世界4位・売上7,600億円の巨大造船グループが誕生した

国内トップの今治造船が、二位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化、オールジャパンで中国・韓国勢に挑む - 世界4位・売上7,600億円の巨大造船グループが誕生した - 章扉

2026年1月5日、日本の造船業の地図が塗り替わった。国内首位の今治造船(愛媛県今治市、非上場)が、二位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市)を連結子会社にしたのである。今治造船はこの日、共同株主だったJFEホールディングスとIHIからJMU株を各15%ずつ買い増し、出資比率を従来の30%から60%へ一気に引き上げた。JFEとIHIの比率はそれぞれ35%から20%へ下がり、造船を長く支えてきた「重工系(重工業コングロマリット)」が経営の主導権を、独立系の専業造船会社に明け渡した瞬間でもあった。

一連の手続きは、2025年6月26日に3社が株式譲渡で合意したことに始まる。同年11月18日に公正取引委員会が企業結合を承認し、12月24日までに国内外の競争法上の審査がすべて完了、年明けの1月5日付でグループ化が成立した。翌6日に開いた記者会見で、今治造船の檜垣幸人社長は「総合的な経営判断が可能になる。世界における建造シェア維持のためにも増産体制を整えていきたい」と述べている。株式の取得価額について、今治造船・JFE・IHIのいずれも公式には開示しておらず、日本経済新聞や時事通信、海事専門各紙、英語圏の海事メディアも譲渡額を報じていない。対価は公表されていない、というのが現時点で確認できる事実である。

規模は一気に大きくなった。両社を単純合算すると、2025年3月期の売上高は約7,600億円、年間建造量は469万総トンに達する。建造量ベースでは韓国のハンファオーシャン(旧・大宇造船海洋、約370万総トン)を抜いて世界4位に浮上し、国内では建造量の半分超を握る計算だ。ダイヤモンド編集部やメルクマール、時事通信が用いた2024年の企業別建造量ランキングに当てはめると、首位が中国のCSSC(中国船舶集団)で約1,333万総トン、二位が韓国のHD現代で約614万総トン、三位が同じく韓国のサムスン重工業で約561万総トン、そこに今治造船+JMUの約469万総トンが続き、ハンファオーシャンを上回る、という並びになる。公正取引委員会が結合を承認できたのも、統合後ですら「外航船の合計世界シェアは最も大きい種類でも約20%にとどまり、中国や韓国メーカーのシェアが高い」ため競争を制限する恐れはない、と判断したからだった。世界一の造船国だった日本の最大手2社が一つになっても、市場支配とはほど遠い――この一点に、今回の再編の本質が凝縮されている。

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そもそも造船とは、そして今治造船とJMUは何をつくってきたのか

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各論に入る前に、両社が何を生業にしているのかを具体的に押さえておきたい。造船は、鉄鋼・機械・電機・塗装・エンジンといった裾野の広い部材を、長さ数百メートルの鋼鉄の箱に組み上げる典型的な「装置産業・組立産業」である。数万点の鋼材を溶接してブロックをつくり、巨大なドック(船を建造する掘り込み式の水槽)でそれをレゴのように積み上げていく。一隻の受注から引き渡しまで数年を要し、船台やドックが埋まっているかどうかが収益を左右する、時間の産業でもある。

今治造船は、この世界で「船のデパート」と呼ばれてきた。鉄鉱石や穀物を運ぶばら積み貨物船(ばら積み船)を主力に、コンテナ船、原油を運ぶ大型タンカー(VLCC)、自動車を積む自動車運搬船(PCTC)、LPG船、フェリーまで、ほぼあらゆる商船をそろえる。強みは、標準化した船型を数十隻単位で連続建造する量産力とコスト競争力にある。看板の標準船型「28BC」シリーズは累計200隻を超え、2017年には当時世界最大級の2万TEU(TEUは20フィートコンテナ換算の積載単位)コンテナ船「MOL TRUTH」を、2023年には2万4,000TEU型「ONE INFINITY」を送り出し、後者は翌2024年に世界最大のコンテナ船としてギネス世界記録に認定された。2025年2月には、木造船時代から数えた建造船が累計3,000隻に達している。まさに「数を造る力」を体現する会社だ。

一方のJMUは、商船に加えて「官公需船」と高付加価値船に強みを持つ、色合いの異なる造船会社である。海上自衛隊向けの護衛艦を数多く手がけてきた防衛の担い手であり、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも型」、イージス搭載護衛艦「まや型」、掃海艦「あわじ型」、哨戒艦「さくら型」などを建造してきた。2026年3月には、さくら型の1・2番艦「ひのき」「すぎ」を横浜事業所の磯子工場で進水させている。商船でも世界最大級の2万4,000TEUコンテナ船や大型タンカー、低燃費の「エコシップ」を建造し、次世代燃料船の開発でも先頭集団にいる。IHIが開発した自立角形の「SPB独立タンク方式」のLNG運搬船を建造した実績を持つのも、技術で勝負するこの会社ならではだ。今治造船の「数」とJMUの「技術・官公需」――両社は競合でありながら、実は補完関係にある。この補完性こそが、今回の子会社化を支える論理である。

今治造船の歩み ― 波止浜の木造船所から国内首位へ

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今治造船の源流は、1901年(明治34年)にさかのぼる。愛媛県の波止浜湾に面した小浦で、檜垣為治が一本釣り漁船や伝馬船を造り修理する小さな造船所を開いたのが始まりだ。砂浜に船の骨組みを組んでいくだけの家業は、1933年に息子の檜垣正一らが「檜垣造船有限会社」を興し、戦時の資材統制のなか1940年に周辺6社が合併して「今治造船有限会社」となる。会社としての設立は1942年、翌1943年に今治船渠と合併して株式会社化し、現在の今治造船株式会社が姿を現した。1954年には受注難と技術者流出で存続の危機に立たされたが、1959年に檜垣家が全株式を取得して経営を掌握し、木造から鋼船専業へと舵を切る。以来、今治造船は檜垣一族が代表を務めるオーナー企業であり、いまも株式を公開していない。

国内首位へと押し上げたのは、旺盛な設備投資と、経営難に陥った同業を次々にグループへ取り込む再編戦略だった。1980年代以降、岩城造船、幸陽船渠(現・広島工場)、新笠戸ドック、多度津造船、そして三井系の南日本造船などをグループ化し、瀬戸内海沿岸に10の造船所を擁する体制を築く。象徴が二つの大型ドックだ。一つは2000年に西条工場で完成した420メートル級ドックで、当時は国内最大級、約140億円を投じた25年ぶりの新ドックだった。もう一つが2017年に丸亀に新設した、長さ610メートル・幅80メートルの世界最大級の建造ドックである。1,330トン吊りのゴライアスクレーン3基を備え、全長約400メートルの2万TEU級コンテナ船を建造できるこの設備は、投資額約400億円、国内では17年ぶりの大型新ドック新設だった。

今治造船を語るうえで欠かせないのが、グループ内の専属海運会社・正栄汽船を通じた「自己発注」モデルである。市況が冷え込んで他社が発注を控える局面で、あえて自ら船を発注して船台を埋め、市況が回復したところで船を高く転売して利益を得る――この循環が、稼働の平準化と成長の原資を生んできた。ダイヤモンドの分析によれば、今治造船はこの20年で売上高を約2倍の約4,647億円に、総資産を約3倍の約1.16兆円に、利益剰余金を約4倍の約4,215億円に膨らませている。単体の2025年3月期は売上高4,646億円、竣工68隻・308万総トン、2024年度の受注は82隻・420万総トンで、船台は概ね2029年ごろまで埋まる。率いる檜垣幸人社長は1962年生まれ、2005年に43歳で社長に就き、2025年6月には日本造船工業会の会長にも就任した。重工系ではなく専業造船から会長が出るのは異例で、業界の旗振り役が今治に移ったことを象徴している。

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JMUの歩み ― 重工の系譜が束ねた「日本の重工造船」

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JMUは、日本の重工業各社の造船部門が度重なる再編の末に一つに集約された、いわば「日本の重工造船」の集大成である。会社の発足は2013年1月1日。ユニバーサル造船と、アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド(IHIMU)という二つの会社が合併して生まれた。ユニバーサル造船は2002年に日本鋼管(NKK、現JFE)と日立造船(現・カナデビア)の造船事業を統合した会社であり、IHIMUは1995年に石川島播磨重工業(現IHI)と住友重機械工業が設立した「マリンユナイテッド」を母体に、2002年にIHIが海洋船舶事業を集約して改称、2006年にIHIの完全子会社となった会社だ。その源流をたどれば、1853年に水戸藩が設けた石川島造船所や、1897年設立の浦賀船渠に行き着く。JMUの各事業所が旧海軍工廠(呉・舞鶴)の跡地に立地しているのも、この長い系譜のゆえである。

発足時の株主はJFEホールディングスとIHIが各45.93%、日立造船が8.15%。日立造船はのちに保有株を売却して撤退し、2019年からの今治造船との資本業務提携を経て、2021年時点ではJFE35%・IHI35%・今治造船30%という構成になっていた。事業所は横浜(磯子・鶴見)、呉、津、有明が新造船の主力として稼働し、舞鶴は2021年に新造商船から撤退して修繕・ブロック製造に、因島も修繕拠点に位置づけが変わっている。ここで一つ、世に流布する誤解を正しておきたい。「呉の造船所が閉鎖され防衛拠点に転用される」という話は、JMUではなく別会社・日本製鉄の瀬戸内製鉄所呉地区(旧・日新製鋼呉製鉄所、製鉄所)の話である。同製鉄所は72年の歴史に幕を下ろし、その跡地を防衛省が複合防衛拠点として取得する構想が進むが、JMUの呉事業所はこれとは無関係で、世界最大級の2万4,000TEUコンテナ船やメタノール燃料コンテナ船を連続建造するフル稼働の主力ヤードである。

JMUは、財務の谷も経験している。2016〜2018年ごろには、4隻まとめて受注したLNG運搬船でタンク周りの狭小空間の防熱工事に手こずって工程が遅れ、加えて円高が外貨建て工事の採算を悪化させて赤字に沈んだ。2020年のコロナ禍でも最終赤字を計上し、2期連続の赤字となる。世界的な船腹過剰と中韓の低価格攻勢が重なるなか、造船が非中核事業だったJFEとIHIがエクスポージャーの縮小を志向したことが、今治造船との提携、そして今回の売却につながっていく。もっとも足元の業績は様変わりした。コロナ後の海運好況と円安を追い風に、2025年3月期は純利益199億円・受注高7,202億円といずれも過去最高を更新し、2026年3月期はさらに純利益321億円(前期比61%増)と2年連続の最高益を記録している。従業員は約4,200人、資本金575億円。かつての「救済される側」から、稼ぐ会社へと立ち直っての売却だった。

前哨戦としての日本シップヤード(NSY)

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今回の子会社化は、突然の出来事ではない。その前哨戦が、2021年1月1日に発足した共同出資会社「日本シップヤード(NSY)」である。出資比率は今治造船51%・JMU49%、本社は東京、資本金1億円、発足時の従業員は約510人。NSYが担うのは、LNG運搬船を除くすべての一般商船と海洋浮体構造物の「設計」と「営業(マーケティング・受注)」であり、実際の建造は両親会社の各造船所に残る。防衛・艦艇はJMU本体に、LNG船は今治造船が別に持つ枠組みに委ねられ、NSYの守備範囲からは外れている。要するにNSYは、両社の設計陣と営業を一つに束ね、中韓の大型連続発注に取りこぼしなく応じるための「頭脳と受注窓口」の統合だった。アンモニア燃料船の開発でも、日本郵船やジャパンエンジン、IHI原動機と組んで4万立方メートル型のアンモニア燃料アンモニア運搬船を手がけるなど、脱炭素の分野で成果を上げてきた。

だが、営業と設計を一体化しても、越えられない壁があった。今治造船とJMUは資本的には別会社であり、独占禁止法の下では競合関係にある。鋼材の調達価格や採算といった機微な情報を共有できず、生産や購買のシナジーには踏み込めなかったのだ。今治造船の株式譲渡の合意リリースが「本件によるNSYの事業内容、出資比率等に変更はございません」と明記している通り、NSY自体は今回の子会社化でも解体されず、設計・営業のJVとして存続する。変わるのは、その上位にある親会社の関係だ。60%出資という支配関係が生まれたことで、これまで独禁法上できなかった生産・購買の一体運営が、初めて可能になる。NSYが「前哨戦」だったというのは、この意味においてである。

子会社化の構図 ― 30%から60%へ、対価は非開示

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改めて資本の動きを整理すると、今治造船はJFEとIHIから各15%を取得して30%から60%へ、両社は各35%から20%へと比率を下げた。ここで投資家の視点から見て興味深いのは、今治造船がなぜ完全子会社化(100%取得)ではなく60%にとどめ、JFEとIHIがなぜ完全撤退ではなく20%ずつを残したのか、という点だ。檜垣社長は、造船だけでは立ち行かない時代にあって、LNG・アンモニア・水素といった新燃料の領域では素材・エンジンを持つJFEやIHIとの融合が欠かせないとし、両社の知見を保つために20%ずつを残したと説明している。JFEとIHIにとっては、非中核である造船事業のリスクを連結から切り離しつつ、防衛や新燃料での結びつきは維持できる。会計上、両社は2026年3月期からJMUを持分法適用の対象から外す。造船という重い固定費産業を身軽にする、というのが上場2社側の狙いである。

子会社化で今治造船が得るのは、単なる規模ではなく「一体運営」の権利だ。会見では、営業・設計だけでなく生産・購買でもシナジーを出す方針が示され、両社が持つ13の工場・支援工場を、集約化と機能別分担で連携させる青写真が語られた。鋼材やエンジンの共同購買でスケールメリットを効かせ、船体ブロックの設計を標準化し、要員を相互に融通する。檜垣社長が東洋経済に語った「中韓と違い、われわれには巨大な設備がない。その弱点を補うため、支援工場で製造する船体ブロックをより共通化し、シナジーを出したい」という一節は、この戦略を端的に示している。垂直統合の動きも続いており、今治造船は2026年2月、舶用低速エンジンで国内2位の日立造船マリンエンジンについても出資比率を60%へ引き上げ、子会社化することで合意した。船体からエンジンまでを自前で束ねる「日本連合」の輪郭が、着実に固まりつつある。

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世界の造船勢力図 ― 中国63%、韓国21%、日本5%という現実

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ここで視野を世界に広げると、「オールジャパン」という言葉の切実さが分かる。造船は国境を越えた単一市場であり、日中韓の3か国で世界のほぼ9割を占める。英字メディアやクラークソンの集計によれば、2025年の新造船受注(CGT=標準貨物船換算トン数ベース)は、中国が約63%(約3,537万CGT/1,421隻)、韓国が約21%(約1,160万CGT)を占め、日本は約5%(約280万CGT、前年比53%減)に沈んだ。1956年に竣工量で欧州を抜いて世界一に立ち、1990年代初頭までは世界シェアの半分を握っていた日本の、これが現在地である。もっとも、受注と竣工では見える景色が違う。過去の受注残を反映する竣工量ベースでは、2025年に日本は4年ぶりに年間1,000万総トンを超え、世界シェアはなお13%前後を保つ。受注(先行指標)ではすでに5%前後まで落ち込む一方、竣工(過去の積み残し)ではまだ13%――この二つの数字を混同しないことが、業界を正しく読む鍵になる。

競争相手の顔ぶれも、この1年で一段と大きくなった。世界首位の中国CSSCは、傘下のCSICとのメガ再編を2026年1月20日に完了し、200を超える造船所を束ねる世界最大の上場造船グループとなった。奇しくも今治造船がJMUを子会社化した1月と同じ月に、世界1位の中国も統合を仕上げたことになる。CSSC一社の受注残だけで世界の約2割を占め、「2024年にCSSC傘下のヤードが建造したトン数は、1945年以降の米造船業の総生産量を上回る」との指摘もあるほどだ。韓国勢はHD現代、サムスン重工業、ハンファオーシャンの「ビッグ3」が、付加価値の高いLNG運搬船やアンモニア船に照準を絞る。直近のLNG船発注では16隻中14隻を韓国勢が獲得し、中国の受注はほぼゼロに近づいた局面もあった。中国が数で圧倒し、韓国が高付加価値で稼ぐ――その狭間で日本は、量でも高付加価値でも後手に回ってきた。

追い風がないわけではない。新造船価は歴史的な高値圏にある。クラークソンの新造船価指数は2026年に入っても185前後で推移し、2024年第3四半期に付けた過去最高(189.69)からは数%軟化したものの、なお過去のスーパーサイクル(2007年末の184.83)を上回る水準だ。環境規制対応の代替建造需要から、世界の新造船受注は2026年からピーク入りするとの見方もある。だが、この好機を前にしても、今治造船+JMUの合算世界シェアは約6%にすぎない。世界4位という響きと、6%という現実。その落差こそが、この記事の主題である。

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国策となった造船再生 ― 「2035年に建造能力倍増」

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今治造船によるJMUの子会社化は、一企業の経営判断であると同時に、国策の一環でもある。国土交通省と内閣府(経済安全保障担当)は2025年12月26日、「造船業再生ロードマップ」を公表した。そこに掲げられた目標は野心的だ。年間の国内建造能力を現在の約900万総トンから2035年に1,800万総トンへと倍増させ、世界シェア2割の回復を目指す。そのために2028年までに造船会社を1〜3グループへ集約し、10年間で約3,500億円規模の造船業再生基金を設け、官民合わせて1兆円規模の投資を促す。ロードマップは造船を「経済安全保障の観点から重要な産業」と明記し、政府の戦略17分野のなかでもAI・半導体に次ぐ位置づけを与えた。今治造船とJMUの統合は、この「1〜3グループへの集約」という国策を、民間が先取りして体現した第一号にほかならない。

政策が急がれる背景には、需要と供給のねじれがある。東洋経済によれば、日本の船主は年に約1,200万総トンを発注するのに、国内の建造は2024年で約908万総トンしか対応できず、需要の3〜4割が中国などへ流出している。自国の海運が必要とする船を自国で造れない――これは経済安全保障の観点から見過ごせない事態だ。檜垣社長が「建造能力を倍増しないと、発注がどんどん海外に行ってしまう」と語り、「日本の造船業界が残るかどうかの瀬戸際だ」と危機感をあらわにするのは、この構造ゆえである。自民党が「日本の船は日本で造り日本で持つ」と提言し、政府が官民一体で再生に乗り出したいま、今治造船は業界団体の会長として旗を振りながら、自らの手で最大の再編を実行してみせた。「個々の企業として利益を追いかけるだけでなく、日本の造船業を残すため増産し建造量世界シェアを拡大する。両社で攻めに入りたい」――檜垣社長の言葉に、企業と国策が重なり合う今回の再編の性格がにじむ。

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両社の強みと課題

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新生グループの強みは、何よりも補完性にある。今治造船の量産型商船とコスト競争力に、JMUの防衛・官公需と高付加価値船の技術が加わる。今治造船が持つ丸亀610メートルドックのような世界最大級の設備と、JMUが磯子で担うイージス・システム搭載艦のような最先端の艦艇建造能力が、一つのグループに同居する。受注残は今治造船だけで約4年分あり、当面の操業は安定している。正栄汽船を通じた自己発注という需要の調整弁も、市況の谷を乗り切る強みだ。脱炭素の分野でも、NSYを核にアンモニア・水素・メタノール・液化CO2運搬船などの開発をグループで進める体制が整いつつある。

しかし、課題はそれ以上に重い。最大の壁は、意外にもドックではなく「人」である。檜垣社長は「以前なら10%くらいの増産は簡単にできたが、今の当社は前年比で4〜5%の増産にとどまる」と明かす。造船就業者は2016年ごろの9万人超から約7.5万人へ細り、増産の号令とは裏腹に現場の担い手が足りない。この構造的な弱点を象徴するのが、2025年3月の出来事だ。労働安全衛生法違反(クレーンの定期自主検査の未実施)で罰金刑を受けたことを受け、出入国在留管理庁と厚生労働省は今治造船の技能実習計画2,134件を取り消し、同社は今後5年間、外国人技能実習生を受け入れられなくなった。外国人材への依存度が高い造船業にとって、これは増産計画に直接響く打撃である。加えて、中国とのあいだには依然として約2割とされる建造コスト差があり、生産・購買のシナジーも「本格的に動き出すのはこれから」(日刊工業新聞)と、効果の発現はまだ約束されていない。世界4位でありながら世界シェアは約6%――その6%を積み増せるかどうかは、設備よりも人と生産性の改革にかかっている。

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投資家・アナリスト・各紙はどう読んだか、そして次に何が起きるか

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各メディアの論調は、追い風への期待と、実行力への懐疑が入り混じる。東洋経済オンラインは「造船業再生が国策となった今、資本の枠組みを超えたオールジャパンで戦えるか」と問い、世界シェア約6%という数字を突きつけて構造的な弱さを指摘した。ダイヤモンド・オンラインは「造船ニッポン復活へ」と楽観を示しつつ、統合効果の実現には「高いハードル」があると釘を刺す。日本経済新聞は「シェア維持へ増産」「瀬戸際」と危機感を前面に出し、英・海事専門メディアのBaird Maritimeは今回を合併ではなく「新コングロマリット(new conglomerate)の形成」と表現した。日刊工業新聞は「試されるシナジーの真価」と、評価を先送りする慎重な構えを崩していない。

投資家の視点で見ると、この案件には他紙が見落としがちな含意がある。今治造船は非上場のため株価はないが、株を手放した側のIHIは、発表翌営業日の2025年6月27日に約6%上昇した(株式分割前の株価)。市場はこれを「非中核事業の連結外しによる資本効率の改善」と評価したが、IHIの株価上昇はそもそも防衛費増額を背景とした防衛・航空エンジン主導のトレンドであり、JMU売却はその追加材料という位置づけだ。鉄鋼が主力のJFEの反応は限定的で、上場2社のあいだにも温度差がある。もう一つ、JMUの「過去最高益」は額面通りには受け取れない。2026年3月期の純利益321億円は前期比61%増だが、円安と有価証券売却益(特別利益)の寄与が大きく、本業の先行指標である受注高はむしろ37%減っている。稼ぐ会社に見えて、その利益の質には注意が要る――ここは投資家が冷静に見るべき点だ。

では、次に何が起きるのか。時系列で追うべき論点は、大きく四つある。第一に、防衛のパイプラインだ。JMUは磯子工場で建造するイージス・システム搭載艦(ASEV)の2番艦を2026年2月5日に起工し、2027年度の進水、2028年度末(2029年3月ごろ)の引き渡しを予定する。全長約190メートル、基準排水量約1万2,000トン、128セルの垂直発射装置とSPY-7レーダーを備える、海自最大級の水上戦闘艦だ。もがみ型FFM(新型フリゲート)では三菱重工が主契約者、JMUが分担建造を担う。オーストラリアが2025年8月に採用を決めた次期汎用フリゲート(改もがみ型、全11隻・100億豪ドル=約9,600億円規模)は三菱重工が主導する案件で、JMUの直接受注ではないが、日本の艦艇輸出が動き出したこと自体が、防衛を抱えるJMUの価値を押し上げる。

第二に、国産LNG運搬船の建造再開である。日本のLNG船建造は2019年前後を最後に途絶えているが、日本経済新聞によれば、今治造船・川崎重工業・名村造船所の3社が2035年ごろの再開を視野に、年3〜5隻の建造を目指している。生産拠点の有力候補は川崎重工の坂出工場で、膜(メンブレン)式タンクの技術は特許を持つ仏GTTや韓国勢の協力を仰ぐ案が取り沙汰される。エネルギー安全保障の観点から政府も船主向けの補助を検討するが、熟練溶接工の育成に10年超を要すること、中国比で約2割のコスト差、補助金依存のリスクなど、専門家は再参入のハードルの高さも指摘する。今治造船とJMUも社内で実現可能性調査(FS)を進めている段階だ。第三に、生産・購買シナジーの本格展開が2026年から始まり、共同購買やIT統合、要員の相互融通がどこまで数字に結びつくかが問われる。当面は完全吸収合併ではなく子会社の形を保ち、雇用と地域を守る観点から造船所の統廃合には踏み込まない方針で、ドック閉鎖のシグナルはない。

そして第四に、米国という変数がある。トランプ政権は自国造船業の復権を掲げ、米通商代表部(USTR)は通商法301条に基づき、中国建造・中国運航の船に対する米港湾入港料を2025年10月に導入した。もっとも同措置は米中の通商休戦を受けて2025年11月10日から1年間停止されており、執筆時点では課金されていない。上院に超党派で再提出された「SHIPS for America法案」も、審議中でまだ成立していない。そうしたなかで米国は同盟国に協力を求め、韓国は対米投資3,500億ドル(約56兆円)のうち1,500億ドル(約24兆円)を造船に充て、ハンファがフィラデルフィアの造船所を1億ドル(約160億円)で取得して50億ドル(約8,000億円)を投じる「MASGA(米造船業を再び偉大に)」で先行する。日本も造船を含む対米投資枠を掲げ、日米は2025年10月に造船協力の覚書を交わした。世界最大級の造船力を持つ日本連合が、対中で結束を急ぐ米国とどう組むか――今治造船+JMUの具体的な対米案件はまだ見えないが、次の1〜2年で最も注目される動きになる。世界4位の船出は、国内の再編にとどまらず、地政学の潮目とともに進んでいく。


国内トップの今治造船が、二位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化、オールジャパンで中国・韓国勢に挑む - 投資家・アナリスト・各紙はどう読んだか、そして次に何が起きるか - 図表1