キーワード: Perplexity, Aravind Srinivas, AIサーチ, シリコンバレーVC, Comet, Sundar Pichai, チェンナイ, 答えエンジン
生い立ち:チェンナイの中流家庭からシリコンバレーへ
アラヴィンド・スリニヴァスは1994年6月7日、インド南部タミル・ナードゥ州の州都チェンナイで生まれた。一家は中流のタミル系・菜食主義家庭で、両親は学業を強く奨励する教育熱心な家風だったとされる(businessabc.net、leaderbiography.comなど複数のプロフィール記事による)。彼はサンダー・ピチャイCEOと同じくチェンナイをルーツとする「南インド出身の世界的テック・リーダー」の系譜に連なるが、ピチャイは1972年マドゥライ生まれ・チェンナイ育ちなのに対し、スリニヴァスは22歳年下のチェンナイ生まれであり、世代もキャリアの足跡も異なる。それでも両者を結ぶのは、タミル文化圏で重視される厳格な数学・工学教育の伝統と、その出口としての海外名門大学・米国ビッグテックという同型のキャリアパスである。
スリニヴァスがしばしば自身のインタビューで明かしてきた逸話のひとつに、IIT Madras(インド工科大学マドラス校)の入学時に第一志望だったコンピュータサイエンス学科への合格を「わずか0.01ポイント差で逃した」という体験がある(BusinessTodayが2024年3月に報じた本人談話)。一時的な抑うつ状態に陥ったと自ら語ったこの挫折は、後にプログラミングを独学で身につける原動力となり、結果としてAI研究者・起業家としての軌跡を方向づけた。彼自身も2025年3月のポッドキャストで、研究者としての厳しい時期を妻シャルマダ・ヴィシュワナート(Sharmada Vishwanath、インド古典舞踊の専門家。両者は2021年11月に結婚)が支えたと述べており、家族と挫折経験が現在の彼を形作っていると公言している。
学歴と研究キャリア:IIT MadrasからUC Berkeley、OpenAI、DeepMindへ
スリニヴァスはIIT Madrasの電気工学科(Department of Electrical Engineering)に2012年に入学し、5年制のDual Degree(B.Tech + M.Tech統合プログラム)を2017年に修了した。IIT Madrasの電気工学科は同校の中でも信号処理・通信・制御理論の伝統が深い人気学科で、彼の在籍当時はインド全土のJEE Advanced上位層から選抜された数十名規模のエリート集団だった。Dual Degreeでは最終2年で修士論文に相当する研究テーマを担当する必要があり、スリニヴァスはこの段階で機械学習・確率モデリング・信号処理の境界領域へと傾倒し、Andrew Ngのオンライン講義をはじめとするMOOCを独学で消化していたと、本人がLex Fridman Podcast第434回で振り返っている。前章で触れたとおり、彼はコンピュータサイエンス学科への進学を入試スコアでわずかに逃し電気工学科に落ち着いた経緯があるが、IIT Madras同窓生コミュニティの紹介記事(leaderbiography.com、StartupTalky、businessabc.netなど)は「電気工学科に来たことで信号処理と最適化の数理を体系的に修めることができ、これが後のRL研究で大きな武器になった」という見方を共有している。在学中はキャンパス内の学生寮(Insti Hostel)で生活し、IIT Madras主催のアジア最大級の学生技術祭「Shaastra」や文化祭「Saarang」、各種ハッカソン・プログラミングコンテストに顔を出していたと、本人がBerkeley Haasの「Dean's Speaker Series」やStanford GSB講演でたびたび振り返っている。同期学生やDual Degree仲間の証言として複数の卒業生プロフィール記事が伝えるのは、「数学的厳密さに固執する理論派でありながら、ホワイトボードを前に議論する場では極めて率直にアイデアをぶつける性格で、夜中までラボや寮の自習室に居座って論文を読み込むタイプの学生だった」という像である。修了後すぐに渡米し、米国カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のコンピュータサイエンス博士課程に進学。指導教官は深層強化学習の第一人者で、ロボット学習スタートアップCovariant.AIの共同創業者でもあるピーター・アビール(Pieter Abbeel)教授で、BAIR(Berkeley Artificial Intelligence Research)ラボに所属した。アビール研究室は深層RL研究で世界トップクラスのアウトプットを継続的に出してきた「最強ラボ」のひとつとされ、スリニヴァスは2017年から2021年にかけてここで「強化学習における表現学習・自己教師あり学習」を中心テーマとした博士研究に従事した。UC Berkeley公式(Berkeley Engineering)が2025年3月に公開した卒業生紹介によると、彼の博士論文の中心テーマは強化学習における表現学習であり、彼自身はそこで培った「データから最も価値ある信号を抽出する」哲学が、後のPerplexityの「引用ファースト型」設計思想に直結したと語っている。同じBAIRラボに在籍した共同研究者のマイケル・ラスキン(Michael Laskin、後にGoogle DeepMindなどに所属)は、ポッドキャストや公開インタビューでスリニヴァスを「実装と論文化のスピードが圧倒的で、机上の理論よりも『動くシステム』の力で議論を制しに来るタイプの研究者だった」と振り返っており、Berkeley時代の同僚研究者の間では「実装と理論を一人で両輪回せる稀有な博士課程学生」として評価されていたとされる。
博士課程在学中から既に米国ビッグテックの研究組織で複数回の研究インターンを経験し、2018年から2020年にかけてはOpenAIでリサーチ・インターンとして複数シーズンにわたり滞在し、その後2020年から2021年にかけてGoogle傘下のロンドンを拠点とするDeepMindで深層学習・強化学習のリサーチインターンを務めた。DeepMind時代にはAtari環境やDeepMind Control Suiteを用いた実験基盤に深く触れ、その経験が後のCURL論文の実証フェーズへと結実したと、本人がLex Fridman Podcast第434回で詳細に語っている。Berkeley修了後はOpenAIに研究員として正式参画し、複数のメディア(StartupTalky、digidai.github.ioのアナリシスなど)が、彼が後に画像生成モデルDALL-E 2に結実する基礎研究にも関与したと伝えている。彼のGoogle Scholarプロフィールには、ICML 2020で発表された「CURL: Contrastive Unsupervised Representations for Reinforcement Learning」(Michael Laskin・Pieter Abbeel共著)を筆頭に、SimCLR系の対照学習をRLに応用した一連の研究が並び、CURLは被引用数1,000件を大きく超える代表的論文として、強化学習×自己教師あり学習領域のベンチマーク的存在となった。共著者のラスキンは公開インタビューで「アラヴィンドは『良いアイデアは即座に実装し、最も重要な実験を最短ルートで終わらせる』という姿勢を一貫して持ち続けていた」と語っており、Berkeley・OpenAI双方の元同僚や元上司にあたる研究者の間では「研究者というよりも、研究を最短で世に出すプロダクト志向のエンジニアに近い気質」という評価が広く共有されていた。実際、Lex Fridman Podcast第434回やStanford GSB講演で語られる本人の自己分析でも、彼は「論文を書くこと自体を目的とせず、それが解決する現実問題から逆算する」と繰り返し述べており、2022年の起業時点で既にトップティアの若手機械学習研究者として、また同時に「研究を製品化する起動力を持つ稀有なAI人材」として、シリコンバレーの研究コミュニティに広く認知されていたことが確認できる。
Perplexity創業と「答えエンジン」という製品哲学
Perplexity AI, Inc.は2022年8月、スリニヴァスとデニス・ヤラッツ(Denis Yarats、CTO)、ジョニー・ホー(Johnny Ho)、アンディ・コンウィンスキー(Andy Konwinski)の4人によって米国サンフランシスコで創業された。本社は115 Sansome Street, San Francisco(San Francisco金融街の中核)で、2026年3月時点では従業員数が約1,500人にまで拡大している(社のLinkedIn公式と複数のメディア集計)。
製品の核となる思想は、「リンクの羅列ではなく、出典付きの直接的な回答(answer engine)を返す」という点である。スリニヴァスはStanford GSBや UC Berkeley Haasでの講演で繰り返し、Retrieval Augmented Generation(RAG)を用いて回答の各文に学術論文のように引用を埋め込む設計について語ってきた。これは生成AIの最大の弱点であるハルシネーション(事実誤認)を、検索とLLMの結合によって構造的に低減させるアプローチであり、Lex Fridman Podcast第434回(2024年6月19日収録、3時間11分)でも詳細が解説された。スリニヴァスはピッチデックを使わずに最初の資金調達を行ったことでも知られ、UC Berkeley Haas Newsの「Dean's Speaker Series」での回顧で、「初期はデモを見せて投資家に判断してもらった方が早かった」と語っている。
資金調達の軌跡:2022年シードから2026年220億ドル評価へ

Perplexityの資金調達は、AI領域における類例の少ないスピードで進んできた。Crunchbase、Tracxn、PitchBookなどのデータベースを横断して整理すると、2022年のシード以降、累計調達額は約17.2億ドル(約2,580億円)を11ラウンドで61投資家から集めている。主要ラウンドの推移は以下の通りで、各メディアの数字に多少の揺れはあるが、TechCrunchやBloomberg、PYMNTSなどの一次報道で確認できる範囲を整理した。
2024年1月にNVIDIAとジェフ・ベゾスが主導した7,360万ドル(約110億円)のラウンドで評価額5.22億ドル(約780億円)に達したのを皮切りに、2024年4月には2.5億ドル超を3億ドル評価で調達と報じられ(TechCrunch)、2024年12月にはIVPがリードする5億ドル(約750億円)のラウンドで評価額90億ドル(約1.35兆円)に到達。2025年5月には約500百万ドル規模のSeries Eを実施し、2025年9月にはTechCrunch・PYMNTSが報じた通り、200百万ドル(約300億円)を200億ドル(約3兆円)の評価で追加調達した。2026年1月のSeries E-6相当のラウンドでは、Tracxnなどによれば評価額が226億ドル(約3.4兆円)に達した。投資家リストにはAccel、IVP、NEA、NVIDIA、SoftBank Vision Fund 2、Bessemer Venture Partners、Databricks、Jeff Bezos、Shopify CEOのトビアス・リュトケ(Tobias Lütke)、Figma CEOのディラン・フィールド(Dylan Field)、Nat Friedmanなど、シリコンバレーの主要VC・著名エンジェルが名を連ねる。
ただし、Perplexity自身は買収交渉や個別ラウンドの詳細を必ずしも全て開示しておらず、たとえば2026年1月のSeries E-6の正確な調達額は公表されていない。各DBは評価額のみを公開しており、本稿でも揺れがある数値については「Tracxn基準」「TechCrunch報道では」と明示する形で記載している。
製品ポートフォリオ:Comet、Computer、そしてPersonal Computerへ

製品面では、2025年から2026年にかけてサーチからエージェントへの軸足移動が顕著だ。コア製品「Perplexity」(answer engine)に加え、2025年7月9日にAIブラウザ「Comet」をmacOS/Windows向けに有料サブスクライバー専用機能としてローンチ。Wikipedia「Comet (browser)」と社のブログによれば、当初は月200ドル(約3万円)のPerplexity Max契約者限定だったが、ウェイトリストに「数百万人」が並び、2025年10月に全世界で無料公開、2025年11月20日にAndroid版、2026年3月18日にiOS版とプラットフォームを順次拡大している。
そして2026年2月25日、同社にとって最も野心的な製品である「Perplexity Computer」がローンチされた。VentureBeatの報道によれば、これはOpenAIのGPT-5.2、AnthropicのClaude Opus 4.6、GoogleのGeminiなど最大19のAIモデルをオーケストレーションする「汎用デジタル労働者」であり、ユーザーが指示した目標を自律的にサブタスクへ分解、ウェブ検索・コード生成・画像/動画生成・文書作成・400以上の連携アプリ操作を並列で実行する。料金はPerplexity Maxの月200ドル(約3万円)で、月10,000クレジットが含まれ、超過分は100クレジット1ドルで購入できる。中央のリアソニング・エンジンとしてClaude Opus 4.6が採用された点は、シリコンバレーの観察筋から「自社で基盤モデルを作らずに、最良のモデルを束ねるオーケストレーション戦略」として注目されている。
2026年3月11日にサンフランシスコで開催した同社初の開発者会議「Ask 2026」では、専用Mac mini上で常時稼働する「Personal Computer」を発表。これはユーザーのローカル環境とPerplexity Computerクラウドを統合し、24時間プロアクティブにタスクを実行する「デジタル代理人」として位置づけられている。当初はMaxサブスクライバー限定だったが、2026年5月8日には全Macユーザーへのアクセス開放が発表されたほか(Dataconomy・AIToollyの報道)、Comet for EnterpriseのMDM配備機能の正式リリースと、Agent API・Search API・Embeddings API(および予定中のSandbox API)からなる開発者プラットフォームの拡張が同時期に進んでいる。
ビジネス指標:1億MAUと年5億ドルARRの「答えエンジン」経済圏

Perplexityのトラクションは、2026年に入って急加速した。Tech Startups、PYMNTS、TechCrunchなどの集計によれば、ARR(年率換算売上)は2024年末の80百万ドル(約120億円)から、2026年2月時点で約200百万ドル(約300億円)、2026年3月に450百万ドル(約675億円)、2026年4月には500百万ドル(約750億円)に到達した。これは前年同期比で335%、月次ベースでも50%程度の伸びにあたり、2026年通期で6.56億ドル(約985億円)規模に達するとの見立ても出ている。月間アクティブユーザーは2024年の1,000万から、2026年初頭には1億を超えたと社が公表している(ただし、ここには検索コア利用者だけでなくAPI経由・パートナー統合経由の利用者も含まれており、Wytlabsなどは「コア製品の純MAUは3,400万程度」と分けて算出している)。
成長を支えた要因は3つある。第一は、2025年7月17日から2026年1月17日まで実施されたインドのバーティ・エアテル(Bharti Airtel、加入者3.6億)との連携で、「Perplexity Pro 12カ月無料」の提供によりインドのユーザーベースを一気に拡大した(TechCrunch・Inc42)。第二は、Cometの全世界無償化と各種OS展開による配布チャネルの拡大。第三は、Computerローンチに伴う使用量連動の上乗せ課金(usage-based pricing)の導入で、PYMNTSは2026年4月の50%売上ジャンプの主因として「サブスク+クレジット課金のハイブリッド化」を挙げている。さらに2026年1月、Perplexityはマイクロソフトのアジュール(Azure)と3年間で7.5億ドル(約1,125億円)規模のGPUコミットメントを締結したと報じられており、Computerの並列モデル運用に必要な計算資源を確保している。
シリコンバレーVCの受け止め:「Anti-Google」テーマの最有力候補として
シリコンバレーのVCは、Perplexityを単一サービスとしてではなく「Anti-Google」テーマの代表銘柄として捉えている節がある。a16zとSequoiaがそれぞれ約900億ドルのAUMを運用し、AIに資金を集中させるなかで、Series Aのチケットサイズは10〜20百万ドルから50〜100百万ドルへと跳ね上がっており(Waveupの2026 SF VC調査)、AIスタートアップへの資本集中は前例のない水準に達している。Perplexityはこの潮流の中心にあり、IVP・NEA・Bessemer・Accelなど主要VCが直接ラウンドに参加し、NVIDIAが戦略株主として支える構造は、ファンドマネージャー間で「最も明確に語れるAIサーチのストーリー」として共有されている。
メディア各社の論調をまとめると、Fortuneは「Perplexityがすぐに Google を殺すことはないが、AIレースの勢力図を確実に揺さぶっている」と評価し("Will Perplexity kill Google?"記事)、Bloomberg のシニア・アナリスト Mandeep Singhは2025年5月のBloomberg Tech Summitで「Google はPerplexityのスケールに追いつくにはAI Overviews / AI Modeの主力化が必要だが、その意思決定速度ではPerplexityに匹敵できない」と指摘した。一方Wiredは、Pichaiにかつて憧れた青年が、いま同じチェンナイの先達と検索という巨大市場を奪い合う構図を「世代交代の象徴」として論じている。
ただしVCサイドにも懐疑論はある。第一は買収提案戦略への疑問だ。Perplexityは2025年8月12日、独占禁止訴訟でGoogleからのChrome分離が議論されている文脈に乗じて、Chromeブラウザに対し345億ドル(約5.2兆円)の買収提案を行った。WSJ・Variety・Reutersが一斉に報じたこの提案は、Chromiumのオープンソース継続、3年間で30億ドルの投資、検索デフォルトの維持など細目を伴うものだったが、Perplexity自身の評価額の1.5倍以上に相当する「象徴的買収提案」であり、TechCrunchは「Perplexityが調達した資金の何倍もの規模を提示している」と冷ややかに評した。Semaforの内部取材によれば、Perplexity陣営も裁判所が強制売却を命じない限り成立しないと織り込んでおり、規制議論への政治的プレッシャーを目的とした「シグナリング」の側面が強かったとされる。
第二の論点はパブリッシャー訴訟リスクだ。2024年の調査でPerplexityがrobots.txtを尊重せず、未公開IP・偽装ユーザーエージェントを使ってクロールしていることが指摘されて以降、News Corp系のWall Street Journal・New York Post、ニューヨーク・タイムズ(2025年12月にCNBC報道)、シカゴ・トリビューン、BBC、Reddit(2025年10月)、日本では読売新聞(2025年8月、120,000本の記事を「ただ乗り」したと主張)、朝日新聞、日本経済新聞が次々と訴訟を提起した。さらにアマゾンは2025年11月、CometのAIエージェントが認証エリアにアクセスしているとして提訴し、2026年3月9日にニューヨーク連邦地裁がパスワード保護領域へのCometエージェントのアクセスを差し止める仮処分を下している。Bloomberg Lawはこれを「ニュース業界にとっての存亡をかけた訴訟」と位置づけており、VCにとっても訴訟リスクは将来キャッシュフローのテール・リスク要因となっている。
第三は、戦略提携の見直しによる不確実性だ。スナップ(Snap)とPerplexityが2025年11月に締結した4億ドル(約600億円)規模のSnapchat統合契約は、2026年5月6日に「相互合意で終了した」とSnapがTechCrunch・PYMNTSなどに対して発表した。Snap側はSpiegel CEOがインテリジェント・アイウェア事業に注力する方針転換を理由に挙げているが、外部から見るとPerplexityの大型ディストリビューション施策の一つが頓挫したことに違いはなく、提携依存のリスクをVC側は再評価している。
それでも、シリコンバレー主要VCの大勢としての評価はポジティブに傾いている。a16z・Sequoia・Lightspeed・NEA・IVP・Benchmarkといった主要ファンドが2026年に入ってAI比率を上げる中、Perplexityは「OpenAI / Anthropic / xAI ほどモデル開発への巨額投資を必要とせず、しかしGoogle / Microsoft / Meta ほど既存事業の慣性に縛られない」という独自ポジションを保持していると見られている。とりわけ、Computerのオーケストレーション・アーキテクチャは、各基盤モデルの能力向上をそのまま製品価値に変換できる点で「モデル戦争のレバレッジ・プレイ」として評価が高い。
「同じチェンナイ出身」が象徴する世代交代
スリニヴァスとピチャイの関係性は、単なる地縁を超えて、IT産業における世代交代と権力構造の組み換えを象徴する存在になりつつある。2025年2月、フランス・パリで開催されたAI Action Summitで両者が直接対面した際、スリニヴァスは「サンダー・ピチャイ氏との対話は素晴らしい体験だった」とSNSに写真を投稿し、CEOWORLD MagazineやMSNなどがこの「ChennAI Express」と銘打たれた邂逅を取り上げた。インド系メディアやSNSは「両チェンナイ・ボーイズ」と揶揄交じりに報じ、Pichaiが「AIは私たちの世代において最も深遠な変革」と演説する一方で、若き挑戦者であるスリニヴァスは「検索の再定義」を訴えた。
スリニヴァスは複数のインタビューで、Pichaiを長く尊敬してきたと公言してきた一方、2025年8月のChrome買収提案以降は明確に「競合」として対峙する姿勢を強めている。Times of Indiaは「かつて憧れた相手に345億ドルを提示した男」と書き、IntelligentHQはスリニヴァスの行動を「インド系テック・リーダーが地縁を越えて競争するグローバル局面の象徴」と位置づけた。彼自身は2025年7月のFortuneインタビューで「成功の秘訣は『競合に自分のアイデアを盗まれる恐怖と寝る』こと」と語っており、ピチャイを尊敬しながらも、その牙城を切り崩すことを恥じない姿勢が明確である。
なお、スリニヴァスは2025年10月にM3M Hurun India Rich Listに初登場し、推計純資産2,110億ルピー(約2,750億円、約25億ドル)でインド史上最年少のビリオネアとなった。31歳でこの地位に到達したことについて、Gulf News や OneIndiaは「南インド出身のテック移民が達成した最速のキャリア」と論じている。
評価とリスク:「シリコンバレーの逆ベット」を続ける異端児
人物像としてのスリニヴァスは、研究者出身らしい数理志向と、起業家らしい大胆な物量作戦の両極を併せ持つ。一方で、彼の発言が炎上を招くケースも増えている。2026年3月のAll-In Podcastでは、「AIによる人員整理は栄光ある未来を切り開く好機であり、人々を嫌な仕事から解放する」と発言し、Tech Times、DiyaTV USA、Free Press Journalなどから「テック・エリートと労働者の認識のギャップ」を象徴する事例として批判された。スリニヴァス本人はその後の投稿でも「Cometやエージェントは採用やエグゼクティブ・アシスタント業務を1年以内に自動化する」と主張しており、自社プロダクトのインパクトをあえて強調する姿勢を崩していない。
シリコンバレーVCのもう一つの注目点は、彼が向こう12カ月でどのようなマイルストーンを示すかである。市場関係者の間で議論されているチェックポイントとしては、(1) ARR が2026年末までに10億ドルを突破するか、(2) Computer / Personal Computer の有料転換率が、コスト高なオーケストレーション課金を正当化する水準で推移するか、(3) Comet ブラウザの広告/コマース連動収益化(Snap破談後の代替)、(4) 大型訴訟(NYT、News Corp、Reddit、日本の3大紙、Amazon仮処分)の落とし所、(5) IPO 観測の本格化(一部の報道では2026年下期から2027年にかけてのS-1提出が取り沙汰されている)――が挙げられる。これらが揃えば、a16z・Sequoiaを中心とするシリコンバレーVCのコンセンサスは「次世代の検索・エージェント市場のデファクト・ベット」へと一段強化されるとみられる一方、いずれかが逆風になれば、220億ドルの評価額自体に修正圧力がかかる可能性も排除できない。
スリニヴァスは現時点で、シリコンバレーの「インド系起業家エコシステム」のなかでも最もアグレッシブにGoogleと正面から競り合う異端児である。チェンナイから始まったその挑戦は、ピチャイが体現した「インド系移民のサクセス・ストーリー」を、AI時代の新しい構図へと書き換えつつある。
Sources
- Aravind Srinivas - Wikipedia
- Perplexity AI - Wikipedia
- Comet (browser) - Wikipedia)
- Perplexity reportedly raised $200M at $20B valuation - TechCrunch (2025/9/10)
- Perplexity offers to buy Chrome for billions more than it's raised - TechCrunch (2025/8/12)
- Perplexity brings its AI browser Comet to Android - TechCrunch (2025/11/20)
- Snap says its $400M deal with Perplexity 'amicably ended' - TechCrunch (2026/5/6)
- Perplexity sees India as a shortcut in its race against OpenAI - TechCrunch (2025/7/17)
- Will Perplexity kill Google? Probably not - Fortune
- Perplexity's $34.5 billion gambit for Google's Chrome - Fortune (2025/8/12)
- Perplexity CEO explains Computer, its OpenClaw-like AI agent tool - Fortune (2026/2/26)
- Jeff Bezos, Nvidia back AI search startup Perplexity - Fortune (2024/1/6)
- Perplexity launches 'Computer' AI agent that coordinates 19 models - VentureBeat
- Perplexity AI rolls out Comet browser for free worldwide - CNBC (2025/10/2)
- The New York Times sues Perplexity - CNBC (2025/12/5)
- News Outlets' Perplexity AI Suits Strike at Existential Threat - Bloomberg Law
- AI startup Perplexity makes bold $34.5 billion bid for Google's Chrome browser - Yahoo Finance
- Google Gets an Astounding $34.5 Billion Offer for Chrome Browser - Variety
- Behind Perplexity's bid for Chrome - Semafor (2026/1/16)
- Perplexity CEO Aravind Srinivas, PhD '21, on why he ditched pitch decks - UC Berkeley Haas
- Berkeley alum wants to 'make the planet smarter' - Berkeley Engineering (2025/3)
- Perplexity's Aravind Srinivas on the Infinite Value of Knowledge - Stanford GSB
- #434 – Aravind Srinivas: Perplexity CEO on Future of AI, Search & the Internet - Lex Fridman Podcast
- Aravind Srinivas - Crunchbase Person Profile
- Perplexity - 2026 Funding Rounds & List of Investors - Tracxn
- Perplexity 2026 Company Profile - PitchBook
- Google CEO Sundar Pichai and Perplexity AI co-founder Aravind Srinivas Meet in Paris - CEOWORLD
- AI Action Summit: Sundar Pichai's remarks - Google blog
- From Chennai to Silicon Valley: Meet Perplexity AI CEO Aravind Srinivas - Gulf News
- Perplexity's Shift to AI Agents Boosts Revenue 50% - PYMNTS (2026)
- Perplexity Valuation Hits $20 Billion - PYMNTS (2025)
- Perplexity revenue surges 50% as AI startup shifts from search to autonomous AI agents - Tech Startups (2026/4/8)
- Introducing Comet: Browse at the speed of thought - Perplexity blog
- Perplexity Personal Computer Now Open to All Mac Users - AIToolly (2026/5/8)
- Perplexity Brings Its Personal Computer AI Assistant To All Mac Users - Dataconomy (2026/5/8)
- Perplexity Changelog - May 2026
- 'I was depressed': Silicon Valley based CEO on not getting CS at IIT Madras - BusinessToday (2024/3/1)
- Aravind Srinivas, Perplexity AI CEO, youngest billionaire in India - LinkedIn / Analytics India Magazine
- CEO of $14 billion AI firm Perplexity says the secret to success is 'sleeping with that fear' - Fortune (2025/7/16)
- Airtel Rethinks Its Power Play With Perplexity Deal - Inc42
- Perplexity Computer Cost: Pricing, Credits & Plans (2026) - SentiSight
- Perplexity Revenue and Usage Statistics (2026) - Business of Apps