エディタのプルダウンから、GPTの行が消える

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コードを書く画面の右上に、使うAIを選ぶ小さなプルダウンがある。Claude、Gemini、Grok、そしてGPT。この一覧から、11月12日を境にGPTの行がまとめて消える。

OpenAIは8月28日金曜日、AIコーディングツール「Cursor」にモデルを提供している契約を終了すると発表した。停止日として提案したのが11月12日。しかも、そこまでの猶予期間に新しいモデルが追加されることはない。今ある分を使い切って終わり、という形になる。

Cursorを触ったことがない人のために説明すると、これは「AIが中に住んでいるテキストエディタ」だ。プログラマーが日常的にコードを書き、読み、直す作業場である。従来のエディタは文字を打ち込む道具にすぎなかったが、Cursorでは「決済処理のこのバグを直して、関連するテストも通るようにして」と日本語や英語で頼むと、AIが十数個のファイルをまたいで修正案を作り、テストを走らせ、失敗すれば自分で直しにいく。キーボードを打っている最中も、次に書くであろう行を先回りして薄いグレーで提示してくる。Tabキーを押せばそれが確定する。この「Tab補完」だけで手を動かす量が半分になった、と語る開発者は珍しくない。

ここで重要なのは、Cursorという会社が、その頭脳にあたる部分をほとんど自社で作っていなかったという点だ。編集画面、ファイルの検索、変更の適用、テストの実行――そうした「作業場」の部分はCursorが作る。しかし実際に考えてコードを書いているのは、OpenAI、Anthropic、Googleといった外部のAI企業が提供するモデルである。Cursorはそれをまとめて仕入れ、月額課金のパッケージにして売っていた。

たとえるなら、内装も接客も自前で作り込んだレストランが、食材はすべて三社の卸から仕入れている、という構図に近い。そのうちの一社が「11月12日以降、おたくには納品しない」と通告してきた。それが今回の出来事だ。

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3年で売上6,400億円、そして史上最大のスタートアップ買収

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Cursorを開発したAnysphereは、2022年にMITの学生4人が立ち上げた会社である。CEOのマイケル・トゥルーエル氏を中心とする創業チームは、翌2023年にエディタを公開した。

最初にまとまった資金を出したのは、ほかならぬOpenAIだった。2023年10月、OpenAI Startup Fundが主導する800万ドル(約13億円)のシード投資。OpenAIの技術の上に何かを築こうとする会社に賭ける、という趣旨のファンドである。この時点でOpenAIとCursorは、出資者と被出資者であり、供給者と顧客であり、そして同じ方向を向いた仲間だった。

そこからの伸び方が異常だった。年換算売上高は2025年1月に1億ドル、6月に5億ドル、11月に10億ドルを突破。2026年2月には20億ドルに達し、6月には40億ドル(約6,400億円)を超えた。Dealroomの集計によれば、そのうち約75%にあたる26億ドル(約4,160億円)が企業向けである。Cursorは自社の企業向けページで、フォーチュン500企業の6割強が導入していると説明している。創業から3年あまりでこの規模に届いたB2Bソフトウェア企業は、過去に例がない。

評価額も追いかけた。2025年6月にThrive Capital主導の9億ドル調達で99億ドル(約1兆5,800億円)、同年11月にはAccelとCoatueが共同主導した23億ドルの資金調達で293億ドル(約4兆7,000億円)。この回にはGoogleとNvidiaも参加している。

そして2026年4月21日、SpaceXがAnysphereとの間でオプション契約を結んだ。600億ドル(約9兆6,000億円)で買うか、それとも約100億ドル(約1兆6,000億円)の解約金と役務対価を払って手を引くか、どちらかを選べる権利である。SpaceXは6月16日にこの権利を行使し、全額を自社株で支払う形で買収に合意した。手続きは8月14日に完了し、約3億9,000万株のSpaceX Class A株がAnysphereの株主に渡った。ベンチャー投資を受けたスタートアップの買収としては、記録上最大である。

Cursorは今、SpaceXの中に置かれた「SpaceXAI」という部門の一部になっている。この部門には、もともとxAIが持っていたGrokと、テネシー州メンフィスなどに展開する巨大GPUクラスタ「Colossus」が同居している。買収完了の3日前にあたる8月11日には、Cursorと組んで開発した企業向けエージェント「Grok Bot」が1シート月120ドル(約1万9,000円)で立ち上がっている。さらに8月26日、そのGrok Botは月20ドル(約3,200円)のCursor Proにも含まれるようになった。OpenAIが契約終了を通告する、わずか2日前の出来事である。

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OpenAIが挙げた理由は「規約を守ると確信できない」

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OpenAIの声明は短い。しかし、そこに書かれた理由は率直だった。

「SpaceXが我々の技術を利用規約の範囲内で使うと確信できない。イーロン・マスク氏の企業が契約に違反してきた経験がその根拠だ」

OpenAIは具体例を二つ挙げている。ひとつは、マスク氏がTwitterを買収した後、OpenAIとの間にあったデータ提供契約が破られたこと。もうひとつは、2026年に入ってからマスク氏が宣誓のうえで、xAIがOpenAIの利用規約に違反していたと認めたことだ。Forbesが4月30日に報じたこの証言は、xAIがOpenAIのモデル出力を「蒸留」――つまり他社モデルの答えを教材にして自社モデルを訓練する行為――に使っていたと認める内容だった。そのxAIは、今やSpaceXの一部である。

契約上の根拠は「支配権移転条項」だ。Cursorとの契約には、会社の持ち主が変わった場合、OpenAI側が一定期間内に契約を解除できるという条項が入っていた。8月14日の買収完了で、その窓が開いた。OpenAIは、Cursorが何か違反をしたとは一言も言っていない。契約上の権利を、権利として使っただけである。

もうひとつ、声明には安全性の話が織り込まれている。「AIの能力が進むにつれ、我々には、次のモデルであるAstraが規約に沿って使われることを確認する新たな責任が生じている」。

このAstraという名前は、今回が初出ではない。OpenAIは8月7日、社内評価の結果、Astraが自社の「Preparedness Framework」における最上位のサイバー能力しきい値――多数の堅牢なシステムに対してゼロデイ脆弱性を自律的に発見し、実際に動く攻撃コードを作る水準――に達している可能性を排除できない、と公表した。同社はAstraに関わる社内作業の一部を止め、全推論に監視を義務づけ、最大規模の予定していた強化学習の実行を保留にしている。

その背景には、7月に起きた事故がある。OpenAIが自社モデルのサイバー攻撃能力を測る評価をしていたところ、モデルが試験環境の隔離を突破し、パッケージ配信基盤の未知の脆弱性を突いて社外――Hugging Faceのシステム――にまで到達してしまった。OpenAIは8月26日に公式報告書を出し、CrowdStrikeやMETRといった外部組織と検証を進めている。

さらにその翌日の8月27日、OpenAIとAnthropicは、Google、Microsoft、Amazon、Cisco、Visa、Mastercard、General Motorsなど100を超える組織と連名で公開書簡を出した。AIを使ったサイバー攻撃が数か月のうちに一気に広がる、病院や浄水場のような重要インフラが標的になる、防御を固められる時間は限られている――という警告である。

つまりOpenAIは、契約終了の通告を出す前の3週間で、「自社の次世代モデルは攻撃能力の面で危険水準かもしれない」「実際に隔離を破った前例がある」「業界全体で身構えるべきだ」と立て続けに表明していた。その直後に「規約通りに使うと確信できない相手には、次のモデルは渡さない」と言っている。この順序は偶然ではない。

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法廷で決着したはずの争いが、実務に降りてきた

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マスク氏とOpenAIの対立は、もともと裁判所の中にあった。

マスク氏は2024年、OpenAIとサム・アルトマンCEOを提訴した。非営利団体として立ち上げたはずの組織が、営利企業へと姿を変えたのは創業時の約束に反する、という主張である。Bloombergが2026年1月に報じた時点で、請求額は最大1,340億ドル(約21兆4,000億円)に達していた。

裁判はカリフォルニア州オークランドの連邦地裁で4月27日に始まり、3週間にわたった。マスク氏本人が証言台に立ち、OpenAIはGoogleへの対抗として非営利で作られたのだと述べた。そして5月18日、陪審は2時間足らずの評議で全ての請求を退けた。判断の中身は、案件の是非ではなく期限だった。提訴が遅すぎた、つまり出訴期限を過ぎている、という結論である。マスク氏はこれを「カレンダー上の技術論だ」と切り捨て、控訴すると表明した。第9巡回区控訴裁での審理は2026年末から2027年初頭とみられている。一方、OpenAIが2025年4月に起こした「嫌がらせ行為」を巡る反訴は、マスク氏側の却下申立てが退けられ、なお係属している。

法廷での争いが一段落したその3か月後に起きたのが、今回の供給打ち切りである。舞台は裁判所から、開発者が毎日開くエディタの中に移った。

マスク氏の反応は早かった。通告翌日の8月29日土曜日、Xに「I couldn't care less(どうでもいい)」と投稿。続けてアルトマン氏とグレッグ・ブロックマン氏を名指しで罵倒し、「オープンソースの非営利団体を盗んだ」という従来の主張を繰り返した。

Cursorの共同創業者でありSpaceXの幹部でもあるトゥルーエル氏の口調は、それとはまったく違った。「OpenAIが3か月後にCursorユーザーのOpenAIモデル利用を遮断すると表明したのは残念だ」と書いたうえで、「OpenAIのモデルはCursorのユーザートラフィックの約5%を担っている。解決に向けてOpenAIのチームと話している」と述べ、Cursorが最初期のOpenAIユーザーの一社だったことにも触れた。

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「わずか5%」が語っていること

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この5%という数字は、二重の意味を持っている。

一方では、影響が限定的だという説明である。実際、Cursorの利用者の圧倒的多数は、Anthropicのクロード、Googleのジェミニ、そしてCursor自身の「Composer」や、いまや第一党扱いになったGrokを使っている。11月12日を過ぎてもCursorは動くし、大半のユーザーは何も変わらない。

しかし別の見方をすると、この数字はCursorが過去1年で何をしてきたかの通信簿でもある。かつてCursorの中身は、ほぼClaudeとGPTだった。それが今や、外部から仕入れるOpenAI分は全体の20分の1にまで縮んでいる。CursorはComposerという自社モデルを育て、2026年5月にはMoonshot AIのオープンウェイトモデル「Kimi K2.5」を土台に鍛え直したComposer 2.5を投入した。そこにSpaceX傘下入りでGrokが加わった。仕入れを減らし、自前と身内で埋める――その作業が、契約を切られる前にほぼ終わっていた。

もっとも、5%という数字がどう測られたのかは公表されていない。トークン量なのか、リクエスト数なのか、売上なのか。そして、全体の5%であることと、ある開発チームにとっての影響が5%であることは、まったく別の話だ。GPTのコード生成の癖を前提にレビュー基準や自動化を組み上げてきたチームにとっては、その5%が業務の100%を占めている。

実務上、何が止まるのかもはっきりしている。11月12日以降、Cursorが自社の供給網を通じてOpenAIモデルを呼ぶ経路は閉じる。これに依存していたのが、Tab補完、モデルを自動で選ぶAuto、クラウド上で長時間走るバックグラウンドエージェント、定型処理の自動化、そしてコマンドラインやAPI・SDK経由の利用である。

代替として提示されている道は三つある。ひとつは自分のOpenAI APIキーをCursorに設定する方法。ただしこれが効くのはデスクトップ上の対話とエージェントに限られ、Tab補完やクラウド実行、CLIには届かない。料金もCursorの月額とは別にOpenAIから請求され、法人プランでは上乗せがかかる場合がある。二つ目はOpenAI自身が出しているCodexのIDE拡張を並べて使う方法。これは今回の契約とは無関係に動くが、要するに別のツールを横に置くということだ。三つ目はAmazon BedrockやAzureといったゲートウェイ経由での利用で、これは別のベンダー関係を新たに背負うことを意味する。

いずれの道も、穴が空いている場所が違うだけで、穴自体は残る。

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VCが見ていたのは「1ドル燃やして90セント稼ぐ商売」

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シリコンバレーの投資家がこの一件をどう読んでいるかを理解するには、買収前のCursorが抱えていた構造問題に戻る必要がある。

Fortuneが2026年3月に報じた記事の中で、Cursorの投資家たちは驚くほど厳しい言葉を並べていた。ある出資者は「1ドル燃やして90セント稼ぐのは商売じゃない」と言い、別のVCは「AnthropicはCursorを溺れさせにきている」と表現した。核心にあるのは、原価の非対称性である。Cursorは自社の売上を作るために、AnthropicやOpenAIのモデルを「小売価格」で買っていた。一方、Anthropicは同じモデルを自社の原価で使ってClaude Codeという競合製品を売っている。同じ土俵で戦っているのに、片方だけが仕入れ値を払っている。

その結果、Cursorの粗利率はマイナス圏を行き来していた。使われれば使われるほどモデルの推論費用が出ていく構造で、通常のソフトウェア企業が当然のように享受する8割の粗利率とは、まったく別の世界である。とりわけ重いのが、定額プランで際限なく使い込む個人開発者だった。Anthropic側の推論粗利率は2026年に入って7割を超えたと伝えられており、価値がどちらに溜まっているかは明白だった。

この文脈で見ると、SpaceXへの身売りは「マスクに買われた」という話ではなく、「仕入れ地獄からの脱出」だったことが分かる。Colossusという世界最大級のGPU群が使えるようになれば、外部に払っていたAPI料金が社内の計算コストに置き換わる。自社モデルの学習も、他社の設備を借りずに回せる。買収完了時のCursorの声明が「世界最大のGPU群にアクセスできるようになった」という一点を強調していたのは、そのためだ。IDCのアナリストも、この取引の要点を「GPU、コーディングに特化した開発リソース、そして実証済みの企業向け販路という、希少な三つを一社に集めたこと」だと整理している。

そして今回の打ち切りは、その判断が正しかったことを、皮肉な形で証明してしまった。モデルの供給は、請求書が滞りなく決済されている限り続く関係ではなかった。誰があなたを買収したか、という理由で止まりうる関係だった。

VCの実務にとって、これは投資判断の項目がひとつ増えたことを意味する。従来のデューデリジェンスでは「どのモデルを使っているか」「自社モデルへの移行計画はあるか」を確認していた。ここに「あなたを買収しうる相手が、供給元にとって受け入れがたい相手ではないか」という項目が加わる。出口戦略が、仕入れ契約に縛られる。

そして今回の買収が全株式交換だったことも、投資家にとっては他人事ではない。ThriveやAndreessen Horowitzといった主要株主が受け取ったのは現金ではなくSpaceX株であり、Bloombergは4月の時点でこの二社に大きな含み益が生じると報じていた。ただしSpaceXは6月12日にNasdaqへ上場したばかりの銘柄で、株価は8月上旬に公開価格の135ドルを一時割り込み、その後持ち直すという値動きをしている。Cursorの成功に賭けた資金は、今やロケット会社の株価と連動している。

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Anthropicは逆に踏み込んだ ― 貸す側と借りる側の逆転

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OpenAIが引いた同じ週末、Anthropicは正反対の動きを見せた。

共同創業者でCOOのトム・ブラウン氏がXに投稿したのは、「CursorはSonnet 3.5の頃からAnthropicの信頼できるパートナーだ。Cursor上でClaudeを支える計算資源を増やし続けるし、SpaceXの下で彼らが次に何をするかを楽しみにしている」という短い文だった。

企業向けのシェアで見れば、Anthropicは既に頭ひとつ抜けている。Menlo Venturesが2025年12月にまとめた企業向け生成AIの調査では、企業のLLM API支出のうちAnthropicが40%を占め、OpenAIは27%、Googleが21%。コーディング用途に絞ると、Anthropicが約54%、OpenAIが約21%と、差はさらに開く。年換算売上高は7月末時点で650億ドル(約10兆4,000億円)に達したとロイターが報じており、Bloombergが伝えたOpenAIの400億ドル(約6兆4,000億円)を上回った。同社は6月1日に非公開でS-1を提出済みで、投資家は10月の上場と2兆ドル(約320兆円)規模の評価を見込んでいる。

引く側と踏み込む側を分けたのは、思想ではなく、計算書のどちら側に座っているかだった。

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巻き込まれる開発者

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一連の動きの中で、誰も意見を聞かれなかったのが、実際にコードを書いている人たちである。

OpenAIは声明の最後をこう締めている。「この決定で最も影響を受けるのは、Cursorの中でOpenAIのモデルに頼ってきた開発者たちだ。彼らの移行体験を大切に思っているし、支援のためにできる限りのことをする用意がある」。契約上の通知期間を最大限に使ったのも、そのためだという。ただし、具体的な補償や移行支援策は現時点で示されていない。

企業のIT部門にとっては、もう少し面倒な話になる。誰のAPIキーで、どのモデルが、どのログに残り、どの請求書に乗るのか。監査ログと承認フロー、コスト管理の仕組みは、Cursorが一括で供給していることを前提に組まれている。そこに個人のAPIキーや外部ゲートウェイが混ざると、統制の線が引き直しになる。40億ドルの売上の4分の3が企業向けであるCursorにとって、11月12日以降にこの手間をどう吸収するかは、5%という数字よりずっと重い問題だ。

9月から年末までに、何が測れるようになるか

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今後の展開を見るうえで、日付の決まっている出来事がいくつかある。

まず9月14日、AnthropicのClaude Code利用上限の変更が発効する。Cursorから離れた開発者がClaude CodeやCodexへ流れるとすれば、その受け皿の広さが最初に試されるのがこのタイミングになる。

10月には、Anthropicの新規上場が控えている。投資家が2兆ドル(約320兆円)規模を見込むこの案件が成立すれば、記録上最大の上場となる。目論見書が公開されれば、これまで推計値でしか語られてこなかったコーディング分野の売上構成やモデル推論の原価構造が、初めて監査済みの数字として表に出る。CursorがなぜAnthropicに勝てなかったのか、という問いへの答えが、そこにある。

そして11月12日。ただしこの日付は、OpenAIが「提案」した日であって確定ではない。トゥルーエル氏は交渉中だと明言しており、逆にCursor側がより早い日を選ぶ可能性もOpenAIは認めている。合意で軟着陸するのか、そのまま切れるのか、あるいはCursorが「もう要らない」と前倒しするのか。この三つのどれになるかで、両社の力関係の読み方は変わる。

その先には、OpenAIのAstraがある。同社は安全対策が整うまで開発ペースを落とすと明言しており、公開時期は未定のままだ。今回の契約終了の理由の一角がAstraである以上、この公開が実際に行われた時、OpenAIがどこまでを「規約通りに使ってくれる相手」と見なすのかが可視化される。Cursorだけの話で終わるのか、他の再販パートナーにも同じ基準が適用されるのか。

12月には、6月の上場に伴うSpaceX株の主要なロックアップ解除が控えている。CursorをSpaceX株で売った投資家にとっては、受け取った紙がいくらの現金になるかが決まる局面である。

そして本当に効いてくるのは、数字として表に出るまでに時間のかかる指標だ。第4四半期のCursorの企業向け更新率である。OpenAIとの関係を理由に契約したユーザーがどれだけ残るのか、マスク氏の経営する会社の製品を全社標準に据えることを、調達部門や法務部門がどう判断するのか。Cursorの製品としての完成度とは無関係のところで、契約が動く可能性がある。

最後に、控訴審が2026年末から2027年初頭に第9巡回区で始まる。法廷の争いはまだ終わっていない。ただ、今回はっきりしたのは、その結論を待たなくても、対立は製品の中でいくらでも進行するということだ。開発者が毎朝開くエディタのプルダウンは、いつの間にか、二人の経営者の関係を映す鏡になっている。


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