピボットするかの選択を迫られた。Fictivは売却を選び、キャディはピボットを選んだ。

そして、その両方を買い手・受け皿として吸収したのがミスミである。ミスミは「AI×製造」というテーマにVCマネーが最も強気だった時期には手を出さず、バリュエーションが調整した局面でFictivを現金で買い、既存の工場・物流・顧客基盤の上に載せた。VCの視点でこの取引を評価するなら、「テクノロジー企業のバリュエーション調整局面で、キャッシュフローを持つ事業会社が最も割安に技術と顧客を買えた案件」の一つに数えられる。実際、Fictivは連結後、2027年3月期第1四半期に受注3,500万ドル(前年比47.2%増)、売上3,100万ドル(同34.9%増)と加速し、通期では受注1億5,500万ドル(同33.8%増)、売上1億4,600万ドル(同24.8%増)を計画するまでになった。単独で資金調達に苦しんでいた会社が、親会社の顧客基盤と供給網に接続されたことで成長率を上げている——これは事業会社によるM&Aが機能した典型例である。

裏を返せば、meviy自体の値付けは市場ではまだ独立して行われていない。ミスミの株価を動かしているのは、足元ではデータセンター向け自動ステージや半導体関連需要といった、meviyとは別の要因の比重が大きい。第1四半期決算説明会でも「AI関連の恩恵の定量的な切り分けは難しい」と会社側が認めている。デジタルモデルシフト912億円のうち、meviyは231億円で4分の1にすぎず、Fictiv・エコノミーシリーズ・D-JITの合計のほうが大きい。meviyを「日本版Xometry」として単体評価したい投資家にとっては、そのための開示がまだ足りない、というのが率直なところだろう。

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これから何が計測されるか——2026年後半から2028年へ

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最後に、今後の観測ポイントを時間軸に沿って整理する。いずれも会社側が説明会や適時開示で言及した内容に基づく。

直近では2026年9月、新基幹システム(SAP)の全拠点導入完了が予定されている。第1四半期の説明会で会社は、売上が1.5倍規模に拡大しているアジア拠点でも特段のトラブルなく移行できていると説明した。他社で基幹システム更新の失敗が業績に直撃した事例がある以上、ここが無事に着地するかは短期の重要な確認事項である。同じ9月には「メビーの日」プロジェクトの受賞投稿が発表される。

10月末ごろに公表される2027年3月期第2四半期決算では、meviyの通期計画231億円(北米除きで41.8%増)に対する進捗と、「2026年度にグローバル全体で概ね黒字化」という会社の見立ての確度が確かめられる。meviyが初めて通期黒字を計上できるかどうかは、2027年5月頃の通期決算まで持ち越される。Fictivの黒字化目標は2027年で、こちらは変更なしとされている。

2027年度下期には、7月31日に決定した46億円の増産投資が本格的に業績へ寄与し始める。会社はヒューマノイドロボット関連について「アメリカ市場がキーになるが具体的な投資内容は非公開」としつつ、今回の増産投資は2027年度下期を見据えたものだと明言した。ロボティクス関連企業との資本業務提携も検討中とされており、成長投資枠1,500億円のうちM&Aに充てるとされる3分の1強、すなわち500億円規模の使い道がどこに向かうかは、2026年度から2028年度にかけての注目点になる。

制度・開示面では、中長期方針のディスクロージャー拡充が課題として会社自身から表明されている。中期経営計画やデジタルモデル事業の長期目標が日本語のIR資料としてどこまで具体化されるかは、バリュエーションの再評価に直結する。「2030年度にデジタルモデル2,000億円」という数値が、英文プレスリリースの一行から、正式な中期計画の目標へ格上げされるかどうかが見どころだ。

事業面では、6月30日に発表したDAIKO XTECH・テクノアとの3社提携が、今後5年で国内1,000社超という目標に向けてどう積み上がるかが、meviyの次の成長エンジンになりうる。設計者がmeviyのサイトを訪れるのを待つのではなく、購買担当者が毎日開く生産管理システムの内側にミスミが常駐する——この座組みが機能すれば、meviyの成長は顧客の設備投資サイクルへの依存を弱められる。同時に、Xometryが「インフラ層」を掲げてSiemensと組み、ProtolabsがProDeskで工場とネットワークを統合しようとしているように、競合も同じ方向へ走っている。2026年後半から2028年にかけて、この市場の勝敗を分けるのは加工能力そのものではなく、設計者と購買担当者のワークフローのどこに自社を埋め込めたか、という問いになる可能性が高い。


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